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■オープニング本文 明けて新年。女騎士エリカは自宅にいた――家族は年始皆予定を組んで出かけてしまっている。家にいるのは彼女だけ。 この時節は何かと訪問客が多い。主に親戚筋のおじさんだのおばさんだのが押しかけてくる。 「おおい、新年おめでとう…ああ、やっぱり今年も帰っていたのかねエリカ」 「久しぶりねエリカちゃん。今年もきっといると思っておばさん、お土産持ってきたわよ」 「まあまあ、あんなに小さかったエリカちゃんもすっかりきれいな娘さんになってねえ。あら、去年も言った? ごめんなさいね、ここの所物忘れが多くて」 「そういや弟のゲオルグくん、今年の春結婚するんだって?」 「あ、そうそう。あなたまた別れたんでしょう? そんなことだろうと思っておばさんがいい話を2、3かき集めて来たのよ。ほらこの方なんてどうかしら。丁度家格もつりあうものと…いらない? まあそんなこと言わないで見るだけでも」 彼らの全てに挨拶し勝手に騒いでもらうよう広間に通したエリカは、やや足音荒く自室に戻ってきた。 ベッドの上で相棒もふらのスポッティことスーちゃんがごろごろしている。 「よかったでちなご主人たま、一人ぼっちのお正月にならずにすんだでちよ。枯れ木も山の賑わいとはこのことでち」 「全然よくないわよ一人の方がいいわよ」 「まあまあ、気にかけてもらってるうちが華なのでち。これがある一線を越えると結婚関連の話をふるのも憚られるという状態になってきまちからな、もふふふふふ」 相棒の毛布を剥いで落としエリカは、今度は自分が横になる。 「ご主人たま、今は寝る時間ではありまちぇん。起きるのでちよ、起きるのでちよ」 「うるさいわね熱が出たのよ」 「現実逃避に走るのでちね。いい傾向ではありまちぇん。自信を出してくだちゃい。昨日だったかまた告白されたじゃないでちか。友達の友達、ロータスたまから」 「ええそうね」 「結構イケメンだったじゃないでちか。結婚してもいいって言われてたでちょう」 「そうですよ」 「――おおこれは本人さんではないでちか。一体どこから侵入したのでち?」 「いえ、普通に玄関から。皆さん気付かれてませんでした。まあそれはそれとしてエリカさん、僕本当にあなたと結婚してもいいですよ。死ぬまで三食昼寝小遣いつき自宅警備員待遇してくれるんなら」 エリカはがばりと起き上がる。据わった目で窓を開け、もふらと侵入してきた男の襟首を掴むや否や、雪の積もる庭目掛けて放り出した。 息を荒くして窓を閉めたところで玄関ベルが鳴る。 また誰か来たらしい。 |
■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
和亜伊(ib7459)
36歳・男・砲
藤本あかね(ic0070)
15歳・女・陰
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
島津 止吉(ic0239)
15歳・男・サ
アーク・ウイング(ic0259)
12歳・女・騎 |
■リプレイ本文 「何よ、今度は誰なの!」 興奮冷めやらないエリカをベッドの上に転がり眺めているのは、クラッカーをパリポリしている藤本あかね(ic0070)と、煮干しせんべいをバリバリしている相棒、猫又のトメ。 彼女らはエリカが部屋に戻ってきた当初から、当たり前の顔でここにいた。 まるでいないかのように見えたのは単に台詞がなかったからである。多分。 「でもさー、エリカさん綺麗なのになんでいっつもいっつも振られるんだろうねえ。パッと服とか脱いでみるとか」 「交尾に不向きな年齢になったメスはもう生存競争に負けてるようなもんさ、ふん」 エリカの頬が引きつった。 あかねはそれを見て取り、大急ぎでフォローする。 「女の子の魅力は若さだけじゃないですよ! 男性はきっと女の子っていうだけでほっとかないんじゃないですか?」 と、窓が開いた。 壁を這い上り、投げられたもふらと男が戻ってきたのだ。 「確かにそういう人も存在するでちな。熟女スキーと言うんでちたかね。スーちゃん見たことあるでちよ」 「あー、僕の友達にもいるねー、76歳と付き合ってるつわものが」 「おお、そこまでくると気分は未知との遭遇でちな。やはりあれでちか、遺産目当て」 エリカはつかつか引き返し窓を閉め、カギをかける。 「男は案外打算的なもんさ、でもだからこそ打算的な女は見抜いて距離を置くのかねえ」 あかねは窓の方を向いたまま沈黙しているエリカを元気づける。食べかすを口に一杯くっつけて。 「あたって砕けろですよ! どうせ失敗するーって思っちゃうんじゃないですか?」 「この女は、受け入れられた上でフラれてるんだよ、やっぱ性格が問題じゃないのかねえ」 あかねとトメが口にする言葉は正反対ながら共通している。容赦なく突き刺さるという点で。 「あのね…2人とも出て行ってくれないかしら?」 エリカの低い声に、ドアを蹴り明ける音と以下の台詞が重なる。 「エリカいるかこらー! ベル押しても出てこないけどー!」 それは篠崎早矢(ic0072)であった。 どこかで一杯ひっかけたのか顔が赤っぽい。 彼女はエリカに近づくやばんばん肩を叩き、矢継ぎ早にまくし立てる。 「またふられたか、またふられたのか? いや、何も事実確認しないで遊びにきたけど、だいたいいつ遊びに来てもフラれてるからな。どうせフラれたと思って‥」 相手のこめかみに青筋が浮いてきたが、早矢は意にも介していない。 フゥと悲しげな息をつき首を振る。そしてとんでもないことを言い出す。 「もう、きっと人間の男には受け入れられないんだよ」 ぽくぽく蹄を響かせ彼女の相棒霊騎、夜空が入ってきた。 絨毯の上に土足で上がり、のんびりした顔でいななく。 「馬にしとけ、なっ? 私の愛馬を連れてきたから。ほら、馬は素晴らしい…いたっ! なんで叩くんだ!?」 「うるさい出て行けえ! 馬も人間も出て行けえ!」 キレて枕を振り回し、早矢たちを追い回し始めるエリカ。 「ぶひーん」 困ったようにうろうろ走る夜空。 「お、落ち着いてくださいエリカさん。新年ですよ新年!」 「こういうところが振られるもとじゃないのかねえ」 止めようとしているのかしていないのかな、あかねとトメ。 そのうちエリカが止まった。家具の角に小指をぶつけてしまったのだ。 床を叩いて痛みに耐える彼女に、怒らせた張本人である早矢が言う。 「まあそう興奮するなエリカ。去年のことは忘れて未来に羽ばたこう。馬と共に」 「…いらない…馬は…いらない…」 「男なしでは生きていけない女というより馬なしでは生きていけない女という方が、爽やかに聞こえるじゃないか」 「…どさくさに紛れて人を依存症みたいに言わないでくれるかしら…」 引き続いて廊下から、エルレーン(ib7455)と、その相棒もふら、もふもふの話し声が聞こえてきた。 「はう、またエリカさんとのみかいぱーていなの。がーるずとーくとかするの」 「また嫁ぎ遅れ友の会会合もふか、どうびょうあいあわれむというもふ〜ぎゃああああやーめーるーもーふー!」 けたたましい悲鳴の後3分ほど沈黙が続き、改めてエルレーンが入ってきた。 「エリカさーん、おめでとー! わあ、お客さんもうこんなに来てるんだ」 「…いえ…お客というほどでもないのだけどね…」 呼吸を整えどうにか立ち上がるエリカに、エルレーンは、手土産の酒を渡す。 「あら、ありがとう」 「はぅ、本当は、てづくりのおかしとか持ってこれればよかったけど…」 「失敗して消し炭になったもふぎゃ!」 さんざ引っ張られ垂れているもふもふの頬っぺたが、また引っ張られる。 彼女の参入でとりあえず場は仕切り直された形となった。 そして30分後。 エルレーンとエリカの『リア充お呼びでなしガールズトーク』が花盛りとなっていた。 「だいたいっ、いっしょうけんめい頑張っててもむくわれないのっ」 「そうよ。男なんていざ関係持ったら後は増長するだけ増長してこっちの気持ちなんか考えないでさあ。あげくに他の女のところにふらふら行っちゃってさあ。一人の女に誠実に接するのがそんっなに無理難題なわけ!?」 早矢は脇からちょいちょい口を挟む。持参してきた酒を飲み直しながら。 「だから馬にしておけと。馬はいいぞ裏切らないから」 「…そうね…そうかも…いえでもやっぱりやだ、人間がいい…」 涙声なエリカと対照的に、エルレーンはほわわんとしている。 「頑張ってる私をぎゅうってしてくれて、『かわいいねエルレーン』とか言ってくれる格好良くて強くてやさしい後ちょっぴりお金持ちの人がいてくれたら、私ずうっとがんばれちゃうのに…」 なかなか虫のいいことを言う彼女に、もふもふが苦笑い。 「何が『ぎゅうっ』もふか〜、凸凹の無い棒切れにぎゅうっとするところないもふ〜」 口は災いの元だろう。直後エルレーンから大いにぎゅうされた。弱点の尻尾を。 「はい、ぎゅう☆」 「もぎゃあああああ?!」 それらを眺めあかねとトメは、ひそひそ。 「う〜ん、根が深そうな問題だね〜」 「ふん、馬鹿馬鹿しい。いい年していつまでも異性に夢見てるからこうなるんだよ。大体あたしの若いころはだねえ…」 女だらけの宴が繰り広げられているそこへ、突如男が乱入してきた。 「また今年も無職が一杯負け犬の傷のなめあいしとるか。武士ならばニ之太刀は考えず男に玉砕するつもりで飛び込み、駄目ならさぱっと死べい」 示現流思想に基づいた暴言を吐く島津 止吉(ic0239)である。 彼はのっそりついてきた相棒霊騎、紅花をエリカの前まで引いて行き、堂々と述べた。 「男がいなくて寂しがっちょろうに、男を連れてきた」 「オスだろおがああああああ!」 彼女が手持ちのグラスに握力でひびを入れても、嵐の勢いで突っ込んできても、微動だにしない。それこそが常に死を覚悟した天儀島津家の男。 「あんたらどんだけ馬押ししてくるのよ! 馬に何を求めろというのよ! 求めたって得るところないでしょこっちはさあ!」 「じゃッけどぬしどン、こんまで男に求めて得たもンち、なーんもなかろ? なら馬でも似たようなもんじゃ」 「…ねえ、帰ってくれる? 本気で泣けてきそうだしさ」 顔を伏せる彼女を、早矢が慰めた。 「仕事に生きて、もう恋愛は諦めるというのはどうだろう。まあ私は死亡率の高い開拓者なんかやってるから結婚する前に死ぬ可能性も高いけど、円満に引退できれば結婚もしたいんだけどな」 人間たちのやり取りをよそに、紅花と夜空は親しくいななきあう。 ほどなくして開きっぱなしになっている扉から、スーちゃんとロータスが和亜伊(ib7459)とアーク・ウイング(ic0259)を連れて入ってきた。 「ご主人たま、新しいお客さんでちよ」 「今日は千客万来だねエリカさん」 和亜伊が手を挙げ、いよぅと陽気に声をかける。 「邪魔するぜ! いやぁ道に迷っちまったもんで道を聞きに来たんだが…?…あっちゃー宴の途中で邪魔しちまったかな?」 「いえいえ、ちっともでち。もうこの上は何をしても同じでちから」 アークは黒雲を背負うエリカへ、万商店で購入した重箱弁当と古酒を渡した。 「あけましておめでとうございます。突然の訪問で失礼します。人伝にお暇と聞いたので訪問させていただきました。あ、これ差し入れです」 「聞いたでちかご主人たま。心遣いがうれしいでちなあ。元気を出すでち。アークたまはよくできたお人でち。悲惨な新年を過ごしているらしいからお見舞いにと、先程言われていたのでち」 「一部分だけ抜き出さないで!? いえあのあの、違うんですよ。退屈しているだろうなあと思っただけですからはい。他意はないんです他意は――えーと、ところで皆さん何のお話をされていたんです?」 汗をかきながら話題を変えようとするアークに、したり顔のトメが答える。 「何、たいしたもんじゃないよ。ただの愚痴りあいさ」 ロータスが続く。 「いわゆる女子会というやつだね」 和亜伊が尋ねる。 「ところで誰だ、あんた。スポッティとセットでいたから、なんとなく見過ごしてたけど」 「あ、僕はロータス。エリカさんの友達の友達です。のんべんだらり永久就職したいなと思って、現在生活力ありそうな彼女にプロポーズしてるところなんですよ。あはは」 止吉と早矢が声を揃え、エリカに進言する。 「間違いなか。馬ンほうがよかど」 「そうだ。人生委ねて安心なのは馬だけだ」 「いいからあんたたち黙っててお願いだから」 (…なんか失恋以外にも気の毒な状態っぽいな) 同情する和亜伊は新年会に参加すると決めた。お年始回りもすませているので、そう急いで帰宅することもないと考えて。 もふもふは延ばされたほっぺを自分で押して直しつつ、もふら仲間のスーちゃんと語り合う。 「スポッティ殿のところの主人も、なかなかアレもふな〜」 「もふもふたんの主人も負けてないでちよ。といっても後のなさではうちのご主人たまのほうが上でちな。エルレーンたまはまだしもまっさらな希少価値というものがあるでちが、うちはもうあちこちで食い散らかされて使い古…虐待でち虐待でち!」 エリカから靴底をこすりつけられるスーちゃんだったが、当然懲りることはない。もふもふと組んで減らず口を叩き続ける。 「ああゆうのには、どうやって現実を見させたらいいもふかね〜?」 「うーん、そのへん難しいでちね。結局のところうちのご主人たまも、ふもふたんのご主人たまも、求めるところ高すぎると思うのでちよ。も少しハードルを下げるべきかもしれまちぇんなあ」 「言えてるな。何か最近理想の条件が増えたしな…ま、明らかハズレくじをあてがうのは無理として」 「なぜ僕を見て喋ってるんでしょうか、もふらくんたち」 「それはロータスたまが見るからにダメ男だからでちよ」 「理想の相手なんてこの世にいやしないんだよ。空想の産物なんだよ」 「おお。さすが姥桜の言葉は含蓄があるでちな、トメたま」 「引っ掻かれたいのかい…。とにかくね、男なんて皆紙風船なんだよ」 「そうかなー、私はこの世に一人くらいいると思うけどな。白馬の王子様」 「だよねー、私もあかねさんの意見にさんせいだよう。さがせばどこかにいるよ、格好良くて強くてやさしい後ちょっぴりお金持ちの人が!」 「つまり脳内彼氏もふねエルレーン…もふぎゃー!」 かくしてなんやかやでまた1時間経過。 和亜伊がエリカにアドバイスをしている。 「まぁ結婚なんざ急ぐ必要なんざ無いだろうよ。どこで誰から聞いたんだっけな、『押し付けられた、漠然とした幸せってのが一番いけない』なんて聞いた事があるんだ」 「そうね…家族とか親戚からプレッシャー感じるけど…負けちゃいけないわよね…」 しかしいいところで関係者の横槍が入ってくるから、具合悪い。 「負けるが勝ちという言葉もあるでちが、ご主人たま。世間のレールに乗るのが一番楽だと思うのでち」 「そうだよ。名義上だけでも結婚しておけばうるさく言われなくなるよ。だから僕と」 「…あんたは堅気の仕事が無けりゃ探したらどうなんだ…何なら俺がお菓子の作り方でも個人レッスンしちゃうぜ?」 「いやー、僕ものを作ったりするの好きじゃなくて」 「といって体を使うのも頭を使うのも好きじゃないでちものな、ロータスたま」 「うん。でもそれでいいと思うんだ。だって僕貴族だから」 居並ぶ女性陣は思った。どうしようもないなこの男と。 正しきサムライである止吉のコメントは簡潔だ。 「まっこち穀潰しぞ」 エリカといえば自棄になってきているのか飲んでばかりいる。 このままではよろしくない。 空気を変えようとアークは、彼女にこう申し出た。 「ちょっと体を動かしてリフレッシュしませんか? 私、この前入手したアーマーを持ってきていますんで」 持参してきたアーマーケースを開き、「人狼」ハヤテを見せる。 騎士として興味を引かれたか、エリカは席から立ちのぞき込んできた。 「へえ、なかなかよさそうね」 「でしょう? それでですね、可能なら模擬戦お願いしたいんですけど」 「いいでちな。体を動かすことで積もり積もった恨みつらみを発散させるでちよご主人たま。きっと危機迫る戦いぶりに虐待でち虐待でち!」 スーちゃんの頭をげんこでぐりぐりし黙らせ、エリカは髪をかき揚げる。 「いいわ。部屋に籠もってると体がなまるしね…真剣でかまわない?」 「はい!」 というわけで、急遽皆、庭に移動となる。何しろ広いので、動き回る場所には事欠かない。 「こちらは、アーマー装着でよろしいですか?」 「ええいいわよ。かかってきて」 愛用している細身の剣をゆるく構え、酔い醒ましのつもりか地面を何度も蹴るエリカ。 アーマー越しにアークは一人ごち、右足に重心をかけ、一気に踏み出す。。 「ハヤテの動かし方にもだいぶ慣れてきたか。後は実戦でどれくらい動けるかだけど、こればかりは実際に経験してみないと分からないね」 瞬間、目の前に剣が来ていた。 「えっ!?」 反射的に下から「長曽禰虎徹」を跳ね上げ受ける。 エリカはそれを避け脇に回り込み、死角から一閃を入れる。胴の部分にがちんと刃が当たる。立て続けに脇へも一撃が入る。 アーマーを着ているという意識があるからだろう、急所を正確に狙ってくる。 (は、速い! これは本気で行かなくてはいけませんね) アークは身を反転させ、取り落とさせようと剣を打つ。 衝撃を和らげるため、エリカが後方に跳ぶ。 かちあう金属の硬く鋭い音。走り回る足音。 それらに引かれてか、お集まりであった親戚連中がぞろぞろ出てきた。 「ほおーう、なかなかやるもんだなエリカも」 「エリカちゃんたら新年からまたこんなことを…元気がいいのはいいことだけどねえ」 「よすぎるのが続かん原因かもなあ」 口々に勝手なことをおっしゃられているが、エリカ本人は聞いていない。アークとともに模擬戦へ全力投球している。 が、双方動きが急に止む。 甲竜の咆哮が聞こえてきたのだ。それは空の彼方から、庭先に舞い降りてくる。 「え、何?」 不審そうに見やるエリカを、和亜伊が押し止める。 「あ、ちょっと待った。大丈夫だ、多分あれ、うちの…」 彼が近づいていくと甲竜の翼の後ろから、狼のような顔をしたもふらがひょっこり出てきた。 やはり相棒と確信を得た和亜伊は、破顔して手を振る。 「堅! それにウルフまで、何でここに?」 ウルフと呼ばれたもふらは機嫌悪そうだ。 「何でじゃねぇもふ。いつまでも帰って来ないから大方、道にでも迷ったんだろうと思ってさ、匂いをつけてきたもふ。こんな時間までなに油を売っているもふか」 言われてみれば確かに夕方となっていた。 庭の雪は赤色に染まり、空の雲もまた同様。もう家に帰る時間。 「ありゃ。すまねえな。長く世話になっちまって。俺は迎えが来たから帰るとするわ」 「いえ、いいわよ。大分気が紛れたから…で、あんたたちは帰らないわけ?」 首を向けるエリカに、止吉、早矢、エルレーン、あかねが揃って答える。 「水臭かこつ言わんど」 「そうそう。もうね、今夜一晩かけて馬の素晴らしさをじっくり教えてあげようかと」 「まだまだしゃべりたりないもんね」 「お菓子残ってるし♪」 主人たちの様子に相棒たちは、輪になって言い合う。 「二次会までいきまちな、これは」 「間違いないもふ」 「おつまみの追加出るんだろうね」 「ぶひひん」 「ひひいん」 「エリカさんいじると面白いですもんね」 中にダメ男が交じっているが、エリカも元気が出たみたいだし、ほっといてよかろう。 思うアークもアーマーを畳み、場を辞するとする。 「それでは失礼致しますエリカさん。さようなら」 「あ、さようなら。ありがとうね、お土産」 「いえ、大したものではありませんので」 屋敷を出ると新年1日目ときて、通りを行き交う人も少ない。 冷たい空気を吸ってアークは、口元を緩めた。 「まあ、暇つぶしにはなったかな。さて、明日からはがんばって依頼を受けて行こうかな」 |