彼と彼女は元の鞘
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/06 01:47



■オープニング本文



 ジルベリアの西方。
 のどかな田園地帯にある、古風なお屋敷。フランツ・ブルク(故人)公爵の別荘。
 そこに若き未亡人、マノン・ブルクが住んでいる。

 彼女は一昨年の春、祖父ほど年の離れた公爵――最初の妻を亡くして以来、ずっと独り身だった――と結婚し、すぐさま死に別れた。そして遺言によって屋敷とそれに付随する動産、不動産を譲られた。
 まかり間違っても家屋敷を売り飛ばしジェレゾへ上京、贅沢三昧なシティーライフを送るなんてことはせず、田舎暮らしに満足している。
 慈善活動などしながら日々を過ごし、亡夫のお墓参りも欠かさない。
 未亡人の鑑である。
 夫亡き後男と同居しているが、そこは別に不義理ではない。なにしろ男の方と先に付き合っていたのだ。
 その点を一時棚上げし、『どうせ先は長くないから、その間だけでも一緒にいて欲しい。この屋敷と財産は譲る。自分亡き後は誰と一緒になってくれてもかまわないから』という公爵のプロポーズを受けたのである。マノンは。
 軽薄というなかれ。優しい心をもった女性なのだ。無分別なところはあるにしても、悪い人間ではない。
 だからこそ、現在伴侶としての地位を取り戻したこの男――グルーも悩むのである。

「ねえマノン」

「どうしたのグルー。難しい顔して」

「いや…僕って公式に君のなんなのかな」

「愛人よ」

「………夫じゃなくて?」

「私はそういう気持ちでいるけれど、結婚出来ないのだから、公式にそうは言えないと思うのよ。でも心配しないで。あなたは私の一番だから」

 公爵と結婚する時も彼女はこれと似たようなことを言っていたな…、と要らぬ記憶を掘り起こすグルーは、組んだ手に額を乗せた。

「なんで結婚出来ないんだっけ?」

「フランツ様が生前おっしゃっていたのよ。『わしが死んだ後、再婚するのはええけんど、結婚手続きはとらんでなぁ。そうしておかんと、色々面倒なことになるでのぅ』って」

 確かにそうだ。
 身分が同じもの同士の結婚だったとしても、一旦家に入った妻がよそから赤の他人の婿を迎え入れるとなると、身内の反発は強いだろう。
 まして彼女の場合、平民と貴族との結婚。そのあたりの抵抗は大きいと思える。
 そういうことをするのなら屋敷から出て行けということになるのかも知れない。
 が、しかし。本当に自分のことが好きならそれでもいいから一緒になるという方向に頭が動かないものだろうか。
 自分は開拓者として働いているし稼ぎもある。現在彼女がいる環境ほど贅沢でないにしても、人並みの生活をさせることは十分出来ると思う。
 そういった趣旨のことをグルーが言うと、マノンは眉をひそめた。

「ねえグルー、未亡人でなくなったら、フランツ様のお墓参りが出来なくなるのよ。あの墓地は埋葬されている方の関係者しか入れないから…フランツ様はとてもよい方だったから、私、それだけは欠かしたくないの」

 その表情がとても可愛らしかったので、グルーはもやもやの全てを流した。



 しかし単に流しただけなので、間を置くや、またすぐぶりかえす。





 アル=カマル。
 市街地ではただ今、アヤカシが暴走中。
 一体何の念から生まれたものか知らないが、人間に近い姿形で、全身ぬるっとした黒色。
 四足歩行で走り、道行く女性を引っ捕まえ引き倒し靴を脱がせ――足の匂いを嗅ぎまわす。おまけになめ回す。

「いいやああああああ変態−!」

「きゃあああああー! 来ないでー!」

 悲鳴を聞くとうれしいのか、奇声を上げる。



 ふほほほほほーい うほほほほほーい ふひゃほおおおおお



 存在自体が許されない代物だ。もはやアヤカシだとかアヤカシでないとかいう問題ではない。
 その光景を前に、魔槍砲を肩に担いだグルーは、ため息をつく。

「…マノンは本当に僕のことが好きなんだろうか…最近何か自信がないんだ…」

 同行していた仲間たちは、対処に困った。

「いや、この場でいきなりそんな話持ち出されても…」





■参加者一覧
からす(ia6525
13歳・女・弓
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
サエ サフラワーユ(ib9923
15歳・女・陰


■リプレイ本文


「ええと、なんてゆーか、いきなり言われてもちょっと…」

 いい年をした大人から真顔で質問されて、サエ サフラワーユ(ib9923)は閉口する。
 この場合適当にはぐらかすのが正解なのであるが、性格上彼女はそういう手法が取れない。わたわたしながら真摯に答えようとする。

「あの、とりあえずそのマノンさんという方は、どのようなお人ですか?」

 からす(ia6525)が横入りして、その質問を引き受ける。

「とりあえず悪女という類いではない」

 そこでアヤカシが鳴いた。

「うひゃひほほほほほほへえええええ! ほへ! ほへえ!」

 被害者少女に顔面を蹴られ、全身で喜んでいる。

「うっ…」

 眩暈がしてくるサエ。
 許されるなら早足でこの場から立ち去りたい気持ち。

(いいえ、それは駄目――しっかりしなきゃ、私! ちゃんとお仕事はやらなくちゃっ!)

 からすが蒼月で矢を射かけた。
 アヤカシの尻へ続けざまに鏃が刺さったが、本人はものともしていない。なんのつもりか身をくねらせ、ビクンビクンしている。

「おほうっ! ひゃほうっ! ふへへへえっ!」

 からすは半歩ほど下がった。近づかれたくないと冷静に判断して。
 で、グルーとさっきの話の続き。

「グルー殿、悩みがあるなら全て吐いてしまったほうがスッキリするぞ。聞かせてみよ」

 後衛の会話を小耳に挟むマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、焦点を背後の建物に合わせ、不愉快な物体を直視しないよう努めている。

(あそぼをおじさんやらあやっぴーやら、何やらわたくし変なアヤカシによく遭遇する気がしますが…もしやこれも天儀世界に起きた変化の影響…?)

 そこそこ深刻に捉えないでもないマルカであったが、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)がさらさら髪を掻き上げこうのたまうのを聞いた途端、どうでもよくなってきた。

「婦女子の足を嗅ぎ、舐めるとは…これで姿が幼女であれば歓迎なのだがね♪ 例えば我が子猫ちゃんのような♪」

 思わせぶりにリィムナ・ピサレット(ib5201)へ流し目を送るフランヴェル。なまじ顔がいいので、残念感が天井知らず。
 かような姿を石ころ程に見慣れてしまっているリィムナは、ただただ面白がっている。

「変態が2人になった〜♪」

 彼女にとってこの世の変態は2種類しかいない。楽しい変態と、そうでない変態だ。フランは前者。足嘗めアヤカシも前者である。ならおもちゃにするべし。

「アヤカシだから何してもいいんだよね。楽しんじゃおうっと♪ 足を嗅いだり舐めたりするなら…」

 一旦言葉を切り、周囲を見回したリィムナ。

「…無いね。野良犬はさっき何匹か見たんだけどなー…じゃあしょーがない♪」

 意味深な台詞を吐きつつ、前線から離れ、物陰に消えて行く。

「みんなごめん、ちょっと退治に必要なものとって来るから」

 後衛ではグルーの人生相談が続いていた。

「――もしかしてマノンは僕のことを付き人とかマスコット程度に考えているんじゃなかろうかという不安感に、時々襲われて…」

「そーいうことなら…たぶん大丈夫だと思いますけど。からすさんから伺った限りでは、マノンさんはグルーさんのことが好きで、フランツ様のことも好きだったんじゃないかって思うです。だからマノンさんの言うよーに、つながりみたいなのを無くしたくない、とか? えっと、だいたいそんなだと思います。だからその、信じてイイと思いますってゆーかあんまり疑ってるとよくないです…って私がいっても説得力ないってゆーか私に大丈夫って言われても逆に不安になるかもって…すみません、ホントにすみませんっ!」

「そもそも、結婚していないことが果たして重要な事だろうか。公に愛人でも結構ではないか。愛人ということは愛されているという事だから。マノン殿は君が思った以上に簡単に考えていると思うよ 彼女はとても優しい。それは君が最も解っているはずだが…まあ計画はフランツ殿が1枚上だったというところで。フランツ殿も認めているのだから堂々と愛人を名乗るといい」

 前衛ではマルカが先鋒を承る。

「女性の敵。放置する訳には参りません。きりきり討ち果たしますわ!」

 勇ましく飛び出した彼女は、罪もない少女の足を咥えているアヤカシの後頭部に、踵落としをめり込ませる。

「おぷっ!?」

 アヤカシが思わず足を口から吐き出す。
 腰が抜けたまま泣きじゃくる少女。

「もういやー! 最悪−!」

 その姿に内心(いい光景だ…)と酔いしれるフランヴェルは、すかさず少女を軽々抱き上げ、安全地帯まで連れて行く。

「さあ、子猫ちゃん。ここならもう大丈夫」

「あ、ありがとうございます…」

「礼には及ばないよ。当然のことをしたまでさ。あ、これボクの名刺だから。よかったら後で連絡しておくれ」

 抜かりない営業活動を終え戻ってくるフランヴェル。
 その段になってもグルーは、まだお悩み相談をしていた。

「思い起こせば彼女、結婚するとき、フランツ様に僕を雇い入れてもらえるからとかなんとか言ってて…もしかして開拓者というのが気に入らないのかどうなのか…」

「…グル―さん、戦いが終わるまで集中したほうがいいんじゃないかな♪ 下手の考えなんとやらって言うじゃないか♪」

 時を同じくして、マルカがわざとらしい悲鳴を上げた。

「キャー! 近づかないでくださいまし! この汚らわしい変質者!」

 鬼さんこちらの要領でアヤカシを引き付け、観衆から遠ざけて行く。
 そして敵が足を捕らえた瞬間、自らブーツを脱ぎ捨て、包帯を巻いた足をさらけ出した。

「女性にこうまでさせた事、後悔させてあげますわ!」

 包帯から漂ってくるのは大蒜のような匂い――否、正真正銘大蒜の匂い。相手の習性を鑑み不意打ちを食らわせんものとして、予め潰した大蒜を擦り込んでおいたのである。
 それに怯んだところを攻撃するはずだった。予定では。
 だがアヤカシは彼女の目論みを斜め上に裏切った。

「うひゃはほえええええええええ!」

 異臭に輪をかけて興奮し、怯むどころか大喜び。マルカの足首から先をかぽり。じゅうじゅう吸う。吸いまくる。

「きゃああああああ!?」

 今度は本物の悲鳴である。
 サエは大急ぎで救援に走った。

「そ、そんなことしちゃ、ダメーーっ!」

 見習いの符をかざし呪縛符発動。
 細かい式がわらわらたかって、目標を覆い尽くす。
 急いで口から足を抜いたマルカは、アヤカシを闇照の剣で切りつけた。よっぽど嘗められたのが不快だったのだろう、鬼の形相だ。

「ふおっぽぴょ、おぴょおおおお♪」

 アヤカシの鳴き声はどこからどう聞いても悲鳴ではなかった。
 理解を越えた反応を前に、目眩どころか頭痛まで覚え始めるサエ。
 あちこち塩になりつつまだまだ元気なアヤカシは、彼女へ頭部をねじ向けた。
 式をくっつけたまま関節が外れた動きで、素早くかさかさ迫ってくる。
 サエは大声で叫んだ。

「いや、いやぁーーーっ!! こっち来ないでーっ!」

 走って逃げようにも脅えのあまり、足がもつれて転んでしまう。
 迫るアヤカシ。
 かさかさこそ。

「あっち行ってー!」

 大龍符で牽制しようとしたが、動揺し過ぎていたせいで、龍があさっての方向へ飛び出していってしまう。
 かさこそこそ。

「いいいやあああああ!」

 からすによる遠距離攻撃が彼女のピンチを救った。

「下がれ痴れ者!」

 矢は頭にブスブス刺さる。
 先程のと併せて剣山状態だが、アヤカシときたら痛がるどころか別の感覚に酔いしれている。

「ううっほう! うっほう!」

「…いまいちやり甲斐のない相手ですね」

 不服そうなからす。
 ところでリィムナ。騒ぎの間中ずっと物陰で、妙な声を上げている。

「ううーん…」

 フランヴェルは、くわっと目を見開いた。

(もしや…まさかっ。いや、以前も騙されたし…しかし今回こそは!)

 期待にそわそわする彼女の前に、満を持してリィムナ再登場。

「お待たせ♪ ごめん、なかなかいいのが出なくて♪」

 皆は見た。物陰から出てきた少女の素足に、べっとり何かが付着しているのを。
 泥か土――そう思いたかった。鼻をつく異臭さえしてこなければ。

「ほれほれ、できるもんなら嗅いでみろ舐めてみろ〜♪」

 アヤカシに足を差し向ける彼女の姿に、感銘を受けるマルカ。

「あ、アヤカシを倒すためだけに…あそこまで我が身を捨てるとは!」

 違う。リィムナは何も捨てていない。ナチュラルに振る舞っているだけだ。
 しかしアヤカシといえども、まさかUNKOまみれの足に反応はすまい――

「ひぃいへへへへ! ひぃいへへへへへへへへ!」

 ――という見方は単なる希望的観測に過ぎなかったようだ。
 アヤカシはただの変態ではなかった。究極の変態だった。
 キャッキャ楽しそうに逃げ始めるリィムナ。

「あははー♪ あたしをつかまえてごらーん♪」

 フランヴェルがアヤカシの後に続き、走りだす。
 彼女もただの変態ではなかった。至高の変態だった。

「そ、それは何だいっ! ちょっと嗅がせてみたまえ!」

 かくして3者は大通りで鬼ごっこ。回る回る夢の国メリーゴーランド。誰も輪の中に入れない。

「フランさんも来たー♪ うふふ♪」

「待てこのー♪ ははは♪」

「ふほぉおおおおお♪」

 観衆は勿論サエもマルカもからすもグルーもその光景に見入っていた。頭の芯を疼かせながら。

「やだぁ、捕まっちゃったあ。うひゃははは嗅いでる嗅いでる嘗めてる嘗めてる。ひゃははははくすぐったいー♪」

「ふほぉおおお♪」

「てか、下手だねあんた あたしの恋人ならひと舐めで、あたしを腰砕けに出来るよ♪ さてはあんた経験ないでしょ♪ やだー、フランさんまでー♪ そんなに匂い嗅ぎたいのー♪」

「無論だ! しかしこれは…似ているがリィムナのじゃない…そうだね?」

「あ、すごい、分かったんだ。実はこっち来る途中で赤ちゃん連れた女の人がいたから洗濯前のおむつを貸してもらったんだ♪ 残念でした♪」

「成程、赤ちゃんのか…似ている筈だ♪」

 誰かのかすれ声が静まり返った場に響く。

「何だこれ…」

 永遠に続くかと思われる均衡を崩したのは、当のフランヴェルだ。
 リィムナの足に気をとられている最中、いつのまにかアヤカシが自分の足も嘗めていることに気づいたのである。

「…ボクに触れていいのは幼女だけだ!」

 激高した彼女は、いきなりアヤカシを羽交い絞めにし、天高く跳んだ。

「ライジングリリィ!」

 中空にてアヤカシを放し、両拳を重ね、大きく振りかぶって。

「フランヴェルテンペスト!」

 アヤカシは地面に急転直下、激突。
 腕を組み直立不動の体勢でをとるフランヴェルは、その上に着地。踏んで踏んで踏みまくる。

「スティンガーローズ!」

 やっとこさ我を取り戻した開拓者たちは、汚染物質をいち早く除去することに全力を注いだ。
 からすは踏まれるままガクガクやってるアヤカシの四肢に矢を射かけ、地面へ釘付けにする。

「ほら、八つ当たり鬱憤晴らしの準備が出来たぞ。皆、思う存分踏み抜くといい」

 煽る本人はそうする気がない。
 あの狂態を見た後、一層近づこうと思えなくなったのだ。KUSOまみれの足を嘗めまくるような輩に接近されるなど、御免こうむる。
 サエも近づかなかった。距離を保ってちまちま式にアヤカシを噛ませ、攻撃。

「えいっ、えいっ」

 マルカはにっこり微笑みながら、足蹴りに加わった。包帯からしたたる不愉快なよだれをこそぎとるため、念入りに踏みにじる。

「女性の足で逝けるのですから本望でしょう」

「うほぉおお! うほほほぉい!」

 アヤカシは喜々として舌を伸ばす。
 マルカは生ゴミを見るような眼差しを注ぎ、闇照の剣を振るった。
 不埒な舌が塩となり崩れ落ちる。

「思えば、何も喜ばせて逝かせることはございませんわね」

 フランヴェルは肩をすくめた。

「言われてみればそうかもしれない」

 ならば答えは1つ。

「グルーさん、悪いんだけど一発かましてくれるかな?」

「最大出力でお願いいたします」

「あ、ああ。分かった」

 マルカらが離れたのを見計らい、グルーは、地にへばり付いているアヤカシに向け魔槍砲を発射した。
 爆音と爆風と火花が散る。
 土煙が収まってから確かめてみれば――アヤカシはまだいた。体の半分以上吹き飛んでいるが、かさかさやっている。
 リィムナがそれを足でつつく。

「ねばるねー。でも飽きたしそろそろ始末しようかなぁ」

 少女の輪郭がぶれ、4人になった。
 無限の胸像だ。
 それらが各々混沌の使い魔を発動するのだからたまらない。

「「「「這い寄るものよ…蹂躙せよ! 侵せ、冒せ、犯せ!」」」」

 醜い肉の塊が出現しおぞましい声を上げながら、アヤカシに殺到した。
 アヤカシが鳴く。

「ごぉえぇぇえええええごへえええ!!」

 最後に発されたのが歓喜の声でなく断末魔であることに、女開拓者らは深い満足感を覚えたのであった。

 悪は滅びた。
 さて、残った問題はグルーだけだ。
 足の匂いをどう取ろうか悩みつつブーツを履き直すマルカは、まだぶつぶつ言っている彼に、ピシャリと告げた。

「わたくしはまだ殿方とお付き合いした事もありませんから、男女の機微はよく解りませんが、フランツ様の埋葬のおりのマノン様は骨になったご先祖にも丁寧に御挨拶なされてましたわね。いわゆる天然という方なのかも。なので諦めなさいまし。大体男性が何時までもうじうじ言うのはみっともないですわ」

 広場の噴水で足を洗ってきたリィムナは、大人ぶって頷いた。

「だよねー。大体さ、開拓者って、決して楽な稼業じゃないからね〜命の危険だってあるし。その割に儲かるってわけでもないし。給料は完全歩合制、休みも不定期、事故が起きたとして基本自己責任で片付けられちゃうしさ。正直フツーの会社へフツーに勤めてる人の方が、伴侶としては条件がいいからね? だからー、マノンさんが今のままの生活を望んでるのなら、無理に結婚しようとしなくていいんじゃない? 今、お金持ちのおじいさんの未亡人としていい生活してるんでしょう?」

 正論の羅列にぐうの音も出ないグルー。
 彼が少し気の毒に思えたからすは、背中をぽんぽん叩いてやる。

「好きなのかどうかは本人に聞けばいいじゃないか。不安ならマノン殿を抱き締めて心情を吐露しなさい。マノン殿は応えてくれるはずだ」

 サエも精一杯慰める。

「えと、グルーさんは大丈夫だと思います。マノンさんはきっときっと、グルーさんのこと、大好きだって言ってくれます!」

 フランヴェルはリィムナの足を嘗めるのに忙しいので、会話に加わらない。

「ひゃっ…フランさん駄目だってふああん♪」




 依頼終了後、グルーから報告があった。
 先日とは打って変わって幸福感に浸っている様子。どうしたのかと思ったら。

「マノンが、おめでたみたいだって。子供の父親が僕ってことは間違いないから、もう肩書にこだわる必要ないかなって」

 …まあ、好きにしてくれ。