六花舞い散る街道に
マスター名:菊ノ小唄
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/01/16 18:17



■オープニング本文

●入れ違いの急報
 とある冬の日の午後。
「山県さん、いらっしゃいますかー! 山県さん!」
「はいはい、なんでしょう」
「急ぎのお便りを預かっております、大至急ご確認ください」
 神楽の都の北外れ、小さな屋敷の留守を守っていた下男は一体何事かと思いながらそれを受け取った。差出人を見れば、下男の仕える山県家、その本家からの便りである。届けてくれた者へ軽く会釈して見送ってから急いで開封し、確認する。
 みるみるうちに下男の顔が青ざめた。
「ご当主様が、ご危篤ですと……!?」
 幼少の頃に体が弱かったことは知っていたが、成人してからは随分体力もついたと聞いており、近頃では不安など微塵も感じていなかった。そこに、危篤の報せ。この一大事に、下男は深呼吸して焦る心を落ち着ける。
「フミ様はまだ道中の筈。お急ぎになるよう伝えなくては」
 この屋敷の小さな主、山県 フミ(iz0304)は、ちょうど今朝、本家に向けて里帰りのため出発した。物の見事に入れ違いになってしまった形となる。里帰りは急がず小旅行も兼ねて街道の途中で宿を取り、ゆるりと武天を目指すと聞いている。彼女は当主のすぐ下の妹で、当主とは歳が近く仲も良いと聞く。この報せは一刻も早く伝えなくてはならない。下男は自分に言い聞かせるように呟き、はっと立ち止まった。
「ギルドへ依頼しよう、普通の馬より早く届けてもらえるかもしれない」
 下男は火の始末と戸締りだけ済ませ、大急ぎで開拓者ギルドへ走ったのだった。

●街道の一大事
 下男が便りを受け取る少し前。
 右目に眼帯、その上から眼鏡をかけ、腰に太刀を佩いた少女が、雪のちらつく街道を行く。
 少女、山県フミは神楽の都の自宅から、実家のある武天に向けて街道を歩いていた。年末年始を実家で過ごす予定である。旅の道連れは乳母のシノ。そして各々が相棒の炎龍を連れていた。シノの龍が両目を失明しているため、一行は空を行かず街道をのんびりと歩く。
「このまえ届いたお手紙にあったのだけど、兄上様はね、いつか刀剣の目利きになりたいんですって」
「隆行様の夢ですか」
 目利きと言えばフミ様の亡きお祖父様がお詳しゅうございましたねとシノが言う。それに頷いて、フミは
「わたしも夢があるの。だから、帰ってゆっくりお話できるときになったら、兄上様とそのお話をしたいわ」
「それは良いですね」
「あとね、雪で遊べるかもしれないって」
「そうでしたか、楽しみですね」
「ええ、楽しみ」
 並んだ二頭の炎龍の背に揺られながら話す二人。
 しかし。
 和やかな旅の時間は、鋭い一陣の風によって、唐突に断ち切られた。
 フミの頬に細く赤い筋が一本残る。雪が一片、赤い筋に触れて滲んだ。
「かまいたち!?」
 フミたちは驚いて顔を見合わせた。
 そして前を向くと、目の前には背丈が大人の人間ほどもあるいたちが三体、後足で立っている。彼らは鎌になっている両前足をだらりと下げ、禍々しい瘴気を纏っており、それがアヤカシであることを教えていた……。



■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
朱華(ib1944
19歳・男・志
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
刃兼(ib7876
18歳・男・サ
佐藤 仁八(ic0168
34歳・男・志
源三郎(ic0735
38歳・男・サ


■リプレイ本文

●神楽の都に一つの縁
 ふらりと依頼を眺めに来た佐藤 仁八(ic0168)は、必死の形相で一通の手紙をギルド職員に手渡す男の姿が目に入り、気になって声をかけた。
「どうしたんでえ、困りごとかい」
「こ、これは佐藤様……!」
「あん? あたしを知ってるたあ、随分有名になったもんだ」
「あ、いえ、その! ご挨拶が遅れまして……」
「なあに、いいってことよ。それよりあんた、急ぎの用か何かだったんじゃねえのかい」
 長くなりそうな男の言葉を遮って事情を聞けば、兄の危篤の急報がその妹宛に届いたものの、妹は今朝、それを知らずにただの里帰りのつもりで出発してしまったという。そしてその妹というのが、仁八も面識のある少女、山県 フミ(iz0304)と知り、目の前の人物が誰であったか漸く思い出して膝を打つ。
「ああそうだ! そうだよおめえ、山県の爺さんとこの下男じゃあねえか! そんでもって今ぁあの嬢ちゃんの世話してるってえわけか!」
 腕組みしてそうかそうかと何度も頷き、にっ、と口角を片方持ち上げ笑ってみせる。
「ここぁ一丁、あたしに任せな。龍に乗ってひとッ飛び、風より速く届けてやらあ」

 白い羽織を翻し、その中にちらりと白く太い尾を覗かせて、仁八は白い炎龍に跨り冬の空へと翔け上がったのだった。


●歳暮の街道に一つの縁
 源三郎(ic0735)は、開拓者になる前、風来者であった頃世話になった人を訪ね、年始の挨拶をして回るため武天へ向かう街道を歩んでいた。その途中に見かけたのは、二頭の炎龍とそれぞれに跨る見知った顔。近付いてみれば、炎龍に乗って歩いていたのは同じ頃に開拓者となったフミと、その乳母シノ。
「源三郎じゃないの」
 フミが目を丸くする。挨拶を交わし、互いの行き先が揃って武天であることが判明する。
「これも何かの縁です。一つ同じ道行きと参りませんか」
「そうね、急がなくてもいいなら」
「勿論大丈夫でございやすよ。……おシノさんの龍は、遂に目は見えぬままでしたか」
「うん。でも、こうして助けてくれるの。シノもあまり目は見えないし、大変だけどみんなでがんばってる」
「前を向かれておいででこちらが励まされやすなぁ。時に、ご当主の兄上はご健勝で?」
 その問いにも、フミはうんと頷いた。そして、あっそうだ、と源三郎のほうに振り向く。
「もし良かったら、源三郎も兄に会わない? あまり出歩かれないから、いろんなお話をしてあげたら喜ぶと思うのだけど」
 急なことに目を見開く源三郎だがすぐに笑み、あっしなんかの話でお喜びいただけやすかね、と言いかけたその時。

 一陣の風が鋭く吹き抜けた。
 フミの頬に細く赤い筋が一条。雪が一片、赤い筋に触れて滲む。
「かまいたち!?」
 思わず見合わせた顔を前に向ければ、そこにいたのは背丈が大人の人間ほどもあるいたちが三体。鎌になっている両前足を下げ、後足で立っていた。アヤカシだ。
「おシノさんを頼みます、おフミさん!」
 源三郎の言葉でフミがシノを背に素早く後ろへ下がる。源三郎が即座に前へ出て敵と対峙、そして響き渡る大音声。
「お前らの相手はこっちだ。かかってきやがれ!」
 フミへ向かいかけていた二体のアヤカシ、その片方が大声を聞いて止まり、身を翻して源三郎に迫る。その速さたるや風の如く。源三郎はフミを狙う残り一体を一瞬見やるが、それ以上のことはしなかった。彼女も一端のサムライである、と信頼していたがゆえである。源三郎は眼前の敵に意識を集中し、刀の柄に手を掛けた。

 仁八は相棒の炎龍、熊に乗り、街道を見下ろしながら雪のちらつく空を行く。
 数名の人が龍と共に固まって立ち往生しているのを見つけた。そのうちの二名が、妙に大きな鼬を前にして刀を抜く。おうおうおう、と仁八の顔が楽しそうににやりと笑った。
「久方振りに面を見に来てみりゃ、嬢ちゃんもよくよく災難に縁があるようじゃあねえか。熊公、あたしぁあすこに飛び込むぜ」

 熊を低く飛ばせ一気に接近。飛び降りざま、フミへ迫るアヤカシに愛刀『直し興重』を振り下ろした。飛び退くアヤカシ。
「よう、久しいねえ。盛り上がってんじゃあねえか、人生退屈しなさそうで羨ましい限りだ」
 そう言うと、何か言い返そうとしたフミに預かってきた手紙を投げる。慌てて受け取るフミ。
「下がって、今この場で読んでおきねえ。一大事なんでねえ、こいつらを片付けたらすぐに飛ぶぜ」
 返事も待たず、仁八は後足で立ついたちの姿をしたアヤカシに両手で構えた大太刀の切先を向ける。と、上空から白い炎龍の爪がアヤカシを襲った。体勢を崩したアヤカシに、強弓の放つ矢の如き勢いで『直し興重』の平突が繰り出され、アヤカシの肩を切り裂いた。
「とどめにぁならねえか、面白え」
 体勢を立て直しながら笑った仁八。しかしその肩に音を立てて一条の傷が出来、仁八が片眉を上げる。
「けっ、ちゃちな風を起こしやがって。鼬が屁をこくのぁ最後と相場が決まってらあ」
 仁八は笑みを深め、愛刀を左の手に持ち直した。


●戦塵街道に四つの縁
 ちらつく雪の数が増えてきた街道を歩く、仕事を終えた歴戦の開拓者たちがいた。

 武僧の少女、柚乃(ia0638)。
 修羅のサムライ、刃兼(ib7876)。
 虎の獣人志士、羽喰 琥珀(ib3263)。
 紅髪の志士、朱華(ib1944)。
 柚乃の闘鬼犬が吠え、唸り声を上げて柚乃は立ち止まる。ぼんやりと雪を眺めていた刃兼も、誰かが戦う気配を感じ取る。
「あれ、あいつら、俺の知り合いだ!」
 前方に見える龍二頭に見覚えがある、と話す琥珀に刃兼が尋ねた。
「後ろに下がっている人と龍は、もしかして戦えない……のか?」
「うん、たぶん」
「ということは四の五の言ってる場合じゃないな、アヤカシは疾く退場願おう」
「ああ急ごう、俺にも見覚えのある顔がある」
 朱華も頷き、四人は駆け出した。

 柚乃と琥珀がフミたちのところへ駆けつける。
「初めて逢ったのもこの街道だったよなー。なんか縁でもあるんかな?」
「琥珀!」
「やっほー、フミ。後ろ任せるぜ。あいつ等素奔こそーだから、逃げようとしたら止めてくれな」
「わ、わかった!」
 前線へ飛び込んでいった琥珀を見送るフミに、
「あの、フミさんでしたか、状況を教えてもらえますか?」
 柚乃が尋ねると、フミは手短な自己紹介の後、ついさっき敵とここで遭遇し今は仲間が戦っていること、自分の兄の危篤を知らせる手紙がたった今届いたことを説明する。
「急がないといけませんね……。フミさんたちは、龍のそばにいてあげてください」
 少し不安そうですから、と柚乃。フミがうんと頷いたのを見届け、アヤカシに視線を向けた。

「助太刀するぞ、陽州が修羅の子刃兼、参る!」
 気合の一声で、源三郎からフミへ狙いを変えそうになっていた敵の気を引き、踏鞴を踏ませる刃兼。足が鈍ったその瞬間を見逃さず、彼は敵の目を惑わすほどに巧みな剣捌きで敵の腕を貫いた。
 刃兼と組み合う形になり動けなくなったアヤカシの背に襲い掛かるのは氷の刃。柚乃が放ったそれは敵の背に突き刺さり、炸裂する。身をよじったアヤカシが間近の刃兼に鎌を振るったが、刃兼はそれを太刀でいなし、そのまま敵の首を掻き切ったのだった。

 駆けてきた琥珀が、おーらよっとっ、と陽気な掛け声と共に刀を勢いよく振り下ろし、練った気の刃を飛ばして敵にぶつける。
「有難え、恩にきらあ」
 眼前の敵がつんのめり、助っ人の到着で守りに入る必要が無くなったことが分かるや否や、仁八は遠慮無く暴れだした。もとい、遠慮など元から持ち合わせていない。彼はただただ、酔狂に傾いていくのが身上だ。
 幾度も斬り結んで傷を負っては飛び退り、相棒の龍に派手な火を吹かせて敵の目を眩ませる。かと思いきや、長身と長い柄から繰り出される左片手突きが敵の予想の斜め上から襲い掛かり、その肩を一気に貫通。貫いた刃を躊躇せず捻り返す仁八はアヤカシの首を払い抜けた。真っ赤な大輪の椿が彼の羽織の上に咲く。
「なんでえ、鼬の最後っ屁ぁねえのかい。なんならあたしが代わりにこいといてやろうか」
 事切れた鎌鼬を見下ろして、白狐が楽しそうに嘯いた。

「……お前の相手はこっちだ」
 源三郎の前に立つ最後のアヤカシに襲い掛かるのは雷の刃。朱華が精霊の力を借りて放ったその刃は、地面と平行に奔ってアヤカシの体に叩き込まれる。その時出来た隙を見逃すことなく源三郎が肉薄し、敵の胴を払いぬけた。
 しかしまだ浅かったらしく、敵は素早く源三郎の右脚を狙ってかまいたちを飛ばす。避けきれずそれを食らった源三郎だが、ただでは起きない。琥珀が振るう居合の刀で両脚を傷付けられたアヤカシが目の前で転倒、源三郎は刀でアヤカシを地に縫い付けた。
「お願いしやす!」
「承知した」
 答えた朱華が抜刀する。しかして、桜色の燐光を纏った刀身が、揺れる枝垂桜の如き軌跡を描いてアヤカシの首を払い落としたのだった。


●武天の町へ繋ぐ縁
 柚乃の歌声が精霊の力を呼び寄せて響き、周囲に薄緑色の燐光が舞い散る。ひらひらと舞う雪に色が移り、精霊の唄は負傷者を少しずつ癒していく。唄を聴きながらフミは手紙の内容を面々に説明したところ、できるだけ速く移動できるよう協力しようと全員の意見が即座にまとまった。仁八は周囲の様子を窺い、安全を確認してからフミに出発を促す。そして他の開拓者たちに
「助太刀感謝すんぜ。この礼ぁいつかどっかですっからよ」
 と礼を言って、自分の龍の背に跨り、後ろの鞍を空ける。
「おう、シノっつったかい、おめえも乗った乗った」
 言われて戸惑うシノ。
「急ぎなんだろ、乗せてもらえ」
 と刃兼が声を掛け、
「俺の甲龍を貸しても良いんだが、同じ炎龍で行けるなら足並みが揃って良さそうだな」
 と朱華もシノの背を押す。
「命尽きるまで応えるんだろ?」
 琥珀は組んだ両手を頭の後ろで枕にして笑っている。そして少し近付いて小声で言った。
「最悪の場合、フミを支えるシノが必要だ」
「……はい」
 琥珀の言葉にこくりと頷いたシノから、琥珀は手拭を一枚借りてシノの龍の脚に結びつけた。
「これで、こいつも少しは安心するだろ」
「そうですね」
 微笑んだシノに、源三郎が毛皮の外套を着せ掛ける。フミには真っ白なマフラーを首に巻いた。
「冬にござんす。空の道行は寒うござんす」
「ありがとう源三郎」
 口元をふかふかにして微笑むフミだが、その表情はどうしても硬いものとなる。それを見て朱華が軽く肩を叩いた。
「……どんな結果であれ、悔いは無いよう……今出来る事をしよう。考えてもわからない事は考えない方が良い。……今は、自分の気持ちに正直にする事が大切だと思う」
 今出来ることを精一杯。朱華の言葉に、こくり、とフミは静かに頷いた。
「シノ、後ろ乗りねえ」
 その言葉にシノも今度こそ迷わず、仁八の手を借りて後ろの鞍に跨った。
「おシノさんの龍は、あっしらにお任せを」
「龍は必ず後から連れていく」
 源三郎と朱華がそう約束して、フミとシノは頷いた。
「よろしくね」

 フミが自分の真っ赤な炎龍に乗る。琥珀が声を掛けた。
「難しいだろーけど落ち着けな。焦ると悪いほーにばっかいっちまうからさ」
「うん。気をつける」
 震えるのをなんとか押さえつけているような声だがしっかりと返事をして、フミは龍と共に空へ飛び上がった。仁八とシノを乗せた白い炎龍もそれを追う。
「熊公、ちっとばかり急いでくんねえ。帰ったら夏場に凍らせといた葡萄をたっぷり食わせてやるんでよ」

 赤と白の龍を見送り、盲目の龍を連れ、残った五人は街道を歩き出す。
 刃兼がボソリと呟いた。
「まだ、こうも物騒な場所があるか……」
 隣を歩いていた琥珀も唸る。
「そーだなー、当分はこんな感じなのかも」
「そうかもしれないな。……フミは間に合うと良いが」
「だなー」
「近しい者との別れ……うまく想像できないな。我ながら、情けない話だが」
「知っててもうまく説明できねぇし、しょーがねぇよ」
「そう、か。……どうか、間に合って欲しいものだ……」
 そんな言葉を交わしながら、薄く積もった雪で白い街道を進んでいった。


●武天東部、山県家
「どいたどいた、御曹司のお帰りだ」
 後ろで呼ばわる仁八の大声に、不安や恐怖を一瞬忘れて顔を赤くしながらフミは龍を降下させ、ドド、と地を鳴らして着地した。龍の鞍から飛び降りて転がるように玄関へ向かったフミを、シノが追う。
「只今帰りました、フミです!! 兄上様は!!?」
 出迎えたのはフミの母だった。目の下の隈が、必死の看病の様子を物語っている。
「フミ、嗚呼、フミ、やっと来た、良かった……! 手紙、届いたのね?」
「わたし、手紙受け取る前に出発してしまって、あの人が追いかけて届けてくれたの」
 そう言って仁八のほうを見たフミはまだ礼を言っていないことに気が付き、はっとして口を開く。
「仁八、その、本当にありがとう!」
 叫ぶように言って、シノを連れてバタバタと屋敷へ上がり走っていってしまった。フミの母は仁八に深くお辞儀をして、謝罪と礼を言う。
「行儀のなっていない娘で申し訳ございません、仁八様。誠に、誠にありがとうございました」
「ん、ああ、いや、そんな頭下げることぁねえ。あたしだけの力でもねえしよ。あ、そうそう。もう少ししたらシノの龍連れた仲間が来るんでねえ、それだけ宜しく」
 そんじゃ、あたしぁこのへんで。
 仁八は返り血の椿が顔にも羽織にも咲き乱れている大変な格好のまま、仁八らしく、堂々と歩き去っていった。


●夜の帳が下りて
 辺りもすっかり暗くなった頃、柚乃、朱華、琥珀、刃兼、源三郎の五人が山県家の屋敷に到着。
 龍の引渡しを済ませた面々は、良かったら休んでいってくださいとフミの母に言われるも寛げる気分ではなく、シノと共にフミを待つ。

 夜も更けてきた頃。ようやくフミが姿を見せた。
 目から、涙が次々に零れ落ちている。
 源三郎と琥珀は腰を浮かせ、柚乃は矢も盾も堪らず駆け寄った。

「お兄さんは……」
 恐る恐る柚乃が尋ねる。か細い声がそれに答えた。
「だい、じょ……ぶ」
「えっ?」
「だいじょうぶ、兄上様、おきた、目……さました……!」
 途切れ途切れの声を聞き、琥珀が飛び上がった。
「良かったーーーっ! 良かったなフミ!!」
 朱華、刃兼も、ほうっと息を吐いて笑った。
 源三郎も、良かった、本当に良かった、と擦れる声で繰り返した。
 シノが医師と話をしに部屋を走り出て、逆にフミは力が抜けてその場に座り込む。そして顔を上げ、見下ろす面々を順繰りに見ながら言った。

「みんな、ほんとに、ありがとう。ほんとのほんとに、ありがとう………」

 心の底まで寒さに震え、硬くなっていた少女の笑顔。それが今、やっと、温かく綻んだのであった。