【急変】道無き道の迷子捜し
マスター名:菊ノ小唄
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/05 17:34



■オープニング本文

●避難民の子供たち
 理穴東部でのアヤカシ侵攻を受け、その地に住民は避難を余儀なくされた。
 行き先は、魔の森を越えた理穴西部。そこには、まだ人の手が入っていないとある湖がある。その周囲の林が避難先のひとつに選ばれた。

 理穴国や開拓者ギルド、そして隣国武天から派遣された飛空船などに乗って、続々と湖に到着する避難民たち。
 現在、飛空船が着水している湖の周辺には簡易天幕の群がおよそ十張りずつ、四か所に分かれて点在している。避難してきた四つの小村が、村ごとに身を寄せ合っていた。

 命からがら逃げ出してきた理穴東部の避難民たち。子供や老人の他、怪我人も多く、折悪しく病を得ていた者も居る。その日は不運にも雨で、水には困らないものの、湖から吹く冷たい風が避難民たちの体力や気力を奪っていた。

 そんな中で唯一元気なのは子供たちだ。
 多少怪我をしていても、お腹が空いていても、じっとしているのが退屈であることには変わりなく。親の手伝いもままならない幼児たちは手持ち無沙汰気味であった。
 ある少年が、遠くに友達の姿を見つけ、大声で呼びかけた。
「あー! シュウ、シュウ!」
「うん? あっ、キョウタ!」
 天幕の入り口で腰掛けているシュウと呼ばれた少年が、嬉しそうな声で友達の声に答えた。しかしシュウは、駆けてきた友達がすぐ浮かない顔になってしまったのを見て首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「おれのかあさんがね、いま、びょうきなんだ」
「ほんとか?」
「うん。そんでさ、なんかいいものたべさせてあげたんだけどさ、どうしたらいいかな?」
「たべるものかあ……。そうだ、いつもみたいに、このもりでたべものあつめようぜ」
 と、シュウが両の手を打った。(実際には森、というほどの広さではないが、木が沢山集まっていれば彼らにとっては森である。また、彼らは湖を見たことが無く、随分大きな水溜りだなぁ程度にしか考えていなかった。)
「そっか! もりならいつもいってるもんな、いこうか!」
「おう、いこうぜ! あ、ミチカとマサコもよぶか?」
「うん!」
 そうしていつもの四人組が集まって、いつもと違う『もり』へと入っていったのだった。

●避難民の大人たち
「あの、キョウタを見ませんでした……?」
 顔色の悪い女性が、ふらふらと覚束ない足取りで簡易天幕を順に訪問している。キョウタの母親だ。そこへ大人が数人駆け寄ってくる。小柄な女性が、心配そうな顔でキョウタの母の肩を支えた。彼女と仲の良い、マサコとミチカの母親である。
「まだ治りきってないんでしょう? 歩き回っちゃだめよ、無理しないで寝ていてちょうだい」
「キョウタが、キョウタが居ないんです……そちらへ行ってませんか……?」
 細い声で尋ねるキョウタの母に、マサコとミチカの母は首を横に振った。
「こっちには来てないわねえ、さっきキョウタくんに呼ばれて遊びに行ったみたいだけど」
 それを聞いて、もう一人の女性が頷いた。
「うちのシュウもだね。あまり遠くへ行くなとは言ったけど、まだ帰ってない」
「いつもの4人で遊びに行ったのかしらねえ」
「もう帰ってても良い頃なんだけど」
「そうなんです……」

「あの、どうかしましたか」
 山県 フミ(iz0304)は、不安げな顔で話をしている大人たちを見つけて声をかけた。フミは避難の手伝いのため開拓者の一人としてここまで同行してきたが、避難が済んで依頼内容を完了し、神楽の都へ帰る支度が整ったところだった。振り向いた女性たちが不安と困惑の表情で口々に、
「うちの子たちが帰ってこないの」
「フミさん、見ませんでしたか……?」
「いつもなら必ず、日暮れまでに帰ってくるんだけどもね」
 フミは驚いた。周囲を見れば夕焼けが湖に反射して、辺りは橙色に染まっている。林の中は既に薄暗いことだろう。
「え、そうなんですか? 出かけた先は?」
「それが分からなくて……」
「あ、でもほら、うちの村は周りが全部森でしょ、森林には慣れてるから林で遊んでるんじゃないかしら」
 それを聞いてフミは緊張する。この辺りの林は湖が近い関係上、奥へ行くほど小さな沼がいくつか存在し、(大人はともかくとして)子供には少し危険なのだ。勿論その点は大人たちへも周知されている。が、誰も彼もが忙しく、余裕も無く、いつもの遊び場とあまり変わらない場所で子供たちを遊ばせておこうと判断する様は、フミにも容易に想像できた。

 フミは後悔が胸に渦巻くのを感じる。
 私がもっと子供たちの様子を見ていれば、こんなことにならなかったかもしれない。慣れぬ隻眼で様々な作業をこなすのは中々骨が折れ、目を閉じて休み休み仕事をしていた。だが以前のように不自由がなければ……。
 悔しさや、どうにも出来ない絶望にも似た気持ちが綯い交ぜになる。だが周りの人が不安な気持ちで一杯である以上、そんな私情を表に出すことはできなかった。
 フミは子供たちの名前や特徴を聞いて書き留め、彼女と同じく避難に同行していた開拓者たちのもとへと向かったのだった。


■参加者一覧
ファラリカ=カペラ(ib9602
22歳・男・吟
白葵(ic0085
22歳・女・シ
桃李 泉華(ic0104
15歳・女・巫
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
佐藤 仁八(ic0168
34歳・男・志
源三郎(ic0735
38歳・男・サ


■リプレイ本文

●開拓者、集う
 湖の南側。天幕が集まっている中で、開拓者七名が集合した。

 眼帯に眼鏡、腰に太刀を佩いた娘、山県 フミを、開拓者たちが半円に囲む。 

「まぁ……大変。早く、見つけてあげないと」
 迷子と聞いて、普段はおっとりと優しい山羊の獣人の男性、ファラリカ=カペラ(ib9602)が眉根を寄せる。
「年の頃は、どれくらい……?」
 背を丸めて尋ねたファラリカに、フミが答える。
「六才、五才、五才、四才、だそうよ。上二人が男の子でシュウとキョウタ。下二人が女の子でミチカとマサコ」
「小さい子……それは、親御さんも心配でしょうね……」
 同じく眉を八の字にしている黒猫の獣人、白葵(ic0085)が呟く。
「なんもなかったら、えぇけど……」
 ぎゅっと自分の手を握り締める白葵の横には、これだから子供は、とでも言いたげな溜息をつくジェラルド・李(ic0119)が立っている。呆れ交じりの溜息を聞いて、白葵がおずおずとジェラルドを見上げた。だが、先ほどの溜息は否定ではなかったようだ。
「……怪我でもされる前に、さっさと見つけるべきだろう」
 もう一つだけ溜息をついて、ジェラルドは首肯したのだった。
「こうしちゃおれねえ。すぐ出、あイタ!」
 迷子と聞いて今にも飛び出そうとする佐藤 仁八(ic0168)の後ろ頭が、宝珠が飾られた杖の先で小突かれた。小突いたのは桃李 泉華(ic0104)。
「捜し方の確認もしやんで行くんやない」
 ぴしっと言われ、こいつぁすまねえと頭を掻く仁八。大人の迷子とかウチ捜したぁないで、などと言ってから、泉華は隣のからくりを見下ろして指示を出す。
「ひづっちゃん。みんなの動き聞いたら、避難民さんらのお手伝いお願いな」
 恭しく礼を取るからくり、姫月。
「畏まりました、泉様」

 そうして一同は狼煙の使い分けや役割分担を確認し、捜索開始となった。

 開始を告げて、一瞬、心許無げに天幕郡へ視線を投げたフミ。そんな彼女の腰の辺りを、バシーンと勢い良くブッ叩く者がいた。仁八である。
「何……!?」
「ここに力入れねえ、ここに」
 バシバシ。
「爺さんから貰ってんだろうが、『ふみ』の名前をよ」
 無遠慮な振る舞いにそろそろ抗議しようとした矢先、思いもよらぬ言葉を聞いてフミが驚く。
 フミの佩く太刀、実はこれ、仁八にとって見覚えのある物であった。それは、彼が今は亡きフミの祖父と語り合った折、老翁の後ろで物言わず控えていた一振りであったので。
「その腰の太刀ぁ、爺さんの目だと思いねえ」
 口の片側をぐっと上げて笑う仁八の目には、去りし人を懐かしみ、形の無い何かが受け継がれたことを喜ぶ色があった。
 そんな彼の後ろへ、ところどころ赤に毛染めされている白い炎龍がやってくる。彼の相棒、熊だ。
「おう熊公」
 仁八は振り返って言った。
「迷子だとよ。チビどもが泣いてんのぁおめえも見たかあんめえ。ひとっ飛び頼まあ」
 熊の首を叩き、荒縄を熊の足に結びつけだす。説明も無く好き勝手されている熊だが、それも慣れたもので大人しく仁八の話を聞く。
 刀を鞍に括りつけ終えた仁八が飛び乗ると、フミに見送られ、長毛の龍は飾りをなびかせ空へと翔け上がっていった。

 その向こうでは、出発前のファラリカが自分の甲龍ウェヌスの首を抱いて撫でている。
「ウェヌス……頑張りましょうね?」
 一緒に。そう言ってファラリカも鞍に跨る。ウェヌスを、雨がそぼ降る薄暗い空へと走らせた。

「お子さん達はあっし等が必ず探し出しやす。ここでお待ちになってくだせえ」
 不安げに集まっていた親たちへ、源三郎(ic0735)が声をかける。癖のある慇懃な言葉ではあるが、その目は真摯で、親たちも頷き頭を下げた。
「どうか、どうかよろしくお願いいたします」

●迷子捜索
 聞き込みの面々に先立って林に入ったのはジェラルド、泉華、フミの三人。
 泉華がフミを呼び、手を繋ごうとその手を差し出した。きゅっとその手を握るフミ。泉華はフミを見る。眼帯が左目を覆い、眼鏡の奥から右目が覗くフミの顔。
「目ぇ、調子どない? ……ちゃんと、治してあげれんで、堪忍な」
 視線を落とした泉華に対してフミは慌てて首を横に振り、これは自分がしたことの結果だから、とあわあわ話す。泉華の表情が少し和らいだ。
「おおきに。……あんな、ウチ、フミさんが開拓者なるん諦めんでくれて嬉しい思うた。アカンかな」
 嬉しい言うんもアレな話か、と微笑む泉華。フミが目を見開いた。そして、先程より更に強く首を横に振る。
「その、あの、そう言ってもらえて、すごく嬉しい……!」
 フミの心を、泉華の手が暖かく包む。以前より不自由になった目で、開拓者が務まるのだろうか……フミにはそんな不安もあったに違いない。安堵からか唇は震え、涙声。泣くまいと唇を噛み締めながら、フミは泉華のあたたかい手を強く握り返した。

 泉華はフミを落ち着かせると、ジェラルドの後ろにつき、アヤカシの気配が無いか結界を張る。
 その前を歩くジェラルドは、じっくりと周囲を観察していた。ケモノはいないかと耳を澄ませ、話に聞いた子供の赤い服は見当たらないか目を凝らす。また、前後左右だけでなく、見落としがちな上方……木に登っている可能性も考慮に入れ、見落としの無いよう、ジェラルドは視線を巡らした。
 また、空模様は雨。彼は地面の様子も確認する。もし地面に足跡があれば、それが大きな手がかりとなり得るからだ。人の手が入っていないというこの地域であれば余計に。

 その頃、湖の南側と北側では、天幕の間を縫うように歩いては聞き込みを重ねる者たちがいた。
 南と東は源三郎。子供の特徴や、何かそれらしいことを見聞きしなかったか。簡易天幕をひとつひとつ、丁寧に訪ねて回った。
 源三郎は手始めに、南側……四人組と同じ村から来た避難民と話をする。
「あの子らが帰ってないのかい。道理で静かなわけだ」
 そう話すのは、嬰児を胸に抱いた一人の母親。
「普段は必ず時間通りに帰ってくるので?」
「そうさね、親が困ってる姿もあんまり見ないよ」
「ほう、良い子ばかりでごぜえやすな」
 母親は、うん、と頷いて言葉を続ける。
「早く戻るといいんだけど。すまないね、大して役に立てなくて」
「いやいや、子供の性格が掴めやした。有難いことで」
 深く頭を下げ、礼を言った源三郎は次の簡易天幕へ。
 そうして彼が天幕を巡るにつれて、迷子四人の性格が見えてきた。とても親思い、仲間思いで、年齢の割に随分真面目な子供たち。ただ、女の子二人は何か問題があれば自分たちでどうにか解決しようと頑張り過ぎる面もあるようだ、と。

 北の天幕郡、西の天幕郡、と聞き込みをするのは白葵。良い情報はなかなか見つからないが、辛抱強く聞いて回る。白葵が何度繰り返してきたかわからない質問に、おや、と反応したのは年嵩の女性だ。
「迷子とな」
「ちいさい子ぉのな、四人組やねん」
「四人っていうと、男の子二人の女の子二人かい?」
「! そう、その四人! どっかで見よった?」
「見た見た。迷子だったのかい。そこからひょっこり出てきてさ、この森ちいせえなぁって言ってたよ」
 もう森が途切れちまった、とか言いたげな顔だったよ、と笑う女性はすぐそばの林を指差して話している。
「森?」
「あの子らも森育ちだろうし、林と言われても違いなんてわからないんだろうねぇ」
 ああ、せやなぁ、と白葵は頷く。
「……どこ行きよったんやろ……他に、何か、聞かへんかったやろか」
 身を乗り出して白葵が尋ねた。ウーン、と考える女性。そして、ああ、と何か思い出した様子。
「行き先は知らんが、戻るぞーとか、お日さまに向かって歩こう、とか言ってるのは聞こえたね」
「!! ありがとさん、や……!」
 白葵は彼女によると、食事の配給を貰いに行った際に見かけたらしい。彼女が、多くはない食事を終えて片付けに行こうとしていたところへ白葵が来て、今に至る。
 それほど時間は経っていない。恐らくこれが、今まで聞いた中でも迷子に一番近い情報であろう。白葵は、これまでの情報を書いた紙に新しい情報を書き込み、大きく印をつけた。遂に、西の天幕の一つで決定的な情報を手に入れた。

 その後、白葵と源三郎は合流し、情報を伝え合う。そして、捜索の手がかりを携え、炎龍・鶴吉に跨って空へと飛び立つ源三郎。白葵はそれを見送り、シノビの脚を駆使して地上捜索の者たちを全力で追った。こけつまろびつ、仲間のもとへ。

●手がかり、集う
 空からの捜索に専念するのは、炎龍を飛び回らせる仁八と、甲龍に跨って空から呼びかけるファラリカの二人。遠くには、空での待機を言いつけられて飛んでいる白葵の炎龍、柳の姿も見える。
 ファラリカは、吟遊詩人として研鑽してきた自分の喉を生かし、すっと背筋を伸ばし、声をまっすぐに飛ばして回っていた。
「どなたか、いらっしゃいませんかー!」
 その声はまっすぐ前方へ、彼が意図した距離を飛ぶ。飛ばしたあとは少し待ち、返事が無いか注意深く耳を澄ます。だが返事はまだ届かず。
「皆さん、固まっていると良いのですが……」

 そこへ、源三郎が炎龍を駆ってやってきた。彼の話を聞いて、ファラリカは頷く。
「西側ですね、わかりました」
 ふと前方を見れば、全力で西へ飛んでいく、仁八を乗せた白い炎龍の姿がある。先に話を聞いたようだ。
「良い子で待ってろい、すぐ見っけてやらあ」
 と前から大声が流れてきた。
「……急がないと、置いていかれてしまいますね」
 早く助けたいのは誰もが同じ。ファラリカも、小さく微笑みながら両足を締めてウェヌスを急がせた。


 擦り傷をいくつもこしらえた白葵と合流し、新しい情報を確認したジェラルド、泉華、そしてフミ。四人は湖沿いに西へ、移動を開始。
「自分らで頑張りすぎる性格、なぁ」
 泉華が白葵から聞いた話を反芻する。それを聞きつつ、前を歩くジェラルドが後方へ注意を促した。
「この辺り、泥濘が多い」
「ん、おおきに。白葵さんも、足元気ぃつけ……」
 ズシャッ。
「………にゃぁ……」
 道の端の泥濘で、申し訳なさそうに黒猫の獣人が助けを求めていた。
 ジェラルドが無言で、猫の首根っこを掴んで持ち上げるかの如く白葵を助け出し、一行は気を取り直して先へ進むのだった。

 四人が周囲や足元、頭上を確認しながら歩いていくと、上から
「キョウタさん、シュウさん、ミチカさん、マサコさん、いらっしゃいませんかー!」
 と、ファラリカの声が響いてきた。
 そして、それに答える幼い声も。
「おーい!」
「どこーっ!」
「ミチカー!」
「マサコー!」
 泣きそうな男の子の声。林の中で開拓者たちは目を凝らす。次いで、見つけた。茶色い服と、緑色の服……シュウとキョウタだ。
 ジェラルドが、素早く狼煙銃を空に撃った。狼煙の色は青、子供一部保護及び捜索続行の意である。また、上に居たファラリカが呼子笛を長く短く繰り返し吹き鳴らし、了解の返答をしてから降りてきた。

 白葵、泉華、フミが子供のもとへ駆け寄ると、少年二人は半泣きを必死に我慢しながら話し始めた。
「とちゅうで、はぐれちゃって!」
「きづいたら、ついてきてなくって…っ」
 どうやら二人はミチカとマサコをずっと捜し回っていたらしい。暗くなってきて不安で不安で、それでも放ったまま帰る気にもなれず、ずっと歩き回っていたようだ。泥だらけで、疲れからか雨の寒さからか、足は震えて指先は血の気が無い。龍から降りたファラリカが来て、二人を抱きしめて落ち着かせる。
「痛いところは、ない? すごく怖かったでしょう? もう、大丈夫よ」
 ぎゅう、としがみつく二人の背をファラリカが撫でる。
「帰ったら、温かいものを飲みましょうね……あと二人も、捜してもらえますから」
 しゃくりあげ始めていた二人が顔を上げる。ほんと? と問うた二人に、後ろから泉華が言った。
「ホント、や。せやからな、二人は先に、みんなとこ帰り?」
「でも……」
「ミチカとマサコは、ウチらが捜す。お母さんら、ごっつい心配しよってんで。せやから、安心させたるのが先」
 ええな? と泉華は、渋る少年二人の目を見て話す。真面目な気持ちが伝わったようで、二人も頷いた。シュウとキョウタはファラリカの龍と白葵の龍にそれぞれ乗って、林を出た。


「ん、あれぁ……件の嬢ちゃんたちか」
 仁八が上空から見つけたのは、少女が片手で柳の枝に掴まり、もう片方の手で、沼の中から伸ばされる赤い袖の腕を必死に掴んでいる。だがそれが続くのも時間の問題と思われた。
 こいつぁ一大事、と、仁八は大声で
「しっかり掴まっとけよ、チビどもっ」
 と伝えてから笛を短く鋭く吹き鳴らした。数秒後、赤い狼煙が上がって地上の捜索班が反応したのを認め、仁八は炎龍を林すれすれの高さで飛ばせる。膨らませておいた寝袋を抱えて、件の沼に飛び込んだ。

 短い笛の音が聞こえた直後、林の中で捜索をしていた泉華、ジェラルド、フミの三人も、見え隠れする赤い服を見つけた。泉華が赤の狼煙を上げ、続いて空から降ってきた人影に目を丸くする。仁八が沼へ飛び込んできたのだ。膨らませて口を縛った寝袋を抱えて浮き具にして、仁八が沼の中の赤い服の幼児、マサコを抱える。全身ずぶ濡れになりながら、仁八は上空を飛ぶ相棒の熊に、最初に結びつけておいた荒縄を自分のところまで下ろすよう合図する。
 ……までは良かったが、ここからどうにも上手くいかない。あっちへぶらぶら、こっちへぶらぶら、縄は何メートルも揺れに揺れ、仁八は縄の先を掴まえるのに一苦労。熊のほうも、縄が届くよう飛ぶのに必死だ。数十秒の苦戦の末、どうにか縄を引っ掴んだ仁八であった。

 熊が縄で仁八とマサコを引っ張り上げ、その間にジェラルドがミチカを水辺から遠ざける。派手な救出劇が終わると、泉華が来てミチカとマサコの二人を毛布で包み、抱きしめてやったのだった(ちなみに、すぐ隣にはずぶ濡れで立っている仁八が居たが『男は使うモノ、女子供は護るモノ』と言って憚らぬ泉華の視界には入っていないようだった)。
 沼の底に隠れていた枝で足を怪我していたマサコ。そしてマサコをどうにか一人で引っ張りあげようと、擦り傷切り傷だらけになったミチカ。事情を聞きながら、泉華は治療を始めた。フミが清潔な水を、ジェラルドが止血剤と包帯を提供し、駆けつけた白葵とファラリカが新しい毛布や着替えを渡し、白葵は狼煙を上げた。保護完了の白い合図だ。
 遅れて駆けつけた源三郎は、来る途中でケモノを見かけたと報告。安全第一と考え倒しておいたと一同に伝え、ジェラルドと共に周囲の警戒を行う。そして子供の治療が終わると、皆は源三郎の案内で湖の南側へ帰還したのだった。外はもう、すっかり暗い。空を見上げ、白葵がぽつりと呟いた。
「おとやんは、おかやんは……白を心配しとる……?」
 呟きを聞いていたのは、夜の林ばかりであった。

●めでたし
 戻ると、天幕郡は安堵に包まれていた。よかったよかった、という声があちらこちらから聞こえる。泉華のカラクリや、途中で戻ってきたファラリカたちが全員の無事を伝えていたらしい。
 その中で、泉華と白葵が四人組に注意の言葉をかけていた。
「やんちゃはええけど、心配かけたあかんやんか」
 泉華の言葉に、キョウタが
「やんちゃじゃない、もん……」
 と呟いた。しかし心配をかけたことに変わりないことは分かっているようで、それ以上は何も言わない。
「まだ知らんとこはな、危ないねんで。怪我もする、みんな心配もする」
 白葵が言って、四人は頷いた。それを見て、白葵がふにゃっと微笑み、両腕を大きく広げて四人まとめて抱きしめた。
「皆無事で、よかった……」

 話が一区切りしたのを見て、ジェラルドが声をかける。
「何か探していたらしいが」
 それを聞いて、キョウタがぱっと顔を上げた。
「うん、かあさんがげんきになりそうな、おいしいもの」
「なるほどな。……明日、明るくなってからであれば手伝ってやる」
 また勝手に居なくなられても面倒だ、とぼやきつつジェラルドが言った。ぱああぁ、と四人に笑顔が広がるのだった。聞いていた源三郎が、
「さっきもお伝えしやしたが、ケモノが僅かに居るようで。場所はまた後で確認しやしょう」
 と頷くのだった。

 さて、その後はさすがに出かける許可を貰えなかった四人。一つの天幕に集められていた彼らのところへ、仁八が顔を出した。
「よう、チビども。家ん中でもできる遊びを教えてやらあ」
 言うと彼は女児二人にぬいぐるみをあげて、シュウとキョウタを天幕の外へ呼び、ヒソヒソと声を低めて内緒話を始めた。
「あたしが賽子をこいつに入れて振っからよ、あたしが伏せたらこんなかの目を当てるんでえ。いいかい」
「あてずっぽう?」
 ヒソヒソ。
「おうよ」
 ヒソヒソ。
「頼りは己の勘ばかり。張って悪いは親父の頭、張らなきゃ食えねえ提灯屋。さあ張った張っ、あイタッ!?」
 熊の尻尾がビュンと唸り、まず張られたのは仁八の後ろ頭であったとさ。
「ちっとぐれえ良いじゃあねえか熊公!」
 見事にたん瘤の出来た後頭部をさすり、口を尖らす仁八。隣に座った熊は、そういう問題じゃないだろう、と横目で呆れの眼差しを向けるのだった。

 そこから少し離れた水辺では、白葵、源三郎、フミが言葉を交わしていた。
「言いそびれておりやしたが、お久しぶりにござんす。お元気そうで何より。眼帯も眼鏡も、中々に様になっておりやすなあ」
「……そうかしら」
 感心したように話す源三郎に、僅かに照れて首を傾げたフミ。それを見ながら、白葵は少し苦しそうな顔をした。眼帯に隠れている目元に触れようとしたのか手を持ち上げたが、すぐに下ろす。
「白が、もたもたしたばっかりに……堪忍な」
 なんも、なんもできひん、と掠れる声で呟き、俯いてしまった白葵を見てフミが首を横に振る。
「違う、違うよ、白葵のせいじゃない」
 さっき下ろしてしまった白葵の手を取る。泣きそうになっていた白葵の顔が上がる。
「できないことが増えたけど……でも、白葵たちが居なかったら、生きてなかったかもしれない」
 だから、ありがと、とフミは微笑んだ。そんな彼女に、源三郎が言う。
「何もかも一人で背負うこたあ、ござんせん。あっしらもついておりやす。一緒に頑張りやしょう」
 にこりと笑った源三郎の横から、泉華も顔を出した。
「そーそ。しんどなったらいつでも言うてな? 外身の事でも、中身の事でも、な」

 開拓者であることとは、誰かから期待を寄せられることでもあろう。今回、避難民から迷子の早期発見を願われたように。
 だが、開拓者であるか否かは、畢竟、自分の一存で決まるもの。フミはそう感じて安堵した。自分で決めて良いのだな、と。

 迷子は無事に帰り道を見つけた。雲の隙間から、月や星が、道を照らしている。