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■オープニング本文 『老いた爺に、刀剣の思い出話を求む』 そう題された依頼が、ギルドの一覧に加わった。 この依頼を持ってきたのは、神楽の外れに住む老人に仕えている、一人の下男だった。手元の絵草紙に視線を落としていたギルド職員に声をかける。 「もし。私の主から言付かった依頼なのですがお願いできますか」 「おっとすんません。ご依頼の詳細を伺いましょう」 絵草紙から顔を上げた職員に、お願いします、と言って下男が話す。 「私は、神楽の北外れに居ります山県隆文(やまがたたかふみ)様の下男でございます」 その名前を聞いて、職員の男は片眉をひょいと上げた。 「ん、山県翁ンとこの」 「主をご存知で」 居住まいを正した下男に、職員がウンと頷く。 「いっぺん小耳に挟んだんだ、刀のことなら山県翁に聞いてみるのもアリだぜって。ご健在かい?」 その問いに、下男の表情が暗くなる。 「それが……しばらく前に病を得まして………先日、医者は『あと十日もてば良いほうだ』と……」 「なっ、そーだったのか、すまない! そりゃつらいなぁ……。っとと、それで依頼ってのは」 「も、申し訳ありません。この度は、主、隆文様からのご希望です」 『刀剣を見たり、それにまつわる思い出話などを開拓者から聞いてみたい。 また、一対一で話を伺うことも出来る。 老人の話し相手、あるいは余命僅かな老人への打ち明け話にでも来ないか』 そんな依頼を聞いた職員。 ほうほうと頷いてから、下男に問うた。 「山県翁のことだ、やはり珍しいもんがご希望かね」 「珍しいものも喜ばれましょうが、ありふれた刀、日常の出来事、といったことも聞きたいと仰せでした」 「ふむ。何か条件はあんのかい」 そんな質問には、これと仰っていたわけではありませんが、と前置きして 「刀剣と共に人生を歩んで来られた方ですので、持ち主の『思い入れ』に触れたいのではないかと」 「なるほどな。人数はどれくらいまでになるかね。ご無理はさせちゃいかんのだろ」 これには下男も深く頷いた。 「はい。午前と午後に分けて三名ずつ、全部で六名までお招きできます。……二十人くらい呼べ、などと仰せでしたが、さすがに医者と二人がかりでお止めしました」 少し困り笑いを漏らした下男に、職員もアハハと笑う。 「なんだ、気は強いんだな」 「ええ。悪いのは内臓の幾つかだそうで。目も耳も、お達者でいらっしゃいます。……その分、日に日にお食事の量が減っていくのが分かり、……痛ましゅう、ございます……」 思い出したのか、話しながら声が詰まり、受付台にポタリと染みが出来た。下男の肩を職員が優しく叩く。そして努めて明るい声で、 「泣くな泣くな。翁は泣き言無しで過ごされてんだろ」 「はい、申し訳ありません……」 「そんじゃぁ当日は、思い出になる良い一日にしてやんねぇとな」 だろ、と言って腕を組み、微笑んだ。 下男も懐から畳紙を出して涙を拭き、頷く。そして深く頭を下げた。 「……何卒、宜しくお願い申し上げます」 |
■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955)
25歳・女・砂
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志
紫ノ眼 恋(ic0281)
20歳・女・サ
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●山県邸、朝 柔らかくも晴れやかな、春の朝の空気が流れている。そんな中、山県隆文の邸に集まった六名の客人をこの家の下男が迎えた。 「本日はようこそお越し下さいました」 依頼主の隆文は大部屋で待っているらしく、開拓者達は早速動き出す。大部屋へ向かう者、持参した食材を持って台所へ向かう者、大荷物を置ける場所は無いかと下男に尋ねる者も。 静かだった邸が一時賑やかに。しかしすぐまた、静けさを取り戻す。 そして、ゆったりと一日が始まった。 ●午前 広い和室へ通されたウィンストン・エリニー(ib0024)、ジェーン・ドゥ(ib7955)、紫ノ眼 恋(ic0281)の三人を迎えたのは、床の間を背にし、着流した長着に羽織姿で籐椅子へ深く腰掛けた老人。『武人』という言葉を体現したようなその人が、山県隆文であった。 洋装の男女、和装の獣人、と外見も国柄も様々な顔ぶれを見て、楽しげに目を細める隆文。厳格さが和らいで、好奇心旺盛な性格が顔を覗かせた。用意されていた籐椅子を三人にも勧めると、やや枯れた低い声で短く歓迎の言葉を述べる。 「よう来てくれた」 一同を見渡し、老人は椅子に座りなおした。 出された茶を一啜りし、まず口を開いたのはウィンストン。大変大柄で、赤茶の髭を蓄えた騎士である。 「騎士のウィンストン・エリニーと申す。宜しく頼むであるな」 礼の後、両の手を組み膝に置いて話し始める。 「残念ながら、オレ自身は然程刀剣の目利きではないのであるな」 残念、とウィンストンは言ったが、隆文はむしろ興味深そうに話の続きを促した。 「ジルベリアの辺境よりのし上がろうとした身の上であるが故に、その折々に必要な武具を仕立てたものであった」 そして正式な剣技を習うことが無いまま今に至る、と。 「荒々しく薙ぎ払う、つまり力任せに叩き潰すのが身上であったな」 「ならば、大剣の類が得物かね」 隆文の言葉に頷くウィンストンは、平均的な身長の隆文より頭一つ分背が高い。そのしっかりとした体格から、長大な剣を振り回す膂力を想像することは難くなかった。 「剣は消耗せざるを得ず、欠けたり折れたりといったことが頻繁に生じるものであるな」 「さもありなん」 「次々替えざるを得ないものであるが、それでも手にした物はオレ自身の命を支えた物」 命の危機が幾度迫ったことだろう。危機と同じ数だけ、彼の武具が彼を支え、救った。だから彼は、その時々の武具に感謝を忘れないのだと語る。 「今はこの剣であるが」 彼は、礼儀正しく腰から外し畳の上に置いていたロングソード「ガラティン」を取って隆文に渡す。鞘から抜くとその刀身は陽光のように暖かく輝いた。使い手の命をも輝かせることもできようかという長剣である。 「これも又、何れは……ということで」 隆文がゆっくりと剣を鞘に収めるのを見届け、ウィンストンは話を終えた。 隆文が口を開く。 「洋剣使いの話が聴けて、嬉しい。縁薄かった分野でなぁ………ありがとう」 そう言って微笑み、数度頷いた。 続くはジェーン。輝く金髪に黒い瞳を持つ、ジルベリア人と天儀人のハーフである彼女が携えてきたのは、刀。 「天儀刀に魅せられたジルベリア人の祖父は、刀を鍛え上げることに心血を注ぎました。その祖父が、生涯で傑作の出来栄えと誇っていたのがこの一振りです」 と、自分の刀を持った。 「私には、刀の良し悪しを見定める技術はありません。が、武器としてならば一言評することができます。……この刀は、自ら命を預けられるほどに信頼できるものである、と」 ジェーンのまっすぐな視線を隆文が正面から受け止める。だがジェーンはその後、言葉を選ぶように暫く逡巡し、そして口を開いた。 「祖父がこの刀を鍛え上げるにあたり目指したもの、これに籠めた想いを知る術は、もうありません」 ジェーンの目には悔やむ色がある。 「それが残念で仕方ない、と……そう思っていたのだと、こうしてお話させて頂く中でわかりました」 背筋は伸ばしたまま、視線を少しだけ落としたジェーンに隆文は頷き、 「見ても良いかね」 とだけ尋ねた。頷き返し、立ち上がって刀を差し出すジェーン。隆文はそれを受け取ると、確かな手つきで静かに、とても静かに鞘から抜いた。 興味深そうに目を細める隆文。全体的に肉厚で、大きな威力を出せる一振りだ。しかし力を求めるばかりではない。刀身の半ばから浅く反り、鋒へ向かうに従い細まる身幅は斬るにも突くにも適する。 品の良い地鉄の肌や、刃中の働きを楽しみ、老人は口に微笑を滲ませ、静かに納刀。枯れる声で微かに呟いた。 「……こいつにゃ、勇壮にして臨機応変な動きが似合うだろうな」 ジェーンがその呟きを聞き取ったか否かは、彼女が表情を変えなかった為にわからない。ジェーンは再度立って刀を受け取り、ゆっくりと瞬きをしてから言った。 「山県様。祖父が鍛えた刀を見つめ直す機会を頂いたことに、感謝します」 午前の語り部は恋のみとなる。 彼女は、幼少時の記憶が無く、気付けばこの刀があった、と語り始めた。 「親の顔は知らぬし、故郷の記憶も無い。片の目も見えず、ただ刀が残されていた」 す、と指を揃えて愛刀の鞘を撫でる恋。故に、と言葉を続けた。 「故に。あたしが剣術を学びたいと願ったのは至極当然の流れでもあった。時間が掛かったし、師には随分と面倒をかけたが……少なくとも、迷いなく進めたのはこいつのおかげだ」 表情豊かではないものの、その眼は真剣。 「こうして手にすると、力が貰えるような、そんな気がする」 「心の深くまで馴染んどるようだな」 恋の様子を見て言った隆文に、彼女はこくりと頷く。そして、 「狼にとって、その力の所在が牙にあるならば」 柄を握って刀の鞘尻を畳につき、見ながら言う。 「生みの親が与え、育ての師が研いだもの……あたしにとって、刀は牙に違いない」 隆文は首肯し、短く尋ねた。 「その牙で、何がしたい」 「今度は誰かを救えたら、とも思う」 これがあたしを救ったように、と恋。 「未だに未熟なこの牙だけで、どこまで届くかは、わからないがね」 気弱にも聞こえる終わりの言葉。だが彼女の表情には確固たる意思がある。必ずや成し遂げてみせることだろう。 「生まれ持った牙にも等しい刀、か」 その戦いぶりも見てみたかったものだ、と、老爺はその顔に穏やかな笑みを湛えていた。 ●昼 話をする者たちが集まる大部屋の、障子の向こう。 縁側に座り、庭を眺めながら三人の話を聞く菊池 志郎(ia5584)の姿があった。彼は一通り聞いた後、静かに縁側から庭へ降りて、昼食の支度の手伝いに台所へと向かう。 台所では、源三郎(ic0735)と下男が食事の盛り付けをしていた。 志郎が二人に声をかけ、それで初めて気付いた源三郎は慇懃に礼を述べ、頼む。 「もう付け終わるとこでして、配膳をお願いできやしょうか」 「わかりました」 答えた志郎の後ろから、先程話を終えた恋が自分も手伝おうと顔を出した。 四名が大部屋へ膳を運び、速やかに昼食の支度が整う。源三郎が朝早くから調達してきたマコガレイは煮付けにされ、炊きたての白飯と、三葉の浮かべられた吸い物が並んだ。 「美味いな」 食べ始めた恋は心から言った。しっかりとした料理を作れることに少々憧れつつ、カレイの煮付けを頬張る。 「優しい味がします」 志郎も微笑み、煮付けをつついた。 「思った以上に甘味がある……しかし上品な味ですね」 「おお、これは美味であるな」 ジェーンやウィンストンは天儀の食事の味付けに舌鼓。称賛の言葉に、恐れ入りやすと源三郎が頭を下げた。 その横でカッカッカッと勢い良く白飯を平らげるのは、佐藤 仁八(ic0168)。質素、厳格、冷静沈着といった言葉の似合う面々の中で一人だけ、ドが付くほど派手な存在感を撒き散らしながら飯を掻っ込んでいた。 隆文はそんな部屋の面々を楽しげに眺めつつ、他の者と大差無いように見える量の食事を口に運ぶ。 「美味い」 低い枯れ声には、幸せそうな響きがあった。 ●午後 昼食を終え、隆文は小部屋へ移動した。初めにその小部屋を訪れたのは、源三郎。 「恐れ入ります。東房の源三郎と申します」 籐椅子に掛けた隆文が、源三郎にも椅子を勧めながら、よう来た、と迎える。 「昼は良いモンを食わせてもらった」 ありがとうと礼を述べる隆文に、源三郎が畏まる。 「あっしは、元は板前でして」 それを聞いてそうかと頷く隆文。 実は源三郎の計らいで、体が悪く食の細い隆文の膳だけ一工夫されていた。柔らかく炊かれた白飯、その椀は白い小皿で底上げされ、彼の煮魚にのみ薬味が載っていて華やかだったが、切り身は他より小振りなカレイが使われていたという具合。 「お陰で、刃物は自分で研ぐ癖がついておりやした」 と話を進める源三郎。隆文もそれを止めることはない。この件についてわざわざ口にするのは無粋、と互いに承知の上である。源三郎の言葉が続く。 「包丁から刀に持ち替えてからも、手前の刀は手前で研ごうとしたもんでござんす」 「ほう」 「ところが包丁と刀じゃあ、やはり勝手が違うもんで」 最初に研いだ刀は見事に刃を駄目にしてしまったという。 「で、ついむきになっちまいまして。何度か試行錯誤繰り返し、しまいにゃ切れ味のみ気にして研いでみたりもしやしたが」 結局、満足のいくものは出来なかったらしい。 「今も挑戦してんのかい」 呆れたような声で尋ねる隆文に、 「いえ、今は大人しく研ぎ師に頼んでおりやす、はい」 真に恥ずかしい限りで、と源三郎は椅子を降りて平身低頭。 「ン、それが良い。………これは爺の独り言だが」 源三郎の肩に隆文が腕を伸ばし、ポンと叩いた。聞こえてきた声は少し笑っていた。 「自分の不手際で使えなくなった刀ほど、見て悲しいもんはねえよな」 どうやら翁にも、若気の至りと言うべき経験があったようである。 退出した源三郎と入れ違いに入ってきたのは志郎。 青と黒の控えめな軽装で、老人の向かいに座る。 「俺は現在巫女ですが、元はシノビです」 聞いた隆文は興味深そうに頷いた。 「戦闘の際に手裏剣をよく使うので、併用するのは専ら軽いもの。片手で扱える短刀や苦無などです。例外が、この忍者刀『風魔』」 そう言って志郎は一見普通に見える刀を差し出した。 「刀とは言えぬほど軽いんです、これ」 受け取った隆文は、短刀か何かを持ったかのような感覚に、目を丸くする。 「ほう……こいつは、凄い」 「非常に扱い易く、かつ、躊躇が許されない刀でもあります。アヤカシを相手にすれば、迷い無く敵を斬り捨てるこの刀は非常に頼もしい相棒です」 「風より速く駆け抜けられような」 「ええ。ただ、これで人間を斬ったことはありません」 「不安かね」 「不安と、言いましょうか……人が相手ですと、相手がそれまで積み重ねてきた諸々も、一緒に斬っているのではないかと。それをするのに、このためらわない刃は合わない……いえ、少し違いますね」 話しながら、志郎は途中で首を横に振った。外の光を映して明るい障子窓に視線を逃がしながら、 「眼前に来た人と目を合わせ、相手の背負うものを受け取るか捨て流すか。一瞬で選べない間は、俺が未熟だということかもしれません」 そう言って、暫く視線を下へ落とす。隆文は、じっと志郎を見つめ、黙していた。 目を上げ、志郎が謝る。 「………詮無いことを申しました」 そこでようやく隆文が声を発する。 「その通りだ。幾らでも考えろ、何を選んでも良い」 俺はそう思う、と言って、羽のように軽く鉛のように重いその刀を志郎に返したのだった。 最後に小部屋へやってきたのは、志郎と打って変わって派手の塊、仁八である。 彼は隆文を見て一瞬何か慈しむような色を目に浮かべ、そして威勢良く部屋に入り、持ち込んだ刀剣の数々を畳に並べ、次いで自分もそこにドンと座り込んだ。よう爺さん、と口火を切る。 「土産話にこいつぁどうでえ。あたしの命で、魂だ」 言い放って、彼は自分の腰の太刀緒を解き、愛刀を差し出した。隆文は、受け取った大太刀の重量で僅かに顔を顰めるも、確と柄を握って抜刀。壮美なる刀身が姿を現す。 「どういうもんかってえとだな。師匠の長巻を勝手に、いやその、譲り受けたんだがよ」 「ちょろまかしたか」 つっこんだ隆文、目をそらす仁八。 「アー、まあ、そうとも言う。で、そいつは元ぁ輪反りだったがねえ、長さ一丈は扱い辛えんでよ」 断ち落として腰反りの大太刀に磨り上げた、と話す。 「ほう、お前さんがか」 「おうよ。身幅広く刃肉豊かにつき、先幅細り小鋒となる。刀身中程まで薙刀樋が入る。小板目よく詰み地沸よくつき冴え、帽子は焼詰。見えるかい」 「……明かりを」 隆文の一言に頷いた仁八は、立って障子窓を少し開け、夕方前の柔らかい光が刀身を薄く照らすようにした。 光に翳して地鉄を見始めた隆文に、また畳にドッカと座り込んだ仁八が話す。 「刃紋の大半は時折食い違う中直刃。打ちのけと砂流しかかり、物打で広がる」 一つ頷き、隆文が 「良い研ぎだ。白過ぎず、よく見える」 と短く感想を述べた。それを聞いて仁八は口の端で笑む。 「そいつぁ良かった。摺り上げる前ぁ互の目から直刃に移る刃紋だったがねえ、互の目ぁはばき元の小互の目に痕跡が残るくれえだ」 と、ここまで話して時間に限りがあることを思い出す。この辺りにしとくかねえ、と仁八は胡座をかいた自分の膝に片手を置いた。 「よう爺さん。お互え、腰のもんに命預けた武人同士、刀好き同士だ」 辛気臭え話ぁしねえがよ、と笑い。 「弓は袋、刀は鞘に収まる御世に、この刀で繋げてやらあ」 筋張った老人の手に握られている自分の愛刀を顎で指し。 「ようく見ておきねえ。そいつが、世の刀を床の間の飾りにする一振りでえ」 笑みと共に、籐椅子の上の隆文を睨め上げる傾奇者。その目に宿る明るい炎は、老い先短い武人の心に焼き付けられた。 ●夕刻 全員の話が終わり、軽く茶を飲む時間があった後に解散となった。風景が夕日の赤に染まる中を一同は帰路についた。 女性二人が静かに話をしている。 「……不思議だな」 「どうしました?」 「翁殿は、とても、あと十日などと思えぬ様子だった」 「ああ、そうですね。とても楽しそうに見えました」 「怖くないのだろうか、緩やかに近付いてくる死が」 「虚勢には、見えませんでしたしね」 「すごいな」 その日から暫くして。 「人生の終わりにあって、穏やかに、楽しげに話を聴く。 そんな人物が、神楽の都で静かに息を引き取りました。 楽しかった、有難うと言付かっております。 誠に、有難うございました」 依頼一覧の片隅に、誠の字の滲んだ書き置きが一枚、ひっそりと貼られていた。 |