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■オープニング本文 理穴にて活性化する魔の森。それに伴って大量に姿を現し暴れだしたアヤカシ。そして、確認された大アヤカシ。 今、一つの時代の動乱が幕を開けたのだった。 ●選択は如何に? 緑茂の里への補給物資輸送依頼。大規模なアヤカシとの戦いによって消耗を強いられた理穴では早期の物資補給は急務であった。 そのために昼夜を問わず只管に行われる物資の移動。そしてこの日は一つの村にて馬車への物資の積み込み作業が行われている最中だった。 「昼までに出発しねぇと今日は徹夜で夜道を走ることになるぞ! それが嫌だったら手際よく積み込みやがれ!」 「「「押忍っ」」」 輸送部隊の隊長の激を受け隊員達は流れるような動きでどんどんと倉庫から馬車へと積荷を載せてゆく。 隊長は今回の運ぶ物資の帳票を見ながら僅かに眉をしかめる。馬車の積載量ギリギリ‥‥いや、やや超過するほどの量だ。 平時ならこんな無茶な運び方はしないのだが、今は緊急事態である。多少の無理をしてでもこの物資を今回の輸送で運びきらないといけないのだ。 しかし、他の補給部隊の話によると輸送中にアヤカシに襲われる頻度がかなり増加してきているらしい。聞いた限りでは襲撃で壊滅してしまった部隊もあると言う。 その為今回から何名かの開拓者の護衛が着く事になったのだが、果たしてそれだけで安心できるものだろうか。どうも嫌な予感がしてならなかった。 五台ある内の三台への物資の搭載を済ませ。この流れなら昼には出発できると余裕が見えたその時だった。村中に甲高い金属を打ち鳴らす音が鳴り響く。村の入り口の櫓から齎されるその意味は、『危険』だ。 村の周囲を哨戒していた兵が大慌てで駆け込んでくる。 「くっ、まさかこんな所にまで侵攻が及んでるとは‥‥数は?」 「正確な数は分かりませんが‥‥三十は、下らないかと」 最悪の事態だ。補給部隊である彼らでは到底太刀打ちできる数ではない。隊長は顔を顰めながらその兵から報告を聞き思考を巡らせる。 既に物資を積み込んだ馬車は直ちに村を離脱し緑茂の里へと走らせればいい。そちらの方向にもアヤカシが若干居るようだが無理をすれば突破できないことも無いだろう。 だが、残っている物資まで運べなければ補給活動も十全とは言えない。幸い、残りの物資も一刻もあれば積み終えられるだろう。それまで何とか持たせることが出来れば‥‥。 「隊長、村人達は如何しましょう。恐らく、このままでは逃げ切れません」 「くそっ、そうだった」 村人の人数は避難が進んでいたとはいえ十人近くは残っていたはず。馬車二つを使えば何とか乗せきることが出来るだろうが、それはつまり馬車二台分の物資を捨てることになるのだ。 大儀のための任務を取るか? それとも目の前で危険に曝されている人命を取るか? 「開拓者達を呼べ! 彼らの力に賭けるしかないようだ」 如何なる選択を取るべきか悩む隊長の下に、開拓者達は集った。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
翔(ia3095)
17歳・男・泰
菘(ia3918)
16歳・女・サ
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
汐未(ia5357)
28歳・男・弓
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●強い意志で選べ 小さな小屋に集められた開拓者達は輸送部隊の隊長から現在の状況を説明された。 この後の戦いの為にも物資を取るか、目の前で危険に晒されている村人を取るか‥‥。 どちらか片方だけなら難しい事は確かだが出来ないことは無い。だが、選ぶことによって切り捨てられた側は確実に凄惨な末路を迎えるだろう。 もはやアヤカシの群は村のすぐそこに迫ってきている。一刻の猶予もない。そんな中で、開拓者達は一つの決断を下す。 「何だ。結局選べるのは一つしかないだろうよ」 そう言ってガタリを席を立ち上がったのは汐未(ia5357)だった。背に携えていた弓を手に取り、弦の具合を確かめながら小屋を出て行く。 輸送部隊の隊長がその言葉の意味を図りかねている間に、また一人、二人と席を立ち外へと向かっていく。 「例え私達の選択が愚かと蔑まれ様と構いません。けど、今この時に武を振るわずして何が士でしょう」 志藤 久遠(ia0597)はその身の丈を軽く凌駕する黒塗りの長槍の柄でズンッと地面を叩く。それと同時に溢れ出る覇気に輸送部隊の何人かが思わず固唾を呑む。 久遠もまた小屋の外へと向かい、最後に残った開拓者――柊沢 霞澄(ia0067)は小さく微笑んで告げた。 「私は後悔なんてしたくありません‥‥だから、皆で掴みましょう。全て良かったと思えるような結果を」 開拓者達は選んだ。二者択一の道の中でその両方を掴もうとする苦難と絶望の茨の道を。 未だに輸送部隊の隊員も、避難してきた村人達もその不安を消すことはできない。 ただ、ほんの滓かだが。確かにそこに希望の光が輝いた。 開拓者達が村の東の入り口に到着した時には既に数匹の小鬼達が村に入り込んでいた。 キース・グレイン(ia1248)は今まさに襲われそうになっている逃げ遅れた村人を見つけると地面を蹴りつけ地を滑るように駆け、右の拳を小鬼の醜悪な顔に叩き込む。 「さあ、死にたくなかったらさっさと来い!」 キースは襲われていた村人の腕を掴みさらに追いすがってくる小鬼を蹴り飛ばして後方へと下がっていく。 それと入れ替わるように翔(ia3095)が小鬼の集まりに飛び込み、勢いのまま回し蹴りでその小鬼達を根こそぎ弾き飛ばす。 「この先にはいかせないよ。さっ、どこからでも掛かっておいで!」 着地と同時にその場で一回転。そして腰を落として構える翔はこちらに殺意の念をぶつけてくる鬼の群を見てニッと小さく笑った。 菘(ia3918)もまた手にした長刀を叩きつける。小鬼はその重圧に押しつぶされ破裂するかのように瘴気の屑となって消える。 これで村に侵入した鬼は粗方片付いた。しかしまだ東口では複数の小鬼と、そしてさらに足の遅かった他の鬼達が村に到着する。 「多勢に無勢、だけど‥‥負けない」 菘は長刀の柄を強く握り締め、柵を乗り越えて飛び掛ってきた小鬼を中空で横薙ぎに両断する。 「ニンゲン、ムラ、コワ――グゲェ!?」 今、村の柵に取り付いた一匹の小鬼の額に突然に矢が生えた。ずるりと力を無くして地面に落ちた屍骸はすぐにボロボロと瘴気となって崩れて消える。 櫓の上で汐未は村の遠方を見つめる。そこには少数で固まったいくつモノ鬼達の群があちこちに見受けられる。 「一刻でいいんだ。持ちこたえるぞ」 そう呟きつつ弓に矢を番え弦を引き絞り、必中の一矢を放った。 時間にして数分。数は少ないながら減ることなく襲い掛かってくる小鬼達を只管に倒し続ける。 と、その時村の中央側にフェルル=グライフ(ia4572)が抜き身の刀を携えつつ現れる。 「これで村人の人達は安全な場所へ移動しました。皆さん、少しの間‥‥お願いします!」 フェルルはそのまま参戦して敵の倒す側に回りたいのを抑えつつ、また村の中央へと戻る。今回の戦いはアヤカシを退治するのではなく物資と村人を無事にこの村から脱出させることなのだ。 だから今はそれを行うために最善となることをしなければならない。 「霞澄さん、怪我人の治療は?」 「はい、幸いにも動けなくなる程の大怪我した人はいません。小さな怪我をしていた皆さんも治療は済ませています」 磨り潰した薬草を染み込ませた布と、傷口を縛る包帯。それを駆使して霞澄は傷を負ったものの手当てをしていた。 巫女の術による治療も出来るが、恐らく全ての怪我にソレを使っていてはあっという間に練力を枯渇させてしまうためできるだけ節約しているのだろう。 「そろそろ‥‥行ってくる」 と、二人に近づき小さく告げる鈴木 透子(ia5664)。その小脇には一抱えほどある油壺が二つ。 透子は既に村人達から村の周囲に幾つかの藁束や刈り取った雑草の山がいくつかが置かれていることを聞いていた。 それで何か思いついたのか村人数名の協力で村中の油を集め、指示した場所へと運ばせていた。 そして今度は村の外への単独行動。それはあまりに危険であったが、彼女はそれを知って尚行動に移す。 それぞれがそれぞれの戦場にてその力を振るっていく。想いを乗せ、誓いを胸に、己の信じた道で答えを掴むために。 村が戦場となり既に半刻、未だに半刻。その時、新たな試練が開拓者達に襲い掛かる。 ●死力を尽くせ 「くっ、うわっ! ごめん、抜かれた!」 足元を狙うように群がる小鬼、そして正面にほぼ人間と同じ大きさの鬼が大太刀を振り回して翔に襲い掛かる。 身を捻ってなんとか攻撃を逸らす翔だが、その隙に何匹もの小鬼達が村の中へと侵入していく。 「ここに来て重圧が上がったか‥‥しかも、この鬼のアヤカシ、強い!」 久遠の突き出した槍がギィンッと甲高い音をもって防がれる。無骨な鉄塊を棍棒のように振るう鬼は雄叫びと共に受けた槍を払い、勢いのまま振り上げた棍棒を久遠目掛けて叩きつける。 回避は難しい。ならばと久遠は黒槍を斜に構え、鬼の棍棒を受けると全身に力を張りそのまま勢いを槍の上を滑らせることによって受け流し、そのまま大地へと導かれた棍棒は地面を抉った。 鬼はそれを引き抜こうと力を込めるが、それより早く久遠が棍棒の腹を踏みつけて妨害し、鬼の体勢を一瞬崩す。その一瞬があれば、勝負は決する。 「皆凄いな。けど、っと! そろそろ私達だけじゃ抑え切れそうにないです」 久遠が鬼の胸を穿つ様を眺めていた菘は抜けてきた一匹の小鬼を蹴り倒し、その頭に刀を叩き込んで沈黙させて呟く。 今はまだ個々が奮戦して村の東口でアヤカシ達を抑えることができている。しかし、人間大サイズの鬼達の出現によってその均衡が段々と崩れてきている。 このままではじり貧。何か不確定の要素が加わればすぐにでも崩れてしまう可能性だってある。 そして、その嫌な予感はすぐさま現実のものとなってしまった。 「なっ、くそっ! 五十近い団体さんがやってくるぞ! やべぇ、でかい方も十匹どころの話じゃねぇ!」 櫓の上で汐未が吐き捨てるように叫ぶ。ここに来て五十、しかも開拓者とは言え一筋縄ではいかない人間大サイズの鬼までも大量に混じっている。 開拓者達の顔が一瞬にして曇る。しかし、今ここで諦める訳にはいかない。諦めはそのまま己と仲間、そして守るべき村人達の死へと繋がるからだ。 「俺はまだやれるよ‥‥傷ついたって何度でも立ち上がって、拳を振るって、守ってみせるんだ!」 翔は口元を拭い、体に廻らせた練力で細胞を活性化させ傷口を塞いでいく。気合と共に打ち合わせた手甲がガシャリと音を立て、同時に闘志の炎をまた再燃させる。 「その通りです。まだ‥‥退けません。退くわけにはいかないんです!」 菘も握り直した長巻を大きく振るい、攻め寄せる鬼の群を睨む。その瞳に宿るのは強き意志。折れず、曲げらず、挫けぬ誓い。 皆が心を振るわせる。何人たりとも此処を抜けることを許さない。 そして数瞬の後にアヤカシの増援との激突‥‥新たな闘争がまた始まった。 「あと少しで全て積み終わる! 皆、急ぐんだ!」 村の中央にて二台の馬車に次々と物資が放り込まれていく。補給部隊だけでなく、何人かの村人達もそれを手伝ったおかげで予定より早く積込作業は終わりそうだ。 たった半刻前までは悲壮感に満ちていた彼らも今は影一つなく、ただ今この危機を脱して生き残るために行動している。 「皆さんが東で頑張っています‥‥彼らを信頼して、私達も彼らの期待に応えましょう!」 諦めず生き残るための勇気。それを彼らに与えたのは、間違いなく今も戦い続けている開拓者達だった。 と、突如馬車から少し離れた場所――物資を仕舞ってあった倉庫の辺りが騒がしくなる。そして間をおかず飛び出してきたのは村人が一人。 「ぐぅ‥‥アヤカシが襲いかかって、きて‥‥兵士さん達が、今――げほっ」 「しっかりして下さい! 精霊さん‥‥この人の怪我を癒して‥‥!」 腹部を赤く染めた村人に霞澄が駆け寄り、すぐさま術を使った治癒を始める。傷口は浅かったため塞ぐことは簡単だった。 しかし、その間に失った血と体力までは返ってこない。予断は許さない‥‥霞澄の額に玉のような汗が浮かぶがそれを拭うこともなく、只管に治療の術式を施す。 点々と村人の血に染まった跡を追うようにキースが走る。低い柵を飛び越え、倉庫の中に飛び込む。 薄暗い倉庫の中。そこに在ったのは、二人の人間と数匹の鬼。ただ、人間の一人はその体を錆びた刀に貫かれて倒れ伏し、もう一人は――既に人としての形を保っていなかった。 「‥‥死ね」 たった一言だった。その呟きにそちらに振り向こうとした一匹の鬼の顔が潰れた。 圧倒的という言葉でも足りない、一方的にただそれが当然の如くその場に居た鬼達が駆逐される。 最後の鬼を拳で貫き無へ還した時、倉庫の入り口にフェルルが現れた。 暗い倉庫の中でキースは目を伏せ小さく首を横に振る。フェルルはそれを受け少し目を瞑り告げる。先ほどの村人は、助からなかったと。 「行きましょう。彼らの為にも、他の皆の命を助けるために」 もう馬車への物資の積み込みも終わる。そうすれば後は脱出あるのみ。ここで時間を潰している暇は最早ないのだ。 キースは倉庫の扉の前でもう一度振り返り中を眺め、今度こそ馬車の待つ村の中央へと戻った。 ●苦戦の果てに 「くそっ、準備はまだ終わらないのかっ。流石にそろそろ限界だ」 汐未は既に地面に降り仲間達の後方から矢を射掛けている。彼がつい先ほどまで居た櫓は今は見るも無残に崩れ落ちていた。 何度もおとずれた敵の大波に曝され、最後には大量の小鬼に取り付かれた櫓はその重量を支えることが出来ずに倒壊したのだ。 東口の柵もほぼ壊されて、今ではこの場に居る四人全員を持ってしてもその全てを受け止めることは出来なくなってきていた。 しかも幾たびにも及ぶ死闘の結果、そこに集っている開拓者達はもはや満身創痍だった。 血を流していない者など誰一人居ない。小さな怪我も合わせるなら数えるのも嫌になるほど傷ついている。 しかし、彼等は誰一人として倒れなかった。諦めない不屈の意志が、挫けぬ闘志が彼等を支えていた。 「また、着ましたね。皆さん、準備はよろしいですか?」 僅かな休憩を終えてまた視界に現れた鬼の群に槍を構える久遠。矛先は下を向き、もはやその槍を一度振るうだけでも酷い倦怠感が体を襲う。 だが、戦わない訳にはいかない。ここは戦場で、守るべきものがあるのなら‥‥士とは、その為ならば戦い抜かなければならないのだ。 翳みだした目も、震えそうな腕も、跳びそうになる意識を無理矢理に繋ぎとめて戦意を搾り出す。 だが、鬼の群が村の入り口に入り込もうとするその瞬間に、突然に大地に炎が奔った。 その炎は村の東口を丁度塞ぐかのように次々の燃え上がり、さらに大量の白い煙を吐き出し始め辺り一面の視界を奪っていく。アヤカシ達は突然現れた炎と煙の壁に足を止めざるを得なかった。 開拓者達もその事態に何が起きたのかと呆然としまたは目を丸くする。一体何が起きたのか? この煙は一体何なのか? と、そこに燃え盛る炎の柱を縫うようにして走り煙の中から現れたのは透子だった。透子は手にしていた壺を東の出入り口付近に投げつける。 地面に落ち割れた壺からはどろりとした液体が流れ出している。 「皆さん、馬車への搬入は終わりました。だから、さっさと逃げましょう」 そう言うや否や透子が割れた壺に火種としていた松明を放り投げる。そして接触と同時に激しく燃え上がり完全にアヤカシ達が通る道を塞いだ。 さらに、四名に向けてそれぞれ一枚の符を飛ばす。そこに描かれている文字は『癒』の一字。本職の巫女ほどではないが、僅かではあるが傷を癒すことができる。 「さっ、それじゃあさっさとこんな所からおさらばしよう! 」 翔の言葉で開拓者達は煙に紛れつつ村の中央へと目指す。 村の中央では既に馬車五台と村人達が出発する準備を整えていた。 「アヤカシ達もすぐに追いすがってくるだろうし、急がないとね。それじゃあ、全力で‥‥逃げましょう!」 フェルルの言葉に開拓者達はそれぞれの護衛対象に付く。馬車は北へ向けて走り、村人達は西の森へ向かう手筈になっている。 同時に駆け出した馬車と村人達。案の定それぞれにアヤカシ達は追いすがるが元は村の破壊が目的だったのか深追いをしてくることはなかった。 こうして数日後に物資は緑茂の里へと届けられ、また村人も近隣の街へと避難することが出来た。 今回の報告により、大量のアヤカシが村を襲うということも分かり魔の森の近くの村はさらに防備を高めることとなるだろう。 開拓者達の活躍も目覚しく、今回起こした奇跡とも言える所業は恐らく語り継がれることになるだろう。 だが、まだ今回の戦いは終わっていない。活性化する魔の森は健在であり、その原因を排除するまでは安らぎの時は無いだろう。 開拓者達はまた戦いの場へと戻るだろう。その時に、また二者択一を迫られた時に彼らが如何なる選択をするか‥‥。 それは恐らく既に決まっているだろう。 |