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■オープニング本文 ●妖刀 武天のとある町。夜も更けたがまだそこは活気で溢れていた。 夜の帳が下りた大通りでは今でもまばらだが人が行きかい、通りに並ぶ軒並みでは赤い提灯が下がり賑やかな喧騒が止むことは無い。 そんな大通りの道にふらりと現れた人影が一つ。 細道から現れたその人物はあっちにふらふら、こっちにふらふらと危なげに歩を進める。 「うー‥‥ひっく。ちくしょー、おめでとうだー。ばっきゃろー」 意味不明な言葉を吐きつつ、三歩進んで二歩下がる。そんなペースで歩き続けるのはまだ幼さの残る青年だった。 端的に言えばただと酔っ払いだった。それも前後不覚の泥酔状態だ。 青年は普段は酒を飲まないのが、今日は友人にめでたい事がありその前祝いとしてつい勢いに任せて飲みすぎてしまったのだ。 酔ってはいるものの細い糸一本分だけ残った理性で何とかその体を家路へと向かわせる。 と、その時。今まで闇夜を照らし出していた白い月に雲によって覆い隠され、突然の闇が訪れた。 「な、何‥‥だ?」 ぞわりと、青年はただならぬ気配を感じて身を振るわせた。一気に酔いが醒めて周囲を見渡すが‥‥数名の人が特に何も無い様子で歩いているだけ。何も変わったことはない。 雲はすぐに流れ月が姿を現して辺りはまた柔らかな月光に照らし出される。青年は一安心とふぅっと安堵の息を吐き、ふと昇った月を見上げようと顔を上げた。 「‥‥あれ? 何で、月が二つに割れてるんだ?」 青年の視界には天に昇る月に縦一線に黒い筋が走っており、それがまるで月を二つに断ち切っているかのように見えた。 ぼうっと呆けた顔でその月を見上げている青年。それが悪かったのか、それとも既に定められていたことだったのか。 月を二つに割る黒い線が段々と短くなり、月を穿った様な一つの点になったかと思うとソレは突然に青年の視界から消え去った。 ――ズブリッと、嫌悪感を引き立てる嫌な音がした。 「あ、れ? なんだよ‥‥これ?」 青年の胸に突き刺さる何か、それは黒い刃の禍々しい刀。 貫かれた青年の胸からは血は一滴も零れず、ただ脈打つごとに体からはその温かさが奪われていく。 急速に狭まっていく視界で青年が最後に見たものは、赤い赤い血濡れの眼だった。 そして、それは唐突に始まった。 一人の青年が刀を手に店の中に入ってきたかと思うと、まるで暖簾を潜るかのような動作で店の入り口近くにいた客人の首を刎ねた。 何が起きたのか分からず静まり返る店内、降り注ぐ赤き命の水、そして哂うは哀れなる犠牲者。 「モット血ヲ。血ヲ血ヲ血ヲ血ヲチチチチチ――ギャギャギャッ」 今、血の惨劇が始まろうとしていた。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
桐(ia1102)
14歳・男・巫
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
神無月 渚(ia3020)
16歳・女・サ
侭廼(ia3033)
21歳・男・サ
安宅 聖(ia5020)
17歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●殺人劇 「むっ、なんだか騒がしいな。また喧嘩か?」 大通り沿いの屋台の席に腰掛け、今丁度料理と酒の注文を終えた侭廼(ia3033)は聞こえてきた悲鳴と喧騒にやれやれと言った様子で肩を竦める。 それなりの規模を持ったこの通りなら喧嘩なんて日常茶飯事である。だが、今回はどうも様子がおかしい。騒がしい方向から人が次々と逃げてきているのだ。唯の喧嘩で一般人が逃げ出すほどのことはまず起きないはずなのだが‥‥。 「何かあったみたいだね‥‥じんにぃちょっと見に行こうか」 侭廼と共に食事に来ていた桐(ia1102)は席を立ち上がって喧騒の先を見つめる。少し侭廼は渋ったが、結局は桐に引き摺られる形で現場へと向かうこととなった。 多くの人が逃げ惑う大通り。混乱のその中心である食事屋の中から金属を打ち鳴らす音が響いてくる。 その店内に残っているのは突然人を切り殺した青年と、その凶刃を向けられた逃げ遅れた客。そしてさらなる凶行を止めようとする開拓者達だ。 黒い刃の刀を握る青年が奇声と共に高く飛び上がり、それを目の前に居る客へと振り下ろす。 男の悲鳴と甲高く響く金属音。 「何のつもりか知らないけど。武器を捨てないなら少し痛い目を見てもらわないといけないね」 間に割り込み間一髪の所で黒い刃を己の刀で受け止めた神無月 渚(ia3020)がそう呟くと鍔迫り合いから刀越しに青年を押し返す。 しかし、青年のほうは一歩も後退ることなく耐えて見せた。開拓者である渚の膂力は一般人のそれを大きく超えているはずであるのに、である。 「アヤカシだ! 命惜しくば此処から離れろ!」 アルティア・L・ナイン(ia1273)は狙われていた男性客の腕を掴み無理やり立ち上がらせるとそのまま出口へと押しやる。アヤカシとはまだ分かっていないが人に危機感を与えて逃がすにはこの言葉が一番いい。 アルティアは男が出口に消えたのを見届け、拮抗する青年と渚を確認するとすぐさま接近して手にしたショートソードを縦一文字に振るう。 青年が携えた武器は黒い刀身の刀が一本のみ。渚がそれを抑えている以上、この一撃は防げない――はずだった。 「何っ!?」 しかし、驚くことに青年はあろう事かそれを素手で受け止めたのだ。 確かに受け止めたその腕には刃が食い込んでいる。しかし、アルティアの手には普通の人間ではありえない硬い手ごたえを伝えていた。 青年の思わぬ行動に虚を突かれ、渚とアルティアは青年の振るう黒い刃に薙ぎ払われる。 「ちっ、人間離れしてやがるな」 「行動からしても常軌を逸しているし、その言葉通りかもしれないな」 弾かれた二人に入れ替わるようにして緋桜丸(ia0026)と風雅 哲心(ia0135)が両側から青年を押さえ込む。 開拓者達をたった一人で相手取るその力、何度か説得しようともしたが返ってくるのは餓えの訴えのみ。そしてなにより、赤黒く濁った青年の瞳には既に生気など一欠けらも感じられない。 哲心は黒い刀に自分の刀を絡め弾きあげる。それにあわせ開いた腹部に垂直蹴りを見舞うが、ズンッと重い感触だけが脚に残り青年は僅かに体を揺らすだけで仰け反りもしない。舌打ちと共に哲心が飛び退るとその目前に黒い刃が振り抜かれた。 青年が刀を振りぬいた隙を突き、さらにアルティアが追撃をかける。刀を取り落とさせる為に刀の腹を叩き衝撃を与えるが、青年は取り落とすどころか刀を掴む力が緩む様子も無かった。 「くっ、あの刀さえなければ押さえ込めるんだがな」 開拓者達の波状攻撃を受けてもそれを捌き、たとえ刃がその体に届こうとも弱らないどころか怯みもしない。 青年は明らかに人間とは思えなかった。しかし、それを確証にもできずこのまま斬り殺すのことも難しい。開拓者達は攻めあぐねていた。 その頃店の外の通りではまだ混乱が治まる様子がなかった。 一刻も早く逃げようとする者と、騒ぎを聞きつけて集まってきてしまう者。その両者がぶつかり合っていらぬ混乱を次々と連鎖させて肥大化させていた。 その中で刃を受け傷ついた者も少なくない数いる。事を起こした青年はあの食事所に訪れるまでに出会った人を既に何人か手にかけていたのだ。 「血は止まりました。これで大丈夫ですよ」 そんな怪我人達に沢渡さやか(ia0078)は治療を行う。淡く輝くその掌は血の溢れる傷口を塞ぎ、失われつつあった生気を取り戻させる。 しかし怪我人の数も多いため全員を完治させていては時間も道具も練力も足りなくなるのは明白だ。今は応急処置に留めて動ける程度に回復すればすぐにまた別の怪我人の治療へと回る。 だが、どうしても間に合わず既に手遅れである人も居た。それに口惜しさを感じつつもさやかは今目の前で苦しむ人を癒すことに専念しようと、癒しの手を赤く染まった傷口へと添えた。 その隣では安宅 聖(ia5020)も所持していた治療具を使って応急処置を施して動けないものを安全な場所へと運んでいた。 「えっ、それじゃあ刀が‥‥勝手に?」 彼女は通りで切り伏せられていた中年の男性からいきなり暴れだしたと言う青年の話を聞く。話によれば空を見上げていた青年が突然振ってきた刀に貫かれて倒れたらしい。 自分も含めて何人かがそれを目撃し慌てて駆け寄ったが、次の瞬間に先に青年の下に辿りついていた数名が血潮を噴出しながら倒れてゆき、彼もまた同じく胸に熱さを感じながら倒れてしまったと言う。 倒れる彼が辛うじて見たのは青白くなった青年の無表情な顔と、彼を貫いていたはずの刀だったそうだ。 「なんじゃこりゃ! たっく、てめぇらとっとと帰れ馬鹿野郎ども!」 と、軒先の影から現れた侭廼が現場をみて驚愕の声をあげる。血塗れで倒れ付す人とそれでも尚に溢れる野次馬達。呆れを覚えつつも侭廼は声を張り上げ集まってくる人達を追い散らす。 「私もお手伝いします」 侭廼と共にやってきた桐がさやかの手伝いに入る。巫女である彼もまた癒しの術を持って傷を塞ぎ、手を貸して怪我人達を逃がすことに勤めた。 この調子ならもうすぐ避難も完了する。だが、ようやく余裕が見えてきたと思ったその時に食事所から今までで一際大きな咆哮が響いた。 皆がそちらに視線を向けると同時に、木製の扉を破壊して黒い陰が一つ飛び出して地面を転がる。それに続くように開拓者達が飛び出してその転がるモノを取り囲む。 のっそりと立ち上がる黒い影――それは漆黒の刃の刀を持った青年だった。開拓者達との攻防により着ているモノはズタズタに切り裂かれもはや服でなく布切れを纏っているような風貌へと変わっていた。 他人と己の血で塗れたその姿はもはや形容しがたく、ただ見ているものに恐怖や嫌悪という強烈な負の感情を覚えさせるのには十分だった。 青年は幾重にも斬り付けられ肉が削げ半ば骨を剥き出しにした片腕を持ち上げ、叫ぶ。 「血ヲヨコセェェェ!」 ●血に餓えた無機物の獣 それはまさに餓えた獣のようだった。漏れる低い叫びと共に大地を蹴った青年は開拓者達には目もくれず一般人の人垣を目指して駆ける。 「ちっ、お前の相手は俺だろうが!」 それを抑えに緋桜丸とアルティアが迎え撃つが、捨て身ともいえる突撃を抑えるのは難しい。 緋桜丸の業物は黒い刀に弾かれ、アルティアの薙いだ刀は確かに青年を捉えたが腹部を切り裂かれたにも関わらず青年は僅かに体勢を崩したのみで二人の壁を強引に乗り越えた。 このまま突破されてしまうかと思ったが、青年が人垣に辿りつく前にゆらりとした身のこなしで侭廼がその前に立ちはだかる。 「お痛が過ぎるぜガキんちょが――よぉ!」 侭廼は獣の如く突撃してきた青年を真正面から受け止めた。鈍い衝撃と圧倒的な圧力が侭廼の全身に圧し掛かり、数間もの距離を後退させられ尚も地面を削りながら押し込まれていく。 だが侭廼自身には大きなダメージは通っていなかった。加護結界――桐によって事前に施された巫女の術式により精霊の加護を受けてその防御能力を底上げしていたおかげだ。 侭廼は桐に心の中で感謝の言葉を贈った後に、己の腕の脚に練力を廻らせ力へと変換させる。強力――はちきれんばかりに盛り上がった筋肉により膂力が青年の力を上回りその突撃を完全に止めた。 「助太刀しますよ」 侭廼の背後から飛び出た聖が動きを止めた青年――ではなく、その手にしている刀に己の武器を叩きつける。 だが、青年はその攻撃を後ろに退く事で回避した。ただ刀で受ければよいはずであったのに、敢えて退いて見せたのだ。突撃を止められたことで単に体勢を整えたのかもしれない。 一瞬の違和感。それを見ていたさやかには何か引っかかるが後少しの所で答えが導けない。 「っ――とにかく今はあの人を止めるのが先決です」 さやかは杖を手に一つの舞を踊る。それは巫女特有の精霊を呼び起こす儀式。誘われた精霊達が守りの祝福を授けていく。 「こうなれば仕方が無い‥‥刀を放さないなら、その腕一本落とされるのも我慢して貰おうか!」 哲心が覚悟を決め意識を集中させるとその手にした刀に精霊達が集い、淡い光を放ちだす。一足――張り詰めた矢が放たれたが如く駆ける哲心は正眼に構えた青白く煌く刀を青年の腕目掛けて振り下ろす。 だがガキンと、硬い金属がぶつかる音と共に哲心の一撃は受け止められた。 ――オオオォォォッ‥‥ と、突然響く獣が呻く様な低い声が辺りに響く。 「今の――ぐあっ!?」 謎の声に気を取られた隙を突かれた。青年の振るう刀が哲心の肩口を大きく斬り裂く。血飛沫が飛び、哲心の体がガクリと崩れ落ちた。 「このっ、いい加減にしやがれ!」 さらに追撃をかけようとする青年に緋桜丸が飛び掛りそれを防いだ。他の数名もそれぞれの武器を振るい哲心から青年を遠ざける。 辛うじて意識を保つ哲心にさやかが駆け寄りすぐさま治癒の術を施す。傷は深いが致命傷には程遠い。とっさに後ろに下がったことと、すぐさま治療を行われたことによって傷口さえ塞がればまだ戦闘は可能そうだ。 「けど、何だ‥‥今の声は?」 「静かに。まだ傷口が塞がってないんです。けど、アレは恐らくアヤカシです」 さやかは治療を施しつつちらりと青年のほうを見やる。その視線は正確には、青年の持つ黒い刀へと注がれていた。 斬られようが怯むことすらしない青年。目撃者の情報。刀を庇うような戦い方。そして先ほどの謎の声‥‥統合的に考えれば、一番怪しいのはあの刀しかない。 「成る程ね。まあ俺は最初からそうだとは思っていたが‥‥そっちが本体だったって訳かい。それで、どうする?」 刀が本体であるなら討つべきはそちらだが、今まで何度も打ち合って来たこともあってその頑丈さは身に染みて分かっている。 青年が手にしているままに刀を破壊するのは難しいだろう。なら、青年と刀を分断しないといけないのだが‥‥。 「アヤカシに憑かれた人間を助けることは出来ません。もはや手遅れですから」 桐が冷静に告げる。それは冷たいのではなく、歴然とした事実なのだ。もはや青年を助ける術は無く、出来ることは速やかに開放してやるのみ。そう、開拓者達は覚悟を決めた。 開拓者達の行動は早かった。前衛の六人が青年を取り囲みそれぞれの武器を構える。 青年は何かに勘付き、強引にその包囲を突破しようとするがそれを潰すかのように哲心がその前に立ちはだかり、集中力を込めた一撃で青年の脚を止める。 「さあ、その玩具‥‥取り上げさせて貰うぜ?」 そこに緋桜丸が肉薄し、渾身の力を込めた一撃を振るう。込められた力を危険と判断して青年はその一撃を避ける。 だが、それは予想通りだ。そうニヤリと笑う緋桜丸の背後からアルティアが飛び出す。 練力を廻らせた体は一部を赤く染め紋様を描き、手にした刀に力が迸る。 「迅速──禍断!」 捨て身とも言える突撃から放たれる神速の連撃。青年はそれを辛うじて刀で弾くが最後の一振りがその脚を大きく斬り裂いた。 がくりと膝を着く青年。だが、崩れた体勢から振るった刃がアルティアの肩を掠める。 「その魂は浄土へと送る。だから、まずは解放しないとね」 そう告げて低い姿勢で接近する渚。そして腰溜めに構えた二本の刀が閃く。一閃が青年の刀を手にした刀を打ち上げ、ニ閃がその打ち上げられた腕を――切断した。 ぼとり、と刀を手にした青年の片腕が地面に落ちる。 「グ――ギャッ‥‥」 それと同時に青年の体がまるで糸の切れた操り人形の如くその場で崩れ落ちた。 刀からの呪縛から解き放たれ、魂の無いただの亡骸であろうとも、今やっと彼は人間に戻ったのだ。 「さて、後はこいつの処分だな」 侭廼は落ちた腕と、まだその手に握られたままの刀を見てそう告げる。この刀が全ての現況であるなら、叩ききるしか以外に選択肢はない。 が、次の瞬間落ちた腕がピクリと動いたかと思うと、その腕のみが黒い刀を持ち上げて侭廼へ向けてそれを投げつけたのだ。 『青年はいきなり黒い刀に胸を貫かれた』‥‥そう聞いたことを思い出した侭廼は咄嗟の判断で胸元を庇う。予想通り、飛来する刃は胸を狙ってきて侭廼は薙ぎ払うようにしてその黒い刀を弾き飛ばした。 「じんにぃ! この、大人しくして!」 黒い刀を弾いた反動で後ろに倒れた侭廼を桐が前に出て庇い、宙をくるくると舞う黒い刀に目掛けて携えた小刀を向ける。そして発動した力は空間を歪め、それに捕らわれた黒い刀はミシリとその漆黒の刀身に小さな皹をいれた。 そのまま地面へと落ちザクリと突き刺さる黒い刀。刀身から禍々しい負の力を噴出し開拓者を威嚇する。だが、それはもうこけ脅しでしかなくもはや手を止める理由などない。 「これで‥‥燃やし尽くします!」 聖が猛る炎を宿した刀を構え、気合と共に振るう。 灼熱の炎が黒い刀を飲み込み、今まで吸い続けていた人の血をも蒸発させ、浄化していく。 ――ギギギギギィィィ!! ‥‥ギィ‥‥‥‥ 身を焼き滅ぼされる刀の断末魔が、事件の終焉を告げた。 ●夜の街 その後、少しのごたごたはあったものの開拓者達は後日ギルドを訪れるようにとのことで今夜は解散となった。 「おーい。桐、黄昏てないで戻って呑み直すぞー」 侭廼は何やら考え込んでいた桐を引っ張ってすぐに夜の街に消えていく。他の皆も同じように家路に着いたり別の店へと流れていった。 そして最後に一人、その場に残っていたさやかは青年が最後に倒れていた場所の手前でしゃがみこむと、そのまま手を合わせて祈った。 「どうか‥‥彼の魂が安らかに眠りにつけますように」 少なくない犠牲を持って終えた今回の事件。それに何かを覚えつつさやかは冥福を終えて家路を目指すべく立ち上がった。 もう、彼女が振り返ることは無くしっかりとした足取りで前へと進んで行った。 |