おばけなんてこわくない
マスター名:葵依
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/04 23:49



■オープニング本文

●お化け屋敷
 それは武天のとある一角に立つ屋敷。
 近くの村からも歩いて半日は掛かるという人里離れた場所に佇むその家屋は、今から十数年前に突然にその主を失った。
 主だけでなくその家族も、何人も居たはずの使用人も、飼っていた馬や犬も生き物は例外なく姿を消した。
 アヤカシに襲われたのか。それとも賊が侵入したのか。はたまた己の意思で雲隠れしたのかはその後の調査でも分かっていない。
 ただ忽然とその屋敷は無人と化してしまったという事実だけが残った。
 この屋敷はその後、何人かの手に渡ったのだが全てが一月もせぬ間に手放すこととなる。
 そんな事が何度も続きいつ頃からか恐ろしい噂が実しやかに囁かれ始めた。その館は人々を誘い込んでは食らってしまう悪魔の館なのだと。
 そしてその屋敷は今も無人のまま放置され、誰かが訪れるのをただただ待ち続けているのだった。

「と、そんな屋敷に関しての依頼が発生しました」
 先ほどまでおどろおどろしい声で資料を読み上げていた開拓者ギルドの受付の女性が、開拓者達に一枚の依頼書を差し出す。
 その臨場感溢れる怪談話‥‥ではなく屋敷の詳細に偶然耳にしていた他の開拓者達が一様に落ち着かないようだ。
 その様子に不思議がる受付の女性。一人の男性の開拓者が苦笑しつつその依頼書を受け取り目を通し始めた。
「最近になりその屋敷を欲しがる変態‥‥物好きで高尚な野郎が現れたそうです」
(今、変態って言った。しかも言い直してもフォローできてないよ)
 そう思ったのは誰だったか。誰にせよ今ここに訪れている開拓者の大半は同じ気持ちだった。

 依頼書にはこう記されている。
 どうやらその屋敷に調査に向かったところ、不思議なことに殆ど朽ちたり風化した部分は少なく掃除さえすれば今すぐにでも済めそうなほどの状態だったという。
 今では道も整備され近隣の村へも馬車を使い数刻で往復できるほどになり、利便の面でも合格点だ。
 ただ、それだけではこの開拓者ギルドに依頼はやってこない。そう、問題が起きたのだ。
 それは清掃や改修のために数名の仕事人達が泊り込んだ夜のこと。振舞われた酒を飲み、どんちゃんと騒いでいるところでそれは起きた。
 突然に全ての明かりが消えてしまい、屋敷の中が暗闇に閉ざされた。
 暫しの混乱の中、突如ぽうっと部屋の中に明かりが灯る。仲間がやっと火を灯したのかと安堵するのだが、次々に灯っていくうちに異変に気づく。
 明らかに灯る火の数と位置がおかしいのだ。そう、真上に広がる天井やまさか窓の外までに火を灯せるはずがないのだ。
「ひ、ひぃー! 呪いだっ! 屋敷の呪いで殺されるぞー!?」
 悲鳴があげる。それを合図にしたかのように、その恐怖はさらに次の段階へと進む。
 一人の男が恐ろしさからか後退り壁に背を預けていたら、その壁から白い腕が伸び男の体を掴み込む。
 悲鳴を上げて助けを求めるその男を勇敢にも別の男が助けようとするが何故か体が動かない。よく見れば、足元に何かが絡み付いている。
 ‥‥鎖? そう思った瞬間にその男は鎖に引っ張りあげられ天井高くへと消えていった。
 屋敷の中で繰り広げられる恐怖の怪異現象。屋敷は今、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「まあ、実際の正体は幽霊ではなくアヤカシだったわけなのですが‥‥どうかしましたか?」
 今一度臨場感たっぷりに報告書を読み上げた受付の女性。
 彼女は頬を引きつらせる男性の開拓者や、歳若い子供と女性の開拓者数名が隅のほうに逃げて震えているのを見て首を傾げる。
「アンタ、わざとじゃないよな?」
「? 何のことが分かりませんが事実無根の清廉潔白と答えさせて頂きます」
 因みに、その時護衛として雇われていた開拓者の頑張りにより奇跡的に死者はいません。そう付け加えて依頼の説明を終えた。


■参加者一覧
観音(ia0145
22歳・女・陰
パンプキン博士(ia0961
26歳・男・陰
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
空音(ia3513
18歳・女・巫
漆代 タタル(ia3932
14歳・女・陰
銀丞(ia4168
23歳・女・サ
大羽 天光(ia4250
19歳・男・陰
荒井一徹(ia4274
21歳・男・サ


■リプレイ本文


●おばけ屋敷へようこそ
 鬱蒼と茂る森。枝葉は天を覆い、昼間でもその下を歩くものに薄暗さを感じさせる。
 そんな森の奥深くにその屋敷は建っていた。古びた景観からは何十年も前に建てられたような時代を感じさせる。
 こんな場所に建つ屋敷は不気味さを感じながらも、同時にこの場所のみ森が開けていて日が差し込むようになっており神秘性をも同時に醸し出していた。
 開拓者達は日が傾いて少ししたくらいにこの場に辿り着きアヤカシ達が現れる夜まで待つことになる。
「よ〜ろ〜し〜く〜お〜ね〜が〜い〜し〜ま〜す〜 」
 観音(ia0145)が開拓者の仲間達にぺこりと頭を下げる。
 彼女の間延びしたゆったりとした口調はこの場の雰囲気にはそぐわないが、それが寧ろ空気を柔らかくしてくれている。
「ここがアヤカシがでるっていう屋敷か。中々雰囲気でてるじゃん」
 大羽 天光(ia4250)が屋敷を見上げつつまるで玩具を見つけた子供のように楽しげな声を上げる。
 その隣で体を震わせているのは荒井一徹(ia4274)だ。しかし、その震えは恐怖などではなく。
「くぅぅっ! 幽霊を相手に喧嘩なんて楽しみだなぁおい!」
 武者震いということだ。今にも屋敷に飛び込みそうなその勢いに開拓者達一同が小さく笑う。
「さて、今回はどんな事が起きるかねぇ?」
 銀丞(ia4168)は煙管を片手で弄びつつは紫煙を燻らせながらポツリと呟いた。


 数刻後、日は完全に落ち宵の闇が森と屋敷を包み込んだ。いよいよアヤカシ討伐の開始だ。開拓者は班を二つに分けて館の中へと入っていく。
 壱班はまず厨房へと向かうこととなる。
 ただただ歩く音だけが続き、高まる緊張に耐えられなくなった暁 露蝶(ia1020)が誰に言う訳でもなく言葉を漏らす。
「アヤカシとか関係なしに、これはちょっと薄気味悪いわね」
 今日は曇天で月の明かりもなく屋敷の中は完全な闇に包まれている。もし灯りを用意していなければ一寸先すら見えなかっただろう。
 壁は装飾が剥げ落ち剥き出しの板も罅割れており、床もよく見ればところどころに大きな穴が開いていたりする。腐った箇所もあるだろうから踏み抜かないように注意しなくてはいけない。
 と、暫く歩けば事前に知らされていた見取り図通りに厨房の扉の前に辿り着いた。開拓者達は互いに顔を見合わせて一度頷くと、そっと扉を開いて厨房へとその身を滑り込ませる。
「いたな。しかし‥‥なんだ、意外と弱そうだな」
 銀丞は奥の棚の近くに浮遊するおばけアヤカシを見つける。直径一尺もないまんまるとした球にぴょろんと尻尾が生えたような姿をしていた。
 なんとも脱力してしまいそうなその姿に少し戸惑うが、アヤカシはアヤカシである。
 早く討伐してしまおうとさらに接近しようとしたところで、アヤカシも開拓者達の存在に気づきぴーんとその尻尾を張らせる。そのアヤカシの動きと同調するように数枚の皿が飛び交いだす。
 露蝶はサーコートを脱ぎそれを使って飛んできた湯飲みを叩き落とした。そして、鳴り響く陶器の割れる音。
 その音でハッとあることを思い出す。そういえば、物損は抑えて欲しいと。酷すぎると罰金だと。
「えっと、不可抗力よね?」
 露蝶がたらりと冷や汗をかきながら振り向いて尋ねる。その視線の先に丁度いた観音が、笑顔を浮かべつつ口元に人差し指を当てた。
 つまり、少しくらい黙っていればバレナイだろうと‥‥。
「では、あまり割られすぎないうちに早く倒そうか。暁、頼んだぞ」
 と、言いつつ銀丞は飛んでくる食器類を片手で軽々と掴んでは机の上へと積み重ねていく。ガシャンッ――と、時たま失敗して割ってしまっているが被害は最小限で済んでいた。
 銀丞の催促に相槌で返し露蝶は飛び交う食器を避けながらアヤカシへと接近し、拳一閃。
 ――ケタケタケタ‥‥
 おばけアヤカシは怪しげな笑い声を残しつつその姿を消していった。


 一方その頃、屋敷の応接間へとやってきた二班もさっそくおばけアヤカシの洗礼を受けていた。
 部屋中に飛び交う火の玉に、そこらから子供の笑い声がけたけたくすくすと鳴り響く。
「早速出やがったな! 刀の錆びにしてやるぜ‥‥ところで、アンタ。ちょっと手を離してくれねぇか?」
 さっそくのアヤカシ登場でテンションを上げる一徹だったが、一向に前に進むことが出来ない。それもそのはず、その服の袖を白い肌の女の手ががっちりと掴んでいたのだ。
「す、すみませ〜ん。怖くて、あ、脚がー‥‥」
 が、その正体はおばけでもアヤカシでもなく怖さに震える空音(ia3513)だった。
 一徹もそんな可哀想な有様を冷たくあしらうわけにもいかず大丈夫かと、とりあえず落ち着くように言い聞かせる。
 二人が一時的に戦線離脱してる間にアヤカシが待ってくれるわけもなく。残りの二人は飛んでくる火の玉を盾で防いだり飛んで避けたりと非常に大変そうだ。
「幽霊退治ならあたしら陰陽師の領分だよねー」
 朗らかに笑いつつその漆代 タタル(ia3932)は金色の瞳を猫のように光らせて目標を捕捉すると、飛んできた火の玉に陰陽符を投げつけて打ち落とす。
「と言っても数が多すぎるねー。本体はどこにいるんだろ?」
 天光は飛んできた木の破片やら仕事人達が忘れていった道具一式を盾で防ぎつつきょろきょろと周囲を見渡しておばけアヤカシの姿を探す。
 ぐるりと見渡してもそれっぽい存在は見当たらない。ならどこにいるのだろうか? もう少し注意して見ていると、ふと壁に掛けられている絵画が目に入った。
 川を下る船の絵だ。ただ、添乗員が黒装束で大きな鎌を持ち、乗員は揃って足が描かれてない。
「明らかに怪しいよね」
 タタルもそれに同意する。あまりに悪趣味すぎて場違いであるし、何よりこの古びた屋敷に飾ってあるにしては綺麗すぎたのだ。
 天光は符に力を込めてその絵に向けて斬撃を放つ。さっくりと、あっさりその絵画は真横に断ち切られると絵に描かれていた添乗員と乗員達が揃って痛みに苦しむ顔に変わってそのままさらさらと砂になるように消えて行った。最後まで実に悪趣味である。
 しかし、一体を退治してもまだ火の玉の攻撃は止まない。まだまだどこかに潜んでいるはずとまたこの応接間にある怪しいものを探そうとした時だった。
「えっ? って、うにゃあああぁぁぁー!?」
 タタルは脚にひやりとした何かが触れたかと思って足元を見ると、そこにあったのは錆び錆びの鎖。それを認識した瞬間に、鎖は天井へ向けて巻き上げられてタタルの体を引っ張りあげようとする。
 その悲鳴に振り向いた天光の目に映ったのは宙吊りになって今まさに連れて行かれそうなタタルの姿。慌てて飛びついて手を掴みそれを妨害する。
 タタルを連れ去られるのは阻止できたが、意外と鎖の引っ張る力が強くて天光はそれ以上に身動きが取れない。どうするべきかと悩んだところで、それはすぐに解決した。
 ジャリンッと金属を擦り合わせる音がしたかと思うと、タタルの脚に絡み付いていた鎖が断ち切られた。
「っしゃあ! 遅れてすまねぇ。後は俺に任せな!」
 刀を振るって仲間を開放し、その背中に庇う一徹。ただ、タタルと天光が互いに頭を抑えて唸っていてそんな言葉は聴いていなかった。
 何があったかは……宙吊りになったタタルの下に天光がいたことと、鎖が切れた後にゴンッという鈍い音がしたと言えば何があったかは想像できるだろう。
「大丈夫‥‥ですか? えっと、治療しますね」
 一徹の説得によりようやく少し落ち着いた空音は床を転がっている二人の治療を開始するのだった。
「来た来たー! 斬っ!!」
 そして先ほどまで暴れたくても動けなかった鬱憤を晴らすかの如く活き活きと刀を振るう一徹。
 ある意味、ちょっとおばけより怖いかもと誰かが思ったかもしれない。



●夜明けはまだ訪れず
「雨、降ってきましたね」
 小屋の扉を入ってすぐの場所で露蝶はまだ開け放たれている扉の外に振る水滴を眺めて呟く。
 先ほど土蔵でおばけアヤカシを退治し、外にでた所で振り出してきたため壱班の一同は急いでこの小屋まで走ってきたのだ。
 小振りのうちに辿り着けたため皆はそれほど濡れなかったが‥‥瞬間、空が輝き遅れることなく大気を振るわせる轟音が響き渡る。
「こりゃあ、暫くは屋敷に戻るのも難しそうだな。まっ、時間があるならゆっくりと調べるとしようじゃないか」
 銀丞は濡れてしまわぬよう懐に収めていた煙管を取り出して口に咥えて後ろに振り返る。小屋の隅、暗闇に隠されていた地下室の入り口がまるで落とし穴のようにぽっかりと開いていた。
 穴に入りどれほど下りたのか。先ほどまで聞こえていた雨音や雷の音までも聞こえなくなり、音を発するのは開拓者達の足音と息遣いのみ。
 ようやく下りが終わりただ一本だけの道を進む。方角と歩いた距離を考えれば屋敷の下に潜っただろうか。そこにきて通路は終わり、一枚の扉が現れる。
 銀丞がそっとその扉を開き、松明でその部屋の中を照らし出す。
「地下牢か? いや、それにしては扉も普通の木製で鍵を掛けてあった様子もないな」
 部屋は約10畳ほどの個室だった。部屋の中にあるものは小さなテーブルに、部屋の奥には寝床らしき空間が確保されていた。
 恐らく誰かが住んでいたのだろうが、上にはあんな立派な屋敷があるのに一体誰が住んでいたというのか?
 開拓者達は不思議に思いつつ一先ずこの部屋を色々と探ってみる。溜まりに溜まった埃を舞い上がらせないように気をつけながら物色していると、寝床の下から数枚の紙切れが出てきた。
 恐らくこの部屋の主が書き記したものなのだろう。幸い外気に触れず保存状態も良かったのでそれを読んでみることにした。

 『私は何時までこの部屋に閉じ込められていないといけないのだろうか。ああ、もはや私には今あの空に浮かぶモノが太陽か月かも分からない』
 『ああ、愛しの人。今日は久方ぶりに会えました。しかし、何故なのです。日を追うにつれて貴方は私から離れていく‥‥何故、何故なのですか?』
 『裏切った。愛しの人は私を裏切りました。憎い、あの人が、あの人の心を奪った人が』
 『憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいニクイニクイニクイニクイニクイ』
 『私は決メましタ。明日ニあの人ヲ‥‥

「っ! きゃあっ!?」
 背筋を寒いものが掛け抜けていくのを感じながらそこまで読み進めたところで、その紙切れが突然に燃え上がった。
 手にしていた観音は燃え上がるソレを放り出すと、床に落ちた紙切れはパチパチと音を立てて黒き灰へと変わっていく。
 それを呆然と見ていたところで、突如床の一部が抜けて白い塊――アヤカシが浮き上がってくる。
「お、驚かさないでよね。でもいいタイミングだったわ!」
 露蝶はその身を襲っていた薄気味悪さを振り払うかのように大声で叫びつつおばけアヤカシに殴りかかる。
「全くだな。いや、私は最後まで読みたかったがな。きっとこれを書いていたのは女性で最後には愛する人をその手で――」
 銀丞があの紙切れの続きを予想して話を展開するが、露蝶と観音は聞きたく無いとばかりに全力でアヤカシ退治に集中するのだった。


 その頃、弐班は丁度書斎にいたアヤカシを退治したところだった。
「よっし、次で最後だな。最後は屋敷の奥の執務室だ」
 おばけアヤカシ相手に喧嘩が出来ているのがよほど楽しいのか一徹はかなりご機嫌の様子だ。屋敷の見取り図を片手に最後の目標地点へと率先して皆を率いる。
 そして移動の途中、書斎で面白いものが見つからなかった腹いせなのか天光が突然に怪談話を始める。
「きゃあー! ただでさえ怖いのにこれ以上はやめてくださーい!」
 そして思惑通りというか案の定に悲鳴をあげる空音。もう彼女は涙目であり、思わず傍にいたタタルに抱きつく。
 が、彼女もちょっとこの館の空気に当てられて『だいじょうぶ』と繰り返し呟いて気を紛らわせていたのだ。それが突然背後から抱きつかれれば‥‥。
「みにゃあぁー!」
 本日二度目の悲鳴が屋敷の廊下に響きわたった。

 開拓者達は暫くしてこれまでとは違い少し豪華な扉の前に辿り着いた。執務室だ。
 だがしかし、扉は鍵がかけられているのか全く開かない。暫く色々と試してみたがこれは扉を壊さない限り入れそうにもなかった。
 仕方ないと断念し、今来た道を戻ろうとぞろぞろと歩き出す。
「ちぇっ、ここで最後なんだがな‥‥って、おろ?」
 悔しげに最後の足掻きと一徹がその扉に手を掛けると、何故か開いてしまった。
 仲間達はこっちには気づかずそのまま廊下を進んでいく。呼び止めるべきかと少し迷いつつ、とりあえず中を覗いてみた。
 そこにはいかにも年季の入った大きな机とその背後には無数の本で埋め尽くされている。一見してこじんまりとしたとても普通の執務室だ。
 見た限りアヤカシがいる気配は無いが‥‥ふと窓とは反対側の壁をみるとそこには一枚の肖像画が飾られていた。
 齢十八ほどの女性の絵。金髪碧眼でその表情は何の色も移さずただ不気味さを醸し出していた。だがどこか人を惹き付けてしまう様な綺麗な絵だった。
 暫し一徹がその絵に見入っていると、窓の外が眩く光った。明滅する光に部屋の中が明と暗を交互に繰り返す。その中で‥‥。

 絵の女性が――怪しげに哂った。

「きゃあぁっ! でたでた出ましたー!?」
「曲がり角で待ち伏せとか古典的な手をー!」
 その時仲間達の声が廊下から聞こえて思わず振り返る。どうやらおばけアヤカシに遭遇したようだ。
 一徹はもう一度執務室の絵画を見るが、その絵はただ感情無く主のいない執務室を眺めているだけだった。
 光の加減による錯覚だったのか‥‥薄気味悪さを覚えつつ一徹は仲間と合流するべきその扉を閉ざした。



●明けた夜と明かされぬ謎
 そして夜が明けた。開拓者達が館を隅々まで調べつくして漸く一段落着いたとき、時刻は既に早朝。
「やー、面白かった。こんな依頼なら大歓迎だね」
 すっかり楽しみきった様子の天光は館の前でぐっと伸びをする。
 いつの間にか雨は止み森の木々の隙間から朝日が毀れ差し込んできていた。
「はう。とても、眠いです‥‥」
 一番疲れた様子の空音はもはや半ば夢の世界へと旅立ちつつ、ふらふらと屋敷から出てくる。
「いや、本当にみたんだって」
 それに続いて扉から出てくる一徹が執務室で見たあの女性の肖像がのことを話す。それになんとなく思い当たる節があった露蝶と空音はお互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。
 そして最後に出てきたのは銀丞だ。その背中にはすぴすぴと眠っているタタルが背負われていた。
 銀丞は一度振り返りその屋敷を見上げる。
「アヤカシは退治したが‥‥果たしてそれだけでよかったのか」
 暫しその古ぼけた屋敷を見つめた後、帰路へと着くべく開拓者達は歩き出した。