探索ったら開拓者だろ
マスター名:木原雨月
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/12 04:12



■オープニング本文

 その日、ジルベリア帝国国営第38鉱山のある山間には、珍しく雨が降っていた。
 さらさらと降る雨は新緑を霞ませ、さながら緑の霧の中にいるような景色が作られる。
「やれやれ、しばらく休みかね」
「仕方ないさ。土嚢積んで、ヴォトカでも飲もう」
 汗だくで笑い合う鉱夫たちの声に、一人が顔をしかめた。坑道の壁に手を当て、それから軽くツルハシで叩く。
「おい、どうした」
 聞くと、鉱夫は首をひねって、もう一度同じ事をした。
 今度は、他の鉱夫たちも不思議そうに耳を澄ませる。
「ここ、音が変だな」
「空洞でもあるってのか?」
 鉱夫たちは天井を見上げ、それから周囲の壁を確認すると、思い切ってその壁を強く打った。
 すると、目の前にあった壁は思いの外簡単に崩れ、ぽっかりとその口を開いたのである。鉱夫たちは顔を見合わせた。

「高さは約2メートル、幅は約5メートルか‥‥人が二人並んで歩ける程度だな」
 報告を聞いた第38鉱山責任者、ウラガーン・ストロフ男爵は太い腕を組んで机の上に広げた地図を見やった。
 新しい坑道を掘り始めて2ヶ月、気付かない方が不思議なほど近い所に空洞ができたものだ。鉱夫たちの話によると、特に異臭らしいものも感じなかったという。それで20メートルほど進んでみたが、天井が徐々に高くなっていくことと幅が広くなっていくことから、深い洞窟となっている可能性があると見て、引き返してきたらしい。照らされる範囲では分かれ道は見当たらなかったが、更に深く進んで行くとあるかもしれない。また、もしや何かの巣とぶち当たる可能性もある。
「ま、何にせよ、こういうのは開拓者の仕事だな」
 ウラガーンは腕を解き、その巨体を椅子から持ち上げた。

 やがて、1件の依頼が開拓者ギルドの掲示板に張り出されることとなる。
 依頼の内容は、一言で言えば洞窟探索である。
 洞窟探索とはいえ、そこは炭鉱坑道である為、火気厳禁である。ほんの小さな火花が大惨事を招く可能性があるのだ。
 故に松明などは使えない為、灯りは特殊な加工を施された宝珠を使用することとなる。これは第38鉱山より貸し出されるものであり、万が一紛失した場合には罰金が科せられるので注意が必要だ。その宝珠は、硝子製のシャッター付カンテラの中に入っており、照らす範囲は約10メートル、継続時間は1つに付きおよそ3時間程となっている。
 行き止まりとなっているならば、それはそれでよし。もしもアヤカシやケモノがいたならば、速やかに討伐して報告して欲しいとのことだ。
 どこまで深いかは皆目見当が付かない為、とりあえず宝珠1つ分、つまり3時間の探索を行って欲しいとのことだ。それより深くとも、無理せず引き返し、報告を上げるようにすること。可能ならば簡単で構わないので地図を作成して欲しい、などが書かれている。

 ともかく、この洞窟は安全か危険か。
 知りたいことは、ただそれのみである。


■参加者一覧
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
日御碕・かがり(ia9519
18歳・女・志
マテーリャ・オスキュラ(ib0070
16歳・男・魔
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ


■リプレイ本文

 第38鉱山、鉱夫たちの長屋が並ぶその先に、監督官の詰め所はある。
「さ、さ、まずは伯爵さんに挨拶しにいかんとね!」
「喜寿さん、男爵ですよ」
 考古学者気分でウキウキしている福幸 喜寿(ia0924)を、日御碕・かがり(ia9519)がそっと訂正する。洞窟探検なんてわくわくするけれども、慎重にいかなければ、とはわかっていても、どうにも抑え切れていないようである。
「未知の洞窟の探索‥‥これぞ探求者の本領発揮と言えましょう。ふふふふふ‥‥」
「洞窟探索はロマンよね!」
 ローブのフードを深く被ったマテーリャ・オスキュラ(ib0070)も、マテーリャとは色彩的に正反対のリスティア・バルテス(ib0242)も、どうやらそれは同じなようである。
「坑道の奧に広がる未知の空間、か。お宝の臭いがするねぇ。関係者は同行しないようだし、何か見つけてもポケットに入れちまっぐへぶっ」
 後ろからがつんと固い突起物が喪越(ia1670)の後頭部を直撃。奏でれば優しい音色を聞かせてくれる「サンクトペトロ」も、カドは痛い。
 そんな様子にやれやれと首を振りながら、巴 渓(ia1334)は扉をノックした。
「おう、開いてるぜ」
 太い声がして、開拓者8人は扉をくぐった。その先には当鉱山責任者ウラガーン・ストロフ男爵が太い腕を組んで待っている。
「お久しぶりさぁ、男爵!」
「おう、元気の良いお嬢ちゃんじゃねぇか。今回もまぁ、よろしく頼むぜ」
 にっかと笑い、ウラガーンは一行を見渡す。すると、かがりの肩口からおどおどと顔を出す一人に目が止まる。その人物はびっくとしながら口を開いた。
「あ、あの‥‥今回は、その‥‥よろしくお願いします」
 倉城 紬(ia5229)は真っ赤になってぺこりと頭を下げる。どうにも男の人は苦手だ。
 それに人好きする、とはとても言えないが笑顔のようなもので応え、ウラガーンは坑道の地図を広げた。

 改めて坑道内について聞いても、特に目新しい情報はない。湿度がかなり高いことから、床などはやはり滑りやすいだろう、とのことだ。
 火気厳禁については、どこまで平気か、という指針は示せないという。ただ、炭鉱内部というのはすべてが可燃物であるということを忘れないで欲しい、と念を押された。
「んー、火気厳禁に長物は使えない‥‥不便ですねぇ‥‥まぁ、使う機会がなければ良いんですが」
 トカキ=ウィンメルト(ib0323)は、エレメンタルサイズを見やりながら言う。ウラガーンが眉を跳ね上げるが、これは精霊の加護を受けている武器と言われている。鎌として使用するつもりはなく、あくまで術行使の助けにすることを前提としている。
「ねずみとか、出ないでしょうね? あ、別に言うほど苦手ってわけでもないけどー」
 リスティアが言うと、ウラガーンは呆れたようにため息を吐いた。
「あのなぁ。光もねぇところに生き物なんかいるわきゃねぇだろ」
「ええっ!?」
 ショックを受けた声を上げたのは、マテーリャだ。食材になりそうな物があれば、持って帰ってゆっくり観察と調理をしてみたいと考えていたのである。むろん動物に限らず、変わった苔やキノコなんかが見られるのではないかと、かなり期待していたのだ。
 ウラガーンはガリガリと頭を掻く。
「光がなくっちゃ大抵の生き物は生きてらんねぇだろうが。それができるのは、アヤカシか特殊なケモノか‥‥まぁ、地下水脈かなんかが通ってりゃ、魚なんかはいるかもしれねぇけどよ」
 その言葉に少しだけ勇気を得たのか、マテーリャは小さく頷いた。

 一通りの説明を聞き、一行は最後の点検と荷物をチェックする。
「‥‥誰だ、水も持ってきてねぇやつは」
「「あ」」
 てへ、と笑うのは喜寿。何も聞いていないように視線を反らしたのはトカキだ。
「ったく、最近は人形騒ぎで洞窟探索の依頼が絶えんというのに」
 あのようなえげつない魔物がいないにしても、ウラガーンが危惧するように、そこを根城にする魔物がいてもおかしくはない。
「洞窟が危なかったら、採掘も安心してできんもんねっ」
 水筒を拝借し、紬に塩を入れて貰いながら言う喜寿に、喪越がうんうんと頷く。
「安全じゃないかもしれない場所で働くってぇのは、確かに薄気味悪ぃもんだわなぁ。ま、駄賃も弾んでくれるようだし、ここは任されようじゃないの」
 ビシッと親指を立てつつ、でも働かなくても金が貰えるならそれが一番良いわけであって。‥‥とは、口に出しては言わない。確実に飛んでくる。なにかのカドとか拳が。
「‥‥あの、福幸さん。そんなにたくさんお守り持ってどうするんです?」
 点検点検、とお守りの紐を確認している喜寿に、マテーリャは首を傾げる。
「んー、そういうのとはちょっと違うんさねー」
 喜寿の持つお守りの中には、市場にはなかなか出回ることがない限定品も入っている。
「幸運のお守りとかって効果がなくっとも、持って祈って前に進めれば、それがご利益なんよね」
 にこーっと笑う喜寿に、マテーリャはそういうものか、と首を傾げる。
「倉城さん、それは何ですか?」
 トカキが聞くと、紬はびっけとしながらあわあわと振り返る。
「あ、え、えっと! あの、私、眼鏡がないと何も見えないので‥‥今回はきちんと備えておきたくて。はい。あの、‥‥眼鏡拭きです‥‥」
「なるほど」
 頷くトカキにホッとした時、
「ああっ!」
 突然叫んだ喪越に全員が振り返った。
「ってことは、俺様なんにも見えない?! イヤン!」
「伊達眼鏡なら外せばいいだろ、驚かすな」
 ガツ、と渓の拳が寸分違わず喪越の後頭部に飛んで、開拓者たちはいよいよ洞窟へと足を踏み入れる。

 坑道の入り口は雨が降っているせいか、怪しく霧が出ている。
 ウラガーンがカンテラを渡しながら、厳しい顔つきで口を開いた。
「灯りは3時間きっかりだ。残りが1時間ぐらいになると少しばかり薄暗くなるから、わかるだろう。これが帰り用の宝珠。カンテラに入れれば光るようになってる。宝珠は消える10分くらい前に点滅し出すから、完全に暗くなる前に入れ替えるんだ」
 喜寿がカンテラと宝珠を受け取りながら、少し緊張した面もちで頷く。
 ウラガーンは全員を見渡した。
「いいか、絶対に無理だけはするな。炭坑ってのは、お前らが想像している以上に危険な場所なんだ」
 恐ろしいばかりの目があまりに真剣で、開拓者たちは黙って頷いた。

 隊列は、一番前に渓とかがり、その後ろに喜寿と紬。灯りにできるだけ近い場所に、と喜寿の後ろにリスティア、トカキ。そして最後尾に喪越とマテーリャである。
 坑道に入ってまず感じたのは、息苦しささえ感じるその湿度だ。すぐに衣服が湿り気を帯び、じっとりと重く感じる。気温は暑いと感じるのに、背中を伝う汗がぞっとするほど冷たく感じた。
 次には、洞窟内の暗闇である。灯りは確かにある。しかし、灯りの届かない範囲はまさしく闇だった。
 もう一つは、その静けさである。自分たちの足音、息遣い、ちょっとした衣擦れ。そんなものが耳障りなほどよく聞こえる。
 ──絶対に無理だけはするな。
 ウラガーンの言葉が浮かぶ。その言葉は、決して先の解らない洞窟探査をする為の言葉だけではない。その中には、気が狂いそうなほどの静けさと闇がある。
 かがりはゆらゆらと揺れる自分の影に惑わされぬよう、八尺棍「雷同烈虎」の長さを利用して地面を叩きながら進んだ。本来は剣士であるので剣の方が得意だが、火花が立たぬように「雷同烈虎」を持ってきたのだ。規則正しくコツコツと叩く。それが、少しばかりの安心になるような気がした。
 斥候であると同時に前衛でもある。特に渓が気にしていた通り、今回のメンバーは総じて防御が薄い。前衛である自分で止めなければ。かがりは一層、注意深く歩を進めるのであった。

 洞窟内は鉱夫たちが言っていたように徐々に広くなっていく。最初の100メートルほどはさほど感じなかったが、それを過ぎると歩くだけなら3人は並んでも歩けるほどになった。ただ、それ以上は広くならず、大きな蛇行もなく一本道を進んで行く。
「はてさて、どこに繋がっているのやら。ま、それがロマンでもあるんだけどな!」
「古代の遺跡とかやったら、どうしよなっ」
「おー! ロマンだねぇ!」
 素っ頓狂とも思えるほどの喪越の声が、今は有り難い。喜寿も笑顔を絶やさない。
 時折それらに突っ込みを入れる余裕も出てきた頃。
 コツコツと「雷同烈虎」が鳴らす音の響きが変わった。
「‥‥なに?」
 リスティアに渓が「シッ」と沈黙を促す。かがりは目を閉じて意識を集中させた。
 その沈黙はほんの僅かであったのに、息を殺して待つその数瞬が永遠の様にも感じられる。
「生命体やアヤカシの気配はありません」
 かがりの声に溜息にも似た息を吐いて頷き、開拓者たちはより慎重に歩を進める。
 そして30メートルほど進んだだろうか。今まで円筒形に届いていた灯りが、10メートルほど先で銀杏に広がっている。かがりの「心眼」に、やはり生命体などの気配は感じられない。念のため紬も「瘴索結界」で瘴気を探るが、やはりそれらしいものは感じられなかった。
 そしてとうとうその切れ目。渓とかがりがそっとその先に手を伸ばしてみる。
 壁の感触は、無い。手首を曲げてやると、土の感触がした。喜寿からカンテラを受け取って、渓が腕を伸ばしてみる。10メートルの範囲は、どうやら平面。ところどころに岩のような突起があるが、他にめぼしい物はない。ただ天井が高くなっていて、灯りで照らすことが出来ない。
「広場みたいになってるんでしょうか」
 マテーリャの声に、納得の声が上がる。灯りの範囲をまずかがりが歩き、足場が崩れる気配がないことを確かめてから、広場らしい場所に足を踏み入れる。
「「夜光虫」飛ばしてみようか?」
 喪越の提案に全員が頷いて、小さな式が空間に舞った。マテーリャとトカキも「マシャエライト」を使用し、広場と思しき場所を照らし出す。
「わ‥‥ぁ」
 喜寿の声が木霊する。
 全貌とまでは行かないが、それによって大体のことは視覚で捕らえられた。そこは円錐のような形をしている。床の直径がおよそ30メートルほどある広場で、高さはおよそ20メートルほどだ。
 そして壁には、今入って来た洞窟を含めて5つの道が続いている。
 しばらく呆然と見やっていたが、渓が「よし」と声をかける。
「ここらで小休止としよう。出てきた場所がわからなくならんように、印も付けとくか」
 荷物から茣蓙を取り出して広げると、白墨で壁に「38」と書く。これでこの洞窟が38鉱山に繋がることがわかるだろう。
「あー、喉渇いた! すごく暑いわ。おまけに服が張り尽くし」
 リスティアが足を投げ出して茣蓙に座ると、喪越がきゅぴんと目を光らせた。
「俺はジメジメした所はむしろ好きだな。暑いなら脱げばよろし! さあ、そこのおぜうさんも゛っ」
 イイ笑顔で紬を振り返った喪越の後頭部を、つい最近感じた痛みが襲う。紬はぷるぷるとかがりにしがみついていた。

 水分補給をして、一行は再び洞窟内を歩き出した。
 マテーリャとリスティアの案で、「38」の出口から一番右手の洞窟に足を進める。この緩やかに傾斜しているようで、わずかに登りとなっていた。分岐もなく、しかしやがて行き止まりとなった。土塊の具合などから、最近ではないだろうが、もしや崩れたのではないかと思われる。
 皆が引き返していく中で、トカキは蹲るその肩をぽんと叩く。
「何してるんですか、喪越」
「え、いや、いやーぁ? ま、珍しい石でもないっかな、ってね?」
 掌ほどの石くれをポケットに突っ込んで、喪越は慌てて皆の後ろを追いかける。

 広場に戻ると、ふいに灯りが薄くなった。範囲は変わらないが、明らかに暗くなっている。
 入り口から広場までと、行き止まりの道を往復するのとが大体同じぐらいだと思われるので、入り口から広場まではおよそ1時間ぐらいだと考えられた。
「あと1時間はあるんですよね。灯りが点滅し始めるまで、2番目の道を行けるだけ行ってみませんか?」
 8人は頷き合って、隊列を組んで再び歩き出した。

 2番目の道は、38鉱山の入り口付近よりやや狭い。高さは約2メートル、幅は約3メートルといったところで、辛うじて2人が並んで歩ける程度だ。
 かがりが相変わらずコツコツと床を叩きながら進んで行く。1番目の道と同じく若干登りに傾斜しているぐらいで、これと言って変化はない。
 これも一本道か。
 そう思い始めた頃、開拓者たちの耳にざあざあと川が勢いよく流れるような音が聞こえてきた。慎重になってしばらく進むと、前方に緩やかなカーブを描く道が一本、そのカーブの辺りで左に曲がる道が一本見えた。
 かがりと紬が気配を確認し、渓が白墨で印を付けつつ、右手にカーブしていく道を進む。ざあざあという音は更に大きくなった。
 そしてさらに歩くことしばらく、鼻に何か強い臭いを感じた。
 かがりは顔をしかめる。しかし、その臭いに何か覚えがあるような気がして、8人は首を傾げた。
「あ、温泉‥‥?」
 トカキの声に、開拓者たちは顔を見合わせた。
 さらに歩いて行くと、熱気が高まり、音は轟音に近く、大声を出さないとお互いの声が聞こえないほどになった頃。灯りの向こうに白い壁が見えた。いや、壁のように見えるがそれはもうもうと立ち上る白い煙だ。
 喪越が「夜光虫」を飛ばす。
 そこは信じられないことに、温泉が確かに湧き出していたのである。ただ「ちょっと浸かっていこうかな」と言えるほどのものではなさそうだ。温度が相当高いであろうことが、表面の気泡でわかる。その熱は強く、息をするのさえ喉が灼けるようだ。
 それでもマテーリャは目を凝らした。靄でほとんど見えないが、「夜光虫」が飛び回る範囲はさほど広くないように見える。ざあざあと音がするからどこかへ湯が流れているのだろうが、滝のようなものは見えない。ということは、さらに地下へと流れ込んでいるのだろう。
 それから──
「戻ろう」
 渓が促す。この状態では進めないし、何よりこれ以上そこに居ては一人か二人は確実に倒れるであろうと思われたのだ。
 足早に離れ、緩いカーブの分岐辺りで灯りを入れ替える。その明るさに、少しだけ息を吐いた。
「‥‥あの、」
 マテーリャの声に、振り返る。暑さでいまでも目眩がするが、マテーリャは今まで描いてきた地図を握りしめた。
「温泉の向こう側に、こちらと同じような穴がありました。もしかして道が陥没して、あんな風になったのかも。いえ、温泉が先かもしれませんが」

 アヤカシが巣くっているなど、迫った危機は今のところ無い。
 だが現状、決して「安全ではない」ことが確認された。
 外気に当たった瞬間、倒れ込んだ開拓者たちを介抱しながら、ウラガーンは作成された地図に見入っていた。