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■オープニング本文 「荷運び‥‥ですか」 ジルベリアのとある開拓者ギルド支部。規模で言えば街になるここでは、子供の世話からアヤカシ退治まで多種多様な依頼が飛び込んでくる。 ギルド員は帳面から顔を上げ、熊のような大男を見上げた。身の丈2メートル超というところか。大男は野太い声で「おうよ」と頷く。 「俺ンとこの炭鉱で今、新しい坑道を掘ってるところでな。人手が足りねぇんだ。そういう時は、開拓者だろ。ちゃんと報酬も用意してあるぜ」 大男はカウンターに太い腕を付いて、乗り出すように喋る。 太い声と迫力にたじろぐが、そこはギルド員。正式な依頼ならばしっかり受けねばならない。 「えっと、それで何を運ぶんです?」 「はぁ? 炭鉱なんだから炭に決まってんだろ。だから火気厳禁な。ダメにされたら、この辺に住んでる奴らだって冬越すのに大変なんだしよ」 「もうすぐ春ですが‥‥」 思わず言うと、大男は太い眉を上げる。それだけで凄みが増し、ギルド員と言えど思わず喉の奥が悲鳴を上げそうになる。ギルド員は戦闘要員ではないのだ。 「あのな、そりゃ一つの例えってもんだ。大体おまえら開拓者にも必要なもんだろうが」 「え?」 大男は大仰にため息を吐く。 「いいか」 「すいません近いです」 カウンターを乗り越える勢いで乗り出した大男を元に戻し、話は続く。 「開拓者は武器を使うだろ? 鎧を使うだろ? それはどうやって作られてるか、わかってんのか? まさか天から降って湧いて出てるとでも思ってんのか? んなわけねぇだろうが。鉱夫たちが炭を掘って、それで火ぃ燃やして職人が鍛えてんだ。てめぇらの命を与る武器を作る為のモンを運べってんだ。できねぇとは、当然、言わねぇよな?」 にやりと笑った顔はどう見ても極悪人だが、当の本人は愛想笑いのつもりらしい。ギルド員は冷や汗を垂らしながら精一杯の笑顔を浮かべて、了解した。 それに満足そうに頷いて、大男は踵を返す。 「あ、ちょ、待ってください! 場所と、規模と名前を聞かないと!」 「おっといけねぇ。言いたいこと言ったから忘れてたぜ」 はっはっはっ、と笑って大男は再びカウンターに肘をつく。どうでもいいが、近い。怖い。 「場所は第38鉱山。炭は荷車に乗っけてあるし、牛も繋げておくからその辺は心配しなくて良い」 「え、じゃあ何が問題なんです?」 「おいおい、牛が荷を守れるか? 車輪を直せるか? まぁケモノやアヤカシなんかが出るような場所じゃあねぇが、たまーに山賊が出るぐらいか。開拓者が揃ってて狙うようなバカもいねぇだろうが‥‥それよりも、まだ大分雪が残ってるし、泥濘があるからな。雪の溝にはまらんように気をつけろ。間違っても荷をぶちまけるようなことはしないでくれ。とにかく、二頭立ての牛車が3台だ。力強ぇのが揃ってる分、気性が荒い。機嫌を損ねないよう、せいぜい気をつけるこった」 鉱山の入り口は山中にある。牛車は炭鉱村の入り口まで鉱夫たちが牽引し、その後開拓者たちに託されることになる。 まず第一の難関は、下りであろう。炭鉱村からギルドのある街までの距離は、牛車の足で一日といったところだが、その半分は下り坂である。下りの内さらにその半分は林道で、急勾配。荷が牛を引かぬよう抑える必要があった。 第二の難関は、何度でも言うが雪である。雪に閉ざされるこの土地でも、ようやく春が近づいてきたこの頃、雪が解け泥濘となる。平坦になってからの後ろ半分は、整備されたレンガ道だ。 「届ける先は、アーマー技術者のイヴァンの倉庫。あー、夜に行くと怒るからよ、この街に着いたら一泊して、そんで朝に届けてくんな。街の入り口にある宿屋には、俺が声かけとくから心配すんな」 以上だ、と身を起こした大男に、ギルド員は慌ててペンを走らせ、声を上げる。 「だ、だから名前を!」 「ああ、名前な。ウラガーンだ。一応、責任者の立場になる。それじゃ、頼んだぜ」 今度こそ満足そうに出て行く大男を、ギルド員はぽかんと見送った。のしのしと歩く背中が見えなくなって、ようやく同僚を振り返った。 「ウラガーンって‥‥あのウラガーン・ストロフ、か?」 「そりゃ‥‥第38鉱山で責任者の立場ったら、あのウラガーン・ストロフ男爵だろ‥‥」 第38鉱山責任者、ウラガーン・ストロフ。 爵位こそ男爵だが、その地位を与えられた時から国営鉱山の運営を任される実力者、そして鉱夫たちからも大層評判が良い、近頃噂の貴族だ。 「まさか、あんな熊みたいな人だったとはなぁ」 ぽつりと呟いたギルド員の声が届いたか、豪快にくしゃみをする声が冬の空にひとつ。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ
リトゥイーン=V=S(ib6606)
27歳・女・陰 |
■リプレイ本文 「ほうほう、これは良い炭やな。確かにこれなら良いもんできそうや。‥‥いい値で売れそうやし」 春の日差しに美しい黒を煌めかせる炭の山。天津疾也(ia0019)はよだれを垂らす勢いで食い入るように見つめた。脳内ではそろばんを弾く音がしている。 「へぇ、なかなか見る目があるじゃねぇか」 「そらなぁ。銭のなる音は何に代えてもたまらんもんやで」 きらきらした目で振り返る疾也の目は文の字だ。 一方、何人かの開拓者たち、また鉱夫たちは目のやり場に困っていた。気になる。だ、だがしかし! 「この時期に荷物を輸送するなんは大変なのよねェン。泥濘はあるし、狙ってくるものはいるし」 「はぁ‥‥案外難儀な仕事ね。それに、このジルベリア。昼間なのにこんなに寒いなんて‥‥アル=カマルとは大違いだわ」 楽そうだから受けたのに、とごちるのは、最近嵐の壁を越えて発見された異郷アル=カマル出身であり、そこに住まう長い耳が特徴の種族エルフのリトゥイーン=V=S(ib6606)。交流もまだ多いとは言えぬアル=カマルの住人は、それだけでも目を惹く存在だ。そして彼女に相づちを打つセシリア=L=モルゲン(ib5665)。 この二人の共通点はそう、はち切れんばかりに存在を主張するその魔乳である。加えて、二人は女性にしてはかなり背が高い。おまけに、セシリアは春とはいえこの寒空の下でセクシーダイナマイトな着こなしであり、また扇情的な仕草。これに翻弄されないでいられるだろうか。いや、いられない。リトゥイーンの着こなしは‥‥その、残念な方向に破壊力があるのだが、その気だるそうな雰囲気に神秘的なものを感じずにはいられない。本当を言えば、どうやって楽をしようか考えているだけなのだが。 「おい。手が空いてるなら手伝え」 声にハッとして顔を上げると、キース・グレイン(ia1248)が炭を積み込んだ荷車に布を被せているところだった。精悍な顔立ちに締まった体、男性のように見えるが女性である。 「はっ、修理用具とかの確認するなりー!」 「予備の車輪や修理用具、飼い葉ならもう積んだ」 すっぱりとキースに言われ、掲げた手のやり場がなくなり、平野 譲治(ia5226)はほよほよと下げる。 「牛も腹減るだろうしねぇ。俺らの昼休憩の時に食べればいいだろぉ」 布の端を引っ張りながら、のんびりとした声で不破 颯(ib0495)。そこへ明るい声が響く。 「準備できたけ? 早く行くさぁ。この時期に雪道なんて、風情があるんさね」 福幸 喜寿(ia0924)は満面に笑みを浮かべて、ぶんぶんと手を振る。天気も上々、気分はお散歩だ。 「ん、連絡のあった開拓者七人だな。そんじゃ、よろしく頼んだぜ」 依頼主ウラガーン・ストロフ男爵は鉱夫たちとほとんど変わらない格好で、牛たちの首を叩いて回ると、にやりと恐ろしい顔で笑う。一応、にっこりと笑ったつもりらしい。 「それじゃ、行こうかぁ」 「とりあえず、この下り坂をどうにかしないといかんね。荷を抑えるのは俺と」 「俺も其方に回ろう。あとは‥‥」 疾也とキースが開拓者たちを振り返る。セシリアとリトゥイーンはそのまま視線を颯へ向け、視線に一瞬たじろぎ、それから早速牛の手綱を握っている譲治の肩を叩いた。ちなみに喜寿はさっさと坂道を下り始めている。 林道、その中に高く張り出した岩がある。その高さは三階建ての建物に相当するだろうか。木々の上から道を見下ろすそれは、恰好の見張り台である。それはもちろん、「それが見える者」ならばだ。 「来たぜ、アニキ。二頭立ての牛車が3台、間違いねェ」 「ふん‥‥鉱夫の連中じゃねェな。開拓者か」 「うん。今朝通った連中だ」 岩の上から木々をぬって見下ろすのは、黒い影。 「ちっ、奴らも姑息な事を」 「けどよォ、女もいるじゃねェか」 下品な嗤みを浮かべる男に、アニキと呼ばれた男が眉を上げる。 「女だろうが開拓者だ、気ィ抜くんじゃねェ」 「わかってるよ。けどさァ、いい女じゃねェか」 ふん、と鼻を鳴らしたその時、三台目の荷車を抑えていた男が視線を上げる。瞬間、開拓者たちの中に鋭い緊張が生まれた。女たちが牛を宥めて周り、荷車の車輪に押さえの板を填めて回る。あの気の荒いので有名な牛たちが煩わしそうに首を振るが、張り詰めた緊張感の種類を既にあの牛たちは知っているのだ。 なるほど、あの成り上がりの貴族は気の合う牛を選んだようだ。 「‥‥意外とヤるじゃねェか」 「アニキッ」 呟いた瞬間、男たちは跳び退る。その数瞬先までいた箇所には矢が付き立った。 くつと笑って、頭領格であろう男は身を翻す。 「撤退だ。‥‥今日のところは見逃してやろう」 「ああら、残念。イケナイコはオシオキしてあげなきゃいけないと思っていたのに」 「面倒なことにならなくて良かったじゃない。天津さんのお陰ね」 車輪止めを外しながら、リトゥイーンが言うと、セシリアは肩を竦める。 「山賊さんたちも大変やろうけどね。さっ、続きも張り切っていくさぁ!」 ひらりと身を翻して先頭を切るのは喜寿。 颯と譲治は大きく伸びをして、再び荷台に手をかける。‥‥これは大仕事だ。 「疾也もキースも、よくこんな重い荷台を一人で支えられるよな‥‥」 「なんや、もう弱音かい。まだ坂道半分くらいやで」 「俺は強力使ってるけどな。男二人で情けない」 言われ、颯は大きくため息を吐いた。譲治は汗を拭い、ぐっと拳を握る。 「た、頼られたら応えるのが筋っ! がんばるーっ! なりよーっ!」 そんなこんなで、道程の急勾配を降りた頃。陽はすっかり中天に上っていた。 「ちょ、ちょっと‥‥あの、休憩っ、休憩しないかなぁ〜?」 「お腹空いたなり〜」 腕をふるふるとさせながら口を開いたのは、颯と譲治である。先頭の牛の荷を抑えていた二人、何がもっとも疲れたかと言えば、実は喜寿である。溶けかかった雪道、しかも坂道を一人で歩く喜寿のペースは早い。牛たちは先頭に立つ者のペースで歩こうとし、それは今にも駆け出さんばかりの早さである。荷が牛を引かないようにするのが役目だったはずが、荷と一緒に牛たちをも抑えることになっていたのだ。 「ごめんなさい! ちょっと浮かれ過ぎてたさぁ」 その言葉、何度聞いた事か。‥‥とは言わない二人は、あんまりにも疲れすぎていた。 ぐったりとする二人の横で、やれやれとキースは牛たちに飼い葉を与える。それから石清水の中に芋幹縄を放り込み、手際よく火を熾す。 「あ、ええのん持ってるな」 「一日かかることは分かっていたからな。‥‥言っておくが、一人分しか持ってきてないぞ」 疾也は「え」と目を見張る。視線を余所へ向けると、颯は殿様おにぎりを頬張り、譲治は石清水を飲んでいる‥‥横で、セシリアとリトゥイーンにヴォトカを取られていた。いっぱいあるからいいけど、とたじたじの態だ。 ふうわりと味噌の良い香りがする。それを物欲しそうに見つめるのは、喜寿や譲治も同様だった。譲治は飲料こそ持ってきていたが、そして牛のご飯には気が付いたが、自分の弁当は持ってきてはいなかったのである。 「お腹減ったなり‥‥」 と、そこへ。 「お弁当〜、お弁当いかがっすか〜」 なんというタイミング。ジルベリアでお弁当という響きはなんだか不思議な感じだが、今はそんな事はどうでも良い! 「お、お弁当ひとつ!」 「まいどっ! ひとつ500文ね。飲物いらなきゃ300文でいいよ」 「助かったなり〜。でも、なんでこんなところに?」 早速ぱくつく譲治に、弁当売りは「なに」と笑った。 「ここの坂って結構キツイだろ? だからここらで昼飯食う運び屋が多いんだよ。ギルドに依頼が出てたのは知ってたしね」 売り上げを満足そうに数えて、弁当売りは来た道を引き返していった。 それから先の道は、実にのんびりとしたものになった。 山道と代わって長い棒を持って先行する疾也と颯の指示に従い、泥濘の箇所では予め用意した木の板を敷いてやり過ごした。また牛たちが大人しかったこともあったかもしれない。出発前に疾也たちを始め、なだめすかしておいたのも効いただろう。そして、 「うーなーおーみー♪ ぃーきーごーそー♪ まっこくさっぷぅっにんっ♪」 なんでだか譲治の歌う謎の唄に、たいそう気をよくしていたのである。 また林道を抜け平坦になった道は見晴らしも良く、泥濘の溝が時折あるくらいで、警戒していたアヤカシやケモノの気配もなかった。 そうして、陽が落ちる前には街へと辿り着いたのである。 ウラガーンの用意した宿は中の下といった所だが、厩や納屋が充実していた。部屋も女性と男性でしっかりと分けられており、豪華ではないが暖かな食事にバーニャ(ジルベリア式サウナ)まである。 「なんだか少し拍子抜けだな」 キースが言うと、野菜のたっぷり入ったスープを珍しそうに食べていたリトゥイーンは肩を竦めた。 「いいじゃない、楽で」 「‥‥まぁ、そうとも言えるが」 「あれ、疾也くん、どこ行くの?」 颯が顔を上げると、疾也が毛布を抱えて出て行く所だった。 「街中やけど念のためな。窃盗対策やね」 「それなら、あとで交代に行こう」 「あ、じゃあ私も見張り行くわ」 交代で、と聞いた瞬間、リトゥイーンが席を立つ。途中で起こされるぐらいなら、最初から起きていてそのあとゆっくり寝ようという魂胆である。どこまでも楽をしたがるのは性分か。 そうして何事もなく‥‥いや、何やら不穏な気配を感じたものの、特に問題無く一晩を過ごし、一行は再び牛車3台を引き連れて街外れへとやってきた。 目的地、アーマー技術士・イヴァンの倉庫である。 「宅配なりよー!」 譲治が声を上げる。‥‥が、返事がない。 「留守かしらァ?」 「ええ? ちゃんと朝に来たじゃない。留守ってことはないでしょう」 こんな寒い中来たのに、とごちると、キィ、と小さく木戸の鳴る音がする。一斉に顔を向けると、奧に小さな戸があり、それが開いたのだとわかる。‥‥が、誰も出て来ない。 「んっ! イヴァンなりか? 宅配なりよーっ!」 言うと、ようやくのっそりと男が顔を出した。しばらく一行を眺めると、首を傾げて宙を見て‥‥何か思い付いたかのように頷くと、手招きをしてまた戸の中へと消えていった。 開拓者たちは顔を見合わせる。 「来い、ってことかな?」 「そうじゃないか」 歩き出すと、途端に目の前の壁が動き出した。多々良を踏む牛たちを慌てて宥め、ぽかんと見ていると、壁は重い石を引きずるような轟音を立てて、建物の半分ほど開いて止まった。 「うわぁ!」 感嘆の声を上げたのは颯だ。 そこには整備中だろうか、アーマーがずらりと並んでいたのである。 のそのそと背中を丸めて歩いてきたのは、先ほどの男だ。背を丸めているせいで正確な所はわからないが、リトゥイーンと同じくらいはある。ひょろりとした体躯、眠たそうな顔で億劫そうに荷台に被っている布を捲る。 「おい、あんたがイヴァンか?」 少し強い語調でキースが言うと、男はようやく人が目に入ったとでも言うかのようにのっそりと顔を向けた。半分閉じかかった目の奧に獰猛な光を見て、キースは眉を寄せた。 「‥‥ああ」 キースの心中を知ってか知らずか、地を這うような低い声でそれだけ言い、イヴァンは炭を手に取った。それを矯めつ眇めつして、打ち合わせる。途端、金属同士がぶつかりあったような高い音。息を呑んだのは開拓者たちだ。 「こりゃ‥‥本当にええ炭やわ」 イヴァンは全ての荷台で同じ事を何度も繰り返し、それからまた宙を眺め、ぼんやりと頷く。 すると、倉庫から弟子だろうか、幾人かの男たちが出てきて、テキパキと牛から荷台を解き、炭を運んでいく。 「‥‥ご苦労。男爵に、よろしく」 それだけ言うと、イヴァンは踵を返した。 「すまんね、開拓者さんら。親方は愛想が悪くて」 「でも、腕は一品なんだぜ」 弟子たちが笑いながら声をかけて、開拓者たちは少し笑う。息を詰めていたらしく、思わず溜息に似たものが漏れた。 「あ〜、できればアーマー工房見てみたかったな」 颯が言うと、弟子たちは気安げに笑った。 「見て行きなよ、せっかくだからさ」 「いいの!?」 思わず歓声に似た声が出て、それをキースが突く。慌てて口を押さえると、師匠には似つかぬ弟子たちが笑った。 「炭運ぶのに時間かかるしさ」 「触ったりしなきゃいいよ。道具とか、特殊なのもあるから」 「親方も、別に文句言ったりしないよ」 ウキウキとして颯たちが入ると、イヴァンはちょっと目をくれただけで、倉庫からその奧へと向かって行く。どうやら、倉庫の奧が工房となっているようだ。 「はぁ〜、満足!」 颯はほっこりとした笑みを浮かべて伸びをする。 「それじゃあ、牛たちを連れて戻るか」 「あー、それも仕事のうちなの? ここまで運ぶのが依頼だったじゃない」 「依頼は家に帰るまでが仕事ぜよ!」 「じゃあ、ここから帰ってもいい?」 「ンフフッ‥‥、もしかしたら帰りにはイケナイコたちをオシオキできるかしらァ」 「怖いこと言うなぁ」 「ん〜。もし来たらお見逃しはできないけど、来ない方がいいけんね〜」 長閑な昼下がり。 荷の軽くなった牛たちにつつかれたりしながら、開拓者たちは鉱山への道を戻り行く。 |