入念準【備序】試前夜?
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/15 20:58



■オープニング本文

 のんびりと歩く計名(けいな)と、それを後ろから睨みつけていた伊鈷(iz0122)が呼び止められた。それは、大典・回上の街に程近い街道沿い。急いで作られたらしい粗雑な詰め所には、煤に塗れてくたびれ切った傭兵風の男が二人。片方は向かって右側、煙を棚引かせる森から一時も目を離さない。
「あー、お前らはこの辺に用事があるのか? 狩りとか採集だったら他を‥‥ そんな感じじゃねえな?」
「おう、これから大典と回上の本屋周りだ。最後の足掻きって奴な?」
 計名の軽口に、傭兵は軽く驚いてみせるが、伊鈷は恨めしげな視線と共に計名の足に踵を落とす。余裕でそれをかわす二人のやり取りに苦笑しながらも、傭兵はなるべく早く切り上げた方が良いぜと告げる。だがそれ以上は首を傾げただけで何も口には出さず、尋ねられても困った風に二人を見返すだけだった。
「どういう意味だろ?」
 歩き始めて直ぐ、まだ許した訳じゃないけどとわざわざ断りを入れてから、それでも気になって仕方が無かった伊鈷が問う。
「どうせ、お偉いさん方の意地か見得の張り合いだろ? ま、足止め喰らって試験に間に合わないなんて洒落にならねえし、さっさと用事を済ませちまおうぜ?」
 気楽に告げる計名の前に、河を挟んだ二つの街が見え始めるところだった。

「やっぱり権力って奴は便利なもんだねぇ」
 空いた口が塞がらないと敢えて口に出す計名の態度も、まあ分かる気はした。霧に閉ざされた山中に発見された『白霞寨』は、短期間の内に大量の資材と人が投入され、一部だが改装を終えていた。兵舎であった『雲龍舎』には様々な部屋が用意される。試験会場と休憩用の大部屋が二つ、試験担当官吏が必要とする諸施設に、当日集められる試験官の待機室。いずれも必要なもので、過度に立派な訳ではない。それでも真新しい部屋の数々には、嬉しいと思う以上に重圧も感じてしまう。
「‥‥税金、急に増えたりしないかな?」
 伊鈷は真剣に尋ねた心算だったが、それを聞いた計名は大笑いを上げ、隣にいた史禅(しぜん)も苦笑を浮かべて応えた。
「なら二人とも、序試くらいは受かって見せないことにはの? 特に計名は、な」
 その続きを聞きだすと呆れた伊鈷だったが。次いで火の付いたようにしばらくの間、憤然と計名を非難し続けたのだった。

「でも、本当に大典・回上の過去問なんて役に立つの?」
「そりゃ、丸呑みは良くねえぜ? 毎年同じものが出る訳じゃないし、そもそも問題を出す諸侯が違うんだ」
 当たり前だろと鼻で笑って返す計名に、思わず拳を握りこむ伊鈷であったが。
「それでもこの辺りは『曹』が治めていた地域。『三書』なら『曹』が纏めたものが一等だし、本も同じ『戦立』が使われている」
 一応対策はしっかりしたんだぜ、としたり顔で振り向いた計名に、伊鈷は指を突きつけて叫ぶ。
「だったら、どうしてそれが残ってないのよ! しかも去年は白紙答案出したとか‥‥」
 意味が分からないと地団駄を踏む相手に、それでも計名は余裕の様子を崩さない。
「それは俺も思う。資料が残ってないのは錫箕(すずみ)に言ってくれ。‥‥それに、受験資格に年が足らなかったのはお前の方だぜ?」
「‥‥はぁ?」
「去年は俺も、仕方なく受けさせられただけだし? お前と公平な条件で試験を受けないで、後で難癖付けられても困るし?」
 だから去年の試験問題、俺は見てもいないんだぜ、と開き直る計名に。本気で頭痛を覚える伊鈷だった。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
鶯実(ia6377
17歳・男・シ
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
今川誠親(ib1091
23歳・男・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
袁 艶翠(ib5646
20歳・女・砲
籠月 ささぐ(ib6020
12歳・男・騎


■リプレイ本文

●慌しい顔合わせ
 珍しく物憂げな主を放って、鶯実(ia6377)は暇そうな船員と楽しそうに言葉を交わしていた。
「君も最初は官僚狙いだったのかー」
 興味津々の様子に、船員も悪い気はしないのだろう。自分が持ち歩いているという書を見せてくれるという話になったようだが、生憎そこで当直の時間となってしまった。それも一旦航路を逸れるという話であれば、目的地まであと少しと緩んでいた雰囲気が引き締まる。
「びじねすはじかんげんしゅ。まわりみちをしても、まにあいますか?」
 緑のうさみみ揺らした籠月 ささぐ(ib6020)が、かくりと首を傾けて問う。だが指示を受ける船員の話を一緒に聞く限り、何時も北回りに目指す発着場を、南回りに変えるだけの簡単なお仕事とのこと。
「でも、ばんぜんをきすのもてっそく。なにかたいへんなことがあるなら、はあくはひっすだね」
 構えていた大きな盾を背負い直して艦橋に向かうささぐに、リィムナ・ピサレット(ib5201)は声を掛けようとしたのだが。エグム・マキナ(ia9693)はその肩を押さえて首を振ると、しばらく躊躇った後、結局その場で項垂れてしまう。
「森の火事、心配だな‥‥」
 ぽつりと呟くリィムナに。エグムは笑みを浮かべたまま、大丈夫ですよと頷いてみせた。

 飛空船の発着場では東湖(iz0073)と錫箕(すずみ)、それに計名(けいな)と伊鈷(iz0122)までもが揃って待ち構えていた。慌しく互いに自己紹介を済ませると、東湖は申し訳無さそうに切り出した。
「頼まれていたものは用意しました。ですが‥‥ そのちょっと、諸侯の方々が難しい状況になっていまして」
 詳しいことは話せないと前置きした上で告げられた話を要約すると。抜け駆けを警戒する大典・回上の各諸侯によって、官吏と仙人骨持ちとの接触がかなり露骨に制限されているのだという。
「科挙試験が近いという事もあるのですが、その、色々重なっておりまして‥‥ 紹介状の用意は無理でした」
 取り出した書類には、めぼしい本屋・古本屋の店名とそこまでの地図。だが近年の試験合格者というと現職の官吏がほとんど。現状での接見は無謀、書庫の閲覧なども厳しい状況だろうという。
 詳しい事情を伏せられているらしい伊鈷は、その事実以上に諸侯の対応が気に入らないらしい。
「政治の場では、中立の立場を貫くのは難しいであろう。事情を知らないなら、それは尚更ではないだろうか?」
 良い機会と思ってみてはと気遣う様子の皇 りょう(ia1673)に、伊鈷は曖昧に応える。だが錫箕が何か言い掛けると、後ろ手のまま器用に土偶の口を押さえ、少々苦しそうにだが笑みを浮かべてみせた。
「それでは、拙者は現役を退いた方に話を‥‥ というのも、まずそれを探すのが難しそうですね」
 今川誠親(ib1091)が途中で口篭れば、地図を見ていた鶯実が反応する。
「私塾の類も調べてあるようですねー。東湖君、良い仕事ですよー」
 いえ、お役に立つようならこちらも嬉しいです、とはにかむ東湖。だがそんな表情は直ぐに引っ込めると、挨拶を残して錫箕と共にその場を去ってしまった。
「まずは腹拵えだな? 何か食いたいモンあるか?」
 震羽の家も拙いんだよなぁと呟いていた計名だったが。経費として受け取っていた財布を掲げると、悪戯っぽい笑みを浮かべて皆に問う。
「この辺り、思ったより冷えるわねぇ。‥‥うん、漁特料理の鍋なんか良いんじゃない?」
 コートをかき合わせた袁 艶翠(ib5646)を振り向く計名に、鶯実はこそりと耳打ちをする。その視線の先には、明らかに当てが外れたと、憮然とした様子の鴇ノ宮 風葉(ia0799)の姿。それに何か算段を始めたのだろうか、こちらの会話を全く聞いていないように見える。
「体を温めるなら、断然香滋料理だな。辛いのは大丈夫なんだろ?」
 目星を付けていた大典の名店に向かいながら。様々な香辛料が使われる名物を語って、計名は皆の期待を煽るのだった。

●科挙試験【序試】
 食事が一段落した円卓で香りの良いお茶を楽しみながら、まずは指針を定めるべく、一行は状況を再確認する。科挙試験の概要を尋ねれば、伊鈷がその接ぎ穂を引き取った。
「科挙にはね、試験と名の付くものが三つあるの。まず二月、各諸侯が選抜目的で行う『序試』。七月に朱春で行われるのが本試験の『正試』。八月に行われるのは『質試』って言うけど、これは面接になるのかな」
「試験は二回ってこった。‥‥ま、序試に受かってからが長いんだけどな?」
 付け足すように言った計名が軽く顔を顰めれば、伊鈷が膨れて見せるところだった。円卓の下で何やら攻防があったらしいが、視線が集まるのを感じて、伊鈷は慌ててその表情を取り繕っている。
「まずは序試、ってのは分かったけど。あんたたちの首尾はどうなのよ?」
 それを気にせず、風葉は機嫌良く問い掛ける。中々食事が美味しかったのに加え、店に来る途中で諸侯「双和」の方ならまだ受験可能と知って、意気込みが変わったらしい。答案とか試験官の護衛依頼がそろそろ出るはずとも聞けば、何とかそれも利用してやろうと考えるのも当然のこと。‥‥尤も、開拓者は試験を受けられても官僚になれないという不文律は、幸か不幸か話題には上っていなかった。
「四経と三書って七冊の書、正試は傾向があるくらいで、ほぼ均等に出題されるな。『得形』は基本から応用まで範囲が広いんだが、序試は諸侯によってかなり特徴的な出題になるっていうのが目の付け所さ。この辺りなら『戦立』の比率が‥‥ どうした?」
 至って当たり前な話をしているつもりの計名が、一行に浮かぶ疑問符の嵐に、更に不思議そうな顔で尋ねる。
「いや、私もいずれは家を継ぐ身。人並みの事は御祖父様に仕込んで頂いたのだが‥‥ その、泰国の勉学となると疎くてだな?」
 恐る恐ると手を挙げるりょうの隣で、ささぐはしきょう、さんしょ、とくけい、せんだち、と難しい顔で繰り返し唱えている。
「そういうことな。えっと、四経ってのは‥‥ 思想書、の類だな。まあ、今回は関係ないんでとりあえず置いとく」
 実際に上がった声や手に、まずは最後まで聞いてくれと計名は先を続ける。
「次の三書ってのが‥‥ 四経ほど固くない、実用書ってところかな?」
 猛然と抗議を上げる伊鈷の口を押さえて、計名は何事も無い様に続ける。
「位置付けの違いって奴だな。学術的には四経の方が古くて箔がついてる。三書は解釈がたくさん出ている分、役立つ話も多いけど俗説も山ほどあるってところだ」
 もがく伊鈷に気の毒そうな視線を送りつつも、鶯実は気付いた点を先に尋ねてしまう。
「そんな状態でも三書の対策なら取れるとー。‥‥計名君はそう思っている?」
「この辺りで三書って言ったら、『双和』が編纂した『戦立』が一等だからな。えっと、確か五代くらい前の当主が編纂したとかで、その功績を持って諸侯に封じられたって話だ」
 やっと抜け出した伊鈷が荒い息をついて睨みつけるが、計名は何処吹く風。
「それでは、まずその辺りを中心に情報収集が妥当、ということですね?」
 確かめるエグムに、計名がお茶に浸した指で『戦立』と机に書いてみせる。
「本屋さんとか探しに行くのはいいけど、その後はどうしよっか? ‥‥このまま、ここに居座るのは悪いよね?」
 リィムナの一言に、分担を始めていたもの、計名と伊鈷に何やら相談を持ちかけるもの、皆がぴたりと動きを止めた。ただ一人、持ち込んできた荷物を漁っていた風葉も、食器の片付いていない円卓を見て、ふむと考え込んでしまう。
「ほんはうりきれているかもしれないね。ならボクは、かったひとをさがしてみることにします」
 しけんがちかいなら、このあたりにとまっているはず。一拍遅れてささぐが頷き、皆の様子にかくりと首を傾げたところで。計名と伊鈷は同時に声を上げていた。

●一時散開
 行く先が決まると、各々必要な地図を手に街へと繰り出した。落ち合う場所は、河近くのある旅館。受験者が泊まる宿は幾つかあったが、皆が作業できそうな広間があるのは一軒だけだった。
「諸侯も人材確保は公務だからな。受験者に良心的で快適な環境くらい提供するってこった」
 合格者が出れば宿の方とて格が上がるようなもの。どこも持ちつ持たれつと悪びれない計名の様子に、伊鈷を除く一行は苦笑いを隠せない。
「ほう‥‥ 『戦立』とは兵法書の類であるのか」
 不意に足を止めた艶翠の視線を辿ると、その先には古ぼけた額装を並べた露店が一つ。その中に「風林火山」と書かれた色紙を見つけて、りょうが驚きの声を上げた。書自体は杜撰であったが、脇には人名らしきもの、そして出典であろう「戦立」の字が書き込まれている。
「ふーん? おばさん、そっち方面は詳しくないんだけど‥‥ 試験受かったら作るっていう、書の準備もしといた方が良いんじゃないかい?」
 それは流石に気が早いと思ったが、直接試験と関係の無い人から物を聞いてみるのも悪くないかも知れない。りょうは、早速店主に声を掛ける艶翠の後を追った。

「参りましたね。確かにこの時期、売れ残っているという方が問題なのでしょうが‥‥」
 何軒目かの本屋を空振りしたエグムは、思わず店先でため息をついてしまう。予想問題集の類は幾つか見つけていたのだが、模範解答が載っているだけの薄っぺらな代物。店主のあからさまに薦め兼ねるという態度もあって、その類には結局手を出していなかった。
「そろそろ一度、宿に向かってはどうかと思うのですが‥‥」
 声に気付いてエグムがそちらを見遣れば、手に風呂敷包みを二つ持った誠親が、背負った老人と問答を繰り返していた。
「ご老体。拙者、約束を違えたりはいたしません。最後までお付き合いいたしますが、この荷を待っている者がいる訳でして‥‥」
 そこが骨董街の入口と分かると、エグムはそれを内心英断と評しつつ。どちらを受け取るかは置いておき、まずは二人に声を掛けるのだった。

「勉強のコツは『頑張りすぎない』かぁ。うん、でもメリハリは大事だってお師匠様も言ってたっけ」
 のんびり歩くリィムナの傍らで、風葉と伊鈷が額を突き合せて紙束を覗き込んでいた。宿に向かう道すがら、暗記のコツを披露し合っていた三人だったが、露店で売られていた「科挙試験速報」なる瓦版を見つけて買い求めたところだった。少々割高だった上に解答は無い。それよりも何よりも、仮名が一切出て来ない文章を見つけて、風葉は素っ頓狂な声を上げる。
「科挙試験って、白文で出るの?!」
「全部がそうじゃないよ? ほら、この辺は三書だし。でも四経は基本的にそうかな、うん」
 温故知新って奴だよねと伊鈷は嬉しそうに、その言葉も三書が由来なんだよと答えるのだが。他の二人は、明らかにそう思っていないようだった。

●合流
(「‥‥凄い事になってますねー。土産、買い過ぎたかなーと思ったんですけど‥‥」)
 ホカホカと湯気を立てる紙袋を抱えた鶯実が、目を見張りつつも頬張っていた饅頭を飲み込んだ。少し広めの食堂には、様々な書が持ち込まれ、そして開拓者以外にも老若男女、様々な人々が集まり、議論を交わしていた。その中の風葉をしばらく見ていると、口に出してはきつい事を言い合っているが、それを受ける周りも険悪な雰囲気は無い。
「おや、鶯実殿? ‥‥これは良いものをお持ちだ。私にも分けていただけないだろうか?」
 何かに気付いたかのように振り返ったりょうが、差し出された紙袋に手を伸ばしつつ、首を傾げる鶯実に答えた。
「この宿は受験者で貸切だったようだが、そのほとんどが降りてきていてな? 最初は互いに遠慮していたが、発破を掛けられた格好にこう、なし崩し的に‥‥」
 だがその口調に戸惑う様子は無く、柔らかい。
「同じ志を持つ者同士、先は長いし、それだけ思うこともあるのだろう」
「若い、といってしまえばそれまでな気もしますが‥‥ 楽しそうですし、ね」
 老人にお茶を運んでいたエグムが近寄ると、水飴の焦げる香りがする紙袋を渡される。
「ああ、焼き栗ですか。ふむ、これは手拭が必要ですね」
 だがそれを用意する前に、気付いた子供たちの歓声が上がると。決して書を汚さぬようにと厳しく言う心算なのに、どうにも相好を崩してしまうエグムだった。

 「戦立」と付く問題を片っ端から風葉が写し取ると、それを整理するのは艶翠の仕事。いくつかに分かれた受験者の卓に被らぬように配り、卓ごとにまとめられた回答が揃ったところでリィムナに渡す。その先では現役を引退した元官吏や学者たちが手薬煉を引いて待ち構えており、「大典」「回上」「双和」それぞれの解釈の違いについて、互いの意見を戦わせていた。これが以外にも冷静に話が進んでいるようだったが、孫のような年齢のリィムナの存在と、その無邪気な質問の数々が大きかったに違いない。世間話すら挟みながら、時々上がる若者たちの大声に笑みを浮かべる余裕を見せながら。系統だった模範解答が次々と作られていった。

「これがもはんかいとう。‥‥ぜんぶおぼえれば、ボクもしけんうかるかも?」
 最後は全員が集まり、出題される優先度を議論しているところだった。絞りに絞っても大層な量が残るだろうが、詰め込めない量では無いかも知れない。
「どうですかね‥‥ 解説を含めて、質の高い内容となってはいるようですが」
 一語一句同じ解答が複数出てくると、最初に疑われるのは粗悪な模範解答の丸暗記だと、今日何度も背負って運んだご老体たちが口を揃えて言っていた。だが議論の行方を聞く限り、結論が妥当であることは認めるが、受験生たちに自説の正当性は曲げる心算は一切見えない。
(「この頑なさこそ、諸侯が対立する理由の一端な気もするのですが‥‥ 判断に難しいところです」)
 深々と息をつく誠親だったが、まだ自分を見ているささぐに気付くと表情を柔らげて応える。
「本音と建前‥‥と言っては、ぶっちゃけすぎですか。この模範解答に対して自分がどう思うかを語れないと、試験の合格は難しいでしょうね」
 部屋の片隅で突っ伏す風葉に毛布を運ぶ鶯実と、まだまだ議論が終わりそうに無い中央卓を見比べると。
「さすが、おとなはたいへんらしい」
 しんみょうなふうにうなずくささぐに、微笑ましさを感じてしまう誠親だった。