【無熱】誰が何処へ?
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/25 00:52



■オープニング本文

 機嫌よさそうな笑顔を浮かべた調(iz0121)が、朱藩の賭博街「遊界」を歩いていた。
(「大祭では朋友将棋、中々盛り上がりましたねぇ。‥‥もう少し数が集まっていたら、どうなっていたでしょうか?」)
 更に盛り上がったかもしれないが、収拾が付かない騒ぎになっていたかもしれない。だがそれも既に終わったことと割り切ると、早速次の見世物は何にしようかと考え始めていた。
(「もう一工夫するのもありでしょうか。こう、最初は番付が何か分からないようにするとか? ‥‥でも規則を増やすのは難しいですか」)
 先の様子の読売と講釈は中々うまいこと行っているが、年末年始には何かもっと、めでたそうな興行を打ってみたいと考えていた。
(「宝とか福とか‥‥ っと、通り過ぎるところでした」)
 遊界に唯一存在する質屋「逆転屋」の暖簾をくぐると、店主の田野吉は珍しく難しい顔で机の上に置かれた何かを、腕を組んで見つめていた。
「もうかりまっかー、田野吉さん?」
「まあ、ぼちぼち‥‥ ってなんや、調の旦那でっか」
 綻ばせかけた笑みを途中で止めた田野吉は、珍しく迷うように調を手招いた。
「なあ、調の旦那。これ、何に見えるやろか?」
 指差す先には、杉で作られた木の枡と、それを蓋していたであろう上質の紙と飾り紐。そして枡の中には、白いふわふわとしたものがみっちりと詰められていた。
「‥‥もふらさまの毛、とかではないですよね。普通の綿に思えますが、これが何か?」
 しばらく凝視した後、そう答えながら止める間も無く指先で突いて見せる調。
「偽物かいな‥‥ やっぱり欲をかいたらあかんわ」
 別に変わる風でもないその様子と、言葉の意味することを理解すると、田野吉は額を手で叩きつつ天を仰いでいた。

 どうやら最近、この辺りで「溶けない雪」と銘打たれた品物が出回っているらしい。曰く「手の平に掬っても決して溶けない雪」で、「どうやら今年の真夏に降ったもの」だとか何とか。冬に降った雪を氷室に詰めて夏まで保存するという話は聞くが、そもそも夏に雪は降らない。‥‥まあ、雹という同じ様なものが降って来る可能性が無いではないが。
「これは溶けようがありませんね‥‥」
 遠慮なくその仔細を調べ終えた相手に、田野吉は頭を振りつつため息をついた。
「何度か質草として扱った事はあるんや。せやけど最初はその器込みで質草やったし、ガラスの器に入った奴とかは、確かに粉雪みたいやったで」
 しばらくその辺の棚に置いとったから、普通の雪なら解けてたはずやと断言する。
「詐欺っぽい話は『後始末団』の方に任せるとして‥‥ その本物、気になりますね。そのハズレ以外、他には無いのですか?」
 蓋の開いていない二つの枡を指差す調に、まだ贋物と決まった訳ではあらへんで、としたり顔をしながらも。
「木箱に入った小さな壷のんが一つ、巾着袋に入ったのが一つ‥‥ ありゃ?」
 帳簿を捲りながら、質草を確認しようとした田野吉が声を上げて固まった。
「よりによって‥‥ もう踏んだり蹴ったりやわ」
 意気を落として座り込んだ田野吉は、育ちが良さそうなボンとその相棒の猫又しか今日は客が居なかったことを告げながら、そのままがくりと肩を落とす。
「本物が一つでもあれば、それも含めて全部買い取りますよ? ただし、確証は必要です」
 そこはまかりません、と笑顔で一歩も引かない調に対して。田野吉は少し考える様子をしながら、どこから開拓者に話を通そうか、算段を始めていた。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
ルヴェル・ノール(ib0363
30歳・男・魔
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
白仙(ib5691
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●事情聴取
「ちょっと甲高い声が聞こえてな? 帳簿から顔を上げたら思った通り、ボンが入り口から顔を覗かせとったんや」
 推定下手人の話を聞かせて欲しいというと、への字に結んでいた口を開いて田野吉が応える。
「年の頃は‥‥ 背の高さも、あんさんと同じくらいやったな。一見地味やが、目ぇを引く長着やったわ」
 羽喰 琥珀(ib3263)を入口に立たせて比べてつつ、服は全体茶色っぽい、あれは芒に紅葉の意匠だったんやろうなぁと零す。
「その時、猫又は一緒だったのかな?」
 恵皇(ia0150)の問いに、田野吉は首を捻って考え込む。
「いなかったみたいやなぁ。『中を見ていいですか』って礼儀正しく聞いてきて、しばらく物珍しそうにその辺の棚で一々声を上げ始めたんや。‥‥その様子に安心して、目ぇを離したんが拙かったんやな」
 声が増えたのは、質草を店の奥へ取りに行った時のことやったと悔しそうに続けた。
「なぁなぁ、どんな話か聞こえなかったか? そいつら、名前とか呼んでなかったか?」
「今思えば、声を潜めてたんやろなぁ。そんでも楽しそうな気配やったから、あんまり気にも留めんかったんや‥‥」
 威勢良く詰め寄る琥珀に、お互い呼び合ってはいたが内容までは聞き取れなかったと首を振る。
「それでも、その相談相手は猫又だったと?」
「表に戻ると、丁度ボンが店を出るところでな。その足元をするっと茶色い毛玉が走り抜けたんや。その尻尾は二又に分かれとった」
 それは確実ですねと、問うた葛城 深墨(ia0422)も筆を走らせつつ深く頷いてみせる。

「‥‥その、皆さんは‥‥ 少年と猫又がその質草を‥‥店から持ち出したと思っていますか?!」
 勢いをつけようとして声の最後を上擦らせてしまった白仙(ib5691)は、皆の視線を受けて、力んだ以上にその顔を朱に染める。
「そうだねぇ。これまでの話を聞く限り、そう悪質な客ではなさそうだし。案外、まだ店内にあるんじゃないかな?」
 深墨は身を縮ませる白仙の肩に軽く手を置きつつ、田野吉に苦笑を向ける。
「アーニー、私が気になっているのは、何処かの誰かがそれをアッサルジュ、商品として扱っているのではないかということです。詐欺はハラーム、禁忌ですが、商売であれば手助けできると思うのです」
 モハメド・アルハムディ(ib1210)が声を上げれば、口を挟んだのはルヴェル・ノール(ib0363)。
「心当たりが無いでもない。同じものかどうかは判断つかないが‥‥ ふむ、少しその辺りの情報を仕入れてみるか」
「皆『雪』って言葉を気にしているけど、それは本当に『物』なのかなぁ?」
 考え深げに呟いた琉宇(ib1119)だったが、それを聞きとめた白仙には軽く首を傾げて笑みを返すのみ。
「よし、ならここで一旦手分けだな。俺と琥珀はボンと猫又を探しに行こうと思う」
「なぁ、恵皇。後始末団にも一応挨拶しといた方が良いんじゃねえかな? ほら、大騒ぎになる前にさ」
 騒ぎが前提かよと呻く恵皇に、それを不思議そうな顔で追いかける琥珀。
「じゃあ、僕らはそれ以外の噂集めかな?」
 琉宇が告げれば、モハメドとルヴェルも頷き、店を出る。
「‥‥えと‥‥」
「んじゃ、俺らは店内の捜索だな。責任重大‥‥だけど。まあ、ゆっくりやろうか」
 しゃがみ込んだ深墨が笑いながら白仙を見上げて、肩の力を抜かせると。密かに楽しみにしていた店内の質草たちに、ようやく目を向けたのだった。

●外回り
「な? 寄って正解だったろ?」
 胸を張ってみせる琥珀の頭をいきなり掴むと、その髪の毛を恵皇は力一杯かき回す。その間にも、詰め所には小者が一人入ってきた。
「手前共は七背の四辻で団子を商っております。『客を集めてやるから団子を寄越せ』と申す‥‥」
「で、被害は?」
 酔っ払った風の猫又だろう? と団員に重ねて問われると。その苦々しげな雰囲気と、周りの生暖かい視線に戸惑いつつも、小者は事の次第を端的に告げる。
「へい、団子が一皿と、まずまずの人だかり。親方は嬉しい悲鳴を上げておりますが、おかみさんは目潰しを食らったという客の苦情に掛かりっきりといった按配でして」
 似たような騒ぎが起きたら大変だと、親方の指図で報告に来やしたと話を結ぶ。
「そりゃ被害どころか、良い宣伝じゃないか。早く戻って手伝ってやんな」
 その話には愛想良く返事を返す団員だったが、愚図愚図残っていた三〜四人の男共には顰め面を見せて追い払う。
「なあ、七背の! あんたのところが一番長居してたみたいだ。その猫又の話、ちょっと聞かせてくれねえか?」
「えー!? 早いとこ探しにいった方が良いんじゃねえか?」
 首根っこに伸びてきた恵皇の腕をするりとかわすと、琥珀はそのまま他の者たちと一緒に駆け出して行ってしまった。恵皇は呆気にとられる七背の使いに苦笑いを見せる。
「何、手間は取らせねえよ。店に着くまで歩きながら、ちょっと世間話に付き合ってくれねえかな?」
 人助けと思ってなと片手で拝んで目を瞑って見せる恵皇に、要領を得ない小者であったが何とか頷いてみせると。二人はともかく歩き出しながら、小者が聞いたという猫又の口上から話は始まったのだった。

「お立合いのうちに御存じのお方もござりましゃうが」
 街の人だかりを見つけてはそれに潜り込んでいた琥珀は、朗々と声を響かせている茶色い毛玉を見つけてまず己の口を押さえた。そこは本来露天の座席なのだろうが、赤い毛氈の敷物と即席ながら風除けとして立て掛けたのだろう番傘。何より傍に置かれた杯と火鉢に満足げな様子で、足を揃えて座り込んだ猫らしきものが講談を打っていた。その二又の尻尾が機嫌良さそうにぺんぺんと調子を取っているが、もとより人語を話す猫なぞ、猫又以外にある訳が無い。
 時々混ざるしゃっくりに、良く見れば瞳は妙に濡れっぽい。杯を満たす透明な雫からまたたびの香りが漂ってくれば、今まさに火皿に油を注いでいるところであるらしい。だが観客の様子は概ね良好、火種がないのは幸いというところだろうか。
 それでもその猫又の首元に聞き覚えのあるものを見つけて、琥珀は更に手に力を込めた。そこに下がった巾着には、落ち穂を啄む数羽の雀に鶉が刺繍されている。
(「間違い無いな。早いとこ取り戻‥‥したいところだけどなぁ。‥‥店に迷惑掛けちゃぁ、拙いよな?」)
 真剣に小噺を続ける猫又に、それに聞き入り合いの手を入れる楽しげな客。邪魔をするのは野暮だし、何より聞いてて楽しいし。
(「‥‥終わってからの方が、良いよな?」)
 琥珀は口を塞いでいた手を一旦降ろすが、すぐに筒状に口に当てると。周りに倣って威勢の良い声を掛け始めるのだった。

●内回り?
 ルヴェルが真っ先に当たったギルドから「溶けない雪」に関して芳しい回答を得ることは出来なかった。以前の依頼を引き合いに出してみたものの、その時同行した依頼調役は不在、関連調査の引継ぎ後任は泰国へ出張中だとか。
 だが少なくとも「朱藩で夏に雪が降った記録は無い」という保証を貰うことができた。尤も「雹ならその限りでは無いだろうし、わざわざ記録に残すほどのことでもないのでは?」というのは応対したギルド職員の弁。
(「確かにその通りではあるのだが‥‥ まあ、雹とは関係ないことを願っておくか」)
 朧げな記憶から雪綿の感触を手繰りつつ、他に数箇所の賭場を回ってから逆転屋へと戻る。そんなルヴェルを迎えたのは、穏やかな二重奏と笑い声、そしてそれに似合わない素っ頓狂な叫び声だった。
「どうしたというのだ? その‥‥ 店の外まで聞こえるような大声など出して」
「どうしたもこうしたもあらへん! わいが騙された小噺を作ったらどうやと来たもんや! 正気の沙汰やあらへん!」
「えー‥‥ 折角作曲までしてあげたのに‥‥」
 恨めしげに見上げる琉宇と、ナァムと重々しく頷くモハメド。振り返って睨みつけた田野吉だったが、その脇で苦笑する調を見ると、思わず肩を落とす。
「いやいや、今のは中々面白かったです。何より、無かったことにするのは勿体無いというもの。ここは一つ、田野吉さんの名前を伏せる方向で‥‥」
 遊界の質屋いうたらバレバレやんかと更に声を高める田野吉に、なら場所は理穴の拳風とかにしましょうと慌てず騒がず相手を座らせる調。透かさず送られた目配せを察した琉宇とモハメドは、苦笑しながらも心穏やかな『口笛』を爪弾きつつ、何時の間にか金額交渉に入る二人を差し置き、互いの情報を交換し始めた。
「アフワン、すみません。アッサルジュについては、何一つ得られませんでした。後始末団が既に動き出しているせいでしょうか、皆少々、口が堅くなっているような気はしましたが」
 読売を回っていたモハメドは、それでも「夏の悪天候で大打撃を受けた氏族があったようだ」という噂話を聞きつけていた。ただし場所については朱藩ではないという以外、具体的な情報は得られなかったとのこと。
「僕は頓知か何かが流行ってるのかと思ったけど、雪に関する話は無かったよ」
 酒場を中心に聞き込みをしてきた琉宇は、笑い話自体はいくらか仕入れることが出来たらしく、中々に満足の様子。だがルヴェルの話を加えても今一つ見通しが立たない状況に、思わず黙り込んでしまった。
「ふむ、このままでは埒が明かないな。質草の捜索に加わった方が良いだろうか?」
 顎に手を当て、伏せていた顔を上げたルヴェルに、悪戯っぽい笑みを浮かべて琉宇が首を傾げる。
「ラ、もう少し続けていた方が良さそうですね。競争原理上、田野吉さんへの加勢も必要でしょうし」
 劣勢を援護するべく腰を上げたモハメドを見送ると。琉宇がその様子に楽しそうな笑みを向ける中、ルヴェルは何とはなしに、未開封の枡に手を伸ばし、手の中で転がしてみるのだった。

「へぇー。『玉藻御前』に『コノハナ』とはねぇ。‥‥こっちは『西洋人形』ときたか」
 良いものを見たと感心する深墨に、その辺はまだ流れてへんでと釘を刺す田野吉。
「これは‥‥『五人張』ですか? うーん、本当に業物ばかりではないですか」
 こちらは別の棚、長物に目をつけた調が弓に珠刀に薙刀と、次々に銘を当ててみせては嘆かわしそうに息をつく。
 だがそんな様子に白仙は脇目も振らず。今朝まで壷があったという棚を中心に、それらしき箱を引っ張り出しては田野吉に確認を取っていた。手の届かないところは足場を使い、気付いた深墨や調の手を借りる。一通り調べ終わる頃には琉宇とモハメドが帰ってきたが、目当てのものは出てこなかった。
(「‥‥やっぱり‥‥ ここには無いのかな‥‥?」)
 呼び掛けにも気付かず、その場に俯く白仙。その前に屈みこんだ深墨と、その視線に我に返った白仙は、ほぼ同時に小さな物音を聞きつけた。鼠かな、と互いに思ったことにこれまた同時に気付くと、やはり一緒に吹き出してしまう。
「昼寝を邪魔したことを謝るべきか、それとも質草を齧りに来たことを怒るべきか‥‥」
 そちらを見遣った深墨が体を強張らせれば、その音が地面近くから聞こえたことに声を上げていたのは白仙。
「‥‥そうだ‥‥ 相手は子供‥‥ ならもっと、低い目線でみなきゃ‥‥」
 白仙が振り返った先には、部屋の片隅に鎮座する少々大きめの壷。一度顔を見合わせた二人がその中を覗くと、そこには瓦版をくしゃくしゃにしたものが幾つかと。その上に小さな手の平に乗る程度の木箱が丁寧に置かれていた。

●真贋判定?
 戻ってきた琥珀は引っ掻き傷を作っていながらも、意気揚々と巾着袋を突きつけてみせた。慌てて『神風恩寵』を使って手当てする白仙に笑顔で礼を言いながら、その時の様子を自慢げに話す。結局些細な茶々を入れた男に飛び掛った猫又を押し戻し、その際に翻った巾着を居合で刃先に引っ掛け、そのまま取り戻したのだという。
「大丈夫、猫又にも巾着にも傷一つ付けてねーぜ? そのまま追いかけようとも思ったんだけど、まずはこれを届けてからかなって思ってさ」
 ようやった、と田野吉が諸手を挙げて喜ぶ中、最後に戻ってきた恵皇は、すっかり疲れ切った少年を連れていたのだった。

 頭を下げる少年とそれに食って掛かろうとする田野吉を押さえながら、恵皇は掻い摘んで事情を話した。少年と猫又、互いに気に入りの一品を見つけたが、生憎手持ちが足りなかったこと。売れてしまわないように他の場所に一旦隠そうとしたこと。それでもどうしても身から離したく無いと駄々を捏ねた猫又が巾着を持ち出したこと。
「近くの茶店で待ち合わせるはずが、どうもそこで天儀酒でも飲み始めちまったらしくてな? 殊勝なことに、そのお詫びに店を回っていたこいつと、七背の店でばったり会ったって訳だ」
 普段は大人しいのですがとボンが一層体を縮みこませれば、皆の手前もあってか、田野吉も渋々ながら矛を収める。
「それにしても、都合良く小遣いなんて貰えたねぇ?」
「僕の誕生日は昨日だし、『くりすます』も近いでしょ? 二つを合わせて良いから、どうしてもってお願いしたんです」
 ‥‥その時の親御さんの表情を思い浮かべ、一行は少々居た堪れない気になったのだった。

 猫又を追うというボンを後始末団の詰め所に送り届けた恵皇が戻ってくると、机の上には「空」の器が四つ置かれていた。残る一つは「綿」が詰まった最初の枡だ。
「何だ、結局全部ハズレだったのか?」
 さばさばした恵皇の問いに、今度こそ無言で肩を落とす田野吉。調は謎めいた笑みで首を傾げていれば、他の一行も何やら悔やむような顔をしている。
「つい先程までは、確かに何か入っていた気がするのだが‥‥」
「俺も俺も! もうちょっとこう、ふっくらしていた気がするんだけどなぁ」
 ルヴェルと琥珀が声を上げるが、確証となるものではない。田野吉も目方を量っていた訳でもなく、そもそも何も残っていなければ確かめようが無い。
「ナァム、図らずともこれで全部『贋物』との判定は出来た訳ですが‥‥」
 告げるモハメドの声は平坦だが、気の毒そうな表情は隠す心算がないらしい。
「‥‥その‥‥ お土産話にしては‥‥ あんまりな結末‥‥ですよね‥‥?」
 ぽつりと呟いた白仙が顔を上げると、自分に集まっていた一行の視線に面食らう。その様子に関わらず、琉宇と琥珀は楽しげに声を上げた。
「そうだね。『土産話』なら、僕たちの領分だよね」
「なぁなぁ、だったら色々詰めてみねぇか? 『夏に綿みたいな花を咲かせる種』とかさ!」
 顔を見合わせるのは恵皇とルヴェル。
「確かに得体の知れないもんよりは、余程安全だとは思うけどよ?」
「調と田野吉殿。二人が納得するなら、それでも良いのではないだろうか?」

 話を聞きつけた田野吉は、商売人根性を露わに調に話を吹っかけると。開拓者をも二分した大商談を、何とか纏めてみせたのだった。