海の使いの接待?
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/01 20:24



■オープニング本文

「これをですね、色々な人に試してもらいたいんですよ」
 開拓者ギルドにやって来た調(iz0121)は、理穴で試作したという何やら液体の入った小瓶を差し出しながら続けた。
「へちまから作った化粧水です。特産の地方では輪切りにしたものを直接肌に乗せるそうなのですが、流石に実のままでは扱い辛くてですね」
 苦労しましたが何とか季節に間に合いましたと、にこやかに告げる調。その話を聞く西渦(iz0072)も興味津々瓶を取ると、早速蓋を開けて手に垂らしてみる。
「それで、何でまたギルドに依頼を? 植物由来で変な混ぜものもなさそうだし、開拓者でなくても大事になりそうないけど?」
 西渦は透明な液体の香りをかぎ、指で手の甲に馴染ませつつ尋ねる。その指摘を予想していたらしい調は、あっさりとその訳を打ち明ける。
「勿論、色々な人に試して貰いたいというのはあるんですよ。でも本命は、また将虎さんの相手をして頂きたいなと思っていまして」
 今年の春先から、既に二度三度と依頼を受けている身体の弱い姫のお相手。今回は海に挑戦したいと思いつつ、波とか潮とか夏の日差しとか、未知のものに物怖じしているとか。人混みも苦手ということで早々に砂浜の一部を借り切ってみたものの、この依頼の話を含めて漸く訪れる目処がついたということらしい。
「一応前日に向かって貰って、この化粧水の試用をしながら準備を整えておいて欲しいんです。有名な観光地ですから危険も無いでしょうし、大した準備が必要とも思えませんが‥‥」
 それでも何かありましたら、事前に穏便に対処していただくということで一つ、とにこりと笑顔で告げる調に。依頼調役に自分の名前を入れつつ、早速依頼書を書き上げた西渦によって掲示板に貼り出されたのだった。

 そうして西渦と共に、一行が訪れたのは朱藩でも古くから海水浴場として有名な『南志島(なんしじま)』。今年になって神楽の都から大型旅客飛空船まで就航するようになり、ますます賑わいを見せていると専らの話。空は快晴、波は穏やか。照りつける日差しは容赦ないが、逆にそれが心地良く。絶好の海水浴日和に違いない、のだが。指定の砂浜には、地元の漁師と思える人々が二手に分かれて何やら言い争いをしているよう。
「海から来てくださった御使い様じゃ、祭壇に祀って何が悪い!」
「その籠が祭壇たぁ、この罰当たりめ! そんな事言って、どうせ食っちまうつもりなんだろう!」
「‥‥確かに亀って美味いよな?」
「待て待て! 曲がり形にも御使い様、魚が取れなくなったらどうするんだい!」
「漁なんか、もう良いじゃねえか。これだけ人が来るんだ、観光で何とかなるって」
 何やら十数人の人々は、次第にそのまとまりを失っていく。
「あー‥‥ 確かに、気持ち良さそうに泳いでいるわね、海亀。あれとこれ、何とかしないといけないのかしら?」
 海と砂浜、二手を見比べ息を吐く西渦であったが。
「ま、常套手段は煙に巻くより、遺恨の残らない方法で白黒付けることよね。ほら、まずはあの人たち、二手に分けるわよ?」
 一行に声を掛けると先頭に立ち、白熱する話し合いの場へと乗り込む西渦だった。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
空(ia1704
33歳・男・砂
水津(ia2177
17歳・女・ジ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志


■リプレイ本文

●状況整理
 そろそろ昼餉の用意をしなくてはと誰かが呟くと。島民たちは一斉に我に返り、慌てて家に戻っていった。残された一行は漸く静かになった砂浜で、思わず顔を見合わせ苦笑いしてしまう。
「俺たちもまずは腹ごしらえかな。って、この辺りは店も何も無いんだねぇ」
 見回して動いているものといえば、海をのんびり泳ぐ件の海亀くらい。思わず和む葛城 深墨(ia0422)であったが、当然そんなものでは腹はふくれない。
「何なら、わしがちょっくら獲ってこよか。なーに、そんなに手間は取らせんよ」
 火の準備だけしてくれてたらええしと、肩から掛けた銛と網を砂浜に置き、斉藤晃(ia3071)は早速服を脱ぎ始めようとする。
「でも斉藤さん。島民の皆さんが居ない所では、まだ海には入らない方が良いんじゃないでしょうか‥‥?」
 優雅に日傘を差した水津(ia2177)が首を傾げて呟けば、紬 柳斎(ia1231)も頷き同意する。
「そうだな。あまり誤解を招くようなことは避けた方が得策かもな。‥‥それに露天では、待つにも少々日差しがきつい」
 手を当てて見上げた空から、あまりの眩しさに首を振って訴えれば。
「静かなのぉはこの辺だけだぁろ。偵察も兼ねぇて、ちょっと動いてみちゃぁどうだい?」
 飛空船には、あれだぁけ人が乗ってたんだ、と犬神・彼方(ia0218)が皆に声を掛ければ。確かに気になっていたとばかりに、風上から流れる音と香りを目指して、海岸線を南下する一行であった。

 砂浜を歩き、ちょっとした岩場を越えた先には、皆が思う通りの海水浴場が広がっていた。色とりどりの水着をまとう人々が波打ち際で跳ね回り、沖まで泳ぎ、そして砂浜で甲羅を干す。そんな様子を海の家から目にした一行は視線を戻すと、運ばれてくる料理を突きつつ、この後の作戦を話し合う。
「どうにも曖昧な話や。でもまあ、はっきりした理由が無いんやったら、どっちに転んでもええんと違うか?」
 一通り島民から聞いた話が出尽くすと、軽い調子で天津疾也(ia0019)がまとめてみせる。基本的に海亀と魚の獲れる量に関連する話は、だが挙げてみれば中身はばらばら。亀を祀ると豊漁になった時も、全く獲れなくなった事もあったとか。
「将虎はさ、そういうの色々気にするみたいだから。俺は祀るとか食べるとかって話にはしたくないんだよね」
 ぐっと箸ごと手を握ってみせる羽喰 琥珀(ib3263)に、思わず顔を緩めながらも頷く一行。俺も、その子には海を泳いでいる亀を見て欲しいしと深墨が笑って告げれば、疾也も金の卵は産ませてこそや、と大真面目に頷いてみせる。
「なら問題は、どうやってあそこの人たち納得させるかよね。豊漁も商売も明日までには結果なんて出せないし、浜辺の方も色々準備は必要そうだし」
 浜焼きの準備もしないとね、と真面目な顔で西渦は呟く。‥‥疑わしそうな一行の目線には、勿論明日の依頼人のためによ、としれっと答えてみせる。
「だったら水泳でも水球でも、適当な勝負事で決めちゃあどうだい。俺ら何人か紛れりゃ、勝つも負けるもどうとでもなるだろ?」
 浜辺からずっと面倒臭そうだった空(ia1704)だったが、冷たいエールを傾け焼きそばを頬張る内に多少は機嫌も良くなったらしい。舌鼓を打つ合間に呟いて見せれば、残る一行はそれだと一斉に叫ぶ。
「西瓜割りとか綱引きだと、浜辺を占領してしまうしね。それに水辺なら、海亀に慣れてもらうのにも丁度良いんじゃないかな」
 深墨がまとめて見せれば、じゃあ午後は忙しくなるわね、と皆は顔を見合わせ。とりあえず心配事はもう残ってないとばかりの勢いで、改めて腹ごしらえを始める一行だった。

●勝負開始、そしてその隙に
 海の家で着替えを終えた一行は、気合いも新たに砂浜に戻ることとなった。
「そういえば糸瓜水って‥‥ どのタイミングで塗るものなのでしょうね‥‥?」
 その道すがら、新しい化粧水に興味津々だった水津がふと呟けば、誰も肝心の使い方は聞いてこなかったことに気付く。
「肌の調子を整えるって言うんだから、寝る前とかで良いと思うけど‥‥ 気になる人は浜辺に出る前にも塗っておきましょうか?」
 折角だから半々に分かれた方が良いかなと西渦が提案すれば、女性陣が全員手を挙げて半数が埋まる。
「んー、俺は自分でつけるより塗ってあげる役がいいんだけどねぇ」
 呟く深墨と目の合った西渦は、結夏さんに言い付けるわよと笑顔で切り返しておき。浜辺に着いたところで簡単な囲いを作らせ男性陣を追い払うと、まずは思い思いに糸瓜水を試してから浜辺に出るのだった。

 流石に日差しが強い時分。中々島民が集まらないのを気にしてみたものの、仕方が無いかと悟ってみれば。それなら今のうちに準備を進めてしまおうと、一行は早速作業を開始する。少々奥まった場所には屋根つきの結構立派な陣屋が立てられ始め、浜の端の方には念のため『本日貸切』と達筆で認めた看板が用意される。そうこうしているうちに島民が集まりだすと、一旦作業を中断して、まずは晃が話を切り出した。
「敬いの心があるなら、亀だけ食うたらあかんっちゅう話は無いと思うんや。だがな、やっぱり中途半端はいかん」
 そう語る声は大きく乱暴だが、場を静まらせるには効果的だった。
「十分腹は割って話した、ほんで両方の言い分も分かるんじゃろ? だったらここらで勝負して、はっきり白黒つけたらええ」
 ただし恨みっこ無しや、と笑みを浮かべて見回せば、だがどうやって、と島民から疑問の声が上がる。
「何でもいいんやが、そうやなぁ。‥‥海の使いのことや、泳ぎ比べとか、そんなんにしたらどうや?」
 そんなことで良いのかと目を丸くするもの、逆に胸を撫で下ろすもの、反応は様々ではあったが。
「どっちにしたってこんな美味しい話、放っておくなんて信じられんわ! 時は金なり、さっさと決めて動かんと損するだけやで?」
 島民たちの迷いを見計らって、疾也が景気良く煽り始めれば。まずは二手に分かれた作戦会議、種目と参加する面々を選ぶための新たな議論が始まったのだった。

 沖まで漕ぎ出された二艘の小船がおよそ数百メートルほどで止まると、乗り込んでいた数人の若者たちが手を振り始める。浜には人だかりが出来ており、その中央にはこれまた睨みあう二人の若者。静かだが緊張に満ちたその場は、西渦の威勢の良い合図に一斉に弾けた。
「よーい、どんっ!」
 上がった歓声に、砂浜を走り海に飛び込む音が重なると、二人は沖の小船に向かって泳ぎだす。そんな様子を眺めていた彼方だったが。陣屋に戻って腰を下ろすと、どこか呆れたように首を振ってしまう。
「この暑い中、皆良ぉくやる。‥‥あれが若さってやつかぁね」
 それを聞きつけた柳斎は、親父殿もまだ若いだろうと苦笑いを零す。
「かわりの冷茶は頼んでおいたよ。本来は明日向けのものだが、今日も酷く暑い。誰かに倒れられても困るしな」
 昼食時に浜茶屋の青年と何か話をしていたとは思ったが、どうやら冷たい物の出前を頼んでいたらしい。ま、拙者のこれのついでなのだがと頬を掻きつつ見せるのは、氷の詰まった桶とそこに埋められた酒徳利。
「お、良いもん抱えてるじゃぁねえか。気が利くっていうかぁ‥‥ いやそれより油断も隙もねえってぇ方か?」
 ま、細かいことは気にするだけ野暮ってな、と顔を綻ばせる彼方に素直に杯を差し出しつつ。柳斎も幸せそうな笑みを浮かべて、良く冷えた徳利を桶から引き抜いたのだった。

●遺恨無き戦い(?)へ
 両者の対決には浜辺と沖の小船を往復する泳ぎ比べが選ばれ、そしてそこでは接戦が繰り広げられていた。亀を祀る側に晃、反対する側には琥珀と深墨を泳ぎ手に交えての真剣勝負。琥珀が波に揉まれて大きく進路を見失う一幕こそあったものの、逆にそれが功を奏して終盤まで盛り上がりを見せていた。
「ここで間髪入れずに止めの手を打っておこうと思うんやけど‥‥」
 思案顔で疾也が西渦の耳元で何か囁けば、驚いた様子を見せながらもあっさりと承諾する。
「まあ、交渉事に接待は付き物よね。少し多すぎたかなとは思っていたし、使って貰って構わないわよ」
 観戦を楽しんでいた西渦は上機嫌に答えていたが、唐突に我に返って言を継ぐ。
「っと、それなら食べるものも用意しておいた方が良いわね。‥‥今ならまだ間に合うかしら?」
 空の器を荷車に積む浜茶屋の店員に目を付けた二人は、顔を見合わせると早速そちらに向かって走り出していた。

「えー、では続けて第二回戦! まあなんや、名目みたいなもんやろ、実際?」
 うれしそうに大杯を構えた晃がぶっちゃければ、大笑いが返ってくる中。
「ほな、飲み比べ始めよか。まずは乾杯やっ!」
 乾杯の唱和に続いて一瞬の沈黙。杯が干されると一頻り拍手が続くが、直ぐに威勢の良い掛け声叫び声が重なっていった。

 泳ぎ比べによる「亀はそのまま放置」の決定は、島民に概ねすんなりと受け入れられた。体を動かし大声で歓声を上げたことで今までの鬱憤を晴らせたというのもあるのだろう。さっぱりした顔が多い中、だがやはり、難しい顔をする老人や不安げな様子の若者もいるにはいる。だから彼らが否定的な言葉を発する前に、疾也や西渦が持ち込んだ天儀酒の酒樽の他、浜茶屋から運んだ料理を茣蓙に並べて先手を打った。
「もしかしたら、判定に縺れるんやないかと思ってな? 次の勝負を用意しといて見たんや」
 まあその調子やと必要ないかもしれんけど、と疾也は敢えて頬掻いてみせるのだが。
「無駄にするのも、馬鹿らしいだろ? ほれ、皆座って、一杯やっていけよ」
 無造作に堂々と、空が声を掛けつつ座に腰を下ろせば、その手招きにしたがって島民たちもおずおずと座り始める。透かさず柳斎や水津が天儀酒を注いだ枡を配れば、そのまま乾杯の音頭へと雪崩れ込んだ次第である。

「海亀いうたら、もうそれだけで観光名物や! 泳いどる所を見に来る奴らを見込むだけでも、がっぽりやで!」
 商売の心得を説く疾也を始め、産卵と子宝を結びつけて実例を挙げてみせる彼方や晃、土産や名物について案を出す深墨や琥珀。それぞれ車座になって熱弁をふるい始めれば、酒の勢いも手伝ってわだかまりは直ぐに解けてしまったようである。
「ま、こんな所かしら? ‥‥今日は宴に混ざり損ねたけど、本番は明日だろうし、ね」
 ふん、と息をつく西渦は、同じように手帳を閉じた水津と柳斎には済まなかったわねと苦笑してみせる。折角の良い智慧も、翌日になって忘れてしまったでは話にならない。唐突に無思慮に始まった相談事を出来るだけ書き留めた三人は、話題が逸れ始めた所を見計らって引き上げて来たところだった。
「そういえばお二人とも、糸瓜水は付けました‥‥?」
 遠慮がちに告げる水津だったが、ずっと聞きたくて我慢していたらしい。目を輝かせて問う様子に驚きながらも、柳斎と西渦は首を横に振る。
「お先に潮を落として塗らせて貰ったんですけど‥‥ こう、その、張りが‥‥違うと言いますか‥‥」
 水津の消え入りそうな語尾を不思議に思う二人は、だが気付いてみれば自分の背中や腕は随分熱を帯びているのに気付く。少々海の日差しを甘く見ていたかと顔を見合わせるが、出た結論は一つ。
「これはさっさと、試した方が良さそうだ」
 柳斎の言に西渦が頷けば。彼方にも声を掛け、早速水場に向かう女性陣だった。

●姫を迎えて
 翌日、砂浜で一行の迎えを受けた将虎は、挨拶もそこそこに、不思議そうに首を傾けてしまった。
「その‥‥ 皆様、どうかされたのでしょうか?」
 満面の笑みを浮かべている女性陣に対して、男性陣も笑みは浮かべてはいたのだが。明らかに寝不足そうな目を擦りつつ、真っ赤な肌は既にひりつかせている模様。どうやら二次会・三次会と飲みを重ねた一行は砂浜で夜を明かし、結局潮も流さず糸瓜水もつけなかったらしい。対する女性陣は万全の体制を敷き、想像以上の薬効を十二分に体験したところである。
「や、これでも大分楽になったからもう大丈夫! 今日は一緒に、思う存分遊ぼうな?」
 琥珀の顔には強がりが残ってはいたが、その言葉に嘘は感じられず。将虎は一つ頷き、安心したように笑顔を浮かべる。
「何から始めようか。西瓜割りに貝殻拾い、ってまずは海に入らないと始まらないかな?」
 こちらも少々無理して笑顔を浮かべる深墨の様子に、思わず噴き出しながらも西瓜割りやりたいですと呟く将虎。
「昼飯は任しといてや。海の幸を仰山用意するさかい、楽しみにしとってや」
 大笑する晃に、私の釣りの邪魔はしないでくださいねと突っ込みを入れる水津。
「さ、準備運動してから、まずは海亀やろ。もう直ぐここの名物になるんや、じっくり見れるんは今の内だけやで?」
 だんだん上がってきたテンションに、疾也が声を掛ければ。示し合わせたかのように、西渦と将虎を含めた七人は砂浜へ駆け出していった。

「あ? お前はいかねぇのぉか?」
 娘と残った彼方が面白そうに、大欠伸を隠しもしない空に声を掛ける。
「連中も一日中遊び通しって訳にはいかんだろ? 誰かバテたら声掛けてくれ、それまで俺は一眠りしてるわ」
 ひらひらと手を振ると、陣屋より更に奥まった雑木林まで歩いていき。早速座り込んで目を閉じる空だった。