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■オープニング本文 「そうだったんですか‥‥ その、お疲れ様でした」 開拓者の勘違いで収まる事になった石像騒動も、細かな事後処理はまだ山ほどあるらしい。経緯を聞いた東湖(iz0073)は、事に当たっていた結夏(iz0039)に思わず労りの言葉を掛けていた。 「ええ本当に。でもその甲斐あって、遺跡探索の方にも進展がありそうですよ」 疲れを感じさせない笑顔を浮べ、結夏は石化から回復した開拓者より得たという情報を話す。 「どうやら行方不明となっていた開拓者は、最奥の広間に到達していたようなのです。何やら祭壇のようなものを見たという者もいますし、何より強大な守護するモノがいたようです」 牛頭のアヤカシと言えば『阿傍鬼』が有名だが、このアヤカシは石化の魔力まで持つらしい。どうやら邪眼の類であるらしいが、直接見なければ無害という訳でもないとか。 「なるほど‥‥ その辺りは対策が必要でしょうね。アヤカシはその部屋から出れないということですから、万が一のときは撤退を念頭に置いておくとして。それでもその時機はしっかり計らないと、ですね」 依頼書に注釈を書き加える東湖に、結夏も頷いて付け加える。 「あとは近くの隠し部屋から発見された宝珠の扱いでしょうか。ええ、赤と黄、二種類十個の宝珠です。その内一個ずつは少々大きいのですが、それと同じくらいの窪みをその部屋で見た気がする、という話です」 混乱も残る中での証言ですので、どこまで信頼できるか分からないのですが、と結夏の歯切れは悪いが。情報は多い方がよいだろうと、東湖は一応注釈として付け加えておくことにする。 「こんなところ、でしょうか。‥‥開拓への手掛かり、見つかると良いですね」 東湖が顔を上げて結夏に問えば、そこには少々心配げな表情。東湖がそれに少しびっくりした様子を見せると、何か問われる前にそれを誤魔化して。結夏はお願いしますね、と一言残して席を立った。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
レートフェティ(ib0123)
19歳・女・吟
ルヴェル・ノール(ib0363)
30歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●面会謝絶 「ねえ結夏、勝手にお茶なんか入れて大丈夫なの?」 手際よく人数分の湯飲みを用意する結夏を手伝いながらも、思わず声を潜めて問うレートフェティ(ib0123)。 「一応、内緒にしておいてくださいね」 棚から自分の湯飲みを取り出して振り返った結夏は、声こそ潜めていたが悪戯っぽい笑みを浮かべている。 「やっぱり直接話は聞けないそうです。本格的な治療が始まってました」 開拓者ギルドの相談室で待つ一行に、書類の束を持って現れた東湖がそう告げた。 「代わりになるかは分かりませんが、調書の類を集めてきました。お役に立つと良いのですが‥‥」 見終わったら私の机の上に置いておいてください、そう一言告げると、東湖はそのまま部屋を出て行こうとする。 「忙しいみたいだったな。‥‥少々悪いことをしたかな?」 ルヴェル・ノール(ib0363)は思わず呟いていたが、それを聞きつけると慌てて笑顔で答える。 「あ、こちらこそ慌しくてすみません。大丈夫ですから、気にしないでくださいね」 そうは言いながらも、えっと次は荷造り? などと思わず呟いてしまっている様子に、気付いた一行は苦笑いするしかなかった。 受け取った書類を分担して整理を終えると、まずは気になる点を確認する。 「これで壁が開くとはねぇ」 結夏が預かってきたという小さな刀を模った宝珠を手に取り、恵皇(ia0150)は呟く。証言によると、これを持って近づくことで行き止まりだった壁に道が出来るという。その先、部屋との間にほんの数歩分だが通路になっており、仕掛けは分からないが暗くて見通しは利かないらしい。 「扉を開けても、中は確認出来無いのね」 ちょっと嫌な感じ、と思わず息を吐くレートフェティ。 「物は考えようということだろう。条件が同じなら、踏み込むこちらに分がある」 書類に目を通していた柳生 右京(ia0970)が視線を上げて告げれば、羅喉丸(ia0347)も笑みを浮かべ続ける。 「幅も三メートルあるんだろ? 前衛四人なら、何とか並べるだろうしな」 同時に相手に対することが出来れば、それだけ戦闘を優位に進めることが出来るはず。 「阿傍鬼の手の内は、肉弾戦に加えて呪術の類。そして厄介な石化の邪眼ね」 ぱらぱらと資料を捲りながらも、設楽 万理(ia5443)の面持ちは真剣である。 「やっぱり先手を取ってそのまま速攻、これしかないな!」 有効な戦法に間違いないが、当たって砕けろが信条だと豪語するルーティア(ia8760)には、水月(ia2566)が慌ててその腕を掴んでは首を振ってみせる。 「そうだな。幾らでも補うことが出来るものを、敢えて捨てる必要はない」 ルヴェルの言に、水月もその通りとこくこく頷けば。 「なら、その辺の手順も含めて詰めるとするか」 恵皇が用意してきた紙を広げて、部屋とその入口を描き始める。まずは踏み込む順番と位置取りからかな、と声を掛けると。ほぼ部屋の中央に牛の絵を描いて皆を和ませてから、皆の意見を書き込んでいった。 ●突入準備 ギルドでの相談を終えて一旦解散した一行は、翌日早くに神楽の都を出発した。すっかり踏み固まった遺跡へ続く道は、多くの開拓者が探索を重ねた証。頼もしいとは思いつつ、全てが踏破された訳でないと思い直せば、自然と気も引き締まる。 「静かなものだな。あるいはアヤカシが戻っているかとも思ったが、杞憂のようだ」 遺跡に入ってしばらく進むと、ルヴェルが誰にとも無く呟く。 「そうみたい。‥‥日頃の行いが良いからかしらね」 レートフェティはルヴェルに答えながら、隣を歩く水月を覗き込む。初めて入る遺跡に少々緊張していた面々も、二人が顔を見合わせて笑う仕草に思わず肩の力が抜けていくのを感じる。 「忘れていました。大きいのは私が預かりますが、皆さんこれを一つずつ。お守りとでも思ってお持ちください」 結夏は以前の依頼で見つけた宝珠を取り出すと、小粒の方を皆に配る。赤と黄が四つずつ。色を含めて、どんな効果があるかは分からないというのだが。 「ま、験担ぎの一つとでも思っておくか」 何か言いたそうな羅喉丸に、恵皇が笑いかけながら宝珠を受け取れば、右京も黙って懐に仕舞う。 「確かに、備え過ぎて悪い相手でもないだろう」 そうね、と万理も一つ頷いて納得すると、まだ受け取っていないものに放りつつ、最後の一つを受け取った。 「さてと、ここが前回の行き止まりだな」 恵皇が地図と部屋に付けていた印を確認して皆に告げる。一行は余計な荷物を降ろし、戦闘態勢を整える。 「っと、二つは持って行きたかったんだけどな」 羅喉丸はぶら提げていた桶から布を取り出すと、軽く水を絞ってから畳んで腕に掛ける。その状態で身体を動かしてみせるが、やはり二つ持とうとすると動きに無理が出る。 「良いんじゃないのか、一撃必中ってことだろ?」 捲くっていた袖を戻し、立て掛けていた斧槍を軽々と肩に乗せたルーティアが格好良いじゃないかと笑顔で応じれば。 「ふふ、責任重大ね?」 万理の言に、ちょっと困った風に頬を掻く羅喉丸。思わず一行に笑いが広がっていた。 「お、ありがとよ」 そんな中、水月は小さな手に籠められる限りの祈りを籠めて、前衛の四名へ精霊の加護を願う。笑顔で軽く首を振って、なんでもないと告げてみせても、心配は拭いきれない。 「大丈夫、その願いに精霊は必ず応えてくれるだろうよ」 ルヴェルはその頭に手を置いて安心させつつ、さて最初は誰だったかなと杖を構えて前衛に声を掛けた。 ●先手と後手の応酬 結夏が鍵を翳すと、壁の一角が左右に開く。その先に広がる暗闇に、まずは前衛の四名が飛び込んだ。 (「あれが阿傍鬼!」) 一足で飛び越えた暗がりを抜けると情報通り、そこには奥に長い部屋が広がっており。その中ほどに牛頭の鬼が、巨大な斧を構えて立っていた。そのまま駆け寄ろうとする恵皇を、赤く染まる影が追い抜く。 部屋に入った瞬間、羅喉丸は己の枷を解き放つと、続けて床を割るほどの踏み込みで間合いをつめていた。一瞬でその距離を半分に縮めると、そのまま腕に掛けた布を振りかぶって投げつける。 (「その視線は封じさせてもらうぜ!」) 阿傍鬼の目の前で綺麗に広がった布は、そのまま寸分違わずアヤカシの頭に絡み付く。 「やったな、羅喉丸!」 ルーティアが上げる快哉を、今度は恵皇が追い抜き阿傍鬼の懐まで踏み込む。そこで一瞬不自然に動きを止めるが、阿傍鬼が反応を見せる前に軽く拳を当ててから引いて見せると、それだけにも関わらず阿傍鬼は片膝を突く。 (「あれが泰拳士の使う『点穴』か」) 恵皇の表情を見る限り、満足するような手応えではないようだが、それでもアヤカシの防護を徹す攻撃。その力に、思わず薄い笑みを浮かべてしまう右京も、鞘に収めたままの柄に手を掛け、アヤカシを目掛けてひた走る。 そして部屋に入った後衛の一行が見たのは、頭に布を被った阿傍鬼と、それを包囲する前衛の四名だった。阿傍鬼を左前方に迎える位置に右京が走り込み、その位置を譲って更に奥へと回り込む恵皇。その反対側からはルーティアが突っ込み、刀と盾に構え直した羅喉丸が、正面左寄りから阿傍鬼を睨んでいる。 (「良い布陣ね!」) レートフェティが更なる優位を得ようと、リュートを構えて曲を奏で始める。ルヴェルはレートフェティから受け取っていた傘を開いて壁を作っていたが、そこに聞きなれない音が重なるのを聞いた。 その音が何を意味するか、聞いた瞬間には誰も分からなかった。だがすぐさま粉々に砕けて散る布を見て一行に緊張が走る。阿傍鬼の邪眼により、頭に掛けられた布が石と化し。身体を軽く震わせただけで、それが粉々に砕け散った音だった。 思わず息を呑んだ水月は、だがとりあえずその光景を意識の底に沈めて冷静さを取り戻す。そして清杖を構えて呼吸を整えると、舞に備えて意識を集中する。 (「これ程とは!」) 崩れた有利に、だが拘らずにその隙を突こうと身構える羅喉丸は、不意に己の身に降りかかる圧力を感じる。逆に突かれた不意は、だが体表で何かと拮抗して弾けて消える。精霊の加護かと感謝をする間も無く、さらに背筋を這う悪寒。 「莫迦な!」 なおも行動を続ける牛頭から、漏れた音は人の言葉ではなかったが。怨念に満ちたその音は、羅喉丸の肉体と精神を呪いで縛りつけた。 ●捨て身の攻防 すぐさま水月の舞が羅喉丸へ再び加護を授けるが、その身体から呪詛は消えない。動きに支障は無いようだが、通常よりも抵抗力が格段に落ちるという状態に邪眼は相性が悪すぎる。 それを見越したのは一行の誰もが同じ。続け様に万理の弓とルヴェルの杖から矢が降り注ぐが、だがそれを見切った阿傍鬼は斧を振り払い、一撃の元に切り捨ててみせる。 怒号が、ルーティアの口から迸っていた。吼える本人も反射的なら、周りの誰もが呆気にとられる中。阿傍鬼は羅喉丸から視線を切って、咆哮の主を求めて、後ろを振り向こうとする。 「好機!」 踏み込みと同時に鯉口を切った右京は、阿傍鬼の足を狙って炎を纏った刃で切り上げる。そしてそのまま上段に流した刀が両手で構えられた刹那、振り切られた刃が地を割っていた。だが右京は巧く逸らされた刃に、思わず舌を打つ。 それでも阿傍鬼の太ももには、その半ばに達する切り口が出来ていたのだ。その刃風を浴びた恵皇は内心舌を巻くのだが、アヤカシの動きは止まらない。一瞬飛び退った羅喉丸が死角から回り込んで構えた刀と共に靠を当てる。続いて恵皇も、がら空きの背中へ拳を叩き込むのだが。阿傍鬼が動きを止めないのは、ルーティアの挑発に乗っているからなのか、その咆哮の主が女性であることに気付いたためか。 それでも阿傍鬼はわずかに俯き視線を逸らしていた。ルーティアに向き直ったところで顔を上げるが、そこに突き出されたルーティアの腕には、手鏡が握られていた。 「お前の邪眼なん?!」 その何割かは確かに反射させたようだが、手鏡は一瞬も耐えることができずにその魔力ごと一瞬の内に石と化す。瞬時に手放したルーティアは難を逃れるが、石化の余波を押さえ込んで、精霊の加護も弾けて消える。そして、そこで合ってしまう、ルーティアと阿傍鬼の目線。 「こん、ちくしょうっ!」 邪眼の魔力が徹った瞬間、ルーティアは下がるでも無く、目を庇えなかったことを後悔するでも無く。片手で振りかぶっていたハルバードを両手で握り締め、更に踏み込んで額目掛けて叩きつけることを選択していた。凄まじい刃速を見せるハルバードは、だがそれを越える圧倒的な暴力に打ち落とされ、そのまま斧を叩きつけられたルーティアは、奥の壁まで吹き飛ばされてしまう。 だがその状態で、阿傍鬼は絶叫を上げて吼える。万理が放った二本の矢が、足の傷口を貫き、その骨ごと断っていた。漸く残心を解く万理だったが、その鷹のような目にはまだ怒りが残っている。 それでも斧を突き立ち上がる阿傍鬼は流石という他ない。だが、レートフェティの奏でる陰鬱な調べに気を取られた瞬間、羅喉丸がその懐に入り込んでおり。それにすら器用に持ち替えた斧を振りぬいてみせる阿傍鬼だったが、ルヴェルが送り込んだ加速の精霊力がそれを凌駕する。残像を切り裂き、驚愕の内に体を流す胴に、正面から靠を叩きつける羅喉丸。既にそれは致命傷であったが、続けて繰り出される恵皇と右京の一撃を受けると、阿傍鬼は地に伏す前に完全に事切れていた。 ●祭壇の宝珠 阿傍鬼が地響きを立てて崩れると、皆の視線はその向こう、奥の壁際の祭壇へ吸い寄せられる。だがすぐにその脇まで吹き飛ばされていたルーティアに気付くと、一斉にそちらへ駆け寄っていた。 「とりあえずは、大丈夫そう」 苦笑いしながら呟くルーティアは、石化の魔力が残っているせいか、身体は芯から重そうである。だが硬化以前の状態でアヤカシを倒したのが幸いしたのか、今のところは症状が進行する様子は無い模様。もっとも、遺跡から出たら即刻、医療所に連行されることは間違いないところだろう。 そうなると、何よりも興味は祭壇に移った。そこには三十センチほどの円形の鏡が安置されており、宝珠で作られたそれは、何とも神々しいまでの精霊力を内包している。 「‥‥迂闊に触るのは憚られるな。巫女である水月に頼んでも良いだろうか?」 しばらく声もなくその鏡を見つめていた一行だったが、我に返った右京が呟けば、皆も異論はない。最初こそ驚いた水月であったが。祝詞を上げて畏まり、鏡を手に取る姿は堂に入っている。 「さてと。多分これが『開門の宝珠』だとは思うのだけど。謎を残したまま帰るのって、ちょっと気にならないかしら?」 レートフェティが一行に向かって問えば、こちらも異論は上がらない。 「でも不測の事態には備えておいた方が良いわよね」 何人かは外で待っていた方が良いかしらと万理が問えば、結局ルーティアと結夏が部屋の外で待つこととなった。 「それじゃ、嵌めるぞ」 一通り捜索をしたが、部屋に宝珠が嵌りそうな窪みは調書にあった二箇所のみ。試しに小型の宝珠を嵌めてみても、何も起こらなかった。恵皇が一通り皆を見回してから宝珠を嵌めると。しばらくは何事も起こらない。 「‥‥はて?」 十秒ほどおいてみたが、何も起こらない。と思った瞬間、嵌め込んだ宝珠から何かが勢い良く吹き出し、部屋にいるもの全てに絡みついていた。 「何事‥‥ だったんだ?」 一瞬完全に身動き出来ないほどの拘束を受けたルヴェルは、だがすぐにそれが解けるのを感じていた。見やれば阿傍鬼は、嵌め込んだ宝珠から出る光の糸のようなもので絡め取られており、慌てて懐を探ると、受け取った小型の宝珠が砕けて消えてゆくところだった。 「なるほど。これを使えば、もう少し楽に戦えたんだろうか?」 何だかな、と頭を掻きながら暢気な声を出す羅喉丸だったが。 「な、何なのこれ‥‥ い、痛い痛い痛い!」 「いってぇ! 何だこれ」 声の主は、万理と恵皇。それに加えて、右京の三人は、未だ光の糸に絡め取られたままだった。 「無理に動くな。じっとしていれば何と言うことはない。それより誰か、宝珠を外してくれないか」 冷静な物言いながら、喋るだけでも痛みはあるらしい。だが慌てて宝珠を外そうとしても外れず、さりとてそれを壊してよいものか判断は付かず。結局効果が切れるまでの五分の間、黄の宝珠を受け取った三人がじっと立ち尽くす中、赤の宝珠を受け取った残る四人はそれを見守るしかなかった。 |