勉強会という名の腕試し
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/24 17:50



■オープニング本文

 −−武天は安神、氷屋。
「決めた。ボク、やっぱり巫女になるよ!」
 実(みのり)が市香(いちか)に宣言したのは、弥生も終わろうかという時分のこと。
「実。あなた、体動かす方が得意よね?」
 胡乱な目で見る姉に対し、妹はあからさまに憤慨する。
「何言ってるの、これも氷屋のためなんだよ? 氷室まで行くのに毎回護衛なんて雇えないし、氷を作る術は役立ちそうだし」
 お店に出さないにしても道中の保存には使えるし、別に巫女でも刀が使えない訳でもないし、だからと言って大物のアヤカシを狩りに行くつもりもないしとまくし立てる様子を見れば、一応は色々考えているらしい。その内容に突っ込みどころは山ほどあるが、それでも敢えて反対することでもない。
「なら名前はどうするの。てっきり『刀』とか『刃』にするものかと思っていたけれど」
 生家のある村では、人生の岐路を定めた時に関連する字を加えて改名する仕来りがあった。市香は氷屋を立ち上げる前は、香(かおり)と名乗っていたという。
「うん、『みとう』とか『みわ』も可愛いから捨てがたかったんだけどね。やっぱり読み方変えるのは抵抗あるから『みのり』のままにするつもり。字は『祝い』を加えて『実祝』ね」
「またおめでたそうな‥‥ それも良いでしょう。それで、具体的にはどうするの?」
 え? と笑顔で固まった妹を見て、市香は隠しもせずに溜め息を吐いた。

 幾つか回ってみた学問所は、開拓者御用達を掲げていた。中々師事する先を見つけられない実祝が、声を掛けられた辻占い師に相談してみれば。
「それなら、私が紹介しましょうか? ‥‥その、住み込みという訳には行かなくて、多分月半分くらいの通い、ということになると思いますけど」
 結夏(iz0039)と名乗った占い師は少々言い辛そうに答えるが、家業を優先させたい実祝には願ってもない申し出ではある。
「熱意ある人を応援したいというのもありますが、正直人手不足というのがありまして。勿論、人様に紹介する訳ですから審査は必要ですが、その辺は心配ないでしょうし」
 私も氷屋さんは常連ですからと付け加える占い師の言に、思わず何を見られたのかと顔を赤らめる実祝である。
「では、諸々の手続き済み次第、まずは氷屋をお伺いしますね」
 今後の予定は、心変わりなければ改めてそこで、と告げる結夏に対し、実祝はよろしくお願いしますと神妙に頭を下げるのだった。

 そして修行が始まってから二ヶ月ほど。まだ座学が中心の実祝に、結夏から手紙が届いた。
『開拓者による巫女の勉強会を予定しているのだけど、宿の手配をお願いできないかしら?
 勿論、安神で開くことになったら是非参加して欲しい』とか何とか。
「お姉ちゃん! まだお店、しばらくがらがらだよね!」
 何てこと言うの、この妹は! と目を吊り上げる市香にもめげず。実祝は店を開拓者の宿として提供するための説得を開始した。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
湖村・三休(ia2052
26歳・男・巫
燐瀬 葉(ia7653
17歳・女・巫
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
和奏(ia8807
17歳・男・志
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
ルヴェル・ノール(ib0363
30歳・男・魔
花三札・猪乃介(ib2291
15歳・男・騎


■リプレイ本文

●準備万端
 手桶三つに井戸水をなみなみと。それとは別に、冷やしておいた麦茶や糖蜜を氷と一緒に屋台を積み込んで、実祝が広場に到着してみれば。開拓者らしき一行が和気藹々と、だが強い日差しを避けるように木陰へと向かうところだった。
「晴れてよかったな、ルヴェルのにーちゃん!」
 花三札・猪乃介(ib2291)が満面の笑顔で問えば、隣を歩くルヴェル・ノール(ib0363)も然りと頷く。
「百聞は一見にしかずと言うからな。折角の機会が座学で終わりでは勿体無い」
 まさしくその通りですと続けるのは、聖職者らしく柔らかな笑みを浮かべるエルディン・バウアー(ib0066)。
「開拓は仲間で連携することが前提ですからね。巫女に限らず、他クラスのスキルを知ることは大事でしょう」
「その通りやね! うちも魔術師さんや騎士さんの技、楽しみにしてるんよ」
 それを聞きつけた燐瀬 葉(ia7653)が、振り返って三人を覗きこみ、心底楽しそうに笑いながら告げる。
「ま、志士の技は俺と和奏に任せてもらおうか!」
 な、と良い笑顔で同期の肩に手を乗せるのは天ヶ瀬 焔騎(ia8250)。お互い双璧と認め合う相手と手合わせ出来るというのも、中々に珍しい機会と言える。
「そうですね。自分も、色々試させて貰おうと思います」
 対する和奏(ia8807)も、おっとりとした笑顔を見せてはいるが、気合いは十分。
「こりゃ、見応えありそうじゃねえか! ‥‥俺も気合入れて掛からねぇとないけねぇな」
 にやりと笑みを浮かべた湖村・三休(ia2052)は、サンキュッ、と祈りの文句にしては勢いのある言葉を呟くと、小刻みに体を動かし、その切れを確認し始める。
「皆、頼もしい限りだね。‥‥しかしまあ、巫女になることを選んだ訳か」
 思わず苦笑する恵皇(ia0150)だったが、以前受けた依頼で見てしまった実祝の表情を思い出していた。
(「‥‥あんまり無理してないといいんだけどな」)
 だがちょうどこちらに気付いた実祝が、溢れんばかりの元気な笑顔で駆け寄ってくるのを見れば。単なる杞憂だったかと苦笑するしかなかった。

●一限:舞
 冷えた麦茶で乾杯と挨拶を済ませると、まずは巫女の舞から入ろうという話となった。
「実祝はまだ、巫女の舞がどういうモンかって掴んじゃいねぇようだしなぁ」
 術より何より、まずはそこからだろと三休が問えば、葉もそうやねと頷いて答える。
「実祝ちゃんが今習っている舞は、豊穣の祈りと感謝なんよね? うん、流派が違うから細かい作法は違うかもやけど」
 静々と席を立ち、徐に扇子を構える葉。その立ち姿は自然体ながら凛としており、思わずし掛けた拍手も控えてしまうほど。
「そんなに畏まらなくて良いんよ。焔、ちょっと賑やかな感じでお願いや?」
 あはっ、と皆に笑顔で告げた葉だが、少々俯いた構えを取れば表情は見えなくなる。すぐに焔騎が懐から出した横笛を吹き始めれば、最初は微かに、徐々にその音に合わせて調子を取り始める。そしてタン、と大きく足で地を蹴り一つ鳴らすと、それを合図に舞い始める葉。静かにゆるゆるとその場を回り、次第にその輪を広げてゆく。
「ほう、これが巫女の精霊との接し方という訳か‥‥」
 すげえと猪乃介が呟く横で、ルヴェルも感嘆の声を上げる。繰り返し円を描く型が力を増幅するというのは何とか理解できる。だが指向性の無い精霊力が場に満ちるという光景も始めてならば、確かに空に溶けて消えて行く一方で、その力が途切れる気配が無く溢れ続けるというのは不思議と言うしかない。
「言葉にすれば『流転し循環する力』っていう奴だけどなぁ。‥‥こればっかりは、実感しないことには理解は難しいかねぇ」
 難しい顔で三休は首を捻る。考えてみれば自分も今の境地に辿り着くまで、随分と試行錯誤を繰り返したものだ。
「やっぱり最初は模倣、師匠の真似からやよね。大事なのは、自然の気持ちを感じること、感謝の念を忘れないこと」
 舞を終えた葉が、弾む息を整えながら戻ってくれば、一行の惜しみない拍手が出迎える。
「力の捉え方さえコツが掴めれば、しめたもんだ。まあ、一時的にしろ己の限界を突破させる訳だから、簡単じゃあねえんだけどな?」
 焔騎と打ち合わせを終えた三休が続いて仮の舞台に上がれば、まずは神楽の基本である円の動き。それは予想外に穏やかな曲調のまま、躍動感に溢れる舞へと繋がり、そして淀みない動きで円を描いて舞が終わる。
「体捌きの切れが半端なかったですね」
 和奏がそう呟けば、まるで足首にもう一つ関節があるようにしか見えない動きに、恵皇も唸るしかない。そして実祝は。
「凄い凄い! 三休さん、さっきのどうやるのどうやるの!」
 ‥‥神楽舞よりも月歩の動きに食いついた様子に、葉と三休は苦笑するしかなかったようである。

●二限:術
「さてと。まずは補助系の術効果だが‥‥ ご覧の通りってな」
 神楽舞の「速」に「抗」、アクセラレートと術を重ねるごとに切れが良くなる猪乃介の動きに目を見張る一行。猪乃介自身も思い通り以上に動く体に笑いが止まらない様子だったが、術が切れると同時にばたりと倒れこんでしまった。起き上がる素振りが見えずに慌てて駆け寄る実祝は、そこに思いの他真剣な面持ちを見る。
「限界が遠いのは分かっていたけど、こうも簡単に味わえると悔しい以上に安心した」
 一瞬驚いた顔をした実祝も、すぐに笑みを浮かべて頷く。
「それ分かる気がする。でも‥‥ そう、頑張り次第って事だよね!」
 顔を見合わせにっと笑う。二人が見据える未来は明るいようだ。

「なあ、巫女の攻撃系の術は誰か使えないのか?」
 状況によっては巫女が攻撃に参加することがあるだろう、と恵皇が一行に尋ねれば。それに思わず呻いてしまった焔騎は、逸らそうとした視線を葉に捉まえられる。
「そう思て、ちゃんと準備してきたわ! あ、焔はそこに居たってや?」
 一声掛けて、実祝の方に駆け寄る葉を視線で追いながら。
「‥‥うん、君達は少し離れていた方が良いんじゃないかな?」
 笑顔を浮かべながらも少し顔を強張った焔騎を見て、一行は黙って少し距離を取ってから葉を見やった。‥‥ほぼ、その瞬間。振り向いた葉が何かを捻るように手を振れば、焔騎の驚く声が抜刀に重なる。
「って葉! 合図くらっ?!」
 良い笑顔のまま実祝を振り返りつつ、焔騎に向けたままの手を更に捻る葉。瞬間的に視界が歪んだ空間に刀を叩きつけ、難を逃れる焔騎の目は思った以上に笑っていない。
「見事なもんだねぇ」
 三休が暢気に呟き、皆もそれに異論はない。だが足元を狙った三撃目を切り払い、葉が腕を下ろしたことを確かめた焔騎が構えを解いた瞬間。
「やった、出来たっ!」
 わー、おめでとーとはしゃぐ葉と実祝を横目に見つつ。でこピンにしては痛そうな何かを受けたかのように、額を押さえて蹲る焔騎には、皆掛ける声は無かったようである。

●三限:氷
「やはり少々問題がありましたか」
 立ち尽くす恵皇を前に、顎に手を当てながら辺りを検分するエルディン。
「なあ。早いところ、何とかして欲しいんだが‥‥」
 仁王立ちする恵皇の足元には箍の外れた手桶が二つ転がっており、そして自身の足は、水溜りらしきモノと一緒に凍り付いていた。エルディンの放ったフローズは、開拓者の動きを拘束するほどの冷気を生み出す。しばらく留まるそれが水を凍らすところは目論見通りであったのだが。
「やはり攻撃用の術、入れ物まで無傷という訳には行かないようですね」
 心底残念そうに呟くエルディンは、だが「金盥なら大丈夫かな」という実祝の罪の無い突っ込みに再度輝く。
「まあ待てって。冷たい通り越して痛くなってきたんだ、早く何とかしてくれ」
 がっちりと凍った拳のまま足を指す恵皇をそのまま見返し、そろりと目線を逸らすエルディン。
「おい、まさかとは思うが‥‥」
 観念した様に笑みを深くするエルディンは無言に関わらず、全くの想定外ですとその顔に書いてあった。
「じゃあボクが、力の歪みで剥がしてあげるよ!」
 実祝が良い笑顔で名乗り出ようとした瞬間、恵皇は無事な肘で氷を叩き割って自由を取り戻していた。
「もう、折角実践の機会だったのに!」
 ふくれる実祝に悪い悪いと謝る恵皇だったが。
(「余計なところまで砕かれそうだとは言えないよな」)
 恵皇の心の声を聞いてしまった一行は、思わずそっとだが、一斉に頷いていた。

「わー、これが氷霊結?」
 すごーい、便利! とはしゃぐ実祝は、桶の中でみるみる大きくなる氷塊に釘付けだったが、葉を見上げるとそのまま固まってしまった。思わず辺りを見回すが、近くにいた和奏も猪乃介も、同じように呆気に取られている。
(「え、え? 葉さんって神威人なの?」)
 真剣な面持ちの葉の頭の上で、ぴょこぴょこと動くのは狐の耳。ぱたりと動く何かに視線を向ければ、そこにはやはりふさふさとした尻尾。

「ほう、葉は狐憑きというものなのか」
 恵皇の怪我を治す三休の恋慈手を見ながら、ルヴェルは呟く。同じく治療待ちの焔騎が言うには、術を使うとああなるらしいとか何とか。
「それにしても‥‥ 治癒の力は傷の種類を問わないのは分かったが、あまり過信は出来ないのだな」
 恵皇の傷は見た目大して深いものではなかったが。自身の生命波動、エルディンのプリスターに加えて、三休の恋慈手で漸く快復したところだった。
「ま、今回の傷だって、一日大人しくしていて回復したかどうか。贅沢は言えないだろう」
 拳を握っては開き、元通りに直ったことに安心しつつ恵皇が答えれば。
「思う以上に人間は頑丈だってこったな。かなりの無茶は利くが、そこから回復させるにはそれなりの代償が必要ってね」
 ほい終わりとぺしりと恵皇の足を叩いて見せる三休の様子はいつもと同じで、思わず苦笑を見合わせる一行だった。

●四限:戦
「精霊の力を借りる点では、志士の技も同じ様なもんだしな」
 軽く刀を打ち合わせて体を解し終えた焔騎と和奏は、実祝の疑問に顔を見合わせると、少々間を取って対峙する。
「さてと。‥‥一度、お前とは手合わせして見たかったんだ」
 一旦正眼に構えた刀を、整えた呼吸と共に脇に引き付ける焔騎。対する和奏は自然体のまま、刀を提げている格好。
 軽く「志士の技も見てみたい」といった実祝は、どんどんを増して行く緊迫感に思わず辺りを見回すが、誰もそれを止めようとはしない。声を上げかけたところで、だが葉がその手を握り、良く見ときや、と悪戯っぽく囁く。
「いくぜ‥‥ 朱雀悠焔‥‥紅蓮椿ッ」
 焔騎が気を籠めると、刀身に真っ赤な光りが灯る。そこから紅葉が零れたと認識した時には、焔騎は既に和奏の目の前まで踏み込んでおり、紅蓮の紅葉を零す刃はその喉元を狙って伸びてゆく。
 はっとするほどの鋭さを、だが和奏はいつもと変わらぬ様子でふわりと一歩、動くことであっさりとその間合いを外す。何でもない動きに見えて一切の無駄がなく、どこにも力みがない姿はどこか浮世離れてすらいるよう。
(「流石だぜ、和奏!」)
 完全に見切られた焔騎は、だが何かを思う前に無理矢理一歩沈み込み、そこから身体ごと伸び上がって続け様に突く。これにも反応を見せた和奏の動きが、だがその流れを途切れさてたたらを踏むが、すぐに腕を添えた刀で突きを受け流す構えを取る。
 その瞬間、二人は刀を打ち合わせていたが、攻守が入れ替わる機を誰もが見た。受けきった和奏の刀は何時の間には上段に構えられ、そしてちりちりと刀身を走る、稲妻を纏っている。直後に地を割る衝撃と土煙が上がるが、それが収まる一瞬の間に、二人は距離を取って相対していた。
 笑みを交わした二人が構えを解くが、それを見る実祝は開いた口が塞がらない様子。
「‥‥び、びっくりした」
 戻ってきた焔騎がどうだったと軽く声を掛け、和奏が驚かせてしまいましたかと心配げに首を傾げるにいたって、漸く言葉を発した実祝だったが。あまりの素直さに、一斉に笑い声が上がっていた。

●補講:打上
「苺っていうと‥‥ 苺をつけたお酒と、砂糖で煮詰めたジャムがあるけど?」
「両方乗せてぇな!」
 あと練乳もな、と氷が皿に積もる様を見つめる葉には、ぶんぶん振る尻尾が見えそうだったりする。

 一通り披露と実験が終わると、休憩を挟んで各自で実践となった。術の再確認をするもの、記録を取るもの。稽古をつけるものもいれば、実戦形式で連携を確認するものもいた。皆思い思いに身体を動かしていると、あっという間に日暮れを迎えてしまう。続きは、氷屋の庭先で、となった。

「いやぁ、すみませんね、お姉さん! 料理の用意どころか、酌までしていただけるなんてっ!」
 肉や魚が並ぶ料理を前に、上機嫌で杯を傾ける三休。この時期に、と少々頭を捻る食材が並んでいたりはしたものの。育ち盛りの猪乃介も加わり、十分に料理を楽しんでいる。

「やはり宇治抹茶小豆は格別ですね」
 縁側に並ぶエルディンは、涼味を味わいながら幸せそうに呟く。隣に座る和奏も中々の匙捌きを見せつつ、にっこり笑みを浮かべて同意する。
「わー、抹茶もおいしそうやね! あれ、和奏さんのは何味?」
 ほのかに顔を赤らめつつも、しっかりした足取りでお代わりを抱えてきた葉が、縁側で涼む二人に声を掛ける。
「なんと言ったでしょうか‥‥ 南国の、季節の果物だそうです」
 和奏がよろしければどうぞと差し出せば、お代わりを貰ってきてはお互い一口ずつ食べるという流れが出来てしまい。それは結局全員を巻き込みつつ、御品書きを制覇するまで続いたようである。

「どうだ、巫女としてやっていけそうか?」
 漸く満足した一行を満足そうに眺める実祝へ、恵皇が声を掛けた。
「あ、恵皇さん! うん、ちょっとは自信が付いたかな。舞もコツは教わったし、術も何とか覚えられそうだしね」
 えへへ、と照れながらも嬉しそうに答える実祝に、思わず恵皇の顔も緩むのだが。
「そういや、回復の術は試せたのか?」
 傍でそれを聞いていた焔騎が、ふとそんな問いを掛けてみる。何気なく振り向いて実祝の顔を見てみれば。
「‥‥あははは」
 全くすっぱりその辺を忘れていたらしい実祝は乾いた笑いを上げていたが。それを見て顔を見合わせた恵皇と焔騎も、思わずがくりと項垂れるしかなかった。