【四月】炎羅復活?!
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/26 17:35



■オープニング本文

 天儀暦二〇〇九年十月、一つの噂が世界を駆け巡った。
 曰く「千年前に封印された大アヤカシ『炎羅』。その封印が効力を失い、再び現世に解き放たれる」と。
 終末思想にしても御粗末な流言は、史実が示す日時を過ぎても何かが起こる訳でもなく。数あるインチキな予言として世間に埋もれていった。‥‥わずかにだが真実を含んでいたが故に、裏の世界に身を置くものは無視することが出来なかったのだが。

 『帝国 諜報機関』。名前の他にはそれしか書かれていない名刺を差し出し、そのエージェントは語る。
「『教会』は炎羅封印に必要な『封神具』を隠匿しようとしています。早々にこれを奪取しなければ、早晩『帝国』本土に炎羅が復活することになるでしょう」
 是非ともお力添えをと告げながら、エージェントは一枚の小切手を差し出す。
「報酬として用意いたしました。指定日以降であれば『帝国』系金融機関のどこでも換金可能になります。‥‥尤も『封神具』を入手出来ていない場合、その期日には既に『帝国』は無くなっていると思われますが」
 良く良くお考えくださいませ、と慇懃無礼に礼を残してエージェントは立ち去った。

「最近妙な輩より謂れの無い妨害を受けているのです。『祭器』の運搬に力を貸していただけないでしょうか」
 危険物運搬の依頼を受けてみれば、相手は『教会』に仕えるシスターだった。
「心当たり、ですか? 教義を修めぬ者にはその価値も分からぬものなのですが‥‥ ええ、確かに装飾品としての価値はあるかもしれませんね」
 その浮世離れした反応に邪気は感じられず。だが、つい尋ねてしまった行き先については聞いてすぐに後悔する。
「場所ですか? 理穴の片田舎です。緑茂の里という、今は鄙びた湯治場ですわ」

「理穴からの持ち出しをお願いします。安置を避けられれば良いという星辰ですから、最悪破壊でも構いません」
 ローブを纏い、顔の下半分は白い布で覆った占い師がそう告げる。単なる辻占いの類と思われたが、声を掛ける相手を間違えない程度には腕が立つらしい。
「必要なものがあればお申し付けを。武器弾薬は幾らでも御用立ていたします。『星占』のモノを通じて速やかに御渡しいたしますわ」

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません



■参加者一覧
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
水津(ia2177
17歳・女・ジ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
夏目・セレイ(ia4385
26歳・男・陰
仇湖・魚慈(ia4810
28歳・男・騎
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ


■リプレイ本文


●作戦開始
 子供をあやしていたシスターが静かな笑みで二人を迎えると。そのまま廊下を先導し、突き当たりの扉の前まで来て初めて口を開く。
「荷物はこの奥です。お掃除の道具も一式用意しておきましたので、奇麗にしてから返してくださいね?」
 思わず王禄丸(ia1236)と夏目・セレイ(ia4385)が顔を見合わせてしまうが、シスターはそれだけ言うと何事も無かったかのように踵を返そうとする。
「その、他に何か聞いていませんか?」
 セレイが呼び止めれば、首を傾げて考え込むが。
「そうですね‥‥ あれ、もしかして心当たりが無いとか、ですか? なら引き返した方が身のためですよ」
 さらりと物騒なことを口にするシスターに、無言で王禄丸が先を促せば。
「きっちり結界が張ってあるそうです。関係者以外はどこに飛ばされるか分かりませんよ?」

 居心地良いはずのスイートの一室は、持ち込まれた怪しげな機械に占領されて足の踏み場も無かった。梱包を解く間すら惜しんで設置されたそれらは、剥き出しのパーツも相俟って既に前衛芸術の様相である。その機械に齧り付く青年の後ろから、水津(ia2177)が覗き込みながら声を掛ける。
「その‥‥どうでしょう。反応、拾えそうですか?」
 数日寝ていないだろう、酷い隈と疲労を滲ませながらも。青年は人差し指で眼鏡の位置を直しつつ、にこりと笑みさえ浮かべて答える。
「大丈夫ですよ。必ず検知して見せますので、もう少しお待ちください」
「‥‥難航しているようじゃな?」
 確保したベッドで武装の手入れを始めていた輝夜(ia1150)が、隣の部屋から出てきた水津に尋ねる。
「え? あ、はい。もうすぐとは言ってますけど」
 ほてった顔に手を当てながら答える水津に、不審な目を向けはするが。刃に打ち粉を掛けながら、これまた隣のベッドを占領するルンルン・パムポップン(ib0234)へ話を振る。
「そちらはどうじゃ?」
 うつ伏せの姿勢で足をぱたつかせているルンルンだったが、端末に向ける表情には全く動きが無い。指先が舞う度に画面は次々と切り替わるのだが、それに対する反応は視線をわずかに動かすのみ。
「んー、帝国と教会の方は粗方調べ終わっちゃいました! あとは地方伝承と‥‥ えーと、全部纏めた相互検証を‥‥」
 分かった、続けてくれと輝夜が途中で遮れば、ルンルンは一層作業に没頭して行く。

 携帯風信術の画面には、自分を含めて四人が映っていた。その内の一人、フードで顔を隠した女性には誰も面識が無いようだったが、その振る舞いから察するに組織の上層部に属しているらしい。
「帝国諜報部が武天・安神に魔力を検知したようね。‥‥何か用意をしておくことは?」
「交通の要所とは厄介です‥‥ が、逆に手を読みやすいかもしれませんね」
 エグム・マキナ(ia9693)は考える素振りを見せたが、すぐに物騒な機材とその効果的な使い方を提示する。
「僕も異議なし。出来るだけ広範囲に、それから派手にした方が効果的だろうね」
 赤マント(ia3521)が賛成と更なる拡充を申し出れば、フードの女性は画面外に二言三言、何かを確認するだけで了承されたことを伝える。
「二人がそちらに回るなら‥‥ では私は街の方をフォローしましょう」
 仇湖・魚慈(ia4810)が告げれば、そちらも相応の人員確保を約束して通信は終わる。
「さて、お手並み拝見といこうかね?」
 声も立てずにくつりと嗤うフードからは、豊かな銀髪が見え隠れしていた。

●市街
 安神の街は不穏な気配に包まれていた。土砂崩れによる高速道路の通行止めに始まり、幹線鉄道は架線故障によりしばらくの運休。飛空船に至っては久しぶりの好天だというのに、向かう先の天候不順を理由にしばらく飛び立つ気配も無い。街中も人通りが無い訳ではないのだが、どこか息を潜めるような雰囲気を孕んでいた。
「流石にこの規模の街ともなれば、危機管理も徹底していますね」
 魚慈は密やかに街を歩き続ける。星占構成員が交通機関の麻痺を狙って仕掛けた爆弾の数々は、その大半をこの街の処理班に発見・解体されている所であるらしい。だが足が付くような失態は今の所無く、そして選択肢を狭めることで見つけたいものが見えてきた所でもあった。
「あれですか‥‥」
 酒場の裏口に、一台の車がひっそりと停まっていた。何気なく開いたドアから巨躯がのそりと立ち上がると、建物から出てくる小柄な人影を迎える。その肩に掛けられた金属製のケースは長さ一メートル程度と、情報と合致すれば。
「それを渡してもらいましょうか」
 身のこなしから志体持ちではないと判断した魚慈はその背後から忍び寄り、長柄を突きつける。一宿一飯の恩義、利子を付けて返せそうで何よりと思ったのも束の間。鋭い殺気を周囲に感じて身を翻す。
「帝国ですか?!」
 屋根から斬りかかって来た相手をかわしつつも、ケースの肩紐に指叉に引っ掛けると。そのまま後ろ向きに転がりながらもケースを引き寄せ小脇に抱え込み、地に手を突いて起き上がった所で体勢も立て直す。
「炎羅は絶対復活させないんだから!」
 だが間髪入れずに手裏剣が打ち込まれ、更に魚慈が避けると見越した先へとルンルンが回り込む。
「大義より、教義より、優しさへの恩義。ここで返してこそ、藍家が義息!」
 魚慈はその脅威を瞬時に突破口と思い定めれば、己の意地を掻き集めて一撃突き立てる。それは炎を纏い、大気すら焦がすほどの鋭さを見せるのだが、ルンルンの篭手に触れられれば炎は消え去り。そのまま長柄に体を預けては滑るように魚慈の懐に入り込むと、ルンルンは左手の篭手で長柄を無力化しつつ、右手の苦無は魚慈の喉元へぴたりと当てて呟く。
「どうして争っちゃうのかな? 炎羅なんて化け物、誰だって復活して欲しく無い筈なのに‥‥」
 その悲しそうな物言いと瞳に、魚慈が嘘偽りが無いと感じてしまえば。反抗の意思が無いことを示すために、長柄を手放し両手を挙げる。
「勿論、私もそのつもりですよ。そんな物騒な品、早いとこ遠くに持って行ってもらえませんかね?」
 驚いて魚慈を見返すルンルンだったが、水津がその脇にしゃがみ込んで無造作にケースを開ける。
「当たりか?」
 難なく教会側のエージェントを制した輝夜が声を掛けたが、期待した答えは返ってこなかった。
「抜け殻ですね。ちょっと前までは本物だったみたいですけど‥‥」
 開けたケースには、丁度剣と珠が収められるようなクッションのみが詰められていた。

●幹線鉄道
 眼下に広がる深い森を貫いて、東西に線路が伸びている。小型飛空船でそこに辿り着いたエグムは速度を落として西に進路を向けると、改めて携帯に配信された動画を確認する。
「時間的に乗り合わせているかは‥‥ 微妙という所でしょうか?」

「星占側の行動がおかしい?」
「はい。仇湖さんと、その配下の人たちはともかく。異なる指示系統がもう一つ」
 指を突き出したルンルンの前を銃弾が貫き、二人は思わず首を竦める。輝夜は間髪入れずに物陰から銃身だけ突き出すと、数発打ち返してから続きを促す。
「一つは細心の注意を払って交通機関を停滞させようという指図。これはその結果見えてくる、教会側の動きを知るための陽動に違いないです」
 水津はそれを聞きながらも、決死の突撃を繰り返す味方の傷を癒しては鼓舞し続ける。
「もう一つは、完全に爆破を目的とする一派です。どうやら交通機関を停めるためではなく、その荷を破壊しようという意図を感じます」
 それがこやつらか、と輝夜は溜め息を吐く。
「ではそれこそ、足止めされる訳にはいかんな」
 輝夜は銃器をルンルンに放り投げると、持ち込んだ荷物から手に馴染んだ得物を漁り始め、強引な突入に備える。

 エグムは背後から電車が迫ってくるのを振り向いて確認すると。あまり期待はしていませんでしたが、と口では呟きつつも失望を隠さずに溜め息を吐く。
「これは相手側を褒めるべきでしょうか。ですが、先に行かせる訳にはいかないのですよ」
 携帯の番号を呼び出しながら、エグムは飛空船を次の目的地へ向ける。

 制圧が完了した車内では、水津が受ける携帯からの指示を頼りに太めの紙筒を探り当てていた。早速解いて見れば、中から何十枚もの符で厳重に包まれた珠状のものが出てくる。
「これが‥‥ 封神具、なのですか?」
「漸く、一つ確保か。‥‥何をしている?」
 安堵を滲ませた輝夜だったが、ルンルンが徐に符を剥がし始めるのをみて声を荒げる。だが止めに入る間も無く符の貼られていない隙間が出来ると、そこから光が零れてそれはあっという間に部屋中に広がり。そしてあっさり、弾けて消えてしまった。
「わ、わわわ?」
 後に残ったのは符で作られた、潰れた紙風船のような紙くずのみ。だが気付いてみれば、先程の光を浴びた者は怪我だけでなく失った練力や気力までもが回復していた。
「敵もやりますですね。本物から取り出した力を、強引に封印してダミーを作ったようなのです」
 これを可能にする技量もさることながら、俄然封神具に興味が出てきました、とはルンルンの呟き。一体どれだけの魔力を集積すればこれだけの秘蹟を可能にするのでしょう、と興奮を隠せない様子ではあるが。
「またしても嵌められたというのか‥‥?!」
 輝夜の憤りは、だが電車の急停止に途切れてしまった。鳴り出した瞬間に開いた携帯からは、運転席に向かっていた一団から報告が入る。
「橋が爆破されていて先に進めないじゃと? ‥‥代わりの足をすぐに手配しろ」
 押し殺した声で指示を出す輝夜は、焦燥に駆られて壁を殴りつける。
(「千載一遇の機会に恵まれながら‥‥ 間に合わぬのか?」)
 間に合いますよ、という水津が躊躇いがちにフォローする中。一行は崖の手前に止まる電車の中で、今は待つしかない。

●緑茂の里
 教会に協力した二人が選んだ戦略は『徹底した戦闘の回避』だった。祭器が兵装にも転用できる以上、戦力で他組織に劣る心算は全く無かったが。派手な動きで敵を引き寄せては本末転倒、出来る限り密やかに、そして突ける虚を最大限に利用することを第一とした。
 そのための工作は、祭器の所在を欺くことから始まった。可能な限りダミーを用意してばら撒き、時にはその情報をわざと流して更なる混乱を煽る。そして捜索の目が安神の外に向いた瞬間に移動を開始した二人は、難なくそれを逃れて武天を後にする。理穴に入ってからも後を辿られている気配は無く、緑茂の里も目の前に迫っていた。

「どうやら上手く、行ったみたいですね」
 セレイが柔らかな笑みを浮かべて隣を見れば、寂れた観光地を車で流す王禄丸も静かに頷く。
「指定場所は‥‥ この先の広場か。些か迂闊な気もするが、相手の意向であれば仕方あるまい」
 王禄丸は周囲の確認を終えると、道端に停めた車から無造作に降りる。
「昨日、祭りがあったみたいですね。地鎮祭にしては、時期外れな気もしますが」
 後に続くセレイが畳まれた看板を見て暢気な声を上げれば、王禄丸もそういうこともあろう、と軽く返すのみ。だが目線を受ければ王禄丸は軽く目を瞑り、心眼で広場に探りを入れる。
「ふむ、依頼主を待たせてしまっているようだな。急ぐとしよう」
 その口調は軽いが、反応が一人であることは慎重に符丁で伝える王禄丸。

 そして二人が広場に入ると、中央にいたシスターが笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
 使っていた携帯をぱちんと閉じて仕舞えば、祭器をこちらへ、と笑みを深くして二人に告げる。
「それにしても帝国の目をこうも鮮やかに欺くとは、組織のエージェントも見る目があります」
 無邪気に褒められれば、セレイも思わず苦笑してしまう。だが抜け目無く珠状のダミーを渡そうとするセレイに、シスターが不思議そうな表情を見せれば。王禄丸を一瞥してから、靴の底に仕込んだ本物を取り出す。厳重に符が貼られているのは同じだが、形が違う以前に、何より存在感が違う。
 満足そうに頷くシスターは、王禄丸に視線を向けて告げる。
「ではその珠をお持ちの剣で破壊してください。同種とはいえ逆の属性を持つ祭器、特に力は必要無い筈です」
 向き合う三人の間に、緊張が走った。
「俺達が請け負ったのは運搬だ。だから依頼は既に完了したと言っても良い訳だが。‥‥それは本当に、教会の指示なのか?」
 王禄丸が懐から取り出した剣を構えれば、シスターはそうですよね、と笑いを零す。
「まあ、無理もありません。でも星占のエージェントが迫っているのも本当ですから。早めに済ませてしまいましょうか?」
 携帯の画面に、こちらに近づく光点が表示された地図を二人に見せたシスターは、一つ頷いて携帯の番号を呼び出す。何かがおかしいと身構えた瞬間、広場を煙幕が覆い始めた。
「くっ!」
 何かを投げつけられたセレイは、躊躇せずに珠の結界を発動させる。前方の煙を払いつつ、生成された不可視の力場が受け止めたのは、しかしただのシスター服。
「セレイ、後ろだ!」
 咄嗟に心眼を使いながらも、脳裏を走る赤い閃光を辿るのが精一杯の王禄丸。それでも狙いが珠だと見定め、半ば勘を頼りに突きを放つ。それは珠の力場すら貫き、迫る相手を貫いていたが。直前に放たれた紅の波動が背からセレイを徹して、その手に持つ珠を封印ごと破壊していた。

 弾けた珠は広場の煙幕を瞬時に弾き飛ばし、そして広場の奥に佇む祭壇へ集った。見る間にそれは直径一メートルほどの円形に集れば、辺りの景色を映し出す鏡となる。だが鏡の中の景色は見る間に炎に飲み込まれ、そしてその炎は次第に人型へと集り始めていた。
「ふふ‥‥ 赤く染まった世界、それはとても綺麗だと思うよ?」
 誰かがそう呟けば、それを聞き届けたかのように鏡から炎が噴出し、珠を破壊した赤マントを包み込む。それはセレイに達し、王禄丸まで伸びようという所で、唐突に跡形も無く消えてしまった。鏡を見やれば、何時の間にか同じような鏡が向き合うようにもう一枚現れており、お互いの景色を写しあっている。鏡に映った炎は、外に出ようとも自らの虚像に封じ込められ身動きできず。次第に近付く二枚の鏡は遂に重なり、仮初の入り口をお互いで塞ぐと溶けるように消えてしまった。
「セレイ!」
「無事ですよ。彼女も命に別状は無さそうですが‥‥ どうします?」

「ふむ。開放が、そのまま次の封印に組み込まれている術式ですか」
 これは面白い、と広場に設置されたカメラで一部始終を見ていたエグムは呟く。

 向かう先から、力の重圧が消えて行くのを感じた輝夜は。
(「外れじゃったということか‥‥ ならばまた別の手段を考えるまでじゃ」)
 力を抜いて表情を緩めた輝夜に、水津とルンルンは思わず顔を見合わせ首を傾げるしかなかった。