【神乱】行方の捜索
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/07 22:56



■オープニング本文

 躍起になって動向を探っていた巨神機も、辺境伯の本城から一旦メーメル城に退いたという。決戦も間近と囁かれ、であれば決着も近いと思いたいところではあるのだが。
(「人の間で仮に示談が成立しても、アヤカシの被害が解消するとは思えません‥‥」)
 報告書を纏めていた手を止め、結夏(iz0039)は溜め息を吐く。滞在している中継拠点は、その中立性ゆえか今のところ直接的な被害は出ていない。だが少し南方の反乱軍領地ではアヤカシ被害が急増しており、村人が丸ごと消えるという不可解な事件まで起きているらしい。
「調査に行ければ、まだ何か掴めるかも知れませんが‥‥」
 流石に一人で行くには心許なく。さりとて原因が明らかでなければ、戦乱の最中であるこの状況下、ギルドに助力を請う訳にもいかない。
(「‥‥あら?」)
 思わず天を仰いで溜め息を吐いた結夏は、閉じようとした資料から紙片を床へ飛ばしてしまう。それに気付いて拾い上げると、そこに並んでいた村の名前には見覚えがあった。『反乱軍領地内の村なのに、あまり反乱軍に好意的ではない模様』と旅の吟遊詩人の言らしき注意書きに、慌てて地図と被害情報を纏めた資料と突き合わせてみれば。四つの村の内、一つはつい昨日村人が全て消えたという報告が上がっていた。その報告書には、村がアヤカシの襲撃を受けた気配は無く、唯一の被害としては広場にあった石像が粉々に壊れていたという。‥‥確かそんな報告が前にも、と資料を探せば。果たしてまたしても重なる村の名前。
(「石像が消えた村、まだ残っている村。それに住民が丸ごと消えた村、まだ残っている村‥‥」)
 関係は今一つはっきりせず、理性はまだ検討を勧めていたのだが。まずは手配が先決と示す直感に従い、兎に角ギルドへの連絡に向かう結夏であった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志
レートフェティ(ib0123
19歳・女・吟
ルヴェル・ノール(ib0363
30歳・男・魔


■リプレイ本文

●到着
 ヴォーセミの村長は一旦嬉しそうに天儀酒を受け取ったのだが。一行の申し出を聞くと、躊躇いがちに口を開きながらその徳利を恵皇に返す。
「村への滞在は歓迎いたします。ですが、村のことにはあまり口を出していただきたくないのです」
 一行にとって予想外の反応だったが、済まなそうにしながらも村長ははっきりと言う。
「村の者たちを不安にさせるようなことはせんでくだされ。‥‥そうは言っても何をされようと、ワシらにそれを止める術は無い訳ですが」
 村長は気の毒なほどに困った様子を見せると、一行も勝手な真似はしないと告げるしかない。ともかく村長宅への逗留は丁重に辞退して外に出れば、宿屋へ向かう間を惜しんで作戦会議の開始である。
「参ったね。石像には手を出さんでくれ、とはな」
 恵皇(ia0150)は背伸びして体の疲れを解す仕草をしながら、潜めた声を零す。出発前の占い結果『偽りの破局』には関連が薄そうな気はするが、何とも言い難いというところだろうか。
「これで『魂喰』なんて打ち込んだら、卒倒してしまうかしら?」
 残念ね、と葛切 カズラ(ia0725)は呟くが。他の二人の物言いたげな視線に気付けば、勿論やらないわよと軽く手を振って返す。
「どちらにしろ、調査の間は石像から村人たちの意識は逸らしておきたいよね?」
 雰囲気もほぐしておきたいしとレートフェティ(ib0123)は一つ頷くと、早速背負っていたリュートを取り出し爪弾き始める。
「ま、ここは吟遊詩人殿の御手並み拝見ってとこか」
 言い終わらない内に、遠巻きとはいえ村の子供たちが集り始める様子に舌を巻きつつ、一行は演奏が出来そうな広場を目指すことにした。

「怪しい奴を村の中に入れる訳には行かない!」
 ドーヴァーの入り口には粗末ながらバリケードが張られ、鋤や鍬を構えた農民たち数人が待ち構えていた。その言い分や一行を指して「ドラゴンを自在に操る、風体の怪しい人物」というのだが。この寒空を飛んできた旅装は確かに顔も見えない重装備であるが、平時であればそれが非となる状況ではない。
「我々はギルドに属する開拓者で、この村の調査に来たのですよ」
 黒尽くめの旅装を解きながら、ルヴェル・ノール(ib0363)は村人に声を掛ける。だが村人の反応は「こんな小さな村にわざわざギルドが人を寄越すか」だの「何故この村が危険だと知っている」だの、中々要領を得ない。
「どうしましょうね。龍さんたちも疲れてるでしょうし、せめて厩舎には入れさせて欲しいところですけど」
 朋友を宥めていた和奏(ia8807)が呟けば、龍たちも賛成の意を表して軽くではあるが一斉に咆える。
「和奏、あまり村人を刺激するでない‥‥」
 よく見れば最初からへっぴり腰だった農民は一斉に飛び上がり、がくがくと震え始めてしまう。和奏に苦情を告げるルヴェルであったが、思わずそれに結夏(iz0039)が吹き出してしまえば。どうにも締まらない状況であった。

 火の気の無い室内に、荒れた様子は無かった。チェトィリに着くと早速民家を回る一行だったが、どこも食卓は片付いており、一旦寝床に入った形跡はあるが慌てて出た風でもない。
「確かにアヤカシに襲われたという訳ではない様じゃが‥‥」
 状況は良いか悪いか判断が付かないと言うしかなく。思わず呟く鬼限(ia3382)の顔は苦い。
「人の気配も‥‥」
 心眼で気配を探っていた高遠・竣嶽(ia0295)の言葉が途中で止まる。その竣嶽に視線を向けられた柊沢 霞澄(ia0067)は首を左右に振るが、言葉にしては短く、どちらですかと静かに問う。既に瘴索結界を発動しているが、それに反応しないのは単に距離的な問題なのか、それとも瘴気を発していない存在だからなのか。
「村の中央でしょうか。反応が一つというのが気になりますが」
 向こうですと竣嶽が指差す方向へ、一行は用心しながら向かった。

●行動開始
 猶予は無いと判断した一行は三手に分かれ、まず村人が残るヴォーセミとドーヴァーへ急行することになった。残りの村、チェトィリとシェースチも調査する予定だが、龍と風信術を使うことでその日の内に情報は共有する手筈となっている。

(「そろそろみんな、最初の村には着いた頃だよね?」)
 この地方の民謡に口笛を交えてリュートを奏でれば、レートフェティに付き従う子供たちの少々硬かった雰囲気も緩んできていた。それなのに、広場が見えてくればその表情は曇り始め、入り口まで来ると皆その足をぴたりと止めてしまった。穏やかな伴奏のみに切り替えて振り返ったレートフェティが問えば、子供たちは残念そうに、広場で遊ぶことは村の大人に固く禁じられているからだと言う。
「ふーん、じゃあここで続きっていうのは無理か。‥‥それなら、皆がいつも遊んでいるところに行こうか?」
 これで終わりかと半分諦めていた子供たちは、ぱっと顔を輝かせて候補を挙げ始める。程なく場所が決まれば、早く早くと急かしながら村の外れ、精霊様の祠へと向かって行く。
「さっきのどういうことかしら。‥‥教えてもらえる?」
 子供を順に肩車している恵皇を先頭に、子供たちに手を引かれたレートフェティが続く。その最後尾に付いていた、年長とはいえまだ少年と言って良い若者にカズラは声を掛けた。思わず顔を赤らめてしまう若者が答えるには、どうやら広場に設置された石像が原因らしい。
「石像が壊れると村人が消えるってこの辺の噂が原因なんです。わざと打ち壊した村は勿論、間違って壊したところも同じ目に遭うって」
 どこまで本当か分からないんですけど、簡単に壊れるからって村ではボール遊びも禁止ですよ、と流石に苦笑しながら答える若者だった。
(「ふーん。だからあんなに挙動不審だった訳ね?」)
 とりあえず青年に酒場の位置を聞くと。もっと詳しい情報と、可能であれば広場まで同行してくれそうな話の分かる大人を探すために、二人に声を掛けてから列を離れるカズラだった。

 ドーヴァーの村がぴりぴりしていたのは、やはり石像が壊れたからというのが原因だったらしい。
「村人が大勢いる中、ひとりでに壊れたんですよ。‥‥その、反乱軍が鎮圧さそうなのにこのままで良いのかって話をしている最中に」
 粉々に砕かれた像の破片を前に、村の自警団を買って出ていた青年が事情を説明してくれる。どうやらコンラートの銅像を写した石膏像だったらしく、確かに簡単に壊れても不思議ではないが。多くの人がいる中でひとりでに、となると話は変わってくる。
 和奏は軽く目を閉じて神経を集中してみるが、結夏が視線で結果を尋ねても首を振るのみ。既に瘴気が消えてしまった後かもしれないが、今の時点で石像の破片はただの石膏の欠片のようだ。
「‥‥これは?」
 誰もが関わりを避けたために、そのまま放置されていたのが幸いしたのだろう。壊れたときの状態のまま、手付かずとなっていた石像片を調べていたルヴェルは、その背後に当たる部分に微かな焦げ跡の様な物を見つけた。火よりもっと純粋な力、そう魔術的な何かか、もしくは別の‥‥
「何やらキナ臭い感じがしてきたな。人為的というか‥‥」
 人であればまだ良いのだが、と呟くルヴェルは、その破片を布に包んで懐に仕舞うのだった。

●遭遇
 霞澄が瘴気を捉えると同時に、それを察知した相手も活動を開始したらしい。気のせいかと思うほどわずかに動いたかと思えば、急激にその位置を変えていた。
「気をつけてください、上から来ます‥‥!」
 広場の入り口に差し掛かった竣嶽が心眼で相手を探れば、それは既に空にいた。振り仰げばそこに、確かに鎧を着込んだ男性の石像があった。だがそれは背から生やした翼で羽ばたいており、どうみても誇りある騎士の像とは思えない。
「やはりアヤカシか‥‥ 当たって欲しくは無かったがの!」
 間髪入れずわずかな踏み込みで得た力を拳に乗せ、鋭い気合と共に上空を打ち抜く鬼限。拳は勿論届かないが、鋭い衝撃が石像の体勢を崩す。だが石像は器用に体を倒して打点をずらせば、そのまま落下しながら距離を詰め、そしてその勢いを利用して竣嶽の目の前に飛び込んだ。
「笑止!」
 だが竣嶽はその初動を見て取り、わずかに腰を落とした構えを取っていた。その微かな準備に笑みさえ浮かべて相手を手元まで呼び込んだ刹那、その腰元から光が弾ける。がちりと噛み合った石像と刀は、だがあっさりと像の右腕を切り落としてそのまますれ違い、石像は雪が残る地面を滑っていった。体当たりを狙ったようだったが、居合いの後に返す刀で打ち落としまで決められては、役者が違いすぎるというもの。
「逃がしはせぬよ!」
 不利を確かにアヤカシも感じたのだろう。その滑る勢いを利用して地面にめり込みかけた体を浮かせようとした矢先、鬼限の左右の拳が死角を付いて石像へめり込む。獲物に飛び掛る蛇を思わせるその二撃は、石像の顔と胸を見事に抉る。それでもふわりと体を浮かせた石像だったが、直後にその腹部に風穴を開けると、糸が切れた操り人形のようにばらばらと崩れて地に落ちた。
 桔梗突の残心を解いて刀を収めた竣嶽と共に、一行は石像へ駆け寄る。
「石像はアヤカシ‥‥ ガーゴイルだったということなのでしょうか‥‥」
 霞澄が呟く中、石像は徐々に瘴気へと返っていく。石像に擬態するという能力は確かに村に潜むには好都合かもしれないが、村人の失踪には直接結びつきそうに無い。
「ともかく、石像は危険という事が分かっただけでも善しとすべきじゃろう。早く皆にも伝えなくてはな」
 一行は顔を見合わせ頷くと、龍に跨りシェースチへと向かった。

●情報取捨
「大理石っぽくて、しかもアヤカシだったの?!」
 風信術に出たカズラは、予想だにしないチェトィリの報告に戸惑いを隠せなかった。
「ヴォーセミにあるのは石膏像よ。そんな重量は無いと思うし、台座から落とせば粉々じゃないかしら‥‥ 軽く触った程度だから、もしかしたら動き出す可能性も捨て切れないけど」
 お互い戸惑いを感じつつも調査結果を交換すれば。チェトィリとシェースチには、やはりアヤカシの襲撃跡は無かったこと、そういえばシェースチの広場には石膏像の破片のようなものが散らばっていた気がすることが伝えられる。
 対してヴォーセミのカズラからは、件の石像は今年に入ってから少ない物資と一緒に運ばれてきたらしいこと。近隣の村ではどうもそれを壊すと、数日以内に村人が消えるという噂になっていることが告げられた。
「分かったわ。こっちはもう少し周りの村の噂について調べておく事にする。ドーヴァーの石像はもう壊れてるから安心だろうけど、道中気をつけてね」
 通信を終えてから、『だからこそ危険かも』と思ってしまったカズラであったが。
「‥‥考えすぎよね?」
 一言呟き自分を納得させると。そろそろお八つ時、子供たちと戻ってくるはずの恵皇とレートフェティを迎えに、外へと向かうカズラだった。

「やはりシェースチには石像はありませんでしたか」
 二つの村を回ってきた一行と情報交換を終えると、ルヴェルと和奏が顔を見合わせて呟く。どういうことかと問われる前に、和奏が話し始める。
「壊された石膏像とは別口のアヤカシが、村人失踪後に現れたのではないかということなんです」
 失踪直後に村を確かめたここの村人と、別口のアヤカシが現れた後に村を通った吟遊詩人とで時間差が合ったようなんです、と結夏から受け取った資料の日付を見せながら和奏が告げる。
「いやむしろ、村人が失踪を確認するまで待ってから、別口アヤカシを呼び込んだという可能性すらある」
 確証もないし、第一別口のアヤカシを呼び込む意味が分からないのだが、とルヴェルは少々済まなそうに告げる。
「これはギルドに通報して助力を請うべき、でしょうか‥‥?」
 霞澄が遠慮がちに告げれば、竣嶽と鬼限は顔を見合わせ考え込む。
「この村の人々が失踪に巻き込まれるか、この後シェースチの村にもガーゴイルが現れるか。この二つの可能性がどれだけ高いか、でしょうか」
「反乱も一応の決着を見せ申した。アヤカシ共も一旦手を引いた故に、この村に脅威はないとも考えられますからな」
 動くとしたらここ数日が山場でしょう、とは結夏の言。どちらにしろ風信術がこの村には無い以上、ヴォーセミで合流してからの判断に任せると話が纏まれば。入れ違いにやってきた一行に村の護衛を任せ、新たに得た情報を携えてヴォーセミへ向かう。

「どうも、性質の悪いのが居たみたいだなぁ」
 話を一通り聞くと、顎に手をやっていた恵皇は顔を顰めて答える。
「敢えて人の不安を煽って、それを眺めていたって事?」
 ドーヴァーの話を指して、悪趣味だなぁとはレートフェティ。
「眺めるだけならまだしも‥‥ それ、そういう種類の瘴気を集めていたって可能性もあるわ」
 カズラの嫌そうな指摘に、思わず体を強張らせる一行。
「まさかそこまでは! こんな小さな村落に、そんな知能の高そうなアヤカシが‥‥」
 反論するルヴェルも、途中でその言葉に何の根拠がないことに気付いて口を閉ざしてしまう。
「‥‥ギルドに連絡、した方が良さそうですよね?」
 和奏の呟きは誰も否定することが出来ない。結局、最悪上位のアヤカシが絡んでいるとしても、それ故にこの時点での関与は低いだろうと結論を出したものの。念には念を入れ、とにかく風信術でギルドに一報を入れることにする一行だった。