笑い栗はもうたくさん
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/04 15:50



■オープニング本文

 西渦(さいか)が商店街の外れを歩いていると、何かが爆ぜる音が続けて聞こえた。
 いつもなら気にせず通り過ぎるところだが、ギルドの仕事もさっきの申請で一段落したところ。のんびりした心持のままに足を止めて辺りを見回すと、何を売っているのか良く分からない屋台が一つ。目に入ると同時に何やら香ばしい匂いが漂って来たとあっては、覗いてみなくては女が廃るというもの。
「こんにちは。こちらは何を‥‥って、あなた調さんのとこの巡(めぐり)君?」
 屋台では半ばべそをかいた少年が、それでも鉄鍋が掛けられた火の調節に苦心していた。大きな鉄蓋が被された鍋の中身は分からないが、時折勢い良く何かが弾ける音が響く。声を掛けられた少年は慌てて顔を拭い挨拶を返すが、そこで相手が誰であるか気付くとほっとしたように笑顔を見せる。
「西渦さんじゃないですか! えと、甘栗どうですか?」
 勢い良く鉄蓋を持ち上げた瞬間、弾けた焼き栗が西渦を掠めて飛んで行った。

「ふーん、これが甘栗ね。確かに甘くて美味しいけど」
 しきりと頭を下げる巡から焼き栗を買うと、その場で皮を剥いて食べながら話を聞く。
 どうやら隊商の長である調(しらべ)が、最近買い付けで行った泰国から栗を大量に仕入れてきたらしい。生産地は色々らしいが、泰国朱春の港を経由するため「朱春甘栗」という名前が付いているとのこと。
「あまりの美味しさに、まずは商売抜きで安神の人たちに紹介したいってことだったんですけど‥‥」
 道具が一通り揃った段になって、調を始め泰国に行ったことがある者たちが急ぎの仕事とかで出払ってしまった。火を扱うことが出来る屋台と鉄鍋、それから良く分からない道具の他には、『お前に任せる』との走り書きしか残っていなかったとか。
「最初は調さんが用意していた場所で始めたんですけど、どうやっても栗が爆ぜてしまって。バチバチ危ないとか五月蝿いって、先程追い出されました」
 力なく笑う巡に、西渦は問う。
「栗なんて、囲炉裏で焼くのと変わらないのでしょう? 最初から包丁で切れ目でも入れておけば」
「最初にそう言ったんですけど、調さんが味が落ちるから止めろって」
 途方に暮れる少年に、しばし思案した西渦が助け舟っぽいものを出してみる。
「栗も無料で配るわけじゃないのでしょ? それとも儲けをどれだけ出せって指示が出てるとか」
「おまけは良いけど、御代は頂くようにと言われています。儲けについては、具体的な金額は言われていませんけど‥‥」
 不思議そうに素直に答える巡に、西渦は楽しそうに答える。
「なら助っ人頼んで、色々やってみれば良いわ。あなたの料理の腕を生かすのも一つの手だし。‥‥まあ、この広さだとそれは限られちゃうか」
「助っ人って、誰にですか!?」
 勢い込んで聞く巡は、でも我に返って考え込む。
「心配しなくて良いわよ。成功報酬で動いてくれる気のいい人、神楽の都には一杯いるのよ?」
 だから、と良い笑顔で西渦は続ける。
「さっさと成功させて、神楽の都でも美味しい甘栗の屋台、早く始めてよね?」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
琴月・志乃(ia3253
29歳・男・サ
炎鷲(ia6468
18歳・男・志
炎陵(ia7201
19歳・男・弓
春金(ia8595
18歳・女・陰
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
エルトウィン(ia9022
18歳・女・弓


■リプレイ本文

●まずは味見から
 集合場所の倉の前で、一行は屋台を囲んでいた。皆それぞれ鍋から栗を摘んでは、殻を割って口に運ぶが。その表情は一向に冴えない。
「これ、随分ヒドイんちゃう?」
「志乃さん、料理しない僕たちが言うのも‥‥」
 琴月・志乃(ia3253)の容赦ない突っ込みに、八嶋 双伍(ia2195)は反論してみるものの。口にした栗の苦味は正直で、その言に説得力はあまり無い。
「一歩進んで二歩戻る、という感じじゃな」
 前日の失敗作と今日の失敗作と、食べ比べながら春金(ia8595)は呟く。
「そうか? こっちのはおいしそうだぞ? うん、これは中身が見事なくらいに黒こげだけどな!」
 ルーティア(ia8760)の悪気の無い一言が拍車をかける。

 開拓者が手伝いに来ることになったからといって、巡は全てを人任せにするつもりは無かったらしい。今日は水を加えるという工夫で栗を爆ぜさせずに済んでいたのだが、その分火に掛けすぎてしまった模様。鬼皮は焦げ茶色ゆえ、鍋一杯の栗の見た目はあまり変わらない。だが皮を剥いてみれば一目瞭然で、真っ黒なそれは甘みなどない炭の味がする。工夫が意味を成さなかったことに、巡はすっかりしょげてしまっている。

「火が強すぎる、ということなのかな?」
 爪あとを入れてぱきっと皮を割りつつ、水鏡 絵梨乃(ia0191)が言う。あ、これは当たりみたいだ、ときれいな黄金色の実を口に入れると口元を綻ばせる。
「いえ、それなりの火力は必要と聞いています。それより、栗の粒が揃ってないのが良く無いのではないかしら」
 小さめの栗は黒焦げですけど、こちらは美味しそうです、といくつか栗を見繕って割ってみるのはエルトウィン(ia9022)。
「それもあるけど、万遍無く熱を加える必要があるみたいだね。ほら、この辺で焦げているの、片面ばかりだ」
 炎陵(ia7201)はそれを指先で転がしながら指摘すると。
「俺が聞いたことがある作り方は、鍋と小石を使った石焼でしたよ。栗を割らないようにかき混ぜるのが難しいという話だけど、片面だけ焦げるって言うのは無くなると思います」
 炎鷲(ia6468)の言葉を聞くと、巡が何かに思い当たるよう表情を浮かべる。
「桶の小石って‥‥ あの、もしかして水飴なんかも使ったりするとか聞いてませんか?」
 恐る恐る聞く巡に、両方あるんですか? と軽く驚く炎鷲。呆然とした後、肩をがくりと落とす巡だった。

●美味しい試食のために
「では、まずは試作の準備と行きましょう。‥‥何から始めようかしら」
 販売準備は後で良いとして、とエルトウィンが考え始めると、炎陵が答える。
「まずは栗の選別でしょうか。実際にはこれを全部分けることになるのかも知れませんが‥‥ 早速試作の分だけでも」
 山と積まれた栗から視線を離して一行を振り返り、ふわりと笑みを浮かべる。それより先に、と言うのは炎鷲。
「調理する場所と道具の用意かな。色々試すことになるから、もう一組あった方が効率よく出来そうだし」
「場所はここで良いとして。道具は鍋・小石・竈と、かき混ぜ用の道具の調達ってところか。あてはあるかな、巡?」
 絵梨乃が問えば、巡はしばし考え込んでから答える。
「竈は確か同じような屋台が残っていたはずなので、それは借りれます。ただ、鍋と小石は‥‥」
「ならその辺は、料理しない組で探してこよか。その間に栗の選別とかしててもろたらええし」
 志乃が言えば、小首を傾げる春金。
「しかし石とは‥‥ 川原にでも拾いに行くのかの?」
 流石にそれはと苦笑で答える双伍。
「石材を扱っている店とか、あとは石焼を扱っているお店で聞いてみましょうか」
「よーし、じゃあ屋台を引っ張ってくるのは任せてくれ。巡、早く行こう!」
 ルーティアは巡の手を取り、さっさと倉を出て行こうとする。
「ええっ?! 引っ張りすぎです、ルーティアさん!」
 そのまま引き摺られる巡と料理しない組を笑顔で送り出して、残った一行は栗の山に向う。

●試作は順調に?
 春金に志乃、双伍にエルトウィンを加えて幟や紙袋を用意していると、屋台の方から甘い香りが漂ってくる。
「水飴の焦げる香りって中々良いものね。‥‥栗を焼いているとは思えないのだけど」
 それで良いのかしら、と首を傾げるエルトウィン。
「商売はまず人を集めんことには始まらんからの。なーに、試食で納得させれば問題ないのじゃ」
 美味しそうな匂いに釣られてきたんじゃ、美味い物を出せれば嘘にはならないじゃろ、と春金は返す。
「ま、それも上手く作れる様になってから、って話やけどな」
「それは大丈夫ではないでしょうか。どんどん質は上がっていますから」
 志乃の言葉に笑みを浮かべて答える双伍は、戦場と化している屋台を見やる。

「‥‥ふぅ。火の番も楽じゃありませんね」
 屋台を並べて、二つの釜の火加減を見るのは炎陵。強すぎず弱すぎずと言われても、直火で調理をする訳ではないので中々難しい。それでも竈の癖も掴めてきたのか、大分思う通りに火勢を調節出来る様になって来たようだ。
 対して屋台には、巡と炎鷲、絵梨乃とルーティアが二人一組で鉄鍋に向っている。蓋を取り去り、小石を満たした鍋をまず熱し。小石と同じ程度の栗を鍋に放り込んでから棒でかき混ぜ続ける。水洗いしていた皮が乾く頃に水飴を加える以外、ただひたすらにかき混ぜる。
「あっつい‥‥ でも、これも美味しい甘栗のため!」
 額の汗を拭いつつ、絵梨乃は握った棒にぐっと力を篭める。既に試作は三回目。見た目も味も格段の向上を見せているが、ここまで来るとどこまで美味を追求できるかという、何やら己との勝負という状況を呈していた。
「そろそろ入れるぞ?」
 桶から柄杓で水飴を掬い、もう良いか、入れるぞ? と楽しそうに急かすルーティア。
「まだ駄目だ! もう少し‥‥ うん、そろそろ入れてくれ」
 慎重に慎重を重ねて炒られている栗は、どれもぷっくりと綺麗に焼き上がりそうだ。
 そして巡の方も、何とか様になってきているようだった。
「そうそう、その調子。そろそろ水飴、入れようか」
 炎鷲が手早く桶と柄杓を差し出すと、巡は多少もたつきながらも丁寧に水飴を加えてかき混ぜに戻る。
「うん、その調子。中々良い出来になっているよ」
 隣の屋台とは出来が違うのは分かっているし、そういうものだと諭されて納得した巡であったが、そのままで良いとは思っていないらしい。炎鷲はその直向さに、自分が気付いた細かな点を巡に伝えつつ、補助に専念する。
(「高すぎる目標にも怯まない。重要だけど難しいことだよ」)
 一人頷きながら、巡の作業を見守り続ける炎鷲であった。

「うん、うまい! おかわり!」
 ルーティアの屈託の無い笑顔と要求に、誰もが突っ込みを入れたそうな顔をしていたが。巡が嬉しそうに紙袋に栗を追加するのを見ると、顔を見合わせて苦笑するしかない。
「これが朱藩甘栗の真の味とな。むむむ‥‥ まさに恐るべし、じゃの」
 唸りながらも手を止めない春金の様子に興味を引かれた志乃が絵梨乃の鍋を覗き込む。
「‥‥なあ。なんでもう石しかないねん」
 目の前でもりもり栗を食べる絵梨乃はにっこり笑って一言。
「もう品切れだよ。こっちは味を追求していたから、そもそも数が少なかったんだよね」
 ま、そういうことにしといたるわ、と白けた顔で答える志乃に、ほんとだぞと食って掛かる絵梨乃。
「うん、確かにこの味なら納得ですね。‥‥手のベタベタだけはいただけませんが」
 エルトウィンが手を拭いながら呟く。加減が分からなかった時よりは、その度合いは随分落ち着いてはいるが、濡れた手拭いがあった方が親切かもしれないとは思ってみる。
「こればっかりは仕方が無いです。皮が簡単に剥けるの、やっぱりこれのお陰ですから」
 こうも違うものか、と唸る炎鷲は、以前の試作品やら生栗やらを剥いてみては、割れ方や渋皮の残り具合を検証している。巡もそこに張り付き、栗の大きさや炒った時間、加えた水飴の量を手帳に書きとめている。
「さて、こちらは何とかなりそうですね」
「はい。では出店先へ挨拶に行っておきましょうか」
 双伍と炎陵は、まだまだ必死に栗と向き合う巡の邪魔にはならぬよう、他の一行には目配せだけして、栗の入った紙袋を持って商店街へと向った。

●宣伝開始
 街中に童歌のような、楽しげな呼び掛けが響く。
「おいしいあまぐりっ いかがっじゃな〜♪ ほっぺたおっこちるほど あまくてほくほくじゃよ〜♪」
 ある者はその歌声の微笑ましさに、ある者はその聞きなれぬ単語に気を引かれて声の元を辿ると、そこには少女が二人連れ立っている。大きな幟を背中に挿す少女が口に筒のように手を当てて呼び込みをしていると思えば、肩から提げた箱に山と栗を積んだ少女はその節に合わせるように栗を割っている。
「‥‥おまいさん。ちょっとばかり、食べ過ぎではないかの?」
「むぐ?」
 丁度栗を頬張っていたルーティアは妙な音を発するが、ゆっくりそれを飲み込んだ後、心外そうに言う。
「そんなに食べていないぞ? 試食用の皮を剥いていただけだぞ、本当だぞ?」
 思わず溜め息を付く春金に、周囲からは苦笑がこぼれる。

「そこいくお姉さん。美容にも良い甘栗、一つどうやろか?」
 志乃は小さな幟と腰に下げた紙袋一つという軽装で、街中を歩くご婦人方、場合によっては井戸端会議に飛び込んでは甘栗を勧める。目を白黒させるご婦人方には、ぱきっと皮を割っては上半分の皮だけ外し、その黄金色の実をにっこり笑って差し出す。
「美味しそうな色やろ? ほくほくしとって甘いんは、栗本来の素材の味や。砂糖なんか使ってへんよ?」
 本当に甘い、と思わず声を上げる御婦人方には、笑顔でしっかり屋台の場所を伝える。宣伝が順調なこともさることながら、素敵な一期一会を存分に楽しむ、志乃であった

「おにいさんすごい! 栗を手で割ってる!」
 双伍が通りかかった路地で遊ぶ子供に栗を振舞うと、たちまちわらわらと子供たちが群がってきた。どうやら近くで鬼ごっこをしていた一団を集めてしまったらしい。
「これは甘栗といってね。コツさえ掴めば、誰でもきれいに割れるんだよ?」
 目を輝かせる何人かに栗を渡すと、こうやってね、とよく見えるようにしゃがみ込んで栗を割ってみせる。
「ほんとだー!」
「あっ! あまくておいしーい!」
 あっという間に手持ちの栗を配り終わってしまった双伍に、もっとちょうだいの大合唱が起こる。
「ごめん、もう無いんだ。あ、でも商店街で今焼いているところだから見に行ってみようか?」
 わーい、と喜ぶ子供たちの笑顔に心和ませる双伍であったが。ちょっと人数多すぎるかな、と一抹の不安が無いでもなかったようである。

 炎陵と炎鷲が竈の準備をしている間、巡をからかおうとしていた絵梨乃は。
「憧れの人なら確かにいるのですが‥‥ その、実家の状況がそれどころではないというか」
 最近の度重なる不幸と不運を聞く内に、最初は笑い飛ばそうとしていた絵梨乃の顔も曇ってくる。
「そうか、それは気の毒に‥‥ でもあれだ、これが逆境に対する第一歩になる訳だな?」
 そうなると良いのですが、と気弱な笑みを浮かべる巡。
「まずは気構えが大事なんだぞ? 一生懸命努力した自分を信じること。それが出来れば、絶対に何とかなるものだよ」
 その言葉を噛み締め、礼を述べる巡。不意に気恥ずかしさを覚えた絵梨乃は、少々わざとらしく通りに目を向けるが、明らかにこちらを目指す一団を見つけて唖然とする。
「「「おいしいあまぐりっ いかがっじゃな〜♪」」」
 春金の音頭に合わせて、子供たちが大合唱するのが聞こえる。手を繋いで広がる彼らを双伍が手際よく誘導しているようだが。
「試食、足りるかな?」
 桶にたっぷり用意しておいた栗の残りと通りを見比べながら呟く絵梨乃。
「火の準備は出来ましたよ。巡さん、出番です」
 炎鷲が声を掛ければ、炎陵が笑顔で頷く。
「小さなお客さんもたくさん見えますし、宣伝には丁度良いかもしれませんね」
 顔を見合わせ頷くと、早速作業に取り掛かる一行だった。

「‥‥今日のところは、サクラも不要そうですね」
 エルトウィンが遠目に屋台を眺めて呟くと、隣で串焼きを頬張る西渦も同意する。
「気になって見に来たけど、これならすぐ神楽の都にも進出してきそうね。‥‥とすると今必要なのは、好敵手になりそうな他の屋台の偵察とかかな?」
 あなたも来ない? と西渦が問えば、それは重要ですよね、とエルトウィンも良い笑顔で応える。
「その串焼きも良い香りです」
「これ、最近武天で流行っている照り焼き風ですって。そういえば、何か果物たくさん使ったタレが出回っているらしいわよ」
 楽しみです、と二人で顔を見合わせると。どちらからとも無く笑みを浮べ、屋台巡りへと向う二人だった。