魔の森掃討作戦
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/27 01:04



■オープニング本文

 老人は思い出深げに、しかし淡々とかつての村の栄える様を皆に語る。
 豊かな耕地に恵まれており、山に登れば神の恵みはそこかしこから零れ落ちる。
 立ち寄る行商人が語る都の話に、若い男女は目を輝かせて聞き入り、行商人もまた再度の来訪を楽しみに村を旅立って行く。
 四季折々の風雅な景色は都の者ですら感嘆の息を漏らす美しさであり、ふと、足を止めるだけで世界が如何に素晴らしいかを信じられる、そんな村であったと。
 翻って現状を振り返ると、そんな幸福とは無縁の村が見えてくる。
 山麓の一角、かつて湖であった土地に、湛える水に代わり突如魔の森が現れたのが全ての発端であった。
 直前に地震があり、これが凶兆であったと村人達は口々に言う。
 干上がった湖の湖底には肥えた土が集まっていたせいか、はたまたそれ以外の理由か、魔の森の成長速度は尋常ではなかった。
 飛び地のように不意に現れた瘴気の森は、瞬く間に周辺の景色を一変させ、近隣に住む人々を恐怖の底に突き落とす。
 最初の内こそ人的被害は無かったが、それも二月前までの話で今はもう村人の一割程が犠牲となっている。
 残る九割の内、半数はすぐに村を離れてしまった。
 豊かな村であったが故、移住に必要な財を持つ者も多かったのだ。
 長く魔の森などとは無縁な生活を送っていた村人達に、これに立ち向かえというのは酷であろう。
 魔の森なぞはるか下流の方にあるのみで、関わりなど持ちようはずもないとずっと思い続け、そう生きてきたのだろうから。
 既に三度程、開拓者を招いてある。
 魔の森の範囲も狭く、軍の規模でなくとも攻略可能とコレを焼き払うべく開拓者達は挑んで行ったが、ことごとく作戦は失敗に終わった。
 通称『オニヨロイ』と呼ばれる中級アヤカシのせいだ。
 剣技に長け、アヤカシには珍しく冷静な状況判断の出来るオニヨロイは、開拓者数人の集中攻撃にすら耐えうる頑強さと、十体の下級アヤカシを効率的に運用する奸智をも兼ね備えている。
 魔の森と比べて、瘴気も薄いこの地でアヤカシが踏ん張れているのは、オニヨロイの実力に他ならない。
 せめても開拓者に犠牲が出ていないのが救いだ。そんな事になっていたら、招いたとて来てくれる者も居なくなってしまうだろう。
 老人のこの言葉は、開拓者という人種がどういったものなのか良く知らぬ故であろう。
 出来ぬ――そう言われれば挑みたくなるのが開拓者なのだ。
 かくして実情を正確に把握しているにも関わらず、開拓者達はこの地に集う。
 四度目の挑戦。
 あまり縁起の良い回数とは言えないが、ここで決着をつけるべく開拓者ギルドは勇者を招き、応えたのが君達だ。

 十の下級アヤカシと、これらを指揮する中級アヤカシ、通称『オニヨロイ』を退治すべし。
 また作戦後、魔の森を速やかに焼き払う事。
 以上の二点を達成しつつ、可能ならば魔の森が突如この地に現れた理由を探るようギルドより申し付かった。


■参加者一覧
美空(ia0225
13歳・女・砂
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
喜屋武(ia2651
21歳・男・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
景倉 恭冶(ia6030
20歳・男・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志


■リプレイ本文

 酒々井 統真(ia0893)は、やはり実戦は予想したとおりにはいかないものだと内心だけでぼやく。
 敵アヤカシの首魁オニヨロイは指揮に長けていると聞いていたが、下級アヤカシであろう狼アヤカシが、コイツに指揮されたせいかとんでもなく手強い。
 防戦一方なのは現状予定通りではあるが、例えここで前に出る策であったとしても、今の状況で無理に前に出たらエライ事になる。
 連中こちらの前衛に対し、狼の俊敏さを活用して、入れ替わりに攻撃を仕掛けてくるのだ。
 おかげで一体に集中攻撃出来ないし、あちらはというとこっちが崩れれば数の差から集中攻撃も可能だろう。
 幸い、今前衛に出てる面々は防御も得意なのでそう簡単に崩れはしないだろうが、消耗を強いられているのは間違いない。
 喜屋武(ia2651)はタフで頑強な体を前に押し出し奮戦している。ここが真っ先に崩れるとは思えないが、幾ら喜屋武でも永劫に守り続けられるわけでもないし、少しづつでも損耗は蓄積するものなのだ。
 輝夜(ia1150)も体格は正反対だが、基本喜屋武と同型だ。コイツの剣や鎧は相当な衝撃でも受け止めきれるだろう。つまり、ある程度は安心して見ていられるという事。
 赤マント(ia3521)、速さ命のコイツが避けられない攻撃を俺がかわせるはずもなく。つまり俺が何とかやれてるって事は、コイツは余裕を持って避けてられるって事だ。
 総合して結論を下す。やべぇ、真っ先に崩れるの俺かもしんねえ。
 中級アヤカシであるオニヨロイは後方に控えたまま。にも関わらず、こちらが二人足りないとはいえ完全に五分である状況は、少々キツイかもしれない。
 もちろん後ろから美空(ia0225)や四方山 連徳(ia1719)からの援護もあっての話だ。
 二人の治癒があってなお、こちらの消耗の方が激しいのだ。
「こいつらの陣、きっちり崩してからでないと勝ち目は薄い、か‥‥」

 天ヶ瀬 焔騎(ia8250)は仕掛けを終えると、景倉 恭冶(ia6030)に合図を送る。
 どうやらあちらも準備は終わったようなので、さてやるかと敵の様子を伺う。
 遠目で見ると狼アヤカシ達の動きの鋭さがよくわかる。
 下級アヤカシと呼ばれる類は相手にしたことがあるが、ここまで的確で精妙な動きを見せるアヤカシなど見た事もない。
 焔騎は後方に控え指示を下し続けるオニヨロイを睨みつける。
「聞きしに勝るだな‥‥くそっ、やるぞ景倉!」
「あいよ。せいぜい派手にいきますか」
 偽伏兵の策、開始である。
 これは法螺貝を吹き、矢を射掛け、槍を突き出す事で多数の伏兵が居ると思わせる策である。
 見事騙せればこちらに対して兵を割かねばならず、それは敵将オニヨロイを狙う好機となろう。
 こちらの陽動に、どうやら敵は見事に引っかかった模様。
 オニヨロイがその巨体でこちらに一瞥をくれる。
 だが、そこから先は予想外であった。
「ちょ、ちょっと待てお前正気か!?」
 思わず叫んでしまう。そう、あのアヤカシ野郎は俺達の動きを見るや否や、狼アヤカシ十匹と共に統真達の本隊に向かって突撃を敢行しやがったのだ。
 恭冶が頬を指で掻いている。
「すげぇな、包囲されると見て速攻突破にかかったのか。思い切り良すぎだろあのアヤカシ」
「馬鹿っ、余裕見せてる場合か! すぐ援護に行くぞ! あの勢いは本気でヤバイ!」
 近接用に装備を切り替えながら二人は走る。
 あの勢いでは、半包囲の形で後衛二人を守るようにしていた布陣も突破されかねなかったのだ。

 突撃に際して、やはりというべきか、オニヨロイがその重厚な体躯を盾に、真っ先に飛び込んで来た。
 作戦云々は良くわからないが、とりあえず俺の仕事はコレを止める事っぽいな。
 喜屋武は駆け寄るオニヨロイの前に立つと、槍を地面に突き刺し、雄叫びと共に飛び掛った。
 振り下ろされる刀、これを踏み込んで腕ごと抑える。
 すぐに逆の腕で振り払わんとして来たが、これをこちらも逆の手で掴んで受け止める。
 笑いがこみ上げてくる。まさか、中級アヤカシと正面から力比べが出来るとは思わなかった。
「ぬううあああああああああああああっ!」
 大きく後ろに引いた左足が、大地を削りながら後ろに押し込まれる。
 体躯は向こうの方が一回り大きく、上から押さえつけるようにのしかかってくる。
 これに満身の力を込めて抗う。全身が燃えるように熱い。噴出した汗があっという間もなく蒸気と化し、白い煙となって立ち上る。
 全力を、それ以上を、一対一の力比べにて要求される機会なぞそうそうあるものか。
 俺が開拓者として戦うのは、この時の為といっても過言ではないっ!

 す、すごっ!
 いやいやいやいや、あれは無いって! 何であんなおっきなアヤカシと力比べ出来てるの? アヤカシって見た目以上に腕力あるよ?
 と、驚いている余裕も実は赤マントには無かった。
 押し寄せる狼アヤカシを後衛二人に届かせないように、あっちを押さえ、こっちを蹴飛ばしと動き回っているのだ。
「美空は大丈夫だから! 赤マントさんはオニヨロイを!」
 狼アヤカシに噛みつかれそうになりながらも、分厚い鎧で堪えているのは美空である。
 確かに陣が崩れた今しか、オニヨロイを仕留める機会は無い。
「え? あれ? 拙者のお姫様待遇は?」
 連徳が何か言ってるけど、うん、聞こえないや。連徳も鎧堅いしね。
 おそらくこのまま後方に抜けた後、包囲されぬよう位置しつつ再度こちらに攻撃を仕掛けてくる腹づもりだと思う。
 喜屋武がそれを正に力技で止めている今が、絶好の機会なんだよね。
 トウマに目をやると、待ってましたと言わんばかりだ。まったく、こういう機会は見逃さないんだから。
 声に出すまでもない。僕が踏み込むと、同時にトウマも飛び上がった。
 喜屋武のおかげで完全に動きが止まっているアヤカシだ、目をつぶってたって当たるよ!

 そこら中敵だらけの時は手数が増える二刀がありがたいって思えるな。
 戦闘中じゃらじゃらと鳴る鎖の音もこれが無いとって気がするしよ。
 恭冶は乱戦の最中に斬り込むと、真っ先に咆哮を用いて狼アヤカシ数体を引き寄せる。
 これで後衛連中に行ってた数体は俺が引き受けて‥‥っておいっ、あ、あの陰陽女、何こっちに手とか振ってんだよ。
 い、今は戦闘中なんだから、だから、んな事してる暇は‥‥うおっ! あぶねえっ!
 あの野郎、俺が女苦手なの知っててやってんじゃねえだろうな。
「拙者は野郎ではござらぬよー」
 ‥‥‥‥やべっ、口に出してた。
 悪いが返事してる暇はねえ。あってもしてやんねえけど。
 焔騎は美空の護衛に向かったな。へっ、以心伝心、俺達ならこの辺りは口に出すまでもねえな。
 そういや、あの女もやたら人に触りたがるから苦手なんだよなぁ‥‥いや、そもそも女はみんな苦手だけどさっ!

 輝夜は自身に与えられた役割を良くわきまえている。
 オニヨロイのような手練とやりあいたい気持ちは無くもないが、今はそれ以上に重要な事がある。
 混乱し、闇雲に攻撃してくるようになった狼アヤカシ。咆哮でかき集めたこいつらを削り取るのが輝夜の役目なのだ。
「頭が回るとはいえ、指揮官を封じれば所詮はこの程度だということじゃの」
 槍を旋風のように振り回す。細身小柄な体の一体何処にこれほどの力が秘められているというのか。
 薄紙を風で吹き飛ばすように、三体の狼アヤカシが跳ね飛ばされる。
 それが紙なぞでない証拠に、中空を舞い、大地に落着した狼アヤカシからは悲鳴と鈍く重い衝撃音が聞こえてくる。
 それでも、咆哮の効果により冷静な判断力を欠いている狼アヤカシ達は、我も我もと槍の餌食になりにくる。
 輝夜は期待に応え、連中が完全に動かなくなるまで回転斬りを繰り返してやるのだった。

 輝夜さんが狼アヤカシを薙ぎ払って、焔騎さん、恭冶さんが護衛に入ってくれたおかげで、美空は何とか周囲を確認する余裕が出来たのであります。
 私の直衛には焔騎さんが来てくれたんですが、随分とご無理をされてるみたいで怪我だらけでした。
 それでも怯まない勇気は素晴らしいのです。と、恋慈手にて治癒を施し、神楽舞「防」にて応援しましたら、ありがとうと言ってくれました。
 これでようやく他所にも援護が出来そうです。
 神楽舞「速」はオニヨロイを相手に戦う酒々井さんと赤マントさんに、是非贈らなければなりません。
 喜屋武さんには神楽舞「防」を。これで、状況が動くはずです。
 と言っている間に酒々井が行きました。元々視力のあまりよろしくない私ですが、にしてもあれは早すぎです。
 距離が離れてるせいで何とか見えてますが、目の前でやられたら絶対見えないだろうなーとか思うのであります。
 まるで止まらない酒々井さんの連続攻撃、これが途切れる瞬間、今度は赤マントさんが動きました。
 お見事です。酒々井さんが攻撃をし続けていたせいで動きが取れなかったオニヨロイを、うまい事続けて封じられております。
 あれ?
 あれあれ?
 赤マントさん、マントだけじゃなくないですか? 赤いの?
 というより、赤マントさんというか、赤さんって感じです。マントとかよくわからくなってます。

 速すぎて。

 殴ったり蹴ったりしてるみたいですが、それも見えません。いやもう、幾ら私の目が悪いからって、視界の中心に置いてるのに見失うってどんな速さでありますか。
 赤い光が蛍みたいにあちらこちらと飛び回ってるようにしか見えません。
 それでもオニヨロイがすごい勢いでヤられていってるのはわかったのであります。
 二人共、ここで一息に倒しきるつもりなのでしょう。
 それでも受けたり避けたりするオニヨロイも凄いとは思います。ですが喜屋武さんが槍を突き刺してオニヨロイの動きを止めると、もうなんていうか二人で袋叩きって感じでありました。



    『四方山連徳の調査報告書』


 此度の飛び地魔の森調査に関する記述をここに記すでござる。
 不謹慎であるとは思うが、拙者、魔の森の由来がわかるやもしれぬと興味津々でござった。
 焔騎さんは森に入る前に色々と村の人間に聞いていて、怨霊やらにまで思いを馳せておって、なるほどと関心したものでござる。
 そして拙者達は森を守るアヤカシを何とか退治した後、根源と思われる湖を探索したのでござる。
 皆は地下水が絡んでいると考えているようで、湖付近の水の流れを調べたらあったのでござる! 地下に繋がる洞窟がっ!
 拙者興奮が止まらぬ! 中にはまさかっ、瘴気を発するブツや大アヤカシの体の一部とかがあるやもっ!? な、ならば確保でござる!
 着服シヨウナンテ考エテ無イデゴザルヨ? 考エテ無イデゴザルヨ?
 結局、あまりに長すぎる洞窟なので、途中で引返してきたのでござるがなー。
 地図と照らし合わせて見てみると、おそらくこの洞窟は下流の魔の森と繋がっていそうでござった。
 そこに、輝夜さんが戻ってこられた。
「やっぱり地震が全ての原因じゃの。湖の更に上流で巨岩が川の流れを変えておったわ」
 水脈自体が急に枯れるとは考えにくい、どこか別の場所に流れ込んでいるのではないのか、と言って調査を続けていたのでござる。
 なるほど、結果地下水脈が枯れ、洞窟として下流域と繋がってしまったという事でござるか。
 人の住む領域も無い一本道、さぞや快適な迂回路であったろうて。
「なら話は簡単でござろう」
 拙者がそう言うと、皆はにやっと笑い返して来た。
 巨岩をぶーっこわせばまた流れは元に戻るでござる! こんこんと流れる地下水脈は如何なアヤカシとて溯れぬであろうしな。
 残った村人総出で岩をどかし、森を焼き払う事に成功。

 見たかアヤカシ共め! 此度は我等人間の大勝利でござる!