古城の闇
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/11 23:15



■オープニング本文

 廃墟となった城。
 戦に破れたか、主に見捨てられたか、物言わぬ城壁は何も語らぬ。
 雲間より差し込む月明かりが、かつては真っ白であったろう随所が黒ずんだ城の側面を照らし出す。
 雲が揺れるにつれ、か細い光もまたゆっくりと、城を照らしては隠し、隠しては照らす。

 上司に命じられ沖田城の現状を確認しに来た男は、昼間の内にこれを調査し終える事が出来ず、仕方なく城で一夜を過ごす。
 城壁は多少の修繕だけで問題なく使用出来よう。
 しかし内の城はひどいものだ。
 特に最上階より上から三階分は支柱すら腐り落ちており、何時崩れてもおかしくはない。
 更に下の階とて、上が崩れたら支える事も出来ぬ程不安定なありさまに思えス。
 城門は完全に消滅しており、戦の最中、城への侵入を早々に許してしまった結果では、と男は勝手に推測してみる。
 城の周囲にあるはずの厩舎等も全て朽ちており、かといって城内は崩れる恐れがあるため、男は城の中庭らしき場所で火をたき、一人城を見上げている。
 状態次第では再利用しようと考えているらしい上司はどう判断するだろうか。
 中の城を撤去し、新たに屋敷を建てるぐらいせねばならぬだろうが、この城を全て撤去するのには、かなりの労力が必要であろう。
「俺の考える事ではないか‥‥む?」
 月の加減であろうか、城の上の方で影が動いたように思えたのだ。
 ケモノの類かと目をこらすも、距離がありすぎるせいか正体は知れず。
 ぱちぱちと、たき火がはぜる音のみが耳に残る。
 不意に聞こえる声。
 ほー、ほー、と鳴くそれは、梟であろう。
 男は無言で立ち上がり、城の側まで寄って耳を澄ます。
 ぎしり、ぎしり、木の床が鳴る音が、何処からか聞こえて来る。
 城の中は随所で壁が崩れており、音の聞こえ方は画一でないだろう事はわかっている。
 腰に下げた刀の鯉口を切りかけて、思いとどまる。
 わざわざ暗い夜中に探索する必要もない。
 夜が明けてから、再度城の中を見て回ればよいだけの話だ。
 となると今晩は、何かが居るかもしれぬ薄気味の悪い城の側で寝るという事になるのだが、男は余程肝が据わっているのか、焚き火の側に戻りさっさと休むかと戻りかけた。
 振り向き様に、居合い斬り一閃。
 背後には何も無し。
 上か、そう察し見上げた男は、そこに五体のアヤカシが飛び上がっているのを見た。
「馬鹿な!? これほどの数を見落としていただと!」
 昼の間に一通り城の中を見て回ったが、何者かが潜んでいる気配なぞ感じられなかったのだ。
 身軽なアヤカシ達に、あっという間になます斬りにされた男は、大地に倒れるまでの間に、焚き火の回りを取り囲んでいるアヤカシの姿を見る。
 十、二十、いやさ三十‥‥そこまで確認した所で大地に倒れ、男は絶命した。

 忍装束の五人、いや五体。甲冑姿の五体、残り二十体はケモノの類に見える。
 アヤカシ達はよってかたって男を貪り喰らうと、何処へともなく消えていく。
 後には、広がる血痕と、主を失って尚光を放つ焚き火とが残るだけ。
 城は静かに、それまでと変わらず月の光を照り返していた。

 何時まで経っても戻らぬ男に、上司は不安になったか今度は五人を城へとやるも、彼等も帰っては来なかった。
 城に野盗でもいるか、はたまたアヤカシでも巣食っているのか。
 彼等の消息を明らかにし、行方不明となった原因を取り除く事。
 これを上司は開拓者ギルドに依頼する事にし、敵戦力不明との事から、ギルド係員は朋友の使用許可を出すのだった。


■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
小隠峰 烏夜(ib1031
22歳・女・シ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎


■リプレイ本文

 城へと辿り着いた一行は、昼間の内に城の調査を済ませるべく城内に踏み入る。
 大きな龍などは外でお留守番である。
 城内は所々が腐り落ちていながらも、見た目の威容は残っている。
 荘厳でありながら同時に朽ち果ててもいるとわかる一種独特の雰囲気を、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)なりに口にしてみる。
「これが滅びの美というものでしょうか?」
 アルクトゥルス(ib0016)はそんなもんかねと肩をすくめる。
「人の住まなくなった家屋敷ってのは空気が淀むな」
 そして、と付け加える。
「如何にも何か出るって感じだが」
 水月(ia2566)が、前を歩く小隠峰 烏夜(ib1031)の服の裾をきゅっと掴む。
 烏夜は一度振り向き、水月の様子を確認した後、特に気にした風もなく再び歩き始める。
 咄嗟の動きが鈍くなるとか、そういう部分をつっこまない優しさが彼女にはあるようだ。
 酒々井 統真(ia0893)はその様子を見て、何かを思い出したように目を伏せる。
 人妖の雪白がそんな統真を見て何かを言いかけるが、ふぅと一息つくのみで、やはり言わない事にしたらしい。
 ちょっと静かになった一行。そんな空気を読んでか読まずか、叢雲・暁(ia5363)がふーむと腕を組みながら言った。
「こういうダンジョン探索は単独全裸で遂行できるようになりたいものだ」
 神咲 六花(ia8361)は、単独はともかく全裸って何? 的な視線を向けるもさらっとスルーする暁。
「今は無理だけどね」
 そもそも全裸で城を探索する状況なんてものがあるものか、真面目に考え込み始める六花を他所に、ルンルン・パムポップン(ib0234)が暗がりを見つけるなりやはり空気をぶっちぎって叫ぶ。
「ルンルン忍法ニンジャアイ!」
 目の上に手を翳し、どうやら暗がりを見通そうとしているらしい。
 マルカがこそこそっと烏夜に問う。
「‥‥シノビの技って声に出さないとまずいのでしょうか?」
 シノビが多い一行の中で、敢えて烏夜に問うた理由は、まあ言わなくても皆がわかる所だ。
 隠れる気が無さそうなのが二人、隠れるというより縮こまっているのが一人。
 何ともいえない顔をする烏夜を見て、統真は半ば呆れながら頷く。
「だよなぁ。声に出してちゃ隠れるも何もあったもんじゃねえし」
 アルクトゥルスは六花と顔を見合わせる。
 六花が探索行にシノビは最適と頼もしく思っていた反動で、ちょっと不安そうになっているのを見て、アルクトゥルスは殊更大きな声で言った。
「ま、何か出てきたらアヤカシだろうが賊だろうが殴り倒してしまえばいいだけの話だわな」
 暁はふふふと自信ありげに笑う。
「ケモノとかアヤカシとか不思議存在とか野生のHENTAIとかっ、僕のZANSYUでイチコロだよ」
 またルンルンも実に頼もしげに胸をそらす。
「私の奥の手を使わせる程の敵がいるといいんだけど♪」

『野生のって事ぁ、養殖物とかいるのか?』
『‥‥へ、へんたいって‥‥こ、こわい、です』
『僕が見てきたシノビと、ちょっとだけ、違うなぁ』
『やる事はやってるみたいだし、ま、いいか』
『‥‥‥‥』(←同じシノビである事に若干の疑問があるらしい)
『奥の手ですか‥‥見たいような、見たくないような‥‥』

 六人はそれぞれにつっこみたい台詞を脳裏に浮かべながら、口に出して話を長引かせたりはしないだけの知恵もあったりした。


 昼間の間に調査をした限りでは、特に怪しい気配は無かった。
 しかし用心は欠かさず、夜は城の中庭に囮の天幕を張り、離れた場所でこれを見張る形を取った。
 前半後半の二つに分け、休息を取りつつも見張りは絶やさず。
 十全の構えで備えると、後半見張り組が変化を発見する。
 囮の天幕が夜より深い闇に包まれだしたのだ。
 完全にこれを包み込むと、じわり、じわりと隠れて休息を取っていたこちらに向け闇は迫り寄ってくる。
 アルクトゥルスは舌打ちすると、ルンルンは刀に手をかける。
「ちっ、見つかったか」
「不意打ちでアレ喰らうよりマシだったと思うのです」
 統真は休んでいる皆を起こした後、ちらと水月へ目をやる。
 幼く見えても流石に開拓者。
 細身の刀をすらりと抜くのが、なかなかにサマになっている。
 統真は水月の隣に立つと、余計な事を言った。
「無理はすんなよ」
 水月は、少し驚いた顔をした後、こくこくと素直に頷いた。

 迫る闇の正体は、黒づくめの甲冑アヤカシ、そして皆一様に黒いケモノ達の群であった。
 半ば円陣のような形でこれを迎え撃つ開拓者達だったが、暁、ルンルン、烏夜の三人が同時に動いた。
 手裏剣、苦無を中空に向けて放つと、何も見えぬ虚空にて火花が散り、周囲に新たな影が増える。
 何処より現れたのか、シノビアヤカシも襲撃の気配をうかがっていたのだ。
 鬼火玉の戒焔を従えたマルカは、長巻を肩にかつぎながらアヤカシを見渡し微笑む。
「せっかくのパンプキン・パイタイムが台無しですわ」
 六花は少し口をもごもごさせていたり。
「あ、結構なお味でしたよ」
 余裕があるんだか無いんだか。
 足元では猫又のリデルがつんと澄ました様子である。
 甘くておいしいかったのを顔に出さぬよう努力している模様。
 こちらも主に似て緊張感があまりなさげなのである。

 とにかく敵は数が多い。
 この上不意打ちなんてされてたらと思うとぞっとしないが、ともかくこうしてきっちり迎え撃つ事が出来たのだ。
 アルクトゥルスはそれで充分と斧槍を大きく振るう。
 雲霞のごとく押し寄せる敵を、抑え込みながら数を減らす。
 大仰で派手に攻撃にも、こういった意図があった。
「アスピディスケ!」
 強く命じると、甲龍アスピディスケは包囲せんとする敵アヤカシに対し、地上より翼を広げてこれに迫る。
 元より図体の大きい龍だ。これが両翼を大きく広げれば、本来以上の大きさを敵に見せる事が出来よう。
 また甲龍ならではの装甲の厚さを持ってすれば、数を相手にしての壁役も存分にこなせるだろう。
 その間に、アルクトゥルスが敵を削る。
 槍の穂先に更に斧の刃を備えた斧槍は、ありえないぐらい先端部が重い。
 これを利し、刀で受けにかかった甲冑アヤカシを、刀ごと吹っ飛ばしてやる。
 大きすぎる動きは容易く懐への侵入を許すが、素早い動きで踏み込んで来た狼アヤカシの牙は、両足を開き鎧の堅さで受け止めきる。
 突進の勢いも加わっていたが、それがどうしたと弾き返してやる。全身を覆うオーラの輝きは伊達ではないのだ。
 重装甲、高火力。
 騎士とはかくやあらんといった勢いであるが、当然弱点もある。
 それを熟知しているアルクトゥルスは、動きの速いケモノは皆に任せ、動きの重い甲冑アヤカシに狙いを絞る。
 こちらがケモノの突進に崩されると読み踏み込んできた甲冑アヤカシに、百年速いと斧槍を振るう。
 トップヘビーの武器を操るに、強引過ぎる技は逆効果だ。
 その重量に逆らわず、最も避けずらい振り方で、何処でも当たれば抉り取る勢いで。
 柄がしなり、斧先が唸りを上げる。
 ぐるりと回した斧槍は、それが手持ち武器のものとはとても思えぬ轟音と共に甲冑アヤカシを強打するのだった。

 統真は包囲に対する円陣より、真っ先に飛び出して行く。
 その踏み出す距離、速さはとても余人の及ぶ所ではない。
 目を剥く水月を他所に、必死必殺の一撃を。
 吹き荒れる炎のごとくその全身より薄紅の精霊力が放たれる。
 薄暗がりの最中、そこだけ日中のごとく輝き、眩いばかりの力に満ちた光をまとう。
 これ程までの精霊力をたやすく操る技とは、一体どれほどの修練を必要とするのであろう。
 と、統真が踏み込むに合わせ、周囲を遍く照らし出していた桜色が失われる。
 いや、ある。
 アヤカシの群に飛び込みながら、低く潜るようにこれらをすり抜け、振り上げた右腕に全てが凝縮されているのだ。
「先手必勝ってな!」
 吠え猛りながら、鍛えに鍛えた豪腕を、大地へと叩き付けた。
 崩れそうな城の中、というか建物の中では絶対使ってはいけませんと注釈つけられそうな、強烈無比の一撃。
 大地に亀裂が走り、周囲を取り囲んでいたアヤカシ達が砲弾の直撃でも受けたかのように吹っ飛ばされる。
 更に振動は大地を伝い、一時闇に覆われていた囮の天幕はそれだけで崩れ落ちる。
 流石に城が範囲に入らない程度には計算していたらしいが、ここで戦う全ての者が大地の揺れを感じられる程の威力である。
 それでも尚、恐れ怯まぬがアヤカシ。
 再び襲い来る彼等に、統真は円陣へと引かぬままこれを迎え撃つ。
 人妖の雪白は主の意図を察しぼやく。
「ボクはルイほど回復得意じゃないから、無茶しても庇いきれないのに」
「なら、倒す方で援護を頼むさ」
「‥‥やれやれだ」

 統真の無茶に肝を冷やした水月であったが、あの技を乱打するというのであればああする他無い。
 攻撃効率も非常に良く、数の差がある現状では確かに効果的であるとわかる。
 でもまあ、危なっかしいのは確かなので早く戻って欲しいなーとも思うが、それを大声出して言えるタチでもなかったり。
 なので水月は仕方なく自分の事を頑張る事にした。
 ケモノに混じって、時々仕掛けてくるシノビアヤカシが厄介である。
 稲妻のように全身で飛びかかってくるシノビに対し、左肘で刀の裏を支えながらその斬撃を受け止める。
 その左手には呪力を上げる術具が。
 それが猫の人形である辺り、緊張感が一気に抜け落ちる勢いだが、それでも効果は折り紙つきだ。
 動きの止まったシノビに、術と共に放たれた子猫の群が纏わりついてく。
 これが人間であるのなら、こんなものに動きを封じられてはやり直しを要求したい程やるせない思いを抱くだろうが、相手はアヤカシだ。そこは気にする所ではないだろう。
 それでも、素早い動きが身上のアヤカシの動きを封じられれば、後はどうなと料理出来よう。
 しかし群がってくるケモノアヤカシがこれを許さず。
 と、猫又のねこさんが迫るケモノの一体を抑える。
 走る鎌鼬は正確にケモノの前脚を捉えており、これでようやくシノビへの攻撃余裕が出来た。
 距離を取らんとするシノビと、すれ違うように一閃。
 抵抗もなく飛び下がったシノビであったが、その片腕が失われていた。
 呪縛の符さえあれば充分に戦える。
 そう確信した水月は、しかし意識を引き締め敵に当たる。
 安堵するのは全てが終わってからだと、この幼い年でありながら水月は良く知っていたのだ。

 暁の目は、闇に紛れるシノビの姿を正確に捉えていた。
 これは確かに見事と思える。
 多数のケモノと甲冑アヤカシにて力押しを見せ付けておきながら、夜の闇を活かし視界の及ばぬ所より迫り寄るシノビ達。
 良い手ではあったが、こちらには闇をも見通す目があるのだ。
 六花が陰陽師らしからぬ剛剣を振り回すに合わせ、暁は動きの良いアヤカシの手元足元を狙い自由に動けなくしてやる。
 同時に、不意打ちを狙うシノビに時折牽制の手裏剣を投げてやると、それだけで敵は踏み込みの間を外されてしまうのだ。
 甲冑アヤカシが構える長刀に向け、強引に斬り伏せにかかる六花。
 見てる暁が、そりゃ無理だと思っていたのだが、長刀で受け止めた瞬間、六花の刀身より式が這い出てくる。
 これは甲冑の長刀をすり抜け、直接本体を痛打した。
「わおっ」
 小さく歓声を上げながら、暁は大きいのを振った六花へと迫るケモノの脇腹を蹴り飛ばしてやる。
 転がるケモノの上を跳び越し、別のケモノが襲い来る。
 暁はこれを読んでいたからこそ刀ではなく足を使ったのだ。
 前に転がり込むようにしながら、前方に刀を立てる。
 刀の背を前へと転がり込む胴にて抑え、その重量に耐える。
 わざわざこんな真似をしたのは、ただ上へと立てた刀に殺傷能力を持たせる為。
 暁の上を飛びぬける形になったケモノは、果たしてこの刃に捉えられ腹部に深い裂傷を負う。
 六花が、振り返りざまこのケモノに向け刀を振るう。
 ちょうどそれがやりやすい位置に来るよう、暁がそう仕掛けたのだ。
 腹部の傷で大きく動きを崩されたケモノは、六花の剛刀により首を一撃で両断される。
 同時に暁も動いている。
 強烈な一撃に揺らめいていた甲冑が六花へと動いていたのだ。
 この頭部に手裏剣を叩き込み、同時に自身も大きく跳ねる。
 逆手に持った刀と共に、怯んだ甲冑アヤカシの脇を駆け抜ける。
 手裏剣を頭部に叩き込んだのは、勢いに頭が大きく上がるように。
 そうすれば、首が剥き出しになり、次なる一刀がよりやり易くなろう。
「首刎ねで負けるわけにはいかないのだよ、きみ」
「僕のはそんな綺麗なものじゃないですけどね」
 首刎ね慣れてる暁のソレは断面すら見える程で、そこに大きな動脈が走ってなければ出血すら止まるのではと思えるような綺麗な傷口。
 片や六花のソレは首刎ねというべきか。そもそも首であった部位がもう何処にも見当たらない。
 文字通り千切り斬った痕である。
 いずれが良いという話ではない。つまりは、それぞれに向いた役割があるという事だ。
 敵の小細工やらこちらの小癪な手は暁が引き受け、六花は剛剣に加えた陰陽術での高火力にて殲滅する。
 常時式を刀に乗せておける程、練力に余裕があるのも陰陽師ならでは。
「キツイのはシノビだけですか‥‥ならっ!」
 消耗戦に持ち込むより素早い殲滅をと考えた六花の金剛刀は、右に左に瘴煙を撒き散らし、次々敵を屠っていく。
 と、主同士が仲良くしていたせいか、どうやら朋友二匹にもそれがうつったようだ。
 忍犬ハスキー君の頭の上に、ちょこんと猫又リデルが乗っかっているではないか。
 忍犬ならではの動きの早さに乗りながら、リデルはこれはらくちんと鎌鼬をぶっぱなす。
「‥‥いや、いいんですかあれ?」
「流石ハスキー君、いろんな意味で敵の気を挫けるよソレ」

 マルカは長巻を下段に伸ばす。
 豪奢な金髪、美麗な容姿に合わぬどっしりとした低い構えは、しかし中々に堂に入っているではないか。
 右よりケモノが飛ぶ。
 柄尻でこれを弾くと、前方より次なる敵が。
 弾く際、体が高く上がってしまうも、腰の捻りで長巻を振るい、縦に振り下ろし近接距離まで迫っていたケモノの頭部を強く打つ。
 近すぎて刃こそ当たらなかったものの、敵の突進を止めるに充分な威力だ。
 ケモノが怯んだ瞬間、持ち手を入れ替える。
 一瞬とはいえ武器より手を離すのは並々ならぬ勇気がいるだろう。
 それを為した理由は左側面より迫るシノビの姿だ。
 心の中で間に合えと叫び横薙ぎに振るう。
 ぎりぎり、刃の内側に入ったシノビだったが、棍のように振るわれたコレに吹っ飛ばされてしまう。
 ルンルンの声が聞こえた。
「ごめんっ! こいつら速いよ!」
 縦横無尽に連携するシノビ三体をルンルンと烏夜で抑えていたのだが、どうにも抑え切れぬ程動きが良いらしい。
「偶にでしたらお気になさらず」
 つまりそう何度もやらせんなよという意味である。
 ルンルンは、どうやら敵の強さを認め、別の手を打つ事にしたらしい。
「目には目を、ニンジャにはニンジャ‥‥正義のルンルン忍法が、闇を断つのです!」
 マルカは正直返答に困った。
 いきなりルンルンが両手を組んだかと思うと、何やら怪しげな術を唱えだしたではないか。
 巻物をくわえているのは、何か意味があるのだろうか。
 と、どろんと煙と共に、巨大な蝦蟇が現れる。
「‥‥‥‥えっと、ジライヤ? 珍しいもの連れてますのね」
 あちらでは烏夜が他のシノビ相手に孤軍奮闘している。いやあれは見なかった事にしたいだけかもしれない。
 そんな微細な心の機微を知らん顔で、ルンルン忍法絶好調。
「パックンちゃんGO!」
 大口を開けた蝦蟇が、両手を大きく開き見てわかる程の勢いで息を吸い込む。
「蝦蟇砲練力充填率120%‥‥んちゃ!」
 放たれるは疾風の刃。
 渦巻く嵐となった風はシノビの一人を包み込み、ずたずたに切り裂いていく。
 更に、大蝦蟇はルンルンを上に乗せたまま、大きく両腕を開いてみせる。
「あれは‥‥その、もしかして見栄を切っているのでしょうか‥‥」
 ぐるりと首を回し、ばばーんと決めると、何故かそれでシノビの動きが止まってしまった。
 何処かやるせなさそーな顔で烏夜は、この隙にと黒塗りの苦無を放ち、急所を貫いた。
 峰雅楼丸もこれに続き、先程蝦蟇砲にて傷ついたシノビに空から襲い掛かりその爪で跳ね飛ばす。
 不意に、急所を貫いたはずのシノビが動き出した。
 狙うは烏夜。
 しかし、脱力しかねぬ状況にも彼女の動きに乱れは無い。
 刀撃をもらう直前、胸元より取り出した苦無を放ち、注意を逸らさせる。
 無論狙いはそれだけではない。
 同時に懐へ踏み込むと、シノビの首に腕を回す。
 あちらが刀を逆手に持ち替えるより、こちらの動きの方が早い。
 首に腕を回したまま、振り向きつつシノビを腰に乗せ、全力で腕を振りぬく。
 このまま落ちれば、もちろん首を極めた状態で大地に叩き付けてやるまで。
 しかし、やはり、期待通り、シノビはその素早い動きで大地を蹴る事で、下へではなく上へと投げ飛ばされる。
 くるりと体を捻りつつ首を外すその技は、流石てこずらせるだけはあると思えた。
「ですが、申し訳ありませんがそちらは地獄の底ですよ」
 空中で半回転しているシノビに、投げ飛ばした烏夜が追いつくというのはどういう理屈であろうか。
 前方回転しながらこれへと迫り、空中で胴回し回転蹴りを叩き込んでやる。
 シノビの腕ならば空中ですら自在に体位を変え得ようが、これでそれすら不可能となる。
 落下していくシノビ。
 その先には、ちょうどケモノを斬り倒した直後のマルカが居た。
 右脇を一回転、更に左脇を通しながらもう一回。
 落下してくるシノビに向け、下より斬り上げるような斬撃。
 これで斬れぬのはシノビがアヤカシ故の頑強さを誇る故か。
 再び宙に舞い上がったシノビは、何とか体勢を立て直そうと構えるも、そこに、更に上へと飛んでいた物体が居た。
 鬼火玉の戒焔は、空中より落下しながらの体当たりをぶちまかす。
 激しく大地に叩きつけられるシノビに、マルカは横に回りながら迫り寄る。
 大きく振るった長巻は流れるようにこれを斬り裂き、尚もマルカは止まらず。
 振りぬいた勢いで溜めを作り、首目掛けてまっすぐに突き出すと、ぽんっと、シノビの首が音を立てて飛んだのだった。


 翌日、烏夜は城を念入りに調べていくと、城内に何処とも繋がっておらぬ隠し部屋がある事を発見する。
 城の構造上、ここに部屋が無いのはおかしいという所がわかるまで調べた烏夜の手柄である。
 戦闘より調査に力を入れていた彼女ならではの情熱と言えよう。
 昨晩襲撃を受けた事もあり、原因究明の為と壁を破って調べると、そこには、十数人分の衣服が転がっていた。
 それは、この城で行方不明となった者達の遺品であり、後日これを届けた皆へは特に感謝の手紙が届けられたのだった。