|
■オープニング本文 たった二人での偵察は、余程腕に自信が無ければ出来ないだろう。 ただ、地形条件次第ではさして難しくもない任務となる。 平蔵と平次の二人がこれを任されたのは、偵察先が見渡す限りの荒野であり、かなりの遠距離から敵を捕捉出来る故であった。 「ふざけんな! なんだよこの風の強さ! ほこりが口に入ってマジ鬱陶しいんすけど!」 「うるせえ騒ぐな喚くな口開くなくそったれ! 元はといやてめぇが隊長前に絶頂エロトークかましたのが原因だろ!」 「寝ぼけんなよ平次! てめぇが出立前に女子更衣室覗こうとしてたのがバレてたに決まってんだろ!」 単にこの二人があまりにやかましかったから放り出されたという側面も、無いではない。 陣を敷き、瘴気の森と対している部隊から遠く離れ、前回の探索行より丸一年が経っているこの土地にアヤカシが居るかどうかを探るよう命じられた平蔵と平次は、このやったら見通しの良い土地を馬に乗ってかっぽかっぽと彷徨っていた。 「あー! 女っ気ねええええええ! おい平蔵! 何で空から俺の目の前にめっちゃ美幼女降ってこねえんだよ! 間違ってるだろこの世界様はよぉ!」 「普通に美女で我慢しとけよ! 何で幼女限定なんだよ! つーかそんなの居たらまずアヤカシ疑えボケ!」 「美幼女アヤカシとか超踏まれたいんっすけどおおおおおお!」 「そんな存在意義のわからんよーなボケアヤカシがいてたまるか! タコ妄想してる暇あったら現実の幼女押し倒せや腰抜けが!」 いやまあ、幼女アヤカシも居る所にはいるのだが、幸い彼等は遭遇した事が無いよーで。 「‥‥え? マジ? それは幾らなんでもないだろ。お前もしかしてマジでやったんじゃね? うわー、引くわー」 「良し殺す。そこへ直れクズが」 ともかく、二人は更に見通しの良い崖の上を目指す。 こからんこからんと進む二人が崖の上に辿り着くと、遙か遠くに、何やら動く影が見えた。 遠眼鏡を覗き込み、影の正体を確認すると、ビンゴハレルヤ大当たり、アヤカシの群であった。 「やべぇなこれ。結構な数居やがるぞ」 「ちょ、ちょい待て。地図と確認して‥‥‥‥ふぉーう、ふぁっきんさのばびーっち、進行方向に村ありやがる」 「本隊に合流して間に合うか? ‥‥って間に合うわけねぇな、片道だって無理だっつの」 平次は遠眼鏡から目を離し地図とにらめっこを始めるが、平蔵はそのままで呆けたように口を開く。 「おい平次、ちょっとお前も見てみろ。何か、何てーかすげぇぞ」 「あん?」 言われる通り平蔵の指し示す場所を遠眼鏡にて見てみると、群のボスらしき存在が居た。 一目でこいつがボスだとわかる存在感。 人型で、側の草木と比較すると普通の人間よりかなり大きい。 体の造りもものすごーく人間に忠実に出来ている。 「‥‥悪ぃ、んであのアヤカシの存在意義ニやらはどっかに転がってんのか?」 「俺に答えろってのかよ、それ」 アヤカシはエライ短い褌を一枚はいたのみの超全裸であった。 しかも筋肉が凄い。いや凄まじい。ありえない。何あのてかり? まずは感動に耐え切れなくなった平次が吠える。 「すげえええええええええ! 何だあの肉! こんもり盛り上がっちゃってるよ! 腕とか俺の腰よかふてええええええ!」 すぐに平蔵も遠眼鏡に目をこすりつけながら叫ぶ。 「太もも太すぎて足閉じらんねえだろあれ! つーか胸! デカイ胸に殺意沸いたの生まれて初めてだぼけええええええ!」 感動を絶叫にて表す二人を前に、それが見えているわけでもなかろうに、アヤカシのボスは突然歩くのを止め、何やら奇妙にゆっくりとした踊りを始める。 「あれ何よ!? 何かポージング始めたんすけど! どんだけあのアヤカシ肉に拘ってんだよ!」 「背面見せんな! 肉ぴくぴく動いて超きめえええええええ! つかダブルバイセップス・バックかますアヤカシとかこええっつーの!」 もう爆笑が止まらない二人。 「ウェスト絞るとか芸細かすぎだろてめぇ! デカイぞ! 切れてるよ!」 「マジ切れてる切れてる! ナイスカット! あのケツに挟まれたら鉄板だってひん曲がりそーじゃねえか!」 そしてアヤカシが振り返った瞬間、二人は同時に叫んだ。 『めっちゃ笑顔おおおおおおおおおお!』 さんざっぱら楽しんだ後、二人は苦しい腹を押さえつつ、ちょっと真顔に戻る。 「‥‥って笑ってる場合じゃねえ。あれが敵とか手強すぎだろ常考」 「敵さんの構成は見たぜ、気合入れりゃ馬で振り切れるかもしんねえ」 「‥‥何考えてやがる?」 「とりあえずじゃんけんだな。負けた方が痛い目に遭うおーけい?」 平次は持ってきていた鞄から白い鳩を取り出す。 「近くの町にこいつを飛ばして、兵‥‥じゃ無理か。開拓者頼めるか?」 「言わなきゃどっちかは楽出来たってのによ、豚野朗。本隊とは逆方向だし、下手すっと兵出せる状況じゃねえかもしれねえしな。そこまで文に書いてやりゃ町長も動くだろ」 必要な文面を書き、鳩を町に向け飛ばす。 「っしゃあああああ! やるぞオルァ!」 「アヤカシがなんぼのもんじゃい! かかってこいやゴルァ!」 二人は馬に乗り、かのアヤカシの群をおびき寄せる事で、村への進路を逸らさせようとしていた。 平蔵平次より連絡を受けた町長は、勇敢な二人の行為に感涙し、彼等を死なせてはならんと即座に開拓者を手配する。 二人が何処をどう逃げ回るかまるで予想がつかないので、周辺の捜索には馬を用意しておいた。 彼等が誘導に成功さえしていれば村は無事であろうし、恐らく町に来る事もあるまい。 ただ、敵の戦力が多いのと捜索の手を少しでも広げられるようにとギルド係員は朋友の使用許可を出す。 後は開拓者に任せるだけだ。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
針野(ib3728)
21歳・女・弓
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰 |
■リプレイ本文 空二班、地上一班の三チームで捜索を開始した開拓者達。 やはり可視範囲も広い龍での捜索が本命であったのだが、彼等を発見したのは意外や意外、地上班の二人であった。 羅喉丸(ia0347)の用意した発煙筒をたきながら、趙 彩虹(ia8292)は平蔵平次の二騎と馬を並べる。 「やっ、一年振りかぁ‥‥頑張ってるみたいでなにより♪」 平次が引きつった顔のままそちらを向く。 「あん!? アンタ誰‥‥って、もしかしてケモノ退治ん時の? え、もしかして開拓者来てくれた!?」 すぐにもう一騎、神町・桜(ia0020)もこれに並ぶ。 「ほれ、怪我は治してやるから見せるがよい」 平蔵も目を丸くしている。 「ってたった二人かよ! どーすんだこの数!」 桜の胸元からひょいっと猫又の桜花が顔を出す。 汗だくでへっろへろなのが見てわかる程であるのに、瞬間的に覗き込みにかかる平蔵。 『きょぬー美女じゃないけどにゃ‥‥みにゃ!?』 すかぽーんとひっぱたかれる桜花と平蔵。 「他の仲間もおっつけ来る。余計な心配するでないっ」 趙は大きな旗を振りつつ、笛を鳴らし、残る仲間を呼び寄せる。 殿を引き受けながら趙は後方より迫るアヤカシ達を見やる。 多分、追いつかれても自分一人ならば仲間が来るまで持ち堪えられる。そう思えてもあの数は少々恐ろしい。 ましてや、この馬鹿二人は志体を持っていないのだ。 何かの拍子に追いつかれたり、馬を失ったりしたらそれでお終いだ。 全てが終わったら、まず水をやって労ってやりたいと、素直にそう思えた。 彼方の空より、途中で合流を果たしたらしい六騎の龍影が。 針野(ib3728)は、増援を知らせるべく声を張り上げる。 「平蔵さん、平次さーん! お勤めご苦労様です! あとは任せて、ちょいと下がってて下さいさー!」 ルーティア(ia8760)は標的を見定め気合を入れる。 「行くぞ筋肉ダルマ! 覚悟しやがぶはっ! やべぇ、筋肉マジヤベェ! しかもめっちゃいい笑顔!」 どうも入れきらなかった模様。 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)も実にげんなりとした顔になる。 「ないわー。ホント、こ れ は な い」 色々言いたい事があるのは風雅 哲心(ia0135)も一緒であったが、何はさておき、若干先行気味の鷲アヤカシをどうにかすべく弓を引き絞る。 群雲となったアヤカシ達に、放たれた矢と共に駆ける二騎の龍。 禾室(ib3232)は、この場所では平蔵平次が隠れる事も出来ぬと、二人の壁となるべく降下、龍と共に大地に降りる。 「アヤカシども、ピッチピチの狸が来たぞ! ほれこっち狙わんかい!」 総戦力が揃ったという事で、地上の桜と趙も迎撃体制に。 ないすぽんぽこという訳でもなかろうが、先陣切ってつっこんでくる地上アヤカシ達の眼前に向け、もう一騎が飛び込みざま龍より飛び降りる。 羅喉丸は、空中で呼気と吸気を整え、落下しながら構えを取る。 羅喉丸落着の瞬間、大地を強烈な振動が襲う。 我先にと踏み込んでいたアヤカシの前衛は軒並み吹っ飛び、数体はただそれのみで粉々に砕かれてしまう。 「すまない、待たせたな」 これで引き上げてくれる程可愛げのある相手ではないが、とりあえずこちらが完璧に体勢を整える事は出来たのだ。 哲心は鷲アヤカシの群ど真ん中に飛び込む。 一群となって固まっているので、先制の射撃はもう何処に撃っても当たるぐらいの勢いであった。 「射撃は専門外だが、こういう場面では有効だな」 そして近接距離に。交錯するとなると、今度は密集してる分龍の軌道が取りずらいのだが、そこは愛龍極光牙に任せてしまっていい。 手綱を操るまでもなく、減速無しでこれに向かう極光牙は、まず三匹の間に強引に体をすりいれる。 激突必至な位置だ。翼の何処かがぶつからずには済まぬだろう隙間に突っ込む極光牙に、鷲アヤカシは仕方なく回避運動を。 にやりと笑う哲心。 判断力がある者であれば、戦闘中にチキンレースを仕掛けられてかわさないわけがない。極光牙は無論そんな事も織り込み済み。 翼端をかすめながらすりぬけ、半ばにいる二匹の直前で一羽ばたき。 こちらも激突コースであったのだが、羽ばたき一つで上方に抜ける。 そこで半ひねりしつつ、斜め下に降下し最後の一匹をかわしていく。 空戦を得意とするアヤカシ相手にこんな芸当を、主の指図抜きでしてみせる極光牙の能力を、どうして疑う事が出来ようか。 後方にて、強引な中央突破によりばらばらに散開させられたアヤカシの群を振り返りながら、哲心はそう思うのだった。 バラけたアヤカシは針野にとって格好の的である。 引き絞った弓は、哲心のものと同じレンチボーン。 重量に見合った重々しい外観は、威力と射程の長さを保障しているが、当然見合った技量を射手に要求する。 とはいえ、針野も弓術師。竹に紐くくっただけの粗悪な物でも有効利用出来るだけの腕はある。 それに弓の専門家として、同じ武器で他職に負けていられないというのもあったりなかったり。 駿龍かがほがお尻の下で好き放題跳ねてくれるが、これに惑わされない弓術もまた修めている。 弓射の速度は、鷲アヤカシの飛ぶ速さを大きく上回る。 ならば発射後の事は考えず放ってしまってもいいのだが、それでは弓術師ではない。 より効果的な部位を狙えてこその弓術師ならば、彼我の速度差を考え、距離を測り、後は勘である。 右にほんの僅かだけ外して撃つ。 この距離でレンチボーンならば山なりではなくまっすぐな射線となる。 ほら、と鷲アヤカシの胸元に突き刺さった矢を見て、針野は即座に二射目を用意する。 この手際の速さが、他職にはない弓術師ならではの技なのである。 さて、本日ご紹介いたしますのは、人形師ルーティア氏の一品、西洋人形でございます。 陰陽の術を増幅するこの人形は、豪奢なドレスを身につけ、品の良さそうな表情でつんと澄ました顔が魅力的な品となっております。 では細部を見てみましょう。 ウェーブがかった髪はふっくらと背にかかり一部が右の肩より前方へ、左右非対称というバランスの難しい問題に意欲的に取り組んだ姿勢が見られます。 これらは上半身にボリュームをもたせるのに一役買っており、胸部に負担をかけずくびれを作る一端を担っております。 また、下半身は髪以上に膨らんだスカートが覆っており、見事な上下比を作り出しています。 このスカートも三段のフリルに彩られ、細部にまで美を追求した匠ルーティアの拘りが光ります。 衣服は薄ピンクで統一されており、ワンポイント、手に持ったブーケの強い赤が実に良いアクセントになっていますね。 式に拘った陰陽師は数多く見られますが、ここまで拘った造形はちょっと見ないでしょう。 もっとも、そんな美麗な人形に何をさせるかといえば、野趣極まりない鷲アヤカシをぶん殴らせるって話ですがっ。 ケースで保管するような人形に一発もらい、空中でぶざまに仰け反る鷲アヤカシの哀れさは他に類を見ません。 とどめとばかりにぶん回される甲龍フォートレスの尻尾。 激突の衝撃で半回転する鷲アヤカシを、人形が再度、今度はたっぷりとしたスカートに隠された足先で蹴り飛ばします。 ふわりとめくれるスカート、中には実に素晴らしい事にドロワが見えました。 やはり匠は西洋人形を良く理解しているとわかるエピソードでした。 リーゼロッテは、かなり頑張っていた。 サイドチェストで胸の厚みを強調しながら近寄ってくるマッスルに、目を取られぬよう、かつ目を離さぬようゴリラ撃退に全力を注ぐ。 無視の姿勢が余りに露骨であったせいか、マッスルはリーゼロッテに向かってポージングしながらすり寄ってくる。 炎龍ルベドを上空鷲対策に向けたのは失敗だったかと臍をかむ。龍の巨体に護衛を頼んでいれば、この暑苦しいのを見ずに済んだだろうから。 それでも対応はしなければならないわけで。 呪縛符にてこの動きを止めにかかる。 筋肉を取り囲むように鎖が伸びる。 と、マッスルはサイドチェストを止め、両腕を真横に伸ばしたかと思うと、ダブルバイセップス・フロントをびっしーと決める。 何がショックかといえば、こんなアホみたいな挙動で呪縛の鎖が千切れ飛んだ事だ。 「あーもうっ、鬱陶しいわねっ!」 突如現れた趙の飛び延髄蹴りがマッスルに決まり、リーゼロッテとの間を塞ぐように立ちはだかってくれた。 猫又の茉莉花は猫の顔でありながら何を考えてるのか即断出来る程、うんざり顔で言う。 『うゎぁ‥‥キモ過ぎ‥‥』 ものすごーく帰りたそうな茉莉花に、趙が抗議の視線を送ると、仕方なく攻撃に参加してくれた。 『はいはーい‥‥っと、鎌鼬☆』 放たれる鎌鼬に合わせ、二筋の鎖がマッスルに這い寄っていく。 リーゼロッテも、二度は外さぬと気合を入れている模様。 マッスルは踏み込みながらモスト・マスキュラーのポーズにて鎌鼬を弾く。 最も力強さを感じるこのポーズは、両手を前に組むもので、その先端が何と趙への攻撃になっていた。 当たり判定は手の先らしい。 左腕を曲げ、右手で支えるようにこれを受け止める趙。 鎌鼬はマッスルの体表で弾けてしまったが、螺旋を描きマッスルを取り囲んだ鎖は今度こそ動きを制する。 趙は棍を抱え体を捻りながら飛び上がる。 低い跳躍が頂点から落下へ移り、体重が完全に棍に乗った状態を作り上げ、捻った体に乗せこれを振るう。 顔面を真横より痛打。モロに入ったのだが、それでもマッスルは笑顔を絶やさなかった。 リーゼロッテ、趙、茉莉花は、全く同じ感想を抱いたのだが、口に出しても不毛だとこれを断念した。 何分身を隠す場所もロクにない荒野なので、開拓者達は平蔵平次を守るように陣を組むしかなくなる。 せめても空の敵は空組が抑えてくれているのが救いか。 うっほうっほとぱわふりゃーなゴリラが押し寄せてくる中、禾室は時折上から急降下を仕掛けてくる鷲を注意しつつ、迫るゴリラに対する。 ボスがマッスルなせいか、当たったらものっそい痛そうな腕を振り回すゴリラ。 出来れば上から射撃を狙いたくもあったのだが、やはり下の平蔵平次が危ないと彼女は地上戦を選択していた。 それが故の近接攻撃。 パンチというよりラリアットでもかますような豪腕を、後退しつつ回避。 ここで体勢を崩したら危険だ。 案の定、ゴリラは肩を押し出しながらの体当たりを仕掛けてきた。 体格差がいっそ笑える程あるので、まともにぶつかったら彼方にふっ飛ばされるのがオチだ。 禾室は小柄にすぎる体を、何とゴリラへと飛び込みながらごろりと大地に転がしたのだ。 踏み出すゴリラの足が、禾室の肩をかすめながら大地を踏みつける。 これに気付いたゴリラ、引き寄せる後ろ足で地面を滑るように、禾室を蹴り飛ばさんと狙う。 禾室は大地を転がりながら海老のように体を曲げ反動をつけ、足と手の力で転がる方向を変える。 勢いがつきすぎたゴリラは数歩たたらを踏んだ後振り返る。 正中線がガラ空き。 素早く膝立ちになり印を結ぶと、雷光放つ手裏剣が生まれ、ゴリラの喉元へと吸い込まれていった。 桜の薙刀がゴリラの拳を受け大きくしなる。 これを見た羅喉丸は声を張り上げる。 「そっちはどう!?」 桜も負けじと大声で返す。 「何、とかっ。ええい、ごりごり次から次へと!」 『‥‥それは何を表した擬音にゃ?』 と、突如桜が相手していたゴリラの上に、鷲が落下してきてこれを押し潰してしまう。 「何じゃ!?」 空中では針野が親指を上げている。どうやら狙ってこれを落としたらしい。 針野はこれ以外にも上空より常に下を気にかけ、平蔵平次に過剰な戦力が向かぬよう攻撃を仕掛けている。 マッスルは趙達が抑えてくれているようで、何とかこちらは持ち堪えられている。 禾室の甲龍笹錦、羅喉丸の甲龍頑鉄も平蔵平次の護衛に入ってくれているが、数が十体以上となればやはり全てを抑えるのは厳しい。 平蔵も平次も刀を抜いて応戦の体勢である。 「俺達もやるって! くそっ、俺は女体風呂で死ぬって決まってんだよ!」 「一人で一体が限度だけどなっ! 女体雨が降る地方見つけるまで死ねるか!」 騎乗してる分単体ではより強いアヤカシとも何とか戦闘出来ているのだ。 二人の自分に出来る事はこなそうとする態度は良いが、後ろの戯言が余計である。桜も思わず苦笑を漏らす。 「何やら馬鹿な奴らのようじゃが、悪い奴らではないようじゃの」 鎌鼬を飛ばしゴリラの足元を崩しながら桜花はへの字口だ。 『馬鹿は馬鹿のようだけどにゃー』 二人から即座に抗議が。 「馬鹿馬鹿言うなもっとののしってくださいお願いします」 「ロリ老女の叫ぶバカには、流石の俺も完敗だぜ‥‥」 「誰が老女じゃ!」 羅喉丸はふうと嘆息した後、禾室を見る。 ある程度だが数も減ってきた事だし、と禾室は頷いてみせる。 羅喉丸の命に従い、頑鉄が二人を抱えようと動いた。 「おいおい、いいのかよそんな事して。戦力減ったらキツイんじゃないのか?」 平次の言葉に、禾室が笑って答えた。 「良い、お前達は充分に役目を果たしたぞ」 平蔵は羅喉丸と桜に心配そうな顔を向ける。 「大丈夫だ、任せろ」 「くそっ、あんたにゃいつも助けられてばっかだな」 「避難出来たからとて、下品なタワ言は控えるのじゃぞ」 「あ、ごめん。それだけは無理」 頑鉄は二人を乗せ空へと舞い上がる。鷲の数も減っており、これで二人の安全はほぼ確保出来たであろう。 後は、一体づつ確実に減らしてやるのみだ。 無駄に頑健な肉体を誇るマッスル。 ルーティアがこれ目掛け急降下を仕掛ける。 「行け西洋人形、ぶっ飛ばしてこい!」 近接しての得意攻撃を狙ったのだが、スマイリーに構えるマッスルに仕方なく直前で方針変更。 「いけっ! フォートレス!」 愛龍の地表間際での尻尾攻撃。 重量の乗ったこれに、マッスルはラットスプレッド・バックにて防御。正直意味がわからない。 ざけんなー、と小剣に瘴気を込め斬りつけると、背中に深く裂けた傷が残る。 禾室の頭上を笹錦が飛ぶ。 これに合わせ、大きく大地を蹴る禾室。 空中で反転しつつ、空の笹錦を蹴りマッスルの背後に回りこむ。 「‥‥笑顔が素敵にキモイのじゃ」 だから背後に回ったわけでは無論ない。 ルーティアがつけた傷を、更に深くと雷火手裏剣を放つためである。 連続集中攻撃は強敵相手の基本戦術。 針野はかがほの手綱を引き、旋回しつつ低空飛行を。 こちらは空戦組であった為、それほど見てないあの笑みが出迎える正面より迫る。 「いやー、まぶしいくらいの全開笑顔‥‥って、ンなこと言ってる場合じゃないんよ」 すれ違いざまに、かがほの爪撃を食らわせる。 これと十字に交錯する形で哲心と極光牙がマッスルへと迫る。 極光牙の頭突きにより、体全体が大きくずれるマッスルに、龍上からの抜刀術を披露する。 「手前ぇの筋肉も見飽きたぜ。‥‥すべてを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」 姿勢維持も距離を計るも難しい騎乗しながらのこれを決めると、マッスルの肩口より瘴気が噴出す。 これまでの戦闘で、直接攻撃以外の術の類はほぼポージングバリアーに通用しないとわかった桜は、自身は治癒に回り、牽制は桜花に任せる。 『アレを直視すると笑えて攻撃がしづらいにゃ』 ぶちぶち言いつつも、何だかんだとやってくれるのが桜花である。 閃光の術により、その動きを鈍らせる。 更にリーゼロッテがこれをより強く、縛りにかかる。 ずっと気になっていたのだが、鎖に筋肉。何故かえらい絵になってしまっている。 心なしかマッスルの顔が嬉しそうなのがちょっとむかっと来てたり。いや奴は常に笑顔ではあるが。 主の不快を感じ取ってくれたのか、ルベドがきっちりこいつにぶちかましくれてやったので、少しだけ胸がすっとしたのだが。 常に多数の敵を抱えていた羅喉丸は、しかし損傷らしい損傷を負っていない。 戦況を読み、回避により有利な備えをしてきた羅喉丸は、しかしここ一番ではやはり拳士の技を振るってみせる。 懐に踏み込み、マッスルの脇下を突き上げるような一撃を。 巨体故に、重心はやはり高めに位置する。 なればこそ、下よりの崩しは有効である。 そしてこれは次へと繋ぐ一撃。 同じ泰拳士でも、より攻撃的に備えて来た趙への繋ぎであった。 趙の疾風のごとき踏み込み。 その全身を真っ白な気が包み込む。 雄叫びが聞こえる。 見る者は、それが錯覚でない事を理解出来るだけの、存在感を感じ取る事が出来た。 趙を覆う気は白虎と化しマッスルを一息に食らい尽す。 「極地! 虎狼閣!!」 遂に、マッスルの体がポージングを維持出来なくなる。 そこに、茉莉花がぽそりと付け足してみる。 『そして針千本☆』 既に満身相違であったマッスルは、最後の一押しで轟音と共に倒れ伏した。 皆が安堵の吐息を漏らした瞬間、マッスルは最後の力を振り絞って立ち上がる。 警戒する皆の前でマッスルは、ゆっくりと、しかし誇らしげにダブルバイセップスを見せ、引きつる頬を強引に笑みに象り、動きを止めた。 『ま、マッスル立ち!?』 と誰が思わず声に出してしまったかは、その者達の名誉の為に伏せておきたいと思う。 戦闘後の一休憩。 羅喉丸は笑顔で言った。 「男子三日会わざれば刮目して見よという事か」 まさかいきなり褒められると思っていなかった平蔵平次はきょとんとした顔をするが、リーゼロッテも大きく頷いて見せる。 「たいしたものねー、見た感じ女っ気のない普通のおにーさんなのに。実は隠れた優良物件かも♪」 針野は用意して岩清水を出し、その苦労を労ってやる。 「はいっ、お疲れ様さねー」 二人は顔を見合わせる。 「あれ? 何これ? ちょっとちょっと、反応良すぎね?」 「もしかして俺の時代来た? 俺史始まったっぽい?」 後ろで桜と桜花が並んで手と首を振っている。 「ないない」 『ないない』 ルーティアがにぱーっと笑って二人に言う。 「しっかし、毎回面白いアヤカシ見つけてくるなー」 「好きでやってんじゃねえよ!」 「あはは、でも頑張ったから二人にご褒美ー」 ぽんと手の平サイズの幼女人魂を出してやると、人形師の見事な造形に二人は涙を流して喜ぶ。 禾室もうんうんと頷く。 「何か要望はあるか? おぬし等がおらねば村が大変な事になっておったしな。わしで出来る事であればしてやるぞ」 平次が嬉々としてこれに飛びついた。 「よし! まずは俺を踏めこの野朗! その上で口汚く罵った挙句尻尾もふらせろごるぁ!」 羅喉丸が二人を指差しながらリーゼロッテを見る。 「優良物件?」 「波があるのねぇ」 かなり律儀な禾室が要望に応えようとした所で、桜と桜花のだぶるツッコミにより二人は粉砕される。 「‥‥大丈夫さー?」 ひっくり返った二人を覗きこむように針野。 「ダメだから膝枕ぷりーず」 「俺はご苦労様のキスで一つ」 ツイン桜のとどめの一撃を受けるわけで。 そうこうしていると、哲心と趙が周辺警戒より戻る。 趙は嬉しそうに二人に声をかけてくる。 「お久し振りです♪ 一年間頑張って鍛えたから見違えたと思うんですよー」 『違う意味で見違えると思うんだけど?』 二人は、少し及び腰であった。 「あ、うん、見違えた。というか‥‥」 「むっちゃくちゃ強くなってね。うっかりらっきーすけべとかした日にゃ俺もばくーってやられそーだよなおい」 そしてちらと哲心を見る。 「あの巨人ぶっ殺しちまう兄ちゃんまで居てこんだけ苦労するって、もしかして俺等相当やべぇ事してたんじゃね?」 「よし、こんな危ない橋渡らせやがって、死ね平蔵」 やおらケンカし始める二人。 色んな意味で心配はいらなそうだと、皆はこれを笑って見守るのであった。 |