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■オープニング本文 アヤカシが住まう瘴気の森は、現在天儀の各所に点在している。 そんな中の一つ、周辺住民は元より、討伐隊すら決して近づいてはならぬと言われている森がある。 森の中に住むアヤカシ達は、他所と比べて極端に戦力が高いというわけではない。 充分な数を持って挑めば、或いは打倒も可能かもしれない。 しかし、森の側に長年住み続けている老婆は語る。 「あの森は違うのさ。決して人が触れちゃならん、悪夢‥‥いやさ、神話なんだよ。だから、人があれをどうこうしようなんておこがましいにも程がある‥‥」 過去、数度の討伐隊が編成され、その全てが完膚なきまでに叩きのめされた。 何故ならあの森を守るアヤカシの中で、たった一体、どうしようもない怪物がいるからだ。 何とか逃げ帰れた者達は、その時感じた絶望をそのままにこのアヤカシを、『最終鬼畜アヤカシ・ホーネット』と呼んだ。 その威容はあまりに巨大で、羽がついていながら両の足で大地を踏みしめている。あの巨体で空を飛ぶのは無理があるらしい。 蜂といえば針であるし、この巨体ならば牙での直接攻撃も有効であろう。 しかしホーネットはそのような真似はしない。 翼の付け根に輝く合計八つの宝玉より無数の弾丸を撒き散らしてくるのだ。 全周囲まるで死角の無い雨、そう弾雨を武器に、戦いを挑んで来る。 特に最も強固な二つの宝玉からは、広範囲を同時に攻撃対象としうる弾丸がばら撒かれる。 更にその巨体から類推される耐久力を考えるに、最早まともな手段では倒しえぬ存在であろうと思われた。 せめてもの救いは、ホーネットは戦闘となれば全周囲に委細構わず弾丸を放つため、ホーネットが戦闘を開始すると、周辺に居たアヤカシは全て全力で逃げ出す事ぐらいであろうか。 しかし、同じく手に負えぬ怪物アヤカシを開拓者が撃破したと聞き、周辺一体を治める領主は、それならばホーネットもと一縷の望みに賭けギルドに依頼したのだ。 ギルド係員は強力無比な相手と聞き、まずは現地調査からと付近の村に聞き込みを行なう。 その際聞く事の出来た、最もかのアヤカシに詳しいとされる老婆との会話を如何に記す。 「ふひゃひゃひゃ、開拓者だと? 笑わせるでないわ、そんなに土地が欲しくば荒れ野でも拓いてくればよいではないか」 「ですが、このまま瘴気の森を放置しては、いずれホーネットのみならず、他の強力なアヤカシが発生してしまう可能性も‥‥」 「他のアヤカシなぞ必要ないわい。アレは、アレただ一体で全てをこなしうる神ぞ。よもや愚かにもアレの弾切れなぞを期待してはおるまいな?」 「そ、それは‥‥」 「数時間に渡りかの者と激闘を繰り広げた第二次討伐隊も、最後の最後まで弾切れなんぞにはお目にかかれなかったのだぞ。それを、十人にも満たぬ人数でとは‥‥ふひゃひゃひゃひゃ」 「しかし、記録では攻撃が当たりさえすれば他のアヤカシ同様損傷を与える事も出来るとあります。ならば充分な防御力、回避力を備えた上で攻撃をし続けられればいずれは‥‥」 「無駄じゃ無駄じゃ。それにな、ババには見えるのじゃよ。蜂の更に奥に潜む、炎の影がの‥‥ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」 「炎の影とは?」 「蜂よりも尚凶悪な輝きは、その深奥にあり決して人の目に触れる事は無いであろうが‥‥もし、引きずり出すような事になったら‥‥ふひゃひゃひゃ、そんな地獄、死ぬ前に一度でいいからお目にかかりたいものじゃ」 かつて占い師であった老婆は第一次討伐隊に参加していたそうな。 辛うじて生き残った彼女は、以降ホーネットに魅入られ、こうして付近に居を構えているらしい。 彼女の言葉に薄ら寒いものを感じずにはおれなかったが、それでも、これ以上瘴気の森を放置しては、ホーネットの力をより強めるだけとギルド係員は考える。 今はまだ瘴気の森より離れるような事はしないが、もし、それほどの強力なアヤカシが人里に攻撃を仕掛けてきたら取り返しがつかない。 いや、いずれ力を付けてくればそうなるだろう。ならば、攻められる前にこれを駆逐しなければならない。 老婆は、あくまで対決姿勢を崩さぬ係員を見て、吐き捨てるように言った。 「それは、神への許されざる反逆行為といえよう。その罪、神蜂の怒りを身をもって知るべし。‥‥死ぬがよい」 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
グリムバルド(ib0608)
18歳・男・騎
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎 |
■リプレイ本文 開拓者達はアヤカシの森へと足を踏み入れる。 凶悪な敵であると聞いているだけに、皆張り詰めた顔で森を進む。 「う〜っちゃん♪」 そんな緊迫した空気をぶち壊す暢気な声。 「えっちゃん?」 後ろからいきなり抱きつかれておきながら、朝比奈 空(ia0086)は至極冷静な声である。 えへへー、と笑うのは空の首に両腕を巻きつけしなだれかかっている水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。 グリムバルド(ib0608)は少し呆れ顔。 「暢気だねぇ」 くすくすと笑うフェルル=グライフ(ia4572)。 生真面目な風和 律(ib0749)は僅かに眉を潜めるも、約一名以外は何やかやと緊張の糸を切っていないのがわかっているので口には出さない。 その約一名に、真亡・雫(ia0432)がつっこんでみる。 「さっきからずーっと気になってたんですけど‥‥それ、何です?」 天秤棒を背負い体の両脇に案山子を吊るした謎状態の斉藤晃(ia3071)は、良くぞ聞いてくれたとどや顔で説明を始める。 「宴会芸のラインダンスがこんなところで役にたつとはな。これぞビット作戦!」 「すみません、全然意味がわかりません」 延々無言であった羅轟(ia1687)が、重々しく口を開く。 「‥‥固体‥‥識別能力に‥‥欠く相手ならば‥‥囮として‥‥有効な‥‥手段‥‥」 あまり口を開かぬ羅轟の人となりを皆掴みかねていたのだが、この一言で、彼がものすごーい良い奴だと知ったのであった。 森の中に出来た不自然な広場。その中心にホーネットは居た。 蜂を模したその威容に臆する事のないよう、殊更に威勢の良い事を言うフェルル。 「昔誰かが言っていました‥‥弾幕を切り抜けた先には爽快感や達成感が待ってるって」 皆、どの道接近しなければならないのだ。 度胸一発、その攻撃圏内へと突入する。 ホーネットが擁する八つの宝玉が光り輝き、どういう仕組みか、弾丸と思しきものが撃ち放たれてきた。 視界一杯に、弾丸の壁が広がっている。 「って、そんな悠長な事言ってる場合じゃないですこの弾幕っ!!」 フェルルは盾をかざしてこれを防ぎにかかるが、全身を覆うでもしなければとても防ぎきれるものではない。 鎧のそこかしこで、がんがんと音を立てて跳ねる。 これはフェルルだけの話ではない。 「どちくしょーこの化物蜂!」 グリムバルドは悪態をつきながら、もう急所だけ防げればいいと腹をくくって盾を用いて前進する。 効果的に受け止める、そんな器用な真似をする余裕も無い。 痛い所当たったら運が悪いと諦める、そんな勢いでもつけない事には、あっという間に後退させられてしまいそうなのだ。 「バカスカ撃ちやがって‥‥聞いちゃいたけど実際体験するとやっぱり違うもんだな!!」 雫も初見でこの弾幕相手では、もう耐える以外に選択肢を持てそうにない。 「これじゃ、辿り着く前に‥‥」 宝珠八つのフル回転であり、ホーネットの持つ攻撃力が最大限に発揮されている時だ。 ましてや弾幕にまだ慣れていない皆では無理も無いのだが、晃は大笑いしながら突貫していく。 「かすり美味しい!」 速攻で雫がつっこむ。 「いやモロに当たってますからそれ!? 案山子なんてもう見る影も残ってないじゃないですか!」 しかし晃の突進は止まらない。 「ビットを生け贄に急接近や!」 「ああもうっ‥‥でも、確かに接近しないとっ!」 倒すには、前に進むしかないのである。 空は役割を考えるならば後方に待機しているべきなのだが、何せホーネットの射程がヤケクソに長いので、術を行使するにはどうしても射程内に入るしかない。 「想像以上に凄まじい攻撃ですね‥‥ですが、どの様な相手でも突ける隙はある物です」 ともかくまずは目を慣らす。そう決めて早速ぼっこぼこにやられ始めた皆に閃癒を贈る。 一人、怪我の度合いが著しく低い絵梨乃が叫ぶ。 「そうだようっちゃん! こんなものー!」 ちょっとありえない動きを見せる絵梨乃。 初見でありながら、くぐり、逸らし、かがんだかと思えば飛び上がる。 攻撃を読んでいるのではない。来た攻撃を、見てから気合でかわしているのだ。 素早い動きを見切る目の良さと、全身を指先足先頭の先に至るまで完全にコントロールしてみせるボディバランスが人外の域である。 律は大剣を眼前にかざしたまま、ハナっから避ける気ゼロで突っ込んでいく。 「どれだけ威力があろうが、真正面から飛んでくるだけならば‥‥我が相棒の剣と鎧で、防ぎ切るだけだ」 そして、と駆け寄る足に力を込める。 「攻撃役には一発たりと通さん‥‥弾ごと押し切って、近接する」 羅轟は、一言だけで律の奮戦を評する。 「‥‥見事」 律の援護の元近接を果たし、一番槍を。 振り下ろした刀を弾丸が数発かすめ、右に左にとブレそうになるのを、膂力のみで堪え振り下ろす。 ビキィ、という僅かにヒビの入る音がした。 思っていたより宝珠は脆い。そう皆が確信し、見えた勝機に勇気と根性を振り絞り挑んでいった。 最初の宝珠を潰した所で、空は敵の攻撃に一定の規則性がある事を発見する。 それぞれの宝珠の攻撃範囲を読み、どの位置に立てばどれが優先的に襲ってくるのかを確認した空は、これを利用せんとする。 それは、回復を行いながら全員の状態を常に把握する役割を何時も自らに課してきた巫女ならばこそ可能な、個人の技量をすら考慮に入れた戦力配置である。 「えっちゃんはそのままの位置で、斉藤さんは右前方で宝珠大の攻撃を凌いで下さい」 彼女の指示に、二人はにやりと笑い従う。 「風和さんは裏に回りこんで、羅轟さんはそこから左に十歩の位置で。少しの間厳しいですが何とか堪えて下さい」 二人共皆を守る事を自らに課している。否やがあろうはずもない。 「真亡さん、グライフさん、グリムバルドさんはこれで攻撃に専念出来るはずです。可能な限り早く宝珠の数を減らして下さい」 治癒、補助を得意とする巫女の、これこそが戦場での立ち居地だと空は、より優位な戦術を模索し続けるのだ。 空の的確な指示が功を奏し、遂に巨体が揺れ、前のめりに倒れるホーネット。 その背をぶち破り、一匹の炎に包まれた蜂アヤカシが姿を現した時、不覚にも皆完全に動きが静止してしまう。 それでも、数多の戦いを潜り抜け磨いてきた感覚が、心の何処かで、まだ終わっていないと言ってくれていたせいか、何時までも呆けたままにはおかなかった。 フェルルの体は、現れたアヤカシ、フレイムホーネットの殺気に反応して爆ぜる。 「‥‥まだ動けるんですっ!?」 ただ一時の爆発力。 蹴り出す土は高く中空を舞い上がり、前傾した体は大気の抵抗をすら感じ取る。 その姿はさながら地表に添い突き進む一矢のようで。 ただ一直線にフレイムホーネットへと。 フェルルの目が、アヤカシより放たれる無数の弾幕を認識する。 それまでとは比較にもならぬ、爆発により飛び散った無数の弾欠のごとき大小様々な弾丸。 頭で考えるより先に体が応えてくれていた。 すり抜けざまに長巻をぶちこみつつ、大地を転がって減速、すぐに立ち上がる。 まずは我が身を見下ろす。特に致命傷と思しき怪我は負っていない。 「嘘‥‥私あれを避けたの‥‥?」 信じられぬ思いでそう呟き、フレイムホーネットを見やる。 「‥‥うん、もう一度やるの無理っ」 絵梨乃はフレイムホーネットが動きを見せるなり、傍らの空を抱えたまま大きく横へと跳ぶ。 二人の足先を、フレイムホーネットの初撃がかすめていく。 「律お願いっ!」 「任せろ!」 空の前に立ちはだかる律、駆け出す絵梨乃。羅轟も雄叫びをあげその動きを封じにかかる。 フレイムホーネットの一撃を見た雫は、攻撃に集中すべく盾を投げ捨てる。 と、同じく盾を放り出したグリムバルドと目が合った。 全く同じ判断したのが、お互いちょっと嬉しかった模様。 並んで突っ込んで行く二人に、竜巻のように弾幕が降り注ぐ。 ふと、グリムバルドは昔を思い出す。 開拓者になって初めて退治したのも、蜂であったなと。 『春先の事だってのに、もう随分昔の気がするぜ‥‥』 全身を引き千切るようなその威力、先のものより数段上だ。 『あれから俺も少しは成長出来たみたいだ‥‥何せ、』 全身から血飛沫を上げながら、フレイムホーネットをその間合いに捉える。 「まだ倒れてねぇし、俺!」 抉り込むような槍の一撃を、目一杯の助走を乗せて叩き込む。 いや、それでは済まさず、突き刺した状態の槍を更に深く打ち込む為、半身になって片腕持ちにしながら鬼神のごとき豪腕で無理矢理ねじこんでやる。 グリムバルドの脇を走る雫がとんっと大地を蹴る。 宙に浮くフレイムホーネットの急所と思われる頭部を確実に狙う為、何と雫はグリムバルドの突き出した槍の柄の上に飛び乗ったのだ。 まるで体重など無いかのごとく、滑らかに槍の柄をすべり行く。 逆手に持った小剣を眼前に構え、槍に従い吸い寄せられるようにフレイムホーネットの下へ。 突き出された刃は、そのままさしたる抵抗もなくフレイムホーネットの額に割って入る。 刃の鋭さとアヤカシの硬度のバランスが崩れ、刺さる勢いが失われた瞬間、雫の体が槍を蹴る。 フレイムホーネットの頭上を、くるりと宙返りしながら飛び越え、回転と体重を用いて刃を上に引き斬る。 そして背後に着地。フレイムホーネットの頭部より噴水のごとき瘴気が吹き上がった。 フレイムホーネットは、先のホーネットより知恵が回るらしく、先の戦闘において軸となっていた空に攻撃が集中する。 これを守るは騎士律。 弾丸が放たれるや背後に庇う空に攻撃が至らぬよう、自らの身を前に捧げだす。 全周囲を無数の弾幕に取り囲まれる。瞬間、それらが炸裂し、更に細かな弾丸が律を襲う。 これは、誰がどうやろうと回避も防御も不可能であろう。 かつて経験すらした事のない、体表全てへの同時多数攻撃。 何処が痛いだのではない。何処もかしこもが同時に痛い。 溶岩の中に飛び込みでもすれば、こんな感じになるのではなかろうか。 そのありえぬ形の衝撃に、視界が遠のき、オーラで防いで尚意識が途絶えかける。 はたと目が覚め、自分が意識を手放していた事を思い出し、背筋が凍りつく思いで五感をフルに駆使して周囲の情報を得る。 自らを打った弾欠がばらばらと体より零れている。これを見る限りさして時間は経っていないようだ。 それに、と自分が取っていた姿勢に気付き苦笑する。 両手を広げ、背後に居る空を守る体勢のままであったのだから。 鍛えに鍛え、自らに信念を言い聞かせ続けてきた甲斐は、あったのかもしれないと思えたのだから。 晃の剛斧がフレイムホーネットを襲う。 「弾幕は力やで!」 噴出す練力が粉塵を巻き上げ、まともに当たれば岩をも砕くであろうこの一撃にも、フレイムホーネットは即座の反撃で返してみせる。 それまでの攻撃から更に変化した弾幕は、全周へと放たれた発狂弾。 無数にばら撒かれるその威力は、晃の巨体をすら跳ね飛ばす程であった。 これではとても近寄れぬ。 そんな常識的判断に、羅轟は全身全霊をもって反逆を開始した。 後退の可能性全てを何処ぞに放り捨て、不退転の戦鬼と化し真っ向よりこれに挑む。 有利不利ではない。 出来るか出来ないかでもない。 やる、のだ。 「例え‥‥神で‥‥あろうと‥‥両断‥‥あるのみ!」 間合いに入った瞬間、かざしていた盾を放り投げる。 盾は羅轟の手を離れた瞬間、あっという間もなく弾幕に弾かれ彼方へとすっとんでいく。 構わぬ。最早盾なぞ不要。 両腕で握り締めた刀を、全てを込めて振り下ろすのみだ。 縦に振り下ろされた刃は、しかし両断にまでは至らずフレイムホーネットの体内に深く食い込み止ってしまう。 いやさ、それこそが羅轟の狙い。 刀を振り下ろした姿勢のまま、弾雨にさらされながらも両腕両足を踏ん張り、フレイムホーネットの動きを止め、制する。 この好機を見逃さなかったのは晃である。 「行くで水鏡! 肩抜けんよう気張っとけや!」 「任せて!」 絵梨乃の腕を掴むと、晃の両腕が、いや上半身全てが異常なまでに盛り上がる。 恵まれた体躯を、数多の戦場を駆け抜ける事で磨きぬいた。 不要な贅肉なぞではありえぬ、戦の最中で最も効果を発揮する美々しいまでの筋肉が、晃の意志に従い膨張し増大し漲っていく。 如何に絵梨乃が女の子とはいえ、人一人分である。 これを腕力のみで放り投げるなぞ人間のやる事ではない。 しかもただ投げるのみならず、砲弾の如き威力を伴い投げ放つなぞ例え志体を持つといえど、他の誰に出来ようか。 「友情の人間砲弾や!」 空中では、さしもの絵梨乃も放たれ続ける弾幕をかわす事は出来ない。 がんがんと命中し、それでも落ちぬ飛行速度は更なる苦痛をもたらすはずであったが、ここ一時のみと堪え、攻撃に専心する。 空中でひらりと体を捻り、充分な体勢を確保。 激突の瞬間、絵梨乃の蹴撃が炸裂した。 ハタから見ていてすらどうやったのか理解出来ぬ蹴りであった。 空中で、飛び込みながらの蹴りであるのに、何故にどうして連続蹴撃なぞが可能であるのか。 ただ足が触れているのではない。 蹴った反動がその体にかかっているはずなのに、幾度も幾度も、重力やら慣性やらに逆らい絵梨乃はフレイムホーネットを蹴り飛ばし続ける。 最後に、下から大きく蹴り上げると、フレイムホーネットは派手に吹っ飛ばされ大地を転がり、絵梨乃はその場にひらりと着地する。 フレイムホーネットは大きくよろめいた後、全身から瘴気を噴出し、破裂して果てるのだった。 「形ある物はいずれは滅ぶ‥‥たとえ、神と言われようとも例外はありません」 そんな言葉を呟きながら、空はふと妙な予感を覚える。 これが最後のホーネットではない、そんな考えたくもない予感を、しかし、今は考えても詮無きかと思考の外へ追いやるのだった。 |