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■オープニング本文 領主よりここら一帯の村の治安を任されている海藤という男は、手にした情報に頭を悩ませていた。 盗賊集団である『国松党』がどうやらある村に住む要人を拉致せんとしているとの事だ。 要人は、現在領地経営に深く携わる程に出世した君島忠治の母である。 忠治は出世した事でもあるし、街に母を招いて贅沢な暮らしをさせてやろうと再三誘っているのだが、母は村を彩る四季折々の景色に勝る贅沢無しと、さして裕福でもない一人暮らしを続けている。 こうした忠治の孝行は母を喜ばせてはいるのだが、母は既に独り立ちした息子に決して頼ろうとせず、独立したのであれば以後は自分とその家族の事のみ考えよと言い捨てる気丈な人であった。 これだけならば美談で終わる話なのだが、この話を聞きつけた国松党は、母を攫い、忠治から金をせしめようと画策していた。 母が、息子の重荷になるぐらいならばと、自ら命を絶ちうる程強い女性とは知らぬままに。 もし国松党が総力を挙げて来たならば、海藤にこれを防ぎきる戦力は無い。 領主に報告すれば、戦力の派遣はしてもらえるだろうが、それでは間に合わない。 海藤は君島が領主に気に入られているというただ一点に絞り、事後承諾にて開拓者ギルドを頼る事に決めた。 このまま君島の母を見捨てれば、必ずや海藤の責任問題となろう。 それは海藤がこの情報を聞かなかったフリをしても同じ事だ。 ならば、君島の口添えが期待出来るこの手の方が、より有利であろうと考えての事であった。 もちろん海藤はこの孝行息子と立派な母に対し敬意を払う部分はあるのだが、仕事は仕事として考え立ち回らなければならないのである。 また、連中の油断を誘うため、敢えて海藤は兵を出さぬままにしようとしていた。 少数の兵は見張り程度に村につけるが、戦闘は一騎当千である開拓者に一任してしまうというのだ。 この機に船漕ぎの寛治を斬る事が出来れば、国松党はばらばらになり、後の悪事も防げよう。 海藤は、開拓者達はそこまで頼りに出来ると、以前に彼等の仕事に関わった時思ったのだ。 国松という侠客の娘をめとり国松党を継いだ男、舟漕ぎの寛治は、国松を謀略にて屠り、自らの妻となった娘を病死したと称し遠い町の女郎部屋に売り飛ばしてしまう。 こうして国松党をその手にした寛治は、その両腕となる人物を見つけ仲間に引き入れる。 一人は女郎蜘蛛のお良。男を惹き付ける美貌を持つシノビだが、そうして鼻の下を伸ばす男を斬る事を何よりの楽しみとする。 もう一人は、仁生の毒虫、龍田丸。仁生の街で生き試しにて様々な毒を研究した事から、かの街でそう呼ばれ指名手配された為、現在街から離れ逃亡中の身である。 その人を人と思わぬ所業は、同業者すら毛嫌いする程であったが、寛治は彼に生き試しを提供する事でその協力を得ている。 寛治は配下の十人を領主の居る街に送り前後の支度を整えさせる一方、精鋭により拉致せんと、お良、龍田丸にも出るよう命じる。 十人の兵と寛治、お良に龍田丸、これならば、例え海藤が兵を配置してようと、最悪強硬突破が可能だ。 「海藤の奴ぁ存外耳が早い。色々調べてる間に、俺達の狙いも漏れてるかもしれねえ。もちろん拉致の後ぁ海藤ともきっちり交渉するつもりだぜ。くははっ、こいつが表沙汰になれば奴の首も飛ぶだろうからな」 「相変わらず抜け目無いわねぇ。村人は殺していいの?」 「そうじゃそうじゃ、これだけ数揃えるんなら村人も拉致らせんかい」 「村人皆殺しにしちまったら海藤がキレるかもしれねえだろ! どの道村人にゃ何も出来やしねえんだ、いいか、連中を生かしとく事で俺達は冷静に話し合える相手だって思わせるんだよ」 寛治は実に小癪な男であった。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
ネネ(ib0892)
15歳・女・陰
十六夜 椛(ib3376)
15歳・女・サ
八十島・千景(ib5000)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 まずは挨拶という事で、開拓者一行は護衛対象である君島母の元に向かう。 何処に寛治の目が光っているかもわからないので、志藤 久遠(ia0597)の提案で衣服は平素なものを、挨拶も人数を絞って行なう。 護衛任務というものは、守られる側に自覚があるとないとでは難易度が格段に違うものだ。 久遠は君島からの使いという名目で君島母と面会を果たす。寛治一党の悪辣さを聞いているだけに、かなり慎重に事を運ぶ。 静かに事情を聞く君島母に、久遠は発する言葉とは別の意図がある事を書状にて告げ、相手の反応を待つ。 少し考え込む君島母に対し、梢・飛鈴(ia0034)は彼女独特の何処かズレたイントネーションで、遠き地に居る息子の心労を説いてやる。 君島母は、凛とした態度を崩さぬままに頭を下げた。 「このような老骨に過分の御配慮痛み入ります。ですが、少々お時間を頂きたく」 孫ほども年の差がある相手に、君島母は何処までも丁重に対応し、長旅を労いしばらくの逗留を促す。 淀みない所作で自然に振る舞う君島母。 実に頼もしい護衛対象であった。 宿奈 芳純(ia9695)はこの間に他村人への協力を頼んで回る。 同じ男性でも、いかにもな風貌の柳生 右京(ia0970)や、何処か胡散臭さが付き纏う真珠朗(ia3553)には不向きな役割なので、ここは彼に任せる事にしてある。 村人達は恐ろしい賊が相手にも関わらず、快くこれを受け入れ、協力を約束する。 海藤の名を出したのもそうだが、皆が君島母の危機を自らの事のように心痛めてくれていた。 もちろん、村人を巻き込まぬよう配慮してある開拓者達の策や、皆が志体を持つという開拓者の名声による所もあるだろうが。 許可を得ると、芳純は極力接点が少なく済むよう人魂の梟を用いて各人と連絡を取り合う。 そんな用心深さは、彼等の信を得るに充分なものであった。 ネネ(ib0892)は村のとある家族の下に身を寄せる。 「すいません、ご迷惑をおかけしますが、よろしくおねがいします」 一家で農作業に従事しているらしい彼等は、笑顔と驚きでこれを迎えてくれた。 「まあまあ、可愛らしい子だねぇ。私ぁてっきり強面の人が来るとばっかり」 「あ、えっと、その、す、すみません」 ころころと笑う割腹の良い女。 「いやいや、こんな可愛らしい子なら何時でも大歓迎だよ。ほらっ、あんたも鳩が豆鉄砲くったみたいな顔してないで挨拶するっ」 「え、あ、おお。その、こちらこそ、よろしくおねげぇしますだ」 細身の旦那は、ネネの年が下すぎて、敬語を使ったもんだかどうだか悩んでいるらしい。 二人の子供達はといえば、これはもう遠慮なぞするつもりも無いらしく、綺麗に波打っているネネの髪を食い入るように見つめている。 隠れ潜むつもりだったんだけど、とちょっと調子を崩すネネであったが、この純朴で善良な人達を決して賊の被害には遭わせられないと決意を新たにするのであった。 八十島・千景(ib5000)にしても、概ねネネと似たような状況である。 それでもまだ刀を持ってるだけ、それっぽいと言えばそれっぽいかもしれない。 にしても、右京が刀持って家にあがりこんだ時に比べれば遙かにマシであろう。 部屋の一角を借り受け、刀を手に持ったまま、まんじりともせず外を監視する姿は、畏怖の対象以外にありえない。 真珠朗などは案外要領が良く、時折家人に声をかけるなりしてそれなりに上手くやっている模様。 十六夜 椛(ib3376)は家の中ではなく、君島母の家側にある納屋に潜み、事あらば即座に対応出来るよう備えていた。 こうしてそれぞれが布陣し、後は、寛治一党を待ち受けるばかりであった。 動きがあったのは夜も更けてからだ。 右京がそれを察し、刀を手に立ち上がると、家の者達は一様にびくっとすくみ上がる。 「死にたくなければ家屋から出るな」 彼等は全力でぶんぶん頷いた。 村の外周にある人気の無い納屋に近づく五人の賊に、右京はゆっくりと歩み寄る。 「てめぇ見たな!」 所詮村人しかおらぬとタカをくくっていた賊は、突然の乱入者にも強気を崩さず。事あれば斬ってしまえと言われているのだ。 「‥‥雑魚に用はない」 すらりと刀を抜く所作、それだけでわかる者ならば力量を知りうるものだが、彼等にそれを期待するのも難しかろう。 真っ先に斬りかかる男。 一応剣術らしきものは学んでいるようだが、剣筋の速さで比較しようというほうがおかしい。 中段構えよりの突きを、これが伸びきる前に袈裟に叩っ斬る。 仲間が深手を負ったにも関わらず、他の四人も、斬られた男ですら闘志を失わぬ。 その様を見て、右京は口の端を僅かに上げる。 「どのみち全員生かして帰すつもりはないが」 剣光が閃き、血飛沫が舞う。 三人の賊を六つに分けた所で、さしもの彼等も恐怖に怯え竦んでしまう。 「な、何だっててめぇみたいなのがこの村に‥‥」 言い終わる前に彼の体も両断され、最後の一人に向け右京は言い捨てる。 「血の宴というには物足りぬ相手であったな」 右京が戦っていた相手は陽動であった。 ほぼ同時刻に、君島母宅への襲撃が敢行される。 扉を蹴破り中へと飛び込む賊が目にしたのは、二人の若き女性が立ちはだかる姿であった。 ロクに鎧もつけぬ女ごときと襲い掛かった賊に、飛鈴の前蹴りが炸裂。 更に奥へと踏み込んだ久遠が薙刀を一閃すると、庵に踏み込もうとしていた賊は勢いに負け外に追い出されてしまう。 更に椛が外より駆けつけ、近隣家屋潜伏組も姿を見せると、庵入り口付近で乱戦が始まる。 龍田丸は村に衛士もおらずと聞き、部下三人に生き試しを調達するよう命じていた。 とりあえずで目に付いた家屋に迫る賊。 その前に、千景がすいっと姿を現した。 「殺生は好みませんが、さりとてあなた方の好きにさせるつもりもありません」 すぐに現場に駆けつけず、一歩引いた目で周囲を監視していた為、予測しずらかった三人の行動を制する事が出来たのだ。 力ある声にて三人の意識をこちらに向け、戦闘開始。 斬りかかる男の剣撃を、手首を返し腕に添わせた刃で受け流し、更に奥へと踏み込む。 完全に流しきった瞬間、強く押してやれば攻撃を仕掛けた男の体勢は崩れ、次撃への繋ぎが遅れる。 その隙に、奥に居る男を狙う。 手首の力だけで刀を前へ伸ばし、半身になってこれを突き出す。 狙われた男は、まだ距離があった事と刃の長さを見極めずらい振りにより、完全に対応が遅れる。 胸元に、深々と剣先が突き刺さった。 最初に攻撃をいなした男が背後より迫る。 千景は突き刺した刀の下に潜り込むようにして後ろを振り向き、頭上に抱える形になった刀を男の体より抜き去りながら振り下ろす。 「あなた方は、一々やる事が癇に障るんですよ」 椛の胴中央に、瘴気の塊がぶちこまれる。 強烈な嘔吐感に見舞われるが、根性で堪え真っ向より飛び込む。 龍田丸の術は強力だが、サムライがここで怯んでいてはとても務まりはしまい。 攻撃偏重、一撃入魂。 もらう以上に、くれてやればいいのだ。 「なめてんじゃねえぞクソッタレがあああああ!」 女の子らしからぬ叫びと共に足裏を用いたヤクザな蹴りをぶちかます。 ぐらりと揺れる龍田丸に、袈裟斬りの一撃を。 お互い苦手とする攻撃を打ち合う、文字通り削りあいとなる。 しかし、椛には心強い仲間がついているのだ。 ネネの舞が生み出す奇跡の力は、椛に精霊の助力を与える。 彼女の持つ可憐さは、戦闘に至りさえしなければ椛にもあるものだが、残念な事に今は望むべくもない。 何処何処までも乱暴極まりない剣を、急所に限らず、突き刺し、突き立て、突き抜ける。 顔面にモロに術をもらうと、勢い良く椛の顔が跳ね上がる。 ぎりと首の力で堪え、額より血を流しながら仰け反った顔を引っ張り戻す。 「痛ってぇだろうが!」 龍田丸の頭頂を引っつかみ、身動き取れなくした後で首元に刀を突き刺すと、込めた練力が力強く破裂した。 椛が手を離すと、龍田丸はそのまま崩れ落ちる。 「じゃあなクソ野郎。せいぜい地獄で閻魔様に懺悔でもすんだな」 お良の刃には、どろりとした薄気味の悪い液体が滴っていた。 久遠はこれを警戒する事なく、敢えて近接間合いにお良を誘い込む。 薙刀の柄で斬撃を受け、逸らしながら連撃を防ぐ。 更なる超近接間合いにお良は踏み込んでくる。と、久遠の体と触れる直前、お良の体が霞と消え失せる。 まるですり抜けたかのように背後に回るお良。 これを見もせぬまま背に薙刀を添わせ斬撃を防ぐが、鎧をまとっていなかったのが祟ったか、僅かな斬り傷を受けてしまう。 にまりと笑うお良。 久遠は険しい表情で自身に起きた不調を確かめる。 痺れ薬に似ているが、傷口の焼けるような痛みは、ただの痺れ薬ではあるまい。 これで動きが鈍ったと確信したお良は一気に畳み掛けに来る。 久遠の体を、精霊の輝きが包み込む。 両手を合わせ、祈るように久遠を見つめるネネの術である。 不浄を消し去る解毒の術。長物を用いながら踏み込みを許したのはこれをアテにしての事。 更にネネは組んだ手を離し、精霊を称え、敬う動きを見せる。 とん、ととん。 決して大きくはないが、心に染み入るような足の音。 一つ一つに意味が込められている楕円を描く腕の動き。 ふわりとネネを包んだ精霊の力は、流れるように久遠に注がれ、この機を待っていた彼女に好機を活かす力を与える。 既に痺れは無い。 お良が予期しえぬ素早さで薙刀が振りかざされる。 先端部には炎を纏い、強烈無比を思わせる必殺の斬撃。 必死の形相でこれをかわさんとしたお良は、しかし、幻のごとく消え去った炎の刃に驚き、戸惑う。 本命は、刃ではなく石突。 炎が刃より柄を伝い石突に移ると同時に、痛烈な突きがお良を襲った。 くるりと薙刀を返し、再び刃に炎が灯ると、久遠は神速の二連突きを見舞う。 完全にハメられたと知ったお良は、最早挽回不能と判じ、踵を返し逃げ出した。 まだそんな力が残っている事に驚いた久遠であったが、追撃は不要と断じる。 「第一幕。幻妖降誕」 逃げ去る先に、芳純と瘴気で出来た白狐が待ち構えていたからだ。 芳純は手にした象牙の笏を、ゆっくりとお良に向けかざす。 「第二幕。蹂躙」 真白き狐が、螺旋を描いてお良へと飛びかかる。 これに食らいつかれ、身も世も無い悲鳴を上げるお良。 こけつまろびつ這い出すように逃げるお良であったが、その行く先に、絶望の白が立ち塞がる。 シノビである彼女ですら飛び越せぬような高き壁。 ならば回り込むべしと起き上がり、駆け出すお良に、無慈悲な最後の言葉がかけられる。 「終幕。討滅」 再び生み出された白狐が、一歩、また一歩とお良に近づいていく。 久遠にずたずたに斬り裂かれた体は、生存の可能性と共に気力をも失ったお良では、最早ぴくりとも動かす事能わず。 ただ迫り来る死に向かい、かたかたと震えるまま白狐を見上げる。 首筋に食らいついた白狐が、全身に瘴気を送り込むと、彼女は見る影も残らず爆散するのだった。 飛鈴は戦況がどう動こうと、決して君島母の側を離れる事は無かった。 それは隙を見て彼女をかどわかそうとしていた寛治にとって、目障り極まりない行為であった。 といって、逃げ出そうにも真珠朗が張り付いており、引くもままならぬ状態だ。 「くそっ、つまりはこの俺様がハメられたって事かい」 真珠朗は刀の背で自分の肩をこんこんと叩く。 「わかってらっしゃるなら話が早い。一つ聞いときたいんすけど」 「何だよ」 「奥さん、あんたの事を愛してたんすか?」 いきなりな話に怪訝そうな顔をする寛治であったが、吐き捨てるように言い放つ。 「でもなきゃ一緒になんて話は出ねえよ」 寛治がこうして話に付き合ってるのには訳がある。 真珠朗の足元に転がっている二人の賊。彼等は真珠朗があっという間に黙らせたのだ。 崩震脚と呼ばれるこの技の冴えは、凡百の泰拳士に可能なそれではない。 また、君島母を護衛する飛鈴の蹴撃は、寛治ですら見切るのに時間がかかるだろう。 現にこうして二人に囲まれた寛治は既にかなりの怪我を負っており、対する二人は、ロクな怪我も無いまま涼しい顔をしているのだから。 真珠朗は、ふんふんと数度頷く。 「あんたにゃ、愛が足りないんすよ。あたしを殺そうとするなら」 「‥‥何言ってやがんだてめぇ?」 「貴方は殺し合いが出来る程の相手じゃないって事ですよ。だから、貴方には一方的に死んでいただくとしますか」 寛治の返答は、真珠朗の機嫌を損ねるに充分なものであったらしい。 が、誰より先に動いたのは飛鈴であった。 「きみ等御託が多すぎるヨ」 懐に既に居た飛鈴を振りほどこうと刀を振るいにかかる寛治であったが、それを飛鈴の手ががっちり抑える。 みしりと音がして、下段蹴りが寛治の腿を打ち抜く。 回転を乗せ伸び上がるような蹴りを放つのも手だが、下段を払うのならどっしりと腰を落として斜め下に衝撃が通る形にした方が痛打を与え易い。 つまり衝撃の逃げ場をなくしてやるという話で、鍛えた寛治の足とて、続く二撃目の下段蹴りで震えが来はじめる。 これ以上は堪らぬと、右に一閃、刀を振るう寛治。 更に踏み込んで返しの一刀を放つが、これを下に潜る事でかわす飛鈴。 また下段かと寛治が筋肉を硬化させた所で、狙い済ました飛鈴の蹴り上げが顎に決まる。 いや、まだだ。 振り上げた足が一瞬で下ろされ、逆足も振りあがる。 顎を二度も痛打された寛治は、揺れ乱れる視界の中、伸び上がった足が再び凶器と化す瞬間を目にする。 意識も定かならぬ中、頭部を更に後ろに逸らしかわす。 無理。顔横を刃で削り取られたようにごっそり持っていかれてしまう。 真珠朗は飛鈴の文句に、少し間が空いてしまったが答えてやった。 「ごもっとも」 寛治の背に深々と忍刀を突き刺すと、刃の縁より白き閃光が放たれ、白光の内より雄叫びが響く。 重苦しく獰猛なその声に相応しい衝撃は、寛治の腹部をごっそり抉り取り、これを倒したのだった。 遺体を見下ろし、飛鈴はつくづく面倒そうに漏らした。 「ちょっと人よか強い位でチョーシに乗って悪さする奴が多くて困るナ」 君島母は開拓者達の勧めもあって、ようやく息子夫婦との同居を了解してくれた。 開拓者達の見事な備えにより村に全く被害が出なかったとはいえ、彼女が原因で騒ぎが起きたという事を、君島母は良く理解していたのだ。 別れ際、その時始めて、君島母は一言だけ本音を漏らした。 「色々とありがとうございました‥‥ふふっ、これからは毎日孫の顔を見ていられるのですね」 |