五人の悪党
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/24 13:23



■オープニング本文

 畜生働き。
 押し込み強盗に入った先で、家の人間を皆殺しにして逃げる残虐非道な行為を指す。
 捕まれば打首獄門、最も過酷な刑が課せられるのも当然であろう。
 逆に言えば、こういった行為をしてしまう連中は総じて、捕まる事を考慮に入れていないという事であろう。
 逃げ切る自信がある、むしろ逃げ切る為に殺す、そもそもどうしたら捕まるかがわかっていない、殺す事自体が目的なのでそんな事言われても等々‥‥。
 犯罪者の中でも彼らの存在は疎まれる。
 こういった極端な悪の存在は、小さな悪に対してすら厳しい処遇を誘発してしまうからだ。
 同類の中にあってすら異端として扱われ、忌避される彼等は、しかし、ならばどうやって生き残っているのだろうか。
 極めて単純な図式である。
 彼等は圧倒的なまでに強いのだ。
 誰が何を言って来ようと問題にせぬ。
 常駐している兵ごときでは手に負えぬ豪勇無双の勇者達。
 しかし戦場を離れた彼等に勇者の称号は送られず、ただお尋ね者として各所に張り出されるのみだ。
 五人の無法者達、彼等が何を望み、何故人を斬るのか。
 知る者は少ない。



 両手で抱えられる程の大きな砥石に刀を押し当て、長身の男はゆっくりと刀を研いでいる。
 少し離れた所では、筋骨隆々とした大男が高いびきをあげ爆睡中。
 禿頭の小男が不快そうに大男を蹴り飛ばすが、彼は気づいてすらいないのかいびきを立てつづける。
「やめとけ。それより他の連中はどうした?」
 長身の男が問うと、小男は何が気に入らないのかもう一度大男を蹴り飛ばしつつ吐き捨てる。
「知るかよっ! 俺はアイツらの子守じゃねえ! おま、お前っ! 俺をなめてんのか!? 殺すぞ! ぶっ殺すぞちくしょう!」
「はいはい、後でな。見つけたら集まるよう言っておいてくれ。ちょっとヤバイ話が耳に入った」
「な、なななななんだよ! ヤバイって何なんだよ! お、おま、おまえっ! 俺を裏切るつもりか! こ、この俺を裏切るっていうのかクソったれがあああああ!」
「だから黙ってろっつってんだろ。俺はもう少し起きてるから、連中が来たら‥‥」
 そこで言葉を切る。
 残る二人が姿を現したせいだ。
 喪服のように真っ黒な着物を着た女は、ぶつぶつと何やら呟いているが、声が小さすぎて聞き取れやしない。
 喪服の隣に居る女、こちらは顔に大きな太刀傷を受けており、鋭い視線も相まって正直女になど欠片も見えない。
「ん、どうしたい?」
 太刀傷女はどうやら普通に会話が可能らしい。
 長身の男は彼女に向かって、開拓者達がこちらに向かっているらしいと告げる。
 女は怯えた風もなく、長身の男に問い返す。
「で、誰がどれを殺すんだい?」
「早いもの勝ちだ。が、開拓者相手となれば遊んでる余裕も無さそうだしな。そのつもりで居てくれ」
 寝っ転がっていびきをかいたまま、大男は手だけを振って返事をする。
 どうやら話を聞いてはいたらしい。
 そして喪服女は、やはりぼそぼそっと長身の男に問う。
「‥‥女、女は、居るの?」
「知るか」
「女は、居るのね。きっと、美人が居るわ。物凄い美人。なんて憎らしい‥‥ああ、貴方は顔の傷のせいで醜いからいいわ。でも、美人はダメ。天儀中の女という女全てをズタズタに引き裂いてやらなきゃならないの‥‥どうしよう、きっと手が足りないわ‥‥」
 まだぶつぶつと続ける喪服女を無視して長身の男は刀を鞘に収める。
「さて、殺すとするか」

 アヤカシの害により打ち捨てられた廃村、これを根城にする彼等は、並のアヤカシなど物ともせぬ実力者揃いである。
 開拓者ギルドでは、彼等を倒すべく集まった開拓者達に十分な注意を促す。
 女子供、赤子に至るまでを平然と斬り殺す彼等の感性は、すでに人のそれとは大きく異なっている。
 そんな彼等を指して、人に非ず、アヤカシのごときなり、と断ずる事も容易かろうが、そこで思考を停止しては手痛いしっぺ返し、いや、この場合命を代償として支払う事となろう。
 価値観がずれていようと、悪逆非道を笑顔で為せる鬼であろうと、彼等は人である。
 思考し、工夫し、戦う。
 舞台がロクな建物もない古びた廃村であり、大した罠を仕掛ける余地が無かったとしても、彼等はアヤカシなどとは違い戦力を最大限活用させるべく、知恵を凝らしてくるだろう。
 注意しすぎて過ぎる事無しと、開拓者ギルドの係員は念を押す。
 どの敵に誰が向かうのか、攻めるか守るか、一気呵成か時をかけるか、勝敗の鍵は開拓者達の選択に委ねられているのだ。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
銀丞(ia4168
23歳・女・サ
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰


■リプレイ本文

 朽ち果てた村に開拓者達は足を踏み入れる。
 葛切 カズラ(ia0725)は周囲の警戒を怠らず、しかし恐れる気もなく悠然と歩を進めながら、誰にともなく嘲りの言葉を口にする。
「出てこないの? それとも出てこれない様な顔してるの?」
 アヤカシすらこの地を避けているのか、ひゅうと風が抜ける音のみ返ってくる。
 アルティア・L・ナイン(ia1273)は小声で警告する。
「‥‥来た」
 曲がり角からゆっくりと、五人が姿を現した。
「ほぅ、そちらも五人か。随分とお行儀の良い連中だな。それとも‥‥本気でその数で勝てるつもりか?」
 先頭に立つ志士らしき男はそんな言葉を口にしながらも、周囲への警戒は怠っていない。
「フン、流石に見切れる場所に人を伏せる程間抜けではないか。まあいい、やるぞ」
 心眼を使ったのだろう、探知範囲ギリギリで伏せ構えていた奇襲班三人が冷や汗を掻いたのはここだけの話。
 鬼灯 恵那(ia6686)は嬉しそうに刀を抜き放つ。
「いいよ、そういうわかりやすいの、嫌いじゃない」
 恵那は標的を志士に定めると、咆哮と共に走り出す。
 これが、開戦の合図となった。

 女サムライは最初に目をつけた一人、銀丞(ia4168)に向けて一直線に突っ込んで来る。
「面白いねアンタ! その面、悪くないよ!」
 今更顔の傷云々言われた所で別段銀丞は気にもしないが、それで妙な親近感を持たれるのも迷惑な話だ。
 駆け寄り際の一刀、様子見のつもりで充分に注意して受けたはずだったのだが、予想外に重く鋭い一撃は、受けた刀を弾き、避けそこなった肩の先を僅かに削り取る。
 直前で、どうやら巫女より支援の術を受けたようだ。
「勿体無いな‥‥こんなに強いのにな」
 返す刀で二撃目を、と後ろに振りかぶった女サムライの刀は、背に沿う形で据えつけられ、側面から斬りかかってきたアルティアの一刀を音高く弾き返す。
 ほとんど同時に、今度は逆側から刀が振るわれる。
 これを女サムライは片腕を突き出し、刃を上から叩く事でかわしてみせる。
 神速といって良かったアルティアの二連撃を、乱暴すぎる形であるが防いでみせた女サムライは、愉悦に頬を歪ませる。
「やるねぇ。これならあたしら相手に自信満々なのも頷けるさ」
 雄叫びと共に銀丞は太刀を横薙ぎに振るう。
 注意をひきつける力もある咆哮は、しかし女サムライには効果を発揮せず、横薙ぎの一刀も長大な太刀を用いてるとはとても思えぬ神妙の刀捌きにより防がれる。
「重い、ねぇ。あはは、腕が痺れるよぉこいつはぁ」
 銀丞の一刀は容易く弾かれる類のものではない。その一撃は下手な防御ごと貫く威力を誇るのだが、女サムライはこれを容易く受け止め切ってみせる。
 同時にアルティアも動いている。
 ほんの僅かでも目を離せばあっという間に体ごと視界から消えてなくなる程の、圧倒的な速度で前後左右の区別無く暴れまわるアルティア。
 剣速も手数も女サムライをすら越える正に神速の連撃。
「あ、あははっ、ははっ、はやいっ、ね、ぇ、良くも、まあっ、動く、もんっ、だよ」
 これら全てを速度に劣る太刀一本で防ぎきる。
 片方づつならば、こんな技も納得出来よう。
 だが、どちらも熟練者と言うに相応しいアルティアと銀丞を、同時に受け持ち尚この余裕である。
 二人の背筋に冷たい何かが走った。

 開戦と同時に飛び出していった者達、これを一拍置いて見送った風雅 哲心(ia0135)は、敵側で同様に動きを見定めんとしている者を見つける。
 こういう奴に冷静に戦況を判断されては面倒な事になる。
 そしてどうやら向こうも同じことを考えたようで、にじり寄ってくるではないか。
 見るからに泰拳士であろう大男に、哲心は初撃が重要といきなり流し斬りにて崩しを狙う。
 しかし、対する大男は泰拳士の奥義、裏一重にて辛うじてこの一撃をのけぞりかわす。
 どうやら、一筋縄ではいかない相手のようだ。
「ふぃ〜、心臓に悪いぜにいさん。んな焦らねえでも、人生はゆっくりゆったり楽しもうや」
「悪党を通り越した外道に言う事はねぇ。星竜の爪牙をその身に刻んでくたばってもらうだけだ」
 袈裟にかかり、中途で翻しての中段突きを、大男は図体からは想像も付かぬ俊敏な動きでかわしてのける。
 同時に交差法気味に拳を放つ余裕まであるようだったが、哲心の一撃が厳しかったせいか、難なく回避出来る。
 それだけでは終わらぬとばかりに、大男の連撃が始まると、哲心は防戦一方に追い込まれる。
 四打目にてぐらりと崩れる体、大男は好機とばかりに必殺の一撃を見舞うが、哲心は崩れた姿勢のままに刀を振り上げる。
 剣の型などでは決してありえない軌道の一撃に、大男は大きく距離をとるしか手立てが無い。
「型もへったくれもねえなアンタ」
「我流だ、文句あるか」
 距離が開くとすぐに二人は周囲の状況を確認する。
 二人は同時に驚きを口にした。
「おいおい支援までもらったアイツをたった二人で抑えるか?」
「‥‥二人がかりで、押し切れねえだと?」
 じっとお互いにらみ合う。
「アイツはうちの切り込み担当だ。クソッ、テメェといいアイツ等といい、大した腕利き揃えてきやがったじゃねえか」
「心にも無え事言ってんじゃねえよ。それでも負ける気なんざねえんだろうが」
 余裕は無さそうだと理解した二人は、一刻も早く決着をつけるべく、より危険な領域へと踏み込んでいった。

 いずれも腕に覚えがある同士だ。一合打ち合えば、それだけで彼我の実力差はある程度理解出来よう。
 しかし、そんな理屈なぞ恵那には通用しない。
 脇の下にかわしそこねた一刀を受け、どくどくと血が噴出すのにも頓着せず、それのみが自らの生きる意義とばかりに刀を振るい続ける。
 これはまずいと援護をしているのはカズラだ。
 呪縛符を敵志士に食らわせ、動きを鈍らせてようやく五分となる。最初に大きな一撃をもらってる分だけ恵那の方が不利かもしれない。
 しかし、こちらにばかりかまけている事も出来ない。
 敵陰陽師がどうやら恵那に目をつけたらしいからだ。
 同じ呪縛符なんて使われた日には、どうなるかなんて想像すらしたくない。
 幸い、というべきか。
 一度斬撃符をあちらに放り込んだ所、もんのすごい顔になって反撃してきてくれた。
 術への抵抗力が高いカズラならば、これを繰り返されても何とか持ち堪えられる。
 後は逆転の秘策が通ってくれる事を祈るばかりだ。

 戦況は開拓者側に不利である。
 連中、外道を力で押し通してきただけあって、地力は相当なものである。
 特に恵那とカズラの所が危険である。カズラの高い対処能力を持ってしても、ジリ貧覚悟で受けきるしか手がない。
 恵那に至ってはほんの僅かすら気を抜けぬ、技量のより高い相手との戦闘を余儀なくされている。
 他の皆も身動きが取れぬのは一緒であり、ここで一押しを決めて戦況を決定づけるべく敵の陰陽師と巫女が動くのは、至極当然の流れといえた。
 恵那を集中攻撃にて落とし、浮いた志士がカズラ、そして他の連中を斬る。
 そんな策を打ち合わせもせず阿吽の呼吸で組み上げると、相応しい術を唱えんと準備を整える。
「よし、僕たちの出番だね♪ いっくよー♪」
 ぎょっとして振り返った時には遅かった。
 巫女男の周囲を水柱が覆う。
「弓に火をつけ‥‥精神集中さねっ‥‥!」
 そして水柱を突き抜けて炎の矢が。
「楽しいなぁ‥‥こう一方的に嬲り、弄ぶというのは」
 衝撃波を備えた矢は、巫女だけではなく陰陽師までもを巻き込み斬り裂く。
 側面、背後に回りこんだ奇襲部隊三人が、ようやく最適の配置を確保し、攻撃を開始したのだ。
 野乃原・那美(ia5377)はシノビらしい俊足であっという間もなく巫女男との距離を詰め、短刀を手に襲い掛かる。
 避ける事も受ける事も出来ず、致命の箇所のみかわすのが精一杯。
「あはははは! どうかな? 自分が切り裂かれる気分は♪」
 少し遅れて次なるは福幸 喜寿(ia0924)の出番である。
 ぴょんと飛び上がったかと思うと、大上段に振り上げた鉄傘を頭頂目掛けて振り下ろす。
 額がばっくりと割れ、鼻から口の上までどろりと血流が覆うも、巫女男は役割を忘れる事は無い。
 自分の命を守れるのは自分のみであると、そう行き続けてきた巫女男は、決して事態を投げ出すような真似はしないのだ。
 集中攻撃により最早枯れる寸前の命のともし火を、意志の力のみで奮い立たせて術を放つ。
 起死回生の奥義、閃癒である。
 巫女男の全身から光が湧き出してくる。
「あはは、きみの肉の斬れ味はどんなかな? いい斬れ味だといいけど♪」
 真後ろから那美が短刀を突き刺す。がっと仰け反る巫女男。
 間に合え、と念じて喜寿はダガーを抜き放ち、正面から腰溜めに突き刺す。
 それでも巫女男は折れない。最後の詠唱をと開いた口に、雲母(ia6295)の放った矢が突き刺さり、遂に巫女男は倒れるのだった。
「百年早いんだよ」
 雲母は昂然と言い放つ。悪人に人権なぞないと言わんばかりに。
 喜寿は絶命した巫女男を見下ろし、額に皺を寄せる。
「人切りにはなりたくないけんども、悪人を切ることで世の中が平和になるんさね‥‥」
 でも、と、じと目で隣を見やる。
 次は陰陽女だボケカス死ねおらーとばかりに飛び掛っている那美、必死に斬撃符で打ち返してくるのをカズラ並の抵抗力で耐え、火力が違うんだよタコスケと弓をばかすか打ち込む雲母。
「えっと‥‥平和?」
 思わずそんな愚痴も零れようて。

 巫女男、陰陽女からの援護が切れると、カズラは敵志士にその戦闘力全てを叩き込む。
 動きが鈍かろうとそれがどうしたと暴れ続ける志士であったが、傷の痛み故か、術への警戒の為集中力が途切れたか、恵那の全力で斬り上げる一撃を受け損ない、体が大きく流れてしまった。
「隙、みっけ」
 上段に振り上げた刀を、斜め袈裟に斬り下ろす。
 しかし志士もまた歴戦の勇者、崩れた体勢のままで同じく袈裟に刀を振り下ろしてきた。
 恵那の肩口に叩きつけられた志士の刀は、しかしその位置から引かれる事なくとどまったままなのは、袈裟に斬り裂かれた志士の体から臓物が零れ落ちるせいか。
「やっと当たったね‥‥あははッ、これで終わりっ? ふふ、楽しかったよ♪」
 腹を抑えて蹲る男に、恵那は満身創痍でありながら、何処までも綺麗に笑いかける。
「一度歪んじゃったら滅多な事じゃ直らないよね。でも少し自制すればこんな風に合法的にヒト斬れるんだから」
 志士は首だけを上に向け、恵那の顔を視野に納める。
「それに、人と交わるのもそんなに悪くないよ」
 がっくりと倒れる志士、じゃあ次行こうかと振り向いた恵那を、側まで寄ってきていたカズラが支える。
「あ‥‥れ?」
 カズラは心底呆れ顔である。
「ホント無茶する子ねぇ。少しそこで休んでなさい。後は‥‥他の連中が何とかするでしょ」
 カズラは妙に(脱がすのに)手馴れた調子で傷だらけの恵那の治療を始める。
 何というか彼女のこう独特な肌への触れ方は、ちょっと怖いというか未知の世界な気がした恵那であった。

「合わせなアルティア!」
 銀丞は吼えると同時に、真後ろに引いた太刀を一足飛びに踏み込みながら振り下ろす。
 如何な女サムライとて、銀丞が次の一手をすら不要と一刀に賭け飛び込んで来たのでは、全力で対処せざるをえない。
 受けた太刀から激しく火花が散る。銀丞の剛剣を、援護の術もなしで受けきる技量は見事の一言。
 しかし、次なるアルティアの乱舞に対するにはあまりに体勢が悪すぎた。
 鍛えに鍛えぬいた泰練気法・壱により、更なる、というより最早視野に留める事すら困難な速度を手にしたアルティアは、ここが決め時と乱剣舞にて勝負を挑む。
 心得の無い者が見れば、同時に放たれたとしか見えぬ二刀による四連撃。
 それでも、一発のみでも、受けてみせたは女サムライの矜持故か。
 頬を深く、脇腹を浅く、左の二の腕を斜めに、斬り裂かれた女サムライに、銀丞の剛剣が襲い掛かる。
 彼女には最早これを防ぐ手立ては残されていなかった。

 荒い息を漏らす哲心は、これが最後であろう予感がした。
 どちらかが倒れて終わる、にも関わらず笑みがこぼれるのは何故であろう。
「手加減無用で斬り合えるというのはありがたいぜ。どっちかが殺るか殺られるか、だしな!」
「そうかい、お前さんにも殺しの良さが理解出来たようで何よりだぜ」
 大男の全身が真っ赤に染まる。これも、おそらく最後の一回であろう。むしろ最後にもう一度残していたことが驚きである。
 一打必倒、そう叫び自身を鼓舞すると、命の全てをその拳に乗せて飛び込んでくる。
 哲心は静かに、そして稲妻のように刀を振るう。
 数瞬の間をおいて、大男の首が落ち、哲心はほぅと息を吐いた。
 足を狙って何度も斬りつけておいたのが最後の最後で効いたのだろう。
「今まで殺した奴らに地獄で詫び入れてくるんだな」

 役人に引き渡せばいい、そう言い募る喜寿を押しのけ、雲母は陰陽女にトドメを刺した。
 善人の良心とやらを利用してこいつらは外道を行ってきたと言われては、喜寿にも返す言葉はない。そもそも、そういった依頼であったのだし。
 うつむいたまま無言になる喜寿の肩に、銀丞が優しく触れる。
「墓でも、作ってやるか」
「‥‥うん」
 二人を見た那美は、怪我でへろへろなはずなのに、何故か意識をはっきりと保っている恵那に尋ねる。
「何で二人共あんな顔するのかな。依頼も完璧にこなしたし、人も斬れたっていうのに」
「ホントなんでだろうね」
 心底不思議そうな二人を見たアルティアと哲心は、どう言ってやったものか思いつかず、女性同士ならばと助けを求めるようにカズラを見やるが、
「‥‥恵那さん今なら身動き取れないし、しょくしゅで責めても‥‥」
 聞こえない見えない事にする二人であった。