わんちゃん大行進
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/25 16:59



■オープニング本文

 櫓の上から遙か遠くを眺める二人組。
 平蔵と平次の二人は見張り番の仕事の為、櫓のてっぺんから彼方の空を見ていた。
「よー、あっちの方かな、俺達の村」
「んー、どーだろうなー。つかさー」
「何だよ」
「そろそろ現実逃避やめねーと俺らやばくね?」
「だよなー。眼下に広がるアヤカシの群ーって何よこれ?」
「見張りってさ、普通町の外を見張るもんだよなー」
「まさか町の中からぞろぞろと出てくるなんて、想像の外だっつーの」
「これもしかして町全滅くさくね?」
「おーい俺達の給料どーなんだよー」
「それ以前に風前の灯気配漂う俺らの行く末心配しよーぜー」
「せめてもアヤカシがぜーんぶ犬野朗で助かったなー。櫓登れねーでやんの」
「うはは! ばーかばーか! おらかかって来いよ犬野朗! 俺の電撃稲妻烈風突きが火を噴くかもしれないっぽいぜ!」
 櫓の周囲をぐるっと取り囲むアヤカシが五十匹。ちなみに犬ではなく狼である。
「いや真面目な話。なあ犬アヤカシさんよ、ここは一つ話し合おうじゃないか。隣の馬鹿骨まで食っていいから道空けれ」
「土下座なら幾らでもするって、俺の隣の間抜けが。ほら、大の大人がこうまで言ってるんだし、ここは一つ度量の大きい所を見せてだな」
 二人はやたら暢気な会話を交わしているが、そうでもしないと、ひっきりなしに下から聞こえてくる狼アヤカシの吼え声を無視出来ないのである。
「いやーもう限界ー! 主に俺の心が! おーたーすーけー!」
「おいいいいい! 俺伝説ここで終幕とか早すぎだろ! まだ表紙すら見てねえよ!」
「もう白馬に乗った美しいご令嬢が俺に一目惚れとかアホな妄想マジしませんから! 後子供が落とした金、足で踏んで隠して知らん振りなんてして本当ごめんなさいってば! 俺が悪かったって!」
「見た目十才、中身は熟女な合法幼女とか欲しがってホントごめんなさい! 女風呂覗いたのだってありゃ俺じゃなくてこの馬鹿が率先してやった事で俺悪く無いんだから勘弁してよ!」
「何だとてめえ! 元はといやお前がにやけた面で公衆浴場の抜け道調べてきたんじゃねえか!」
「ざけんな! てめーがびびってちっこい穴しか空けらんねえから、結局全然見れなかったじゃねえか! あん時ちょうどめっちゃ可愛い子入ってたんだぞ!」
「おまっ! そういう事はそん時言っとけよ! だったら全てをかなぐり捨てこの町から逃げ出す覚悟で穴空けてたっつーの!」
「おいおい! お前ようやく手にした職、覗きで棒に振るとか男前すぎだろ! というかさっさと社会的に抹殺されとけ、人として」
「けーっ! 社会の制裁が怖くて桃色妄想が出来るかっての! こんな事ならマジで覗いときゃよかったああああ! クソ犬があああああ! 俺の給料てめえが払いやがれぼけえええええええええ!」

 というわけで。やたら不幸な二人組みの救出作戦、っぽいものです。実際の依頼はアヤカシ退治なので、二人の生存は重視されません。
 が、むさっくるしい男二人など助ける気も起きないなどと言わず、本気で泣き入ってる彼等を助けてあげて下さい。命が残ってるだけ幸運だとどついてやっても一向に構いませんので。
 下級アヤカシが何と五十匹、一つの町を飲み込んでしまいました。
 次なる町へと奴等が移動する前に、撃退して下さい。
 現在町の西側の櫓に全てのアヤカシが集中しているので、町の中に誘い込むのも一つの手です。
 基本的にこのアヤカシは知能が低いので、人間と見るなり無作為に襲い掛かってきます。
 下級アヤカシなので能力はそれほど高くはありませんが、何せ数が多いので、適切な作戦が必要でしょう。


■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
小鳥遊 郭之丞(ia5560
20歳・女・志
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
瑞乃(ia7470
13歳・女・弓
濃愛(ia8505
24歳・男・シ


■リプレイ本文

「俺は! おっ○いが大好きだああああああああああ!」
「俺もだあああああ! 思う存分目が溶ける程に堪能してえぞくそったれがああああああああ!」
 櫓の上からそんな絶叫が聞こえて来た。
 街の中を手早く確認し、練りに練った策を仕掛けるべく真珠朗(ia3553)、シエラ・ダグラス(ia4429)、濃愛(ia8505)の三人は櫓の周りにたむろっている狼アヤカシの側まで来ていた。
 シエラは心底呆れた様子である。
「危機的状況だというのに、随分と賑やかな方々ですね‥‥?」
 真珠朗は冷静に状況を理解する。
「錯乱してるだけだと思いますけどねぇ。ま、あの調子ならしばらく放っといても大丈夫でしょう」
 濃愛も処置無しとばかりに肩をすくめる。
 少し離れた場所、小鳥遊 郭之丞(ia5560)が隠れ潜んでいるはずの場所から、何やら怒りの気配がふんぷんと漂ってくるのは三人揃って無視する事に決めたらしい。
 さていきますか、と真珠朗が飛び出し、シエラと濃愛も後に続く。
 相手は五十体のアヤカシである。
 これをたった三人で引きずり回そうというのだから、背筋の一つも凍えようものだ。
 せっかくなので、櫓から離れた所をうろうろしていた狼アヤカシを、三人の同時攻撃でぼっこぼこにぶちのめしてみる。
 ぎろんっ、と残る四十九匹がこちらを睨んできた。
「では、皆さんの健闘を祈ります」
 真珠朗は、でれーんとひっくり返った狼アヤカシを群の方に向かって蹴り飛ばしながらそう言うと、脱兎のごとく逃げ出した。

 特に何かを意図してやった行動ではないが、アヤカシを蹴飛ばした真珠朗の元には、他所の倍以上の数が追いかけてきてくれていた。
 これならばと東側の待機場所へと向かう。
 待ち伏せているはずの神流・梨乃亜(ia0127)は、下に降りて戦うつもりであったようだが、彼が言い含めて建物の二階に上った所に居てもらっている。
 弱い犬程良く吼えるというが、こうして追ってくる狼アヤカシ達は、その例にならうのなら相当な強敵であろう。
 櫓の上を威嚇していた時とは違い、確実に捕捉出来る場所を走る真珠朗に対しては、吼える暇すら惜しんで襲い掛かってくる。
 これを走り逃げながらかわすのはさしもの真珠朗にとっても厳しく、時折背拳等を交えつつ、損害を最小限に済ますよう工夫をこらす。
 ふっ、と体が軽くなった。
 ようやく待機場所、待ち伏せ地点へとたどり着いたのだ。
 二階の窓から早速梨乃亜が神風恩寵を飛ばしてくれている。
「うーん。わんこはわんこでも、こんなわんこは嫌だなぁ〜」
 いやこれ狼だし、とかつっこむ余裕など真珠朗には無い。
 術の届く距離から外れぬように、かつ、うまく後ろを取られずらい壁を背にし、ここからが本番だと這い出る隙間も無い程に取り囲んでいる狼アヤカシを睨む。
「難儀な話ですが、お仕事がんばりましょうかねぇ」

 離脱する前に櫓の上に居る二人宛に矢文を打ち込んだシエラは、途中で進路を変え北側へと向かった。
 矢文は、危険なので全てが終わるまでは降りてくるなという内容である。
 念のためにと行った行為だが、この為に一手を消費してもかまわないと思える所に、彼女の精神性が現れているだろう。
 弓から持ち替えた刀を受けに用い、まとわりつく狼アヤカシの攻撃を凌ぐ。
 付いてきたのは十体と少し、ちょうど良い、いや僅かに多いくらいか。
 胴丸やブーツに切り傷を残しながら、旅籠の前を通り過ぎる。
 突然、炎の獣がシエラの脇を駆け抜ける。
 獣はシエラの後ろで一丸となっていた狼アヤカシの群に飛び込み、火を撒き散らして突き抜ける。
「よろしくお願いしますね」
 出水 真由良(ia0990)が旅籠の二階からおっとりとした声でそう言うが、手元は素早く次なる術式を組み立てにかかっている。
 シエラは心得たとばかりに、狼達が一箇所に集まりやすくなるよう、足を止めて迎撃体勢に移る。
「天儀志士の名において、ここで逃がしはしません!」
 中段、半身、僅かに刀身を傾けた姿勢で刀を両手に持ち構える。
 恐れる事なく正面から飛び掛ってくる蛮勇に、低く踏み込みながら刺突一閃。
 胴中央を貫くと後に繋げずらい事から、脇腹に当たる部位を抉り斬りつつ、中空に飛び上がった狼アヤカシの体を刀を払って跳ね飛ばす。
 同時に側面、背面から飛び掛る狼アヤカシ。
 前に踏み込む事で背中のソレを薄く薙ぐ程度におさめ、側面からの攻撃は刀を振った勢いで回る肩を叩きつけてこれを防ぐ。
 息をつく暇も無い。
 続き飛び掛ってきた狼の牙を眼前に刀をかざして受け止め、刀に噛み付いた狼ごと下に引きながらしゃがみ込んでこの狼を盾にする事で、他狼が上から飛び掛ってくるのに対する。
 一瞬の判断が全てを決するが、そんな際どい選択を何度も何度も何度も何度も繰り返し強要される。
 それが戦闘であり、シエラの住む世界なのだ。
 再び真由良の火炎獣が、文字通り火を噴いた。
 一度に数体をまとめて薙ぎ払うこの術は、素早い決着が望まれるこの戦場において非常にありがたい。
 シエラはひゅっと息を吐きながら、炎に怯んだ狼の首元に刀を突き刺す。
 そのまま引きずると、ずりっと首がズレ落ちて刀が自由を取り戻す。
 重さから開放された速度は、常の刀速を上回る。
 両足を低く落とした姿勢でこれを行い速度に重さを加え、迫る二体の狼を一度に跳ね飛ばす。
 三度飛び来る炎獣。痒い所に手の届く、絶妙無比な攻撃である。
 シエラへと同時に迫る敵を制限するように、それでいてより多数の敵を巻き込めるように、俯瞰する位置から仕掛けるのはこれがよりやりやすいようにする為でもあった。
 背後に彼女の吐息が感じられるようで、思わず笑みを溢しそうになるが、シエラは無理に表情を引き締める。
 別れる前に見た東側へと向かった敵の数は、早々にこちらを片付けねばならぬ程の量であったからだ。

 濃愛はシノビらしい身の軽さで十体超の狼アヤカシをひきつける。
 数多の敵と対する為の仕掛けを考えては来たが、こうもまとわりつくように襲われては思うように動ききれない。
 それでも損害を減らしつつ狙った場所へと誘導していけたのは、過酷な修練を積んできたおかげか。
 彼のクラス同様、忍の一字で狼の牙をかわし、のがれ、耐え続ける。
 二筋の風切音は、本意ならぬ逃走劇が報われた証か。
 仰け反るように弾かれる狼アヤカシ。
 屋根の上で待ち構えていた二人の弓術師、瑞乃(ia7470)と只木 岑(ia6834)である。
「おー、きたきた。ひー、ふー、みー‥‥やめよ、へこんでくる‥‥」
「町の人々を殺したアヤカシに遠慮はいらない!」
 弓を番えてから放つまでの速度が、二人とも尋常ではない。即射と呼ばれる弓術師ならではの技術によるものだ。
 次々射倒されていく狼アヤカシ。だが十体以上の数をあっという間に、とはいかない。
 濃愛は火遁を利用しつつ一気に複数体をしとめる策を仕掛けんとする。
 その動きを見た瑞乃は、思わず大声で叫んでしまう。
「待って! 火はまだっ!」
 正直、何故そんな言葉を口にしたのか瑞乃もはっきりとした理由は無いのだ。
 だが作戦を考える時、郭之丞が言った火はまずいという言葉が妙に頭に引っかかっていたのだ。
 その思いは街に着いてからより強くなった気がする。
 岑は矢を放ちながら、冷静に、瑞乃がそう口にする理由を考えていた。
「‥‥居ましたっ! 人です! 生存者が向かいの建物二階からこちらを見ています!」
 火計の好機と思っていた濃愛は、舌打ちしつつも頬が緩んでしまう。
『なるほど、戸を立てて家屋に潜めば襲われる事はありません。そのまま逃げ出す機を失っていたという事でしょうか』
 責任は重くなったが、やる気はより満ちて来た。
 櫓の二人だけではなかったのだ。生存者達は。
 ならばと範囲を見定めて、注意しながら火遁の術を解き放つ。
 今は自身の怪我より攻撃を、優先させるべき状況なのだから。

 郭之丞はアヤカシ達が櫓から離れると、隠れていた場所から飛び出し、確認の為と櫓に向かう。
 途中、残って上の二人を威嚇していた狼アヤカシに鎌を振るう。
「え? 嘘マジ? 本当に美人が助けに来てくれたって何ですかそのドデカイ鎌はあああああああああ!」
「いやいやトドメ刺しに来た死の使いとかいらないから! 何その一振りで消し飛ぶ威力おかしいだろっつーかアンタ凄い力っすねえええええええ!」
 何せ長い事魔の森に封印されていた死神の鎌である。もう何かなんていうか見た目からして素敵すぎるのである。
「矢文にもあったろうが、しばらくはそこを動くな。それと‥‥」
 鎌が怖すぎるので素直にうなづく二人。
「後で話がある。この戦が終わるまで正座してそこで待っていろ」
「はいっ!」
「はいっ!」
 やっぱり鎌が怖い二人は素直に言う事を聞くのであった。

 もしたった一人であったなら、とうに消耗し切って倒れていたであろう。
 今こうして立っていられるのは練力消費の激しい神風恩寵を、梨乃亜が惜しげもなく使い続けるおかげに他ならない。
 何時もの何処か皮肉げな表情が失われ、歯を食いしばるような厳しい顔になって久しい真珠朗は、今はまだ堪える時と一発逆転なぞ狙わずひたすら延命に努めていた。
 一匹一匹ならばどうとでも処理してみせよう。しかしそんな雑魚もこれだけ集まれば勇者をすら倒しうる極太の刃と化す。
 やられる方からしてみれば、こんな雑魚にという思いがある分余計に腹が立つ。
 そんな憤慨も腹に収めて真珠朗は堪え続ける。
 上で半泣きになっている梨乃亜の顔は時折嫌でも見えてしまう。
 途切れぬように防御の術を、治癒の奇跡を施しているが、癒す側から傷つけられていくのを見るのは、身を切られるより辛いのだろう。
『まったくもう、とんだ貧乏くじですなぁ‥‥』
 なので、真珠朗はふと梨乃亜と目線が合うと、このぐらい全然へっちゃらだぜといわんばかりに、痛いのを無理矢理堪えながら、にやっと笑ってみせるのだった。

 郭之丞が駆けつけた時の光景は聞きしに勝るであった。
 呼子の合図では東が厳しいとの話であったが、これは確かに目を覆いたくなる。
 しかしそれでも挑むが開拓者。
「武神が如く、一気呵成に薙ぎ払わん!」
 身の丈を軽く越える死神の鎌から、気合の炎が吹き上がる。
 更に巌流と呼ばれる大振りの秘技を披露する。
 腰も砕けよとばかりにひねり上げられ、半回転以上後ろに引き絞られた大鎌は、まるで葦を薙ぐように容易く狼アヤカシを両断せしめた。
 更に勢いは衰えず、真っ二つに裂かれた狼アヤカシは空を飛び、彼方の壁にべしゃりと叩きつけられる。
 二階にあたる場所で、ようやくの増援に歓喜の表情を見せる梨乃亜。
 今しばらくは、蓋である郭之丞と栓である真珠朗のみで持ち堪える必要がある。
 それは、おそらく容易い事ではないだろうと郭之丞は大鎌を握る手に力を込めるのだった。

 待ちに待った合図はまず真由良から、次いで瑞乃から届く。
 速攻を心がけたので、既にかなりの練力を消費しているはずの真由良は、それでもと密集している狼アヤカシに火炎獣を放つ。
 大急ぎで駆けてきたので、二階に陣取るなんて真似をしている暇もなかった。
 代わりにと前衛の位置にシエラが立ち、北側の道路を塞ぐ。
 ほとんど間を空けず、濃愛が駆けこんで来て、こちらは南側の道路を塞いだ。
 背後からの弾幕とでも称するべき矢の雨霰を味方につけ、エライ勢いである。
 瑞乃は極力真珠朗の側の敵を狙い打つ。
「お待たせっ! 一番キツイ仕事お疲れ様、あと一息だよ!」
 皆が皆ほぼ出涸らしである。しかしここが最後の正念場、そんな重要な場面を見落とす程ぬるい人生など送ってはいない。
 真珠朗はもうロクに声も出ぬ程消耗していたが、群のボスらしい大柄の狼アヤカシに骨法起承拳を叩き込む。
 急所を貫く一撃に、明らかに怯んだボス。
 真珠朗の意図を察したシエラがこれを繋ぐ。
 包囲が完成した今なら、ボスを倒しても逃げ散られる心配は少ないし、敵の士気を挫くのに効果的であろう。
 得意の中段に構えた刀身に根元から炎の筋が伸び上がる。
 例えケモノのような形状であろうと正中線への攻撃は有効だ。
 頭部より少し下、喉から胴に至るかわしずらい部位目掛けてシエラの突きが飛ぶ。
 ボス狼アヤカシは他のアヤカシとは一味違うぞと、首をよじって宙へと飛び上がる。
 完全にかわされた、はずであったシエラの突きは、しかし実の無い虚像。
 裂帛の気合と共に放たれた一撃には魂が宿り、見るものに真実と思い込ませる程の存在感を持たせ得る。
 そうして虚実を操ったシエラの刃は、飛び上がる体に被さるように上から振り下ろされ、頭部を真っ二つに切り裂くのだった。

 全てのアヤカシを倒しきった開拓者達は、もう立てぬとその場に座り込んでしまう。
 さもありなん、練力も体力も耐久力も、限界までひりだしての戦闘であったのだから。
 だから、少しして何処から沸いて出たのか街の人達が一斉に家々から飛び出して来た時も、何とも反応しようがなかった。
 よくやってくれた、ありがとう、おかげで外に出られる、怖くて仕方が無かった、きっと助けは来ると信じていた、等々、もう疲れて身動き取れぬと言葉によらず全身で主張している開拓者達に詰め寄ってくる。
 どうやら街の人間は全て、このアヤカシが現れるなり家に隠れて事なきを得たらしい。
 岑などは街の人間が被害に遭ったと本気で憤っていただけに、馬鹿馬鹿しくてやってられんとぼやくも、それでも、皆が無事であった事に喜びを隠せない。
 結局ロクに身動きの取れぬ開拓者達は、街人の助けを得て、街一番の宿に運ばれ、最高の寝床と極上の料理とこの上ない酒を振舞われた。
 アヤカシが街中を徘徊している恐怖から開放された喜びは、これでも表現しきれぬと皆が大騒ぎであったのだ。



「よー、俺ら何時まで正座してりゃいいんだ?」
「知るかよ。何ならバックれてもいいんだぜ」
「いやいやいやいや、それはない。あの鎌見ただけで俺悪い事してなくても土下座して泣きながら命乞いする自信あるし」
「いやー、いいかげん足の感覚なくなってきたぜー、って来たー! だから鎌持ってくんなって! もういらんでしょそれっ!」
 ずんずんと怒り肩で櫓に現れた郭之丞は、岑や出水やシエラやらが二人を気にして櫓を訪れ、取り成してやるまで延々説教を続けるのであった。