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■オープニング本文 造船技師五月雨は、彼の最新作である船を見上げ満足げに頷く。 「うむ、完璧な出来じゃ」 鬼咲島に停泊中の他の船と比べても、明らかな差異が見られる。 まず色が違う。 全体を汚れが目立つだろう真っ白に染めており、船体の両脇には下手に力がかかればへし折れてしまうだろう長大な翼が広がっている。 この船は、全体が白鳥を模しているのである。 五月雨は渡り鳥が行なう長距離飛行に着想を得て、飛空船に鳥の翼をつけ、より早く高く飛べるよう工夫を凝らしてみたのだ。 その発想は見事成功しており、従来のものより飛行速度は上がっているのだが、何せ外観が外観なので、余人の理解を得るのは難しい。 「美しい‥‥流石はわしの『えれがんてぃっく十三号』じゃ」 後、名前も他者の理解を得られない事に一役買っている模様。 戦闘用飛空船えれがんてぃっく十三号は処女航海を終え、鬼咲島へと到着したのだが、五月雨はまだ性能試験に満足しておらず、ここは一発あるかまるを目指すかと気合を入れる。 この船の性能には船長含め船員一同満足しており、あるかまるを目指すに異論は無いのだが、まだ二度目の航行で未知の航路を行く事に若干の抵抗があった。 こう見えて五月雨は造船技師としての腕は確かであり、彼の作った船は船乗り達に信頼されている。 また、五月雨も船乗りの意見を尊重するので、この船の特性を考えるに未知の航路を探索するには従来型の方がより向いているという彼等の言葉を無視するつもりもない。 五月雨がどうしたものか悩んでいると、ちょうどいい事に他所から報せが入る。 鬼咲島から少し離れた空域でアヤカシが発見されたらしい。 「よし! きゃつらはわしが頂く! 戦闘用飛空船えれがんてぃっく十三号! 出港準備じゃ!」 発見された三体のアヤカシは、三体で一つのチームを作っているらしい。 巨大な、ねずみとイタチの合いの子みたいなアヤカシ、通称デカネズミ。 白く長いコートを着た少女の形状をしたアヤカシ、通称白魔法少女。 黒服であるが、幼い体型がはっきりわかるようなぴっちりした服を着る同じく少女形態のアヤカシ、通称黒魔法少女。 デカネズミが後方より支援砲撃を、白魔法少女が高速飛行しつつばかすか術砲撃を仕掛け、黒魔法少女が近接して攻撃してくるという戦闘スタイルである。 少女型二体は、得意分野以外にも近接、遠距離双方で攻撃可能となっているので、注意が必要である。 えれがんてぃっく十三号の護衛クルーとして雇われた開拓者達は、乗るのにちょっと抵抗のあるこの船に乗り込み、えれがんてぃっく十三号と共にアヤカシ出現空域へと向かう。 いずれ軍船として運用するならばこれも専用スタッフを用意すべきなのだが、まだまだ五月雨はこの船に改良の余地があると納品を伸ばしていた。 五月雨は、この船を先陣を切って斬り込む突撃船として想定している。 大空を埋め尽くす程の船、その先頭で、真っ白な翼を広げるえれがんてぃっく十三号を想像し、五月雨は毎夜薄気味悪い笑みを浮かべていたりする。 こーんなふざけたかっこの船を、依頼主である国が笑って受け入れてくれるかどーかは定かでないのだが。 |
■参加者一覧
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎
九条・亮(ib3142)
16歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「おおーー! すっげー! なんだこのおもしれー船!!」 えらい嬉しそうにはしゃぐルオウ(ia2445)。 彼の眼前には、子供の玩具のように愉快な形状を誇る白鳥(と作者は強く主張している)を模した飛空船、エレガンティック十三号が鎮座していた。 アーシャ・エルダー(ib0054)もまた、面白いだの綺麗だのの感想を述べている。 風和 律(ib0749)はぼそっとつっこむ。 「いや、これ一応軍船? なのだろう。それがおもしろくていいのか?」 「いんじゃね。ギャハハ!」 そう答えるブラッディ・D(ia6200)は、斉藤晃(ia3071)と共に無遠慮に腹を抱えて笑っている。 常識人筆頭真亡・雫(ia0432)は、それでも露骨にすぎる表現は避けてみる。 「芸術といえば、芸術なんでしょうね‥‥こういうの。‥‥発明家って変わり者が多いって聞くし。本当なんだ」 純白の船体が気に入ったのか、薔薇を掲げロック・J・グリフィス(ib0293)は満足気にこれを見上げている。 「正に大空へ羽ばたく白鳥のような姿‥‥その希望に満ちた姿もまた、美しい」 変わっているのは発明家だけではない模様。 ちょっと自分の感性に自信が持てなくなりそうで雫が視線を逸らすと、九条・亮(ib3142)の顔がすぐ側に。 ついでに布地面積の低い衣服と、実に豊満な胸がででーんと目に入る。 「わわっ!」 顔を赤くしてのけぞる雫に、亮は不思議そうな顔をする。 「ん? 雫はこういうのキライ?」 「えっ!? い、いいいいえ、その、キライとかそーいうのではなく‥‥」 「ボクはこういう船キライじゃないけどなぁ」 「‥‥あ‥‥船の事でしたか‥‥」 「違うの?」 「ちっ、違いません!」 出航前からそれなりに騒がしい面々であった。 エレガンティック十三号の性能やらちょっとふぁんしー入ってる内装にはしゃいだり爆笑したりしていた面々だったが、アヤカシ達が現れると流石に表情が変わる。 何のかんのと皆、開拓者なのである。 「吹けよ嵐、その風で戦いの歌を奏でるがいい‥‥ロック・J・グリフィス、出るっ!」 ロックは駿龍J・グリフィス3世号を駆り、通称白い悪魔へと向かう。 これに亮のグライダー紫電が続く。 「リリカルマジカルはじめちゃおう!」 つっこみ不在なのが実に悔やまれる。 白い悪魔は高速で迫る二騎にも動じる事なく、ジグザグ軌道で的をぶらしつつ砲撃を開始する。 掲げた杖より光球が複数放たれると、ロックと亮は同時に逆方向へと散開する。 「砲撃が主体か‥‥なに、より早く飛んで追いつけば問題ない。お嬢さん、暫くお付き合い願おうか」 同じ事を考えた亮も旋回速度にての撹乱を狙う。 「第一期仕様のヤツなら最大速度は高くても旋回速度はそれ程でもない筈!」 「むう、一期仕様やて」 晃が眉根を寄せると、ルオウはどびっくりな顔をする。 「知ってんのか晃!」 『一期仕様』 二期、三期と続く上で不可避に生じる戦闘能力インフレ現象の一形態である。 つまり一期仕様とはまだ成長過程、いや成長してはいけないんだが、における愛くるしくも弱々しい状態の事。 ボコられ幼女という禁断のパンセに基づいた、りりかる世界の根幹をなす要素であり‥‥ 李莉華瑠書房『成長の悪徳』より抜粋 しかし亮の希望的観測は容易く崩され、白い悪魔は翼によらぬ風の影響をさして受けぬ謎飛行方法により、ロックと亮の近接を防ぎつつ、見事に自らの間合いを維持し続ける。 二人が回避と位置取りに気をとられていると、白い悪魔は突如その矛先を変える。 後方に控える通称ねずみーまうすへと向かうえれがんてぃっく十三号に向け、杖を翳したのだ。 中空に描かれる不思議な文様、その中心から、最初の瘴気弾とは比べ物にならぬ巨大な輝きが放たれる。 「やらせん!」 律が強引に甲龍砦鹿を射線上に割り込ませる。 走る閃光に対し大剣ヴォストークを叩き込むと、律を中心に光が爆ぜる。 生じた煙はすぐに風に流され、律、そして砦鹿が何処を欠けさせる事もなく姿を現す。 律が艦橋に向け視線を送ると、えれがんてぃっく十三号は更に速度を上げねずみーまうすへと突貫していく。 雫は前線の敵二騎を迂回し、えれがんてぃっく十三号にばかすか撃ってくる後方のねずみーまうすに攻撃を仕掛ける。 図体がデカイだけあって回避能力は低いものの、頑強な体は容易に有効打を許さない。 無作為に攻撃しても効果は薄いと急所を狙うべくねずみーまうすの動きに注視する雫。 程なくして、ねずみーまうすの目の動きがおかしい事に気付く。 えれがんてぃっく十三号でもなく、雫でもない方に目線を向けている。 それも、突然そちらを見るといった感じだ。 この手の目線のフェイントは昔からあるが、にしても不自然すぎると、雫は回避を甲龍ガイロンに任せねずみーまうすと同じ方向に目を向ける。 「‥‥え?」 思わず硬直する。 ねずみーまうすが鋭く目を向けた先には、白い悪魔が。 それも、絶妙の角度で、足首近くまであるコートの中が見えてしまう、おーるはいるぱんてぃーらなタイミングだ。 「何故下着まで‥‥いや、無かったら僕が困るんですけどね」 最近のアヤカシの精巧さを目の当たりにした雫は、直後側面方向から絶大なる殺気を感じそちらを振り向く。 ねずみーまうすの顔が怖い。 てめぇ何処見てんだクソが! あれは俺の、俺のみに許された至福の一枚絵でボケ! 死ぬか? 死ぬのか? 死んでしまうのか貴様あああああああああ! といった言の葉がだだ漏れてくるような殺意。 いやアヤカシがそーいった事を気にするはずもないので、多分きっと間違いなく雫の気のせいであろうが。 でも雨霰と弾幕は飛んで来たりする。 「何で僕にー!?」 「むう、何で僕にやて?」 「知ってんのか晃!」 『何で僕に』 そうあるべき世界から逸脱した不条理な程の不運を嘆く言葉である。 これを発するのは主に胃辞裸霊伽螺と呼ばれる存在であり、ぴゅあ、愛らしい等のおぷしょんを装備した者が多い。 他にも押しが弱いなどの理由からこの地位を獲得する事もあるが、他人から見れば幸運極まりない出来事をすら、 常備した良識から不幸と認識してしまう人間らしさこそが、彼等を不幸たらしめていると‥‥ 李莉華瑠書房『胃辞裸霊伽螺、百八の考察』より抜粋 おかげでえれがんてぃっく十三号とこれを守る律がねずみーまうすに近寄る事が出来たのだが、その理不尽さにもやもやとしたものを胸に抱えずにおれぬ雫であった。 ルオウの咆哮は効果を発揮するのにかなりの力を要した。 「ちぃっ‥‥あんな外見してけっどアヤカシなんだよな? 行くぜ! ロート!」 咆哮への抵抗力は攻撃力に直結する。つまりこれが手強いという事は、敵の攻撃を受けた時、相応の損害を覚悟せねばならぬという事。 おっそろしい速度でルオウに迫る通称黒い閃光。 正面より眼前に迫ると思われた黒い閃光は、ロートケーニッヒの顔の下をくぐりつつ、首横より飛び上がり鎌を横に薙ぐ。 こちらから攻撃を仕掛ける暇もない。 両足でロートケーニッヒより落ちないよう踏ん張りつつ、上体を真後ろに仰け反らせこれをかわす。 ルオウの背が龍の背につく程仰け反ってようやく鼻先をかすめる程度で済んだ。 咆哮時に感じた強さとこの速さが両立しているなどと、デタラメにも程がある。 「このアヤカシは化けものか!」 「お任せを!」 アーシャが黒い閃光へ近接を仕掛ける。 「我こそはアーシャ・エルダー、人々を脅かすアヤカシよ、帝国騎士の力をその身に叩き込みましょう」 すり抜けざまに鞭を伸ばすと、黒い閃光は即座に身を翻す。 鋭角的に進路を変える黒い閃光に、アーシャは手首の返しで追撃を。 右足にみみず腫れを残す事に成功するも、からめとるまでは至らず。 離脱進路をとる黒い閃光の前を遮るように飛びはだかるは斉藤晃。 「この鉄槌の侍斉藤が相手や!」 躊躇無く鎌を振るう黒い閃光に対し、晃は槍を構えて受け流す。 「Pが貯まるぜ!」 流石は雷電担当、発言が実に含蓄深い。 流しつつ槍を回して反撃をと思っていた晃だったが、斬撃のあまりの重さ、鋭さにこれを為し得ず。 「くっ、しびれるぜ! しかし魔法漢の心臓に火がつくってもんだぜ!」 飛び抜ける黒い閃光の頭上より、ブラッディが駿龍翡翠ごと落下してくる。 「ギャハハッ! 意味わかんねえ事言ってんじゃねえよ!」 長大な鎌をくるりと回し、頭上に振り上げる黒い閃光。 「‥‥殴り貫く為のこの鋼拳、てめぇはどんな声で鳴いてくれるかなー?」 鎌を振るうには深すぎる間合いは、しかしブラッディの拳に最適の距離。 鎌の柄が肩に当たるがさしたる問題は無く、逆に踏み込んで来た勢いを利用されブラッディの拳が深々と突き刺さる。 華奢な体に似合わぬ弾けるような手ごたえに、ブラッディは反撃を警戒し追撃を避け距離を取る。 黒い閃光は、痛撃をくれたブラッディにではなく、再度ルオウへの攻撃ルートを。 対黒い閃光に動いている四人は、ルオウが見事に役目を果たしたと察する。 なれば、それに相応しい動きをとルオウを中心に据えた包囲陣を敷く。 ひっきりなしにとめどなく攻撃を続ける連携を、熟練の開拓者である彼等は言葉を交わす事もなく自然に行なう。 「ぬう、あれは符尾頓乱鎖」 「知ってんのか晃!」 『符尾頓乱鎖』 黒い閃光が最初に身につけた遠隔攻撃術であり、故に最も熟達していると言われている。 バリエーションが豊富で、特に必殺とされるバージョンでは、敵を捕らえ身動き取れぬようにしてから、 恐怖に震える敵に圧倒的な瘴気を見せつけ、絶望と共にあの世に叩き込む。 かつて白い悪魔と争った時、このフル出力をぶちこんだのだが、それでも悪魔は倒れなかったとか。 両者の上下関係が如実に現れている一件である。 李莉華瑠書房『黒い閃光のひみちゅ』より抜粋 連携を話す暇はなくても、薀蓄を語る余裕はあるようだ。 世界の庇護を受ける会話とはこういうものである。 悪夢だ。そう誰しもが思った。 黒い閃光は四人がかりの早めの集中攻撃により、ねずみーまうすは雫が囮となりつつ船を律が守り、えれがんてぃっく十三号のアホかっつーぐらいの火力にて、それぞれ撃破した。 しかし、単騎残った白い悪魔は、味方が倒れるも悠然と構えたまま。 杖を天に掲げると、想像だにしない量の瘴気がその頭上に渦を巻く。 「ぬう、あれは諏太亜雷斗武霊華」 「知ってんのか晃!」 『諏太亜雷斗武霊華』 白い悪魔の全力全開。天儀においてこれを防ぎうる者なぞ存在しないという学説もある程の高威力を誇る。 唯一の回避方法は白い悪魔に土下座(フライング土下座かスライディング土下座かは要研究)する事のみと言われているが、 試した者はいない。というか相手は悪魔と呼ばれる程の存在だ。多分土下寝でもダメだろう。 李莉華瑠書房『それは大いなる危機なの』より抜粋 これをくらった皆は一様に思う。 天が降って来たと。 ここまで優位に進めてきた戦闘が、ただの一撃でひっくり返りかねない強烈無比な範囲攻撃。 しかし、信じられぬ速度で降り注ぐ瘴気をかいくぐり、一騎が白い悪魔の懐に飛び込んで行く。 「当たんなきゃ意味ねえってんだよ! ギャハハ!」 黒い閃光を張り倒した勢いそのままにブラッディの拳が唸る。 ぞくりと背筋が凍り、登りきっていた血液が一気に落ちる。 大技を出した直後、動きが鈍いはずの瞬間を狙ったにも関わらず、白い悪魔はブラッディの拳をかわし一瞬で背後に回りこんでいた。 引きつった顔で振り向くブラッディ。 「おーけいよくわかった。充分頭は冷えたし、その、なんだ、お仕置きだけは勘弁です」 白い悪魔の愛くるしさを支える円らな瞳が、その瞬間だけ崩れたように薄暗い隈に覆われる。勘弁出来ないらしい。 ぼっかーんという爆発と共に、ぶっとい光線で翡翠ごと吹っ飛ばされてしまう。 だがしかし、怒ったという事はつまり、白い悪魔にとって極めて有効な攻撃であった証でもあろう。 怖じず怯えず、アーシャは炎龍セネイを飛ばす。 「出でよオーラ、フルパワー・オーバードライブ、我が力となれ!!」 あんなのを何発も撃たれては身が持たない。 ここで、一息に決めきると腹をくくっての突撃だ。 桃色の輝きに包まれた鞭が飛ぶ。 大技二連発の直後、ブラッディが吹っ飛ばされた爆煙に紛れ近接したアーシャの鞭は、白い悪魔の胴に巻きついた。 「さあ、力比べですよっ!」 セネイが必死に羽ばたくと、さしもの白い悪魔もこれに引かれてぶんと振り回されてしまう。 それでもアヤカシならではの剛力を振るえば、鞭を引きちぎる事も出来るかもしれない。 だが、この好機を見逃す開拓者達ではなかった。 雫はガイロンを駆り近接しつつ白い悪魔の挙動に全神経を集中させる。 龍を用いる剣技は、地上とは圧倒的に速度域が違う為、攻撃も回避も間合いを取りずらい。 その特性を利する為、刀を体の後ろに引き、刃の長さをぎりぎりまで見せぬまま白い悪魔に迫る。 一斬必中、高めた練力にほのかな芳しさが漂う。 振り回されながらも白い悪魔が掲げた杖を、すり抜けるように雫の刃が胴を捉える。 「いまだ! いけぇっ!」 威勢の良い掛け声はルオウのものだ。 急降下の恐怖も彼とロートケーニッヒには無いのか、ただただ目標目指して突っ走る。 「くらえ、白悪魔!! うらああああああ!!」 白い悪魔の頭上より降下しつつの払い抜けは、胴ではなく頭部から肩口、背なを通り過ぎ、縦に深き傷を負わせる。 同時に衝撃で鞭が外れてしまったが、問題は無い。 「続けよ晃!」 「任せんかい! 小細工無用の剣華! 関節技こそ王者の技よ!」 間をずらし接近していた晃は、炎龍熱かい悩む火種から飛び出し、白い悪魔に組み付いた。 アヤカシに空中で関節技を仕掛けるとか、無法にも程がある。 ましてや巨躯を誇る晃と、見た目幼女のアヤカシである。 脇固めを仕掛けるべく腕を取るも、くるりと回転する事でこれを外し、その勢いで晃を中空へと投げ出す。 「これで終わるとおもうなよぉ〜!」 実に出来た朋友である熱かい悩む火種が、落下する晃を受け止め、再度の攻撃を。 「あ〜きゃん〜ふらぁぁぁい!!」 朱槍をぶん回しながら練力を漲らせ、重さのみなら先の諏太亜雷斗武霊華に負けぬ強烈な一撃を叩き込む。 槍先が白い悪魔に触れた瞬間、白い悪魔と晃の双方から輝きが放たれる。 晃に合わせようとして何度もタイミングを外しそうになった律が全力で抗議する。 「それを最初からやっておけ!」 急接近と同時に大剣をこれみよがしな程に振りかぶる。 縦の斬撃には、杖を横にし掲げる事で受ける事が出来よう。 空中を足場と出来る白い悪魔ならば、律の剛剣すら受けきる力を得られよう。 それがわかっている律は、砦鹿に直前での旋回を命じる。 ぐいっと両の羽を捻り、そのままぐるりと回る動きだがちょうど律の体が真横を向く時、剣の間合いに白い悪魔が食い込んでくる。 律が縦に振った大剣は、掲げた杖と水平に、白い悪魔の胴を横に薙ぐ形となり、皮膚だか衣服だかわからぬ白いコートが斬り裂かれる。 「横に斬ったら、次は縦だよね!」 律と同時に紫電を走らせていた亮は、しかし方向を真上へと。 急上昇しつつ律の動きを確認し、ここぞの位置でひらりと縦に機体を回す。 これにより機首は真下を向き、僅かな浮遊感の後、強烈な風が全身を襲う。 龍に任せるのとは違い、グライダーは全てを自分で管理しなければならない。 つまり、乗り手が意識を失ったらそれでお終いなのだ。 そんな中での急降下はどれだけグライダーに慣れようと冷や汗を止められぬ程の恐怖を伴おう。 亮は、恐れになど負けぬよう大声を張り上げた。 「旭神流奥義『金翅鳥王拳』が一手『伽桜羅襲』!」 片手を突き出し正拳を放つと、その強い体勢を維持したまま肘を曲げ、間髪入れぬ肘撃を打つ。 すりぬけざまの打撃、しかも連撃とくればこれは打つ方も体勢を崩しかねないが、肘ならばより体に近い分押さえ込むも容易であろう。 この連撃をもらった白い悪魔はくるくると独楽のように回ってしまう。 ロックは、真っ白き薔薇の槍を構え、この白い悪魔に最後の一撃をくれんとしていた。 共に舞うJ・グリフィス3世号こと流離は、自らに課せられた使命はただ一重に、速度を上げる事のみと風に翼をはためかせ、自身に出来うる最高速を主に捧げる。 ロックの周囲を、掲げた槍を、駆ける流離すら包み込む膨大なオーラ。 騎士の騎士たる所以、強烈無比なランスチャージを。 「貫け白き薔薇の一撃、ローズタイフーン・デットエンド!」 全てが一つとなって空を貫く閃光は、ただ白い悪魔を貫くに留まらず、突き出した槍にて二つに斬り裂いてみせる。 衝突の瞬間、見守る皆はそこに白薔薇が舞うのを確かに見た、気がした。 「‥‥可憐なお嬢さん、すまないがこれでさよならだ」 ブラッディは、最後に一言だけ呟く。 「いや、もう十二分に頭冷えたし。べ、別に俺も混ざりたかったとか思ってないし」 |