水少年達
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/16 01:34



■オープニング本文

 北面国の都、仁生。この地で今、新たな試みがなされようとしていた。

「なあ、水中舞踏って、何かこう俺達がやろうとしてる事にそぐわない気がするんだよな」
 そんな言葉を漏らすのは、何故か海ぱん一枚の格好で腕を組んでいる竜一だ。
 相手をしている幼馴染の公子は、へー、そー、とすんごい勢いでやる気がない。
「でだ! ジルベリアの言葉に詳しい公子に相談だ! 何かこうかっこいい、聞くだけで痺れるような単語は無いか?」
「知らないわよ。大体、アンタ一人でどうしようってのよそれ」
「その仲間を集める為にも! かっこいい名前が必要なんだって!」
 はいはい、と聞き流し、一応それっぽい単語を並べてみる。
「すいみんぐ、うぉーたー、すぷらっしゅ、だんす、すてっぷ、しんくろ‥‥」
「おおっ、何かすげぇよさげだな! 俺の感性が叫ぶぜ! すいみんぐとしんくろってのがかなり痺れた!」
 頬をかきながら公子。
「‥‥時々あんたの勘って凄いわよね。内容から考えるに、シンクロナイズドスイミングって感じかな」
 竜一はばんとテーブルを叩いて立ち上がる。

「それだ! 俺達の芸の名は! シンクロナイズドスイミングだ!」

 その達には私も含まれるのかふざけんなぼけー、といった顔で、公子は竜一に抗議の視線を送るも、竜一は一人絶頂に燃え滾っているのだった。

 竜一君謎の拘りにより、公子が芸に参加する事は許されないらしい。
「これは男の魂の演技だ! 女の出る幕じゃねええええええ!」
「是非そうしてちょうだい。んで、他の仲間ってのはアテがあるの?」
「無いっ!」
「じゃあ一人でやれば」
「それじゃ意味ねえんだよ! この俺の脳内にほとばしる芸術を表現しきるには、たくさんの人間で同時にやんなきゃなんないんだっての! 後、志体無いとマジ無理」
「つまり、水の中で泳ぎながら踊るなんつーアホな真似をしてくれる志体を持った男の人を捜さないといけないと」
「その通り!」
「何処に居るのよそんな馬鹿!」
「はっはっは、それを見つけるのが公子の仕事じゃないかぁ」
「‥‥殺すわ、アンタ必ずこの手で八つ裂きにして」
「そんな事言うなよぉ、お前ぐらい頭良ければ何か良い手思いつくだろー」
 で、さんざ文句を言いつつも、公子が頭を捻った結果、そんな無茶に応えてくれそうな心当たりを一つだけ思いついてしまったわけで。
「開拓者ギルド‥‥かな。あそこぐらい志体持ち抱えてれば、一人か二人ぐらいアンタの馬鹿に付き合ってくれる人居るかもよ」
「一人二人じゃねえ! たくさんだたくさん!」
「はいはい、百年に一度の幸運に恵まれればそういう事もあるかもしれないわね」
 何でこんな馬鹿に志体があるんだろう、と、子供の頃からずーっと疑問に思っていた事を再度思い出しつつ、開拓者ギルドに申請の手続きをしてやる公子さんでした。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
桐(ia1102
14歳・男・巫
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
金津(ia5115
17歳・男・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
龍威 光(ia9081
14歳・男・志
スミレ(ib2925
14歳・男・吟


■リプレイ本文

 竜一は集まった面々を前に、彼にしては珍しく困惑しきった顔をしている。
 人に見せる芸である。見目麗しい方が良いに決まっているのだが、依頼文に出した「男性のみ」という部分をさらっと無視して人が集まっているのだから当然といえば当然の反応であろう。
 見た目男なのは、集まった八人中三人しか居ないのだ。
 天河 ふしぎ(ia1037)は、やる気満々で竜一の手を取る。
「シンクロ、凄く素敵な響きだから、僕もやってみたくなっちゃった、一緒にすばらしい演技を完成させようね」
 竜一は馬鹿ではあるが悪党ではないので、人の善意を無碍にするのには気が引ける。
 それでも言うべき所は言わねばと口を開く。
「あ、あのさ。このシンクロって奴は男だけでやるもんで‥‥その、悪いけど女の子には‥‥」
 途端、ふしぎは顔を真っ赤にして抗議する。
「勘違いするなっ僕は男だっ!」
「またまた」
 まるで信じていない竜一であったが、公子がぼそっとフォローしてやる。
「一応言っておいてあげるけど、今回集まった中で、女の子って水鏡さんだけよ」
「‥‥‥‥‥‥そんなばかなー」
 色々と苦悩他あったようだが、すぐに気を取り直す竜一。
「わ、わかった。ともかく! みんな良く集まってくれた! その、なんだ、ちょっと不安はあるがこれだけ揃えば何とかなる! みんなで最高の演技にしよう! うん、そこの地黒の人なんてきっと凄い見栄えするぜ!」
 地黒の巨漢、スミレ(ib2925)は、手をひらひらと振る。
「やぁだぁ。私は応援よ、お、う、え、ん。だって海パンでしょ? そんな恥ずかしい上半身裸になれるわけ無いでしょ?」
 これでも挫けない竜一君の根性だけは、公子も認めてやってはいるのだ。

 まず海に入る所から揉める。
「なあああああんでそこで恥ずかしがるかなあああああああ! つーか男が胸を隠すなあああああああ!」
 水着に着替えた後、上着を羽織ってる方多数。
 陽光を浴びてきらきらと輝く彼等の姿は、正に夏と海に欠かせない彩そのもの。
 竜一が想像していたむさっくるしー雰囲気なぞ欠片も無い。
 真珠朗(ia3553)は水着にも着替えぬまま、この様を眺めて呟く。
「素敵なおねーさんに水着であんな事やこんな事、あまつさえ、そんな事をしてもらうってのが健全な成人男子の夏のありかただとは思うんすがねぇ‥‥これはこれでアリ、なんでしょうか」
 何故か顔を手で抑えている水鏡 絵梨乃(ia0191)は、主に目がヤヴァイ事になっている。
「いや、アリだよ。全然アリ。もう他どうでもいい。演技とかしないでもこれお金取れるって」
 絵梨乃は黒ビキニの上にシャツを羽織っており、真珠朗言う所の素敵なおねーさんそのものであるのだが、獲物を狙う鷹の目で彼等を見つめる姿を見せられては、上に素敵をつける気になぞなれない。
 何処か儚げな雰囲気を持つ桐(ia1102)は、日の光を浴びて尚真っ白に輝く綺麗な足を晒している。
 少し俯き加減に、眩しい輝きを厭うような様が大層あどけない。
 健康的な黒髪が日を照り返し、きらきらと輝く龍威 光(ia9081)は、後ろに手を組んだまま下から桐の顔を覗き込む。
「調子、悪そうですねぃ」
「だ、大丈夫だよ。ささ、海に入りましょう」
 金津(ia5115)は、ああでもないこうでもないと鏡の前で服を脱いでは着、着ては脱ぐを繰り返している。
 まずは腰帯をするっと外し、ゆっくり、ゆっくりと上に羽織った着物を滑り下ろすように脱いでいく。
 この時の手の位置、胸元を隠すような絶妙の配置を心がけつつ、それ以外、特に肌の見せ方に苦心しつつ、最後の布胸当ての外しで一番盛り上がるよう構成を考える。
「くふふっこれでお客さんの目はボクの物ですよっ!!」
 はらりと、布が舞うように脱ぐ最後の一枚の所で、背後から現れた平野 譲治(ia5226)が容赦なく布を引っ張り取ってしまう。
「早く行こうなりっ! 海がおいら達を呼んでるなりよー!」
「あっー! もうここが一番盛り上がる所なんですから邪魔しないっ!」
「いいからいいから!」
 引きずられるように海に引っ張って行かれる金津。

「それーっ!」
 ふしぎが水をすくって光にかけると、光もまた負けじとさざ波に乗せるように両手を滑らせる。
「やりましたねぃ‥‥今度はこっちの番ですねぃ!」
 二人は腰までの深さの所で水のかけっこをしていたりする。
「こらー! 待つですよー!」
 何をしたのか、譲治は追いかける金津から砂浜を走って逃げている。
「へっへーんなり! 捕まえてみろなりー! ‥‥ってちょっとタンマ」
「や、やっと捕まえました‥‥ん?」
 砂浜の一角で桐がしゃがみこんでいるのを二人は見つけたのだ。
「なあなあ、本当に大丈夫なりか?」
「御気分が優れないのでしたら、あちらの木陰にでも‥‥」
 桐は額を伝う汗をぬぐいながら微笑む。
「ありがとうございます。少し、日の光に当てられたみたい」
 これが男だというのだから世の中わからない。何処からどー見ても、病弱な何処ぞの御令嬢である。

 二人の女が並んでこれを眺めていた。
「‥‥目に毒すぎますね」
 公子が彼等から一瞬たりとも目を離さぬまま呟くと、絵梨乃もまた首は微動だにせぬまま答える。
「天国って、生きたままでも辿り着けるんだね。ボク知らなかったよ。そういえば、別にいらないけど、竜一はどうしたの?」
「愚かにもこの天上の景色をぶち壊そうとしていたので、膝蹴り入れて黙らせておきました」
 二人の女は、やはり顔は動かぬままで、同時に親指を立てるのだった。

「‥‥あの二人に任せたらエライ事になりそうですねぇ」
 真珠朗は手を叩きながら海を楽しむ皆を呼び集め、急所を押さえたまま身動き取れなくなっている竜一はさておき、それぞれの身長差やらを考えた演技と、それらに必要になるである泳法を学ぶよう皆を促す。
 背中に突き刺さるような視線を感じつつも、淡々と仕事を進める真珠朗。
 と、内の一人の動きが止まった事に気付く。
 波に任せてゆらゆらと動く新たな技かと思いきや、周辺の水が変色している事に気付き、ああ、あれはマズイですねぇと声をかける。
「あー、誰でもいいんですが、鉄槌を水面にぶちこまれ衝撃で意識を失いまな板の上の鯉状態になってる桐さん引き上げてくれませんか? それ、多分洒落になってません」
 誰が反応するより早く、スミレが上着を脱ぎ捨て海へと飛び込む。
 深く追求すべきではないが、色黒の巨漢が女物の水着を着ている様は以下略。
 スミレは、女性二人が駆け寄るのも間に合わず、じんこーこきゅー一歩手前まで行けたのだが、天の采配か桐は寸前で目が覚めてしまった。
 いやまあ、いろんな意味で危険だと真珠朗が桐の腹を踏みつけて水を吐かせたのが原因だが。
「星になれ!」
 息を吹き返すなり、ハリセンで真珠朗をぶっとばした桐の台詞である。‥‥もしかして、いや、深くは考えまい。
 桐は、実は先の戦でかなりの傷を負っていたらしい。
「ちょっと怪我してるだけだから大丈夫!」
 とは当人の言であるが、海に入ったらどす黒い液体が体全てを覆ってしまうよーな状態をちょっととは普通言わないのである。
 復活してきた竜一が心配げに声をかけるが、やはり桐は元気に応える。
「君の情熱の前には問題でもないさ!」
 あまりの衝撃に仰け反る竜一。
「そ、そこまで俺のシンクロを‥‥よーしわかった! お前の根性確かに受け取った! 一緒に最高の演技にしてやろうぜ!」
 いやそこは参加を見合わせるよー説得しろよ、と皆が思ったが、盛り上がる竜一と桐には通用せず。
「流血する美少年‥‥絵になるわねぇ」
「あれ、ボクが手取り足取り治療しちゃダメかな?」
 二人の女から聞こえてきた寝言を、これ以上面倒増やされてたまるかとガンスルーする真珠朗であった。

 とりあえず事あるごとに血を吐く桐、二連大龍符打ち込んだら沿岸を歩く通行人にぶち当ててしまう金津と譲治、男らしく雄々しくと思い白魚のような足をすらりと水中から伸ばすふしぎと遂に耐え切れず鼻血の海に沈む絵梨乃、何やら夜更かししたらしく水中で寝るなんていう器用な真似かましてくれる光、新曲「夏のマーメイド」を披露して訓練づくめでテンション上がりまくりの皆の大絶賛を受けるスミレ、竜一がまともな成人男子という事で寄せていた期待をさくっと裏切り裏方に回って金策に余念が無い真珠朗。
 様々な苦難を乗り越え、何時しか皆の心は一つにまとまっていく。
 夜遅く、今回の為用意した合宿所の一室で机に突っ伏したまま眠る竜一。
 その後ろからそっと毛布をかけてやるのは公子だ。
「まったく、夢中になるとすぐこれなんだから‥‥」
 演技の内容をどうするか、紙に書きながらああでもないこうでもないと考えていたのだろう。
 自然と出てきた、公子が普段は決して見せない柔和な笑みは、全て竜一に注がれている。
 窓の外に居た真珠朗は、我が意を得たりと深く頷く。
「当人にバレない状況になってようやく見せるデレ。いやぁ、ツンデレとはかくやあらん、って感じですねぇ。実にクールです。素晴らしいっ」
 がらっと窓を開ける公子。
「おや? 気付いてらしたんで?」
「‥‥何時から、そこに?」
「えっと、部屋に入って飽きもせず延々竜一にーさんの寝顔を見ている辺りから‥‥」
「全部じゃないそれ!」
 がさがさと茂みが動き、草木の隙間より顔を出して来たのは桐だ。
「公子さんは竜一君が好きなの?」
 けほけほ赤黒い何かを吐き出しつつそんな呟きを。
「せき止るまで大人しくしてなさい! 怖いわよそれというか何デワタシがこんなバカをす、すすすすすすき、とかっ、あ、ありえないわっ!?」
 すぐ隣から光がひょこっと顔を出す。
「お似合いだと思いますねぃ」
「に、にににに似合うとかそういう問題ではなく、当人達がどう思ってるかというか‥‥ではなくてっ!」
 馬鹿騒ぎしている皆を他所に、すいよすいよと爆睡している竜一。案外大人物かもしれない。



「‥‥しかし、またエライ数集まりましたねぇ」
 真珠朗が観客席に文字通り詰め込まれている客達を眺めながら呟く。
 うんうんと頷いている絵梨乃。
「わかるよ。これだけは絶対見逃したくないし」
 練習も後半になってくると、何処から聞きつけたか脳内が腐ってそーな女性達がぞろぞろと観戦に来るようになっていた。
 観客の半分はそんな方々である。おかげで声援が大層黄色い。
 会場入りの前に、光はなんと全員分の水着を完成させていた。
 各人それぞれに合った色柄で、可愛らしい絵柄の選択に皆満足げであったが、何故か用意されていた自分の分を見下ろし真珠朗は呟く。
「‥‥何であたしだけ褌?」
 スミレも際どいVの字水着に照れながらも参加しなかった事を本気で悔やむ程の出来であった。
 ふしぎは集まった皆、そして自らを鼓舞するように力強く言う。
「コーチ(真珠朗)の言葉や水っQさん(スミレ)の伝説を思い出せ、心を無にして調べを聞き、水と一体になるんだ」
 おーっ! と気合を入れ、本番開始である。
 まずはスミレのオープニングソングから。
「っきゃー! スミレちゃんかわいー!」
 異常なテンションの観客席に相応しい、常人では理解しえぬ感性の歌「夏のマーメイド」はむっちゃくちゃウケていた。
 どうやらスミレ、女性受けはすこぶるよろしいらしい。
「ああ、この街っていいわぁ。もうずっと住んじゃいたくなるっ」
 集まった男性観客が、あれ、もしかしてこの歌良い歌なの? おかしいの俺? マジで? ‥‥確かに良く聞けば、いや良く聞くとか物凄い憚られるけど、いい歌、かも? え? 俺洗脳されてね? 的な困惑の最中、既に女性陣は絶好調に盛り上がっている。
 そして竜一を先頭にシンクロナイズドスイマー達が姿を現す。
 皆上着を羽織ったままで、志体持ちに相応しい躍動感のある踊りを披露した後、波打ち際のすぐ側で、一同観客に向けて一列に並ぶ。

 ふわさっ。

 この日一番の黄色い声援、いやさ絶叫はこの瞬間に轟いた。
 上着を脱ぎ捨て、一斉に海へと飛び込む。
 これを死ぬ程恥ずかしがっていたふしぎも、既に演技に夢中なのか満面の笑顔で海中を進む。
 何度も練習してきた動き、もう目をつぶってでも居るべき場所はわかる。
 ふしぎは大きく両手で水をかき、水上に向けて自身雄々しいと信じて疑わぬ力強い様で足を水面から突き出す。
 横を見ると、皆一生懸命な様で水をかいている。位置良し、間も文句無し、きっと水上では、水面に咲いた花を模して突き出された足に、驚いている事だろう。
 水中のおかげで、演技とは別次元で足を見ている黄色い声が聞こえてこないのは幸いであった。
 ちなみにここで絵梨乃は一機やられている。(残機数1)
 ぐるりと円を描いた後、一斉に水中に潜るとふしぎ一番の見せ場が来る。極めて運動能力の高いふしぎならではの技だ。
 水の中にて皆で足場を作ると、せーので思いっきりうえにふしぎを放り上げる。
 水飛沫と共に水面に飛び出すふしぎ。
 くるりくるりと宙を舞い、満面の笑みで観客達に向けぽーずを決める。
 公子はここでライフゲージ三割減である。(残り三割)
 次なるは光と桐だ。
 まっすぐに立つ二人の足の裏を皆で支え、水面へと押し上げる。
 水上では、まるで二人が水面に立っているかのように見える演技。更に、ここからが志体持ちの真骨頂。
 そのままの状態で桐は優雅な舞を、光は勇ましい武術の動きを披露するのだ。
 常のそれらと違うのは、二人が海ぱんいっちょな事である。
「ぶはっ、もう無理っ!」
 絵梨乃撃墜。
 そして演出の派手さから演技後半に回された譲治と金津だ。
 水面が膨らみ盛り上がったかと思うと、巨大な竜が空へと飛び上がっていく。
 その上に二人は乗ったままで、まるで競うように天を目指し、双方の軌道が交錯する瞬間、ぱんと音を立てて竜達は弾け、二人は小柄な体躯に相応しい愛くるしさでくるくると回りながら再び水面に飛び込む。
「む、無念っ」
 公子大破。
 練習の成果を皆遺憾なく発揮し、全ての演技はつつがなく終わるのだった。
 もちろん竜一君の見せ場もあったし、観客達からは素晴らしい喝采と共にこれも受け入れられたが、果てしなくどうでもいいので敢えての描写は避けたいと思う。

 皆で最後の打ち上げの最中、真珠朗は一人帳簿とにらめっこであった。
「演技者の似顔絵売り上げが予想外、というか午前中で完売した挙句、下書きすら売れてくれたおかげで会場費人件費諸々引いても物凄い浮きですねぇ。公子さん、これどうします?」
「使い道は決まってるわ」
 公子は騒ぐ皆の中心で、得意げに胸を張っている竜一を眺めながら答えた。
「次の公演、もっと派手にしないとね」