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■オープニング本文 奴は素早かった。 「きゃーっ! 誰かー!」 奴は狡賢しこかった。 「嘘っ!? 私の下着が無いっ!」 そして奴は漢であった。 「‥‥いや、こんだけ暴れといて指一本触れないってそれはそれで凄いわね」 街道筋にある町に、一体のアヤカシが出没したとの報告があがる。 具体的被害は表記出来るものでは窃盗のみという一風変わったアヤカシは、町中の年若い女子にとって恐怖の的となっていた。 エ ロ ア ヤ カ シ の 恐 怖 とにかく女性の裸体が大好きで、ひたすらに覗く。なめるように覗く。はいつくばってでも覗く。 更に下着が大好きで、奪った下着を頭に被る。腕にはめる。足に纏わせる。おかげで凄い格好である。 日中は何処に隠れているものか、夜中になると町中各所に出没し、あちらの着替え、こちらのお風呂と現れては覗きに覗いて去って行く。 最初の頃こそ、実害があるのではと男衆も本気で追い回したものだが、このアヤカシ心に紳士の魂でも宿しているのか、女性に手を出す事だけは決してしなかった。 男は見るなりぶっ飛ばすが。 その圧倒的な素早さと力強さは並の男衆では歯が立たず、被害に遭っている女衆も怪我もしていないとなれば手を出す気も起きず。 しかし若い女性達からすればたまったものではない。 風呂に入れば外から荒い息と涎が滴る音がして、屋内で着替えれば天井裏に謎の染みがついていたりと、ちょっと洒落になっていないのである。 ぼっこぼこにぶちのめされた男衆が、一度だけそのアヤカシの声を聞いている。 「て、てめぇ何でこんな真似を‥‥」 「そこに裸があるからさ」 妙に渋い、男前を感じさせる声であったと彼は述べている。 流暢な会話が可能な程知能が高く、下手な開拓者ですら危うい程の実力を持つ痴漢とか、どうすればいいんだ一体と。 遂に堪忍袋の尾が切れた町の女衆は、アヤカシ死すべしと開拓者を雇う事に決めた。 つまり、君達の事である。 ほぼ毎日のように覗かれる少女あ(仮)さんは涙ながらに語る。 「わたしのしたぎ、かえしてー」 ちなみに彼女の下着は彼の頭部に装着されっぱなしである。 五枚ぐらい重ねてあるのでちょっと、何ていうかこう、このアホアヤカシに力を与えたのは何処のどいつだと声を大にして叫びたくなる。 女性達は被害者達の頻度を調べた結果、こう結論づける。 かのあやかし、幼子をより好む。 この結果が女衆会議で発表された時の彼女達の激怒っぷりは、筆舌に尽くしがたかったという。 八つ裂きでも飽き足らぬ、一寸刻みに微塵切り街道辻に晒してくれようと息巻く彼女達が今回の依頼主なわけで。 一刻も早い解決が望まれる。 ちなみにこの件が開拓者ギルドにもたらされると、係員は事情を聞いて速断する。 負の感情や瘴気等を集める事を目的としているアヤカシの存在理由を考えれば、極めて不自然であるのだ。 アヤカシと見紛う奇妙すぎる容姿も、聞く限りでは精神的な部分に目を瞑れば人間に真似出来る範疇である。 「というか、こんなアヤカシが居てたまるかっ」 似たような事例は無いかと事件簿を確認した所、何と、全く同一の事件が二十年近く前に起こっていた。 アヤカシを装って覗き行為に走るエロ開拓者事件、無駄志体遣いの極みと呼ばれたコレとの関連性は不明だが、当時のように突然脈絡もなくぱたっと痴漢行為が止むという期待も持てまい。 アヤカシのフリをしているコイツにお灸をすえるというか、当局からは斬り捨てても構わないと明言されている。 政府関係者や街の顔役の娘なども被害にあっており、いたずらで済む段階をとうに逸脱しているのだ。 もっともらしく、これ程すばしっこい者が暗殺などに走られては一大事、などと理由をつける程度には彼らも大人であるのだが。 男は、地下に掘っておいた隠れ家に身を潜め、静かに夜を待ち続ける。 父と母は随分長い間仲睦まじい似合いの夫婦であった。 しかし、男が十五の年を超える頃、突如菩薩のごとく優しかった母が豹変したのだ。 近所では温厚篤実で知られる父を悪し様に罵り、男と父を置いて実家に帰ってしまった。 父は、がっくりと項垂れ、ぽつりと男に零した。 「俺は‥‥母さんさえ居れば、それだけで、良かったんだ‥‥」 男は父の両肩をつかみ、力づけるように声を張り上げる。 「何を堕落した事を! 父さんは裸体を覗いてこその父さんだろう! 母さん一人にうつつを抜かすなんて変態の風上にもおけない所業! 断固として俺は抗議させてもらう!」 父は弱々しく、しかし頼もしげに男をみやる。 「ふっ、十を超えると同時に目覚めたか‥‥血は、争えぬものだ‥‥良かろう、ならばこの父が、お前にすべてを伝授してやる。だが、努努忘れるでないぞ」 「‥‥‥‥」 「我ら変質者は、真に心奪われた者の前では余りに無力! 例え万難を排する実力を身につけようと、これだけは、決して変え得ぬ定めと知れいっ! お前の前にもいずれそのような‥‥」 含むように、愉快でならないといった顔で笑う男。 「く、くっくっく‥‥それは無い、無いんだ父さん‥‥何故なら俺は‥‥」 胸をそびやかせ、誇らしげに男は宣言する。 「父さんと違って幼女好きなんだからな! はーっはっは! 決して認められぬ! 逃れられぬ! 俺は永久に、愛すべき相方を見出す事など出来はしない! 否! 出来たとしても! ものの二、三年で興味を失ってしまうだけだ!」 誰にも救えぬ嗜好が、しかし父には眩しく輝いて見える。 「そうか、そんなお前ならばこそ‥‥父が挫けたこの道を、歩みきる事も出来るやもしれんな‥‥」 その後丸一年の歳月をかけ全てを息子に叩き込んだ父は、時折手紙を送って冷却の間を図っていた妻を連れ戻す事に成功すると、息子を放置でさっさと家に戻る。 そして現在二人目がお腹の中なので、年は若いが一人立ちした息子にかかわってる暇は無いもよー。 無責任の極みである。 「俺を止める? はーっはっは! やれるものならやってみろ! 俺はただの志体持ちではないっ! 十二分に訓練された最強の変態なのだ! 俺に敗北の二字はありえん! 魂の赴くまま! 勝利し続ける限り何処何処までも覗き尽くしてくれようぞ!」 今、誇りを胸にした気高き変態と、開拓者達との壮絶な戦いが始まる。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
斎賀・東雲(ia0101)
18歳・男・陰
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
ロックオン・スナイパー(ia5405)
27歳・男・弓
此花 あやめ(ia5552)
13歳・女・弓
胡桃 楓(ia5770)
15歳・男・シ
辺理(ia8345)
19歳・女・弓
神喰 紅音(ia8826)
12歳・女・騎 |
■リプレイ本文 専用に借り受けた銭湯には並々と湯が湛えられ、湯気は呆と室内の景色を虚ろに惑わす。 ぴしゃん、ぴしゃんと天井より滴る水滴は、しかし湯殿にこんこんと絶え間なく注がれる湯の音にかき消され、時折その存在感を来訪者のうなじなどに主張するのみである。 「ひゃっ」 暖かい湯気に囲まれた中で、肩口に不意に降り注いだ水滴に驚いた神町・桜(ia0020)は、大慌てで周囲を見渡す。 怪しい気配も無く、ただの滴であったとわかり安堵と共に、湯桶を手にする。 まだ女というのは幼すぎる体躯とおどけない表情。 今回りに居るのは見知った同姓の者ばかりだというのに、恐る恐るといった風情で胸元を手拭いにて隠している。 熟れる前の青さと称するのは浅はかが過ぎる。 小さい、ただそれだけで愛されるに値する存在であると確信出来る。 手が、足が、腿が、二の腕が、お腹周りが、手拭いで隠しきれてしまう胸元が、既に男性との違いを見せ始めている首元が、中性的でそれでいて衣服をまとわぬなら即座に女性と断じ得るほのかにくびれた腰つきが、全てが小さいのだ。 桶を握るにも、手をいっぱいに広げねばならない。 滑らないようにとてとてと歩く様も、驚く程に軽い体重ならではであろう。 よいしょっ、とばかりに湯船に入るのも、その短い足ならではの大仰な所作である。 つまり、小さければ、ただそれだけで、全てが愛おしく感じられる。それがヒトの性であり真理なのであろう。 女性らしさを主張する各部位は、確かにそれだけで男性を惹きつけ得る力が備わっていよう。 しかし、愛らしさを、美しさを主張するには、ただそれだけで語れる程、女性という分野は浅薄なものではないのだ。 先に湯船に入っていた神喰 紅音(ia8826)は、頭の上に手拭いを乗せ、手足をいっぱいに広げてゆっくりと湯に浸かっていた。 彼女もまた桜と趣を共にする幼き狩人。 幼さゆえか、それ以外の理由からか、こちらは恥らうでもなくあけっぴろげに、悠々とした佇まいである。 血流が促されるのが心地よいのか、頬を赤らめたまま上を向き、ほぅと息を吐く。 汗と滴が混じり合い、頬から顎へと伝い、くるっと喉脇をすり抜ける。 瑞々しく張りのある肌はこれを一時も止める事無く、こちらは桜より僅かに主張の大きな胸の谷間、いや、せいぜい緩やかな丘下とでもいうべきか、に吸い寄せられる。 少し釣り気味の目も、今は心地よさからか優しく伏せられており、茜色の髪がゆらゆらと揺れる湯面を漂っている。 ふと、背後の気配に気づいたのか、紅音は首を反るようにして後ろを見やる。 そうしてしまうと胸元がより見せ付けられ、逆に桜が少し赤くなってしまう。 「おー、すごっ。何か何ていうか形容しがたい凄さですねソレ」 此花 あやめ(ia5552)が桜と同じように胸元を手拭いで隠しながら姿を現す。 紅音の賛辞にも、恥ずかしそうにうつむくのみ。 彼女がこうして胸元を隠すのは、桜とは間逆の意味である。 つまり、外見年齢十三才にふさわしくない、びっくりわがまま胸囲を誇るのである、あやめは。思わず紅音が声を上げてしまうぐらい。 「ええい、お主は敵じゃな! この胸は敵じゃな!」 とか桜が発狂してあやめの胸に襲い掛かるぐらい。 「って、敵だなんて酷いよー! ボクだって好きでこんなに胸おっきくなったワケじゃ‥‥や、ちょ、くすぐった‥‥!」 やらせはせぬっ‥‥! やらせはせんぞっ‥‥! これ以上っ‥‥! 見せたりはせんっ! お前達にはっ、見せてなどっ、やらんっ‥‥! その頃、年長組である。 辺理(ia8345)は淡雪のような白い肌を静かに湯船に沈め、ほんのりと紅く染まる様を心地よさげに見守っていた。 「もう少し、私もはしゃいだ方がよろしいのでしょうか」 女性とは、女性らしさとは、そんな問いは無価値と断じられるのは、真に業深き女性の魅力を知りえた者のみであろう。 年少組など歯牙にもかけぬ豊満な肉体美は、女性の体には脂肪ではなく夢が詰まっているとする、某益荒男の言葉を裏付けるかのようではないか。 普段は自らの女性らしすぎる体と肌の白さを恥じて過分に衣服をまとうようにしているが、湯殿では生まれたままの、これが辺理の全てであるといわんばかりの豪奢な肢体を披露する。 惜しむらくは、この桃源郷ともいうべき光景を堪能しているのが、出水 真由良(ia0990)のみであるという事ぐらいか。 「はしゃぐ、ですか? いえ、辺理さんはそうして佇んだままでも充分お綺麗ですよ」 真由良が屈託なく感想を述べると、真っ白い肌が湯で染まる以上に紅くなり、何処か汗でもかいてるように水気を帯びる。 「き、綺麗って‥‥そ、そそそそういう事じゃなくって、ですね。その、ほら、今回若い子がいいって話じゃないですか」 きょとんと小首をかしげる真由良。 辺理も随分とふくよかな体に悩まされてきた口だが、彼女もまー凄い、というか凄い、というべきか凄い、と思うより先に凄い、とかくわがまますぎる程に凄い。 完成された美の女神とはかくあらん。 ふふっ、と笑いながら湯面を撫で、僅かに揺れた波紋を楽しみ、ゆっくりと掬い取って頬に当てる。 脇の下でもまた、腕が動く度新たな波を作り出し、しかしその波が、手で押し出すより優しげな厚みと共にあるのは、脇から更に内側に入った双丘の重さであろう。 これに触れうる幸運に湯は歓喜し、栄誉をより深く味わうべく真由良の周りを覆い囲むように、揺れ寄せる。 思わぬ誘惑に屈してしまいそうになった辺理は、気を取り直すべく頭をぶんぶんと横に振る。 「? 今回の目的の方は、確か幼い方がよろしいとかでしたね」 「はい、ですからわたくし、14才のフリをしようと思いまして」 穏やかな表情、物静かな仕草、これらをまったく崩さず、驚きに硬直して見せた真由良の技術をこそ賞賛すべきであろう。 「‥‥じ、じうよんさい、です、か?」 「はい、服とかもそれっぽいのを用意しましたし。後は、やっぱりあの子達みたいにはしゃいでみれば‥‥」 真由良はにっこりと、暖かき精霊の加護のように、笑みを見せる。 「はしゃいだりしなくても、辺理さんは充分お綺麗ですよ」 「え、えっと、でもその、十四才に見えないと‥‥」 「いえ、綺麗ですからぜんぜん大丈夫なんです。ん〜っ、辺理さん可愛いですわっ」 いきなり抱きついてくる真由良。 どちらも豊かで肉感的な体躯の持ち主、これらが正面より絡み合う様は、筆舌に尽くしがたかろう。 見せられんのだ! ここより先は何があろうとな! これぞ聖域! 最後の神域! 魔の領域! これより先は何人たりとも進ませぬわっっっっ! 辺理にしても真由良にしても、囮役ではなく逃げられぬよう逃げ道を塞ぐ役であったはずなのだが、不自然でない程度にはという事で一応風呂に入っていたのだ。 ある程度の陣形を考えてあった斎賀・東雲(ia0101)は、落ち着かない様子で脱衣所の更に外にある待合室にて、うろうろと歩き回っている。 「覗きは浪漫やねん。俺も覗きに参加したいねんけど‥‥」 ぽんと後ろから肩をたたくのは、同じく待ち伏せ組であるロックオン・スナイパー(ia5405)だ。 「わかる、わかっているさ。依頼さえなければ、俺も同じ気持ちだ」 各種属性を取り揃えた、遥か遠き理想郷を目の前にして、どうして猛る心を静められようか。 番台のあんちゃんは、記帳に目を落としながらぼそっと呟く。 「旦那方、幾ら口を動かしたって‥‥裸体は寄っては来やせんぜ」 ずがーんと雷に打たれたかのように硬直する東雲とロックオン。 「男には二種類居やす。もちろん出来る男と出来ない男じゃない。やる男とやらない男、ですよ」 こんな挑発を、黙って聞き流せる程人間が出来てはいない。 東雲は番台の座る高い座席の側に立つ。 「待ってるだけじゃアカンってか」 「‥‥そう言い返せる旦那なら、答えはもうわかってらっしゃるでしょう」 同じく側に歩み寄ったロックオンは、睨み付けるように宣言する。 「抜かせよ。俺は行く。お前は残る。この差がどれほどの物か、思い知らせてやる」 番台はロックオンの挑発に、無言で番台から降りてくる。 三人は、同時に笑みを見せた後、雄々しき背中を引っさげて、いざ戦場へと挑みかかる。 「なんて引っかかるとでも思ったか馬鹿っ!」 ロックオンが番台の片腕を引っつかむと、狙い済ましたかのように東雲も逆の腕を掴み押さえつけんとする。 この男の足運びが尋常のものでない事、ましてや番台ごときに為しうるようなシロモノではないと二人は気づいていたのだ。 「くっ! お前達のあのあふれ出る情熱は俺を捕らえる為の演技だったとでもいうのか!?」 焦り慌てる番台に、東雲は昂然と胸を張る。 「んな訳あるかい! アンタは男としては間違っとらん‥‥でも倫理的にはあかんねん‥‥諦めぇ!」 反対側からはロックオンが怒りに震えた声をあげる。 「愛に区別はあっても差別はダメだぜ。ただ幼女だけを偏愛するなど愚の骨頂!! 平らから膨らみかけに成長する魅力が分からん奴は、この俺様が始末するぜ!」 両腕をがっしりと抑えられていては、さしもの男も抵抗出来ぬのか忌々しげに両脇を交互ににらむ。 と、同時に、ロックオン達の騒ぐ声が聞こえたのか、風呂の中の女達も駆け出して来た。 「何っ!? もう出たの!」 「くっ! 抜かったわ!」 「おーっし商売開始ー」 「えーっと呪縛符は‥‥」 大急ぎで飛び出してきた女性陣。捕り物の場所が脱衣所でだったので、声が聞こえる程に、すぐに駆けつけられる程に近くであったのが幸運であった(災いした?)。 全員当然、というか、手拭いすらほっぽりだす程に慌てている。これぞ千載一遇、ひたすらに恋焦がれた幻想郷の最深部。 男三人は現状を忘れ、気合の声と共に返礼を返す。 『ごちっ!』 風呂桶やら椅子やら歪んだ力やらあらあらという声やら金払えーとかぬかす幼女やらと大層賑やかであったが、男性陣はとにもかくにも一時避難とばかりに脱衣所を飛び出して行った。 アホすぎる話だが、これで男に対し隙が出来てしまったのは仕方が無い事だろう。 待合室から更に外へと抜ける道は東雲が塞いだのだが、捕まえようと飛び掛ったロックオンをひらりとかわして男は天井へと飛び上がる。 更に、天井に張り付いたかと思うと、天井の板を蹴り外して奥へ逃げようとしたのだ。 中空にてほんの数瞬の出来事。正に電光石火の所業にロックオンも東雲も反応出来ず。 「ま、間に合いましたぁ」 大き目の手拭い(体拭いとでもいうべきか)で全身を覆った辺理が、天井裏にて弓を構えていた。 天井裏中に仕掛けられた罠の数々も、男は一瞬で見切る。彼ならばこれらの罠を突破する事も可能であったろう。 しかし、同時に存在する辺理の存在がこれを阻害する。 この状況を打破するには何より先に辺理の駆除が必須であるのだ。 そこで僅かにだが躊躇した隙に、辺理は矢を放ち屋根裏から男を叩き落す事に成功する。 「やっぱり十四才への変装はうまくいったようですっ」 天井から落下しながら、男は全身全霊を込めてこの言葉を否定した。 「ふざけるなっ! このっ! この俺が幼女を見間違うとでも思うてか! いやさそもそも年齢を見間違う男など‥‥変態の風上にもおけぬわっ!」 受身をすら放棄しての主張。 ロックオンと東雲はそのあまりの男らしさに思わず涙しそうになるが、天井上ではまるで別の意味で辺理が泣きそうになっていた。 どうやら彼女、本気で誤魔化せるつもりだったもよー。 その頃にはようやく着替えを終えた女性陣が待合室にたどり着く。 そこから先は、文章にするのも申し訳ないほど一方的な惨劇であった。 辺理がドへこみしていたのと、先のらっきーすけべなる出来事が女性陣の逆鱗に触れた模様。 全てが終わり、ふるもっこにされた男の隣で、ロックオンが弱弱しく主張する。 「‥‥よー、何で俺まで縛られてんだ?」 東雲もまたうんうんとうなづく。 「いやホンマ意味わからんて。というかさっさと解かんかいっ」 ふんっと桜が鼻を鳴らす。 「これから再びゆっくりと湯を楽しむのじゃっ。お主らはそこでおとなしくしておれ」 許さん! と立ち上がろうとする男二人の前で、紅音がちょこんと膝を折る。 「私を覗かせてあげますからお金払うというのはどうです?」 ロックオンは縛られたままで、誇らしげに胸をそびやかす。 「馬鹿を言え、金で買えないからこそ覗きは価値があるのだっ!」 うんうんと頷くは東雲である。 「馬鹿なんは間違いなくお前の方やけどな。そういう事やから紅音も大人しく俺等に覗かれんかい」 「ん、わかった」 にこっと笑った紅音の踵が、男二人の愉快な部位へと振り下ろされた。 ちなみに覗きを繰り返して来た男は連行され、その後の消息は開拓者達にすらわからなかった。 何でも、ありとあらゆる責め苦を負わせた後、最も惨たらしい死に様を晒させる予定であったのだが、役人達に引き渡した後、数日もせぬ内に逃げられてしまったらしい。 しかしロックオンと東雲の二人だけは、彼がその後も元気で再び特訓を重ねていると知っていた。 二人のみに送られた文には一文が添えられているだけであったが、それだけで、二人には充分であったのだ。 『我、未だ変態道の半ばなり』 |