|
■オープニング本文 月明かりすら差し込まぬ漆黒の闇の中、男は振り上げた刀を無造作に振り下ろす。 一度、二度、三度‥‥ 完全に原形をとどめぬようになった遺骸、その顔であった部位を男は見下ろし、そして周囲を見渡す。 「文吉」 「へ、へいっ」 「桔梗」 「は、ははははいっ」 「宗雄」 「はいっ!」 「‥‥見える、か?」 三人は闇の中で一斉に首を横に振る。 「そうか‥‥」 安堵したように呟き、闇の中真っ黒な装束に身を包んだ男、弦耶は廃屋の奥へと引っ込んで行った。 「片付けておけ」 文吉、桔梗、宗雄の三人は弦耶が去ったのを確認した後、ようやく灯りを付けて惨状を確認する。 暗闇の中にありながら、弦耶の刀は正確に被害者を捉えており、ただの一刀も外した一撃は無かった。 かつて仲間であったその遺骸を片付けながら、三人は弦耶からは決して逃れられぬと改めて理解するのであった。 夜襲を得意とする強盗が出没すると聞いて、役人達が出張って来たのだが、これに慌てたのは豪商、寛治であった。 彼の娘は桔梗という名で、若い頃から悪い奴等とばかり一緒におり、堪忍袋の尾が切れた豪商により勘当されていた。 しかし、遂に桔梗は盗賊にまで身をやつし、周辺を荒らしまわっていると聞いて何とかこれを連れ戻そうと手配していたのだ。 勘当したとはいえ実の娘、思う所が無いではないが、今の彼は百人近い従業員を抱える大店の主。 情に流されここでの決断は誤れない。 大店の娘が盗賊をやっているなどと、そんな噂が流れた日には取引先の信頼を失ってしまう。 その際被るであろう損害は、半数の従業員をクビにでもしなければ追いつくまい。 彼らは皆、手塩にかけて育てた寛治の大切な財産である。それを我が子可愛さに天秤に載せるような真似は出来ない。 かといってヤクザ者とは無縁であるよう心がけて商売を続けて来た寛治は、こういった時頼れるアテが無い。 正規のルートである開拓者ギルドでは、退治ではなく逮捕になってしまうかもしれないし、それでは困るのだ。 寛治は信のおける者に相談を持ちかけると、開拓者ギルドを通さず開拓者を雇うルートを紹介された。 その裏の係員とも言うべき男に寛治は感情を表に出さぬまま告げる。 「娘は最初から居なかったものと思う事にします」 「よろしい。ならば全てこちらにお任せを」 係員は慎重に弦耶一党の調査を進め、彼等が情報を得ていると思しき人間を見つけ出す。 彼に金の輸送情報を漏らし、おびき寄せた上で蹴散らすという作戦だ。 開拓者達には商人を装って荷馬車を引き、山道を越えてもらう。 これは一度しか使えぬ手であり、確実にここで決着を着けるようにと念を押される。 「弦耶以外の人相書きは揃えました。弦耶は黒い帷子を着込んでいるそうなので、すぐにそれとわかるでしょう。くれぐれも賊は一人残らず殺害する事。よろしくお願いしますよみなさん」 寛治は強盗団の犠牲になった者達の墓を前に、涙ながらに崩れ落ちる。 他に誰も居ないのは確認してある。 だから誰憚る事なく、我が子の犯した罪を嘆き、悲しむ事が出来るのだった。 |
■参加者一覧
シュラハトリア・M(ia0352)
10歳・女・陰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
犬神 狛(ia2995)
26歳・男・サ
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
五十君 晴臣(ib1730)
21歳・男・陰 |
■リプレイ本文 五十君 晴臣(ib1730)は御者席にて、馬車をかっぽかっぽと進めている。 荷馬車の中には依頼主より必勝を期す為と、それなりに価値のある積荷を載せている。 必要なら燃やしてしまっても一向に構わん、だそうで。 「豪気な事だね」 家族が犯罪者であるという雇い主の状況は、晴臣にも経験のある事だ。 今回の件は身につまされる話である。 御者席の隣に座っている野乃原・那美(ia5377)は、賊の襲撃あるが確定しているというのに、あどけない顔で寝息を立てている。 神経が太いというか、何というか。 夜半過ぎ、荷馬車が林の中を通り抜ける道に差し掛かった時、微かに、人の足が大地を蹴る音が聞こえた。 襲撃あるを予測している開拓者が、これを聞き逃すはずがない。 一飛びにて御者台の上まで飛んだ脚力は見るべきものがあったが、姿を現してから一直線のみの動きであったのはいただけない。 那美は御者台の下に忍ばせてあった胡蝶刀を抜き、晴臣を狙った斬撃を弾く。 同時に変装用にまとっていて商人娘の衣服を脱ぎ放ち、襲撃者の視界を覆うように投げかける。 その中心部に胡蝶刀を突き立てるが、これは空振りに終わる。 「あれ、かわされた?」 ひらりと後方回転をし大地に着地した男は、上から下まで黒づくめで、帷子を着込んでいた。 男はすぐに林の中に隠れ潜む。 「むう。雫さん、位置確認よろしく♪」 荷馬車の側面を歩き、この護衛をしていた犬神 狛(ia2995)とオラース・カノーヴァ(ib0141)にも敵が襲い掛かって来る。 二人の男女が殺到してくるのを見て、狛は片腕を荷馬車の荷台に突っ込む。 中にあった狛の半分程の大きさがある木箱を掴むと、練力を腕に走らせる。 みきっと音を立て木箱の端がへこむ程の力が込められ、狛は木箱を片手で持ち上げるとただ力任せに襲撃者目掛けてぶん投げた。 倒すではなく足止め目的の木箱投擲に、襲撃者二人はたたらを踏んで踏み込みを止める。 オラースは狛の機転に感心しつつ、得た好機を最大限に活かせる術、ブリザーストームを撃ち放つ。 これで初撃は無傷で凌ぎきった。 今度はこちらが攻める番だ。 オラースは後ろ手に荷台をこんと叩く。 「敵巫女は二人の更に奥、林の中だ。回り込むのが良いだろうな」 了解だよ、と返した女の声は鬼灯 恵那(ia6686)のものである。 荷台の裏から飛び降り、恵那は正面を狛に任せて自分は迂回し巫女を狙う。 よいしょっ、と可愛らしく荷台から飛び降りてくるのはシュラハトリア・M(ia0352)だ。 シュラハは少し伸び上がってオラースの手を軽く叩く。 「はいっ、たっち。こっちはシュラハにお任せだよぉ」 玲璃(ia1114)も楚々とした所作で荷台より降りて来る。 ふわりと服の裾が踊り、白を基調とした衣服の中に赤の内衣が見え隠れする。 諸事控えめで、それでいて静かな存在感があるのは、白い肌に映える艶やかな黒髪と紅玉のような瞳のせいか。 いやまあこれで男だというのが一番の理由だろうが。 一緒に居るシュラハはシュラハで、黒一色に天儀では珍しいレースのついた、可愛らしくはあるが天儀の衣服を慣れた目には奇異にしか映らぬ物を身につけている。 「実に、変わり者達だな」 オラース的には、これで褒めてるつもりであった。 護衛二人と共に道を歩いていた真亡・雫(ia0432)は、こちらも変装用の外套を脱ぎ捨てつつ、周囲の気配を探り取る。 位置を確認するなり雫は呼気を激しくかつ一瞬にて吐き出し、大地を蹴る。 大地の次は馬車の荷台、加重のかかり方に気をつければ、雫の脚力で蹴りつけても木製の荷台が砕ける事はない。 そして目的の高度に達すると、鞘を返して上より、居合いの要領で大太刀を抜き放ち、斬る。 着地音が二つと木の枝が一つ。 「‥‥夜盗、弦耶と見受けた。この白刃を持って冥道への片道、ご案内仕る」 彼が潜んでいた木の枝を斬り落とし、黒づくめの弦耶を引きずり出した雫は、長い刀身を苦にする風もなく両手に構えた。 雫の心眼に気付いた弦耶は潜むを捨て、動きにて圧倒すべく跳ぶ。 「あはは、みーつけた♪ 君の斬り心地はどんなかな♪」 頭上よりの声。 弦耶の真上にある木の枝に両足を引っ掛け、逆さになりながら短刀を振るうのは那美だ。 そちらを見もせず真横に飛ぶ弦耶。縦の斬撃であろうと踏んだ勘の良さは熟練ならではだ。 更に雫が横薙ぎの一撃。 刀を当てつつこれを逸らす。 弦耶の刀は雫の斬撃に容易く力負けするのだが、体を軟体動物のごとくくねらせ、器用に力点を外して見せたのだ。 得意の闇に潜むを奪われた弦耶は、防戦一方である。 遮蔽を取ってすら心眼にて見つけ出す雫、闇を見通す暗視を使いこなす那美が相手では、如何にも分が悪い。 「君の相手は僕なんだぞ♪ ふっふー、暗闇で目が見えるのは君だけの特権じゃないんだぞ♪」 闇の中、那美の振るう刃の銀光が閃く。 呼吸を止めての連撃。 胡蝶刀が、ダガーが、どちらとも判別つかぬ程の速度と、剣術とは一線を画す変則的な動きで弦耶を襲い、同時に雫の大太刀が闇に白き軌跡を描き、剣の術理に適った動きで一太刀づつ確実に弦耶を追い詰めていく。 見る間に弦耶は全身に傷を負っていく。 反撃も試みてはいるが、手数と火力の差は埋めようがない。 たまらず強引に戦域離脱を図る弦耶。 逃げるは真上。二人の猛攻を受けながら、それでもと逃げ道となりうる木を見つけておいたのだ。 物理法則に反したとしか思えぬ跳躍は、木の幹を蹴って枝の上に弦耶を運ぶ。 だが、相手の一人もまたシノビである。 「んっふっふ〜♪ 無理だって、自分でもわかってるでしょ?」 より以上に上へと跳んでいた那美に蹴り飛ばされるが、ギリギリでバランスを保ち次の枝へと跳ぶ。 雫は、弦耶が跳びつきにかかった枝を支える幹の前に立つ。 「無駄だ」 肩に背負うほど大きく振りかぶった太刀はただの一刀でこれを斬り倒し、斜めに割かれた木の幹は、その鋭い切り口のせいか、地面にまっすぐ突き刺さる。 再び大地へと引きずり戻された弦耶は転がりながら雫より距離を取るが、立ち上がった瞬間、全ての終わりを確信する。 「捉えたのだ♪」 弦耶の真後ろより那美が首に片腕を回して動きを抑え込む。 同時に、帷子の隙間に短刀を突き刺す。 「ああん♪ この肉の感触、これがたまらない♪」 眼前には精霊の力を帯び、光輝く太刀が迫る。 微かに匂う梅の香りは弦耶にとってはどうでもよく、そんな事よりも、自分の最後となるだろう一撃がこんなにも眩しい光と共にある事が、ただただ不快でならなかった。 「あははっ頑張るねぇ。ほらほら、しっかり回復しないと死んじゃうよー?」 巫女の宗雄は厚い鎧で身を守っていたせいで、恵那の斬撃を受けても即座に死ぬような事はなかった。 だから深い傷を負う度に自らを治癒し、恵那を歪め動きを止めにかかる。 だが止まらない。 恵那もまた怪我を負っているのだが、自らの損傷なぞ歯牙にもかけず、嬉々として刀を振るい続ける。 肉が裂け、血しぶきが飛び散り、それは致死量であるはずなのに、両者はまるで止まらず、止まれず、とめどなく血肉をそこらに撒き散らし続ける。 晴臣はその戦いのあまりの凄惨さに息を呑むが、それでも自らがやるべき事は忘れない。 使役する式が炎の輪を撃ち、斬撃にえぐれむき出しになった宗雄の肉を容赦なく焼き焦がす。 巫女の身でありながら、サムライの恵那と真っ向よりやりあえる術の技量と、厚い武装には見るべき所があるが、それも永らえる程度の効果しかない。 それは自分が一番良く知ってるのだろう。 宗雄は背なに大きいのをもらう覚悟で恵那に背を向け、逃げ出したのだ。 巫女の役割も果たさず仲間を見捨てて。 恵那の攻撃範囲から外れると、重い鎧を外しながら林の中を駆ける。 「そういう奴だろうと思ってたぜ」 両腕を組んで木によりかかり、宗雄に軽蔑しきった視線を投げかけているのはオラースであった。 暗い森の中、それでも宗雄はそこに人が居ると一目でわかった。 何故ならオラースの頭上に、紅蓮の炎が渦を巻いているからだ。 オラースがよりかかっている木の上半分は、既に燃え尽き煤と化している。 「巫女だし火のつきは悪いだろうが、これだけあれば充分だろう。足掻いて見せな、宗雄クン」 炎の柱はオラースの声に被さるように宗雄へと襲い掛かる。 避けるも何もない。 一瞬で全周を取り囲まれ、竜巻の様に渦を巻いた炎は天をも貫く勢いで伸び上がる。 吹き荒れる熱風は一瞬ごとに宗雄の表皮をただの煤へと変えていき、それは外気に触れている体表面全てに及んだ。 術が終わり、闇が再び周囲を包んでも、宗雄は立ち尽くしたまま動けずに居る。 「チッ、生焼けだぜ」 そんな宗雄の頭上に、またも炎が現れる。 輪となった炎は宗雄を取り囲み回転しながら降り注ぐ。 上から下へと。 宗雄の周囲を回る炎は、じっくりと丹念に焼け跡を残しながら、足元まで降りた所で消えてなくなった。 「これできっちり丸焼けだよ」 姿を現した晴臣がそう告げると、オラースは少し目を見開いた後、くすりと笑った。 「あれ、終わっちゃったの?」 まだ、宗雄には息があった。 それでも、更に現れた返り血塗れの恵那の姿を見て、残る練力を用いて自らを治癒しようという気にはなれなかった。 恵那は治癒するまで待とうか、などと言い出し、オラースも同意しそうな勢いであったのだが、晴臣は他の仲間が気になるのと、それ以上にこんな悪党にも哀れを覚えた事から恵那にトドメを促す。 「‥‥嫌だ、死にたく、ない」 「だから、死んじゃうんだよ」 晴臣に気を使ったのか、既に満足出来る程斬った後なのか、恵那は一刀で決めてやった。 狛は足止めに徹していても良かったのだが、後ろからの援護があまりに頼もしすぎるので、動かずにはいられなかった。 巫女の舞二種、そして怪我が重なってくると、すぐに飛んで来る治癒。 更に、二人の敵には呪縛の符術がかけられているのだ。 これでどうやって負けろというのか。 二体一の斬り合いが、こんなにも楽だったのはもしかしたら初めてかもしれない。 むしろ如何に斬るかより、どうやって逃げられないようにするかに心を砕いた。 剣を交わしていれば、相手の考える事はなんとなくだか見えてくる。 男は女をダシにして逃げる手は無いかと探り、女は男を盾に逃げる算段を考えている。 「‥‥救えぬ話じゃな」 シュラハはとても楽しそうに男、文吉に攻撃を集中している。 「ほらほらぁ、女の子の前でみっともない格好晒す気分はどぉかなぁ?」 狛が目線で玲璃に合図を送ると、戦場の流れを細部まで見通していた玲璃は即座に頷く。 ならば良しと、狛もまた文吉に攻撃を集中させ始める。 狛の背後より斬撃を伴う符が放たれ、側面を回り込むようにしながら文吉を斬り裂く。 その痛みに思わず跳ねる文吉の体。 右の刀を牽制に見せると、文吉は痛みのせいか反応が遅れる。 この速度で受けては当然残る左の刀には全くの無防備。 刀身が赤い飛沫に包まれる。 まるで別の生き物のように動く狛の右と左。 動きは見切れぬと悟った文吉は、とにかく正中線を守り、急所への一撃だけは避けて少しでも生きながらえようと足掻く。 「愚かな‥‥」 その分、部位が甘くなる。 こちらの剣の動きを、例え出来ずとも読もうとするからこそ反応出来るのだ。 それをすら放棄したら、後は好きに動かれるのみ。 狛はそんな隙を見逃してやる程甘い男ではない。 二筋の銀光がひらめき、文吉の両腕が宙を舞う。 足は無事だが、この怪我では動く事も出来まい。 懐より取り出した白片を刀に沿わせて血糊をふき取り、戦いは終わったとこれを吹く風に乗せ流す。 文句つけようのない勝利だったが、肌をなでる夜風の心地よさをもってしても、狛の心に残る気分の悪さを消し去る事は出来なかった。 桔梗は文吉に攻撃が集中したのをこれ幸いと、この場より逃げ出してしまった。 頼りの弦耶も二人の強敵を相手に苦戦中、残る理由など何処にも無い。 その先に、何時の間にか回り込んでいた玲璃が居た。 巫女ごときがと斬りかかる桔梗。 これを杖にて受け止めると、玲璃はくるりと杖を半回転させ刀を弾く。 予想だにしない動きの良さに、桔梗は無様にしりもちをついてしまう。 「さあ質問です。死ぬほど苦しい目に遭って死ぬのと、無事に余生を過ごすのとでは、前者でいいですよね?」 既にかなりの怪我を負っている手負いの志士と歴戦の巫女。 例え巫女が攻撃術を用意していなかったとしても、勝敗は明らかであった。 剣の才があると幼い頃より将来を期待されていた女は、護身程度に修めている巫女の杖に撃ち殺される未来など、きっと想像すらしていなかっただろう。 地に膝をつく文吉は、両腕を失いながら尚、生を諦めてはいなかった。 「た、頼む! 命だけは! 命だけは助けてくれ! 二度とこんな真似はしない! 元々弦耶にはついていけないと思って‥‥」 そんな文吉の前に、シュラハが歩み寄る。 膝を落としているので、小さいシュラハともちょうど目線の位置が合う高さになっている。 「ダメだよぉ。ねっ、がんばって、立ち上がらないとぉ‥‥」 文吉の両頬にゆっくりと両手を這わせる。 「立って、あなたの、銀の刃で‥‥」 文吉の地についた膝から、ドス黒い瘴気と共に無数の腕が這い寄ってくる。 「シュラハのぉ、大切な、大切なぁ‥‥」 文吉が気付いた時には既に、足は完全に黒に覆われ、徐々に、徐々に這い上がり、下腹部から更に胸元へと。 「ピンク色の心をぉ、貫いて‥‥」 首元に、冷たい、それでいて刺すような熱を帯びた黒い腕が辿り着いた所で、文吉の精神は限界を迎える。 「‥‥ふふっ、やっぱり無理だったねぇ‥‥」 絶叫と共に、文吉の心の臓はその動きを停止した。 墓は、立ててやった。 どうしようもない胸糞の悪くなる相手であり、男性陣は皆気分の悪そうな顔をしていたのだが、恵那、那美、シュラハの三人娘は上機嫌で会話に花を咲かせている。 綺麗どころ揃い踏み(注:二人の男の娘は別ジャンル)であるが、正直、あの会話に混ざれる自信は誰もがもてなかった。 狛は遺品を手に、しかし戦闘の経緯や娘がどんなだったかは決して伝えないと心に決めていた。 晴臣は表情が優れぬまま。 「‥‥同じ立場になったら、私も殺してくれと言えるのかな」 オラースは飄々とした態度を崩さぬまま、平然と答える。 「重要なのは、殺すか助けるか、どちらをお前が選ぶかだ。後は‥‥」 こんと晴臣の胸を突く。 「お前がその選択を信じてやればいい。それだけの事だろ」 |