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■オープニング本文 痩躯長身の翔が比較的小柄な部類に入る哲平と会話をしようとすると、どうしても見下ろす形になってしまう。 哲平はそれがお気に召さないのか、時々恨むような目つきで翔をなじる。 少し困った顔でこれを宥めるのが翔の役割。 人に頭を下げる事を嫌い、気に入らない事があるとすぐに怒り出す哲平と、それをフォローする翔という役割は子供の頃からのものだ。 二人は抜け忍であった。 哲平が任務に失敗し、命を絶つしか道は無いとなった時、翔が必死にこれを説得し、共に逃げる道を選んだのだ。 その負い目からか、元々元気で生意気の塊のような哲平が、時折見せる翔に対する遠慮したような態度に、翔はどうしようもない寂しさを感じるのだ。 開拓者達は、依頼を受けてとある山を踏破していた。 アヤカシが出没するこの山を越えてくれというもので、依頼人は商取引を中止する旨をどうしても先方に急ぎ伝えなければならないため、無理をしてでも山を越える必要があったのだ。 この山には多数のアヤカシが無秩序に存在するらしい。 それら雑兵を潜り抜けても、運悪く山の主と呼ばれるアヤカシと出会ってしまえば終わりだ。 ならばいっそ主をすら倒しうる猛者に頼むしかないと、依頼人である商人は大事な手紙を開拓者に託した。 あばら家で休息を取る翔と哲平。 日の当たる場所に出られなくなって随分と経つが、翔はそれでも、今の自分を幸福だと断言出来る。 囲炉裏の側で丸くなって眠る哲平。 その体に布をかけ、風邪を引かないようにしてやる。 抜け忍の苦しみなぞ欠片も感じさせぬ、無邪気な様で眠る哲平をじっと見つめる。 ゆっくりと、顔が近づく。 頬の張りが見える程に、睫毛の数がわかる程に、うなじの生え際に触れる程に、唇が‥‥ むにっ。 翔は哲平の頬を軽く人差し指で押す。 「ん〜」 少し顔を動かした後、やはり眠ったままの哲平を置いて、自分も横になる。 「まったく、人の気も知らないでコイツは」 やはり自分は限りない幸福の中にある。そう確信出来る翔であった。 山頂を超え、山の中ほどまで下ったとある小屋で開拓者達は小休止。 ここまで何度かアヤカシは出てきたが、大した相手でもなく、また二体、三体ずつだったのでロクに怪我も負わぬまま辿り付けた。 しかしここから先が本番だ。 山を覆う森も深くなり、何より、主と呼ばれるアヤカシの住む領域を超えなければならないのだから。 不意に気配を感じた開拓者達は小屋の外に飛び出す。 アヤカシかと思えた影は、二人組みの男であった。 小柄な男が、長身の男を背負っている。 長身の男は意識が無いのか、ぐったりと背によりかかっており、小柄な男は信じられぬといった顔で開拓者達を見た後、顔中をくしゃくしゃにして懇願し始めた。 「頼む! 助けてくれ! 翔が‥‥翔が死んじまうんだよ! チクショウ! 血が止まらねんだ!」 小柄な男は哲平、背負った長身の男は翔というらしい。 アヤカシの山とも知らずに越えようとして襲われ、必死に逃げ回ってここまで辿りついたらしい。 距離的に、山を戻らせるのも難しい。 人一人背負ったまま再度山頂を越えて麓までとなれば、哲平の小柄な体躯では厳しいだろうし、そもそもアヤカシに襲われたらそれで終わりだ。 しかし、では連れて行くというのもまた安易に引き受けられる事ではない。 開拓者達も命賭けの仕事の真っ最中であり、翔を背負う哲平を連れた日には間違いなく行軍速度は落ち、敵との遭遇率も上がる事になるであろうから。 |
■参加者一覧
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
レイラン(ia9966)
17歳・女・騎
藍・小麗(ib0170)
15歳・女・泰
ブリジット(ib0407)
20歳・女・騎
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 「頼む! 助けてくれ! 翔が‥‥翔が死んじまうんだよ! チクショウ! 血が止まらねんだ!」 小休止中の小屋に現れたのは、小柄な青年と背負われた怪我人。 緋神 那蝣竪(ib0462)は目を丸くする。 「驚いた‥‥この山に私達以外の人がいたなんて」 しかし、その後の行動は早い。 周囲にアヤカシが居ないのを確認した後、小屋に招き入れ、怪我人の治療を始める。 二人は哲平と翔と名乗った。 皆の様子を見た霧崎 灯華(ia1054)は、小さく嘆息した後、治癒符にて翔の怪我を治してやる。 後はブリジット(ib0407)が引継ぎ、止血と簡単な手当てを施す。 その間、哲平はじっと作業を見守り続けている。 那蝣竪はそんな哲平の手を引く。 「え?」 「貴方の方は、大丈夫? 小さな傷でも、バカにできないんだから、ちゃんと見せて?」 「俺なんかより翔を!」 「そっちは任せて大丈夫。いいから、ほらっ」 そう言うと強引に哲平の手当てを始める。 治療のおかげか、翔の呼吸が落ち着いてくると、ようやく哲平も落ち着きを取り戻す。 レイラン(ia9966)は、一呼吸置いた後、自分達の状況を哲平に説明する。 急ぎの依頼を受け山を越えている最中である事、その為最短距離、つまり山の主であるアヤカシの居住地域を通る事、それは危険が伴う道行であろう事。 哲平は即答する。 「だ、だったら邪魔にならないようにするから俺達も連れていってくれ! 俺はどうなってもいいけど、アヤカシだらけの中になんて居たら翔が死んじまう!」 「こっらの依頼にゃ、無関係ですな」 特に表情を変えず口を開いたのは風鬼(ia5399)だ。 驚いた藍・小麗(ib0170)が口を挟んでくる。 「見捨てる気?」 飄々とした口調で風鬼は続ける。 「逆で。無関係な人を見殺しなんて仕事は自慢になりません。商売人にとっても」 哲平と目を合わせる事もなく淡々と告げる。 「出会っちまったものは事故、不可抗力です。嵐が来てもやらにゃ、怪我人拾ってもやらにゃ、てなもんで」 ぽんと手を叩く朱麓(ia8390)。 「よし、それなら翔はあたしが背負って行ってくよ。急ぎだし、その方がいいだろ」 メグレズ・ファウンテン(ia9696)は大きく頷いた。 「依頼も果たす。お二人も助ける。両方行う場合アヤカシとの戦闘は最小限に抑えた方がよさそうですね」 那蝣竪は荷物を担ぎあげながら出立の準備を行なう。 「なら私が哲平さんにつくわ。戦闘になったらきみは防御に徹していてね」 付き合うよ、と小麗もこれに続く。 恩にきると頭を上げる哲平。 意識の戻らぬ翔を背負った朱麓は、両手が自由になるよう紐でこれを縛り固定する。 「暫くの間辛いかもしれんが文句は受け付けんぞ、っと」 風鬼の超越感覚は、索敵能力に特に優れる。 おかげで五匹前後の集団を作る狼アヤカシを、数度物陰に隠れてやりすごせた。 一行の中で、一番足が遅れがちなのは哲平であった。 それまで翔を抱えて走り回っていたのだろうし、怪我もある。 それに志体を持つ者達と同じ速度で山道を移動するのは厳しいのだろう。 翔を抱えている朱麓はというと、こちらはまだ余裕がある模様。 自分から言い出した意地もあるのだろうが。 灯華は遅れそうになる哲平に、冷ややかな視線を送る。 「子供の遠足じゃないんだから、だらだら進むなんてごめんよ」 むっとした顔で哲平は早足に追いついてくる。彼もまた意地を張るぐらいの余力は残っているらしい。 山の主の領域に入って程なくした頃、風鬼がそっと口を開く。 「包囲されました。あとは一気に降りられますぜ」 総勢十五匹、更に中級らしき不自然に木々が揺れる音ありと加えると、襲撃まで間があるので、朱麓は手早く紐を外し、哲平が背負った翔を抱える。 灯華はナイフを抜き放つ。 「さて、お客さんのお出ましよ」 隊の先頭を行くブリジットが右側面に向け槍を斜めに構える。 その槍の柄に、人型アヤカシの飛び蹴りが叩き込まれたのが開戦の合図となった。 激しくしなる槍の反動を利用し、再び宙を舞い飛びのくアヤカシ。 恐るべきバランス感覚である。 動く事のない木々のみではなく、人の操る槍をすら自らの足場とするなどと、それこそ人の身に可能な技とは思えない。 再び木を蹴ってブリジットへと迫る人型アヤカシ。 同じ手をと槍を構えるブリジットだったが、今度は槍を足場に、逆の足でブリジットの側頭部を蹴り飛ばした。 どうやらこのアヤカシ、空中姿勢を自在に操り、千変万化の空中戦を行なうらしい。 危うく転倒しそうになる所を、足を伸ばして堪え、苦痛に目を細めながら槍を突き出す。 着地と同時に人型アヤカシは大地を蹴ってこれをかわす。 その飛ぶ軌跡を追うように風鬼の風魔手裏剣が走る。 「跳ね返りを見切って下せえ」 メグレズは最後方、殿に位置し、同時に飛び掛ってくる二匹と相対する。 刀閃がひらめき、狼アヤカシの口元を深く薙ぐが、常のケモノと違う狼アヤカシはそれだけでは止まらず。 狼は抑えつけんと前足を伸ばす。スパイクシールドにて伸びた爪ごと受け流す。 首元目掛けて噛み付きかかる。肩で口を強打し、牙は鎧で弾く。 そして二匹の影に隠れて足元に噛み付こうとしていたもう一匹。 ほんの僅か足を引くと、アヤカシが狙う足首ではなく鎧の厚い脛に牙が突き立つ。当然通らぬ。 その重心の安定感はどうだ。 充分な助走と共に全体重を預ける勢いで飛び掛って来る三匹。 その全てを受け止め、揺れる気配すら無いではないか。 挙動も乱れず、不動の姿勢で再び襲い来る狼アヤカシを迎え撃つ。 更に数を増やし、次は四匹の同時攻撃。 全てに対し的確な防御姿勢を取りつつ、先程斬りつけ怪我を負った一匹を見極める。 下方より斬り上がり、顎を真っ二つに更にその上を抜き、頭部を完全に斬り砕くと、早速一匹目をしとめる。 「なかなか、思うようにはいきませんね」 メグレズの腕と足にずきりと打撲の痛みが走る。流石に全ての攻撃を無効化はしきれなかったのだ。 灯華は舌打ちを禁じえない。 皆良くやっているとは思うが、敵の数が多すぎるのと、中級の動きが良すぎるせいでか前衛後衛の区分が上手く機能していないのだ。 ブリジットと風鬼の二人で中級を抑えており、後ろはメグレズが支えている。 だが、狼の俊敏さでこうもあちらこちらに駆け回られては、陣形を維持するのも難しい。 哲平と翔には朱麓、小麗、那蝣竪が張り付いているので、容易く抜かれるとは思わないが、残るレイランのみで灯華を守るといってもそう上手くはいくまい。 しかも灯華は今回、回復役を行なわなければならず、下手に練力は消費出来ない。 危機、ではあるのだが、飛びかかる狼の肩にナイフを突き立てつつ、灯華は不敵に笑う。 「たまにはこういう縛りもいいわね」 ギリギリで攻撃をかわすと、がちりと耳のすぐ側で牙をかみ合わせる音がする。 くるっと身を翻し、ナイフを抜きざまその首元を腕で捉え押さえつける。 狼は爪で引っかき抗うも、この位置ではかすり傷しか付かぬ。 逆手に持ったナイフを、一撃、目と目の間に、二撃、脳を上から貫くように。 押さえつけた腕を放すと、狼は力なくその場に崩れ落ちた。 朱麓は踏み込みつつ刀を振り下ろし、飛び上がって襲い来る狼を強引に地面へと叩き伏せる。 と、僅かに遅れて別の狼が朱麓の首を食い千切らんと狙い来る。 これに対し、何と朱麓は鼻っ面に頭突きをくれて追い返す。 おっそろしい事を平然とやってのけた朱麓は、息つく暇もなく自らの首横に引いた腕を振るい、手裏剣を放つ。 哲平に狙いを定めていた狼は、この一撃で大きく後退する。 小麗は、この小憎らしい狼どもに手を焼いていた。 翔を守るように立つ哲平を組し易しと見たのか、数匹がこれに狙いを定めて襲い掛かってきたのだ。 那蝣竪と二人で直衛に入っているが、手が足りるかどうかはギリギリの所だ。 かといって朱麓までこちらに来て、朱麓が相手している分まで哲平を狙いだしたらもう手に負えなくなる。 唐突に、足を交差させつつ一歩を踏み出す小麗。 その姿勢で全身の力を小さくまとめ、一気に放つとただの一歩で彼方までかっとんで移動する。 ちょうど哲平へと飛び掛ってきた狼の真横に飛び込む形。 タイミングは合わせたつもりなのだが、僅かにズレた。この位置では拳は間合いが近い。 「なら肘っ!」 飛ぶ勢いを乗せきった肘打ちは狼の首後ろ、柔い位置を直撃する。 着地した小麗の真横を、別の狼が駆け抜ける。狙いは当然哲平だ。 この後ろ足を、姿勢を低く腕を鉈のように振り回して払う。 闇雲に放ったのではなく、相手の重心が後ろ足にかかりきる直前、蹴り上げた足が大地につく寸前を払ったのだ。 派手に転倒し、ごろごろと転がる狼アヤカシ。 那蝣竪は哲平の眼前に迫る狼の牙を、他に手は無しと自らの腕を突き出して防ぐ。 深々と突き刺さる牙、跳ねた血潮が哲平へと降りかかる。 もう何度も、皆がギリギリで哲平を守るのを見て、哲平は半泣きの顔である。 「もういいっ! 俺は翔さえ助かればそれでいいんだ! だから無理してまで俺を守らなくたっていいって!」 那蝣竪は撃針を直接狼に突き刺し、腕を引きはがしながら怒鳴り返す。 「馬鹿っ! 絶対、二人一緒に助かるのよ! ここまできて諦めたりなんか、許さないんだからね!」 飛ぶように離れ距離を取る狼に、シノビの投擲術にて手裏剣を投げつける。 当たったというより、刺さったというより、急に生えたという形容が最も相応しい。 手元すら見えぬ程の素早さで放たれた手裏剣は、命中の反動すら与えず狼の後頭部に半ばまでを埋め、狼は数歩駆けた後、かくんと倒れた。 「大丈夫よ。後少し頑張れば、形勢は一気に傾く」 レイランは鈍い銀色の輝きを放ち、まるで防御など考えぬ踏み込みで剣を振るう。 襲い来る狼達の攻撃は、厚い鎧と体力に任せて耐えきると腹をくくっているのだ。 尚も懐に入り込んできた狼、肩口に喰らい付くこの喉元に、下からダガーを突き刺す。 と、何かに気付いたレイランは猛然と駆け出した。 追いすがってくる狼は、この左足に噛み付いてくる。 ちょうど左足を振り上げようとしていたレイランは、噛み付いた狼ごと足を強引に振り上げる。 「間に合えっ!」 駆け寄った勢いを足に乗せ、蹴りつけたのは狼でも人型でもない、ただの木である。 しかしこれは、レイランが蹴り飛ばした瞬間だけはただの木ではなかった。 そう、人型アヤカシが足場とする木であったのだ。 予想外にしなる木に、人型アヤカシは木に着地したままバランスを崩す。 「陰の流・黒蚯蚓」 好機を見逃さぬ風鬼、その影が不自然に伸び、絡むように人型を捉える。 それでも人型は、両足を揃えてしなる木に合わせて飛び出し、ブリジットに襲い掛かる。 しかし、二人が僅かな間でも木上に留まらせてくれたおかげで、飛ぶ方向とタイミングは読みきれた。 空中にて身をよじる技は健在、ならばこれすらかわされるかもしれない。 それでもと左手に柄尻を持ち前に突き出し、柄の半ばを右手に持ち穂先を真後ろに向ける。 下げた右足が大地を蹴る。 槍は唸りを上げ、振られる勢いのみでしなりながら大気を斬り裂く。 人型は空中にて体を捻るも、レイランの蹴りで揺れる木を飛び出し、風鬼の術にて間を外されたせいで、下手に動くと失速してしまう事から、思うように回避行動は取れず。 強烈な一撃をその身に受け、地に倒れ伏す。 飛んで逃げたい場面であるが、影に縛られた人型は行動を制されており逃げる事すらままならぬ。 そこにブリジットの突きが刺さり、さんざ手こずらせてくれた人型は息絶えるのであった。 戦闘において、特に護衛対象が居て、護衛の数以上の敵にたかられている時、一番キツイのは最初期と、こちらの陣形に対応した形で攻撃をしてくる中盤である。 これを乗り切ってしまえば、後は何とかなるもので。 組織的な攻撃も以後は無く、風鬼の超越聴覚大活躍で一気に山を降りる。 街に辿り着くと、皆翔の容態が気にかかっているようなので、灯華は小さく嘆息しつつ商人への手紙は引き受けるからさっさと落ち着ける場所探して来いと皆を放り出す。 灯華が商人に手紙を届けると、彼は真っ青な顔になって部下を走らせる。 何でも材木が大幅な値崩れ起こしたそうで、大至急材木の伐採をストップしなければならないそうな。 結構な人数を動かしている事もあり、一日知らせが遅れただけでもかなりの損害額が出るらしい。 商人も大変ねぇと、わたわた走り回る商人とその部下達を見ながら、灯華は他人事のように呟いた。 事情を話すと、とある寺が善意で翔を引き受けてくれる事になった。 メグレズが声をかけた坊さんは、一人二人程度ならどうとでもなるわいとからから笑ったものである。 落ち着いた寝床を確保したおかげか、翔は意識を取り戻す。 哲平は安堵のあまり腰が抜けてしまい、仕方なくレイランが状況を説明する。 小麗は別に悪意があるわけではなく、むしろ良い事だと思い口を挟んだ。 「もう今にも泣き出しそうな顔で小屋に駆け込んで来てね」 突然哲平の抜けた腰がはまる。 「ばっ! バカっ! お前何言ってんだよ!」 ブリジットもその時の事を思い出したのか、相貌を崩す。 「必死に翔を助けてくれと言っていたよ。自分はいいからとにかく翔をと」 「い、いいいいい言ってねえし! 聞き違い甚だしいだろ!」 何故か翔は片手で口元を抑えてそっぽを向いてしまう。その頬が真っ赤に染まっているのに気付いたのは幾人居ただろうか。 あはは、と笑うレイラン。 「照れる事無いのに‥‥って翔、どうしたの?」 何かを察したのか、朱麓は皆に部屋を出るよう声をかける。 二人っきりにしてやろうという配慮だ。何人かは襖をちらっと開きつつ、中を覗いていたりするが。 翔の不可思議な様子に哲平は心配そうに身を寄せる。 すると、突然翔が哲平に抱きついた。 「お、おいどうした? 何処か痛いのか?」 「‥‥済まない」 「いやまあいいけどさ。痛い所あるんなら言えよ? さすってやるからさ」 「‥‥‥‥痛くは、ない。ただ、もう少しだけ、こうしていて、いいか」 「お、おう。まあ別に減るもんでもねえしな」 那蝣竪は襖の奥でほろりと涙を溢している。 「かっこいい男の子二人だと絵になるね、ホント」 うんうんと頷いてる朱麓。 灯華から仕事完了の報告を聞き、皆を呼びに来た風鬼は、覗き見してる面々を見て、もう問題は無さそうだとさっさと寺を後にする事にした。 |