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■オープニング本文 龍使いとは、何であろうか。 空を駆ける戦士。正しい。 龍と共にある戦士。これも正しい。 龍の世話をする人間。ある意味これも正しいであろう。 しかし! 誰もが想像する龍使いとは、ただ表面的に龍を操るだけの存在ではないはず。 空の王者たる自負と責任を胸に、誇り高く空を往く者こそが、真の意味で龍使いと呼ばれるに相応しい。 そして王者とは、必ず勝利するからこそ王者であるのだ。 陰穀の空に巨大アヤカシ現る。 北方の制空権を脅かすこの存在に、シノビ達はさして得意でもない空中戦を挑む。 結果、まともに傷を負わせる事すら出来ず敗退。 圧倒的な火力と脅威の防御力を誇るこのアヤカシは、空を我が物とすると今度は地上部隊に襲い掛かる。 瘴気の塊のような物を地表に落とし、抗する術の無い地上部隊は後退するしか打つ手が無かった。 アヤカシ前線をこれ以上侵攻させぬ為には、何としてでもこの巨大アヤカシを倒す必要があったのだ。 とある砦の兵士が言った。 「前によぉ、俺似たような事あったんだよ。どうしようもねえ強いアヤカシが空に居て、そしたら‥‥」 各地を転戦している傭兵は語る。 「以前にもあったな。今回みたいに自軍の飛行戦力じゃ歯が立たないって時に、それでもと突っ込んだ龍使い達を助けてくれた奴等が‥‥」 前線にて兵達を束ねている男は、会議の席で遂に決断を下す。 「恥は覚悟の上だ! これ以上の被害が出る前に開拓者を呼ぶぞ!」 巨大な翼を大きく広げ、そのまま固定したような形状。 いわゆる胴体に当たる部分は両翼の付け根に僅かにあるのみ。ほとんどが翼部である。 もっとも便宜上翼と呼んでいるだけで、あの翼で羽ばたいているのではない。 何故か、空に浮かんでいるのである。 全身は強固な鱗に覆われ、それらが波打ち、まるで蛇のような模様を形作る。 その巨体からは想像もつかぬ高速移動、高速旋回を可能とし、それこそ龍でもなければ追いつく事すら出来ぬ。 何より特筆すべきは、その持ちうる攻撃力だ。 お前、これ避けさせる気欠片も無いだろーとか思える程、攻撃対象一騎に向け大量の弾幕を撃ち放ってくる。 更に周囲を取り囲む敵が余りに多い場合、攻撃力を下げてでもと広範囲に渡って弾幕を撃ち放ち、同時に多数の対象に攻撃を仕掛けてくる。 攻撃は基本前面に対してであるが、かなりの射角があり、前面180度はほぼ射程に収まると考えて良い。 正に空飛ぶ城砦のごとき威容だ。 辛うじてこれとの戦闘で生き残ったとある龍使いは語る。 「それなりの腕がありゃあの話だが、広範囲の奴は一騎集中に比べれば弾幕の隙間を見つけやすい。それに何度も連発は出来ないみたいだぜ。後は、龍と乗り手次第だ」 最後に、このアヤカシに命名をと頼まれた龍使いは必死に頭を捻った結果、とりあえずでいーやと超適当に名前をつける。 『蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシ』 歴戦の勇士でもある彼。彼自身も半分冗談のつもりだったのだが、その言を無視する事も出来ず、何時の間にかコレが正式名称となってしまった。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
赤鈴 大左衛門(ia9854)
18歳・男・志
八神 静馬(ia9904)
18歳・男・サ
ランファード(ib0579)
19歳・男・騎
アーネスティン=W=F(ib0754)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 鬼啼里 鎮璃(ia0871)は弓を構え、目測にて距離を測る。 蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシが彼方に姿を現すなり、皆散開しこれに備えていた。 最初は小さな点であった姿が、見る間に大きく育っていく。 大きさの比較対象物が無い上空での事、彼我の距離を測るのも勘を頼るしかない。 とにかくデカイ、そして厚い鱗に覆われていると聞く。 ならば充分に引きつけてこれを放たなければ。 弓を引き絞ったまま待ち受ける鎮璃の側に、ランファード(ib0579)が龍を寄せてくる。 「すみません、気になる事があるんですが」 「どうしました?」 「あの大地に映る影、おかしくないですか?」 言われて蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシの影を探すが、すぐに見つからない。 ランファードが指差す先を見て、ようやく見つけられたが、その位置が考えていたより遙かに後方すぎる。 それに大地を高速で滑り進む黒い塊は、角度のせいか地上の様々な比較物に対して異常なまでに広がっている。 空を見上げ太陽の位置を確認すると、鎮璃は大声を張り上げる。 「みなさん! アヤカシの影を見て下さい! 姿だけだと距離感がズレます!」 遠距離攻撃組である、葛切 カズラ(ia0725)、アーネスティン=W=F(ib0754)も言われて大地を見下ろすが、やはり同様に影の位置をすぐには見つけられない模様。 そう、あまりに大きすぎて、遠近感を狂わされるのだ。 話に聞いてはいたが、実際にこうして相手をするとやはり違う。 鎮璃は外すのを覚悟で、第一射目を放つ。 かなり引き付けたつもりだが、それでも矢は蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシの前方に落ちていった。 これでいい。皆もこれを見ているだろうし、鎮璃の意図をわかってもらえるはず。 彼我の距離感は、多分一度すれ違うでもした後でなければ計れそうに無い。 矢ならともかく、術の無駄撃ちなぞ冗談ではない。 八神 静馬(ia9904)は、遂にその威容を間近に見る。 城壁を一辺丸々謎のアヤカシぱうわーにて大砲で打ち出した感じ。 飛び行く周辺の大気が渦を巻いているのが、離れた今の位置からでもわかる。 名を付けた人間に一言言ってやりたくなる。 名前に巨大が抜けているぞと。 「言うなれば、じゃ、蛇腹状巨大高速無t」 舌かんだ。 「‥‥俺を噛ますとはいい度胸だ、絶対に倒す」 そして交差。 皆距離を取ったので、最初の交錯での攻撃は無かった。 交戦済みの者達から色々と事細かに話を聞いていたが、彼らの説明から想像していた姿とほぼ一致する。 ただ敵として迎えた時の迫力だけは想像しきれなかった。 これほどの巨大物体が高速で飛びまわるその恐ろしさは、確かに言葉で云々出来るものではない。 見ると、蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシ上方より、鎮璃が先陣を切っている。 近接組も各方面より攻撃を開始。 鎮璃の放った矢が鱗を数枚砕いて突き刺さる。 ようやく、すぐ側に大きさを比較出来る物体が出来てくれた。 静馬は感想を思わず口にしてしまった。 「矢ちっさ!」 正面からの攻撃を受け持つは赤鈴 大左衛門(ia9854)だ。 大体の攻撃範囲を聞いてはいたが、そもそも距離感を掴み辛い相手で、どの道一発もらってみない事にはわからない。 「したら田吾作、おンしが頼りだス。けっぱって飛ぶだスよ!」 ちょっぴりキュートな方言がイカス大左衛門は、大薙刀を前方に突き出し、その瞬間を待つ。 来た、そう思った時には既に腕は動いてくれていた。 高速で薙刀を回転させ、放たれた弾幕に対する。 しかしその回転をすら突き抜ける圧倒的な砲弾の数。 すぐに理解した。これは例え盾があってもとてもではないが受けられるようなシロモノではない。 大左衛門の防盾術ですら通用せぬ。圧巻の弾嵐。 何とかこれを抜けると、すぐ側には蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシの姿が。 距離、間合いは概ね掴んだ。次は喰らう前提で飛び込み、叩き斬ってやるだス、と気合を入れつつ一時離脱。 甲龍の田吾作がこの期に及んでいつも通りのんびり気配なのを、頼もしいと受け取るか、不安だと受け取るかでちょっと悩んだのは秘密である。 背後よりランファードは炎龍フレアと共に蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシへと迫る。 速度は下手をするとフレアより速いかもしれないが、戦闘空域ではそうそう最高速など出せはしない。 加減速や旋回性能は見た所、こちらの方が上である。 いやまあこの巨体にこの点で負けたら目も当てられないのだが。 「フレイ、今回はお前が頼りだ、よろしく頼むな」 真後ろは風の乱れが激しい。 龍使いは風をある程度見る事が出来なければ務まらない。 それほど龍の扱いに慣れているわけでもないランファードだが、それでもはっきりとわかる程の乱流が発生している。 あの巨体が龍と変わらぬ速度で飛んでいるのだ。当然といえば当然であろうが。 少し斜め上より接近し、矢の突き立った背中を狙う。 剣の届く位置まで迫ると、表面を流れるような気流にフレアは弾かれそうになるのを必死に堪えている。 がくがくと揺れる龍より乗り出すようにして刀を振るう。 ちょうどがくんと揺れた時にそうしてしまったため、刀は鱗に弾かれ甲高い音を立てる。 不運に舌打ちしている暇もない。 翼付け根にある突起のようなものが開き、無数の弾丸が打ち出される。 これを真横からもらったランファードは、手綱を必死に握って落下を耐える。 危機を感じ取ったフレアは、独断で大きく蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシより距離を離した。 体表を流れる気流に乗る形で、一気に後ろに流れるとあっという間に有効射程から離脱する。 一筋縄ではいかぬ相手であるというのは良くわかった。 しかし、と額より垂れ落ちる血の滴を拭う。 これでやり方はわかった。 玲璃(ia1114)は近接組の戦闘を見て、かける術を絞る事に決めた。 敵の攻撃が鋭すぎる。 受けるも避けるもままならぬなら、神楽舞「防」にて被損傷を減らし、閃癒の回数を増やす他無い。 元々ある程度の被弾は覚悟の上で挑まねばと思っており、防御向けの術ばかり用意しておいたのは正解であった。 問題は術組である。 一撃で屠られる事も無いだろうし、近接組よりは距離を置いているせいか狙われ難いようだが、敵の攻撃が充分に届く射程にまで踏み込まねば術の行使も難しいだろう。 そして近接組と同時に彼等への治癒を行なうには、自身もそれなりの距離を保っていなければならない。 相当厳しい術管理が必要であろうと、意識を戦場全体に集中させ、駿龍、夏香を駆る。 既に熟練の域に達している夏香の戦場勘が頼りであった。 アーネスティンは雷撃の術ギリギリの射程を維持するよう炎龍に命じ、後の回避やら移動やらは全て龍に任せる。 片翼を叩き折るという作戦だが、あのごっつい翼をへし折るのは相当な手間であろう。 サンダーを放つと、ふと緊迫した今に似つかわぬ考えが頭をよぎる。 空の青すら薄く見えてくる、刺すような風を貫いて走る閃光。 空と雷は良く似合う。 魔術の炎や吹雪が風や気温にさして影響を受けぬのは知っているが、空を飛んでいると感じる低い体感温度の中に居る相手に、そういった熱い寒いが効き易いとは思いずらく。 そしてやはり、雷は空にあってこそ、と思えるのだ。 二撃目の雷を放ちつつ、我ながらラチも無い事を考える、と自嘲する。 鋭角的な蛇行線を描きつつ、翼の付け根に突き刺さる雷撃。 「図体がでかければ、それだけ撃ち込み甲斐があるってものだよ」 カズラは、危険を承知で蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシへと近寄っていく。 下側は死角になっているかも、などという楽観的な事を考えているわけではないが、呪縛符を撃つにはどうしてもある程度の接近は必要となるのだ。 そもそもこの巨体に何処まで通用するものやら、という気がしないでもないが、さっきの攻撃を見る限りでは、動きを抑えない事には近接組がキツすぎる。 術と共に放った符は、風に飛ばされる事もなく蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシに張り付くと、爆発でもしたかのように無数の触手が噴出し、片翼にまきつく。 心得たもので、甲龍、鉄葎は即座に併走しつつ距離をあける。 再び符を取り出したカズラは、離れていくアヤカシに向け、置いておくようにほいっと符を放り出す。 「秩序にして悪なる独蛇よ、我が意に従いその威を揮え!」 こちらも空中で無数の触手へと変化するが、今度は触手同士が絡み合い、巨大な蛇を形作って襲い掛かる。 大蛇は下方より翼の付け根に喰らいつき、鱗ごと肉を深く抉り取る。 それでも蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシは悠然と飛び続ける。 大して効いていないのか、単に図体が大きくて鈍いだけなのか。 後者であってくれれば、と思わないでもないカズラであった。 攻撃開始よりかなりの時間が経つ。 皆練力の半ば以上を失い、総攻撃回数なぞ数えるのも馬鹿らしくなるほど攻撃を加えてきた。 しかし蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシは未だ健在。 その攻撃も衰えを知らぬ。 急減速と同時に前方への広範囲弾幕をぶちかます。 正面側に居た者だけでなく、併走する形であった者達も、減速が間に合わずこの弾幕に晒されてしまう。 通常弾幕より比較的回避の余地がある、などという言葉を聞いた気もするが、アホかてめぇ表へ出ろと袋叩きにしたくなるような大量の弾丸が放たれ、前方空間を面ですらない立体で制圧する。 カズラは愛龍を叱咤激励する。 「カナちゃん根性! ライフ制だから当たっても大丈夫」 怪我だか疲労だかで操者の方が混乱している模様。 田吾作の硬質化は間に合ったが、自身は気合と根性で耐えるしかない大左衛門。 「せ、せっかく怪我治してもらった直後だスのに!」 静馬は泣き言のように喚く。 「ここも見えるの!? そもそも何処に目がついてんだ!」 死角に入るよう動き続けているのだが、どうやら全周囲を同時に感知する能力でもあるらしい。 デタラメも良い所だ。 玲璃、というよりその駿龍、夏香が即座に反応した。 後方の皆に治癒の術を施していたのだが、あっという間に前方にまで飛び出してくる。 空では皆が常時位置を変え続けている。 その流れを読み、治すべき人間全てが範囲に収まるタイミングを計り、術を放つ。 騎手もそうだが、龍が落ちてはそれだけで終わってしまう。 これへの治療も含めると考えたくなくなる程の手間がかかる所を、閃癒の一発で治してしまうのだから大したものである。 今回、あちらへこちらへと一番移動が激しいのは間違いなく玲璃であろう。 その騎龍が優れた駿龍の夏香であるおかげで、皆は随分と助けられている。 ランファードは、今度こそと後方にて準備を終えたフレアに攻撃を命じる。 「フレイ!全力で飛び込んで切り裂いてやれ!」 全速力で追いすがり、溜めた力を一気に解放、飛び込む勢いそのままにフレアはアヤカシに喰らいつく。 もちろん主も黙ってはいない。 渾身の強打にて斬りかかる。 そもそも剣先全てが食い込んでも、全体から見ればかすり傷にしか思えぬ程の巨体相手だ。 しかしランファードは決して諦めるつもりはない。 「積み重ねればどんな巨体にもいずれ効くはずです!」 鎮璃もこれに続き、炎龍の華燐は、真上より飛び降りながら両足の爪をアヤカシに突き刺す。 刺すのみでは効果は薄いと、鱗の隙間につきたてた槍を引っ掛けるようにして振りぬく。 既に何度も斬りかかられた傷を更に深くしながらも、蛇腹状高速無敵戦闘爆撃アヤカシも反撃の弾幕を。 頭部に数発もらい、危うく意識が飛びかけるも、手綱だけは掴んでいたおかげで落下は免れる。 くらくらと歪む景色、それでも離脱する華燐の動きに合わせ、アヤカシの表皮上で槍を滑らせる。 鱗のある部分は跳ねるのみだが、損傷を負った鱗の無い部分は刃を防げず更なる傷を残す。 大左衛門は上より斜めにアヤカシへと向かう。 その手の大薙刀には、飛行の風にも消える事無き炎を纏い、すれ違うに合わせてこれを薙ぎ払う。 鱗の弾ける感触と、肉のような何かを焼く香り。 ぱらぱらと周囲を鱗が舞う。 ここが勝機と見てとった玲璃は、まだ練力に余裕のあった夏香に切り札を放つよう頼む。 心得たと大きく反り返った夏香が一羽ばたきすると、前方に衝撃の波が生み出され、発生したソニックブームが襲いかかる。 回復はしてもらったが完治には程遠い静馬も、無理矢理に笑みを捻り出しアヤカシへと仕掛ける。 「まだまだだっ!」 駿龍、紫苑がその速度を活かして正面から下をくぐるのに合わせ、大きく大上段に構えた刀を振るう。 接触の瞬間、相対速度からものすごい圧力が刀にかかるのを、筋肉が悲鳴をあげるほどの気合と根性で支える。 永劫とも思える忍耐の時は、実はほんの数秒にも満たぬ間であったが、これを堪えきって後方へと抜ける。 アヤカシの翼下には、一直線に引かれた刀傷が残った。 大空にカズラの艶のある声が響く。 「急ぎて律令の如く為し、万物事如くを斬刻め!」 まずは触手から始めるのがカズラの流儀らしく、現れた触手が鏃のように鋭く尖り、真下からアヤカシを突き上げる。 みしみしと音を立て、皆が散々集中攻撃を仕掛けた片翼が千切れ始める。 アヤカシの全体が僅かに斜めにずれ、飛行速度が目に見えて落ちてくる。 無理に立て直そうとすると千切れ速度は増し、逆翼、本体背部と平行であった翼がめきっと音を立ててよじれだす。 アーネスティンは、弾幕をもらってしまいアザだらけの体を厭う様も見せず、静かに詠唱を終える。 「さて‥‥いよいよもって死ぬがよい、ってな!」 弱点が見つからないなら作ればいいとばかりに、皆でよってたかって攻撃した翼の付け根。 この表面の傷口をなぞるように雷撃が跳ねると、それがトドメとなったのか豪快な音と共に片翼がもげてしまう。 後は、見ているのみであった。 怒りか悪あがきか、そこらに弾幕を撃ちながらくるりくるりと大きく円を描くアヤカシ。 当然これ以上の攻撃は不要と皆退避している。 円は少しづつ小さくなっていき、遂にきりもみ状態となったアヤカシは大地に激突し、潰れるというか砕けるというか、双方を重ね合わせたような音と共に潰れてしまった。 「終わった、わね」 癖で煙管を手にした所で、空では火など付けようもない事に気付き、渋々懐に戻すカズラ。 「本当に、厄介な相手でした」 龍の上で、玲璃に手間をかけさせるのも悪いと、まだ血が流れる傷に自ら手当てを施している鎮璃。 「こんなのがうろうろしてるだスか。天儀一の兵法者への道は険しいだスなぁ」 大左衛門は慣れた大薙刀すら重く感じるのか、これを龍に固定して楽な体勢を取る。 ランファードは、良く頑張ったと愛龍の背をゆっくりと撫でている。 恥を押して開拓者へと依頼をした陰殻の者達に、何とか報いる事が出来たので安堵しているようだ。 アーネスティンは怪訝そうな顔で少し声を張り上げる。 「おい玲璃。聞こえてないのか? おーい」 すいーっと龍は飛び続けているが、玲璃からの反応は無い。 顎に指を当てて考えた後、静馬に声をかける。 「静馬。もしかして玲璃はアヤカシ最後の攻撃を受けていたりするか?」 静馬は自信を持って首を横に振る。 「いや、そんな事は無かったはずだけど‥‥って、あれ? 玲璃さーん」 ひらりと龍を駆り、すぐ側に寄ってみる。 上から見る、わからず。 左から見る、わからず。 右から見る、目を瞑ったまま、あどけない顔で龍に突っ伏しているのが見えた。 玲璃は、空戦ならではの広い戦域と、それら全てを見極めつつ皆の怪我の状態や戦況、敵の動向をつぶさに確認し続けていた疲労からか、龍の上で意識を失っていた。 「おおおおおおおい! まずいよ玲璃さん! そんな所で寝たら落ちるって! おわっ! ずれてる! 体ずれ始めてるから早く起きてええええええええ!」 皆で龍の回りで大騒ぎしたおかげで、問題なく玲璃は目を覚ましたとか。 |