越えられない峠
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/23 17:34



■オープニング本文

 村人達が集まっているのは、行方知れずとなって半月が経つ若者が村へと戻って来たせいだ。
 村長が依頼したシノビが見事仕事を果たして戻って来たのだ。
 しかし、彼は村に戻るなり村長との面会を求め、村人達が見守る中、こう言い残した。
「裏切りの報いを受けろ」
 ただの一刀で村長の首をはねると、その場に倒れ臥すシノビ。
 とうに絶命してもおかしくはない大怪我を負いながら彼が村まで戻って来れたのは、村長に復讐する為か、若者を守る為か。
 いずれ並々ならぬ精神力あっての事であろう。物言わぬ骸となり果てたシノビの体に刻まれた無数の傷跡は、その片鱗なりともを感じさせてくれた。
 村長とシノビにどのような確執があろうと、如何に若者を救い出してくれたとはいえ、皆の代表である村長を殺されて黙っていられるはずもない。
 村人達は強い口調で涙ながらに開拓者ギルドへと抗議を行う。
 理由はどうあれ、村長を殺したシノビには問題があった。
 そういった見解の元、村が抱えている問題を一つ、無償で解決するといった事でギルドと村との和解はなる。
 終始、村との交渉に携わってきたギルドの係員は、吐き気を堪えながら黙々と業務を進める。
 当初ギルドへの依頼は山で迷子になったらしい若者の捜索であった。
 山中に魔の森があるでもなく、危険度は低いという村長からの話で、それならばとシノビを一人派遣したのだ。
 しかし、腕利きでもあったこのシノビは、若者一人救い出しただけで死ぬ事となった。
 若者から話を聞いた係員は、ここで、初めてシノビが激怒した理由を知る。
 峠にはアヤカシの群がたむろしており、若者はコレに攫われおもちゃにされていたのだ。
 アヤカシ達の首領は奸智に長けているようで、峠を越えようとする者を完全に包囲出来るよう布陣して待ち伏せ、確実に全てを殺してきたようだ。
 結果、麓の村では峠のどちら側でも例年に比べて旅人が少ない、としか認識されなかったのだ。
 通常は峠の側にある村ならば、峠越えには色々と神経を配っているものである。
 山の異常にも敏感であり、こうしたケースに気付かない方が珍しい。
 そう、長く村長をしてきた彼やその側近達ならば、気付けてしかるべきだったのだ。
 それを、おそらく多数の開拓者を雇っては金がかかりすぎるという理由で、虚偽の申請を上げて来たのだろう。
 係員はシノビの無念を考えると、居た堪れなくなる想いであったが、そんな係員にトドメを刺しに来てくれたのが村の交渉人達だ。
「おいおい、ギルドから人まだ来ねえのかよ。さっさと峠通れるようにしろよ」
「俺達がどれだけ迷惑被ってると思ってるんだよ。村長の代替わりとか、色々と入用だしさ、全部そっち持ちで処理してくれよな」
「ギルドの責任において、絶対安全確実に通れるようにしておいてくれよ。もしまた問題起こったら全部ギルドのせいだからな」
 忍耐の限界を試すような言い草は、前村長の受け売りのようである。
 係員はこれを引きつった笑顔で切り返し、どうにかこうにか依頼を受けるという形で書類を整える。
 峠に陣取ったアヤカシ退治という依頼に、即座に応募してきた女性が居た。
 その背景を調べた係員は、頭を抱えて彼女の参加を断る。
 彼女は、先に犠牲になったシノビと無二の親友であったそうな。
 前後の状況を知ってる人間が、あの村人達の尊大な態度を受けてやっていけるはずがない。
 しかも、村長は既に死んだが、村を運営しているあの判断を下したであろう幾人かはまだ生きているのだ。
 もしうっかりでも倒れたシノビを悪し様に罵るような言葉を口にされたら、正直係員ですら冷静でいられる自信は無かった。
 丁重なお断りを申し出て数日、係員はある情報を耳にする。
 どうやらあの女、シノビの親友である女サムライは、独自に例の村へと向かっているらしい。
 彼女が何をするつもりかはわからないが、村人を恨んでいる可能性は極めて高い。
 係員が対応してきた無礼な村の若者達の事も、聞き及んでいるかもしれない。
 彼は大至急集められるだけの人数を集め、これ以上事件が大きくなるのを防ぐよう開拓者達に依頼するのであった。


 女サムライは、街道の脇に転がる大岩に腰掛ける。
 歩きづめで疲れたというわけでもないが、考える事が多すぎるせいか、妙に気疲れしてしまう。
 手にしっくりと馴染んだ太刀を抜き、天にかざすと陽光が眩しく映り込む。
「私は、光の下を行け‥‥そう言って離れて行ったんだよな、キミは‥‥」
 握る手に不要な程力が込められる。
「‥‥すまない、とてもではないが無理だ‥‥どうして、これを我慢出来よう‥‥キミと同じ闇に堕ちるのを、そもそも私は忌避していないというのに‥‥」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
朧楼月 天忌(ia0291
23歳・男・サ
湊(ia0320
16歳・男・志
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
荒井一徹(ia4274
21歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
綾羽(ia6653
24歳・女・巫
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ


■リプレイ本文

 新しい村長に挨拶に向かう開拓者一行。
 もっとも、ほとんどが行くのを嫌がったので水鏡 絵梨乃(ia0191)、湊(ia0320)、荒井一徹(ia4274)の三人のみであるのだが。
「峠の場所はわかるな? さっさと行って片付けてきてくれよ、こっちは随分と待たされてるんだからさ」
 まだ四十前であろう中年太りの男は、両脇に大柄な男を二人引き連れて開拓者達を迎え入れた。
 いきなり沸騰しそうになる絵梨乃を一徹が止めている間に、湊は丁寧な口調と仕草を保ったまま口を開く。
「口の利き方に気をつけて下さい。先任の後を追いたくはないでしょう?」
 村長は泡を飛ばして反論しようとするが、その前に一徹が慌てて間に入ってくる。
「おいおい、ケンカの相手が違うんじゃねえのか」
「彼が居なくなったからといって、前の村長がそうであったように天儀の世界は滞りなく進んでいきますよ。いずれにせよこの村には制裁が必要でしょうし‥‥」
「俺達ぁ女サムライ止めに来たんじゃねえのかよ、勘弁してくれ‥‥っておい水鏡の嬢ちゃん! てめぇも落ち着けって!」
 今度は絵梨乃が完全にキレたらしく、村長の胸倉を掴み上げる。
 女手とはいえ泰拳士の腕力だ、取り巻きの男二人がそれぞれ絵梨乃の腕を掴みあげようとするが、ぴくりとも動かない。
「命を落とすほどの大怪我を負いながらも、一人の人間を護り抜いた男がいたこと……お前達、絶対忘れるな」
 言いたい事だけ言うと村長を放り出し、ずかずかと家を出て行ってしまう。
 湊もこれ以上は無為とばかりに家を後に、残るは一徹のみとなる。
「あーもう、こういうの柄じゃねえんだけど」
「な、何だあの無礼な連中は! そもそもお前達が‥‥」
「ちょい黙れ。それと頭に入れとけ。お前等とうに開拓者を敵に回してるんだって事をな」
 村長を黙らせると、一徹も家を出る。
「‥‥戦いに無駄な感情は入れたくないんだけどな」

 朧楼月 天忌(ia0291)は村人に家の場所を聞くとぷらぷらとそちらへと向かう。
 天忌はシノビに命を救われた若者の下へとむかっていた。
 彼の思っていた通り、若者は責任を感じてかひどく落ち込んでいた。
 彼もまたこの村の人間であるが、命賭けで自分を助けに来てくれた人間を、悪く見る事など出来はしなかったのだ。
「シノビの事は気にすんな。一般人を助けるのがオレらの仕事さ」
 他の村人相手ならば決して言わぬ言葉を口にする。
 若者は、涙を流しながら今は亡きシノビに詫び続けるのだった。

 女サムライは村にたどり着くと、虚ろな目で村中を見渡す。
「探していました、陽子さん」
 そう声をかけられた事に驚き振り返ると、そこにはシノビらしからぬ柔和な表情の菊池 志郎(ia5584)が居た。
 怪訝そうな女サムライ、陽子に、志郎は隠す事なく正直に素性を話す。
 陽子は複雑そうな顔で苦笑いを見せる。既に逃げられる状態ではない事に彼女は気づいていた。
「そう、か。アヤカシ退治は君達が引き受けたのか」
 周囲を取り囲むように、酒々井 統真(ia0893)、瀧鷲 漸(ia8176)の二人が姿を現す。
 漸は、試すように問いかける。
「どう、するつもりだったんだ」
 陽子は大きく嘆息し、観念したように全身から力を抜いた。
「‥‥実は、決めていなかった。正直な所、自分でもどうしたいのか、良くわかっていないんだ‥‥」
 自嘲気味に三人を見やる陽子。
「どうする? 私を斬るか?」
 心底嫌そうな顔で統真は首を横に振る。
「止めろ、とは言いずれぇな。巡り合せじゃ死んだの俺かもしれないし、こんな形で知り合い死んだら俺もどうなるか」
 強気な彼に相応しくない、苦々しい顔で統真は頼む。
「俺はお前を殴って止めたくねぇ。だから止まれ」
 陽子の手が腰に落ちる。ゆっくりと、しかし確実に。
 漸は少しだけ口調を強める。
「仇討ちというのは虚しくはかないものさ。だからやめとけ」
「彼と共に闇に生きる覚悟はとうの昔に決めていた。虚しさも儚さも、全て受け入れてみせるさ」
 きんっと音が鳴る。刀を持つ者なら誰しもがわかる開戦の合図。しかし、それでも志郎は武器を抜かなかった。
 無手のまま陽子の前に歩を進める。統真も漸も動かず。仲間の危機に思わず体が反応してしまいそうになるのを懸命に堪えている。
「私はシノビですから、少し、彼の気持ちがわかるかもしれません」
 汚い仕事の多いシノビにとって、光の下を進む生き方は憧れであり、闇にいる者ほど、真っ直ぐに生きる強さを評価していると語ると、心当たりがあるのか陽子は言い返す事もなく押し黙る。
「だから貴方はその名の通り、光の似合う人でいてください。貴方のご友人が誇りにしていた貴方のまま、変わらないでください」
 腰に落とした手を、少しづつだがゆっくりと刀から外す。
「‥‥それは、卑怯だ。お前、見た目は全然似てないのに、そういう卑怯なやり口だけは奴そっくりだぞ」
 シノビですから、と志郎が嘯くと、呆れたように陽子は両手を上げ、降参の意を示した。

 綾羽(ia6653)がこの場に駆けてきたのはこのすぐ後である。
 村の人達から、今回の件がどういう経緯で行われたのかを確認しようと、彼女もシノビに救われた若者を探していたのだ。
 ちょうど居た天忌と一緒に若者を連れてきた綾羽は、彼の口からシノビの最後を陽子に聞かせてやる。
 村へは何もする事が出来ない開拓者達にとって、そして陽子にとって、若者の誠意と感謝に満ちた言葉は、唯一といっていい救いであったかもしれない。
 気丈にも眉一つ動かす事なくこれを聞いた陽子は、皆に頼み込んだ。
「峠のアヤカシ退治、どうか私にも手伝わせてもらえないか」
 開拓者達に文句などあろうはずも無かった。



 臭いの強い荷車を引きながら、天忌、一徹、志郎、綾羽の四人はえっちらおっちらと峠を登っていく。
 時期に待ち伏せ地点だ。
「来たぞっ! 荷車を盾に集まれ!」
 そう天忌が叫ぶが、一徹はというとグレートソードをすらりと抜き放ち、剣呑な表情を見せる。
「さぁて三下。今日はちょいと機嫌が悪いんだ。簡単にやられると困るからせいぜい気張りな」
 囮というか、完全に攻め手気分である。余程村長達とのやりとりが気に食わなかった模様。
 押し付けてしまった手前、天忌も文句を言いずらい。
 志郎がその辺の機微を感じ取ったのか、一徹の後ろにつく。
「俺が行きます。こちらはよろしく」
 天忌は返事をしてやりたいと思ったのだが、狐アヤカシが五体一度に襲い掛かってきたので、これの対処に追われる。
 咄嗟に咆哮を用いて敵の注意を自身へとひきつけたので、綾羽に流れるのだけは防いだが、今度は自分がピンチである。
「天忌さん!」
 まずは防御強化、そして怪我の回復を行ってから攻撃力を上げる。
 これらの術を淀みなく行った綾羽は、少し距離が離れてしまっている一徹と志郎にも援護の手を伸ばす。
 狐アヤカシが十体以上あちらこちらと跳ね回る中、怯えるでもなく、正確に確実に術を行使する様を見て、さして余裕も無い天忌は、刀を振り下ろしながら口笛を吹く。
「こいつぁいいや、これなら俺もきっちり暴れられそうだ。‥‥身内(シノビ)の借り、キッチリと返させて貰うぜ!」
 袈裟どころではない、真上から直下に向けて振り下ろされた天忌の刀は、狐アヤカシの頭部をまともに捉え、ただの一撃で顔の半ばを抉り取ってしまう。
 これぞサムライの技、両断剣。出来ればこいつを狐達の群の奥でふんぞりかえっている鎧アヤカシに叩き込んでやりたい所なのだが、警戒しているのか前に出てくる気配が無い。
 それでも定期的に志郎が水遁の術にて攻撃を仕掛けてはいるが、それだけでどうにか出来る相手でもないらしい。
 一徹はというと、ハタ目で見ていると危なっかしくて仕方が無い暴れっぷりである。
 しかし無駄に暴れる事で注意をひきつける役目を充分に果たしてはいる。
「はっはー! 最高に楽しいなおいっ! お前等ケダモノの分際で案外やるじゃねえか!」
 もう絶好調である。サムライとは多かれ少なかれこういった攻撃偏重な部分を持っているものだが、にしても、限度ってあるだろーと天忌は思ったりする。
 剣で斬る事すらせず、アヤカシの首下ひっつかんでぶん投げるとか、もう剣術じゃねーよそれと心の中だけでつっこむ。
 綾羽の支援が効いているため、どうにか膠着状態を作り上げる事は出来た。
 こうなってしまっては、後ろで控える鎧アヤカシが前に出て打破するしかない。
 ようやく、鎧アヤカシはその重い腰を上げた。

 待ちに待った好機、こうして飛び込んで来てくれれば半包囲の形も取れよう。
 伏兵として控えていた湊、漸の二人は真っ先に斬り込み、突破口を開く。
 湊の太刀からは炎が吹き上がっている。これだけで脅かすには充分であるのだが、そんな豪壮な太刀をこれ見よがしに振るうでもなく、淡々と仕事でもこなすようにアヤカシを屠る。
 時々で最適と思われる挙動と太刀捌き、興奮に囚われぬようあくまで冷静に、平静に、穏静に、優静に、美静に、快静に、狂静に、凶静に‥‥
 明らかに不要な程の斬撃、ぎゃんと悲鳴をあげる狐アヤカシに、これでもかと何度も繰り返し差し込まれるトドメとトドメと最後の一撃。
 傍目にはわかりずらいが、湊はとても楽しそうであった。

 大地にどっしと構えた両の足。
 これが全ての基礎となり、足首より螺旋のごとき力を発し、膝、腰、両肩、肘、そして手とその先に構えられた槍へ。
 ここまで一連の力の流れを絶やすこと無く、全て一点に集わせる事が出来たなら。
 漸が、正に全身全霊の力を込めて槍を振り上げると、先端が引っかかるように掬い上げられた狐アヤカシは顎から上を木っ端微塵に砕き散らされる。
 これもまた両断剣の極意を用いた技である。
「‥‥む、やっぱり下から振りあげると胸がぶつかって邪魔、かもしれん‥‥」
 巨大な胸は、やはり立ち回りへの配慮を要求するらしい。
 もっとも彼女も慣れたもので、だからどーしたと槍を縦横無尽に振り回すのだが。

 二人が斬り開いた道を、駆ける影が二つ。
 内の一人は、何と、戦の最中だというのに、口元に袋を当て、酒をかっくらっているではないか。
「ん、おいしっ」
 水なんかで無い証拠に、絵梨乃の頬はほんのりと赤らんでおり、良く見ると足元もふらふらと覚束無い様子だ。
 こんなのと戦場を並んで走るなぞもっての他であろうが、統真は付き合いの長さ故か平然としたものだ。
 敵の首領を目にした絵梨乃の目が変わった。
 いや厳しく鋭くとかではなく、紅潮した頬や揺れる上半身に相応しい、とろんとした目つきである。
 右に左に揺れる絵梨乃に向かって、敵の鎧アヤカシは刀を横凪ぎに一振り。
 まるでその動きを読んでいたかのごとく、絵梨乃は真横に、直角に折れ曲がる。
 重心を考えればそのまま倒れてもおかしくはない程大きく腰から折れた体は、くるっと半回転しつつ足を逆側に振る事でバランスを保ち、逆に遠心力をつけた回し蹴りを鎧アヤカシに見舞う。
 対する鎧アヤカシも並みのアヤカシではない。
 これを刀を寝かせる事で受け止める。その剛力故か、強烈な絵梨乃の蹴撃を完全に受けきっている。
 直後、側面から一直線に踏み込んだ統真は、充分に勢いの乗った拳を鎧アヤカシに叩き込む。
 が、鎧アヤカシはこれをも鎧の上を滑らせる事で器用にかわしてみせる。
 鎧アヤカシの技量は絵梨乃、統真の二人より上であるかもしれない。
 しかし恐れる気もなく二人は挑み続ける。いや、二人が揃った以上、恐れる必要なぞないのだ。
 交互に攻め立てる二人の体は紅く輝きを放ち、片やゆるゆると揺れる柳のごとく、片や風雨に舞う木の葉のごとく、鎧アヤカシを囲むように飛び回る。
 特異な動きで敵の目をひきつけ、円を描くように、時に体勢を崩しかねない大きな動きをすら厭わぬ絵梨乃。
 間合いの出入りを自在に操り、閃光のような踏み込みの鋭さで全体重を乗せきった豪腕を突き刺す統真。
 これぞ双技『乱れ転輪』なり。
 ぴたりと息の合った二人が休む間も与えず交互に加える蹴撃と拳は、鎧アヤカシ程の強者を持ってしても対処しきれず。
 それでも、まだ狐アヤカシからフォローをもらえれば対抗しえたかもしれない。
 しかし狐達もまた他の開拓者達の相手で手一杯であり、こちらに援護を向ける余裕などなかった。
 激昂した鎧アヤカシは、刀を大きく後ろに引くと、必殺の連撃を放つ。
 胴中央目掛けて突き出された刀を、絵梨乃は身をよじりつつ半身になる事でかわす。
 直後、鎧アヤカシは突き出した刀を真横に引くが、これを読んでいた絵梨乃は刀の下をくぐるように伏せ、ぴょんと足を跳ねさせる。
 最後の一撃、横薙ぎに下から掬うように返された刀を、跳ねた足の勢いで飛び越える。
 空中にて頭部が真下を向き足は上に、その体勢から、絵梨乃は真上に向けて踵を振り下ろした。
 踵落としで鎧アヤカシの顎を蹴り上げる離れ業をやってのけた絵梨乃は、しかし無理がたたりすぎたのか着地しきれず大きく姿勢を崩す。
 如何に強烈な一撃とはいえ、鎧アヤカシもまた強者、大きく跳ね上がる上体を全身の力で堪え、隙だらけの絵梨乃を狙うべく刀を振り上げる。
 いつのまに飛んでいたのだろう。
 鎧アヤカシの眼前には、大きく飛び上がり、限界まで引き絞った拳を解き放つ統真が居た。
 強烈無比な拳が鎧アヤカシの鼻っ面に叩き込まれるが、統真はそれだけでは終わらない。
 ぐらりと揺れる鎧アヤカシに、着地した統真は片足を掬うように腕を振るう。
 体格差はかなりのものだが、重心の位置を知り尽くす泰拳士ならではの腕力と間の計りで、統真は鎧アヤカシを一瞬だが投げ上げる事に成功する。
 無防備に曝け出される鎧アヤカシの脇腹。これに、トドメとばかりに渾身の拳を叩き付けた。
「お見事」
 地面に寝っ転がって片肘をついている絵梨乃は、首だけを上に向けにこっと笑う。
 しかし、統真は渋い顔のままだ。
「悪ぃ、しとめ損なった。あいつ思ったよりしぶとい」
 なので、後はよろしくとばかりに視線を送る。
 奥まで踏み込んできていた漸と、陽子にである。
 漸は長大な槍でその胴を貫き動きを完全に封じると、最後の花を陽子に譲る。
 陽子は刀を真横に振るい、一刀で首を跳ね、戦の大勢は決したのであった。



 全てが終わると、天忌は陽子に供養してやるといいと彼女を墓の場所に連れていってやった。
 二人っきりで話したい事もあろうと、開拓者達は席を外す。
 そこでも、陽子は涙をこぼさず、長い間墓を見つめた後、ぽつりと零す。

「後少し、時間がかかるかもしれないが、私はもう大丈夫だ。暴挙に至るぎりぎりで彼等が間に合ったのは、やはりお節介なキミの差し金、なのかな‥‥まったく、キミは死んでまで心配性なのだから‥‥」