泰拳士、六人
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/22 02:08



■オープニング本文

 何故、彼等が集まれたのかは誰も解らない。
 誰もが、他人への気遣いとは無縁であるのに。
 それでも、集まってしまった外道泰拳士達六人。
 必要なのは、際限なくただ力を求める求道精神と。
 それを誇示し、己こそ最強と思える敵が居続ける事。
 いずれは決着を、六人誰もが互いを敵とみなしていた。
 だからその時まで、互いに切磋琢磨しあう友であろうと。

 そして六人は蛮行を続ける。

 開拓者ギルドに、遂に退治の依頼が入った。
 六人の泰拳士達は、自警団の屯所にまで手を出してしまったのだ。
 たった六人で屯所に乗り込み、屈強で知られた兵達を軒並みなぎ倒し、彼等の無様な姿を見て大笑いしていたそうな。
 中には志体を持つ者すらいたというのに。
 何故そんな事をしたのか。
 彼等を知る者ならばすぐに答えは出よう。
「俺は強いと、勘違いしているからぶちのめしてやったのさ」
 ただそれだけの理由だ。
 結果、二十人の死者と十数人の重軽傷者を出す惨事を引き起こした。
 既に彼等の犠牲になったものは数知れないが、これまでは道場破りなどに明け暮れていたため、表沙汰にならぬ事件が多かった。
 無頼を気取り、己が力のみを信じ、より強い者を求め暴れまわる彼等を見て、憧れと羨望の視線を送る若者も多い。
 かくいう開拓者ギルドにも、そういった者達が居る程だ。
 強くある為に、何処何処までも非道で我儘で放埓で無法であり続けた六人の泰拳士。

 九字、旋風脚の達人。芸術的な足技の使い手と言われているが、当人は拳の一撃にやたら拘っている。
 王虎、八極門の達人。類稀なる剛力の持ち主でもあり、その一撃は岩をも砕くと言われている。
 半兵衛、酔拳の達人。実際は下戸らしく酒を飲んでいる所を見た者は居ない。王虎に次ぐ怪力の持ち主らしい。
 弥勒、転反攻の達人。ぎょろっとした蛇のような目が特徴的で、その手足が何処より伸びてくるか見切れる者は少ない。
 宗利、蛇拳の達人。好んでこの技を使うのだが、見た目はどうみても蛙にしか見えない。
 羽丸、泰練気法弐の達人。手数と身のこなしの速さが尋常ではなく、ここら一帯では最速の男と言われている。

 街を治める長は、王へ討伐隊の編成を依頼しようか迷っている所だが、恐らく、それが為される前に更なる被害が出るだろう。
 その前に何とかして欲しい、彼らの横暴をこれ以上許せぬと、被害に遭った街人が金を集めあってギルドに依頼したのだ。

 彼等は堂々と町外れにある平屋の一軒家に寝泊りしている。
 既にこの街に彼らに逆らえる人間など居ないと思っているせいだ。
 他に住む者も居ないので、闇討ちもよし、それ以外もまたよし。
 やり方は開拓者達に任せると係員は言う。
 ただ、連中が確実に揃っているのはかの平屋で夜のみなので、他所に迷惑をかけぬにはこれを狙うのが良いと付ッ加えた。


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
雲母(ia6295
20歳・女・陰


■リプレイ本文

 梢・飛鈴(ia0034)が狙いを定めて焙烙玉を投げつける。
 深夜の空に爆音が響き渡り、しばしの間。
「何処のどいつだてめええええええええ!」
 その声を聞いた開拓者達は、うん、こいつら状況がわかってないんだろうなぁと思った。
 正門から堂々と、青筋立てた六人組みが扉を蹴破り姿を現す。
 確かに良い気配は持っていると、恵皇(ia0150)はこきりと首を鳴らす。
 そしてこみ上げる笑いを苦労して堪えているのは雲母(ia6295)だ。
『バカだろ、お前等』
 煽るつもりで一番血の気の多そうな奴を真っ先に射抜く。
 流石に戦闘慣れはしているのか、矢の一撃を受けるなり六人は動き出すが、その程度で雲母の矢をかわせるはずもない。
 矢を射られた弥勒が射手を狙い踏み込みにかかるが、刀を縦に振るって行く手を阻む緋桜丸(ia0026)。
「どちらが上か‥‥勝負しようぜ」
「ぬかせ!」
 宗利は回り込みにかかるのだが、その足を真横に並んだ真珠朗(ia3553)が槍で払う。
 蛙のようにぴょんと跳ねてかわすが、無視は出来ぬと足を止める。
 戦場にあるというのに、何時もの飄々とした態度は崩さぬまま真珠朗は右手を後ろに槍の柄を高く、左手を前に槍の穂先を低く構える。
 その構えで宗利はぴんと来たのか、口の端を目一杯横に開く。
「そうか、お前も泰拳士か。面白い」
「いえ、面白くは無いと思いますがね」
 ざっと下生を蹴る音に気付き、宗利は身をよじる。
 真横より恵皇の飛び蹴りが襲い掛かったのだ。
 宗利はさらりとかわすが、まだ終わらぬと、再度敵攻撃圏へ踏み込む。
 互いに突き出した拳はいずれも当たらず。
 次弾は恵皇が早く、膝を腹部に叩き込む。
 これをきっちり防ぎ、勢いに逆らわず後ろに転がるように下がる宗利。
 追撃は避ける。あの目は間違いなく誘っている。
 槍の穂先が闇夜に煌く。
 転がった先、何時の間に移動したのか真珠朗が側面より突きかかったのだ。
 これを、脇の下を通してかわし反撃を。
 もちろん間合いが違うので届かぬはずの一撃だが、宗利が狙うは体ではなく槍と共に突き出された手だ。
 すんでの所で片手を槍より外してこれをかわす。
 残る右手が持つ槍の位置を中央付近に寄せ、真珠朗もまた届かぬ蹴りを放つ。
 狙うは槍の穂先。
 伸ばした右手を中心に、槍はくるりと回って宗利へと迫る。
 不意を付いた一撃を、それでもと宗利はのけぞりかわした。
 宗利はとても嬉しそうだった。
「良いぞお前達! 雑兵を何十人相手にするより余程肌が泡立つわ!」

 水鏡 絵梨乃(ia0191)を前に、半兵衛は言葉に言い表せぬ程の歓喜に包まれる。
 自らが目指した酔拳の極致、それがこうして眼前にあるのだから。
 流水がごとき絶え間ない動き、無為にしか見えぬ所作にも二手三手先を読みきった意味がある。
 拳法家としても熟達の域なのであろう。一つ一つの動きのキレが凡百の拳士とは格段に違う。
 半兵衛は喜びを全身で表すべく、自らもありったけの酔拳を駆使してこれを迎え撃つ。
「良くぞ、良くぞ俺の前に現れてくれた。俺は‥‥うおっ!」
 超不意打ち。
 梢・飛鈴(ia0034)の蹴りをまともにもらった半兵衛は、その場につんのめってしまう。
「なーに気持ちよく語っちゃってるカ」
 その飛鈴へと迫る九字。
 絵梨乃はそもそも一人の敵に拘るつもりはないのか、きっちり飛鈴の動きも見ており援護に入る。
 九字が振り上げた右回し蹴り。同時に絵梨乃もこれを放つ。
 二人共が回避も考えるべく上体を更に後ろにそらし、攻撃の狙いは相手の足へと変更。
 いずれもが鍛えに鍛えた蹴撃である。
 どちらの足が砕けてもおかしくはなかったが、鍛え方が尋常ではなかった故か、鈍い音と共に双方の足が弾ける。
 流石に苦痛は隠し切れず、片眉をしかめる絵梨乃。
 九字もまた、僅かにだが足を引きずるような動きを見せる。
 そして怒り心頭のまま飛鈴へと襲い掛かる半兵衛。
「動きが荒いネ」
 右拳をかわしつつ、足裏を垂直に振り上げ顎を狙う。
 ふらり、と体が揺れたかと思うと半兵衛はこの蹴りを完璧に避けきってみせる。
 怒りに震えていようとも、その身に染み付いた技は決して失われぬようだ。
 まーそれならそれでと次の敵に移ろうかと思った飛鈴は、そちらの光景を見て心の中だけで嘆息する。
「アレは、邪魔したら怒られそうデス」

 柳生 右京(ia0970)に向けて歩み寄って来たのは、六人の中で一番の巨漢王虎であった。
「仔細は問わん。敵だな、お前等」
「全力で来い‥‥私か貴様、どちらかが死んで終わりだ」
 真横より振るわれた斬馬刀を、王虎は両手の平で上下より止め押さえ込む。
 左腕に衝撃が残るも、それ以上の侵攻は許さじと全力で押し返す。
 右京もまた、一刀にて弾き飛ばさんと渾身の力を込める。
 しかし、この距離は泰拳士の間合いだ。
 刀にかけられた力が抜け、消えたかと思った王虎の爪が右京の胴を斬り裂くと同時に、王虎は真後ろに飛ぶ。いや、飛ぶしか出来ぬ。
 7尺(約2.2メートル)もある斬馬刀を、右京は逆袈裟に振り上げてきたのだ。
 真横ならば、下になり上になりと逃げ道はある。
 だが斜めに、それもこの速度で斬り上げられてはかわすにかわせぬ。
 一足にて斬馬刀の間合いからすら離れるその足は、たいしたものであったろう。
 が、王虎の胴もまた斜めに血を噴きだす。
「いいぞ、お前の様な怪物を乗り越えてこそ、俺は更に強くなれる。この世にこれ以外望む事があろうか!」
 嬉々として語る王虎に、右京もまた僅かにだが口の端を歪める。
「力の為に全てを捨てる‥‥か。その考えには共感出来る」

「きみ、羽丸だよね」
「ああ。てめぇは?」
「赤マント」
「そうかい。じゃあ言わせてくれ赤マント」
「なんだい?」
 左の腕を押し付け合いつつ、鼻同士がぶつからん勢いで顔をつきつけているのは赤マント(ia3521)と羽丸の二人だ。
「てめぇ、まだ最速出してねえだろ」
「きみだって」
 弾けるように両者が離れ、赤マントの右足刀が羽丸の首元へ。
 羽丸は首のみならず、体ごと真横に飛んでの右爪。
 赤マント、半身になってかわしつつ左爪。
 羽丸、腹部へ左膝、横薙ぎに右爪、頭突き。
 赤マント、掬い上げる左爪、右の上段回し蹴り、左肘。
 羽、右手、左足、左足。
 赤、左手、右足、左手。
 呼吸を止めた連撃の応酬は、後半になればなるほど双方かわしきれず、体中に出来た擦過傷より赤黒い滴が飛び散る。
 神経を使うなんてものじゃない。
 ほんの僅かでも気を緩めれば、瞬く間に畳み込まれる。
 限界を感じた両者は飛びのき呼吸を整えるが、どちらも開戦すぐだというのに肩で息をする程疲労していた。
「これだけは、言って、おくぞ、赤マント」
「僕も、言わせて、もらうよ、羽丸」
「俺の方が」
「僕の方が」
『速い!』

 緋桜丸は半歩下がり、じわりじわりと後退を見せる。
 既に三度見た右振り下ろしの拳に似合わせ、頭を落として後方へのすり抜けざまに抜き胴を狙う。
「がっ!?」
 だが、右拳を振り下ろす手をすんでで止めた弥勒は、緋桜丸の斬撃に合わせて体を回転させ、刀の勢いを殺しきる。
 そしてこれが本命。
 くるりと回って勢いをつけた肘を後頭部に叩き込んだのだ。
 崩れた緋桜丸に、すわと襲い掛かる弥勒は、しかし胴丸の表面を音高く弾き飛んだ矢に体を揺らす。
 そう、ここぞでいつも雲母の矢に邪魔されるのだ。
 雲母は下がった場所に予め居たため、各戦場の様子が良く見えた。
 この弥勒という男、転反攻を得意とするのだが、常の攻撃からはそんな気配はまるで感じぬ。
 一気呵成に攻め、ここぞと反撃を仕掛けてきた一撃を狙い打ち転反攻を叩き込む。
 血の気の多い馬鹿かとも思ったが、実に理に適った戦い方をする。
 受け主体の男ならば矢での攻撃が非常に相性が良かったのだが、と冷静に状況を見据える。
 不意に弓を構え、ロクに狙ったとも思えぬ構えより矢を放つ。
 矢は何と味方である緋桜丸の背へと吸い込まれていく。
 が、直前に弥勒が緋桜丸の後ろに回りこみ、これに命中。
 そして視界に仲間の姿を認めると、後は任せたと彼女は狙いを変えた。
 緋桜丸は、待ちに待った瞬間を迎える。
 刀身にて右拳を受け、何度も打ち込まれ軌道を見切った左拳を脇差にて止める。
 それぞれの刀で引き付けるようにしつつ、自らは前へと。
 崩れた姿勢では転反攻も使えぬだろう。
 これが本命。先に見せた一刀のみではなく、二刀を揃え全力で振り切れば如何に身軽な泰拳士とていなしきるなぞ出来るはずがない。
「喰らえよ。我が牙……緋剣零式……迅影!」
 強烈な抜き胴により、弥勒は胴より血を噴きながら駒のようにくるくると回り跳ね飛ばされる。
 それでも。それでも弥勒は膝をすらつかず両の足を大地に踏ん張る。
 必殺をも耐え切ったかと緋桜丸が再度闘志を燃やすが、炎はあっという間に消えうせる。
「はい、おしまい」
 緋桜丸が何度も打ち込み、その度かわしてきた弥勒は、背後に立つ、いつの間にかこちらに来ていた真珠朗の槍に貫かれていた。
 暢気とも取れる普段通りの顔で、真珠朗は溢す。
「寂しいんですよねぇ。どうにも。殺しがいも殺されがいもない方ばかりで」
 緋桜丸は、はっと気付いて叫ぶ。
「まだだ!」
 完全に致命傷であった弥勒が、尚も立ち上がり爪を真珠朗に突き立てんと伸び上がる。
 足をそのままに上体を後ろに倒してこれをかわす真珠朗。
 何故か彼は愛おしげに弥勒を見つめながら、崩れた姿勢で左足を振り上げ、弥勒の後頭部を強打する。
 以後、弥勒はぴくりとも動かなくなった。

「お前は動きも良く筋も悪く無い。どうだ、我等と共に泰拳士の道を極めぬか?」
 互いに存分に打ち合った後、そう宗利は語った。
 少し考え込むようにして恵皇は答える。
「泰拳士として強さを求める‥‥か。まぁ、俺だってそうだ。だが、お前等と何が違う? 何かが違うんだろうな」
 恵皇は口の中に残っていた鉄臭いものを吐き出す。
「ひとつだけ確かなのは。俺の拳はお前らの様な外道をぶん殴る為にあるんだよ!」
 ここまで他の技は使ってもこれだけは使わずにおいたとっておき、空気撃の拳を宗利へと。
「たわけが!」
 これにて崩し、渾身の拳をという恵皇の目論みは、大きく飛び上がった宗利によって阻まれる。
 それでも拳はと振り上げかけ、にやっと恵皇は笑う。
「悪いな、拳でぶん殴るってのはハッタリだ」
 中空にて、宗利を飛来した矢が貫く。
 その崩れた姿勢のままでも恵皇へと攻撃を仕掛けてきた宗利の執念は、確かに凄まじいの一言。
 振り下ろしてくる拳と交錯するように、恵皇が天へと拳を突き上げると、再び宗利の体は宙を舞う。
 まだ動く。奴はそういう目をしている。
 ならばと弓を構える雲母は、集中した意識を更に深層へと誘い、己と標的のみの世界へと埋没する。
 すると闇の中に雲母と宗利を繋ぐ光の軌跡が現れ、これに沿うように、静かに矢を放つ。
 矢は宗利の目を、そしてその奥の薄い頭蓋を貫き後方へと突き抜けていった。

 飛鈴と絵梨乃は背中合わせのまま互いの敵を睨みつける。
 二人共無傷とは程遠い状況。しかし敵もまた似たような姿である。
 逃がさぬように動くべきなのだが、どうもこの二人まるで逃げる気が無いようなので、こんな形になっているのだ。
「しんどい相手ネ」
「まったくだ」
 同時に駆け出し、それぞれの敵と対する。
 飛鈴が飛び込むと、即座に牽制の回し蹴りが飛んで来る。
 正直、この男の蹴りは洒落にならない。
 右に左に上に下にと自在に変化するせいで、どうにも対応しようがないのだ。
 それでもこれを片腕で受けつつ、軸足を狩り取るように足を払う。
 この動きももう何度もやっている。
 流石に見切られ、九字は受けさせた回し蹴りを強引に振りぬく事で蹴り自体を出せなくする。
 ぐらりと揺れる飛鈴。
 九字はここぞと拳を振り下ろす。
 ひゅっと息を吐き、飛鈴は崩れた下半身そのままに大きく伸び上がってこれをかわし、これまでさんざ下を意識させるため下段ばかりを狙った鬱憤を晴らすとばかりに、全力の右拳にて顎を削り取った。
「やっとまともに当たったヨ」

 半兵衛に向かい、絵梨乃は先制の蹴りを放つ。
 下より伸び上がる足は、楕円を描いて半兵衛の頭上へと。
「その技は見たっ!」
 くにゃりと体を揺らし、頭上より振り下ろされる絵梨乃の踵を腕を添えてそらす。
 いやこれはそらす所の力ではない。
 突き飛ばすといった形で、片足のみで体を支える絵梨乃を強引に引きずり倒す。
 この体勢ですら油断してはならないのが酔拳だ。
 半兵衛は十二分に警戒しつつ、矢のような足刀を倒れた絵梨乃に振り下ろす。
 突如、絵梨乃の動きが変わる。
 酔拳のような流れる水ではなく、閃光のような鋭さで足のみが伸び上がった。
 両手を大地についての蹴りだと半兵衛が気付いたのは、吹き飛ばされ、肩口に激痛を覚えた時だ。
「ま、まさか‥‥滝登か!? それも、これ程鋭い滝登なぞ見た事が‥‥」
 そこまで口にして、半兵衛はがふっと口元より血を吐き出す。
 援護に駆けつけた緋桜丸の二刀が半兵衛を斬り伏せていたのだ。
 同様に、飛鈴が相手をしていた九字も、矢と槍に刺し貫かれて絶命していた。

 右京の斬馬刀が王虎を真っ二つに斬り裂いた。
「き、キサマ‥‥俺の癖を見切って、いた、だと‥‥」
「随分時間はかかったがな」
 上半身のみの王虎は、無念そうに、それでいながら豪快に笑う。
「ふ、ふはははは。我が野望もこれまで、か」
 完全に事切れるのを見守った後、右京もまた大地に斬馬刀をつきたて、もたれかかるように座り込む。
 疲労と怪我で立っている事も出来ぬ程であったのだが、満足気に夜空を見上げる。
「今宵は、実に素晴らしき夜であった‥‥」
 そのまま、眠るように意識を失った。

 かはっと、とても呼気とは思えぬ息を吐くのは赤マントだ。
 羽丸も同様。最早他に何も見えぬと互いを見詰め合う。
 これを見守る開拓者達。
 弓を構えんとする雲母を、絵梨乃が制する。
「あれが相手じゃ、あの子逃げらんないよ」
 吠えるように飛び込み、両者は交錯する。
 走りこんだ勢いそのままに地面を転がる赤マント。
 その首から大量の血が零れ落ちる。
 絵梨乃は急ぎ駆け寄り、その首元に布を巻きつけてやる。
 飛鈴がぼそっと一言。
「紙一重だったネ」
 絵梨乃に抱かれながら、赤マントは息も絶え絶えに叫ぶ。
「そうさ! 紙一重で僕の勝ちだ!」
 決して逃げられぬ、速さを競う生死の境を超えた喜びが赤マントを満たすが、倒れ伏した羽丸の姿を見ると急に大人しくなる。
「‥‥道を違えなければ僕達も好敵手になれたかも」
 二度と動かぬ躯を前に、そんな事を呟いた。