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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 少女はいつも少年と一緒だった。 歌が好きな二人は、時に背中合わせに、時に二人並んで、時に向かい合って歌を歌う。 少年が青年になって、少女が女性になって、それでも二人は変わらず大好き同士なままで。 二人で歌う時間が何よりも幸福なままで。 悲しい時も、辛い時も、苦しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、いつでも二人は歌でそれを共にしてきた。 そうし続けられれば、もう他に何もいらないと、そう思える二人だった。 「うあっ、うああああああああああ! ルイ! るいいいいいい!」 リンはその知らせを聞くなり家の軒先で泣き崩れてしまう。 これを伝えに来た若衆も、二人の仲の良さを知っていただけに、苦しそうに言葉を続ける。 「ルイは残念だったけど、まだアヤカシは残ってる。だから開拓者さんに退治を依頼するんだ。それでリンの家からもカンパが欲しくてさ」 何事かと顔を出してきたリンの年老いた母が、事情を聞いてなけなしの金を若衆に渡す。 礼を述べて若衆はリンの家を後にする。 まだ、聞こえる。やりきれない想いで一度だけ若衆は後ろを振り返った。 「やだっ、やだああああああ! るいどっかいっちゃやだあああああああ!」 ルイの死に方が死に方なだけに、若衆はもっと言葉を重ねてやりたいとも思ったが、それでもきっとリンは泣き止まないとも思えたので、やりきれぬまま若衆は逃げるように走り出した。 山中の滝つぼ周辺に住み付いたアヤカシ達は、当初ほんの数体のみと思われていたので、村の若衆が総出でこれを退治に向かった。 ところが、何処から流れて来ていたのか、若衆が付近にたどり着いた時には数十体の群がそこに居たのだ。 これはまずいと引き返そうとした時、アヤカシの中でも空を飛ぶ者に見つかり十数人の若衆は必死に逃げ出した。 しかし空と地上でありとても逃げ切れそうにないと判断したルイは、自らが囮となって皆と別方向に走ったのである。 おかげで残る者達は命からがら村まで逃げ延びる事が出来た。 そして村長と相談した結果、アヤカシ退治を開拓者に任せるべきとなったのだ。 開拓者ギルドは、空陸備えた敵である事と敵の数から見て、この依頼に朋友の使用許可を出す。 滝つぼ周辺は開けており、アヤカシ達はここにたむろしているとの事だ。 周囲は森に囲まれていて地上より接近すれば、見つからぬままかなりの距離まで接近できそうである。 今回、どうやら敵の種類が多岐に渡り、またそれらのボスらしい中級アヤカシまで居るとの事。 様々な獣を重ね合わせたような、薄気味の悪い巨大な獣のようなアヤカシがそれであろうと思われる。 他にもイタチ型や、人の顔をもつ人面鳥、猪型などが居る。 リンは家を飛び出し、何時もの丘で声を限りに歌を歌う。 何時も二人で歌っていた丘で、私はここにいるよと、早く迎えに来てと、一緒に歌おうと。 たくさんの思い出と共に、二人で覚えた歌を次々披露する。 一曲一曲に、忘れられない大切な思い出が詰まっている。 もう、歌なのか、泣き声なのか、わからなくなっていた。 「やだよぉ、一人じゃ寂しいよ‥‥一人で歌っても、楽しくなんかないよぉ、るい‥‥」 人面鳥は他の下級アヤカシ達とは違い、少し知能が高いせいか、時折ふらっと群を離れて好きに空を飛び回っている。 ふと、その視界の隅に妙なモノを見つける。 ぼっろぼろになってはいるが、どうもコレは人らしい。 これは運が良いと人面鳥は空中をくるんと一回転するが、はたと鵺の言葉を思い出す。 一人目は常に鵺が食う。手を出したら許さんと言っていた奴の言葉に逆らうのは、かなり恐ろしい事であった。 仕方なく人面鳥は人を抱えて滝つぼに戻る。 なんという不運だと愚痴る人面鳥。人間程の大きさを運ぶのは、人面鳥にとっては大層な労苦であるのだから。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
八神 静馬(ia9904)
18歳・男・サ
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 突入と同時に、無月 幻十郎(ia0102)の雄叫びが響く。 不意をつかれながらも、近場に居たアヤカシ達はその叫びに招かれるように駆け寄ってくる。 思っていたより数が多い。頼むぜおいと幻十郎は上空を見上げた。 新咲 香澄(ia6036)は、龍に乗りながら手を伸ばして片目をつぶり、敵との位置関係を確認する。 ばっちり完璧。良い具合で集まってくれているではないか。 よーし張り切っていこーと気合を入れ術を唱える。 「火炎獣行って! 燃やし尽くせ!」 すぐ脇に現れた獣が香澄の命に従い炎を吐きだす。 香澄の駿龍トゥバンは式に慣れているのか、背中に突然現れた瘴気の塊にもさして怯えた風もない。 アヤカシ達に薙ぎ払うような炎が降り注ぐが、ケモノならば怯むだろう一撃にも、アヤカシは委細構わず飛び込んでくる。 真っ先に飛び出したのは真亡・雫(ia0432)だ。 炎を避け、跳ねるように迫る鎌鼬に斜め上よりの斬撃を。 もちろん無造作に振るった刀ではない。 鎌鼬が大地を蹴った瞬間動き、次に大地に触れるまでの間に斬りつける。 深く胴を斬り裂くも、鎌鼬はくるりと体勢を立て直し、雫の首元目掛けて飛び上がる。 鍔元を引き上げこれを弾く雫。 一切不安を感じさせぬ安定した動きだ。 露羽(ia5413)はその動きに頼もしさを感じつつ、こちらは俊敏な動きにも関わらず炎に巻き込まれた鎌鼬を狙う。 高い姿勢のまま踏み込み、雫の時同様首元を狙い跳ね上がった瞬間、腰より低くまで体を落とし、鎌鼬の下をすり抜ける。 「その動きは見ました」 焼け焦げた鎌鼬の外皮に二筋の亀裂が。 既に露羽は次の敵へと向かっている。 そう、その構えている忍者刀は交錯の瞬間既に振るわれており、鎌鼬は後方でとさっと崩れ落ちた。 流石に先制攻撃は有利である。 数体を瞬く間に斬り倒した開拓者達であったが、数の差が出て来るのはここからである。 シャンテ・ラインハルト(ib0069)は化猪の突進をいなしつつ歌い続ける。 それは体ではなく心が強い人の歌。 恐怖を押し殺し、他人の為に囮となって一人走り続ける勇者。 追い詰められた絶望の中にあって尚輝く、人間の意志の光。 騎士の力は持たずとも、魂はそうあらんとした尊くも儚い硝子細工の剣。 志ある者が聞けば必ずや心底から震えるだろう、そんなシャンテの歌であった。 歌いながら気付く。 皆の守りにつくよう命じた忍犬セレナーデがシャンテの周囲に戻って来ているのだ。 さもありなん。三体の化猪に狙われている主を放っておくなぞ、セレナーデに出来ようはずがないのだ。 戦場は前後衛の役割が意味をなさぬ。それ程の乱戦となっていた。 無月 幻十郎(ia0102)はまとわり付く化猪のせいで、自由に動けぬ状況に歯噛みしていた。 怪我さえなければ、その言葉を飲み込み突進をかわしざま猪を蹴り飛ばす。 同時に背後より襲ってきた鎌鼬が足を薄く斬り裂いていく。 万全であればこいつら全部引き連れた上で順に屠るぐらいの芸当をやってみせるのだが、今は抑えるのだけで手一杯。 しかし戦に出た事を後悔しているわけではない。 あの戦も、ここでの戦いも、全て必要だと思ったまでだ。 ならば後悔なぞあるはずがない。 大きく頭上にまで振り上げた刀。これを体中が主張してくる悲鳴を無視して振り下ろす。 分厚い肉の塊は、一刀で両断しうるシロモノではない。 だから幻十郎は、主の苦戦に手を貸さんとしている朋友、駿龍の八葉に向かっておどけてみせる。 「ほれほれ、後で酒をたんまり飲ませてやるから、今は逃げだ」 咆哮によって引き付ける事に成功したアヤカシを引っ張って引く幻十郎。 すぐに察して同じく引き付けに回った八葉が、主への忠義故したがっているのか、それとも酒につられたか、ちょっと判断がつかないなーとか思っていたのは秘密である。 どんなに状況が悪くとも出来る事を見定め、出来る限りを尽くせるのが、歴戦の証なのであろう。 空にて八神 静馬(ia9904)の相手を務めるのは人面鳥だ。 駿龍、紫苑の誘導に任せ、自身は龍上にてグレートソードを構える。 背後にまとわりつく一匹は放置で、同じく空に居る香澄狙いの人面鳥へと斬りかかる。 羽を三枚千切り取ったのみでそのまま飛びぬけて行くと、後方より人面鳥の術が紫苑へと襲いかかる。 封術の一種らしいこれに、しかし静馬は狙い通りと旋回しつつ距離をあける。 二匹が静馬を追う形になっており、その間に香澄はというと。 「行くよトゥバン!」 愛龍トゥバンにまたがり、相手の魅了だの封術だのを全て蹴散らしつつ、炎の輪を放ち続けている。 ただの一撃で半ばまで焼け焦げる人面鳥。ちょっと相手が気の毒になる程の火力である。 敵の術も、香澄にはまるで効果が無い模様。 封術一発であっさりと封じられてしまった静馬は、流石と苦笑するしかない。 かなり射程のある火輪を、ぼふっぼふっぼふっと三発も打ち込むと、人面鳥はこんがりと狐色に焼き上がり、ひらひらと大地へ落下してく。 旋回の大きさを調節し、ちょうどその間になるよう龍を操る静馬。 人面鳥を打ち落とし、さあ次行ってみよーと気張る香澄の前に来るよう、追ってきた人面鳥二匹を引っ張って来たのだ。 にぃっと笑った香澄より、炎の柱が放たれる。 放たれた炎は渦を巻き、巻き込む全てを喰らいつくさんと人面鳥目掛けて一直線に伸びていく。 外してくれるとはわかっていたが、それでもすぐ横をかすめるように放たれたのだ。怖くないわけがない。 熱風が髪を揺らし、肌がちりちりと熱を持つ。 静馬が手綱を引きその場で減速を命じると、紫苑も熱いだろうに我慢しながら翼を大きくを広げて速度を落とす。 炎の柱が尽きた瞬間、変わらず飛んでくるままであった人面鳥が真横を横切る。 これに、あらん限りの力を込めてグレートソードを合わせると、その首がもう見事な程に跳ね飛んで行った。 親指を立てて合図をすると、香澄も満面の笑みで応える。 残るはボロボロのが一匹。早々にこれを始末して下の援護に行かなくてはならない。 それほどに地上は苦戦を強いられていたのだ。 乃木亜(ia1245)は追い詰められていた。 背後にいるミヅチの藍玉はそもそも近接戦闘に向いていない。 これを守りつつ、視界の端に居るシャンテの援護もしなければならない。 シャンテの忍犬が頑張っているようだが、シャンテ自身は攻撃能力をほぼ持たない。 しかも現在これだけ囲まれて皆が苦戦しているにも関わらず、何処も崩れていないのは、シャンテの歌があればこそ。 受けてみて思うが、確かにこれは凄い力になる。 これさえ絶やさなければ、何とかなると踏ん張ってみたい所だが、もう一つ、やらなければならない事がある。 それは、早々に出張って来た鵺の相手だ。 予め決めていた役割では、乃木亜がこれを抑えに行くはずだったのだが、これではどうにも身動きが取れない。 それでも鵺は一人で抑えるにはあまりに危険すぎる。 どれを優先すべきか迷う乃木亜に、既に鵺へと踏み込んでいた羅喉丸(ia0347)は、腕を突き出し手を大きく開いて応えた。 言葉にせずともわかる。 半ばこちらに背を向ける体勢でありながら、その手の平より伝わる彼の意志、決意は断固たるものだ。 つまり、来るな、これは俺が一人で引き受けるという事だ。 如何に吟遊詩人の援護があるとはいえ、あまりにも危険すぎる。 しかし、その背の頼もしさはどうだ。 そびえ立つ城砦のような、鉄壁を誇る城壁のような、絶対的な防御壁。 出来ぬ事は口にしない。 その代わり約束したからには是が非でも守り通すという、羅喉丸の信念がそのまま現れたかのような頼もしすぎる背中。 断固たる男の決意に、乃木亜はただ頷く事しか出来ない。 いや、頷いただけではない。 やるべき事を見出し、踵を返す乃木亜。 体当たりのように刀を、シャンテを取り囲んでいる化猪に突き刺す。 振り返りざま、顔を叩き付けようとする化猪であったが、これを重心を落とし盾にて押さえ切る。 すぐに体ごと後ろに引くと、無防備の首が眼前に。 振り上げた刀より精霊の力が放たれ、振り下ろすと同時に開放。 ずどんと音がした後、化猪の首が落ちた。 乃木亜は一刻も早く他の敵を倒し尽くし、羅喉丸の援護に向かうと決めたのだ。 遠目に見る分にはそれ程でもなかったが、やはり近くに来ると違う。 威圧されぬよう意識を集中させねば間合いを見誤ってしまうだろう。 薄気味悪いとしか言い様のない、あまりに不自然な獣の合成。 猿の首が噛み付きにかかり、虎の爪が振り下ろされ、かと思うと思わぬ所より蛇の尻尾が飛び掛ってくる。 そして極めつけは強烈な雷撃。 しかし羅喉丸は、噛み付きを下より顎を殴りかわし、爪撃は膝を打ち付けてそらし、尻尾を鎧の金属部にて受けきる。 それでも雷撃は防げず。 一瞬だが、振動と痛みに体が硬直する。 そんな錯覚を振り切り、ここぞと見切った前足の付け根に拳を叩き付ける。 同時に足を振り上げ、胴を真下から蹴り上げつつ、体の真下をくぐって反対側へ。 鵺が居場所を見失っている間に、痛撃より立ち直る。 一打一打が異常に重い。しかし耐え切れぬ程ではない。 流石は吟遊詩人よと心の中だけで称え、自らの龍、甲龍頑鉄の姿を探す。 ちょうど鵺の背後に位置する形、そこで尻尾の攻撃を受けてくれている。 頑鉄の鱗ならばちょっとやそっとでは抜かれるような事はあるまい。 羅喉丸は自らの拳を見下ろす。 鍛えに鍛えた拳は、どうやらこの化物にも通用しているようだ。 急所を射抜く磨きぬいた必殺の一打も有効。 ならば後は。 鵺の牙が迫るのを真横に飛んでかわす。 『動け、雷よりも速く』 最初に気付いたのは、ようやく人面鳥を殲滅し地上の援護へ向かおうとした矢先の静馬だ。 何処よりか現れたもう一匹の人面鳥。 両足で何かを掴み、それが重いのかさほど高くを飛ばぬままにふらふらと飛行している。 次に気付いたのは乃木亜、そして雫、露羽と続く。 位置からして、乃木亜が一番近い。 雫、露羽は同時に動いた。 露羽は今乃木亜が居る位置に向けて、雫は人面鳥の方へと。 露羽の駿龍、月慧が主に先んじてシャンテを守る壁となるべく大地に降り立つ。 すぐさま翼を大きく羽ばたかせると、生じた衝撃波が化猪を切り裂いた。 乃木亜はこの場を露羽達に任せ、人面鳥へと走り出す。 同時に気配を探り、人面鳥が抱えている人間がまだ生きている事を知る。 「まだ息があります!」 人面鳥は滝つぼ、つまり鵺の側にこれを運ぼうとしているらしい。 あんな危険地域に放り込まれたら、助けられるものも助けられなくなる。 静馬は腹をくくる。失敗したら下の仲間を頼るしかないと。 視線を送ると、乃木亜は状況を理解したのか大きく頷いた。 「紫苑お前の力を俺に分けてくれ」 人面鳥の下をくぐるように接近する紫苑。 グレートソードはその重量故、両手で持たねばならぬのだが、片手を空けておかなければ受け止められない。 握りだけは決して離さぬよう、加重移動のみで大剣を振り上げる。 がいーんと派手な音がしてグレートソードが弾かれる。 当然だ。これは斬るための一撃ではない。 人面鳥の足を狙い、掴む人間を離させるため。 そして残した片手は落ちるだろう人物を受け止めるため。 「くっ!?」 が、龍に乗りながら、すれ違いざまに行うにはあまりに速度がつきすぎている。 その人物は静馬の腕を外れ、龍の背を転がるようにして落下していった。 真下に走りこむ乃木亜。 落下する彼に対し、ミヅチ藍玉より癒しの水が送られる。 これで落下の衝撃にもある程度は抵抗がつくはず。 最も重量のある胴体部を両手でしっかり掴み、自らの体を倒しつつ横に飛びその衝撃を逃がさんとする。 どうっと乃木亜の体の上を、落下してきた人物が跳ねる。 呼吸が止まり、支えにした自らの腹部にとんでもない激痛が走る。 それでも乃木亜は彼を放さず、どんどんと地面を跳ねる間も、自身が下にあるよう必死に位置を調整し続ける。 ようやく二人の転倒が止まる。 この機を逃さずと迫り来る鎌鼬に、駆け込んでいた雫が流れるように刀を振るい、これを一刀にてしとめる。 そうして二人の側に駆け寄ると、今度は雫の人妖、刻無の出番だ。 「どっちも息はあるよ。ボクに任せてマスター」 ちょこんと倒れる二人に乗って、神風恩寵による回復を行う。 「ああ、よろしく頼むよ」 雫は遅ればせながら駆け寄ってくる化猪に向かう。 ようやく空の二人が地上へと援護に来てくれたのに、こちらの戦力が割かれる事になってしまった。 しかし、それでも空が自由になっていたおかげでこうして、駆け寄る事も出来たのだ。 そう考える事にした。 心は急くが、とにかく目の前の事を解決しなければ。 何度か刻無による神風恩寵の回復を行った羅喉丸は、今でもあの大物を相手に必死に戦っているのだから。 咆哮を上手く使いつつ敵を引きつけていた幻十郎も、シャンテの側にてこれを守るように刀を振るっている。 反対側には露羽がいる。二匹の龍、八葉と月慧に忍犬セレナーデも踏ん張ってくれているが、敵もこの場に集中してきており、ここに来てかなりキツイ戦いとなる。 それでも、ここが正念場と皆必死に堪え続ける。 上空よりの香澄の炎の輪が、その威力でアヤカシ達を駆逐していくまでの辛抱だ。 そして若干遅れて静馬が龍と共に地上目掛けて突っ込んで来た。 シャンテはもうほとんど残っていない練力を、ここが勝負と振り絞り、更に歌を重ねる。 武勇に長け、立ち塞がる何者であろうと斬り裂き突き進む勇者達の歌。 疲労の極であった仲間達に、まだ戦えると勇気を鼓舞する戦いの歌。 これにより、同時に反撃に移った皆は、残るアヤカシ達を蹴散らしてみせたのだ。 今も戦っているだろう羅喉丸の下へ、疲労も怪我もあろうが、誰もそれを口にせず一心に向かう。 雫もまた化猪を屠り、落下してきた彼と乃木亜の無事を確認すると羅喉丸の所へ走った。 体中怪我を負っていない所など無いのではないのかと思う程満身相違の羅喉丸は、左腕に喰らい付いた猿の顔の横っつらを全力で殴り飛ばす。 飛び散る血潮は、一体どちらのものなのであろうか。 鵺は両の前足を同時に振り上げる。 ちょうど半立ちの状態になり、体重を乗せた爪撃を羅喉丸へ。 「うおおおおおおおおっ!」 裂帛の気合がほとばしる。 後ろではなく前へ。 勇気の代償に頬の皮膚を僅かに奪われ、血の筋が後方へと流れる。 左の拳を前へ突き出すと、明らかに触れていないにも関わらず、現在鵺の全体重を支える後ろ足が片方弾けるようにズレる。 ぐらっと体勢を崩す鵺。 こちらもまたロクに練力も残っていないが、最後に頼れるのはやはり極限まで術理をすら突き詰めた得意技。 骨法起承拳の奥義により、倒れ掛かる鵺の喉に当たる部分に、全身全霊を込めた拳を突き入れた。 バランスを崩していたせいか、そのまま大仰な音と共に倒れる鵺。 すぐに反撃に備え構えを取る羅喉丸であったが、鵺は一行に起き上がってくる気配はない。 ふむ、と注意しつつ近寄り、じっと見つめた後、駆け寄ってきた仲間達に向かって振り向く。 「すまない。どうやら倒してしまったようだ」 何時倒れてもおかしくないような怪我を負いながらそう笑った羅喉丸に、皆は脱力したように大地に座り込む。 ほどなくして、滝つぼの音に負けぬ程の笑い声が響いたそうな。 村に戻る頃には、怪我も疲労も回復していたルイ。 彼は逃走中に足を踏み外して崖より落下してしまっていたらしい。 まずは心配をかけた皆に挨拶を、と遠慮する彼を、皆は寄ってたかって急かしリンの下へと走らせる。 そして開拓者達には感謝の宴を。 怪我やら疲労やらでへろへろであったため、皆早々にばたばたと眠ってしまったのだが、ふと、夜中に聞こえてくる声に気付いた幻十郎が目を覚ます。 「はっはっはっは、うんいいねぇ〜いい歌だ、こっちの歌の方が好きだねぇ」 村を出る前に聞こえてきた慟哭のような歌と比べたのであろう。 時期に皆起き出して来たが、誰もが余計な事は言わずこれに聞き入る。 村中に届けとばかりに、二人の声は軽やかに響き渡っていた。 |