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■オープニング本文 平次と平蔵の二人組、彼等は定時連絡の途絶えたとある砦に向かっていた。 常駐は三人のみ。三月に一度交代するといった形でアヤカシの森を見張っている砦である。 つまりその程度の頻度の交代でも問題無いような危険度の低い砦であった。 「よー平蔵。俺さー、最近すんげー勘がよくなってきたと思うんだ」 「そうかい、その割にこの間飲み会の席で女の子に空気読めてないとか言われてたよな」 「その話をするんじゃねえ、ぶっ殺すぞクソが」 「俺はモテたけどな。いやーあの時隣に居たアケミちゃんと来週一緒に遊びに行くんだー、すっげー楽しみ。うっはっは」 「今死ね、すぐ死ね、さっさと死ね。っつーか俺がこの手でくびり殺す。そこへ直れ‥‥ってそうじゃなくてだ」 「我が世の春って奴ですか? いっや、ホントごめんなぁ、俺ばっかモテるのはやっぱそもそもてめぇとは人種が違うせい‥‥ぐほっ!?」 膝蹴りで平蔵を黙らせる平次。 「つまり、何かこの先で嫌な事がありそうな、そんな予感がするって話だよ」 ちょうど砦の前に辿り着いた二人は、こそーっと中を覗きこむ。 二人の全身が硬直した。 「‥‥おい、俺アレ見た事あるぞ」 「奇遇だな俺もだ。なんていうのか、ああ、そうだ、思い出した‥‥つーか、」 『何で便所蟋蟀があんなクソデカイんだよ!』 思わず全力でつっこんでしまう二人。 当然そんなデカイ声出せば気づかれるわけで。 砦内の開けている場所にたむろしていた巨大昆虫型アヤカシは、入り口の方をぎょろと睨む。 「正式名称カマドウマ、だぜっ」 「無駄知識ありがとう。ああ、他にもあれダンゴ虫とムカデじゃね?」 「言わせてもらうぜ今回ばっかりはよ。あれアヤカシだろ、アヤカシってだけで既に全力で嫌われてるっつーのにその上見た目でまで嫌われにかかるとか、あれか、逆に好感度が上がるとでも思ってるわけそれ?」 「差と差を乗じるとむしろ加算になるとかかなり高度じゃね? 高すぎてついてく気欠片も起きなくなるけど」 「確かに効果はあるかもなあの姿形。正直俺あれに触るのヤだもん。武器越しでも」 「‥‥いやーさー、それよりもー、もっとヤな事あるぜー‥‥」 「何よ?」 砦に居たカマドウマ、ダンゴ虫、ムカデは、一斉に入り口に居る平次と平蔵の方に向かってつっこんできた。 「アレに襲われる事に決まってんだろうがあああああああああ!」 「ちょ、これ洒落になってねえって! マジきめえええええ! つかこええよボケえええええええええ!」 「おまっ! 這うな跳ねるな転がるなあああああああああ! この世の景色じゃねえよこれ! おいでませキモい地獄ってか!?」 「駄目だ! これ一生の思い出になる絶対! 俺もう不潔な便所とか生涯使えねええよくそったれがああああああああああ!」 全力で逃げる二人。 ふと、平次が空を指差す。 「上だ! 上を見ろ平蔵!」 「あん? ‥‥‥‥蛾だああああああああ! 超でけえええええええええ!」 「虫だろお前等分類は基本的に! もうちょい控えめな大きさで妥協しとけってえええええええ!」 開拓者ギルドに依頼が入る。 アヤカシに占領された砦を開放して欲しいと。 敵は全部で七体。全て虫を模した形のアヤカシである。 そこまで記入した後、係員はこれを記述するかどうか少し悩む。 命賭けの仕事をこなしている開拓者相手に、こんな馬鹿みたいな文言を入れる必要があるのかと。 依頼主はこういった文章を書くのになれていないせいであろうと苦笑し、彼は結局この文章は依頼文に入れなかった。 『生理的嫌悪感をもよおす相手です。虫、特にカマドウマ、ダンゴ虫、ムカデ、蛾が苦手な人は止めておいたほうがよろしいかと』 また、今回の依頼においては朋友の使用が許可されている。 もう二度とあの砦を使うつもりはなく、完膚なきまでに破壊しても構わないそうなので、朋友に好きに暴れさせる事も可能なためだ。 |
■参加者一覧
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
奈々月琉央(ia1012)
18歳・男・サ
鬼限(ia3382)
70歳・男・泰
魁(ia6129)
20歳・男・弓
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰 |
■リプレイ本文 蟋蟀に似た形であるが、後ろ足が異常に長く、また色が薄茶色をしていて綺麗な泣き声なぞ欠片も想像出来ぬ醜悪な容姿といった、詳しく形容した所で誰も得をしない素敵な外観を誇るカマドウマ、通称便所蟋蟀君。 これが二匹、交互にぴょんぴょんと跳ね回るのは見ているだけで不快を誘うのだが、今回はこの大きさが7尺(約2メートル)程あるというのだからその恐ろしさは想像を絶する。 「ぐあっ‥‥これ、考えてた以上にキツイ」 真亡雫(ia0432)が率直な感想を溢せば、その朋友である人妖の刻無も一緒に泣き言を漏らす。 「マスター、帰りましょう。非常に気分悪いです」 「いや、帰っちゃダメだよ」 琉央(ia1012)も槍を構えてはいるが、それはむしろ槍で近づかせないようにといった意味合いの方が強いかもしれない。 「‥‥相手というには嫌な感じだが‥‥まあ依頼だしかたねえ。ブラウ!」 砦の外に引っ張り出す事には成功しているので、心置きなく配置していた朋友の駿龍、ブラウケーニギンを呼び出せる。 人妖と違って龍はあまり虫に抵抗は無いのか、やれと言われれば躊躇無く攻撃してくれそうである。 その姿にちょっと元気を取り戻した酒々井統真(ia0893)は、よしっと気合を入れなおす。 「いつまでも見てて気分いいもんじゃないし、早々に退場願うか」 砦から引きずり出す際、朋友の駿龍、鎗真には砦に火を放たせていたので、まだ空を旋回している。 「鎗真、あんなもんに触る必要ねぇから、ソニックブームで叩き落しちまえ!」 早めに終わらせたいというのは皆一緒だったようで、嫌々ではあるが覚悟を決めて総員が攻撃を開始する。 鬼限(ia3382)は巨大な百足を前に、怖気るでもなく、何十年もそうし続けてきた構えを取る。 確かに無数に生える足がもぞもぞやってるのを見るのは気分がよろしくないし、あの巨体がしゃかしゃかとおっそろしい速度で動き回るのは薄気味悪いの一言である。 しかし、もう数えるのも馬鹿らしくなる程繰り返して来た構えを取ると、自然と心があるべき位置に収まってくれる。 お世辞にも効率良く、要領良くなどとはいえぬ人生であったが、それでも、こうしてふとした時に自身を支える杖となってくれるのが嬉しく思えるのだ。 共に戦う朋友、甲龍の結には硬質化にて防戦主体の動きを命じてある。 ならば足の数以外でこんな節足動物に負けてやる謂れなどない。 朋友、炎龍の豪炎に乗り、相川勝一(ia0675)はまだ僅かに燃えている砦を見下ろす。 砦から新たに虫が沸いて出る様子も無い。ならば今いるこれで全てなのであろう。 すぐ脇を魁(ia6129)とその龍伏姫が飛び抜ける。 流石に弓術師か、不安定な龍の上でも構える弓にブレる様子は全く見られない。 狙うは巨大な蛾のアヤカシ。これが三体もいるので、退治は結構骨が折れる。 魁の放つ矢を羽に突き刺しながら、尚猛然と襲い掛かってくる所は流石にアヤカシ、一筋縄ではいかぬ相手だ。 勝一は長巻を構え、ごくんとつばを飲み込む。 「虫が一杯‥‥。無視したいですけどそうもいきませんよね‥‥えっと、ともかく行きましょう!」 懐より仮面を取り出し顔につける。 「相川勝一‥‥参る!」 「でかいって言っても、しょせん虫だろ? すぐやっつけてやるから待ってろよ」 何て事をルーティア(ia8760)は出立前に情報提供者二人にのたもーたそうな。 証人A(平蔵)は「流石ルーティアさんだ! 虫が相手でも何ともないぜ!」と褒め称え、証人B(平次)は「二本の槍が合わさって最強に見える」と関心していたとの事。 が、まあ現物前にした女の子ルーティアの反応は、 「ぎゃーっ! 何だあれ、きもっ! こっち来んな!」 だったらしいが。 甲龍フォートレスにまたがったまま、大地を転がるダンゴ虫と相対するルーティア。 「うえぇ‥‥気持ち悪っ‥‥でも負けないぞ‥‥!」 一方からす(ia6525)は、最早弓とは呼べぬ程にごっつい重機械弓「重突」を構えつつ、隣に控える人妖琴音に問う。 「どう思う? あの大きさ」 「美しくない」 「その通り。虫は小さいからいいのだ。蝶であれ蛍であれ蟷螂や蜻蛉等でも」 がしゃっと重々しい機械音と共に重突にて狙いをつけるからす。 「重機械弓『重突』。その威力、試させて頂く」 その大きさに見合わぬ素早さで動く大百足。これに対する鬼限は得意の蛇拳で迎え撃つ。 人対人であれば、蛇拳の動きも体の向きを変える程度を繰り返す形になろうが、これほどの大きさが相手となるとそうもいかぬ。 全身で蠢き、飛び上がって襲い掛かる百足に対し、体をくねらせるのみならず、足捌きにて広い攻撃範囲から逃れる。 すれ違いざま、鞭のようにしならせた腕を上方に放ち、無数の足の数本をまとめて切り千切る。 二本の内の一本でも失えば大変な事になるが、百本の内の五本では大して効果も望めない。 同時に、長年共にある結が阿吽の呼吸で攻撃を仕掛けるも、複眼は伊達ではないのか百足はひらりとこれをかわす。 手ごわい相手ではある。 しかし得意の蛇拳は、全身を這わせる蛇の動きであり。百足のそれと相通じるものがある。 最初の内こそ動きを読みきれず数度の痛撃をもらってしまうが、それも慣れてくるまでの話。 間合いを見切った後は、髪一重にてかわしつつの蹴撃にて裏側の甲の無い部位を打ち抜き、低く迫り来る顎を飛び越え背なを蹴り砕き、振り下ろした手刀にて更に十本の足を切って落とす。 結の噛み付きもあってか、かなりの損傷に悲鳴を上げる百足。 鬼限はそろそろかと、腰を落として拳を引く。 動きを止めた鬼限に、百足はこれまでの仕返しとばかりに正面より飛び掛る。 まだ間合いまではかなりの距離がある位置で、鬼限は集中させた気の力を拳にまとわせ解き放つ。 裂帛の気合と共に放たれた気功掌は、百足の頭部に命中、これは破砕した。 鬼限は満足気に頷くのだが、ふと隣を見ると結が何やらぺっぺと吐き出している。 「お主、噛み付きにて戦っておったからのう‥‥」 やはり龍とて口に入れて気分の良いものではなかった模様である。 一飛びで空高くまで舞い上がるカマドウマ。 こうなってしまうと統真にも打つ手が無い。 と、駿龍鎗真から衝撃波が放たれ、カマドウマが空中にて体勢を崩す。 「よし! 良くやった鎗真!」 落下地点に向けて駆け出す統真。すぐ隣には琉央もいる。 三歩分、統真が早い。 ずんと音を立ててカマドウマが着地すると、ここが好機と統真は全身からありったけをひねり出す。 全身の器官を無理矢理全力稼動させているかのように、体中から湯気を噴く。 初弾は正拳、胴体深くを抉り刺す一撃。 次弾は肘打、真下に向けて体重を落とし、大地からの支えを得ての痛烈な一撃。 三弾は背打、体当たりのように背なをカマドウマの胴体に叩きつけると、その練り上げた功夫から岩をも砕く衝撃がカマドウマの胴体で炸裂する。 身も世も無い悲鳴をあげながら統真より転げ逃げるカマドウマ。 これに口笛を吹く琉央が続く。 「やるねぇ。んじゃ次は俺の番っと」 八尺(約240センチ)近い長さの槍を易々と振り回し、先端を地に這わせつつ、駆け寄り間合いを計る。 逃げ回り距離が離れたカマドウマではあるが、この技、地断撃ならば全く問題無い。 土砂を跳ね上げながら振り上げられた槍先、そこから放たれた衝撃は音を立てて大地を切り裂き、カマドウマの変色した胴に突き刺さる。 それでも虫ならではの体力で再度大きく飛び上がるカマドウマ。 これを、ちょうど真上に位置していた駿龍ブラウケーニギンが蹴り落とす。 怪我のせいか着地もままならず地に伏すカマドウマに、琉央と統真が駆け寄りトドメを刺すと、ようやく動きを止めた。 雫もまた飛び跳ねるカマドウマの落下しながらの攻撃を回避しつつ、地に足がついている隙に攻撃を加えるといった事を繰り返していた。 人妖の刻無は、どうしても避けきれずもらった傷を一つ一つ丁寧に術で治癒している。 このおかげで、長期戦ならば確実に雫が有利である。 着地際にカマドウマの前足がかすり、二の腕より血飛沫が上がるもこれを無視。 とんっ、と刀を振り上げた勢いそのままに自身も飛び上がる。 跳躍の頂点に達した所で、瞬時に全身を硬化、両手にて握る刀からぎちっと縛るような音が響く。 まっすぐ下へ振り下ろすは重く激しき一撃。 これを決めると今度はまるで体重が無くなったかのように軽やかに真横に飛び跳ねる。 一方の前足に狙いを定めると、その見事な歩法により滑るように移動し、そして攻撃の瞬間炎のような勢いで刀を振るう。 気がつくと、先に二の腕につけられた傷は既に癒えている。 頼もしき相棒に笑みを見せた後、雫は二人の仲間に向かって叫ぶ。 「こいつは僕一人で充分だ! 他の援護を頼むよ!」 ルーティアが龍と共にあり、二本の槍を振り回しているのは大層目につきやすいのか、ダンゴ虫の攻撃はこちらに集中している。 おかげでからすは安心して射撃に専念する事が出来るのだ。 からすの用いる重機械弓「重突」は威力は破格であるが、再装填に時間がかかるのが玉に瑕である。 なので逆に一撃一撃に、練力を用いる技術を乗せてより痛打を与えんとする形が効果的である。 まずは強射「朔月」にて敵装甲の厚さやタフさを見極める。 予想通りといおうか、見た目通りおっそろしく分厚い装甲のようだ。 ならばと影撃に切り替える。骨格の隙間を縫うように矢が突き刺さると、ダンゴ虫はこちらに狙いを定めかける。 直後、ルーティアが槍を突きこんだせいですぐにそちらに向き直ったが。 ダンゴ虫の強烈な回転攻撃によりルーティアも座視出来ぬ怪我を負うが、人妖の琴音が神風恩寵にて回復していくので戦闘継続は可能である。 その間にからすがダンゴ虫に痛撃をと理想的な形になっているのだが、このダンゴ虫、とんでもなく堅い。 ルーティアの龍フォートレスが硬質化によってこれまたとんでもなく堅くなっているので、こちらへの攻撃にしても、ルーティアへの攻撃にしても、痛烈なダンゴ虫の一撃で落ちるような事はない。 しかしこれではジリ貧である。琴音の練力が切れれば戦況は厳しくなる一方となろう。 その辺がわかっているのか、ルーティアは両手にそれぞれ構えた二本のショートスピアをぐるんぐるんと振り回す。 呼応するかのようにフォートレスが雄叫びと共に尻尾をダンゴ虫に叩きつける。 振動に揺れるダンゴ虫、その装甲の節目目掛けて左手のスピアが伸びる。 ルーティアは逆の手に持った槍を振り回し、遠心力を生み出す事で更に勢い激しく槍を突き刺す。 一度引いた程度では抜けぬ程深く刺さった槍を基点に、腕の力だけでダンゴ虫に体を引き寄せ、残る右腕の槍にて装甲の表面を剥ぎ取る。 ばりんと大きな音がすると同時に、刺さっていた槍が引き抜かれる。 両手の槍を十字に構え、狙うは装甲が失われた部位。 これを内側より外に開くように槍を振るって斬り裂く。 アヤカシにも苦痛があるのか、大きく仰け反るダンゴ虫。 それは、正面より狙い定めていたからすが待ちに待った瞬間でもある。 下顎の裏には装甲なぞ存在しない。 これを目掛けて、まるで大砲みたいな重機械弓をぶちかます。 槍でも投げつけたのかという破壊力は、容易くダンゴ虫の頭部を裏側より貫き、びくんと震えた後、ダンゴ虫は動きを止めるのだった。 三匹の蛾はどれが誰に専属になる、といった形ではなく交互に入れ替わりながら勝一と魁を狙う。 これらを避けながら、或いは受け止めながら反撃していく二人は、しかし受身のせいか集中攻撃を仕掛ける事が出来ない。 防御や回避能力に乏しい魁は、駿龍伏姫に距離を取りつつ囲まれぬよう指示をしていたのだが、これが功を奏した。 下手に集中攻撃なぞされていたら、さしもの開拓者といえど堕ちていたかもしれない。 それ程にここは厳しい戦闘となった。 勝一は豪炎の強靭なクロウと、自らの長巻で蛾の一体を狙う。 蛾同士息が合うせいか、攻撃を仕掛けようとした蛾の側にもう一匹がすりよってくる。 避けている時間は無い。 構わず突き進めと命じると、豪炎は気を吐きながら猛然と蛾達に迫る。 「チャンスだ! 豪炎は右、俺は左を! 突撃ー!」 二体の間をすりぬけざまに、豪炎は左の蛾の羽をクロウにて斬り裂き、勝一は長巻の柄の奥を持ちより遠くまで届くように握って、これを横一文字に振るい過ぎる。 ぱあっと、燐粉が舞ったのは、一人と一体による攻撃のせいか。 反転して再攻撃を、と振り返った勝一は、直上から火の弾が降り注ぐのに驚いて上を向く。 カマドウマを片付けた統真が、龍をつかって真下に炎を吐かせていたのだ。 ぼっと燃え上がる蛾に、魁が鷲のように鋭い視線で、引き絞った弓から矢を放つ。 「狙い撃つぜ!」 龍の上にありながら正確無比な射撃を放ち、蛾の表面積からすると異常に小さい体部分を射抜くと、きりもみを描きながら落下し、大地に激突して果てた。 へっ、と鼻を鳴らしながら魁は大地を見下ろす。 ちょうど最後のカマドウマを雫が叩き斬った所であった。 残るは空の蛾が二体のみ。勝敗は決した。 全てが終わって帰還した一行。正直誰しもが虫なぞ姿を見るのも嫌だといった顔をしていたが、ごく一名だけ例外が。 大笑いしながら両手に虫を持って平蔵と平次を追いかけるルーティア。 「ほーら、平蔵平次ー。むしだよむしー」 「ばっ!? てめっ! ざけんなそれやめろってせっかく忘れようと努力した俺の根性無に返すとかお前どこのド畜生だこらあああああああ!」 「よーし囮作戦だ平次てめーが虫まみれになって地獄に堕ちろ俺はこれからデートだし!」 「行かせるかよ! っていいかげんにしろルーティアてめえええええええ!」 雫はどうせ砦は使わないのだろうし焼き払ってはどうかと提案するが、戦闘が終わり仮面を外した勝一は、心底嫌そうに主張する。 「すみません、もうあそこ近づきたくないかもです」 「‥‥まあ、気持ちはわかりますけどね」 統真は拳をわにわにさせて握ったり開いたりしている。 「くっそ、あの独特の感触は何度やっても慣れそうにないな」 同じ泰拳士の鬼限も気持ちはわかるのか苦笑している。 「じゃのう。かといって我等は触れずに済ますともいかぬし、今回ばかりは弓術師が羨ましいぞ」 話を振られた魁は、さんざん蛾に追い回されていたので、とてもではないが幸運だなどと思う気にはなれない。 助けを求めるようにもう一人の弓術師に目をやると、何時の間にか姿が見えなくなっていた。 からすが何をしていたかというと、やったら賑やかな連中を放置で陣幕の内を整えており、中で皆に寛ぐよう勧める。 「お疲れ。お茶はいかがかな?」 この時、心を落ち着ける作用のあるお茶が、ことのほかおいしく感じられたとか。 |