超村長
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/08 14:19



■オープニング本文

 都市も近い事から交易もそれなり、肥えた土地を有しており農作物の収穫も悪くない。
 夏に祭りを楽しみ、月に一度は贅沢嗜好品に舌鼓をうち、衣食住に困る者も一人としておらず。
 そんな豊かな村であるのは、代々村長がしっかりした人間であったからだと言われている。
 もちろん今の村長も実務能力は高く、人を惹きつけて止まぬ魅力の持ち主でもある。
 しかし惜しむらくは代々の村長がそうであったように、彼もまた、敵と相対した時の無謀さは比類無きものであったという事か。
「アヤカシの群だと!? そんなものこの私が退治してくれるわ!」
「村長落ち着いて下さい! 幾らなんでも数が多すぎますって! 素直に開拓者を頼みましょう!」
「はーっはっはっはっはっは! 有象無象が束になった所でこの私に敵うはずがないだろう!」
「どーこからそういう理由の無い自信湧き出てくるんですかっ!」
 村長は、憂いなど一欠けらも無い満面の笑みで、こう応えた。
「何故なら! 私が村長だからだ!」

 事実、体は大きいし腕力もある。知恵も働くし機転も効く。
 下手な野盗なら彼一人で撃退する事も可能かもしれない。
 しかし、幾らなんでもアヤカシ相手に普通の人間では分が悪すぎる。
 長く平和であった村でアヤカシの強さを具体的に知る者など居るはずもない。
 しかし、その姿を見た村長の側近は、さしもの無敵の村長でもコレには勝てぬと思えたのだ。
 山の獣と違って火を見ても怯む事すらない獰猛なアヤカシ達。これを、村長はたった一人で迎え撃つつもりなのだ。
 他の者達が手を貸すと言っても絶対に聞き入れない。
 村長は、窮地において真っ先に体を張るからこそ村長なのだと、常々口にしていた言葉を繰り返すのみだ。
 水害により村中が浸水した時も、村長は誰よりも先に堤の補修に取り掛かり、他の者達には自分の畑と家を守れと言い放った。
 皆、他の事などしている余裕などなかった。
 そして三日が過ぎ、ようやく水が引いたと安堵した村人達が堤に向かうと、何と、村長は知恵と工夫と持ち前の腕力で、たった一人で堤を直してしまっていたのだ。
 泥だらけの顔で、三日三晩まるで寝ていない村長はそれでも、損害はどの程度だと問い、そのまま村の復旧を指揮するのだ。
 村人達の大半は、もしかしたら村長ならばアヤカシ退治もやれてしまうのでは、そう思っていたりする。
 それ程村長は信頼されているのだ。
 しかし、側近はだからこそ、村長を守らなければという使命に燃える。
 信頼出来る友人に何としてでも村長の足を止め時間を稼げと言い残し、側近は都市にある開拓者ギルドへと駆け込んだのだった。

「いけません! 考え直して下さい!」
 若い衆の一人が必死になってこれを止めるも、村長は軽々とこれを振り払う。
「ええいこれ以上近づかれては何時村に被害が出るかわからんだろうが!」
「お願いします! 今開拓者達に依頼してますので、後少しだけ、少しだけ我慢して‥‥」
「いいや我慢ならん! アヤカシだろうとヒヤカシだろうと私が叩き返してやる!」
「だーかーらー無茶ですってばー!」
「無茶ではない! 何故なら‥‥私は村長なのだから!」
 バンと扉を開いて飛び出す村長。
 若衆は必死に後を追うが、足も速く体力も尋常ではない村長にあっさりと振り切られる。
「ぜはー‥‥あ、あれで志体無いとか嘘だろ‥‥どうなってんだウチの村長は‥‥」
 疲れ果てて道端に倒れる若衆は、とにかく一刻でも早く開拓者が来てくれる事を祈るより他に、術がなかった。

 水辺に陣取るアヤカシ達。
 もう見るからにアヤカシである。人間の姿をしているが、その皮や肉は腐乱しそこらに崩れ落ちている。
 殺す前から死んでるとかどんだけ準備がいいんだとも思うが、死んでも終わってない辺りにアヤカシ的卑怯さを感じないでもない。
 彼等を率いる中級アヤカシは、こちらはさわやかな笑顔がまぶしい好青年の姿である。
 惜しむらくは頭にでっかい斧が突き刺さってて、肉体は健康そのものだが、やはりこいつも死体だなと即座にわかる所であろうか。
 彼等を見下ろし、村長は頭を捻る。
「さてどうやってこいつら退治してくれようか‥‥」


■参加者一覧
陽(ia0327
26歳・男・陰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
来宮 カムル(ia2783
16歳・男・志
雲母(ia6295
20歳・女・陰
綾羽(ia6653
24歳・女・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
ベアトリーチェ(ia8478
12歳・女・陰
神呪 舞(ia8982
14歳・女・陰


■リプレイ本文

 村長は齢五十を越えるとは到底思えぬ筋骨隆々とした肉体を駆使し、時折ちらと後ろを振り返りつつ走る。
 人の姿を見るなり即座に攻撃にうつるアヤカシ達。
 この習性を利用して、村長はアヤカシ達を村から引き剥がしにかかったのだ。
 周辺一体の地理は全て頭に入っている。途中途中で罠を仕掛け数を減らす等も考えたのだが、時間が無いのと罠程度ではアヤカシを屠る事が難しいのとで断念した。
 恐怖が無いわけではない。
 相手は疲れを知らぬアヤカシで、捕まってしまえば生きたまま貪り食われるだろう。
 現に一度目の挑戦では、振り切れる地形にたどり着く前に追いつかれそうになってしまったのだから。
 それでも何とか走りぬきアヤカシ達を撒いた後、背負った袋より食事を取り、休息を得て再びアヤカシ達に挑んだのだ。
 これを繰り返して村から遠く離れた土地までアヤカシ達を引きずっていく。
 これが、村長が今回考えた策であった。

 神呪舞(ia8982)はようやく見つけた村長から事情を聞くと、呆れるを通り越して逆に感心してしまう。
 言ってる事も無茶苦茶だし、やってる事もヤケクソだが、それでも、確かに聞いてみれば僅かでも成功の可能性がある策である。
 走りに走って滝のような汗を流した後、体を休ませていたせいか頬に白い筋がすーっと走る村長。
 その姿を見て何とも言えぬ表情になる。
「全く、失うには惜しい人ですね」
 ベアトリーチェ(ia8478)は反対にイライラを隠そうともしていない。
 素直に自分達に任せれば話は早いのにと大層ご立腹である。
 舞がまあまあとベアトリーチェを宥めつつ、村長にこの後は開拓者達に任せるよう言うと、村長は渋面を見せた。
「ふむ、お主らがアヤカシ退治の専門家であるというのはわかったが、しかし数はあちらの方が上であろう。如何に開拓者とて数に勝るアヤカシを相手では‥‥」
 責任感が強いせいか、全てを任せっきりには出来ぬようだ。
 更に目尻に皺を寄せるベアトリーチェを、舞が慌ててどうどうと抑える。
 おもむろに、来宮カムル(ia2783)が前に出てきた。
「志体持ちですらない爺さんは引っ込んでな。アヤカシ退治は専門家の仕事だぜ」
 ぴくと片眉を跳ね上げる村長。
「何だと若造。もう一度言ってみろ」
「何度だって言ってやるよ。どうしてもわかんねえってんなら拳で理解させるまでだ」
「はっ、見るからにひょろひょろの若造が抜かしよるわ」
「老い先短いジジイこそ身の程知りな!」
 二人は同時に拳を振り上げる。
 もう知った事かとそっぽを向くベアトリーチェと、はらはらしながら手に汗握っている舞。
 この三人が村長を説得するべく差し向けられた開拓者達だというのだから、彼等の人選の妙には恐れ入る。

 その頃、他の者達はアヤカシ達を遠間から監視していた。
 陰陽師の陽(ia0327)は村でもらったおにぎりをほおばりながらくっくっくと笑う。
「世の中アヤカシより面白い奴が居るもんだな、と」
 同感なのか天河ふしぎ(ia1037)が元気良く同意する。
「正に男の中の男だね!」
 すぐさま雲母(ia6295)がにやにやと笑いながら口を挟んでくる。
「ふしぎ、少しはあの男を見習ったらどうだ?」
 じとーっと見返すふしぎ。
「どういう意味さ」
「さてな」
 さらっとかわして視線を逸らすと、その先に村長を説得に向かった面々が現れた。
 一心(ia8409)は出迎えようかと腰を上げたのだが、思わずその挙動が止まってしまう。
 同じく立ち上がろうとした綾羽(ia6653)と顔を見合わせる。
「えっと、あれは一体‥‥」
「わかりませんけど、一応説得は成功、と見てよろしいのでしょうか‥‥」
「そりゃまあ、ものっすごい仲良さそうに肩とか組んじゃってますから」
「ええ、カムルさんとても楽しそうにお歌を歌ってらっしゃるようで。ああ、ベアトリーチェさんが呆れたといおうか諦めたといおうか、複雑な表情をなさってます」
「舞殿も一緒に行ってもらって正解でしたな。誰かがふぉろー役をこなさねばエライ事になってたかもしれませんし」
 とにもかくにも、こうして戦闘の前準備はそれなりに整ったのである。

 カムルの色々な意味で大人げないというか志体持ちげない力技の説得に村長は心から納得してくれたよーで、世の中甘く出来てるんだなぁとか他の者が思ったとかそうでないとか。
「お主らの戦いこの目で得と拝見させてもらおう。だが、決して命を粗末にするでないぞ。危うくなったら下がるのもまた勇気と覚えておけ」
 ベアトリーチェが半ばキレ気味に、しかし辛うじて自制する。
 任せておけと親指を上げるカムル。無邪気に笑って承諾するふしぎ。笑い転げている陽。
 綾羽も一心も舞も、もう苦笑以外どうしろというんだといった顔であるが、一人雲母のみが堂々と言うべき言葉を口にする。
「お前が言うな」
 全くである。
 こうして村長が戦闘不参加を快く承諾してくれたので、開拓者達はアヤカシの群に攻撃を開始する。
 前衛二人、カムルとふしぎが敵に向かって駆け、後衛四人を守るように雲母と一心が前に立って弓を構える。
 綾羽と舞の二人で、神楽舞「速」「攻」「防」を前衛二人にかけてやる。
 舞はそれだけでは済ませたくないようだが、愚痴だけで堪えている。
「‥‥爽やかな笑顔が実にイラッとする死体ですね。‥‥浄炎が使えれば焼き尽くしてやれるのに」
 また、綾羽の膝が少しがくがくと震えているのは、戦闘への恐怖というよりは半ばが崩れている下級アヤカシの姿のせいであろう。
 舞曰く腹の立つ笑顔を見せる頭から斧を生やした中級アヤカシに、陰陽師の二人ベアトリーチェと陽が交互に呪縛符を仕掛ける。
 術者が四人もいるおかげで、戦闘能力増強や敵の能力低下の術を効率的に集中運用が出来るのだ。
 もっともベアトリーチェだけは別の意図があるようだが。
「ああ、もう! 我慢の限界だわ! そこのあなた、八つ当たりされなさい!」
 薔薇の棘に絡めとられた中級アヤカシに、花びらを刃のように飛ばし攻撃する。
「紅き薔薇よ、彼の者を切り裂く刃となれ!」
 舞と同じく、無駄にさわやかすまいりーなあの顔がベアトリーチェの癇に障るようだが、陽はどうやら中級アヤカシのあの頭の斧が気に入った模様。
「はは、頭にカッコいい飾りが付いてら」
 なのでというわけでもなかろうが、中級アヤカシには足止め程度の術でとどめておき、他の下級アヤカシに火力を向ける。
 斬撃符を使い頭数を早めに減らしにかかる。
「まぁ良くも悪くも普通の動く死体だな」
 しぶとい所や体組織が崩れても平然と動く様を見ての感想だろうが、普通は死体は動いたりしないものである。
 一心は前衛をすり抜けてきた下級アヤカシに狙いを定める。
 陽はその辺りを良く心得ているのか、前衛を抜けようとしているアヤカシにまず攻撃を仕掛けている。
 一心もまた、強射「朔月」にて同じ敵を狙う。
「それ以上は近づけさせませんよ」
 武器を手に持ち近接を仕掛けんとしてくる敵に、弓にて対抗するのは実は結構な勇気がいる。
 この一撃を当てれば倒せる。そう確信出来るのならともかく、相手は比類無きしぶとさを誇るアヤカシ達である。
 人間ならば致命傷となるような傷を負ってすら攻撃を仕掛けてきそうなのだ。
 そんなアヤカシを相手に心乱される事なく、確実に狙いを定め、より効果的な一撃をと急所を刺し貫く。
 それが出来て初めて一人前の弓術師たりえるのだ。
 もちろん一心は一流の弓術師であり、矢を放った直後の残心を忘れず、頭部が吹っ飛んだまま襲い掛かってくる下級アヤカシの動きを凝視していた。
「さて、今日もアヤカシ退治と洒落込もうか」
 隣で暢気に煙管をくわえていた雲母が、ようやく弓を引き絞る。
 握った手から力ある意思が矢に伝えられ、弧を描いた弓全体から霊的な迸りが放たれる。
 一枚絵として永久にその姿を残したいと思えるような、荘厳な彫刻のようにも見える美しさがそこにあった。
 力んだ様子もなくごく自然に離された手からは、光が零れるように矢が放たれる。
 精神の力を解き放った矢は周囲の空間を巻き込み旋風の渦と化す。
 真っ先にコレを受けた一心が頭部を吹き飛ばした下級アヤカシは、今度こそトドメとばかりに体をバラバラに引き裂かれて地に伏した。
 無論それだけでこの矢がとどまろうはずもなく、更に前衛を抜けようとしていた下級アヤカシ達を巻き込み、一度に吹き飛ばす。
 くわえた煙管の先を、ひょいっと上に向け笑う雲母。
「さあ、やるぞ一心。弓術師というものがどれほどのものか、あの村長に見せ付けてやろう」
 尊大で挑発的だが、それでもこういった場面では本当に頼れる力強さである。
「ええ、近づく前に全て片付けてやりましょう」
 そして前衛組である。
 下級アヤカシ含め、一人で三体以上を支える事になっており、流石に後ろに抜けようとする何体かを止めている余裕が無い。
 しかし後ろからあの村長が見ている以上、無様な姿は見せられぬと意地で踏ん張るカムル。
 幸い、途切れる事なく援護の術は届けられるので、普段の五割増しで暴れ続ける事が出来る。
 珠刀「阿見」を袈裟に振り下ろしながら、殴り合いまでした村長の事を考える。
 こちらの力量を見極めるなり、あっさりと開拓者による戦闘解決を認めて来た。
 策も自棄になって暴れるようなものではなく、どうにかして解決しようと知恵を絞り、工夫した後が見られる。
 度量もあり懐深く人情味に溢れる、つまる所、やはり愛されるに足る人物であるようだ。
「全部終わったら、改めて酒でも呑みたいね」
 片腕を斬り飛ばしても、全く気にした様子もなく襲ってくる下級アヤカシにうんざりしながら、カムルはそんな事を考えていた。
 無駄にさわやか満点笑顔の頭から斧を生やした中級アヤカシは、見た目のうざさとは裏腹に恐ろしく強いアヤカシであった。
 これを正面より相手取っているのはふしぎである。
 結構な時間多数を相手し続けていたので、息が上がってきている。
 それでも時間経過に比例して敵の数も減らせて来ているので、もう一踏ん張りだと自らを鼓舞する。
 もう何度目になるか、舞と綾羽より神楽舞が送られる。
 これまで、中級アヤカシのあまりの素早さに、完全に捉える事が出来ぬままであった。
 戦闘中でも全く崩れない笑顔には正直殺意が沸くが、それはさておき、戦闘技術という点では冠絶した物を持っていると思われる。
 ふしぎの得物、斬馬刀は威力はやったらごつい見た目通りのものがあるが、扱うのに少々所ではない程難がある。
 そもそも大きすぎて振り方も限定されてしまうため、動きを読まれやすくなってしまうのだ。
 まともに捉えれば受けも何も無い武器であるので、そこは良し悪しであろうが。
 中級アヤカシは間合いの出入り速度が凄まじく、ふしぎが斬馬刀を振るう度間合いから外れ、すぐ様踏み込んで来て攻撃を繰り返してくるのだ。
 深呼吸一つ。
 ふしぎがそうあれと念じると、精霊力が斬馬刀の根元より刀先までもを覆い尽くし、深紅に燃え上がる。
「お前がどんなに素早くたって‥‥」
 横薙ぎに振るった斬馬刀から紅き燐光が漏れ溢れる。
 中級アヤカシはその輝きに惑わされる事なく大きく飛び下がる。奴はこれでも次の一歩で踏み込みきれるのだ。
 目標を失い、重量と慣性のまま流される斬馬刀。
 頃合や良しと大地を蹴らんとする中級アヤカシの、足の動きをふしぎは睨み続けていた。
「見切った!」
 両肘を曲げ、体全体を下に落とす事で流れる体と斬馬刀を無理矢理に引き戻す。
 その大きさと重量から想像もつかぬ程鋭角的な動きで、斜め上へと切上げられる刀身。
 中級アヤカシは自らの失策を悟るも、踏み込むべく大地を蹴った直後では戻るに戻れず。
 右斜め上よりの袈裟斬り、そして振り下ろした斬馬刀を斬り抜かず、両手首を返すと同時に肩を入れて重量を支え、左斜め上へと斬り上げる。
「紅・葉・剣、紅蓮Vの字斬りっ!」
 中級アヤカシの体前面にVの文字が刻まれ、完全に動きを止めた中級アヤカシの頭部から、ぽろりと斧が落ちる。
 背丈程度の高さであったが、重量のある斧はずしんと大地に突き刺さり、それが戦闘終了の合図となった。

 全てが終わり、村に戻るとさて祝いの酒だという事で酒宴が開かれた。
 ちなみに村長はというと、舞と綾羽の巫女コンビに説教されていて酒を飲むどころではなかったりする。
 くどくどと舞は正座している村長の前で言葉を連ねる。
「村人の事を考えるなら自分の重要性も考えてください。人の命の価値は、平等などではないのですよ?」
 綾羽もまたあまり強い口調ではないが、静かに注意を続ける。
「村を思っての行動でしょうけど、無茶と無謀は違いますし‥‥やはり村の長であるならば、落ち着いて考えることも大事だと分かっておいてほしいものです‥‥」
 さしもの村長も、アヤカシの群を撃退した開拓者相手に強く反論しずらいのか、助けを求めるようにカムルを見やるが、彼ははっはっはと笑っているのみ。
 他の皆も村長を気に入ってはいるが、助け舟は出さず楽しそうに酒や料理を口にしている。
 ベアトリーチェは溜飲が降りたとご満悦の様子。
「自業自得だ」
 そんな彼女の頭をかいぐりかいぐりしている雲母。
 可愛らしい子を愛でる趣味でもあるのだろうか。
 ふしぎは雲母にいじられてたまるかと、一心の側に避難中。
 あまり口数の多くない一心の側は居心地が良いのか、陽も一緒になって三人で酒を酌み交わす。
 ふと、一心は村長を連れて村に戻った時を思い出す。
 安堵の余りへたりこんでいる側近達の姿と、迎え入れてくれた村人達の歓声は、忘れられない良い思い出になってくれそうだった。