空賊退治と口数多い女
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/27 19:42



■オープニング本文

 木造の小型飛空船は、その足の速さを買われ時価の商品をあちらこちらへと運ぶ交易に用いられる。
 しかしこのご時勢、こういった船を狙う不心得者も後を絶たず、特に襲撃に適した地形を飛ぶ時は船乗り達も生きた心地がしないという。
 重要航路であればあるほど、陸路の困難さがつきまとい、それはすなわち陸の支援を得られぬ場所という事で、空賊と呼ばれる空戦のプロの独壇場となりやすい。
 北面南部にある港から、南下し五行に至る空路は遭都を通らず直接五行へと至れる数少ない空路なので、急ぎの物品を運ぶに適しているのだが、五行北部を根城にする空賊達にとっては格好の餌となろう。
 五行側も無論対策を練ってはいるが、空賊もまた小型の飛空船を持ち根城をころころと変えてくるので対策が難しいのだ。
 そこで商人達は一計を案じる。
 最初から奪われるつもりで積荷を運んではどうかと。
 もちろん疑われぬよう金品も入れてはおくが、それらに潜ませ屈強な戦士を送り込み、連中を壊滅させるのだ。
 この作戦が成功するかどうかは送り込まれる戦士次第だろう。
 しかし商人達は、彼等ならばとなけなしの利益を集めあって準備を整える。
 そう、開拓者ギルドを頼るのだ。

 空賊達は今日の戦果を古くなって廃棄された、彼らの根城である砦にて祝う。
 近隣氏族の偉いさんを幾人か金で抑えてからは、随分と商売がやりやすくなった。
 やはり世の中は金であり、それを効率的に回収出来る者が勝者となるのだ、と頭目は声高らかに笑う。
 今回得た人質も、中々の金持ちらしく身代金も期待出来よう。そうでない者達は売り飛ばしてしまえばよい。
 蛇の道は何とやら。商品が何であろうと金を払ってくれる相手は居るものなのだ。

「てめーこっから出しやがれいやごめんなさい出来れば出してくれると嬉しいですけど更に言うなれば家というか北面まで連れ返ってくれないかなと飛空船壊されちゃったしそのぐらい要求してもバチは当たらないと思うんだほらやっぱり因果応報って考えたらここは一つ私を家に帰すぐらいはしておいた方が地獄に堕ちてから安心快適蜘蛛の糸を期待出来る生活送れそうじゃん人の生き方なんてさ結局生きる希望がそこにあるかどうかであって苦しさなんて三日もすれば慣れるもんだからこそ明日を託すべく僅かな希望を残すべき‥‥」
「お前ホント良くしゃべるのな」
 牢番は文句を言う気も失せたのか、それだけ言うと後は若者が牢屋の中で喚くに任せている。
「はいはいそりゃもうこちとら商人、口から生まれた生き物ですから。それより一つ小耳にお入れしたい情報がありまして。いやいや、これは別に取引とかではありませんよ。身代金を払うアテが全く無い私なりに皆さんのお力になれればこの先に大きく口を広げて待っている絶望の城に至る事なく幸福な余生を楽しめるかもしれないかなと思った次第でして、一週間後に同じ空路を二隻の小型飛空船が通るんですけどね。金を直接輸送するらしいですし、武具も色々取り揃えてるとかで、結構なエモノになるんじゃないかなーとか。もしかしたら龍も積んでく事になるかもーとか景気の良い話も聞きましたねー」
 牢番ははいはいと聞き流していたのだが、後半を聞いてぎょっとする。
「お前、今なんて言った?」
「おや、やはり興味がおありで?」
 良しかかった。と、空賊退治の準備を整える途中で出立せざるを得ないハメになった挙句、見事襲われて囚われの身となった男装の商人は内心でほくそ笑む。
 開拓者手配の依頼は済んでいて、後はそれとなく空路を空賊達に漏らすだけであったのだが、今はこれを逆用させてもらおうと商人は腹をくくる。
 変装技術は化粧の一環として覚えておいたのが役に立ったが、いつまでも誤魔化しきれるとも思えない。
『これでもうら若き乙女ですからねぇ、貞操の危機とか勘弁して下さい。後それ以上に私の船と積荷返せコンチクショー』


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
来宮 カムル(ia2783
16歳・男・志
箕祭 晄(ia5324
21歳・男・砲
タクト・ローランド(ia5373
20歳・男・シ
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ


■リプレイ本文

 浅井灰音(ia7439)は空賊旗をはたはたと掲げる船を見つけると、同乗していた船長に訊ねる。
「逃げ切れるか?」
「荷物が重すぎます」
「それは良かった」
 捕まった理由を考える必要が無いのは楽でよろしい。
 計画通り、このまま空賊に捕まりアジトまで連れていってもらうつもりである。
 流石に女性の身で捕まるのは怖いものがあるので、灰音は男装をしているが。
 二隻の小型飛空船は驚く程あっさりと空賊に拿捕される。
 船長は身代金を払うからどうか開放して欲しいと交渉をしている。
 その辺りのやりとりは商人である彼が専門だと灰音は任せきりにしてある。
 しかし話し合いをしている最中、数人の男達が灰音へと向ける視線が気になった。
 あの下卑た笑いは、そういった対象としてこちらを見ている証ではなかろうかと。

 タクト・ローランド(ia5373)は船の通風孔の中に身を潜めていた。
 空賊は船長や灰音に暴力を振るう様子は無かったので、これならばとほっと一息。
 船の荷物はわざわざ別の船に移動するような事はせず、そのまま船ごと奪い取ってしまっている。
 手馴れたものであるが、おかげでこちらの策は今の所滞りなく順調に進んでいる。
 ふと、戦利品でも漁りに来たのか、空賊達の下っ端がこちらの船に乗り込んで来た。
 緊張に身を硬くするタクトを他所に、部屋で男達は何やら相談を始める。
「な、なあ頼むよ。協力してくれって」
「お前の趣味は知ってるけどさ‥‥お頭にぶっ殺されっぞ、それ」
「だけどよぉ、あんな逸材を見逃す手はねえって! むちゃくちゃ可愛いじゃねえかよ! な! あいつ俺のモノに出来るよう口添え頼むって!」
 タクトの背筋が凍る。船長は何処からどう見ても男にしか見えない。となれば、灰音の変装がバレたという事だ。
「駄目元でいいんなら言っといてやるけどよ。身代金取れるって話になってたら諦めろよ」
「すまねえ! やっぱ持つべきモノは友達だぜ! いっやぁ、あんな可愛い男の娘そうそういねーって! これ見逃したら俺一生後悔してたぜ!」
「‥‥普通に女にしとけばいいじゃねーか」
「うるせえよ! 無駄に贅肉膨らませてる女の何処がいいんだよ!? いいか! 男の娘にはな! 愛と夢と希望と劣情と成人未満お断りが詰りに詰まってんだよ! あ、やべ鼻血が‥‥」
「‥‥‥‥こいつ出血多量で今すぐ死なねぇかなぁ」
 全く同感だとタクトは通風孔の中で一人頷くのであった。

 その頃、下っ端言う所の無駄な贅肉代表でもある瀧鷲漸(ia8176)は、狭い箱の中でじーっとしていた。
 一緒の箱に隠れている酒々井統真(ia0893)は、箱に入ってから漸とは顔を合わせようともしない。
「‥‥統真、そんなに無理に端に寄らないでも、まだ箱の大きさには余裕があるぞ」
「ほっといてくれ」
「無理矢理箱の壁を見るような姿勢を取っては、体が痛むだろう。もう少し楽にしたらどうだ?」
「頼むからほっといてくれ」
「‥‥もしかして、私は臭かったりするのか? むう、それはそれで流石の私も傷つくな‥‥」
「‥‥頼むから、俺の事は居ないものとして扱ってくれ‥‥今必死に精神を集中してる所なんだ‥‥」
「集中? 何故そんな事を‥‥」
 うぎぎと、ものっすごい言いにくそうにする統真。
「俺はこれでも、健全な男子なんだよ」
 きょとんとした顔の漸は、ようやく意味を理解したのか含むように笑い出す。
「そうか、そうだな。統真も男の子だったな‥‥くっくっく、そうかそうか、気になって仕方が無いか‥‥」
「何で嬉しそうなんだお前は!?」
 ここはここで結構楽しそうであった。

 道中、色々と不安材料もあったが、どうやらつつがなく目的地に辿り着けたようである。
 タクトは空賊達の動きを監視し、段取りがどういったものか確認する。
 灰音と船長は牢に連れていかれるらしい。積荷をどうこうするのは後回しで、まずは龍の移動を行っている。アジトの仲間達に最大の戦果である龍を自慢したいのであろう。
 六匹の龍は、予めそう命じられていた通り素直に指示に従っている。
 自分達が使う船と、獲物の船とは別の場所においてあるようだ。
 そもそもそんなに大きなアジトでもないので、それ程距離は離れていないようであるが。
 ふと仲間達が潜んでいる部屋に向かう三人組を見かける。
 どうやら彼等は戦利品の品定めを行うつもりのようだ。
 ご愁傷様、とやる気なく手を合わせた後、タクトはこの手の砦だとどの辺りに牢を作るか、などと考えながら移動を開始する。
「いくぞ、ふぇりす。頼りにしてるというか任せるから‥‥って、冗談だから噛むな!」

 がたがたと箱が揺れる。
 最初に出て来たのは、輝夜(ia1150)と鈴梅雛(ia0116)である。
 運の悪い事に、入っていた箱の上に別の荷物を乗っけられていたのだが、輝夜が強力を用いて力づくで荷物ごとふたを開いたのだ。
 呆気に取られる三人に向け、輝夜はバトルアックスを振り回し、一度に弾き飛ばす。
 敵かと驚き逃げ出そうとする男達。
 その前に、来宮カムル(ia2783)が立ちはだかる。
 げっ、と別の逃げ道を探そうとする男は、箕祭晄(ia5324)の放つ矢に射抜かれ倒れた。
「っだー! めんどくせえ!」
 もんの凄い音を立てて箱の側面が砕け散る。
 なかなか開かない蓋に業を煮やした統真が中から蹴り飛ばしたのである。
 漸も同じ穴から転がり出て来る。
「さっきもそうだが、一応曲りなりにも潜入任務なんだしもう少し大人しく出来んのか?」
「うるせぇ。さっさと片付けて‥‥」
 二人がもめている間に、とっくに全て片付いた後であった。
 周辺を探し、置いておいた愛槍を見つけた輝夜は満足気にこれを手にするが、隣の雛は見るからにしょぼーんと落胆している。
「‥‥なまこさんが居ません」
「龍は先に連れ出したか。先にこれを見つけないとな。私と雛は早々にそちらに向かうとしよう」
 カムルは船の窓から外の様子を確認している。
「一仕事の後、って感じだね。油断しすぎとも思うけど、自分の家に戻ったらみんなこんなものかな」
 輝夜は槍を片手で軽く回すと特に気負った風もなく声をかける。
 流石に歴戦なだけあって、敵地のど真ん中だというのに怯えの欠片も見られない。
「さて、では行くとするか」
「え、もう? あ、いやいやいや、わかった。行こうぜ」
 ちょっと深呼吸した後、晄はようやく腹をくくる。
「よ〜し、ケン! 一緒に頑張ろうぜぇ!」
 こちらは即座にわん、と勢い良く返事が返ってくる。相棒の猟犬謙次郎の方が、もしかしたら度胸はあるのかもしれない。
 輝夜と雛は逃げ出せぬよう空賊の船を抑えに、残る統真、漸、カムル、晄の四人は砦の奥に向かい主力を撃破する。
 予め決めていた役割に従い、六人は攻撃を開始した。

 灰音は心底うんざりしていた。
「問題はこの砦には男の娘大好きーな組合みたいなものがありまして、その人達一般向けでない自覚があるぶん影に隠れてはいるんですけど、時々向けられる視線が痛くてですね。というか私の本来の性別考えたらこれただの侮辱じゃないですか? 私怒っていいですか? むしろ大暴れした挙句全裸になってすっぱーっと性別明らかにしてやろーかと思う程私は怒りに怒ってるのですが、そんな後先考えない真似するのは商人ではない、そう思いませんか? 思いますよね、ですので私は‥‥ああ、そうですよ。私達は捕虜に身なのですから、例え男女で同じ牢に入れられているとはいえ自重してくださいね。それが出来る理性ある方だと思ったからこそ、こうして私の秘中の秘を明かしたわけですから‥‥」
 何故か船長は別の牢に。
 二人は知らなかったが、この牢は男の娘大好き同盟が、もし身代金が出なかったら俺にくれええええええええええ! と絶叫した捕虜を、他の捕虜と間違えて売り飛ばさないように一箇所にまとめてあるというお話である。
 危うし灰音。
 着くなり暴れる気満々なので、まーその辺は今更ではあるが。
 そろそろ動き始めようかとした所、どうやら先を越されたようである。
 通路を歩いて来たのは、早速行動を始めていたタクトであった。
「よう、お待たせ」
 牢の鍵を開くと、灰音はようやくコレから開放されるかとさっさと外に出てしまう。
「え? え? これは‥‥その‥‥」
 振り返った灰音は少し意地悪そうに笑う。
「空賊退治を依頼された開拓者だ。事が終わるまでは、しばらくそこで静かにしてなさい」
 ぱあっと見てわかる程に喜色に満ち満ちていく商人の顔。
 必要な事以外を口にするとエライ事になりそーなので、灰音はそれ以上は何も言わずさっさと牢から抜けようとするが、すぐに足を止める。
「‥‥タクトさん、つけられたね」
 あちゃーと額に手をやるタクト。
「悪ぃ、まさか俺の抜足見破る奴が居るとはな。シノビ、それも‥‥」
 相手は緊張しきった顔で灰音とタクトを睨みつけている。
 そう、この二人の実力を一目で見抜いているのだ。つまりは、その程度には使える相手であるという事だ。
「志体持ちって所か」
 二体一。敵はすぐにでもこの場を逃げ去り急事を皆に伝えたい所なのだろうが、下手に動けば灰音とタクトの二人に斬られかねない。
 故に動けず。しかし見つかっても構わない、むしろ騒ぎを起こす気で居る二人は、両側よりシノビに迫り、タクトの猫又ふぇりすは商人を守るように前に立ち、鎌鼬を放つ。
 武器が不自由な灰音ではあるが、ここで負ける気など欠片も無いのであった。

 砦には船の発着に使っている広場がある。
 たまたま船の調整をしていた船員二人は、あっという間に輝夜に叩っ斬られる。
 雛は嬉しそうに愛龍であるなまこさんの元へと駆け寄る。
「なまこさん、一緒に頑張りましょう」
 くえっと小さく鳴いた後、騒ぎを聞きつけ飛び出して来た男達に飛び掛っていく。
 輝夜も駿龍、輝龍夜桜の首筋を撫でてやる。
「窮屈な思いをさせてしまったな、許せ輝桜よ。これよりは存分に暴れまわって良いぞ」
 言われるままに捕まっていたのが不満であったのか、縄を解いてやると嬉しそうに飛び上がって行った。
 雛は更に他の龍も解き放ち、この場の制圧戦力とする。
 カムルの駿龍ウルムラは大空へと舞い上がると、上空より標的を見定める。
 そして急降下攻撃に移る一瞬、空にて動きが止まった時に合わせて地上より弓で狙う男が居た。
 弦を引き絞り、後は放つだけとなっていた男は、不意に真横より飛び込んできた駿龍によって狙いを外してしまう。
 統真の龍、鎗真である。こういったフォロー体質は飼い主に随分と鍛えられている模様。
 ウルムラも駿龍の名に恥じぬ素早さで弓を構える男に迫り、クロウによって鋭く引き裂く。
 二頭は鳴き声を響かせ合った後、弓は危険だとの野生の勘からか、まずはコレをと集中攻撃を加えるのだった。
 灰音の炎龍ロートリッターは、気性故か灰音以外にはほとんど懐かないのだが、今回は事前に言い含めてあった事もあり、船発着場に来る空賊達への攻撃に参加する。
 漸の炎龍烈灯臥も同様で命令通り空賊への攻撃は行うのだが、同じ炎龍同士意識しあっているのか、角突合せて競うように攻撃を続ける。
 端から見ている雛は何時ケンカを始めるかと冷や冷やものである。
 こちらに来たのは輝夜と雛の二人のみだが、こうして龍も六騎居るので戦力は充分である。
 しかし、朋友では届かぬ敵も存在する。
 志体を持つ者には、如何な龍とて敵わないのだ。
 なまこさんの固い鱗を剣撃で傷つけた相手を見つけた雛は、輝夜に注意の声をあげる。
「輝夜さん! サムライさんがいらっしゃいます!」
 柄の部分を一振りし、空賊の一人を比喩でなく彼方にぶっ飛ばした輝夜は、ようやく来たかと槍をしごいてサムライへと向かう。
 即座に雛より神楽舞・攻が入る。
 見た目からしてのんびりとした容姿をしているが、閃癒をすら身につけている程の巫女だ。
 この辺は何も言わずとも阿吽で済んでしまう。
 輝夜も輝夜で志体持ちに龍を攻撃されては拙いと、真っ先に咆哮を使って攻撃対象を自分に固定させる。
 雛の直衛が龍のみという状況であるが、六体の龍が暴れまわる最中を突破して彼女を狙うのも難しいだろうと、輝夜は眼前の敵に集中する。
 槍を突き込むと、男は太刀にてこれを受け止める。
 一合だ。ただの一合で輝夜は確信した。
『私は、この男より強い』

 カムルと統真が先行し、誰何の声を上げる空賊達を次々斬り、或いは蹴り倒していく。
 五人程黙らせた所で、敵も襲撃を理解したのか数を揃えて迎撃に出て来た。
「てめぇら何処のもんだ!?」
 吠えているのは恐らく頭目であろう。
 カムルは一歩下がって晄の前に立ち、代わりに後ろに控えていた漸が出てくる。
 統真は首をこきこきと鳴らしながら、そちらを見もせず小声で話す。
「道は俺が開いてやるから、大将は任せた」
 頭目の合図に合わせ、一斉に飛び掛ってくる空賊達。
 開拓者達は同時に動く。
 即射の技にて素早く弓を構えた晄は、相棒の謙次郎が足元に喰らいつき動きが鈍った空賊の急所を一撃で射抜く。
 まずは後衛をと狙う空賊達は、カムルがさせぬと立ちはだかる。
 そして頭目前に居た男を泰練気法・壱にて自らを強化した統真が蹴り、殴り飛ばす。
 隙間をするっと縫って頭目へと迫るは漸だ。
 出来れば降伏勧告ぐらいはしてやりたかったのだが、どうにもそんな状況ではないようだ。
「‥‥仕方ないか」
 すぐ側で統真が漸に頭目以外は近づけぬと構えているのが見える。
「統真、一瞬だけ離れろ。危ないぞ」
「あ?」
 直後、もんぬ凄い勢いで漸のハルバードが振るわれ、統真のさほど伸びていない髪をすら揺らす突風に巻き込まれる。
 直接被害はもちろん無いものの、心臓に大層よろしくない。
「同時に言ったら意味ねえだろ!」
 統真の文句を聞いているのかいないのか、さっさと頭目に斬りかかる漸。
 すぐ後ろではカムルが刀に炎を纏わせ一人づつ確実にしとめていっている。
 同時に後ろより回り込もうとする者には謙次郎が飛び掛ってこれを抑え、晄は一人と一匹に守られながら、こちらはもうただの一射すら外さずきっちり仕事をこなしてくれている。
 ならば心配無用と、八極門の構えから敢えて孤立するような位置取りをする。
 当然八方より敵は襲い来るが、同時に用いる背拳の極意によりこれをかわし、防ぎ、反撃を食らわせていく。
 これで、戦闘は綺麗に膠着状態となる。
 空賊側は数が多いが、開拓者達を崩せる程の手を用意しえず、こうした時打開策となりうる志体を持つ頭目は漸との一騎打ち中。
 ならばそちらが決着つくまで堪えよう、そう決めた空賊達は戦闘を続ける。
 そして空賊達の四分の一が討ち取られた頃、漸の裂帛の気合が部屋中に響き渡る。
 蜻蛉の構えよりの両断剣である。
 こんなものまともにもらってはたまったものではない。
 既に漸の剛槍を何度もその身に受けていた頭目は遂にこの一撃にて倒れ、空賊主力との戦闘はほぼ決着がついたのである。

 逃げ出そうとした者は結構な数に上ったが、皆足を使って逃げようとしたので、船の発着場にて待ち構えていた輝夜、雛率いる龍軍団に踏み潰された。
 人質は全部で十人近く居たのだが、彼等を盾にと考えた者達は、灰音とタクトにより滅殺される。
 結局統真よりショートソードを受け取っている暇が無かった灰音は、炎を吹き上げる飛苦無とかで頑張って戦っていた。
 後で統真に文句でも言ってやろうと心に決めつつ。
 まあ何だかんだ言いつつそれで勝ってしまうのだから、達人は武器を選ばずという事なのであろうか。
 龍を連れてきた皆は、やはり空賊に扱わせていたのが気になっていたのか、全てが終わるとすぐに愛龍の元へと向かう。
 おかげで本気でケンカ始めそうになっていた、烈灯臥とロートリッターを止められたのは僥倖である。
「すまん灰音。この子も普段はそんなでもないのだが、戦闘後で気が立っているようだ」
「こっちこそごめん漸さん。ってほら! 言ってる側から威嚇しない、羽ばたかない、吠えたりしないっ」
 案外に苦労しているようである。
 統真は怪我を負っていた鎗真の治療を雛に頼んでいた。
「思ったより龍の損害、大きかったのか?」
「です。ひいなはこちらに来て正解だったと思うのですが、そちらも大変でしたか?」
「まあ四人居たしな。って、おいわかったズボンを引っ張るな、お前もだ。そうえっと‥‥謙次郎だったか。だから四人と一匹だ」
 統真のズボンの裾を引っ張って抗議していた謙次郎は、それを聞いて納得したのかわんっ、吠えた。
 晄はそれを見てはっはっはと笑っている。
「いーや反省の色が見られない、もっとやってやれケン」
「ってお前の差し金かよこれ!」
 ぎゃあぎゃあと賑やかしい面々を他所に、タクトは朋友のふぇりすとのんびり一休みをしていた。
「ご苦労ふぇりす。報酬は秋刀魚一匹だ」
 セコイ主人である。
 助け出した人質達を船に乗せている途中、カムルはとある商人を案内した事を心底後悔していた。
「いっやー、今回ばかりは本当にもう駄目か、私の人生これで奈落の底の裏っかわに張り付いてとれなくなった頑固な汚れと成り果てますかと絶望に打ちひしがれ壁に張り付いて爪をぎりぎりと立てていた所ですが、こうして皆さんの活躍により命を永らえる事になりまして恐悦至極感謝感激臥薪嘗胆生きてて良かったはれるや私ってなもんでして。ですが惜しむらくは私の船が既に破壊されてしまっている事と多分私の荷は売り飛ばされて消滅している事でしょうか。ああもちろん空賊のものを横取りさせろとかそういう話ではありませんよ、ただ魚心あれば水心と申しますし不幸続きの女商人にも幸運の女神、ああこの場合男神とでもいうべきでしょうか、に微笑んでいただきたいかなと‥‥」
 灰音とタクトに恨みがましい視線でもぶつけてやろうかと思ったのだが、速攻で二人揃って逃げ出したらしい。
「ああわかったわかった。助けに来たんだから感謝しろとかは言わないから、せめて黙って助けられて貰えるか? 」
「そんな!? 私は商人ですから口を開かないでいるとそれだけで呼吸が困難に陥り前後不覚情緒不安定となりむしろご迷惑をおかけするハメになりまして、それは大恩ある皆々様に対し心苦しいの極みですので。その上でと申されるのなら最早私からは何も言う事はございません。空賊の船を二隻も渡して下さればわたくし商人の誇りと名誉にかけこの件口をつむぐ所存‥‥」
 ああ、多分こいつ何言っても無理だと悟ったカムルは、右から左へと聞き流す事に決めた。
 こんなのとっ捕まえた空賊も大変だったろうな、とか人事のように思いながら。