人斬り娼婦ラリウッド
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/02 03:09



■オープニング本文

 マクシムは紅茨騎士団の弱体化を認める。騎士団自体は団長アレシュさえ居れば後はどうなとなるのだが、手数が減りすぎたせいで身動きが取れなくなってきている。
 マクシムが抱える魔術師団を護衛する程の戦力を割けぬようになっている。となればマクシムは手の切り時とも考えたが、やはり連中と結ぶ事により得られる資金援助は捨て難い。
 これより護衛は自分達で手配する、そう騎士団側に宣言すると、マクシムはロゴスという男を呼ぶ。
「事情は聞いているな」
「そりゃ、まあ。俺をお呼びって事ぁ、あれですか。殺しっすか?」
「いや。お前のツテを頼りたくてな。腕の立つ者を確保して欲しいのだ」
 ロゴスは上役の前だというのに、遠慮呵責無しに、大爆笑を始めた。
「ちょっ! 何言ってんすか! 俺のツテって本気っすか!? そんなもんに頼んだ日にゃ魔術師の方が喰われかねませんぜ!」
「誰が護衛を任せると言った。せっかく騎士団とは一時疎遠になれたのだ。この機に奴等が居ては出来なかった事をしておこうと思ってな」
「ああっ! はいはいはいはい! そういう事っすね! 了解りょーかい! んじゃ早速ですが……」
 ロゴスは人差し指を立てる。
「魔術師五十人。貸してもらえません?」
 マクシムは紅茨騎士団団長アレシュに代わり、配下の中で最もイカレた男、『クレイジーロゴス』に実働部隊を任せる事にしたのだ。

 ジルベリアにおける罪人の収容施設。その一つが襲撃を受けた。当然、充分な警備体制が整っている場所であったが、建物ごと吹き飛ばすような無茶で無法な圧倒的襲撃を想定なぞはしていない。
「おおおおい、生き残ってる奴ぁ居るかああああああ!? 死んだ!? みんな死んじまったかああああ!?」
 崩れ落ちた建物の前でロゴスが叫ぶと、瓦礫を跳ね除けた男が一人、二人、三人と立ち上がる。
「おい、コイツは一体何の騒ぎだ?」
「何だぁ? 遂に俺達まとめて始末しようって気になったってか?」
「…………敵、か?」
 そして四人目は、無言でロゴス目掛けて突っ込んで来る。
「おいおいおいおいおいおい俺だよ俺! ロゴス! わかるかダムル!」
 それで一応男は止まったが、警戒の目線は向けたまま。
「っつー事で、お前等の脱走手助けに来た。ただな、脱走した所で身受け先が無きゃぁ、すぐにまた牢屋行きだ。今度こそ死罪かもなぁ。だからよぉ、おめーらは俺の世話になるっきゃねえのよ、わかる?」
 最初の三人の内の一人が剣呑な声を出す。
「タダ働きしろってか、おうコラ」
「するわきゃねえだろお前等がタダ働きなんざ! 金は当然出すってーの。上手い酒飲んで上手い飯食うぐらいの金は出るから心配すんじゃねええええええ!」
 剣呑な声を出した男が、ころっと表情を笑顔に変える。
「おおおおおい、それを先に言えよ兄弟。おーけい、おーけい、何処だって行ってやるぜぇ、お前等はどうするよ?」
 残る連中も異口同音に賛意を示す。いずれにせよ、牢よりはマシなのである。
 他にも瓦礫の中から自力で這い出て来た者を、ロゴスは皆拾って帰る。この時、牢屋の警備をしていた者まで連れて帰ったというのだから、色々と節操の無い男である。
 彼等皆が去った後、震えながら隠れていた警備員は、真っ青になって言った。
「馬鹿、な。あれは皆、名の知れた外道ばかりだぞ……だから言ったのだ、罪状が軽くともあのような輩は早々に処刑してしまえと」


 また、別の日にもロゴスは精力的に動く。
「カリスト博士よおおおおおおお! 金出すからちいいいいいとばかり手貸してくんね?」
「金はいらん。幼女を一人寄越せ」
「ん〜〜♪ おっけー了解任せとけ!」

「ザムジー! おいザムジー! てめえ相変わらず腐ってやがるか!?」
「誰が腐ってるだ誰が」
「おっめえ以外居るかあああああ! 女しか斬らねえ人斬りド変態野朗があああああ!」

「ラリウッドさーん、お手紙ですよー」
「はーい」
「よう」
「…………あのさ。私旦那作って幸せ絶頂なんだけど何しに来たの?」
「人殺して回って、それで金もらえんだけどお前もこねえ?」
「行くっ。何よそれ、そんなおいしい事になってんなら早く言いなさいよ。ああ、その前に、旦那殺してこなくっちゃ」

 ロゴスが集めたクズ共は、即座に動かさなければ飼い主の手を噛む狂犬ばかりだ。
 更にその上、ジルベリアという国の中で生きてきただけあって、どいつもこいつも保身には長けている始末に終えぬ者ばかり。
 そんな彼等を集めたロゴスは、人攫いの仕事を任せる。
 それぞれ魔術師達のニーズに合わせた様々な人間達を、ジルベリア各地から見繕ってさらって来るのだ。
 面白い事に、彼等クズが仕事だからと招く者達の大半が同じクズなのだが、中にまっとうな神経を持つ者が混ざっているものなのだ。
 そんなまともな連中を特に魔術師の護衛として雇いなおし、イカレた奴等は攻めに回す。
 ドジを踏む間抜けも居たが、これで概ね、魔術師団が望む実験はこなし終える事が出来たのだ。もちろん、まだ足りぬと抜かす欲の深い者もいるのだが。


「なめられたものですね、ウチも」
 ギルド係員ディーは、これまでの事件から全ての実行犯の特定に成功していた。
 ジルベリア帝国とは別に、情報は命を旨とするジルベリア開拓者ギルドでは要注意人物のデータベースを所有しており、これに照らし合わせれば大抵のクズは特定可能なのだ。
 そっくりな似顔絵まで用意する程の徹底ぶりは、ジルベリアに開拓者ギルドありを世に知らしめるに足るものであろう。
 すぐに内通者を作り出し、次の襲撃場所での待ち伏せを手配する。
「次の標的は……妊婦? ああ、開拓者達に追伸で、捕える必要はありませんと」


 ラリウッドは自らの肢体が持つ魔力を良く理解している。
 これを用いれば栄耀栄華は思うがまま、という程でもない事も。だからラリウッドは自分の嗜好を満足させる程度に利用するに留める。
 彼女、ラリウッドは、人斬りに魅せられていた。
 その町の役人を皆殺しにし、誰も逆らえぬようしておきながら、存分に斬って回るつもりであった。妊婦の拉致は、彼女と古い付き合いの連中に任せる。
 町から人を出したとして、隣町から人が来るのに三日。この間に撤収してしまえば良いわけだ。
 ラリウッド含む志体持ち八人とは、それが出来る戦力だ。
 この町で開拓者達はクズ共を待ち構える。町へ至る入り口前で彼等を殲滅するのが今回の依頼となる。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
シュラハトリア・M(ia0352
10歳・女・陰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
ジャリード(ib6682
20歳・男・砂
ヴァルトルーデ・レント(ib9488
18歳・女・騎
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文


 梢・飛鈴(ia0034)は手にした棍を突き出す。それだけの動きで、宝珠が働き疾風が生じる。
 対するジュディは大剣を眼前に構え動かず。風はただ構えているだけの剣に切り裂かれる。
 裂けた風がジュディの頬を切り、鎧の表面をかすめるも、ジュディが目を閉じる事はない。
 体正面に構えていた大剣が、次の瞬間には前方に向け真横に薙がれている。その速度、尋常ならざる。
 風に紛れ踏み出していた飛鈴は、大きく右に飛び、回り込む動きを見せる。
 飛鈴の背後から、その動きを追うように大剣が迫る。
 そちらを見もせず勘のみでしゃがんで回避。ジュディの大剣は振り切られずすぐに切り返し、飛鈴の眼前に迫る。
 大剣が風切り音と共に振り切られる。飛鈴の姿は無い。
 振り抜かれた大剣。この剣の上に飛鈴は立っていた。
 即座に大剣から手を離すジュディ。一瞬早く飛び降り隣接を果たす飛鈴。真下から振り上げた足がジュディの顎を蹴り上げる。
 これと同時に、ジュディは足の甲で大剣を蹴り上げ手に取る。
「さて、ここまで食いつかれてマトモに剣が振るえるかナ?」
 ジュディは突き放す目的で飛鈴の股下より大剣を振り上げる。
 この距離でも斬れる一撃を見舞ったのは見事だが、ここまでだ。
 飛鈴が跳躍し、ジュディの頭上を飛び越える。剣が追いつくも、足裏で踏み付けむしろ跳躍の加速に使われる。
 着地と同時に脛裏から下段蹴り。崩れた所を本命の上段蹴り。
 それでもジュディは振り返り、大剣を飛鈴に振り下ろす。
「おそイ」
 次の上段蹴りをジュディは防ぐ事も堪える事も出来ず。その蹴りの威力を、信じられぬと倒れた。
「アンタ等みたいな騎士には効果はバッチリだゼ」

 魔槍砲にての接近戦、それがケーズのスタイルだ。
 一方ジャリード(ib6682)は事前にこのスタイルを掴んでいたので、ケーズとは距離を開けたまま戦闘を続ける。
 敵は恐らくジャリードより腕が立つ。無理押しは厳禁。敵の情報を得ているという優位を最大限に活かす。
 ケーズはジャリードの武器、短銃二丁を見て近接仕様だと勇んで突っ込んだのだが、ジャリードはこれに付き合わず逃げ打ちに徹する。
「貴様! 何の真似だ!」
 ケーズの言葉も無視し、回り込むように走る。ケーズは一直線にこれを追う。そして川那辺 由愛(ia0068)が仕掛けた罠、地縛霊にモロにかかる。
 これ幸いとジャリードが銃弾を二発程くれてやると、ケーズは完全にキレた。
「近距離でしか使えぬとでも思ったか!?」
 魔槍砲をそのままでぶっ放す。
 流石の威力。ジャリードは薙ぎ倒され大地を転がる。
 苦痛を堪えながら立ち上がるジャリード。二射目を構えるケーズ。魔槍砲が火を噴いた。
 閃光にその全身を包まれるジャリードであったが、爆煙が晴れると、体のそこかしこから煙を上げながらもジャリードがまっすぐに立ち、二丁の拳銃を構えている。
 一度もらっていれば、堪え方ぐらいは学べるのだ。
 銃撃を受けたケーズは激昂し、再度の射撃を。挑発は充分。と、ジャリードは予め見つけておいた地面の窪みに飛び込む。頭上を閃光が抜けていくが、損傷は無い。
「キッ! キサマ!?」
 魔槍砲は練力消費が激しいのはわかっているのだ。一発でも外せれば、後は地力勝負でも充分勝ち目があろう。
 ケーズは挑発の限りを尽くし接近戦へと誘うが、当然、ジャリードは全てを無視し封殺しきるのであった。

 サライ(ic1447)が牽制に投げ込んだ棒手裏剣を敵シノビ、サライ二号(仮)は腕で受け止める。
 同名のシノビが居ると聞いて来たサライであったが、少なくとも見た目は似ても似つかない骨ばった男である。
 返礼とばかりにサライ二号から苦無が飛んで来るが、サライは頭部を低く下げる事で危なげなく回避する。
 そこからは、両者走りながらの投擲合戦。
 だがこの段階で、サライはお互いの力量差を概ね把握していた。
 技量はサライが上。しかし、敵にも勝利の機会はある。
「もしかして僕の偽者ですか?」
 サライは走りながら、サライ二号を煽り続ける。
 それに乗ったせいかどうかは定かではないが、サライ二号が動きを見せる。
 苦無ではなくサライ二号の影が伸び、サライへと迫ったのだ。
 その影に向け逆に駆けよっていくサライは、影に捉えられる寸前、眼下に棒手裏剣を投げ込む。
 大地に刺さったこれは伸びた影を射抜き縛り付ける。そしてサライの姿が消える。
 側面より棒手裏剣がサライ二号に突き刺さる。驚きそちらを見る二号。居ない。再び棒手裏剣が今度は背中に。
 ようやく二号が夜の存在に気付いた時は、既に彼我のダメージレースは致命的なまでに差がついていた。
 身を翻し、即座に逃走を選ぶ判断の速さは評価に値するかもしれないが、いずれ結果は一緒である。
 振り向いた先で見たサライが鉄の爪を振るう姿が、彼が見た今生最後の景色となった。
 二号は今わの際に、女の名前を残していった。
「僕達シノビは夜春で籠絡する側です。籠絡されてどうするんですか? 修行が足りませんね」

 アイダナの剣に、手にした銃を弾き飛ばされた葛切 カズラ(ia0725)は、計算づくの角度で大地に倒れ、衣服を着崩す。
 怯えた目をアイダナに向け、両腿をこすりつけるように動かす。上から覗き込むとカズラの大きな胸がよく見える見事な姿勢である。
 とどめとばかりに、それが唯一の抵抗手段であるかのように、飛ばされた短銃を未練がましく眺めてやる。
 アイダナは嬉々として銃を蹴り飛ばし、絶対的優位を確保した。
 既にアイダナはカズラが狙う精神状態に持っていかれている。
「……たすけて……」
 消え入るような声で言ってやると、彼は下卑た顔でこれを了承してやる。ついでに捕縛すべくカズラに近寄り、鬼魅降伏をもらってあっさり魅了状態に。
 カズラ、流石に脳内のみでぼやく。
『馬鹿とは聞いていたけど、ここまでとはねぇ』
 カズラが味方になるよう頼むと、彼は親指を立てて言った。
「任せなマイスイートハニー!」
 味方を斬る事にもまるで抵抗無さそうでゲス野朗なのは間違いないが、ここまで馬鹿だといっそ哀れさすら覚える。
 なので背を向けた彼に、せめても心地よく往ってもらおうと二体の魔物をけしかけてやる。
 一体目。面を被った人型。これはまじめーにアイダナをボコる。
 二体目。触手モンスター。こちらも真面目にアイダナを捕縛してるかと思えば、何やら触手の先端がアイダナの服の内に入り込んでいく。
 その衣服の内で一体何が行われているのか。それが明らかにされる事は決して無かろうが、彼の刻一刻と変化していく表情を見るに、節度ある大人が口にしていいい事ではなかろうとはわかる。
 そのまま彼が果てるのを確認したカズラは、満足した顔で言った。
「ん〜〜、良かったわよ、貴方」


 執行対象囚人―ロプロスを確認。

 ロプロスのメテオストライクが炸裂すると、大地が砕け土煙が派手に舞い上がる。
 これを突き破り突進するヴァルトルーデ・レント(ib9488)だったが、ロプロスもまた熟練魔術師らしく怯える事無く次の術を。

 執行要請、受託済み。

 ロプロスの眼前に術に従い紅蓮の炎が巻き上がる。渦を巻いていたこの炎はロプロスの指し示す先、ヴァルトルーデへと螺旋を描いて襲い掛かる。
 しかしこちらも熟練の開拓者にして処刑人。怯むなんて言葉とは無縁だ。

 執行事由―逃亡につき。

 遂に、ロプロスを攻撃間合いに捉える。ロプロスはそれでもまだ怯えを見せず、笑みと共に迎え入れる。
「活きが良いな! そうでなくては燃やし甲斐が無い!」
 彼の戯言に付き合う趣味は無いヴァルトルーデは、全身よりオーラを滾らせ只々この男の息の根を止める事に集中する。

 本件処刑執行人はレント家のヴァルトルーデが務めるものとする。

 一閃、二閃。ロプロスは嬉しげな悲鳴を上げる。
「痛いなあおい! 痛くてたまらんぞ! だが! ん〜〜!? そろそろ燃えるかあ! 燃え尽きるんじゃないのかぁ!?」
 再びエルファイアーの術をヴァルトルーデへと放つ。全身が燃え上がるが、それでもオーラの障壁は炎にすら効果を発揮する。

 以上につき

「やせ我慢は良くないっ! 熱いんだろう! 苦しいんだろう!」
 煽りながらも術を唱え続けるロプロス。

 処刑―

「おいっ! まだ動くのか!? 私の炎をこんなにももらってまだ動くというか!?」
 ようやく、そうようやくロプロスが焦りを見せたのは後一撃で良かろうと思えた所でだ。

 ―執行


 シュラハトリア・M(ia0352)は、ザ・ディープを前に率直に問うてみた。
「何でこんな名前なの?」
 ザ・ディープは真顔で答える。
「ジルベリアに来た初日、武僧とはどういった存在なのかを半日かけて説明した後、ジルベリア風の偽名をソイツに聞いたらそれにしろって言われた」
 くすくすと笑い出すシュラハトリア。
「変なの」
「俺もそう思う」
 彼は自分の頭を撫でた後、言った。
「じゅ、そろそろ殴るがいいか」
「ヤ」
「駄目だ」
 相手が小娘だろうと、情け容赦なく殴り飛ばすザ・ディープ。しかし彼は自らの足元を見下ろすと、足からひどい出血が。
「えへへっ♪」
「上等!」
 怪我した足で更に回し蹴ると、シュラハトリアは勢い良く転がっていくが、今度は逆の足にヒドイ傷口が。
 口の端から滴る血をそのままに立ち上がるシュラハトリア。その広げた両腕の先には、高速回転する円盤状の何かが。
 再び放たれたこれで大きく出血するザ・ディープだったが、傷自体は見た目程ではないのかすぐに動き出す。
 その攻撃の鋭さにシュラハトリア側は対策が無い。いや、ある。シュラハトリアは真っ向からの削り合いを挑んでいた。
 ザ・ディープの眼前に、シュラハトリアの詠唱と共に立ち上がる形容し難き存在。
「今度は何だ!」
「えへへぇ、可愛いでしょぉ〜♪」
 その攻撃を必死にかわそうと集中するも、何処から生えて来るかわからぬ攻撃なぞどうしようもない。
 シュラハトリアが詠唱を続けると、この意味不明な物体(生命体と定義すると各所から抗議が来る)は更なる攻撃をしかける。
 結局の所、シュラハトリアの防御性能は薄紙の如くであったが、それを補ってあまりある火力で押し切るのであった。

 開戦と同時に真っ先に仕掛けたのが川那辺由愛だ。
 それも陰陽の奥義の一つをいきなりぶちこむのだからこの女容赦が無い。
 まともにもらったカリフォーは堪らずふらつく。が、すぐに立ち直り憤怒の表情を見せるのは、痛いで一々足を止めていては生きていけない場所で人生送って来たせいだろう。
 一直線に由愛を目指すが、ソレの前で回り込む軌道に変化するのはソコにある何かを察したからか。恐るべき勘の良さだ。
「そー来るか」
 回りこんだ先に、由愛が結界呪符で壁を作り上げる。
 この壁、幅より高さの方があるため、回り込んだ方が早い。しかし、罠へ誘導するにも極めて有用な術だ。通る先の選択が極めて重要となる。
 由愛は、どう出るか構えながら待つ。壁の向こう側から、強く息を吐き出す音が聞こえた。
 由愛の眼前に、爆発的に瘴気が吹き付けて来る。何が起こったかは明白。カリフォーが壁を粉砕し、ここを道としたのだ。
 そしてそれは、由愛の思惑通りでもあった。
「んなっ!?」
 壁を粉砕して通る場所に、罠を仕掛けておいた訳ではない。そもそも、由愛は全周囲にそうしておいただけの話だ。
 それでもカリフォーの勘ならば察する事も出来たかもしれないが、壁の存在が逆に彼女の目を曇らせた。壁の上なら大丈夫だと。
 そして本日二度目、黄泉から来たナイスガイ(レディ?)によるスーパー蹂躙タイムである。
 カリフォーの悲鳴とも絶叫ともつかぬ断末魔。
「悲鳴が好きなのでしょう? ほら、嬉しそうな顔をしなさい」
 カリフォーは憎憎しげに刀を振り上げ、そんな彼女に告げてやる。
「何よ、まだ足りないの? 仕方ないわねぇ」
「なっ! 待って! や、やめっ!」
 彼女の言葉を聞き入れてやる義理など、由愛には欠片も無いのである。

「あなたが僕の相手だね♪ 多分、同類同士ってことで……斬り合いを楽しもうか♪ じーっくりとね?」
 野乃原・那美(ia5377)のシノビらしい動きにも、ラリウッドの剣が遅れる事は無く、体全体の挙動ならともかく剣の速さでは間違いなくラリウッドの方が上だ。
 それでも何とか那美が凌いでいるのは、間合いへの出入りの激しさにラリウッドが対応しかねているせい。
 空振りは体力を奪う最適な手段ではあるが、ラリウッドは元より剛剣使いのようで、空振りも敵を追い詰める手段の一つにすぎない。
 一つ当れば良いのである。
 小まめに刃を飛ばし少しづつ傷を積み上げていく那美とは対照的だ。しかし、ラリウッドも博打を打っているのではなく、那美の動きに自らを慣らしている最中なのだ。
 何時、ラリウッドが動くのか。その見切りを誤れば命は無い。彼女の柳生無明剣を那美にはかわす自信が無かった。
 同族故のシンパシーか。ラリウッドの殺意が膨れ上がる瞬間を那美は捉える。時を飛び越え、那美は殺意の向く位置より離れラリウッドに必殺の一斬を。
 しかしここで那美の弱点が出る。その一撃は急所を外してしまった。いや、意図的に外したのだ。
 夜の魔力が解けるなり、那美は腹部に違和感を覚える。いや、違和ではなく親しみ深いそれは、深く腹部を抉られた傷、そして滴る血の雫であった。
「外れた? いや、外したの?」
 両方の意味で取る事の出来るラリウッドの言葉に、那美は微笑む。
「やっぱりこう、深く抉り込む時が一番いいよねー? あなたもそう思わない?」
 八双に構えたラリウッドもまた笑みを見せる。
「ええ。でも刺すより切るが好きなの私」
 二人は、秘奥の限りを尽くし、交錯する。


 由愛はぼっこぼこに殴られてるシュラハトリアと、ざっくざくに斬られてる那美に可能な限りの応急手当を施す。
「アンタ等ねぇ。これ酒飲んだら傷口開くでしょ、絶対」
 という訳で正規の治療が終わるまで酒はなし、と言った後の二人からの抗議を黙殺する。
 ヴァルトルーデは律儀に牢から逃げ出した二人の首を取り確保している。
 ギルドの方からは確認の為の人を派遣するので、そちらの分は不要なのだ。
 カズラは死体の様子を確認しているジャリードを興味深げに眺めている。
「何かあるの?」
「いや、何も」
 何処かとの繋がりを示すようなものを一切持ち歩いていないという事だ。
 サライは敵の武具を手に取る。出来は良いが、あくまで市販レベルであってそこから身元を拾う事も出来ない。
「こういうのが一番厄介ですね」
 そんな彼等の慎重さを、飛鈴はさして気にもしていないようだ。
「小ズルいのが表に出テ来てくれるナラ、むしろありがたいダロ」
 それに、と続ける。
「やりたい放題で弱いならいいとこないナ」