|
■オープニング本文 その日、一人の少女が崖から身を投げた。 崖下までの高さは五間程で、即死であった。 役人が調べた所、自殺以外の何者でもなかったのだが、近しい者は皆口を揃えて言う。彼女が自殺などする訳がないと。 決して美人ではないが、ほがらかで草花を愛する良き娘であったと。 少女は自分で育てていた花畑に火を放ち、全てが燃え尽きるのを確認してから崖から飛び降りていた。 少女は園芸が好きで、農作業を手伝いながら、合間合間を縫って花を育てていた。 師が居るわけではなく、全て独学で花畑を作り維持している少女に、街の人間達は好意と敬意を向けていた。 役人もまたこの街の人間であり、少女の事をそれなりには聞き知っていた事から、常のそれよりは時間をかけて調査したものの、やはりこれといって新しい情報が出て来る事もなく、少女の死は自殺として処理された。 薄汚れた外套を頭にも深々とかぶる事で顔を隠している少女。 彼女は運び屋をやっていた。 頼まれた荷物を、ある場所からある場所へ運ぶ。それだけの仕事。 一台の小さな荷馬車のみが彼女の財産。 荷物が一体何なのか、を彼女が問う事は無い。 仕事を回してくれる親方の言うがままに、ただ荷物を運ぶのみだ。途上、官憲に見つからぬような配慮をする事にも、随分と手慣れたものである。 そんな彼女、文は、最初、その新たな取引先の少女を見て、ひどく戸惑った。 文が荷物を受け取り、受け渡す相手といえば、強面の横柄な男かひどく神経質で攻撃的な男か、いずれ穏やかな交流なぞ望むべくもない相手ばかりであった。 それが今回は少女。それだけでも驚きだというのに、その少女は荷物を受け取りに行く度、文をお茶に招き、もてなしてくれるのだ。 初めの内こそ警戒していたものの、次第に文は少女とのお茶の時間を楽しく感じるようになる。 また、この少女から受け取る物というのも、これまでの例から大きく外れていた。 花だ。満開の、薄赤い色の花。 これを根っこから抜き取り、丁寧に包んで運ぶのだ。 少女は言っていた。自分が作った花を欲しがってくれるのが嬉しいと。 代金は決して高くは無いけれど、それでも、綺麗な花が咲くよう工夫して手間をかけたものが、認められ買っていってもらえるのは本当に嬉しい、と。 文は一度、そんな少女が羨ましい、と言った。 何を作り出すでなくただ運ぶだけな自分と比べて、何と素晴らしい仕事であるかと。 少女は首を横に振る。 旅は、慣れた者にはさほどの苦痛をもたらさないが、そうでない者にとってはただ旅をするというだけで多大な労苦となるのだから、そんな少女達に代わって大切なものを運んでくれる文の仕事がつまらないものであるはずがない、と。 文は親方に言われて始めたこの仕事を、生まれて始めて、ほんの少しだけ好きになれた。 文の親方はたくさんの仕事を手がけており、多数の部下を用いてこれらの仕事をこなしている。 文もその中の一人で、親方の命ずるままに運び屋を続けている。 親方に逆らうなんて事を、文は一度も考えた事が無い。大きな失敗をした部下を、親方は決して許さず、文はそんな時親方がどうするかを何度か目にしてきた。 文は、親方に逆らうどころか、機嫌を損ねる事さえ絶対にする気になれなかった。 そんな文が、親方の言葉に背いたのは、自分でも何故だか良くわかってはいない。 ただ、友達となった少女が親方に騙されていると知り、居てもたってもいられなくなったのだけは良く覚えている。 他の誰にも気付かれぬよう、文は少女に告げる。 少女が育てている花は、実は国で栽培が禁止されている植物で、摂取した者に幻覚を見せる薬を作り出す事が出来るらしい。 親方の手の者が少女に花の株を渡し、禁制品だという事を隠して育てるよう頼んでいたのだ。 もし国に見つかれば、知らなかったなんて言葉が通用するはずもなく、少女も捕らえられてしまうだろう。 そうなる前に、栽培を止めるよう文は少女を説得する。 少女はその幻覚を見せる薬とはどういうものか、と訊ねて来た。 「人を狂わせる薬なんだって。大抵は狂って暴れて、そのまま死んじゃうって言ってたよ」 文は親方の下で働いていただけあって、この手の犯罪行為への禁忌が薄い。 だからこそ、文は少女が凄まじく衝撃を受けた顔をしているのが理解出来なかった。 これを伝えた翌日、罪の意識に耐えかねた少女が、花畑を燃やし自ら死を選んだ理由も。 文はこれを親方に知られたら、自分が処断されるだろう、と良くわかっていた。 とはいえ親方を相手に隠し事が出来るとも思えない。 つまり文はもう、どうにもしようがなくなっていたのだ。 文が主の居なくなった少女の家の側に隠れ潜んだのは、一時身を隠しほとぼりが冷めてから逃げ出す、といった気の利いた話ではなく、単純に親方の前に行きたく無いからその部下にも見つからぬと思える場所に閉じこもっていたというだけだ。 ロクに食べ物も無い中、水のみを頼りにじっと隠れ潜む。 その間、文はどうして少女が死んでしまったのかを考えた。考え続けた。 それでも答えは出ず。 そこで文は、少女がそうしたように、自分も崖から飛び降りてみようと考えた。 怖いが、そんな怖い事をやってのけた少女の気持ちを知るには、自分もそうするのが良いのではないか、と。 文は空腹のせいで、その思考から整合性といったものが失われてしまっていた。 恐怖心も薄らいでいる事から、文は崖の上に立って、そして一歩を踏み出すのもそう難しくないと思えた。 だから、えいっと飛び出そうとした。 「おいいいいいい! それは幾らなんでも予想外ですよおおおおおおおお!」 開拓者ギルド係員の栄は、月の輪の金光配下の文という運び屋が、自殺した少女の元に足しげく通っていたという情報を得る。 栄は最近幾つかの事件で使われたと思われる薬物の調査を進めていた。 そんな時舞い込んだのが、花畑を燃やして少女が自殺したという報せだ。 使用されている薬物は、恐らく花の茎から採取されるもの、と見ていた事もあり、何やら嫌な気配を感じ取った栄は詳しくこれを調べ始めたのだ。 文が少女に強く感情を寄せていたと踏んだ栄は、行方をくらました文が、一度はこの自殺現場に顔を出すのでは、と考え待ち構えて居た。 速攻後追いは予想外であったが。 彼女を保護した栄は、すぐにその場を離れる。金光の追っ手が文を探し回っているからで、如何な栄とて金光の地元で捜索の手から逃れきる事は出来ない。 案の定、丸一日も経たず追っ手を差し向けられ、そして栄は、ぎりぎりで何とか待ち合わせの場所に辿り着いた。 そこに居たのは、例え金光の地元だろうとこの者達相手にだけは無理は通せぬ、開拓者達であった。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 朝比奈 空(ia0086)の黄金に輝く杖が小さく前方の空間を叩くと、波が広がるように空中に魔方陣が描かれ、これを再度空が叩く度、魔方陣の色が変わりより大きなものへと変化していく。 最後に空が小声で絞めの言葉を紡ぐと、魔方陣は破裂し、無数の灰色の閃光となって得物を手にした集団へと降り注いだ。 並の志体持ちヤクザならこれで戦意の大半を失うが、彼等はただの一人も怯みはしなかった。 中でも、特に凄まじい突進を見せる男は、他には目もくれず空を睨み付けたまま駆け寄って来る。 まだかなり距離はある。そんな中で、空は見事な所作で手にした杖を両手持ちに、大上段に振り上げ構える。 一歩を踏み出しながら、杖を刀のように振り下ろす。当然届かぬ、そうであったのは杖先が男に向いておらぬ内の話。 杖の先から、稲光の刃が一直線に伸びる。それはちょうど振り下ろした杖と雷の刃が男に触れる角度であった。 男の頭上より、アークブラストの刃が振り下ろされ叩きつけられる。 この強烈な威力に、男は突進姿勢を維持出来ず、前方につんのめる。しかし、男もまたひとかどの戦士。 つんのめったまま前進の勢いを殺さず、斧持たぬ手を大地につき前方にくるりと一回転。 凄まじい膂力の為す技か大きく空に舞い上がった男は、斧を大空より空に向け振り下ろして来た。 咄嗟に、用意していた剣を抜き受ける。無理、その威力を殺しきれず剣ごと弾き飛ばされる。 だらりと体の前面に血が滴る。 再び大きく振り上げた斧。頭上より降り注ぐこれを低く転がりながら前方へとかわしざま、地に落ちていた杖を拾って貫き胴に振るう。 膝をつく男と見下ろす空。 「馬鹿な、認めんぞ。この朝比奈源三郎様を女ごときが……」 その名を聞くと、空は微妙な顔をする。この戦いで、最も効果的な一撃であったようで。 その走り方に独特のリズムを感じ取ったフレス(ib6696)は、泰拳士南部辰夫の前に立ちはだかる。 南部の右剣が薙がれる、フレスは頭を下げ潜る。 南部の左剣が突かれる、フレスは身を捻って外す。 下段から右剣が振り上げられるとフレスは二歩を軽快に刻み更に脇へ脇へと流れていく。 追うように南部の左剣が突き出されるが、上体を器用に前屈し折り畳んで外す。伸びた左剣が切っ先を返しフレスの頭部を追う。 そのまま高速前方宙返り、ついでに足裏で左剣を踏みにかかるフレスであったが、これは南部が剣を引いてかわす。 お互いワンテンポ置いてから、南部の連撃。右剣、右剣、左剣、右剣、左剣、右剣、最後に足払い。 これが良くなかった。 フレスはこの連撃で、南部の攻撃リズムを概ね掴んでしまったのだ。 スタッカートのような強調の一打に合わせ短剣を滑らせるフレス。 南部の首が跳ねる。短剣の一撃を勘のみでかわしたのだ。 にやりと笑った南部は、双剣の速度を上げ始めた。 クレッシェンド、フレスも共に速度を上げ始め、二人は並び、交わり、重なるが、離れない。 手数の差で、傷はフレスの方が多い。しかし、いずれも致命傷にはなりえぬ傷、フレスも南部も気にはしない。 最後のフォルテッシモ、その半拍前にフレスの切り札、暗器が閃く。 これは読まれた。南部もまたフレスのリズムを体で理解していた。 最適のリズムで双剣が左右よりフレスへ、左は背で受け右は短剣で、無理、背なからは血潮が飛び、短剣は弾かれる。 返しの一撃で終わるはずの戦いは、しかし、フレスが戦いの最中に見出した最後の暗器、南部が自らの懐に潜ませていた短剣を、フレスが奪い斬り上げる方が僅かに早かった。 足の速さでは頭一つ抜けている叢雲・暁(ia5363)は、敵の兵装を見て真っ先に弓を手にした溝口を狙う。 敵前衛組とすれ違ってでもそうする思い切りの良さに、溝口は驚き回避行動に入るのが遅れる。 だが、そこに氏家が割って入った。もう一人居るのに気付いていたのだ。 暁ともう一人、ジョハル(ib9784)が左右に別れ、氏家を避けて後ろの溝口を狙う。 氏家は暁の方に向かう。この時の速度は、暁にもまるで負けていない。 風をすら切り裂けそうな剣閃に、暁は踏み込みを封じられ更に回り込みにかかる。が、そこには氏家と同じ方向に移動しまわりこみにかかっていた溝口が、既に弓を番え構えを取っていた。 急所は避けたものの、右の肩に突き刺さったこの矢の衝撃で、のけぞるように後ろに下がらされる暁。 この間、ジョハルがフリーになっていたはずなのだが、氏家はその歩法によって瞬く間にジョハルの前へと移動して来る。 こちらは防ぐどころではない。暴風をまとった強烈な一撃を見舞い、受け損なったジョハルの胸板に浅くではあれど縦一本の筋が通る。 刺さった矢も抜かず暁の低い低い踏み込みからの突き。これを氏家は掬い上げるような一撃で弾き、追撃を溝口に任せつつ、逆側から来たジョハルの曲刀を真っ向より受け止めむしろ弾いて見せる。 ジョハルの曲刀が上段、下段と繰り返して氏家へと。完璧な受けで止める氏家の背後から暁の突き、氏家は後ろ回し蹴りをぴたりの間で放つ。 が、暁は低く踏み込んでおきながら空へと跳躍しこれをかわす。 ジョハルの曲刀がその反りを活かし、氏家の刀を引っ掛け抑える。空から舞い降りる暁の剣を防ぐ術は氏家には左の手のみ。それで、止められる程暁は甘くは無い。 構わず手を伸ばす氏家と、鎧越しだろうと深く斬りつけ一撃で首を取るべく刀の半ばを首に当てにかかる暁。刀が氏家の首に触れ、後は引くだけになると同時に氏家の手が届く。 暁の右肩に刺さった矢尻へと。 これを押されると、テコの原理と、人ならば決して逃れえぬ苦痛により、剣を手にした暁の腕が主の意思によらず上がる。 それでも空中で身を翻し、回し蹴りを飛ばす暁と、曲刀を脛へと向け伸ばすジョハル。 片腕で暁が全身の回転を用いて放った蹴りを弾き、空中にあるのを幸いに彼方まで吹き飛ばす。 脛を狙った一閃はむしろ足を前へ突き出し脛当てで受けつつ、最も威力を発揮する位置からずらしにかかる。 ずしんと重く響くジョハルの一撃に、氏家の片足は地面にめり込むが、それは必殺を繋ぐ一打とはなりえず。 すぐに氏家より腰の捻りを用いた大きな横薙ぎが来る。 ジョハルは常ならばこの距離で踏ん張る所だが、今は迷わず後退。策があるのではなく、下がらねばならぬのだ。 かわしきったはずの一撃で今度は胸板を横に断たれる。十字に描かれた傷口からは血の滴りがとまらない。 しかし、隙は来た。溝口が氏家の背後から矢を射て来たのだ。 じっとこれまで堪えて来た短銃の、今こそが使い時。 離れから残心へと至る切り替えの時、この刹那の狭間に銃弾を滑り込ませると、溝口は驚愕に顔を歪める。 驚き再びの弓射。もちろんこれもアルタイル・タラゼドの妙技で切り替えしてやる。 なんと、これを氏家が割って入り自らの体を盾に防いで見せた。 溝口はやはり驚き、そして歓喜に包まれる。最早敵の攻撃を警戒する必要はない。この頼もしき友さえいれば。 「もう、何も怖くは無いっ!」 大きく弓を引き矢を番えた自信に満ちた溝口の顔が、勢い良く空へと舞い上がる。 刀を振りぬき、着地した暁が落下してくる生首に向かって言ってやる。 「馬鹿め、それは死亡フラグだ」 雪切・透夜(ib0135)は、最後の砦として石川林蔵を迎え撃つ。 目は辛うじて追いつくが、体がついていってくれない。負った怪我のせいもあろうが、それがなくとも、技比べをしてコレに勝てるかどうか。 しかし、と痛む体を酷使しながら透夜は思う。 人の姿をしてるだけ、まだマシだなと。 アレに比べれば、少なくとも物を考える程度の余裕は維持出来ている。 そんな心持ちと騎士という防戦に適した職特性のおかげか、林蔵の攻勢を透夜は致命的な形で押し切られる事もなく凌ぎ続ける。 時々、背後で誰かが息を呑む声が聞こえる。それが透夜に汲めど尽きぬ勇気を与えてくれる。 この圧倒的な敵に対し、奇襲を仕掛ける勇気を。 盾を弾かれ、太刀の根元で林蔵の刀を受け止める透夜。 鍔競り合いになる、そんな瞬間、透夜の篭手が動き刃を伸ばす。手元は近すぎて林蔵の視界から外れており、この動きは見えぬはず。 見えぬ一撃を避けてこそ一流とでもいうのか、林蔵は手首を返す事で刃を篭手で受け止める。 奇襲を外した失望が透夜の反応を僅かに鈍らせる。それを読んでか林蔵はここで切り札を切ってきた。 鍔競り合いを力づくで強引に突き飛ばして外し、距離が開いた透夜に対し、両手持ちの刀で突きかかる。 想定していたより遥かに伸びる刃は、受けた盾を押し込み滑り、急所への軌道を損なう事なく透夜へと。 脇腹を鎧ごと抉られる。しかし、辛うじて避け致命打ではない。 透夜は見た。たった今脇腹にあったはずの刃が再び林蔵の手元に引かれているのを。 連撃。 透夜がそうと認識した直後、林蔵が見たのは突きの届かぬ位置で荒い息を漏らす透夜の姿。 「シノビの奥技か。騎士の力といい、厄介な……」 一目で見抜かれる。これは、本当に、骨が折れそうだと太刀を強く握る透夜であった。 空による大魔術に続き、草薙 早矢(ic0072)はここが削り所と弓を構えありったけの連射を続ける。 単身で放ってるとはとても思えぬ矢雨が降り注ぐ中、盾をかざして突破にかかる者が。 盾の無い足元を狙う早矢。矢は足を守る鎧に弾かれる。 他に類を見ない重装甲と頑強さ、弓術師とは最も相性がよろしくないであろう騎士だ。 それでも矢を止める訳にはいかず、敵騎士蜂谷はこの中を突進してくる。 後一射を打ったら防御を考えなければ、そんなタイミングで蜂谷の真後ろで機を伺っていた君島が飛び出して来る。 させじと壁に回ったのは緋桜丸(ia0026)だ。 君島は強面を更に険しくしながら一歩下がって緋桜丸の剣を避け、すぐに再び前へと飛ぶ。 緋桜丸の袈裟斬りを半身になりかわす。その体の脇から、蜂谷の槍が伸びる。 この時蜂谷への牽制に放たれた早矢の矢は、やはり厚い装甲に阻まれる。 武僧の特性でもなかろうが、この君島という男、化物みたいに身が軽い。 現在、緋桜丸と早矢は互いの表情を確認する事が出来なかったが、早矢は緋桜丸の背中とその動きに何か感じるところがあり、緋桜丸も緋桜丸でこれが伝わると信じた。 君島の手甲が唸り、緋桜丸の振るう剣とぶつかりあう。蜂谷は盾をがっちりと構えたまま槍を突き出し、その姿勢のままで早矢へと。 蜂谷を無視し早矢の矢が君島を射抜く。出来た隙に、緋桜丸は背後から追いすがるようにして蜂谷に斬りかかる。 更に緋桜丸の後ろから君島の二段回し蹴りが。一閃目は飛んでかわした緋桜丸だが、一回転してもう一度蹴りに来たこれは防ぎきれず。 いや、受けたのはわざともある。 蹴り飛ばされた勢いに逆らわず、再び蜂谷に突きを見舞う緋桜丸。同時に早矢は君島の足を射抜いている。 ここで緋桜丸と早矢の企みを蜂谷君島両名が理解する。 回避に長けた君島には早矢が、防御に長けた蜂谷には緋桜丸が、という効率優先の戦い。 ならば蜂谷君島は防御能力に劣る早矢に狙いを絞る。 ここが二人の正念場。 早矢の前に立つ緋桜丸はまず足の速い君島に牽制の兜割りを、手甲でこれを防ぐ君島。これは彼が緋桜丸を抑えるつもりでそうしたのだろう。 脇を抜けにかかる蜂谷に、緋桜丸は逆手の短銃を打ち込む。 余所見かよ、とばかりに君島の連撃。半分もらった。 早矢は突撃してくる蜂谷を前に生唾を一つ飲み込み、逆に自らも突進していった。 動き回るのを封じる為、足を狙った低い突き。これを読んでいた早矢は勢い良く飛び上がって避ける。 避けるに収まらず、その足は蜂谷の肩を蹴り、目指す向きへと方向転換。 空中を行く早矢と、その下を潜り抜け蜂谷を狙う緋桜丸。 八節もクソも無い空中で体を跳ねさせる事で弓を引いた早矢は、避けるでなく逆に突っ込んで来る君島を見る。 が、弓には矢が番えられていなかった。驚く君島を他所に、弓を弾く動作で空中姿勢を変化させた早矢は、君島の一撃をかわし着地。 これはちょうど、緋桜丸が蜂谷の眼前へと迫った時だ。 突き出される蜂谷の槍を、瞬時に下に潜りこむ。この時の首の高さは蜂谷の膝程にまで落としてある。 大地に両足を付き完全な構えで弓を引いた早矢がこれを射放つ。 完全に懐を取った緋桜丸が膝を切りつけ蜂谷の姿勢を崩す。 早矢の矢が君島の首を射抜き、緋桜丸の短銃が倒れる蜂谷の頭部を撃ち抜くのが、同時であった。 筒井高利の流麗な剣技に、秋桜(ia2482)はシノビらしい激しい出入りで対抗する。 どちらも攻略法を探れぬまま、互いの様子を伺う戦いが続くが、時期に筒井はその動きを止めわかりやすい気合の入れ方で正眼に構える。 「貴様の動き、概ね理解した。我が必殺の剣には及ばぬだろうとな」 秋桜はぴたりとその動きを止める。 そして、何と秋桜もまた手にした大太刀を正眼に構えたではないか。 長巻直しである分刀身の形に差異はあれど、その構え、立ち方、呼吸すら、ぴたりと一致するものであった。 「……何の真似だ?」 「貴方はすでに、私の術中だという事です」 秋桜の放言を鼻で笑う筒井。 「愚か者め。猿真似で我が秘奥破れるものか」 筒井の剣先が跳ね上がる。この速さ、鋭さ、いずれも余人の目に留まるものではない。 彼が誇りにするだけあって、確かに、ほぼ最高峰にまで磨きぬかれた必殺の技。 その勝利の確信と共に放たれた剣が、ちょうど秋桜との中間地点に至った時、刃がねじれ筒井の方へと向いたのだ。 秋桜へ向かった鋭さそのままに筒井へと伸びる剣閃。 「うおおおおおおお!!」 悲鳴と共に下がる筒井。秋桜は彼の眼前で、筒井が必殺の秋水を放った後のように、泰然と正眼に構え佇んでいた。 対する筒井は、袈裟に斬られ深手を負っているが、それ以上に驚愕に硬直している。 「ば、馬鹿な! こんな馬鹿な事が!」 今度は刀を鞘に納め、低く構える居合いの姿勢。 当然、秋桜も居合いの形に。 「ふ、ふざけるな! シノビ風情に居合いの何たるかがわかってたまるか!」 両者は同時に間合いに入り、全く同時に居合いを放つ。 そして、筒井はやはり、信じられぬという顔をしたまま絶命していた。 「義の無い貴方は私には勝てませぬよ」 全ての敵を倒した後も、文は開拓者のあまりの強さに呆然としていた。 そんな文に、緋桜丸は穏やかに、透夜は少し厳しく、しかし二人共この娘の今後を心配し声をかける。 ジョハルが栄に問いかけると、栄は苦笑する。 「最近子供の面倒を見る機会が多いものでね。お任せいただければ、証人の保護とはまた別に、自分の食い扶持ぐらいは稼げるように育ててみせますよ」 |