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■オープニング本文 「ひっさつ! くもきりいいいいいいい! なっこおおおおおおお!」 飛び込みながらの右ストレートを、自身の倍はあろうかという巨体の顔面に叩き込んだ雲切。 これをもらった鬼アヤカシは、まるでその体が紙で出来ているかのように勢い良く吹っ飛び転がっていく。 そのままこのアヤカシはさっくりあっさりと沈んだのだが、このアヤカシに従っていた他下級アヤカシは目を丸くして驚く。 大将がいきなり倒されれば当然の反応であるが、人に対する食欲がより勝りでもしたか、残るアヤカシも雲切目掛けて殺到する。 これを全て、敵が攻撃をする前に、雲切からの打撃が敵を撃つ。何体で襲おうと、どれほどの攻撃が同時に迫ろうとだ。 結局集まった敵全てが、雲切に対し攻撃を放つ事が出来ないままに、ただの一体も残さず全滅する。 岩団扇の城壁から雲切大暴れを見ていた神代というサムライは、体中から搾り出すような溜息をつく。 「何度見ても信じられねえ腕だ。犬神の連中がまるで疑ってなかったのもこれなら納得だ」 同時に神代は、雲切が単身で戦う理由もまた理解する。あそこまで跳びぬけた技量だと、横に誰が並ぼうと足手まといにしかなるまい。 アレは、単騎で全てを背負い、単騎で全てを迎え撃ち、単騎で全てを駆逐する、そんな怪物なのだろう。 神代は雲切を育てた何者かに対し、怒り、とまでは行かないが不快感のようなものを覚える。 一人で何でも出来るではなく、もっと尖った、そして誰かを頼らねばならないような、そんなモノに育てられなかったのだろうかと。 アレでは、雲切が行き着く先には孤独があるのみ。そんな彼女が憐れでならない。 雇われの身であるが、神代も剣の腕には覚えがある。そんな神代だからこそ雲切の行く先まで見据える事が出来たのだろう。 あそこまで強すぎると、他の仲間達からすら隔意をもたれているのでは、と城壁に集まっている他の者達の表情を眺める。 「何?」 皆、何かを期待するように、きらきらした目で雲切を見つめていた。 「だいっ! しょうっ! りっ! ですわああああああ! それでは皆さんごしっしょに!」 雲切が掛け声をかけると、城壁の上に集まっていた、現在手隙の者全てが、城壁から身を乗り出すようにして腕を振り上げ声を張り上げる。 『えいっ! えいっ! おおおおおおおおおおお!!』 城門を開き戻って来た雲切を、皆が取り囲みその戦いを称えている。雲切も満更ではないようで、絶好調な様で無い胸を逸らしていたり。 神代は、アヤカシの領域である魔の森ど真ん中に作られた城、岩団扇の城の守備を任される傭兵である。 現在、ここ岩団扇城の主力は、近くの睡蓮の城というこちらもまた魔の森のど真ん中に建つ城に、とても凄いアヤカシ(何でも城が動いて襲って来ているとかいう話だが、幾らなんでもそんな話があるはずない)が来ているので、そちらに行ってしまっている。 つまり留守番を任された訳だが、ここら一帯のアヤカシはもう完膚なきまでに叩き潰しており、また進出してきていた奇鬼樹姫なるアヤカシ率いる一軍は睡蓮の城に総力を傾けているので、散発的な攻撃しかないはずであった。 その散発的な攻撃も、雲切が単身で全て叩き潰してしまうので、岩団扇の城はもう平和そのものである。 作業員は予定を僅かも違える事なく作業を進めているし、後回しにしていた城壁内側の様々な建物も徐々に揃って来た。 しかし、神代にはどうにも居心地が良くない。 神代は斥候能力に長けたシノビを数人、少し遠めの距離まで走らせる。 はっきり言ってしまえば勘である。 そしてここからが神代というサムライの凄い所だ。 彼は何と、その言葉に出来ぬ感覚に従い、開拓者ギルドに依頼を飛ばしたのだ。 まるで理屈に合わぬ、合理性の欠片も無い判断を元にギルドから人を派遣させるなどと、神代の上の者が聞いたら目を回すだろう。 彼のそんな所が、正規軍に身を置けぬ理由の一つでもあるのだが、神代の勘の的中率は何と五割を超える。 二回に一回しか当たらない、二回に一回は無駄に終わり上役に違法行為を咎められる、そんな勘を、神代はただの一度も疑った事が無く、それゆえに、彼はここまで生き残ってきていた。 しかし神代は、今回ばかりは勘が外れてくれている事を願う。 雲切という化物を擁するとはいえ岩団扇の城を取り囲む程の数が来た場合、雲切が単騎である以上、絶対に防ぎきれぬだろうから。 斥候に出したシノビが、真っ青な顔で戻って来る。 いるはずのない、敵アヤカシ軍を発見したのだ。 「なああああああぜにこの俺様がこのような辺鄙な地に来ねばならんのだ!」 怒鳴る天狗アヤカシに、付きアヤカシである小天狗アヤカシは、はぁ、と気の無い返事をする。 「天荒黒蝕様ならばわかる! 黄泉様の応援ならば勇んで駆けつけよう! しかし! 誰だその奇鬼樹姫とかいうアヤカシは! 何故に故に! この俺様が何処の馬の骨とも知らぬ奴の援軍に向かわねばならんのだ!」 小天狗は、彼の機嫌を損ねないよう丁寧に状況を説明する。 「ですから灰色鬼様、何度も申し上げましたように、奇鬼樹姫のような傍若無人な新参者においしい所を奪われるのは皆々様にとっても本意ではなく、人間が姫に抗している隙をついて我等も領域を広げようというお話でございましょう」 「そおおおおれえええがあああああ、何故に俺様なのだ!? 今正に黄泉様が人間と決戦を迎えようという最中ではないか!?」 「そりゃ、灰色鬼様がご自身でお引き受けになられたからでは?」 「うっがああああああ! あの時の俺様を誰か殴り飛ばしてでも止めて来いいいいいいいい!」 灰色鬼は、そろそろ暴れたいからとこの役目を引き受けたはいいが、後になって黄泉が別所で暴れていると聞き、実はそっちの方が良かったと駄々をこねているのである。 小天狗は丁寧に事の理非を説き、尚も渋る灰色鬼に行軍を薦める。 灰色鬼の本隊と、先遣軍とで距離が開いているのはこういった理由があるのだが、こんな馬鹿げた理由わかるはずもない。 神代はやはり嫌な予感を拭い去る事が出来ぬまま。 幸い、斥候が発見した敵軍は篭城に徹すればどうにかなる程度、と神代は踏んだ。 しかし篭城戦では無敵の切り札雲切の使い所が難しい。 既に完成している岩団扇城の城壁を、ぐるっと取り囲むアヤカシ達であるが、数度の攻撃を受けても岩団扇城は小揺るぎもせず。 これなら充分時間は稼げると神代は考えたのだが、敵包囲を突破してきた一人の斥候が、信じられない報告をもたらす。 「敵アヤカシ本隊が後方二十里の地点に!」 神代は、嫌な予感の正体を理解すると共に、今回もまたギリギリでかわす余地は残ってくれたようだ。 「雲切と開拓者は城壁外に出て敵主力を駆逐しろ! しかる後崩れた敵包囲を粉砕し、敵本隊が来るまでに逃げ出すぞ!」 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
狐火(ib0233)
22歳・男・シ
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ |
■リプレイ本文 岩団扇城の現責任者神代は、開拓者ギルドが寄越して来た戦力を、その戦いぶりを見て思った。 「……ここまでの腕利きが来るなんて聞いてないぞ」 ふと、出陣前に佐久間 一(ia0503)が言っていた言葉を思い出す。 『彼女は決戦存在とかではないですよ。れっきとした女性のシノビです』 確かにお前等ならそう言えるかもな、と発言者の意図とは違った意味でこれを受け取る。 これならば思ったより楽に倒せるか、と考えたのだが、事態は神代が考えるより深刻であった。 まなひの剣を受けた雪切・透夜(ib0135)は、まるで直近から大筒でも打ち込まれたようだ、と感じた。 そして盾から伝わる振動は、膂力だけではない証に、重く滑りかかるようなものであった。 透夜は剣が振りぬかれる力を盾を押し付ける事で留め、逆手の太刀を突き出す。 まなひは剣の持ち手側を引き寄せ、鍔側の刃にて弾く。 ここでフレス(ib6696)がまなひの背後を取る。だが、まなひは背面を察知する能力もあるのか、気付かぬという事はない。 振り向きざまに横薙ぎに一閃。フレスはこれを潜ろうと考えていたが、体が咄嗟に動き後退。 これに合わせて動こうとする透夜に対し、片腕を伸ばしつつ一瞥をくれ動きを封じると、この一瞥分の時間で踏み込んだフレスを逆袈裟にて迎撃する。 その間の取り方が絶妙でフレスは再び後退を余儀なくされる。まるでフレスのリズムを読んでいるかのような動きだ。 まなひは順に透夜、フレスを見た後言った。 「久しく見ぬ剛の者よ。全てを振り絞り戦うが良い。我もまた、全力を持って迎え撃とうぞ」 透夜とフレスは、まなひの構える剣先から隠しきれぬ歓喜の色を見て取った。 同時に、まなひがこんな所で小隊長をやってる事が似合わぬ程の傑物であると知る。 そこからは、互いの神経を削り取り合うような間合いの奪い合いに終始する。 透夜は、ただ一歩を進めるだけにここまで疲労したのは久しぶりであった。 右腕をブラし、左足にかけていた加重を右足に切り替え、盾を開き、太刀を寝かせる。こうした挙動一つ一つの度、透夜とまなひとの間で無数のやりとりが発生する。 右袈裟と見せかけての胴打ち、誘い出しての出小手、いずれも、まなひの反応から読みきられた事がわかる。 フレスもまた幾たびの転調を行い、短調長調と数多のリズムを試してみたものの、まなひの鉄壁の防御を潜る事は出来ず。 だが、ジプシーの舞は崩れぬを崩すが本懐か。 勇躍、まなひの間合いの内に入ったフレスは、一小節毎に転調し、同じフレーズなど二度と用いない。 聞く者見る者に飽きなぞ来させぬ、自身の内にある引き出し全てを引っくり返す勢いで、次々新たな踊りを見せて回る。 それでもまなひの剣に迷いは見られないが、フレスの動きを読んだ剣も出せず、先手は常にフレスの手の内となる。 いやたった一つ。転調をかけるタイミングを、まなひは勘で読みきった。 伸びるまなひの剣は、それすら含めたフレスの誘い。ひっきりなしに動き対応を迫る事で、まなひの思考時間を削り取った結果であった。 絶好の好機。しかし、それでも、まなひの急所を一撃で貫く事は出来ず。 更にまなひは連携した透夜の太刀を頭上高くへと弾き飛ばす離れ業をやってみせる。 透夜は飛んだ太刀に目もくれず。残された盾を真横に薙ぎ、盾の縁にてまなひの腕、そして首を深く切り裂いた。 佐久間 一、叢雲・暁(ia5363)、共に豊富な戦闘経験を持つ。 故にわかる。この敵、もろふはこの規模の軍の、たかだか前線指揮官に持って来るにはあまりに強すぎる。 もろふの初撃、恐らく必殺を期したであろう三連の突きを一がかわせたのは、もろふの佇まいから並々ならぬと見抜けていればこそ。 この突きを見た暁も、いきなりの勝負を避けシノビらしい引っ掻き回す動きに切り替える。 一は一で正統派な剣術の構えを見せておきながら、随所で右前左前を切り替えるなんてトリッキーな真似をし、もろふの間合い勘や距離感をズラしにかかる。 正面から一が、何処までも丁寧に有利を積み重ねていくような精緻な剣を見せる。 後方側面から暁が、左右のみならず上下の空間も目一杯使った立体的な動きでもろふの苦手な動きを探りにかかる。 もろふ、一、暁の三者は決定的な距離まで踏み込まぬままに戦闘を続けるが、それが、一気に動いたのは一が突っかけたからだ。 握った刀を用いての正面からの技比べ。 凄まじい速さで両者の刀がお互いを隔てる大気の最中を行き来するも、いずれも命中打はなし。それどころか、刀同士がぶつかりあう事すらない。 拮抗している。いや、剣の間合いを惑わせ続けた分僅かに一が有利。 しかし暁はアヤカシの常軌を逸した体力を知っている。恐らく、持久戦になったら不利なのは一の方だ。 「ここはこちらも一発勝負! 行くぞアヤカシしーるど!」 と言うが早いか雑魚アヤカシの襟首を掴むと、これを盾にしながら突貫開始。 もろふは、一切の躊躇無くアヤカシごと斬り倒しにかかる。が、暁はこのアヤカシの肩を足場に大きくもろふの頭上へと飛び上がる。 「さあ言え!」 盾にされぶった斬られた雑魚アヤカシは、事前にめっちゃくちゃ脅され言うよう強要されていた台詞を口にする。 「ごふっ……お、おれをふみだいにいいい……」 空中で縦に回転しながら、全身を跳ねさせ頭上からの一刀を見舞う。 極めて特殊な位置からの剣であり、さしものもろふもこの剣筋を見切る事が出来ない。刀の届かぬ域まで大きく上体を動かす。 そして上体を逸らしきった所で、暁の手裏剣が額に突き刺さる。 一は刀の峰を前に八双の構えで踏み込む。 その刀身は紅色に染まり、今が勝負時と一が力を振り絞っているのがわかろう。 だがまず一は、空中をこちらに向かって飛んで来る暁と合わせる。 暁は刃の無い峰側の刀に足を付く。そこからまるで暁が鞠であるかのように軽やかに跳ねる。 これで方向転換した暁は上から袈裟に切り下ろし、一は燐光そのままに逆袈裟に斬り上げ、もろふの体は×の字に斬り裂かれる。 ぐらりと揺れ倒れるもろふは、上体が地面に着く寸前、最後の力を振り絞って体を引っくり返し、無茶苦茶な体勢から刀を振り上げる。 これを、一切油断していなかった一の剣が切り伏せる。純粋に、速さでこの最後の一撃を凌いだのだった。 玖雀(ib6816)の戦布を用いた戦い方は不死にとって未知のものであった模様。 玖雀から見ても受け方に戸惑いがあるのが見て取れた。 それだけで押し切れる程たやすい敵でもなかったが、玖雀には二人の援護がある。 北條 黯羽(ia0072)の斬撃の術が情け容赦なく降り注ぎ、笹倉 靖(ib6125)も白霊弾をこれでもかと打ち込んでいる。 このアヤカシの技量は相当なもの、それは玖雀にも良くわかった。だから解せない、何故、何の術も施さずこちらのされるがままになっているのか。 挙句、そのまま三人がかりで押し切れてしまったのだ。 玖雀が自らの失策に気付いたのは、雑兵アヤカシが倒れた不死から槍を奪い戦いを挑んで来た時。 槍を操る癖が、先程戦った者と全く一緒。しかも、この雑兵は玖雀の技を見ていなかったはずなのに、綺麗に全てに対応してくる。 黯羽は額に皺を寄せて靖に問う。 「どう思う?」 「直接剣を交えてる玖雀に聞いてみない事にはね。けど、あのアヤカシが槍を手に取った途端凄まじく強くなったってのだけは、わかる」 不死はわざと試すように攻撃を喰らい続け、玖雀の布の動きを見切っていた。 とはいえ不死も厳しくはある。これで槍が本体である疑いを持たれてしまうだろうし、そうなったら次はない。しかしそれでもこうせねばならぬ程、玖雀、黯羽、靖の三人がかりは強烈だったのだ。 不死は玖雀を一息に屠りにかかる。見る間に追い詰められていく玖雀と、治癒につきっきりになってしまう靖。 黯羽はこの状況を打開すべく呪いの本を片手で開く。 意味を知っていたらとてもじゃないが聞けたものじゃない、恐ろしい文句を連ねた呪文を唱えると、黯羽の前に鏡が現れる。 中に映るはもちろん黯羽の姿。しかしその頭部には、白い面が被されてある。 黯羽が手の甲を一つ振ってやると、鏡の中の白面黯羽はまるで当人がそうするかのように、仕方が無いねえ、といった様子で鏡から身を乗り出して来た。 こうして、前衛が一人増えたのである。 不死はこれで完全に目論見を崩された訳だが、それで逆に腹をくくったらしく、ありったけを振り絞って玖雀を潰しにかかる。 不死の槍は、色々ややこしい備えがある訳ではない。単純に、突き出して来る穂先が何処までも強く、速いのだ。 この重さは戦布では流しきれない。ここで、特異な武具を好んで使う玖雀というシノビの特色が出る。 布が重さを持たぬのなら、重くしてやればいい。 投擲武器の番天印を、戦布の内にくるんでやる。これで重量配分がズレ、戦布を用いた戦い方ががらりと変わる。 いきなりのぶっつけ本番であったが、玖雀は器用に使いこなして見せる。 驚いたのは不死だ、いきなり見切ったはずの武器が見た目そのままにまるで違った動きをするようになったのだから。 玖雀はこれで必死に時間を稼ぐ。この間も黯羽の攻撃術が不死を削っている。どちらが先に倒れるかの勝負。 ここまで有利を重ねた玖雀であったが、それでも、地力の差で不死に軍配が上がる。 最後の手段だ、と靖が前衛に出る。白面黯羽は既に玖雀の盾となり撃破されている。 靖に向け、不死の槍が伸びる。不死にすれば怪我を治す邪魔者が自ら出て来てくれたのだから、ありがたいだけの話だ。 一般的に、治癒術に長けている者は大抵、体術に劣る。それを、不死も知っていると踏んでの一発勝負。 不死の槍は何者をも捉えられずまっすぐ伸びるのみ。靖は、残像すら残す程の速度で、月を見て跳ねる兎のような軽やかさで宙を舞っていたのだ。 足先が伸びた槍の上に触れる。先ほど暁が一の刀に乗ったように、靖もまたこの槍に乗っていた。なのに、不死の槍先が重量に沈む事もない。 不死は一瞬で槍を抜き取り、その上に居た、後は自由落下で落ちるだけのはずの靖に向け突き出す。 靖は、足裏でこの穂先を捉えると、やはり体重が無いかのようにこの穂先を足場にくるりと後方に一回転し、着地を決める。 不死は、真の天狗を始めて見た、と思った。 「……やっと、掴まえたぜ」 それが致命的な隙となった。 玖雀の影術に縛られた不死は、直後襲って来た番天印を避ける術を持たなかった。 狐火(ib0233)が戦闘開始から程なくして敵前衛殲滅任務から抜けるのを皆が黙認したのは、敵アヤカシの思わぬ強力さがあったからだ。 皆雲切の凄まじい戦闘力を知っていたが、狐火などはこの地に護大の欠片を持つアヤカシが居るかもしれぬ事を知っている。 雲切はかなり奥にまで突っ込んで行ったようだが、彼女の大暴れは遠目にも見つけやすい。どつかれたアヤカシが空を舞うのだから、雑兵との戦闘中ならそれとすぐわかる。 その雲切が居ると思しき場所から、アヤカシが飛ばなくなって久しい。 超越聴覚を、戦場で使うとうるさすぎて使いづらいが、用いた結果賑やかな雲切の声は聞こえて来るので問題は無いようだが、かなり手強いのが居る様子。 狐火は神代の命令をさらっと無視して、一気に雲切の側へ向かう。 ちょうど、雲切が敵首領を真っ二つにした所であった。 しかしまだまだ周囲には手強いアヤカシが居る。狐火は、彼等に包囲された雲切のすぐ隣に、いつの間にか立っていた。 「まだやれますか?」 突如現れた狐火にも雲切が驚いた様子はない。 「もっちろんですわ!」 周囲のアヤカシ達をぐるっと見回す狐火。中級アヤカシが十体以上。この最中敵首領を討ち取った雲切は正しく化物だとは思うが、幾らなんでも想定した敵戦力を超えすぎだ。 十体の中級に加え、狐火にすら実力を見抜けぬアヤカシが、更に三体も残っているのだから。 どう考えても絶望しかない空間で、狐火は雲切に言った。 「引きましょう。敵戦力が不可解すぎます」 雲切は狐火をちらっと見た後、素直に頷いた。 狐火は、雲切が頷いたのは自分が居たからだ、と察する。雲切はこの戦力差でも勝つつもりであると。それが、過信なのかそうでないのかの判断まではつかなかったが。 狐火の、夜の術にて包囲を再度突破するが、当然のように追撃を受ける。 そこに、不死、もろふ、まなひを殲滅した開拓者達が駆けつけた。皆、やたら強力なアヤカシに不信感を抱いていたのだ。 神代の作戦は完全に崩れた。敵前衛指揮官、そして敵首領を倒したのに、アヤカシ達の戦意は失われる事なく、攻撃は続いているのだ。 岩団扇の城の際まで下がっての防戦。三機のアーマーが乱入して来たのはこの時だ。 「狐火というシノビはおるか! 朧谷の梶川清正が兄者に代わって借りを返しに来たぞ!」 アヤカシ達は開拓者達の殲滅も城の攻略も為せぬとわかると、この地を引き上げて行った。 一は穏やかな声で優しげに雲切に語る。 「今回の敵はかなり手強かったと思いますが、大きな怪我も無かったとかで。良く頑張りましたね」 「はへっ!? え、えっと、その、わ、わたくしにかかればこの程度っ、お昼寝前ですわっ!」 あまり褒められ慣れていないようで、調子に乗りつつ照れるとかちょっと難しい事をしている雲切。 暁は何やら考え込んでいる。 「うーむ、あれだけフラグを建てておいたというのに、まるで影響無しだと。奴はもしや主人公属性か? いや、ギャグキャラ補正と言われた方が余程納得出来る……」 狐火は梶川清正を名乗る男と何やら話しこんでいる。 「そのアーマー、他所の里に渡したのでは?」 「葦花には銭をくれてやったわ。兄者が今は戦力が必要であるとな。いやぁ、あーまーとは良いものだな。まるでサムライにでもなった気分だ」 フレスは雲切の剣技の冴えを見て、少し興奮気味でこれを嬉しそうに語っており、透夜がこれに付き合っているが、以前会った時とは比べ物にならないぐらい強くなっている雲切に少し驚いている。 靖は玖雀と黯羽の所で、何でも無い事のようにぼそりと言った。 「あれだけあっさり引いたのは、多分、後ろに本隊が居るからだろ」 玖雀も同意見だ。さてどうしたものか、と考え込むと、黯羽はアンタ等に任せた、と自分はほけーっと煙草を吸う。 「……度胸がいいんだか、どうでもいいだけなんだか」 「いや、何か色々すまん」 靖は、話の脈絡は全然無いのだが、多分玖雀は雲切みたいなド天然とは色々振り回される的な意味でめちゃくちゃ相性悪いだろうなあ、と思った。 |