【藪紫】風雲アヤカシ城
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/08 21:26



■オープニング本文

 絶海は開拓者達の質問に快く答えてくれた。
 この先に城はあるし、別にそれを見に行くのを止める気もないらしい。
 姫の目的はと問われれば、アヤカシなのだから人間と戦うのは当たり前だろうと返し、白夜の事を聞けばあれは協力者であって姫の部下でも何でもないと素直に答える。
 まあ部下でも何でもないのでアレが何の為に何をしていたのかと聞かれた絶海は、答えようが無いと返す。
 そしてどうしてここに来たかと問われた絶海は、忠告に来たと言う。
「私が口で言うよりも、その船で空から見ればすぐにわかりますよ。人間は姫を刺激しすぎました。あの方を本気にさせてしまったのですから、もうどうしようもありません。さっさと逃げ出す事をオススメします。その方が私も面倒がありませんしね」
 言いたい事を言って、絶海はその場を後にした。彼を追う戦力も、開拓者達には残っていなかった。

 その少し後、安全域まで抜けた絶海は、木の幹によりかかり安堵の息をもらす。
「いやぁ、恐ろしかった。あの方を倒してしまうような人間達と戦闘なんて出来るものですか」
 彼がやたら饒舌だったのは、こんな理由があったそうで。

 絶海が去った後、皆は谷底の城を偵察に向かう。もちろん遠目に見る程度のつもりだ。
 しかしそこに、あったはずの城の姿が無い。巨大な城が、跡形もなく消えてなくなっているのだ。
 その不可思議を調査する戦力は、現状ジャマダハルには残っておらず、一旦引き上げる事となる。この際、上空からは谷底の城は見えないはずなのだが、絶海の言葉を思い出し一応周辺を見回ってみる事にした。
 そこで、最初に気付いたのはランタインだ。
「……何だあの跡は?」
 かなりの上空からでも視認出来る大地の変色が、帯のようにまっすぐ伸びているのだ。
 そこだけ地面の色が濃い。上からだと糸のようにしか見えないが、高度を考えるに地表ではかなりの幅のものとなっていよう。
 帯の片方は谷の方へと延び、もう一方は何処までもまっすぐ荒野を横切っており、その先は魔の森の中へ続いている。
 弾正とランタインは顔を見合わせた後、帯の伸びる先を確認する事にした。
 魔の森上空まで船が来ると、これはもうはっきりとわかる。
 魔の森の木々が薙ぎ倒されている。
 こちらは比較対象物である木がある為、その帯の巨大さがよりはっきりとわかろう。
 先頃睡蓮の城を襲った巨龍と比べてすら、比較にならぬ程巨大な何かが、通り過ぎた跡なのではなかろうか。それは上空からでしか決してわからぬであろう、圧倒的な大きさである。
 嫌な予感がしすぎるランタインは、遠眼鏡を使う事を僅かに躊躇したのだが、弾正は構わず帯の先へ遠眼鏡を向ける。
 彼女から漏れた言葉は、バカな、であった。

 城というものは、概ね城壁とその内側という分け方が出来る。
 一の丸二の丸といったものは、城壁の内にもう一枚城壁を張るようなもので、つまりこの壁をどう抜けるかが城攻めになるという話だ。
 しかしその城は、天守閣のみの城であった。
 城壁なぞ存在せず、むき出しになった建造物の壁そのものが、城壁の役割を果たしている。
 そしてこの建造物部が常識外れに大きい。
 下手な町ならこの城一つの中にすっぽり納まってしまうのではないか、と思える程の巨大な建物だ。
 その城壁代わりの壁も、見るからに強固に出来ており、常の城とは違う作りでありながら充分城としての役割を果たしていると思われる。
 そんな城が、弾正とランタインが見守る中。

 魔の森の木々を薙ぎ倒しながら一直線に、進 ん で い た 。

 誤字ではない。船の上からでも、魔の森の木々が次々倒れていく様が、そして城が動いていく様が見て取れる。恐らく地上の間近では、自らの正気を確かめずにはおれぬような恐ろしい光景になっているであろう。
 空の上では無敵を誇る歴戦の船長ランタインは、呆気に取られ過ぎ、言葉が出なくなっていた。
 それは元卍衆風魔弾正も同様で、ただただ、その現実離れした光景に見入ってしまっていたのだ。


 岩団扇城にて、作戦会議が開かれる。
 そこでまず始めに口を開いたのは、幽遠という犬神のシノビであった。
「いや、あれ、無理」
 実に端的に皆の心情を表現してくれた。
 しかしアレが向かう先は、地図を確認するとすぐにわかるが、睡蓮の城である。即座の対応が必要であろう。
 ランタインは、引きつった顔で言った。
「船をアヤカシが作る。まあいい、そういう事もある。城をアヤカシが作る。そうだな、奴等もバカじゃないって事さ。その作った城がずりずり動く。ああ、なるほど、そういう事もこの世には……ある訳ねえだろうがあああああああああああ!」
 華玉がしみじみと語る。
「遂にアヤカシの技術力が人間を超えた瞬間なのねぇ」
 風魔弾正はまともな言葉が出て来ない皆を叱咤するよう強く言う。
「その動く原理がどんなものかはともかく、要は城攻めだろう。城壁も無い城なぞ恐れる程のものか。何より、空だけに限った話ならば、既にこちらが圧倒的に優勢だ。まずはジャマダハルであの城の所有戦力を丸裸にしてやるぞ」
 一気にまくしたてた弾正に、皆は尊敬の視線を向けたものだが、これは弾正の立場が言わせた言葉でもあろう。
 無位無官のままであったなら、やはり自分も呆然としたままであったと弾正は思えてならない。
 
 幽遠華玉ランタインが大得意の強行偵察により、敵アヤカシ城の戦力はある程度把握出来た。
 これを睡蓮の城の連中に報せてやり、共に策を練る。普通に戦力が足りないという結論だったのだが、これがあっさりと覆る。
 睡蓮の城の錐は朧谷の里から疎まれており援軍はまるで望めないはずだったのだが、これがどういうわけかひっくり返り朧谷の若手シノビ達が援軍として現れたのだ。
 これに岩団扇の傭兵と犬神を加えれば、充分戦になる。
 アヤカシ城がまだ彼方に居る間に、敵機動戦力を撃破するべく、総力戦を挑む事に決した。


 墨と呼ばれるアヤカシは、必死になって調整していた妖戦艦があっさり滅ぼされ、もう見てられないぐらいにヘコんでいた。
「もう俺には妖城とこの……無敵戦車しか残っていない!」
 二頭の巨大な龍型アヤカシが、馬車のように後ろの箱を引っ張るのだ。
 この箱には単体では移動出来ないぐらいアホ重い呪具が詰め込んであり、これがそこら中に術攻撃をバラ撒く凶悪無比な仕様となっている。
「というわけで行け! 無敵戦車よ! 人間共を叩き潰して来い!」
 墨の叫び声にあわせ、アヤカシ城の側面扉が軋む音と共に開いていく。これが完全に開ききる前に、龍二頭は頭部で押し開き、外へと飛び出して行った。

 風魔弾正は自ら最前線に立ちながら新たな強敵の出現を確認すると、温存しておいた予備兵力の投入を決意する。
「あの色々と世の中嘗めてるアヤカシの相手は開拓者にやらせろ!」


■参加者一覧
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ジャン=バティスト(ic0356
34歳・男・巫
樊 瑞希(ic1369
23歳・女・陰
病葉 雅樂(ic1370
23歳・女・陰


■リプレイ本文

 アヤカシ側は奥の手を用いて全戦力を叩き込みにかかり、人間側は睡蓮城を突破されては陰殻防衛線の維持が困難とあって必死に防ぎにかかる。
 開戦直後から後方にて戦の様子を見ていた開拓者達は、そのあまりの激戦っぷりに言葉も無い。
 とはいえ彼等も戦士のはしくれ、予備隊の意義も理解しているが、戦場を前に怖じるようなことは無く、風魔弾正から戦線投入の指示が出るなり勇んで戦地へ向かう。
 対処を任されたそのアヤカシを前に、八十神 蔵人(ia1422)は速攻で踵を返した。
「うわあ、弾正ちゃーん、ぼくおうちかえり……」
 逃げを打った事か弾正ちゃん呼ばわりの事か判別つかぬ怒りの表情を樊 瑞希(ic1369)が見せると、蔵人は再び回れ右。
「あ、はい、突撃して壁になってきます」
 瑞希はまったく、と小さく嘆息しつつ標的の巨大戦車と、後方に見える巨大な城に目をやる。
「このようなものに弾正様の邪魔をさせる事など、断じてあってはならぬ。病葉! さっさとこいつ……」
 まず病葉 雅樂(ic1370)である。
「あの城は良いな、欲しい」
 挙句、暴れまわる無敵戦車を見るなり、その目が無邪気に輝きだすではないか。
「カッコいいのが居るじゃないか!!」
 次にルオウ(ia2445)だ。
「うっわーすげーでけー!」
 実に率直に感想を述べる。それが何処か好意的に聞こえてしまうのも無理からぬであろう。男の、浪漫であるのだから。
 そんな浪漫とはかけ離れた所にいるように見えるジャン=バティスト(ic0356)もまた、全く別視点ではあれど驚嘆を隠せず。
「アヤカシの知能、侮り難し、か」
 真顔でアヤカシの技術に脅威を抱いていたり。いやまあ真実恐るべき事態ではあるのだろうが、真面目に受け取っては負け的気配が軍中に漂っているのも事実である。
 相川・勝一(ia0675)もどちらかといえば浪漫派であったが、これを表に出さぬまま面を被ると、すぐに戦闘モードに切り替わる。
 そして見た目がとてもかぶいた二人、叢雲・暁(ia5363)とルンルン・パムポップン(ib0234)(こちらは名前すらかぶいている)はその派手な見た目とは裏腹に間合いを広めにとってまずは観察の構えを見せる。
 瑞希は、まあ開拓者のチームとしては、まだマシな立ち上がりが出来た方か、と自らを慰めたりするのであった。

 見るからにヤバげな龍の巨体と、背後に引かれたクソ怪しい箱を見ながら八十神蔵人は一人愚痴る。
「難しい依頼に見えるやろ? 嘘みたいやろ。この依頼の「普通」基準やねんで……犬神の依頼申し込み改竄疑惑を感じる今日この頃」
 懐から酒を取り出し一口呷る。
「よっしゃ、もうどうでもいい。いくかー!」
 彼は、単身で二騎の龍の内の一体を抑える役目を担っていた。酒でも呑まんとやってられんらしい。
 せーのでつっこむと、龍の背後の大きな箱から無数の弾丸が放たれて来る。これを盾をかざして防ぐが、何せ量と速度と範囲が洒落になっていない。
「最前線こええええ、ポリシー捻じ曲げてタワーシールド持って来てよかったああああ!!」
 盾に当たる音が違う。ひっきりなしの連打のせいで、まるで波に逆らっているかのように盾への圧力がかかる。
 これを重心を低く構え盾を押し出すように進むのだ。こんな姿勢のままでどうやって近接攻撃を仕掛ければいいのか、当の蔵人にもわかっちゃいない。
 二頭の龍は戦場を一息に駆け抜けようとするが、蔵人はこれを遮る位置に陣取り、備える。
 泣き言も引け腰の全開の蔵人は、しかし龍が跳ね飛ばさんと突撃した来た瞬間のみ、この二つが鳴りを潜め、歯を食いしばった強がり顔で立ち向かう。
 蔵人の頭頂は、龍の胴の半ば程の高さしかなく、胴正面のすぐ側まで来ると、直上を見上げる姿勢を取らなければ龍の頭部は見えやしない。そんな体格差がある。
 それを蔵人は、真正面から盾をかざして防ぎ止めにかかった。
 当然、止まらない。
 蔵人ごと龍は突進を続けるが、蔵人は防ぐ姿勢を崩さぬまま、引きずり戻されながらも強く踏みしめる二本の足は、大地を掴んだままである。
 二筋の轍が刻まれ、これが蔵人の構えによるものか進むにつれて深く杭の如く地面を抉り、そして、遂に、龍の突進を止めてみせる。
「し、しんどー……しかもこっからが本番て、もうホント、俺帰ってええやろ」

 ルオウ(ia2445)は先陣を切って敵へと駆け出す。
「俺が道を開くからよ! ついてきてくれよなっ!」
 その弾膜を掻い潜るため、自身を盾とし皆を導くのがルオウの役目だ。
 怯えている暇なんてありはしない。
 度胸一発、瘴気弾が雨あられと降り注ぐ戦域へ突っ込んで行く。
 これに勝一も続く。勝一もまた盾役であり、まずはこの二人が突っ込まなければ話が始まらないのであるが、そこで勝一は蔵人の動きに気付いた。
 蔵人が龍の前に立ちはだかるのを見た勝一は、その意図と正しさを即座に理解する。
 まずはこの突進を止めない事には話にならない。
 ルオウとアイコンタクト一つで、二人は並んで龍の前に立つ。
 どちらも背が高い訳ではないし、特別体躯に優れるわけでもない。勝一なぞは成人男子を主張する事すら出来ぬ低さだ。
 それでも、龍の突撃を受け止めたその背中は、雄々しくも男らしき迫力に満ちている。
 ここで、受け止めきったルオウが、にやりと勝一を見て笑う。
 何を言いたいのかはわかった。常の勝一なら驚き嗜めたかもしれないが、面を被った勝一は実に戦向けの思考をする。
 ルオウは両腕を龍の前腹に突き入れる。勝一は鱗の奥の固い肉を握り掴む。
 そして、ルオウが吼え勝一が支える。
 最初は、誰しも二人の意図を察しえぬ。既に龍は止まっている。まさか押し合いをしているのか、と。
 すぐに理解した。龍の、巨体が、僅かにではあるが上へとズレ動いたのだ。
 更に、一際大きな声でルオウが吼えると、勝一とルオウの二人は龍を真横に投げ倒した。
 龍はこれに憤慨したか、起き上がるなりルオウに挑みかかる。ルオウは、計算通りと脇に置いていた武具を手にするのだった。

 瑞希はルオウが龍をひきつけるのに成功するのを見るや、もう一方の足止めを考える。
 そちらは蔵人が必死に防いでいるが、やはり単身に全てを背負わせるのは酷というものであろう。
 幾つか蔵人にわかる形で地縛霊を仕掛けてやると、蔵人から目線のみで感謝が返って来た。そのありがとうに満ち満ちた表情を見て、相当キツイのだろうなと察するが、まあそこまでである。
 瑞希は次に、龍の動きを制する事を考えた。
「病葉!」
「任せな!」
 二人は同時にそれぞれが持つ呪具、銭剣と金蛟剪を大地に垂直に突き刺す。
 手で印を結び、掛け合い、唱和しながら術言を紡ぐ。
 大地から吸い上げるように瘴気が二人の全身を昇っていく。
 これを操り頭部ではなく腕の先へと向かうよう、瑞希は両腕を雅樂は片腕を頭上へと掲げ上げる。
 滾る瘴気が二の腕にまで上りあがった所で、瑞希は大地に刺さった銭剣を手にし、雅樂は片腕のみを前方へと突き出す。
 虚空を一閃する瑞希、盛大に指を鳴らす雅樂。
 龍は二人によって放たれたこの瘴気により、視覚を遮られ動きを制される。
 ここで、二人のシノビの投入だ。
 暁の特筆に価するレベルの薄さはもちろんだが、ルンルンのそれもやはり頑強などとはとても言えぬ装甲だ。
 この二人に、回避が極めて難しい弾丸の雨あられの最中に突っ込み龍とガチらせるのはリスクが大きすぎる。
 その為の、陰陽術であった。
 とはいえ、リスクが消えてなくなるわけでもない。
 ルンルンはルオウ勝一壁を利用しつつ、忍術を唱える。
「ジュゲームジュゲームパムポップン……ルンルン忍法シャドーバインド!」
 ルンルンの術に応え、彼女の影が伸びる。
 実はこの術、風魔弾正も得意とするのだが、当然、彼女の術の発動にこんな素敵ボイスはついてこない。バックに花しょってハートが飛び交ってるっぽい気がするこれはルンルンオリジナル特典である。
「GOシャドー!」
 二つの陰陽術で動きの鈍った龍に、更に縛術を仕掛ける鬼悪魔外道な所業に流石の暁さんも大爆笑。
 龍の頭部を狙うべく疾走する。
 箱からの連続発射される弾丸は、暁を追うように着弾していく。徐々に迫るこれに、暁は突如スピードアップ。
 遅れてなるものかと弾丸の発射軸の誘導速度も上がるが、当然その分、弾丸同士密度は薄くなる。
「バカめ! こんなものシューティングの初歩の初歩よ!」
 この薄くなった隙間を潜って抜けると、そこはもう龍の手前だ。
 飛び込みざまに龍の長い首後ろに刀を突き立てると、これを両手で持ち支え、刀で斬り裂きながら一気に首を駆け上がる。
 暁の走る背後には、傷口から噴出した瘴気が、暁の後を追うように伸びる。
 龍は苦痛にその身をよじるも、どんなバランス感覚をしているのか、暁が首を駆け上がる速度は変わらぬまま。
 それでも、流石に逆さまになるようひっくり返されては落下は免れない。
 自由落下中はもちろん回避もクソもなく、これを狙う龍であったが、もちろん暁にはこれも計算の内だ。
 ルオウが盾を投げ捨て、手にした槍を両手で構える。
「頼む勝一!」
 頼まれた勝一が両手を組んで足場を作り、これに片足を乗せたルオウは二人分の力で大きく飛び上がった。
 如何な二人分の力でも龍の頭部まで飛ぶのは無理がある。しかし、今こうして龍は、落下する暁を狙い低い位置にまで頭部を下ろしてきているではないか。
 この頭部に真横から一直線に突っ込むルオウ。
「おい! この血も冷たいようなトカゲ野郎! こっちにきやがれってんだ!」
 空中での怒声に龍が首をルオウへと向けた瞬間、その額をルオウの槍が刺し貫いた。
 皮膚というよりは欠片といった方がより相応しい鱗片を撒き散らしながら、苦悶の声を上げる龍。
 尚も刺さったままの槍を、ルオウは力任せに下方へと引き下ろすと、龍は断末魔の声を上げ倒れ、その勢いで盛大にルオウは吹っ飛ばされる。
 大地に落着寸前、勝一が落下地点に滑り込んでルオウを受け止め、どうにか、一匹目の退治は完了した。


 俺もう充分仕事したし休んでええよな、とか抜かす蔵人なるサムライの寝言をさらっとスルーで、二体の龍を撃破した開拓者達は、残る箱アヤカシに攻撃を集中する。
 ジャンはそんな中、この奇怪な箱の正体を探るべく術を施す。
 それがアヤカシのものであるのなら、巫女ジャンの範疇だ。巫女の瞳術には、妖なる術を見破る術が存在するのだ。
 しかし、最初その術の正体がジャンにもわからなかった。
 それは合一。異なる物を一つに重ね合わせる術であった。重ね合わせる術と弾丸を放つ事とが一致しないのだ。
 更に目を凝らす、実際には術の精度を上げたのだが、まあこの場合この言い方がより適切だろう。そして、ジャンは理解した。
 先頃出た合体するアヤカシ、あれと一緒だ。
 この箱は、多数のアヤカシが一つに合わさって出来上がったものであった。これで全てが繋がった。
 先の空飛ぶアヤカシ船、あれも人間から奪取したというのでないならば、これと同じ術を使っているのだろう。
 それらが異常に強力なのも、数多のアヤカシを宿しているからだ。恐らくは、あの箱一つで十数体が合体してると思われる。
 そこで、背筋が寒くなるジャン。
 その想像したくもない思いつきに従って、彼方に見える、アヤカシの城へと視線を向ける。
 ジャンは天を仰いだ。
 箱に用いたのと全く同じ術、つまり、数多のアヤカシが合体する事で、あの城もまた作り上げられていたのだ。
 ジャンは、戦慄と安堵とを同時に味わう。
 つまりアヤカシには人間と同じレベルの技術はまだ無く、それと似たものをアヤカシを消費する事で作り上げる事が出来る、そういう事だ。
 それにした所で大きい強力なものには、その分のアヤカシが必要になる理屈だ。なら、戦力の総量自体はさして変化は無い、そうジャンは見た。
「…………」
 もっとも、あの巨大な城と同量のアヤカシ、というだけで充分脅威ではあるのだが。
 ともかく、と気を取り直しジャンは皆の突入を支援する。
 突入のタイミングは、瑞希の自縛霊にアヤカシが引っかかった時だからわかりやすい。
 薄暗い瘴気が大地から立ち上る様は、正直見ていた気分の良いものではないが、陰陽術の大半はこんなものだ。
 そんな中でも例外的な術、斬撃符を放つは雅樂だ。
 打ち鳴らす指の音が大気を響き伝わるように、斬撃が走り箱を切り裂く。
 この間に前衛戦士組も突貫。文字通りの力押しである。
 龍二匹を既に倒し消耗してはいたが、この間延々瘴気弾で邪魔し続けてくれたコイツをぶん殴れるのだから、何やかやとルオウも勝一もかなりやる気でつっこめる。
 そのまま一進一退の戦いが続くが、瑞希が呪縛の符で動きを鈍らせた所で戦況が動く。
 勝一は思い切ったステップインから、目一杯のテイクバックを見せる。
 対人用剣術では決して用いない、ケモノやアヤカシのような巨大なものをブッた斬る為の剛剣。
「全力全壊で行く!」
 この間、全身に敵の瘴気弾が打ち付けられ続けるが、勝一の体は岩で出来ているかのようにビクともせぬまま。
「ていやー!!」
 四角の端が持ち上がり、転がりかねない勢いで跳ね上がるも、流石に単独でこれを引っくり返す事は出来ず、しかし、四角の形状変化が始まり、これが止まらなくなる。
 ここが勝負。ジャンも治癒術から攻撃術へと切り替え、精霊の輝きを直接箱へと叩き込む。
 ルンルンは箱の攻撃が、突然、全周囲へと闇雲に瘴気弾を放つ形に変化したのを見てとるなり、その切り札を投入した。
 ルンルンの術によって止まった時、この中を単身駆け抜ける。
 流石に開拓者だけあって、暁も勝負所を心得ており、ここぞと踏み込み箱をめったやたらに斬りつける。首が無いのが気に入らないのか。
 いずれ、箱の放つ美々しい弾幕の宴は、開拓者達はのんびり楽しむことは無い。
 ルンルンはとまった世界で箱の上に立ち、その深く深くへと刀を突き立てる。
 刀はルンルンの手練の技故か、さしたる抵抗も無く鍔元までを一息に吸い込ませてしまう。
 刀を抜き取っても、すぐには箱は反応しない。
 ルンルンが箱から飛び降り、着地した所で、瘴気煙が箱の直上へと噴出す。
 そうして、箱は弾丸を撃つのをやめた。


 敵は、本当に引く事を知らなかった。
 なのでこれに引きずられるように犬神、朧谷、傭兵軍も激戦へと誘われていく。
 最終的に、敵を残り一割にまで削り取った所で、総大将藪紫から撤退の指示が出るが、戦はまだ終わっていないのだ。