【藪紫】妖戦艦
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/11 23:14



■オープニング本文

 藪紫が飛空船ジャマダハルを築城に絡ませないのは、戦闘用としての運用以外をする事による戦艦としての劣化を嫌がったせいだ。
 それも理解出来る船長のランタインであったが、しかし、どうにもここしばらくは暇な気がしてならない。
 藪紫とはそれほど長い付き合いではないが、それでも、無為に人材を転がしておくような人間でない事だけは良くわかっている。
 敵襲を警戒して、そんな意図ももちろんあるのだろうが、にしてもそろそろ、ランタインに仕事が来るのではと思っていた矢先、ランタインは風魔弾正と共に藪紫に呼び出された。

「強行偵察です。途上を遮る障害全てを実力で突破し、上空よりの地図を作成して来て下さい」
 戦力はジャマダハル単艦にて、護衛に飛龍が十騎、そしてこれとは別に開拓者を手配するとの事。
 ランタインは確認するように問う。
「それだけ、ですか?」
「はい。ジャマダハルの全力飛行に他の艦では付き合いきれないでしょうし、フル装備の状態での作戦は実はまだでしたよね。これを経験し改装に備えておいて下さい」
 弾正が口を挟む。
「この艦、改装予定があるのか?」
「私が受け取ってからもう四度目ですかね。それにコレは元々技術屋が作ったものですし、実戦経験してからの改修は予定の内ですよ」
 弾正は自分が統治側に居た頃を思い出す。装備の更新や諜報費用などを引っ張り出すのにエライ苦労したものだ。
「……お前は金の成る木でも育てているのか?」
「既に貴女もその枝の一つですよ♪」
 平然と斬り返し、細かな打ち合わせにうつっていく。
 地図は超重要な軍事機密情報だ。これを作ったとして、その管理運用には細心の注意が求められよう。
 この辺りの情報の管理は弾正も藪紫もシノビの出であるだけに手馴れたものだ。ランタインは言われるがままに任せる事にしつつ、懸念を一つ。
「ここいらのアヤカシ、空のアヤカシが出てこないと思ったら、突然集団で出て来たんだってな。そういう地域ってのは、空アヤカシを統制しているヤバイのが居るってのが相場なんだが」
「戦力が足りないと?」
「危なくなったら、いや、俺が損耗の危険を感じたら引き上げるがそれでいいか、という話で」
 藪紫はちらと弾正に目を向ける。撤退指示は弾正ではなくランタインが下すと彼は言っているのだ。
 弾正はその視線を感じていながらにスルー。判断は藪紫が自身でしろという意味だ。
「……空の事は、ランタイン艦長、貴方の管轄です。弾正様もよろしいですね」
「もちろんだ。私には船の限界は判断出来ん」
 ランタインは少し重くなった空気を晴らすべくおどけて言った。
「だからその限界を試すような真似はしません、って話です」
「そうしてくれ。墜落死を厭う訳ではないが、敵に一太刀も浴びせられずでは死んでも死にきれん」
 三人共が微笑しつつ、作戦の打ち合わせは続いた。


 墨の一字を名にもらったアヤカシは、絶海より頼まれていた作戦が、どうにかこうにか形になってくれた事に安堵する。
 絶海からの頼みとはそれ即ち奇鬼樹姫の頼みだ。断れないのは当然として、失敗もまた許されない。
 墨の眼前にそびえる巨体。それは人間が使う飛空船に酷似したものである。
 当然だ。人間が空に家を浮かべていると聞き、これを真似よという指示であったのだから。
 人間はこの空の家の中に龍を休ませておき、必要に応じてここから龍を飛び立たせるのだ。それに加え、家に砲を積んでおき、空からの攻撃を可能とする。
 確かに、厄介だと墨も思う。
 だが、と墨は雄雄しき眼前の巨体を誇らしげに見上げる。
「見よ! 人間のモノなぞ比べ物にならないこの勇姿を! 我等アヤカシは人間と違い、宝珠なぞ使わずとも空飛ぶ程度ならどうとでもなるのだ! ならばアヤカシが本気で作ってやれば人間のモノより良い物が出来るのは当然の事であろうよ!」
 人間の船よりずんぐりと膨らんで見える船体は、各所に瘴気砲を備えており、その数実に五十。上下左右前後全ての方位に向けて砲撃可能であり、この船に死角は無い。
 もちろんアヤカシに工業製品を作り出す技術なぞ無い。
 ならこの船をどうやって作ったかといえば、墨は奇鬼樹姫より与えられた秘術により、数十体のアヤカシを合体させ作り上げたのだ。
 またその合体アヤカシとは別に艦載アヤカシも多数用意してあり、正に空の王者たるに相応しい陣容と言えよう。
 そんな絶好調墨の気分を粉砕してくれる声が聞こえた。
「おい墨! このデカブツはまだ動かせんのか!」
 阿弥陀山三天狗の一体、貪欲が偉そうな顔をして墨の側まで歩いて来た。
「後は細かい調整と飛行訓練だけだ」
「訓練だと? お前は何処まで人間臭い奴なんだ! アヤカシならばすぐに戦えて当然だろう!」
 墨は三天狗の内、この貪欲が一番大嫌いである。事ある毎に墨を人間臭いと馬鹿にするからだ。
 だが幸い他の二天狗が貪欲を諌めてくれた。
「おい貪、墨は姫の命を受けてこうしているんだ。あまりからかうんじゃない」
 これは怒髪の声。コイツは怒らせさえしなければ付き合い易い相手だ。
「だが、これ以上待ってはいられん。何でも炎噴牙が動き出したらしいしな。早々にあの、人間が新たに作っている拠点を踏み潰してやらねば」
 彼は愚知。彼もそれほど付き合いずらい相手ではないのだが、この妖戦艦作成に関しては、自分達三天狗こそが姫配下における空の守りと自負しているだけに、あまり気に入っていないようだ。
 哨戒アヤカシから報せが来たのは、ちょうどこの時の事であった。


「アヤカシ戦艦だとお!?」
 空アヤカシは予想していたが、まさか、飛空船型アヤカシなんてシロモノが出て来るなんて完全に予想外だ。
 更にこのアヤカシ戦艦からわらわらと空戦アヤカシが出て来るのだから、もうこれは完全に人間の飛空船を模したものだとわかるだろう。
 十騎の龍は即座に迎撃に飛び立つが、何せ数が違いすぎる。
 あっという間に船体を取り囲まれ、アヤカシの攻撃に晒される。
「ふん、コイツを何だと思ってやがる。コイツはなぁ、ジルベリアの工廠で図面を引いて、朱藩の職人がジルベリアからの亡命者と共に作り上げ、幾多の戦闘の経験を元に改修を重ねて来た当代きってのバケモノ戦艦だ! 装甲からして並じゃねえんだよ並じゃ!」
 これだけの重装甲をぶん回す多数の宝珠と、それぞれのバランスの取り方は最早芸術の域だ。
 まとわりついたアヤカシ達は、仕方なく艦橋から内部へと侵入するべく乗り込んで来る。
「弾正! こっからはアンタ等の仕事だ! しばらくコイツ等を防いでいてくれ!」
 弾正はもちろんそのつもりであったが、その後の展望も聞かずでは頷けない。
 ランタインは、味方が張り付いていようと知った事かと雨あられと砲弾を撃ち込んで来る敵妖戦艦を睨みつけながら言う。
「俺が! このジャマダハルであのデカブツを仕留めるまでな!」


■参加者一覧
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
ジャン=バティスト(ic0356
34歳・男・巫
樊 瑞希(ic1369
23歳・女・陰
病葉 雅樂(ic1370
23歳・女・陰


■リプレイ本文

 出撃を前に、八十神 蔵人(ia1422)至極重要な事を訊ねた。
「アヤカシも正月くらい休めばええのに、で確認やけど船長、この船はあのでかいのに勝てそう?」
 船長ランタインは即答する。
「さあな。だが、藪紫さんが単艦で出したのはこういう時の為だ。いらん心配せずに行って来い」
「さよか。じゃあ時間稼ぎ行くか……弾正ちゃんや留守番宜しく」
 と話を振ったのだが、弾正ちゃんはというと別の者とこの場を離れた所であった。

 樊 瑞希(ic1369)と病葉 雅樂(ic1370)の二人に呼び出された風魔弾正は、瑞希の言葉に、不覚にも動揺を顕にしてしまう。
「お初にお目にかかります。弾正様。樊 瑞希と申します。我らは貴女様を新たな陰殻の王にすべく動いている者です」
 弾正が言葉も無く立ち尽くす間に、瑞希は自分達の立場を丁寧に説明する。
「弾正様の邪魔にはなりませぬゆえ、お見知り置きくだされば光栄の極み」
 そう言って恭しく頭を下げる瑞希に、弾正は驚きを隠す事すら出来ぬ自らの有様を自嘲しながら言った。
「……開拓者からそういう者が出たのがよほど予想外であったようだ。まったく、自分の事とはいえ随分と楽天的になったものだ。余りの情けなさに泣けて来るわ」
 すぐに表情を堅くし、瑞希達に向き直る。
「叛は終わった。私は敗れたのだ。それが全てだ」
 ぴしゃりと言い放つが、雅樂が堅苦しさの欠片もない口調で口を挟む。
「要するに、要するにだ、弾正様。私設親衛隊ができた程度の認識で、先ずは私とリーダー……非常に奥ゆかしい二名だが、顔と名前をご記憶して頂ければ望外です」
 すぐにその軽い口調を瑞希に窘められる雅樂であったが、弾正は気安く言葉を返す。
「今の私は卍衆ですらないただの傭兵だ、言葉遣いは好きにすればいい。……これで、今の立場も気に入ってはいるのだ」
 艦内通路の奥、角を曲がった先で壁によりかかっていたジャン=バティスト(ic0356)は、口元に微笑を浮かべると、静かにその場を後にする。
 弾正はそこで、思い出したように一つ付け加えた。
「とりあえず、ちゃん付けさえ避けてくれれば後は何も言わんよ」
 へぷしっ、と蔵人のくしゃみが聞こえたとか聞こえないとか。


 アルバルク(ib6635)が艦橋にて撃ち放った銃弾は、密集していた人面鳥の一匹を打ち抜いた。
 この威力と轟音に驚いたらしく、人面鳥は無秩序に散開する。
 これを放置し、次なる標的、鬼面鳥の一匹へと狙いを定める。
 こちらは近接仕様のせいか、人面鳥より肝が座っており、銃弾でぶちぬいてやっても羽ばたきは止めず。
 失速しながらアルバルクの眼前に落下し、これをアルバルクは蹴り飛ばしながら次弾の装填を行う。
「おい、そっちはどうだ」
 声をかけられたジャンは錫を床に強く打ち付ける。この震動が錫に伝わると、その先端から白い薄もやが生じ、高速で空のアヤカシを射抜く。
「……何とか」
「あんたは治癒担当だ。無茶は……っ!!」
 言葉を途中で切り、アルバルクは全力でジャンを突き飛ばす。
 艦橋を大きく転がるジャン。そして、残ったアルバルクに天狗数体とこれに率いられた人面鳥鬼面鳥が一斉に襲い掛かったのだ。
「ちぃっ!」
 懐より取り出した黄金の短筒を、自分の真後ろに向け発砲。弾丸は、閃光練弾。
 突入してくるアヤカシ全てにこの輝きを叩き付け僅かな猶予を得ると、右手に持つ宝珠銃と左手に握る黄金短筒を大きく左右に広げ構える。
 最も最初に来た上からのアヤカシを宝珠銃による先制の一撃で粉砕、すぐに頭をかがめ上からの爪を外す、頭を上げる間もなく次撃がくるのでこちらは逆側の黄金短筒でいなしざまに射撃。
 天狗の下段蹴り、先読みしたアルバルクは足裏でこの蹴りを止めつつ肘でその顔面を薙ぐ。左右から同時、相手もわからないが両手の銃を同時に発砲し粉砕。
 ウィマラサースと呼ばれる神秘の域に達した銃を用いたアルバルクの体術であるが、無論これを何時までも続けられるわけではない。
 集中攻撃に晒される中、次第に全身に損傷を積み重ねていくアルバルク。
 ジャンの錫杖が一回転。駆けつけて一緒に防御してやりたい衝動に駆られるが、それでは彼がわざわざ突き飛ばしてくれた意味がなくなる。
 より防御能力に長けた方が集中攻撃を受ける事で、全体的に被る損傷を減らそうという話なのだ。
 特に長い射程を持つジャンが用意した治癒術は、ともすれば攻撃者にもその治癒者の所在がわからぬ程の距離を取れる。
 錫の指す先に、白い軌跡が流れていく。
 零れる輝きが艦橋にゆるやかな楕円を描くと、追随するように輝粉がこぼれ落ちる。
 光はアルバルクの直前でその頭上へと軌道を変え、無数の燐粉へと変化しアルバルクに降り注ぐ。
 その頃には既にジャンは位置を移動している。
 艦橋を駆け見張り台を半ばまで昇ると、艦橋全体が良く見通せる。これだけ離れてもまだ術は全員に届く。
 しかし、艦は揺れるのだ。
 皆何とか堪えてはいるが、戦闘機動を取っている艦の上での戦いは、かなりの困難と危険が伴おう。
 ましてや、ジャンのように高い場所を確保していれば尚更だ。
 時折思い出したように迫るアヤカシを盾で防ぎながら、ジャンは奮戦を続ける皆を評して言った。
「……状態異常者ゼロか。頼もしい限りだ」
 そう、ここまで人面鳥やらからの状態異常術がばかすか飛んで来ているのだが、ただの一発も、通ったものはないのである。

 艦のあまりの堅さに、見るからに苛立っている天狗が居る。
 怒鳴りつけながら配下のアヤカシに指示を下している彼に、蔵人は挨拶代わりの一撃を飛ばしてやる。
 突然の事に驚く天狗、愚知に、蔵人は殊更挑発するように言う。
「よう天狗の兄ちゃん、ちと相手してもらおか」
「貴様……」
 憤怒の表情で天狗は蔵人へと襲い掛かる。
「人間風情が空に踏み込むなぞ許されん。ここは我等アヤカシの、いやさ天狗の領域だ」
 天狗の急降下からの斬撃は、さしもの蔵人も受けきるのは骨であったようで、支える後ろ足の膝が折れ、甲板に膝頭を強く打ち付ける。
 二本の片鎌槍を交差させながら、腕力で強引に押し切りにかかる愚知の剣を堪え支える。
「足掻くな、人間が天狗に敵うはずなかろう」
 そこまで口にした愚知の頭部が大きく揺れる。この隙に天狗を突き飛ばしてその下より逃れる。
 瑞希の雷術が愚知を撃ったのだ。
 甲板上に立つ愚知に、蔵人は片鎌槍をそれぞれ片手で回しながら言った。
「なんやあんた天狗どうこう言うてるけどな……ええか、この際はっきり言うてやろうか……ぶっちゃけ開拓者の3割位はなあ……天狗という存在自体、知らんぞ!」
「何?」
 その意図が見えぬ愚知は思わず動きを止める。
「つか天狗が頻繁に出るの、このド田舎のここら位やし、アヤカシでも天狗知らん奴おるやろ絶対」
「……」
「そんなどが付くマイナーどもが空は自分の物とか……他所の魔の森行ったら笑われるで?」
 ははは、と笑う愚知。背中の羽がわっさわっさと羽ばたき始め、そして、突貫。
 完全にキレて蔵人とガチり始める愚知を眺めながら、瑞希は、ああいう賑やかなのは何処にでも居るものなのか、と嘆息しつつ別所で戦っている仲間の事を思い出す。
 とはいえ、これはこれできっちり敵の主力を引き付けてくれているのだから、その点に関して文句は無い。
 瑞希は二本の指で挟んだ符に術を込めると、逆手に持った銭剣の先にこれを刺し、剣先にて呪印を中空に描く。
 この描かれた文様に、一つ祈る毎に、黒い輝きが愚知の周囲に浮かび上がる。
 全部で五つ、先に描いた文様の頂点と同じ数だけ輝きを発生させると、その不可思議な現象に愚知も警戒を顕にする。
『通せっ!』
 五つの光同士を繋ぐように黒き閃光が走る。これらは全て愚知を貫く形であり、その動きを封じるのが目的だ。
 首尾よく止まってくれた。ほっと胸をなでおろすより前に、ここぞと攻撃を仕掛ける。
 手の平に貼り付ける形の呪符で、銭剣の下端から上端までを素早く撫でる。
 紙片である呪符は、この過程で剣に吸い寄せられるように消える。
 帯電し唸りを上げるこの剣を斜めに振り下ろすと、剣先から幅広の閃光が放たれ、愚痴ではなく蔵人を狙って効果してきた天狗を射抜く。
 瑞希は近接戦闘中で他に目をやりにくい蔵人に代わって、周囲の戦況を把握し、ひたすら援護に徹するのだった。

 フィン・ファルスト(ib0979)に棍を叩き付けながら貪欲は、苛立ちを隠そうともせず怒鳴る。
「貴様堅すぎだ! どうなっとるのだこの人間は!」
 開戦直後から貪欲はフィンに狙いを定めるとひたっすらに攻撃を仕掛けていたのだが、フィンはその強打、フェイント、連打、突き薙ぎ払い等々、全てを受けて受けて受けきっているのだ。
 そこに周囲の数体を黙らせ余裕の出来た雅樂が参戦する。
 両手に握った金鋏。縦に構えてこれを、ゆっくりと開く。
 開かれていく刃と刃の間に、滴るように闇が集う。
 雅樂の目は、金鋏の刃の先端から瘴気が更に長く伸びていくのを捉えている。
 曲がり、うねり、身もだえするように伸び進む刃は、フィンと交戦中の貪欲の胴を、挟む込むまで伸びていく。
 それまで不可視であったのか、貪欲はその瘴気に気付かぬままであったが、自らの体を挟み込む悪寒に気付いたか、ぎょっとした顔で雅樂に目を向ける。
 雅樂は指を一つ鳴らすと、大仰な動きでこの鋏を勢い良く閉じる。
 ぶつん、という音と共に、貪欲の動きが止まる。彼の目は動いているし、瘴気の刃も貪欲を切り裂く威力は無かったのか、挟み込むなり消えてしまっている。
 なのに動けない。いや、徐々に動きを取り戻していくが、やはり何処か神経でも切れたかのような遅々とした動きだ。
 フィンが目線のみで謝意を伝えながら、攻勢に移る。
 もちろん雅樂もだ。
 開いた鋏を空へと投げ上げると、雅樂の眼前にて斜め十字に開かれた形でぴたりと宙に止まる。
 この刃と刃の間を通すように、腕を伸ばして指を鳴らすと、放たれた震動が大気を伝い、貪欲へと叩き付けられる。
 貪欲の棍を真っ向より受け止めると、フィンの全身からオーラの迸りが。
 この輝きが剣先にまで至ると、爆発的に貪欲の棍を弾き飛ばす。
 後退する貪欲を追い、騎士剣を力任せに振り下ろす。舌打ちしながらこれをのけぞりかわす貪欲。剣は勢いあまって艦橋に突き刺さる。
 崩れた姿勢のままの近接は危険だと貪欲は羽を羽ばたかせ後退しながら上へ。
 空にて一度大きく距離を取り直すつもりであったのだろう。
 身を翻す貪欲に、フィンは待ってましたとばかりに腕を大きく振りかぶり、逆手に握りこんでいた礫を投げつけた。
 あまりの勢いにフィンの体が半回転してしまう程の投擲。もとより怪力のフィンの飛礫は剣の間合いから外れたと油断していた貪欲の羽を強く打つ。
 小さい悲鳴と共に艦橋に落下する貪欲。
 フィンの後方より口笛が。これは感心した雅樂のものだろう。
 艦橋に刺さった剣を抜き、貪欲へと駆け寄るフィン。
「まーアレよ? 空の上って戦場なら飛べる奴相手に対策はしとかないと」
 両腕でがっちりと握った騎士剣を、起き上がりかける貪欲に向け駆け寄りざまに薙ぐ。
 棍を盾に防がんと貪欲、委細構わずフィンは剣を振りぬく。
 崩れた姿勢でフィンの剛力を受け止めようなぞと、如何なアヤカシとて無理があろうというもので、フィンは棍ごと貪欲を真っ二つに叩っ斬るのであった。

 相川・勝一(ia0675)とネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)の二人は、極自然に役割分担を行う。
 怒髪の身軽な動きに対し、投擲しても戻って来る特殊な槍を用いる勝一が近接職とは思えぬ長間合いにて迎え撃ち、ネプはそこら中から間断なく攻め寄せてくるアヤカシ達を防ぎ堪える。
 ネプは両手持ちに握った剣を、頭上を通るように振りぬくと、その途中で空から突っ込んで来たアヤカシを引っ掛ける。
 これを斬らず、剣で殴る。
 殴るというよりは、殴り飛ばすがより近いかもしれない。剣で殴打されたアヤカシは直角に軌道を変化させながら吹っ飛んでいく。
 すぐに今度は体の横を通るように、全力で薙ぐ。
 これまた真横から突っ込んで来たアヤカシを引っ掛ける。
 斬ってしまわないよう太い胴を狙い、刃に負けてアヤカシの体に吸い込まれていく剣を、吸い込まれきらぬよう押し出しながら剣を振り切る。
 今度は艦橋の端まで飛んでいき、柵にぶつかると勢いそのままにこれを乗り越え、艦外へと落下していった。
 今はともかく数を減らす、その事に集中するネプ。
 勝一は、翼を用いて縦横に飛び回る怒髪に手を焼いていた。
 怒髪はどうやら数の利を活かすべく、時間をかけて疲労を待つつもりか。
 勝一は、浅く通りすがりに削るのではなく、一撃離脱を狙うのではなく、必殺を期して深くへと飛び込んで来るその瞬間を待つ。
 守りに徹する勝一に、怒髪はならばと重心を前に、少しづつ、深く重く、そして。
「動きが早くても攻撃の瞬間ならば!」
 盾で棍を流しつつ槍にてその足を薙ぐ。外される。しかし、無理に外したせいで体勢を崩す怒髪。
 後方へと抜ける事で崩れた体勢を直す時間を稼ぎにかかる怒髪に、振り向きざま槍を放つ勝一。
 この一撃で肩を半ばまで抉られた怒髪の、表情が羅刹のそれへと変化した。
 突如、それまでのクレバーな戦い方を放り投げ、鬼のような猛攻を仕掛けて来る怒髪。
 勝一をして手傷を防ぎきれぬ連撃。しかし、当然前のそれより防御は疎かになっている。
「名前通りな奴だな。だが、ここで自由にやらせるわけにはいかん! まずは……空から引きずり下ろさせてもらう!」
 頭上に向け高く高く槍を投げ上げると、棍をくぐりながら近接し、真下から顎を頭突きで突き上げる。
 更にその首を掴み、怒髪を腰に乗せ首投げにて、艦橋に叩き付けてやる。
 そのまま転がった両者が立ち上がる。この時、空から降って来た槍を手に取る勝一。
 足を止めた怒髪はゆっくり後ろを振り返る。
 そこには、怒髪の翼を斬り落としたネプの姿があった。
「完璧なのです!」
 完全に矛先をネプに切り替えた怒髪。ネプはこれをわざと深くで受け止める。後少し踏ん張れば押しきれるような位置でだ。
 怒髪はもちろん振りぬきにかかる。ところが、見た目にまるでそぐわぬ膂力で堪えるネプ。
 そしてこんな隙を見逃す勝一ではない。
「隙ありだ! 全力全壊……我が正義の一撃をその身に受けるがいい!」
 胴深くまで至った刃に、傷口から瘴気を噴出す怒髪。
 ネプもまた、この一撃で弱まった怒髪の棍圧を、全身全霊を込めて斬り返す。
 下から切り上げる形であったのが、ネプの剣圧に負け、逆に艦橋に背をつき押し込まれる形になる怒髪。
 その位置からネプが棍ごと怒髪を両断するのに、さしたる時間を必要とはしなかった。