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■オープニング本文 ディルクは、町の衛兵から聞いた言葉の意味が、良く理解出来なかった。 「ディルク、すまないがお前の力にはなれないんだ。ギルベルトの処理には異論の余地は無く、帝国の法に則った正しい手続きに基づいた話なんだから、奴等を逮捕なんて真似は出来ないし、むしろギルベルトの邪魔をするというのなら、俺達はお前を捕まえなきゃならない」 「馬鹿な! ゼルマがギルベルトの情婦にされようとしているのは明らかだろう!」 衛兵は改めてディルクに説明してやる。 「元々孤児のゼルマの権利は里親であるマリウス商会のものだ。まだ成人していないのだから、ゼルマの身柄はマリウス商会が管理するのは当然だし、このマリウス商会が持つ全ての権限をギルベルトが買い取ったのだから、当然、ゼルマの身柄はギルベルトが管理する事となろう」 「だったら俺がゼルマを引き取ると言っているだろう! それでゼルマも異論は無いはずだ!」 「だから、その判断が出来ぬ年齢だと、帝国の法は言っているのだ」 「そんな年の娘にギルベルトが何をしようとしているのかわかって言っているのか!?」 「……もちろん、ギルベルトがゼルマに不埒な事をしたというのなら、充分俺たちが動くに足るだろう」 「ふざけるな! マリウス商会の皆はギルベルトの元で働くんだぞ! 彼等の処遇を引合いに出されたらあの優しいゼルマが訴えるなんて真似出来る訳ないだろう!」 衛兵は、だから詰みなんだ、と表情で言う。 ギルベルトは衛兵詰め所から出てくるディルクを、絶好調すまいりーに出迎えてやる。 「ん〜〜〜? でぃいいいいいいいいるくくうううううううん? どうかなぁああああああ? ボクちゃん捕まっちゃうのかなあああああああ? あれええええ? でも衛兵さん出て来ないねええええええ?」 基本煽っていくスタイルの模様。 真顔になって後ろに控える仲間達に向かって言うギルベルト。 「安心しろゼルマ、君は俺が守って見せる、きりっ………だってよ! 片腹痛いとはてめえの事だ!」 無茶苦茶爆笑しているギルベルトの仲間達。 「いやぁ、無いわー。マジで女一人守れないとか、生きてる価値無いわー」 「いやそれ以前に、アイツまだガキだべ。ギルベルトさんマジで手出す気なん? 人としてそこに誰かつっこんでやれよ」 「草不可避wwwwwwwwwww」 コイツ等もまた煽っていく方向性で統一されている。 一緒になって大笑いした後、再び真顔に戻るギルベルト。 「やっぱさ、孤児とか俺見捨てられないんだ。生まれが幸福でないのなら、せめてその後の人生ぐらい、幸せに過ごして欲しいじゃん。主にベッドの上でとかっ」 「さ、最後が糞過ぎるっ! 台無しじゃねえか!」 「うわ、マジで手出す気だよこの人。引くわー、マジ引くわー。いっそディルクも混ぜてやったらいいんじゃね? 縛り上げて身動き取れなくした上でだけど」 「YESロリータNOタッチ。紳士の心得だが、生憎俺には畜生の血が流れていてな」 両腕を組んで頷きながらギルベルト。 「ここはあれだディルク、駆け落ちっきゃないっしょ! 手に手を取っての逃避行〜♪ 君さえいれば他に何もいらないんだーとかほざけよバーカ! ほら言えよ、ジルベリアの法なんて俺達の愛の前にはべんじょこーろぎ同然だってよ! 何だよ、ビビリか? あんだけ大口叩いてやっぱ怖いでちゅーってか? ボクちゃんギルベルトちゃまに負けちゃいまちたー、あんな女どーなろうと知った事じゃないっすよげっへっへってかー?」 残る三人が煽る前に、ディルクが完全にキレた。 「てめええええええええ!」 「よせディルク!」 建物から飛び出して来た衛兵が必死にこれを止める。 「やらせろおおおおおお! コイツだけは絶対許せねええええええ!」 「いいから落ち着け! おいギルベルト! お前もいい加減そのぐらいにしておけ!」 ギルベルトは親指を立てて衛兵に言ってやった。 「絶対に嫌っ♪」 きらっと無駄に歯を輝かせ、更に追撃にかかる。 「今夜無性に、レイプ目のゼルマが見たい」 自分で言って自分で大笑いするギルベルトに、三人は我も我もと続いていく。 「ディルクより先に大人の階段昇っちまうんだなぁ」 「はいはーい、俺ガキとかまるでその気になんねーから、暴力担当で一つ」 「器具の使用は、よろしいか?」 結局、大笑いしながら騒ぐ四人の前から、衛兵はディルクを力づくでひっぺがして落ち着くまで詰め所の牢に放り込むのであった。 実際の所、ゼルマのような小娘の一人や二人、ギルベルトにとってはどうでもいいのだが、せっかく付いてきた特典をフイにするつもりも毛頭無く。 ギルベルトの元には、今のゼルマと似た境遇で、逃げたり逆らったり出来ぬ立場の女性が既に数人居る。 公にこそなっていないものの町では有名な話で、ディルクはこれを知っているからこそ、ゼルマの去就に心を砕いていたのだ。 ディルクを止めた衛兵クリストフは、仲間の衛兵と共に酒場で皆に語りかける。 「最早見るに耐えんぞ、アイツ等の横暴は」 クリストフとは同期の男が異を唱える。 「とはいえ、ギルベルトは法を熟知している。商売の才能もあって金も持っているし、どうにもしようがないのではないか?」 経済を得意とする衛兵が吐き捨てるように言った。 「アイツのは商売とは言わん。法の隙間を掻い潜りながら、他人を食い物にしているだけだ。アレをどうにかしようってんなら、俺も乗るぞ」 クリストフは頷き、自らの考えを皆に伝える。 「開拓者ギルドを頼ろう。あそこの職員にはハンパじゃない事務屋が揃ってるから、何か良い手を考えてくれると思う」 衛兵達で金を出し合う事に、誰からも異論は出なかった。 アイツ等を放置する他無い現状に、最も責任を感じているのは、町の治安を守る彼らであったのだから。 ギルド係員はギルベルトの身上調査は行わず、裏取りは依頼主に対してだけ行う。 これは、単純にギルベルトの調査は既に完了している為だ。 彼等によって迷惑を被った方々に、ギルドに依頼すればこれこれこうして解決して見せますよ、とプレゼンするつもりであったのだ、このギルドでは。 問題は料金に見合った依頼人を見つけられなかった事だが、衛兵達が提示してきた額は、この仕事の依頼料として、僅かに足りない程度であった。 ただ、そうは言っても、衛兵の給料からこの金額を出すのが途方も無い話なのは係員にもわかる。きっと、仲間内で金を出し合ったのだろう。 衛兵達は、随分とギルベルト達の立ち回りの上手さを気にしていたが、係員はその辺を全く問題にしていない。 「死体は、誰も傷つけませんからね」 圧倒的な暴力と地域封鎖のコンボにて、一夜で全てを決する。 レンガ造り二階建てのギルベルトの屋敷は、ギルドならば十人も人を回せば、周辺一帯を一晩無人の野に変える事が出来る。 後は、一人残らず彼等を消せば、解決である。 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
隻(ib9266)
21歳・女・弓
カルマ=V=ノア(ib9924)
19歳・男・砲
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
徐 昴明(ic1173)
44歳・男・サ
五黄(ic1183)
30歳・男・サ
夏 興楙(ic1261)
18歳・男・砲 |
■リプレイ本文 野乃原・那美(ia5377)の侵入ルートをたどる形を取ると、物陰に哀れな遺体が転がっていた。 カルマ=V=ノア(ib9924)は、その手際の良さに寒気がしたが、味方なのはまあ頼もしいなと標的を探すべく動く。 先を行く徐 昴明(ic1173)は屋内用装備で武器には短剣を。翻ってヴィンセントが自らの得物を見てみると、ぶっちゃけ隠密にはまるで向いていない。 そも砲術士にそんなもん期待すべきではないのである。なので、本格的に動くのは表が動いた後。 時期に外が騒がしくなり、ばたばたと外へと向かう者達が多数出てくると、遅れて出て来た敵の一人が、何かに気付いたように足を止める。武器は刀。 「勘の良いのが居るじゃねえの」 今度は昴明に伺う事すらせず、物陰より銃を突き出し、狙いを定める。 「屋内にも敵!?」 「おせーよ」 轟音と共に、その男はもんどりうって後方に転がる。彼を庇うように一人の男が前へ。 昴明がソレへと向かって駆けていく。 ヴィンセントは銃の台尻を指で音高く弾いてやる。練力を込めてそうすると、神秘の力が新たな銃弾を作り出す。 昴明が盾で前に立った男を押し出し、隣室へと叩き込むと、最初の男、ヨーナスとヴィンセントの二人が残る。 ヨーナスは起き上がりながら昴明の後姿を見送った後、ヴィンセントをじろっと睨み、実に満足げに頷く。 「ならばよし」 何故か物凄く不愉快な気がしたので、もう一発撃ってやった。 前方に転がりながらこれをかわすヨーナス。起き上がりざま、凄まじい瞬発力で一気に間合いを詰める。 突き、皮一枚で回避。しかし続く薙ぎが速く、浅手ではあれど傷を負う。 「他人の家ってのは、勝手が悪ぃが……」 更に、嵩になってかかってくるヨーナスに、ヴィンセントは彼の居る方向とは間逆である後方に向け、肩越しに向けた銃をそちらを確認もせずに発砲する。 ヴィンセントの背後で凄まじい閃光が炸裂する。これで視界を失ったヨーナスの顔面を蹴り飛ばした後、ヴィンセントは身を翻す。 目を擦りながらこれを追うヨーナスは、やはり上機嫌に見えた。 「ふむ、男か。大変結構」 やはり不愉快極まりない事言われてる気がしてならないヴィンセントである。 また、別室に転がり込んだ昴明は盾で押し込む形を主に立ち回る。 敵マルセルの武器は大剣。その重量で屋内の装飾品を粉砕しながら剣を振るうが、やはり本来の能力全てを発揮するにはこの部屋は狭すぎる。 そして昴明は、盾をハンマーのように用い、マルセルが受けようが何しようがお構いなくガンガンに打ち付ける。 こちらは受けと攻撃が一体となった形だ、大剣の扱いに苦労しているマルセルとはもう手数からして差が出て来よう。 隙を見つける。 マルセルのかなり無理な体勢からの大振りを、昴明は突如受けるでなく流しにかかる。 たたらを踏んで堪えるマルセルを、盾で突き飛ばしてやると側面をがら空きにしながら崩れる。そこに、昴明が逆手に持った短剣が突き立った。 短い刃ではあれど、体重を大きく乗せた一撃はマルセルの鎧を削り取りながら深々と突き刺さる。 悲鳴をあげながらマルセルは、逃げ腰のままで大剣を叩きつけにかかる。昴明はこれを真っ向から盾で受け、弾くのみならずマルセルを強く押し出す。 そのまま部屋の窓から外へと飛び出し、窓枠から外へ転げ落ちるマルセルの上に飛び乗りながら、これに短剣でトドメを刺した。 同時に、二つ隣の部屋の窓が轟音と共にぶち割れ、男が一人外へと投げ出される。 頭部を粉砕されたこれを窓から覗き込むヴィンセント。 「頭に風穴、似合いじゃねぇか。鉛玉ぶち込まれて、多少はマシな頭になったか?」 ヴィンセントは昴明と目が合うと、二人はどちらからともなく残敵の捜索にうつった。 正面突入組。 この雄々しき先陣を切ったのは夏 興楙(ic1261)であった。 見るからに騎士らしい姿の男を前に、手にした魔槍砲は構えもせず立てたまま。 「お金とか暴力とか使わないと女の子に見向きもされないかわいそーな人たちの屋敷ってここぉー?」 騎士の男は調子を一切崩さぬまま問う。 「何奴か」 「女の子苛めて楽しむーとかおいくつでちゅかー的な?、かっこわりーきもーい☆」 「……」 「そーんなぶっさいくなお顔ぢゃふつーの商売じゃお客さんなんかつかねーもんねー。うわ必死、超ウケるー♪」 騎士の後ろの男達がマジギレしそうになっている中、騎士は興楙が騒ぐのを苦々しい顔で見ている五黄(ic1183)を見て、小さく嘆息する。 ブチきれ雑魚が突っ込み始める前に、騎士は無言のまま剣を抜き、一歩を踏み出す。 「行け! 親父!」 とそそくさと五黄の後ろに隠れる興楙に、騎士クラウスは何処か穏やかに見える表情をしながら言った。 「……苦労するな、お互い。理解も同情も出来るが、立場の差は覆らん。さあ、構えろ」 騎士クラウスの老齢を見て、五黄は、ああ、こいつも似たようなもんなのか、とやはりこちらも同情するも、そこでやはり一つの線が引かれる。 『贔屓目抜きにしても、ウチのバカ息子はあそこまでヒドかねえよ』 五黄とクラウスが激突するのを他所に、興楙は一人の雑魚をただの一撃で吹っ飛ばしてやる。 敵の反応を見ると、彼等は攻撃力の高さを警戒して包囲を狙ってくる。逃げたりはしない。 あくまで予想の外ではないレベル。ふふんと鼻で笑ってやりながら対処に移る。 だが、音が予想を外れた場所から聞こえる。 金属同士を強くこすりあわせた音は、興楙の背後の位置より聞こえ、驚き確認するとそこには敵シノビが。 隻(ib9266)の矢を受けこれを剣で弾いたのだ。 舌打ちすると、興楙を雑兵に任せつつ、隻に向かって走るシノビモーリッツ。 近接されるまで、射撃の機会は隻の予想では八回と見た。 必要なのは、冷静さを決して失わぬ事。八回の射撃中、五射が命中。それでも隻に動揺は無い。 矢は外れたのではなく、モーリッツが外させたものだったから。 「良い女じゃねえか。……降るってんなら俺が天国に連れてってやるぜ」 そう言いながら刃を振るう彼に、僅かの躊躇も見られない。 機会は一度。きっと、殺しきれぬと思ったからこそ考えていた仕切り直しの一撃。 技量差を知っているモーリッツは剣を突くではなく振る。そこまで予想通りで、隻は逆にモーリッツへと踏み出す。 そのまま鎧と腹筋で止まっている、モーリッツに刺さった矢を片手で掴み、より深くへと押し込む。 彼の動きが止まる。これを背後へ抜けながら後ろ蹴り、人差し指と中指で一本、薬指と小指で一本、矢を掴み振り返りざまに構える。 モーリッツは反転しつつ反撃を。その顔に、一矢が突き刺さる。苦痛に喘ぐ声を、更に喉を射る事で封じてやる。 すぐに身を翻し逃げ出すモーリッツに、隻は弓を構えながら言ってやった。 「往生際の悪い方。……今更天国には行けないというのに」 また、もう一人の正面組、津田とも(ic0154)は砲術士の特性を活かすべく、敵が出てくる入り口を狙撃できる場所を確保する。 まず第一陣をスルーし、更なる援軍は、と待っていたらこちらは腰の重そうな老人と彼を守るように位置する雑兵が。 「せーのっ!」 掛け声と共に、抱えていた大筒をぶちかます。 もうこれでもかっつー轟音と共に、屋敷入り口の扉が木っ端微塵となる。 当然、その辺りに居た皆々様々も盛大に吹っ飛ばされている。 がらん、と音を立てて抱え大筒をその場に転がしたともは、脇に立てかけておいた火縄銃を手に取り構える。 倒れる男の内の一人がぴくりと動いた瞬間、そちらに銃を向け発砲。沈黙。 次の男はこれを見ていたのか、動くと同時に隣に倒れた男を盾として抱えながら、遮蔽を取るべくずるずると動き出す。 当然ともに撃たれるが、人の盾が功を奏したか、何とか物陰へと転がり込む。 射線が通ってなければ攻撃は当たらない。それは魔術師の理屈だ。砲術士であるともに、そんなものは通用しない。 彼が隠れている物陰の脇を通り抜けた銃弾が、不意に弾道を捻じ曲げ、隠れている男を直撃する。 彼はこの銃撃で腹をくくったのか、物陰まで盾としていた遺体を抱え、自らその姿を現した。 老人、恐らく、魔術師。 と、魔術師、とも双方にとって予想外の事が起こる。 足音を忍ばせながら、雑兵の一人がともへ近接を果たしていたのだ。 歓喜の表情で術を飛ばす魔術師。これと同じタイミングで突っ込む雑兵。 ともは雑兵に向け、銃先につけていた銃剣を突き出し胴を貫いた後、彼を銃を使って持ち上げながら魔術への盾とする。 その雑兵を貫いて雷撃が来た。 流石の魔術。まるで減衰されていないようで、ともは筒先にぶら下がる雑兵を蹴り飛ばしてこれを外し、銃を構える。 彼は魔術の一撃が決まった事で気を良くしたのか、このまま打ち合いに応じるようだ。 ともはこの魔術師の戦闘経験の乏しさが笑えてならない。 彼は、よりにもよって砲術士との遠距離での打ち合いに応じてしまったのだから。 五黄の敵は、滅私に慣れた男だ。そうすぐに思えるような、彼の剣であった。 長大で武威に優れた方天戟を振り回す五黄に対し、まるで怖じるところが無い。技量に極端な差があるでないのにだ。 彼に思う所あれど、クラウスと同時にかかってくる雑兵は、もう紛う事無きクズ野朗である。 彼の剣を流すと同時に、間合いの内に居る連中を片っ端から叩っ斬る。 「自分達なら大丈夫、そんな風に思ってたんだろうが残念だったな」 三人程をぶった斬った所で、五黄は方天戟を天高々と振り上げる。 体を捻り、足を大股に開き、今から行くぞと全身で主張してやる。 ベストは振り上げ始めた瞬間に動く、であったが、騎士という守る職柄故かクラウスの判断が遅れ、五黄が備えを終えてしまう。 こうなると、下手に動けない。クラウスはもちろん、他の雑兵も。 「心底後悔させてやりたいのはやまやまだが、いちいち痛めつけるのも面倒だ」 凄まじき強打がクラウスを襲う。 受けに長けた騎士ですら苦痛を堪えきれぬ程の。 そしてこの一撃でクラウスの強い警戒を誘い、攻めに動く気配を封じてから、周囲の雑兵を次々屠りに動き、瞬く間に全てを斬り終えてしまう。 「さっさと終わらせるに限るな」 残るはクラウス。 屋敷の中からの援軍を待っていた彼は、それが為されぬのを見て、初めて動揺を顕にする。 そして五黄は、その隙を見逃す程手加減をしてやるつもりもない。 「もう、遅えよ」 「那美。騒ぎになるまでは、首を狙っときなさい。首を」 川那辺 由愛(ia0068)のそんな言葉に、あいさー、と了解の意を送り、さくっと次の敵を殺っておしまいになる那美。 忍び足で先行する那美は、中から人の気配のする部屋を見つけると、二人はせーので室内へと飛び込んだ。 中には三人。内の重装甲の男が恐らくはギルベルトであろう。 「……女? おいおい、これじゃむしろご褒美だろ」 明らかに見下した発言にも、那美はまるっきり動じた様子は無い。 「んふふ、幼女じゃなくてごめんだけど、僕がしーっかり遊んであげるのだ♪」 「え? いやお前等どっちもガキにしか見えないだろ、背とか」 ほんのちこっとだけ由愛の頬がひくついた気がするが、きっと気のせいであろう。 かなり余裕ぶっこいていたギルベルトの顔色が変わったのは、那美の初撃を受けた瞬間だ。 二本の忍刀を用いたシノビらしい変則的な戦い方であるが、実はこのニッチな性癖持ちの那美は、その能力においては大変バランスが良い。 攻防どちらかに偏る事もなく、シノビならではの一手の軽さもこれを補うだけの技量を備えている。 防御に偏っているギルベルトでは、那美の足の速さを捉える事が出来ないのだ。 だからとその優れた防御力を持って那美の攻撃を防ぎきれるかといえば、そんな事も無い。 那美は、殊に剣先の微細な挙動を感じ取るセンスが卓越しており、鎧の表面で止めたと思ったら、あっという間にその隙間に剣先が吸い寄せられていくのだ。 このセンスを一体どのよーに磨いたとかどんな事に活用してるか等に関しては、敢えての記述は必要ないと思われる。 由愛はこの間に、内心はともかく淡々と室内の封鎖を進める。 まずは入り口にでーんとでっかい壁を作り、次に窓を同じく壁で塞ぐ。 残る二人の雑兵は、那美のヤバさに手が出せず。かといって、平然と巨大壁作り出す術者に襲い掛かる度胸も無い。 てっきり邪魔が入ると思っていた由愛は、思ったままをしょーじきに告げてやる。 「貴方達、真逆……腰抜け? ハッ、本当に男かしら」 それでも動かず。 「如何かしたの? ほらほら、返り討ちにしてみなさいよ」 雑兵は、彼もまた正直に言った。 「はんっ、ギルベルトさんがやってくれるから、てめぇはそこで待ってろよ」 由愛は理解した。こいつら、色々と駄目な奴等なんだと。 相手するのも面倒になり、由愛は邪魔が入らないならいと遠慮なく室内各所に仕掛けを施す。これは位置を工夫し、仕掛ける様が那美にしか見えぬようしておく。 すると、那美もこれを受けてギルベルトを誘い込み、自縛霊の罠が炸裂するというわけだ。 由愛は再度雑兵の二人に言った。 「いいの? このままだと頼りの騎士様死んじゃうわよ?」 彼らがこれに答える前に、那美のうれしそーな声が聞こえてきた。 「まだまだこれくらいじゃ終わらないよ? 満足するまでいっぱい悲鳴あげてね♪ そして……斬り心地楽しませて貰うのだ♪」 「ま、待て! ここは一つ話し合いで……」 既に鎧は斬り剥がされており、後はもう、好きな様に好きな所に、その刃を突き立てるのみ。 もちろん那美は一切の遠慮加減をしなかった。 「んー、もう終わり? 終わり? それじゃあ…さ・よ・な・ら♪ もう会いたくないから消えてね♪」 その無残な様を見た雑兵は速攻で土下座。由愛は確かめるように問うた。 「助かりたい?」 「はいっ!」 「死にたくない?」 「はいっ!」 「駄目ね、今度はあんた達が、地獄で煽られてきなさい。心行くまで、ね。那美」 「おー!」 戦闘が終わると、興楙は仲間達に暢気な口調で訊ねた。 「あんさー、頭よさそーな奴らが難しい顔で考えてる「法」とかってのさぁ、あーんな女の子にひでぇことする奴らが儲けるためにあんのー?」 その問いかけに、隻も昴明も五黄も驚いた顔を見せる。 彼等なりに何かしらで答えようとしたその時、屋敷内部を確認し終えた那美と由愛が出てくる。 「おー、そっち終わったー? 怪我無いー? いやこっちはさー……」 自分で聞いておいて返事も聞かずに彼女達の所へいそいそと移動する興楙。 あんまりにみっともない真似を晒してくれた為、隻がこれを射抜いたのはもう少し後の話である。 |