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■オープニング本文 田舎の地方領主は、基本的に徴税に関して中央からそれほどやかましく言われる事はない。 ゴトフリートという名の彼も、領主の権限を受け継いでから一度も中央から査察を受ける事はなかった。 これは一重に彼の先祖が営々と築いてきた信用のなせるわざであるが、この信用というものは目には見えないもので。 ゴトフリートはこれを、目に見えないが故に、勘違いをしてしまっていた。 「はぁ? 別に中央に送る金は去年と同じだし問題ないっしょ」 と、ゴトフリートは部下の進言を一蹴する。 今年になって新たな航路開拓により飛空船の交通量が増え、俄かに賑わって来たこの領地では、当然その分税収も増えた。 これを、ゴトフリートは中央に報告せず、去年と同額を納め差額を着服していた。 恐るべき事に、彼に横領をしているという感覚は無い。税収が増えたのは自らの力量故であり、ならば増えた分は自分が手にして当然と考えているのだ。 もちろんゴトフリートもジルベリア帝国の法を学んではいるが、何分田舎での事、法の解釈に齟齬があったとて、これを正せる者もそう多くは無い。 ゴトフリートは自制心に乏しく、すぐに激して省みる事が無い。 また虚栄心も強い為、佞言を好み諫言を嫌う。とても領主の器でない彼がこの地位に着いたのは、先代が戦で亡くなったのが全ての原因である。 先代が散った戦地は稀に見る激戦区であり、彼の腹心含め重要な部下が皆戦死してしまったのだ。 残されたのは才や思慮に乏しい官吏のみ。 彼等が話し合った結果、血筋から先代の従兄弟にあたるゴトフリートに領主を任せようという話でまとまったのだ。 ゴトフリートは若い頃より志体を嵩に来た放蕩息子として有名であったのだが、それもこれも、領主になれば改まるだろうという楽観的な判断から。 こんな結論を出してしまう程に当時は混乱していたのだ。 ゴトフリートは決して愚か者ではない。 あまりに分を超えた真似をすれば、中央から目をつけられるとわかっている。 なので彼はもっぱら自領土内のみにて、専横を振るっていた。 もともとそれほど大きな領地でもない。 それなりの人数で目を光らせていれば全ての領民に目が届く程度の数であり、例えば王都で成功している商人と比べれば哀れに思える程度の経済規模だ。 なればこそ、中央の目にも留まりにくく、ゴトフリートは好き勝手にやる事が出来ていたのだ。 しかしここに、一人の才ある若者がいた。 長年この土地で領主の下官吏を務めていた一族の息子である彼は、学問を学ぶべく大都市に出ていたのだが、帰郷し故郷の現状を知る。 「これ、ワンチャン領地取り潰しまでありえるっしょ。やばくね? やばくね?」 口調はさておき、判断能力はしっかりしている彼は、もし領地取り潰しなんてなった日には、彼の一族もまた責任の一端を負わされるだろうと予測する。 ゴトフリートのふざけた領地経営に加担しているのだから、当然といえば当然だ。 もちろん、彼の父や親類がゴトフリートに逆らえるはずもないのもよくわかっているが。 彼、フレッドは、帰郷の宴という事で親類一同を招き、現状が如何に危険かを皆に説く。 「いやこれマジやべえって。うっかり陛下のお耳にでも入ったら俺等マジコレモンよ? 放逐でもされた日にゃ、こんな馬鹿やった一族とかぜってー何処も雇ってくんねーだろうし、一族揃ってのたれデッドとかマジ笑えねって」 言葉遣いはさておき、内容は納得のいくものであり、更にフレッドはこれへの解決策を皆に提示してやる。 「俺さ、マジ都会派だから。開拓者って超来てる連中知ってんだ。あれら、狂気で凶器持って侠気あっから強気で押せるし、したら俺等もマジ狂喜って話、わかるっしょこれ?」 とてもわかりずらいが、意図は通じた。 フレッドは皆から協力の約束を取り付けると、早速開拓者ギルドに相談する。 作戦自体はそれほどややこしいものでもない。 ゴトフリートを中央に知られぬように殺害し、事故と報告して代替わりを行う。それだけだ。 その為に、ゴトフリートが領主屋敷から出て、遊び歩いている時を狙う。 ゴトフリートは志体の有無に非常に拘っていて、遊び仲間は全員志体を持っている者だ。 もしゴトフリートに味方する者が居るとすれば、この遊び仲間ぐらいのもの。 後は幾人かいる悪徳商人だが、これらはゴトフリートが居なくなれば自然と力を失うであろうし、フレッド曰く「自分でヤんねーとダウトな奴もいるっしょ」だそうで。 町で唯一の女郎宿にて、ゴトフリートが上機嫌に酒を呷りながら隣のゲッツとカミルに問う。 「今日はお前らだけか?」 ゲッツはつまらなそうに短刀をいじくり回しながら肩をすくめ、カミルは今日の魚が気に食わないのか苛立たしげに箸を投げ捨てつつ首を横に振る。 ゴトフリートもまた不機嫌そうな顔で店主を呼ぼうとするが、そこで廊下をばたばたと歩く多数の足音がした。 すぐに襖を開き喜色満面で入って来たのは、ザシャであった。 「おお居た居た! ちょっと見て下さいよこれ! 今日豊作すぎで俺絶好調だし!」 続いてライナーも顔を出す。 「言っとくっすけど、金髪の娘は俺のっすよ! ゴトフリートさんでも渡さないっすからね!」 そして、更に後ろからエルマーとオイゲンの二人が、それぞれ小脇に二人の女を抱えながら部屋へと入って来る。 この四人の女達はこの領地を通りがかった旅芸人の一座で、ザシャ達が年頃の女以外全て殺害して女だけさらって来たのだ。 室内で喝采を上げるゴトフリート、ゲッツ、カミルの三人。 すると最後に、テオが長銃を手にしたまま部屋へと現れ言った。 「新しい女が入ったと聞いて」 ゴトフリートは爆笑しながら言った。 「お前いっつもおいしい所だけもってこうとするよな」 さーれっつぱーりー、的な雰囲気をぶち壊すように、開拓者達がこの部屋へ雪崩れ込んで来たのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
風間 悠姫(ia5434)
25歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
五十君 晴臣(ib1730)
21歳・男・陰
ビシュタ・ベリー(ic0289)
19歳・女・ジ
火麗(ic0614)
24歳・女・サ
コリナ(ic1272)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 火麗(ic0614)は幾つかの条件を依頼人に提示した後、襲撃の日を迎える。 ずかずかと入り口から開拓者達が入り込むと、驚く女性の姿がそれなりに散見され、火麗は少々機嫌が悪くなるものの、制止に出て来る者が誰も居ない事で一応、納得はする事にした。 そして襲撃。 火麗はガタイの良い男、オイゲンに狙いを定め、これを睨みつけながら刀を翳し言った。 「来い」 さもなければ、と以下に続く言葉は口にするまでもない。それは相手にも良くわかっていよう。 そこで言われるがままに火麗に向け刀を手に取り斬りかかってしまうのは、襲撃に驚き気圧されたせいでもあろう。 それが良くわかっている火麗は、調子の乗っていないだろう内に勝負を決めにかかる。 理屈も問答も一切不要。ただ振り上げて切り下ろす。これだけに全ての膂力を、意識を、神経を集中する。 正眼の構えから火麗の剣先が跳ね上がる、オイゲンもまたこれに対抗すべく剣を頭上にかざし受けの構え。 受けられるのは火麗も承知の上、その上で、受けを捻じ伏せる一撃を。 流す事を決して許さぬ角度に寸前で切り替え、振り下ろした威力を全て剣の半ばに叩き落してやると、剣先の方からオイゲンの受けは崩れ、刀は振り下ろされる。 鎧もないオイゲンは、苦痛と驚愕に目を見開く。しかし、そこで終わらず。 火麗の剣先が床に着く寸前、両手首を返して脇へと引き、踏み出しながらの抜き胴一閃。 咄嗟に受けに剣を用いたオイゲンもさるものながら、やはり充分な受けは望めず胴に裂傷が走る。 そしてこの先制で、オイゲンは力も早さも、火麗の方がより上だと、本来のそれより高い認識を植えつけられる。 「主は間抜け、部下は役立たずでは話にならないわね」 ついでとばかりに煽るのも忘れない火麗であった。 人魂よりもたらされた情報を受け、五十君 晴臣(ib1730)は全員揃ったと皆に告げる。ついでにおまけが四人も居る事も。 彼女等は邪魔であるが、とはいえ連中がこのまま彼女等にひゃっはーしてるのを眺める趣味も持ち合わせてはいない。 飛び込むなり晴臣は斬撃の呪符を娘を抱えるテオへと投げる。 驚いたテオは娘を呪符の方へと突き飛ばして銃を握るが、呪符は空中でその軌道を変化させテオの腕に絡みつき爆ぜた。 深い斬り傷であったが、テオは銃を構えそして、真下から吹き上げた水流に銃先をズラされる。 これは風間 悠姫(ia5434)の術で、更に火薬がしけったせいか、引き金を引いても弾丸は出ず。 それでも短銃を抜き撃って来れた周到さは流石と言うべきか。 晴臣は咄嗟に顔を手甲で覆う。痺れるような衝撃が腕に残り、銃弾で跳ねた手甲が顔に当たり額がじんじんと痛む。 踏ん張りながら晴臣は再び斬撃符を放ち、テオもまた必死に銃にて反撃を。血飛沫舞うこの戦いに、側に居た娘が悲鳴を上げながらこけつまろびつ部屋を飛び出していくのが見えた。 晴臣の術が必中なのとテオの命中が高いせいで、娘は流れ弾やら符やらを受ける事もなく脱出に成功。 そして、撃ち合いの結果は、地力に劣るテオが銃を取り落とした事で決着となる。 降参を申し出る彼に、晴臣は問うた。 「彼女達の連れをどうしたか、以前同様に連れてきた女性が居たならどうしたかを言ったら……」 そこで言葉を止めると、テオは弱弱しい口調で答えた。 「後腐れのないようみんな殺してる。だ、だからアンタ等が女共を持っていっても文句は何処からも出て来ないぜ。なあ、だから……」 晴臣は彼の額にぺたりと符を貼り付け言った。 「それだけの事して自分の命だけは助かるだなんて思ってるの?」 室内は合計二十人が入り乱れる状況、これら全てをコントロールするのは不可能で。 叢雲・暁(ia5363)はともかく眼前の敵一人を逃がさぬよう気をつけつつ、乱入に驚き身動き取れない女達に目を向ける。 コリナ(ic1272)が手近な二人を隣の部屋へと引っ張り込んでいる。一人は銃撃戦に巻き込まれたっぽく、残るは一人。 これを、邪魔だと蹴飛ばしながら敵へと踏み込むと、女は蹴飛ばされた事で我に返ったのか、慌てふためき部屋を飛び出して行く。 この辺りで概ね一対一が八つ成立しだしたので、暁は攻勢に出る。 「お前の名前ケツだってな! HAHAHA〜〜名前の通り俺のケツでも舐めてろ〜〜」 いやもちろん口だけでなく手も出している。 ゲッツの刀を忍刀で払い落とすなり、膝を狙ったローキック。 その足目掛けてゲッツの逆手の短刀が伸びるが、足の戻しの速さで暁はゲッツに勝る。 そして同時にプギャる暁。 「志士の癖に情緒不安定な短刀使いって色々ミニマムなやつ〜〜」 流された刀を強引に引き戻し突き出すゲッツに、横から何と素手でこれを払って逸らす暁。 「ウデもアッチもコッチも早いだけで貧弱貧弱〜〜」 そろそろゲッツ君はキレても世界が許してくれると思われるが、暁を相手にしながらキレたりした日には、次の瞬間には首が飛んでいてもおかしくはない。 二連突きを上体を逸らすのみでかわした暁は、同時に足を伸ばして再びゲッツの下段を蹴り飛ばす。 ゲッツも暁の足狙いに気付くが、だからとかわせるのなら苦労は無い。ゲッツは同時に急所も守らなければならないのだから。 遂に、足の痛みが限界を超えたゲッツが膝を落とすのを見るなり、暁は一気に距離を詰める。 ゲッツの刀をいなしながらその膝を踏み台にし、彼の首後ろに刀を回すと、刀の背に肘を乗せ体重をかけこれを手前へと引き落とす。 この無理な体勢から首を落とされるのは予想外だったようで、ゲッツの顔は、驚いたままであった。 コリナの前に立つエルマーは、彼女の姿を見て薄ら笑いを浮かべる。 「おまえみたいなチビ、敵じゃないな」 そう言って大剣を振り下ろすが、コリナはいきなり踏み込むつもりもないのか、後退し間合いから外れる事でこれをかわす。 エルマーの大剣はそのまま床を強く打ち据える。 「蛮族というより畜生のようですね。……武器の使い方も知らないのですか」 既に四人の娘達は皆退避しているようで、コリナはエルマーの剣に集中する。 とはいえこの畜生、流石に腕力はありその剛剣で空間を削り取るように迫って来る連撃はかなりの圧力だ。 コリナも流しきれぬ剣を幾たびもその身に受け、体の各所から赤黒い細糸が垂れ流れる。 しかし、獣の連撃には必ず切れ間がある。 この攻守切り替えの間を敵に悟らせない為の攻勢圧力でもあるのだが、体中に傷を負いながらもコリナは静かにその瞬間を見据えていた。 コリナは敵を人としてではなく、人型の塊として見る。 そして、その時その時で最も力の入りやすい振り方を優先し、何処に当たるかは二の次とする。 結果として、剣術も何もない、刃物をただ叩き付ける極めて原始的な攻撃となる。 これは紛れも無くエルマーの土俵、しかし、チビと嘲笑った彼女の暴風を、エルマーは防ぎきる事が出来ない。 「お、オマえっ!?」 コリナは敵を侮るつもりも手加減するつもりもハナからない。全力で、そして、全身の力が最も伝わりやすいような動きで、剣を振るい続ける。 「お互いの全てを賭けて、斬り合いましょうか」 事ここに至り、エルマーもコリナの地力を認め、自身最強の剣技を披露し始めるが、動揺は隠せず。 そしてまるで表情を出さぬコリナに焦り、無思慮な大振りを見せた時、エルマーの命運は尽きた。 カウンター気味に脇腹を深く抉られたエルマーは、とても口惜しそうな顔で倒れた。 柊沢 霞澄(ia0067)に向けてカミルが怒鳴りつける。 「ああ!? コラ! テメェ等誰にケンカ売ってんだあ!?」 足元の膳を蹴り飛ばすカミルに、霞澄は眉根を寄せる。 「乱暴な人は嫌いです……」 ぼそりと漏らすと、上に向け開いた手の平の上に、ぼんやりとした白い光球が生まれる。 霞澄が視線をこの光球からカミルへと移すと、白球は楕円を描きながら飛び、カミルに跳ねるように触れた。 跳ねたのは、カミルの方であった。 その凄まじき衝撃に、カミルの上体は宙に舞い、次いで追うように下半身が跳ね上がる。 そのまままっさかさまに頭部から畳へと落下。驚いたカミルは何処からの攻撃だと顔を起こすが、その顔面に、二発目の白球が。 「ちょ! まっ!」 またも盛大にはじけ飛び、ごろごろと畳を転がったカミルは襖に激突してこれを破り倒す。 カミルが隣室へ転がり込んだ事で、遮蔽を取られては良く無いと霞澄は静々と移動する。 霞澄を術者と見たカミルは、必死の形相で距離を詰め接近戦を挑む。 この間に更に二発の術をもらいながら、カミルの拳が唸る。 唸る、のみ。 拳の風圧で後ろの長い髪が大きく揺れるも、それだけだ。 返しの蹴りもまた、大きく霞澄が仰け反る事で外される。 仰け反った霞澄の背後から、肩を昇るように白球が現れる。 またか、と体を堅くしつつ後退するカミル。 しかし白球はそのまま霞澄の周りをぐるりと一周。再び背後に回りこむと、霞澄がカミルへと伸ばした手に添うように飛び、命中。 今度は廊下へと転がりこむカミル。 「じょ、冗談じゃねえ!」 こけつまろびつ四つん這いのまま逃げ出すカミルであったが、そのすぐ背後に、霞澄の白霊が迫っていた。 ザシャは女を落とすのが仕事であるが、志体もあるし当然戦闘も充分こなせる。 悠姫の刀を短剣で弾き返すと、驚きの方向に曲がった関節により、不意をうつような一撃が。 腕をかすめるこの剣撃に、悠姫は飛び道具で反撃。ザシャは後方宙返りにて回避。 ザシャ着地時、足が深く沈みこんでいるのを見て、悠姫は足先を引っ掛け上げる。 ザシャの突進と、畳が飛び上がるのが同時に起こる。直後、悠姫は高速移動。 畳で視界を切った事を利し、背後に回り込んでの一閃。 背を斬りつけられたザシャは、振り返りざまに短剣を振るわんとするも、再び眼前に畳の壁がそそり立つ。 畳の端に刺さった短剣のせいで、ザシャの動きが遅れる。 今度は、悠姫は刀を両手に握り腰を落とすと、畳越しにザシャを貫きにかかる。 畳の繊維に逆らわぬよう縦に刃を向けて突き出すと、畳の入りで抵抗があり、畳を半ばまで刺し貫いた所でまた別の抵抗が手の内に感じられる。 畳の向こう側からうめき声が。 畳に足をかけ刀を抜き取るようにしながらこれを蹴飛ばすと、ザシャは怪我のせいか、倒れた畳の下になる。 悠姫がこの上から押さえ込むように足をつくと、畳が下から物凄い勢いで跳ね上がる。 畳を持ち上げ上の悠姫をひっくり返そうとしたザシャであったが、立ち上がったザシャは、腰溜めに刀を構えた悠姫が遠間より勢いつけて突っ込んで来るのを見つける。 ザシャが畳を持ち上げにかかった瞬間、駿足の移動術にて後退し、その位置から駆け寄って来ていたのだ。 突き出した刀はザシャの心臓を貫き、ザシャは言葉も無く絶命した。 「昔からあんたみたいな害虫の始末って詰らないのよね……」 ゴトフリートは流石首魁だけあって、竜哉(ia8037)も一息に押し切れる事が出来ない。 屋内を駆け回り自分に有利なフィールドを探すゴトフリート、これを追う竜哉。 二人が雪崩れ込んだのは、客間の一つ。 そこで、ゴトフリートの目が驚愕に見開かれ、竜哉もまた呆気に取られてしまう。 「ち、違っ! これはこの女が勝手に!」 なんて言い訳してるのはライナーで、彼にしなだれかかるように抱きついているのが、ビシュタ・ベリー(ic0289)である。 「何よ、もう待ちきれないなんて言って来たの貴方でしょうに。元仲間が斬り合いしてる中でシたいなんて、ホント素敵な趣味よね」 ゴトフリートの目が洒落になっていない事に気付いたライナーは、力づくでビシュタを突き飛ばす。 「聞けよゴトフリート! これはこいつらの罠なんだって!」 ビシュタは含むように笑う。 「大丈夫よライナー、焦らなくてもそこの欠陥領主君より彼、竜哉の方が間違いなく強いから」 ゴトフリートは不機嫌極まりない顔でライナーに問う。 「だったら何でお前、俺の間合いの内に入ってこねえでそこで止まってんだよ」 「い、いやだからそういうんじゃねえって、俺は……」 ゴトフリートの元へと歩いていくライナー。 ビシュタは真顔でライナーに向かって言った。 「馬鹿! やめなさい!」 これがトドメとなった。 ゴトフリートは剥き身の刀をライナーへと振り下ろし、これをもらったライナーは誤解を解くのを放棄し、必死にその場から逃げ去ろうとするが、二撃、三撃ともらった彼は、今度は竜哉とビシュタに助けを求める。 「おい! お前ら! わかった俺はアンタ等に降るから手を貸してくれ!」 竜哉とビシュタはお互い顔を見合わせると、同時に頷き動き出す。 まず、二発の銃弾がライナーを射抜き、これで動きが止まった彼の胴に、ビシュタが二本の短剣を突き刺す。 即座に後退するビシュタ。彼女ごと叩き斬ろうとしたゴトフリートの刃は、ライナーのみを切り裂き彼は倒れ伏した。 最早ゴトフリートにとって、ライナーが裏切ったかどうかはどうでもいいのだろう。 全てを敵と見定め、まずはビシュタに斬りかかる。 が、これを防いだのは銃を主武器にする竜哉であった。 腕輪におまけ程度についた小さな盾であったが、ゴトフリートの渾身の一打をたやすく防ぐ。 「貴様!」 銃使いが近接を挑んで来た事を、侮られたと受け取ったゴトフリートが激怒する。 竜哉の右腕が上がる。ゴトフリートは剣の柄でこれを払う。竜哉の左手もまた動く、ゴトフリートの剣間に合わず、何と彼は剣から手を離し竜哉の左手を払う。 ビシュタはこの一瞬のやりとりを見て、邪魔は出来ないと後退。 二人の戦いは続く。 竜哉は肘を押し込むようにゴトフリートの手を払いのけ、この肘を伸ばして顔への銃撃を。 ゴトフリート首を逸らして回避。逆手は懐から短剣を抜き、竜哉の逆の銃を持つ手を見もせぬまま斬り払う。 銃身で刃を止めた竜哉。ひっかけるように短剣を弾きにかかるも、ゴトフリートは手首を返してこれを防ぐ。 しかし、銃にひっかける動きをさせる事で筒先をゴトフリートに向けた竜哉はここぞと発砲。 ゴトフリートの無手の方の手が間に合い、逸らされる。竜哉のもう一方の銃はフリーに。これを発砲するとゴトフリートは肘を銃先に押し付ける。 弾丸は逸れたが、ゴトフリートの肘脇が銃弾で抉られる。 竜哉の近接銃戦闘のスタイルを察し、即座に大剣を捨て短剣に切り替えたゴトフリートの判断は見事であったが、実力差は如何ともしがたく、結局最後は頭部を撃ち抜かれ、彼は絶命した。 |