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■オープニング本文 三好浩二は、責任感が強く、義侠心に富んだ男であった。 任せられた仕事は全力でこなそうとするし、他人が寄せてくれる信頼にはありったけで応えようと努力する。 誠実で、真摯で、しかし、彼はたった一つだけ過ちを犯した。 彼は、ヤクザの道に入ってしまったのだ。 親分国枝三郎太の言葉を三好は即座に承り、その日の内に、隣の組の幹部三人を斬り殺した。 当然捕まえられるはずの三好に追捕の手が及ばなかったのは、役人と結託した親分国枝三郎太が身代わりを牢へ送り込んだからだ。 三好はこの親分の行為にいたく感激するが、老獪な国枝は、当然ただ善意でそうしたわけではなかった。 二年後。 完全に没落し勢いを失った隣組を乗っ取った国枝は、これで周囲に競合すべき敵がほとんど存在しなくなる。 そうなると、今度は内輪で争い始めるのがヤクザ、いやさ人というものだ。 組幹部である三好の兄弟分は、全部で五人居た。 内の一人、讃岐晃が若頭である飯島三助を殺害したのが、内乱の始まりであった。 組長国枝にすら堂々と反旗を翻す讃岐は、当然残る四人の兄弟分とも敵対する事になる。 単純に数だけ見れば勝負にもならないはずのこの戦いが成立しているのには、少々込み入った訳があった。 三好は苦々しい顔で、定例幹部会にて怒声を張り上げる親分国枝を見ていた。 「あの親不孝者をブチ殺しちゃれや! アレを生かしておいちゃわしの沽券に関わる!」 三好とは妙にウマがあう幹部、堀川作次郎が、たしなめるように口を開く。 「おやっさん、今回の件は誰がどう見たって飯島の兄貴に非がありやすぜ。あの馬鹿、女好きなのは知ってたが、まさか讃岐のカミさん拉致っちまうたぁ正気の沙汰じゃねえ。聞く所によりゃそいつにおやっさんも一口噛んでるって話じゃありやせんか」 讃岐晃の嫁がここらでは比べる者もない美人であるというのは有名な話だ。 国枝は激怒をそのまま堀川へと向ける。 「てめぇ! よりにもよって兄貴分と親を揃って罵りよるか!」 「カミさん奪われてキレない方がおかしいですぜ。親の言う事ぁ絶対だっつったって限度ってなありまさぁ」 「ふざけんな! 親が死ね言うたら死ぬんが極道ど! それが何だ! たかが女の一人や二人で! あ!? てめぇらの任侠ってなそんな程度のものなんかい!」 敢えて火中の栗を拾いにかかった堀川に、三好も助け船を出さずにはおれない。 「おやっさん、ともあれ、讃岐に女返して、んで話はそっからですよ。そうでなきゃ筋が通らんですし、俺等ぁ幾らなんでも女の取り合いでケンカなんざ、みっともなくて出来やしませんて」 「あの女は讃岐が嫌じゃ言うて自分からワシの所に来たんど! それを何で返すなんて非道な真似せにゃならんのよ! 大体、大の大人がこんだけガン首揃えてケンカやらない言い訳合戦か!? そっちのがよっぽど恥ずかしいわい!」 三好と堀川は顔を見合わせる。 と、残る幹部の宮本輝が立ち上がって声を張り上げた。 「おいおいおいおいどうしたんだよ兄弟達よぉ! 飯島の兄貴がヤられたんだぜ!? 何でそれをやった讃岐にこっちが遠慮せなならんのよ! おやっさんの言う通りじゃ! 親に弓引くような外道生かしといちゃワシ等の面子が立たんぜ!」 残った最後の幹部、菊池昇もまた大きく頷く。 「そうでぇ、事情はどうあれ讃岐は飯島の兄貴ヤっちまってんだ。こりゃぁどう言い訳したってどうしようもねえ事実ぞ」 堀川はその二人を睨みつける。 「その飯島の兄貴の所に讃岐は直談判に行く、そう俺は聞いてたぜ。刀も持たずそうしたってな。なあ、そこでどうして兄貴がくびり殺されるなんて話になるんだ? 兄貴だけじゃねえ、兄貴の子分も六人殺られてる。コイツは一体どういう話だと思う?」 三好が言葉を続ける。 「決まっとる。兄貴が談判に来た讃岐を殺らせようとして返り討ちに遭ったんじゃ。多分今頃讃岐の奴もかなりの手傷を負ってるじゃろうよ」 讃岐と飯島の人柄を良く知る二人には、その時の情景が目に浮かぶようなのであろう。 この三好の予想を聞くなり、宮本も菊池も、我こそはと更なる強気に出て来る。 結局、消極的な三好、堀川の意見は無視し、宮本と菊池が競うように讃岐を殺しにかかる形で幹部会は終了した。 「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな……」 讃岐は熱にうなされながら、何度も呪いの言葉を吐き出し続ける。 嫁が兄貴分にさらわれ、談判に行ったならこれは親分公認であり嫁はとうに親分が持っていってしまっていると聞かされ、挙句兄貴が雇った殺し屋に殺されかけたのだ。 何とか撃退はしたものの、当人はねぐらに戻るなり身動きが取れなくなってしまう。 「このまま終われるかよっ、こうなりゃなりふり構ってらんねえ、宮田兄弟呼んで来いや」 宮本も菊池も、自らが抱える志体持ちのここが使いどころとありったけを叩き込む。 宮本が昔からここぞで頼りにしている侠客、サムライの二郎衛門を伴い、十人の荒くれを引き連れ襲撃に向かう。 菊池もまた、義理の弟であるサムライ武者丸と十二人の無法者を率いて讃岐を襲いにかかる。 讃岐は並大抵の腕っ節ではないのだが、これが大怪我をしていると聞いて、ここぞと手柄を立てに動いたのだ。 讃岐の妻、九重は、親分国枝の屋敷を抜け出し、一人道無き道を駆けていた。 九重は自分の未来なぞに欠片も希望を抱いていなかった。 暴力から始まった讃岐との関係は、九重はそれでも尚、妻に迎えたいという彼を一生懸命愛そうと努力したのだ。 しかし、やはり、嫌悪感は何処までも薄れてはくれず。 苦痛のみを積み重ねる人生を歩む九重に、ようやく訪れてくれた転機は、更なる地獄へと誘う悪夢の道のりであった。 全てを捨て去るつもりで、後先も考えず国枝の屋敷を飛び出す。 走って、走って、走り疲れて、足を止めた所に落ちていた太い木の枝を手にとって、やっと、終われると、その枝を自分の首へと突き出した。 「待てっ!」 この手を取ったのは、三好浩二。 九重にとっては、敵の仲間にしか見えぬ、絶望をもたらす男であった。 「俺ぁ、おやっさんの子供だからよ。おやっさんが右言うたら何でも右なんじゃ。あの人には返しきれねえ恩もあるしな。だから……」 虚ろな目をした九重を前に三好はそんな言葉を告げる。 捕まえた時は女とは思えぬ勢いで暴れた九重であったが、志体持ちである三好に逆らえるはずもなく、時期に体力が尽き大人しくなった。 三好は、九重を見下ろしながら、ふと、この世界に足を踏み入れた時の事を思う。 きっかけは友人の妹を守る為だ。この世界で大きくなれれば、そんな自分になれると信じて。 でも、しかし、重ねた義理が、義侠心を押しとどめる。 だから三好はこう言う以上の事が出来なかった。 「銭はわしが出すけぇ、お前、開拓者ギルド、頼りや」 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
大淀 悠志郎(ia8787)
25歳・男・弓
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰
緋呂彦(ic0469)
43歳・男・サ
徐 昴明(ic1173)
44歳・男・サ |
■リプレイ本文 「てめえ讃岐の用心棒か!」 突入し、誰彼構わず蹴散らしながら手強い敵を探していた明王院 浄炎(ib0347)に、そう言って声をかけて来たのは武者丸というサムライだ。 武者丸に声をかける余裕があったのは、浄炎の周囲を敵兵が囲んでいたからであるが、浄炎は棍を回し牽制しつつ勁を練り、大地へとこれを放つ。 浄炎を中心に同心円状に広がる衝撃。 兵達はこの一撃で弾き飛ばされ、武者丸と浄炎を隔てる障害全てが消えてなくなる。 慌てて刀を構える武者丸であったが、浄炎の巨体に見合わぬ動きの早さに距離感を見失ってしまう。 いや、移動速度のみではなかろう。長大な八尺棍と、この長さを見誤らせる程の大きな体を持つ浄炎。 飛び込みながらの渾身の突きが、武者丸の構えた刀をすり抜けたように見えたのは、これらが作用しての事であろう。 棍の一打を食らった武者丸は、浄炎の予想を外す動きを見せる。彼は吐しゃ物を撒き散らしながら、よろよろと味方の兵の後ろに隠れたのだ。 兵が抗議するのも聞かず、一人を浄炎の方へと突き飛ばし、もう一人を自らの盾とする。 浄炎は丁寧に一人づつを倒すと、その間に回復した武者丸が斬りかかってきた。 「下衆が」 浄炎は棍で刀を受け止め、これを下方へと落としつつの右回し蹴り。 よろける武者丸の正中線が、浄炎には光って見えた。 そも、敵う相手ではなかったのだ。そう武者丸が察したのは、ただの棍による突きが、飛び掛る白虎に見えた時だ。 武者丸が声も無く倒れると、残ったチンピラは大慌てで逃げ出そうとする。 その後姿を見送りながら、浄炎は苦々しげに眉根を寄せる。 こんな腐った奴等の諍いに巻き込まれ消えて行く、三好が哀れでならなかったのだ。 川那辺 由愛(ia0068)はやたら上機嫌の野乃原・那美(ia5377)に、思った以上に混戦っぷり甚だしい現状を伝え、くれぐれも注意するよう促す。 「其処だけは気を付けて、思う存分斬り刻んで来なさいよ」 那美はこの言葉を背に、嬉々として斬り込んで行く。 「了解なのだ♪ 由愛さん、後ろはよろしくねー♪ いっぱい切り刻んでくるから♪」 言葉通り、讃岐側か国枝側かを一切問わず、次々と刃で抉り殺す那美。 そんな人斬りの気配が導いたか、那美の前に同じく人斬りの二郎衛門が。 「……驚いたな。女の人斬りは初めて見る」 「あは、目標発見なのだ♪ 人斬り同士、楽しく斬り合うんのだ♪ あなたは斬り心地よい人かなー?」 「ふむ、この辺りが男女の差か? 私は斬り心地より斬られた者の表情にこそ、そそられるのだが」 二郎衛門の剛剣が横薙ぎに振るわれる。これを上体を逸らすのみでかわす那美。 鼻の上をかすめる距離であったが、那美は見切りを誤らず、逸らした上体を前へと戻しながら前進。 二郎衛門による返しの刀は、那美がその根元近くに右の刀を当てる事で防がれる。 残った那美の左刀が二郎衛門を襲うが、既に片腕を刀より外していた二郎衛門は脇差を抜き放ちこれを止める。 膠着状態を望まぬ那美は、すぐに距離を開ける。 「他人をいっぱい斬ってるんだし、自分が斬られる覚悟くらいもちろん出来てるよね? そんな覚悟もなしに他人を斬ったりしてないよねー?」 「貴様もな」 再び横薙ぎに振るわれる二郎衛門の刃。しかしこれは、先より軌道を下へとずらしてある幻惑の剣。 しかし、ずれた拳一つ分きっちり深く沈んだ那美の刃が、二郎衛門を貫いた。 「むぅ、もう終わっちゃったのだ。まだまだ斬り足りないけど……僕に斬られたい人は誰かな? かな?」 顔を隠す徐 昴明(ic1173)に対し、讃岐晃は既に正気を失っているような目を向ける。 体中に負った怪我は傍目にも見て取れる程であったが、讃岐の体からは溢れんばかりの生気が漲っている。 昴明は突入前、皆に注意を促した自らの言葉を思い出す。 『この手合いの連中はしぶとい上にしつこい』 他の誰でもない自分でこれを確認するハメになるとは、と盾と短剣を構え直す。怪我人だからと甘く見れば後悔する事になると良くわかっているのだ。 昴明は突入に際し充分な注意を払い、弓を用いて露払い、邸内で用いやすい武具を整え、とにかく数を減らす事に留意しながら奥へ奥へと進んでいたら、どうやら最深部に真っ先に着いてしまった模様。 ここに陣取る讃岐は雄叫びと共に刀を振り下ろす。 盾で真っ向より止めるも押し返せず。盾と刀との重量差なぞモノともせぬ讃岐の膂力故だ。 「雑魚が!」 讃岐が怒声と共に連撃を繰り出す。 如何にも人間らしい戦い方だ、と昴明は殊更丁寧に斬撃一つ一つを捌いていく。 これがアヤカシならばこちらから崩す必要があるのだが、人間のチンピラ相手ならば、時間をかければ勝手に崩れてくれる。 案の定、火事場の馬鹿力にも陰りが見え始め、そこで初めて攻撃に動く。 稲妻の如き踏み込みと共に、短剣を胸板へ突き立てる。 「き、きさま……なにモン、だ」 「このような戦場で名乗る名は無い。それでも欲しいのならば墓前に供えてやろう」 讃岐はこれに、返事も出来ぬまま絶命した。 大淀 悠志郎(ia8787)が攻撃を開始したのは、他開拓者達が突入してすぐの事だ。 全滅を期した悠志郎は、からす(ia6525)と分担して狙撃範囲を決め、逃走ルートには川那辺 由愛の仕掛けが待ち構えるよう備える。 なので、狙撃の対象は専ら勇敢な者ではなく引け腰になっていそうな者、である。 とはいえ、狙撃と罠による包囲が既に完了している事を知れば、皆我先にと逃げを打つだろうが、要はそれまでにどれだけの数を減らせるかだ。 と、思っていたのだが。 「……裏目かい」 この戦況に真っ先に気付いた優れた戦闘能力を持つ志体持ちである宮田兄弟は、他のチンピラにそれを伝えもせず一目散に逃げを打ったのだ。 もし、最初に飛び出すのがコイツであった場合、事によっては由愛の罠すら突破しかねない。 しかし悠志郎の顔に焦りは無い。むしろ、これでようやく博打になると笑みすら湛えているではないか。 悠志郎は、宮田健吾に向け強烈な矢を射放つ。 一発、止まらず。二発、やはり止まらず。三発、ようやく健吾は目を悠志郎へと向ける。 ここでどう動くか。この位置で動かず矢を射続けるか、自ら飛び出し進路を遮るか。 悠志郎は、狙撃位置である納屋の屋根の上から飛び降りようと動く。 そこに、健吾が凄まじい勢いで突っ込んで来た。 納屋の柱を、恐らくは一刀で切り倒すつもりで。 「ここ一番の張りは、スイチでなきゃよ」 スイチとは、手本引きと呼ばれる博打の中でも、特にリスキーで配当の高い張り方である。 つまりこの例に倣うと、飛び降りようと動く牽制でこちらの一手を失いながらも、納屋を切り倒す為駆け寄らせる事が出来れば、絶好の射撃機会を得る事が出来る、という話。 狙い済ました悠志郎の一矢が健吾を射抜くと、悠志郎は倒れる彼に向け呟いた。 「かくして胴は、潰れてござい」 由愛は姿を現した男を見て、思わず目を細めてしまう。真っ先に逃げ出して来たのは、志体を持つ宮田又兵衛であったのだ。 「……いっそ清清しいまでに腐ってるわねぇ」 又兵衛は裏門まで駆けて来るが、そこで初めて長大な白い壁がある事に気付く。 侮蔑の視線を向けた由愛が言ってやる。 「杯を交わした仲ならば、地獄まで仲良く逝かないとねぇ?」 又兵衛は大慌てで言い繕う。 「ま、待ってくれ。わしはアンタ等に従うけぇ、どうか、国枝の親分にそう取り次いでもらえんかのう」 由愛は顎に手を当て小首をかしげる。 「そう? なら見逃すからそこじゃなくて立ち木を使って壁を越えなさい」 「あ、ありがてえ!」 と、喜び勇んで走り拠った立ち木の側には、地縛霊による罠が待ち構える。 悲鳴を上げる又兵衛に、笑い転げる由愛。 「あらごめんなさい。そっちじゃなくて、門脇の柱を登るんだったわ」 再び門の柱へと駆け寄り、又兵衛はまたしても罠を喰らい、血塗れになって怒鳴る。 「おどりゃああああああ!」 そこで、屋敷の奥から逃走しようというチンピラが四人、こちらへ向かって来るのが見えた。 途端強気になった又兵衛は由愛に向かって走り出し、 「ばあっ」 と、突如眼前に現れた那美に反応が遅れる。 那美に刀を弾き飛ばされた又兵衛は、涙目で再び懇願する。 「か、堪忍してください。堪えてつかぁさい」 由愛はやはり、愉快そうに笑う。 「いいわねその絶望、悪くないわよ」 当然、容赦なんて単語から光年単位でかけ離れた那美になます切りにされるわけで。 由愛は更に逃げ出してきたチンピラを見て言う。 「ああ、那美。斬り足りないなら、お代わりはたーんっと残っているわよ?」 叢雲・暁(ia5363)は、まず宮本を血祭りにあげた。 周辺から志体持ちを剥がされた後だったので、比較的楽な仕事ではあったな、と次のターゲットへ。 菊池はチンピラ三人に囲まれており、謎の乱入者、つまり開拓者が何者かわからぬまま苛立たしげにしている。 まず菊池の右方で物音を。 そちらを全員が振り向いた瞬間、一番左端の男の首を一刀で刎ねる。 ついで、これとほぼ同時に前方に物を放りそちらで音を立てる。 驚きそちらを顔を向けた所で、もう一人の首を。 そこで菊池の視界の端に、首を失って倒れる部下の姿が映る。 驚きそれを確認し、後ずさった彼は背後の部下に背をぶつける。 ごとりと、何かが落ちた音がして見下ろすと、背後の部下の首が床に転がっていた。 腰を抜かし、言葉にならぬ悲鳴を上げる菊池。その前に暁はゆっくりと姿を現した。 「で? どおおおおおするのかなぁ? 逆らう? 歯向かう? 侘び入れ? 土下座? ほらほら、早く何かしないと死いいいいんじゃうぞおおおおお?」 「こ、こりゃあ違うんでぇ! おやっさんがやれ言うからわしはやる気無かったんじゃが……」 「んー、オリジナリティに欠ける。二点」 「低っ!」 「お、そのツッコミ速度はなかなか。二十点あげよう」 同時に首も刎ねてやるわけで。 更に暁は国枝の下へと向かう。 そして、戦闘中とはいえ決して注意を切っていなかった三好の警戒を突破し国枝を拉致する。 物陰にて、さて殺るかと刃を振り上げた所で、その足元に一本の矢が突き刺さった。 三好は孤軍奮闘を続けていた。 だが必死の戦闘が災いし、組長国枝への注意が逸れる。その隙に暁が物陰へと国枝を引きずり込む。 からすは一射にて暁を止めつつ、自らが走り国枝との対話に臨んだ。 からすは丁寧に一つ一つ現状を説明し、三好、堀川の立場を伝えた後、組の為にと自決を勧める。 だが、からすの言葉にも国枝はひたすら聞くに堪えぬ言い訳と命乞いを続けるのみ。 三好の苦労が僅かなりとも理解出来たからすは、ゆっくりと暁に向けて首を横に振る。国枝の首は、即座に落とされた。 形勢が国枝側に傾きかけていた時、突如の乱入者に国枝達は憤慨していたものだが、三好は一人淡々とこれに対する。 緋呂彦(ic0469)がこの集団に切りかかった時も、チンピラを容易く蹴散らす様にも怯えず真っ先に受けて立ったのが三好である。 そして両者は、突入時より最終盤に至るまで、ひたすらに斬り合い続ける。 とはいえ緋呂彦の槍、それも両鎌槍を相手に刀一本で凌ぎきる三好の技量は尋常ではなかろう。 緋呂彦に、交えた刀を通じて三好の決意が伝わってくる。 それは悲壮で、断固たるもの。救いようが無い程に救われている様。 緋呂彦の三連突きに対し、三好はその全てを刀にて槍の鎌部を受ける事で抑え防ぐ。 当然、体の随所を刃が掠める事になり、これを繰り返してきた三好は無数の掠り傷を負っているが、動きに乱れも迷いも見られない。 そして、遂に、緋呂彦の閃光のような突きが、三好の刀をへし折った。 「……これまでじゃな」 緋呂彦の口から思わず言葉がついて出る。 「兄ちゃんよ……こりゃ俺の勘繰りだがね。アンタ……こうなる事が分かってたのか」 「さてな。ええけぇ、さっさと殺りぃや」 剣を槍を交える事で三好の覚悟を知った緋呂彦には、これを止める術が無い。 「違う形で会えりゃ、良かったんだがなぁ」 しかし、止まらぬはずの槍を止めたのは、からすであった。 「待て。三好浩二、親分国枝は死んだぞ」 三好は動じず。 「ふん、地獄でもあの顔見ないかんのか、うんざりするわい」 からすは続ける。 「もう、果たすべき義務も終えただろう」 「義務じゃねえ、義理じゃ」 他所は決着がついたようで、開拓者皆がこの場へと集まってくる。 からすは僅かに目を伏せ三好に問う。 「では、九重殿はどうする?」 「何?」 「堀川は此度の遠因である彼女に対し、とてもではないが友好的になぞなれんだろう。例え君の気持ちを知っていてもだ。人間とはそうそう割り切れる生き物ではあるまい」 それ以上は口にしない。三好は九重の処遇に頭を巡らし、そして、少しの間があく。 「……なあ、俺に、極道としての生き様、まっとうさせてはくれんかのぅ」 やはりからすは、感情を表わさぬ平坦な声で答えた。 「道を極めるという事は、そうやって安易に答えの出る事ではなかろう」 程なくして、屋敷へと駆け込んでくる一団があった。誰あろう堀川とその部下達である。 「三好の兄弟! おどれだけ死なす訳にゃあいかんわい! 俺も地獄に連れていけや!」 血走った目で駆けて来る彼等を見て、これが決定打となり、三好は今にも泣き出しそうな顔でぼやいた。 「……どいつもこいつも」 悠志郎は、ゴツイ体躯に似合わぬ優しげな顔を見せる浄炎に問う。 「出目を変えたのはあんたかい?」 「俺はただ、堀川に三好の心を伝えただけだ」 昴明は無言のまま。依頼からは外れるこの形にも、異論は無いという事だ。 顔を見合わせるのは由愛と那美である。 「あれ? これ殺っちゃマズい空気流れてない?」 「斬るのは充分斬ったし、早くおさけのみにいこー」 からすは小声で暁に問う。 「正直、今回三好の命は諦めていた。一体どうして救おうという気になったのだ?」 問われた暁は手をわたわたと動かし、意味のわからない言い訳をかえすが、最後はそっぽを向いて言い放つ。 「タマにはそういう日が有ってもいいじゃん! 秋なんだし! 」 開拓者が依頼以上の成果をもたらしたなら、これを臨機応変に対処するのはギルドの仕事だ。 緋呂彦は、ギルドも大変だねぇと他人事のように呟き、国枝組屋敷の三好を訪ねる。 「お前……どうして」 三好はあの後、堀川と共に組の建て直しに奔走していた。 「いやな、暇なもんで手伝ってやろうかと思ってな」 三好もまた緋呂彦と刃を交えた事で、その心底に流れる人情の色を感じ取っていた。 「お人よしめ」 「良く言われるぜ」 |