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■オープニング本文 櫓の上から遙か遠くを眺める二人組。 平蔵と平次の二人は見張り番の仕事の為、櫓のてっぺんから彼方の空を見ていた。 「なぁ、すげぇ嫌な予感するんだけど、俺だけか?」 「ばーろー、たまたま俺達二人が見張りの時に事件が起きるよーな事、そうちょくちょくあってたまるか」 兵士として雇われた二人は、対アヤカシの最前線、魔の森を見張る櫓に配属されたのだ。 櫓の下には兵の宿舎があり、当番の兵はここで交代まで過ごす事になる。 兵士は全部で十人程。隊長はここでの任務も長いらしく、命令一つとっても手馴れた様子が見てとれる。 つまり、それなりに安心出来るはずの任務であった。 「‥‥? 森が動いた?」 「あん?」 「あ、いや、目の錯覚‥‥じゃねえ、か? 何だ?」 「おっ、すげぇ。本当に動いて‥‥‥‥」 薄暗い森の輪郭が、風などで揺れるといった規模ではなく、ずるっと滑るようにズレたのだ。 広大な森からすればほんの一滴程度の闇が切り離され、ゆっくりと零れ落ちてくる。 「‥‥なあ、あれ、人の、形、してね?」 「‥‥馬鹿言うな。あんな、デカイ、人が、居てたまるか」 随分距離はある。当たり前だ、魔の森を監視する為に櫓を立てているのだ。あっという間に襲われるような場所に建てては意味が無い。 にも関わらず、二人の目にははっきりとその輪郭が見て取れるほど、手と足と胴と頭部とがあったのだ。 「アヤカシなら、アリなんじゃね?」 「いやナシだ。そんな夢に見そうな胸糞悪い未来予想図はやめてくれ」 ごくっと生唾を飲み込んだ後、二人は同時に叫ぶ。 『隊長おおおおおおおおお! やべえっすよこれまじでしゃれになってねええええええええ!』 アホ二人の慌てっぷりに、何事かと櫓に登った隊長もまた目を見張る。 森を出てすぐの所には時折思い出したかのように木々が生えている。 これら、おそらく6尺はあろう高さの木々に、巨人は無造作に手をかけむしり取る。 ずっと見ていると距離感を失いそうである。あまりに縮尺がおかしすぎる。 もしかしたらアレは普通の人間と変わらぬ大きさで、距離はもっと近くで起こっている出来事ではないのかと。 しかし巨人が踏み出した大地は、ただ体重を乗せただけであろうに、みしっと悲鳴を上げて傷を残す。 数里離れた距離ですら、その足跡が見えるというのは、尋常な状況ではない。 それはつまり、あの巨人がこの大地に相応しい寸法ではないという事だろう。 この世界は、あんなにも巨大な生物を他のソレと同様に受け入れられる程、頑丈には出来ていないのだ。 隊長は櫓から下に向かって大声で叫ぶ。 「ありゃ絶対に勝てねえ! とっととケツ巻くって逃げ出すぞ!」 全長、恐らく三十尺(約10メートル)程。あんなもの、何をどうやってもどうにも出来るわけがない。 様々なアヤカシを目にしてきた隊長をして、一度も見た事が無いと断言出来る程、かのアヤカシは巨大であったのだ。 交代で眠っていた仲間をたたき起こし、取るものも取り合えず櫓から逃げ出す兵士達。 巨人はとても目立つ建物でもある櫓に向かって一直線に向かってきている。 後ろも振り返らず必死に逃げ出して、息も絶え絶えになりながら、ふと平次は怖いもの見たさに後ろを振り返る。 驚くべき速さで、櫓まで一里も無いといった所までたどり着いた巨人。 見た目には緩慢な動作にみえるが、それは単にサイズが大きすぎるせいで、足の長さを考えるに、この程度の移動速度はたやすく出しうるのであろう。 巨人は平次が上るのにちょっと怖いと思える高さの櫓を、上から見下ろしていた。 子供達が砂で作ったお遊びの城を見下ろすように、巨人は櫓を一撫で。 体積的に考えてもそれが妥当であろうが、それでも腕の一振りであっさりと櫓が崩れ落ちるのを見せられて、怯えぬ者など何処にいようか。 しかし、平次が最も後悔したのは、同時に横を走る平蔵に見るよう言って声をかけて本当に良かったと思えたのは、この後に見せ付けられた光景である。 「巨人の目が光っ‥‥‥‥!!」 びーーーーーーーーーーーむっ! 「ちょ! ちょっと待ておい今何が起こったああああああああ! 巨人の目から何かすげーの出てきたんすけどおおおおおおおお!」 「意味がわからん! 何で目だよ! 百歩譲ってもせめて口だろっつーかいきなり目が光るだけじゃなくて漏れ出した輝きが閃光のほとばしりってぐああああああ舌噛んだああああああ!」 「いや君デカイってだけでもう充分個性出てるから! それ以上無理に自己主張しなくても俺らキミの事永久に忘れないからそのぐらいにしとけってえええええ!」 「あれか!? 怪光線とでも呼べってか!? 怪しいとかそーいう次元じゃねえだろこれ! お前アヤカシだからって何やっても許されるとか思ってんじゃねえぞごるぁああああ!」 「っておいっ! やめろばかこっち見んじゃねえ!」 「やばっ! ほんとっ! かんべっ! やめてええええええええええええ!」 隊長の判断が良かったのか、監視に当たっていた兵士達は一人も欠ける事無く逃げきれた。 しかし、本隊でもこれほどの怪物を迎え撃つような準備など整えていない。 数を押し込めば確かに倒せるかもしれないが、敵は単体であり、これならばむしろ少数精鋭で当たった方が損害が少なくて済むだろうと考える。 そう、優秀な開拓者を呼ぶ事にしたのだ。 幸いこの砦ならば開拓者がパートナーを連れて来たとしても世話をする設備もあるし、彼等の出せる最大戦力を期待出来るだろう。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
六道 乖征(ia0271)
15歳・男・陰
鬼島貫徹(ia0694)
45歳・男・サ
香坂 御影(ia0737)
20歳・男・サ
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
鳴海 風斎(ia1166)
24歳・男・サ
小鳥遊 郭之丞(ia5560)
20歳・女・志
辺理(ia8345)
19歳・女・弓
レイア・アローネ(ia8454)
23歳・女・サ
フィーノ・ホークアイ(ia9050)
27歳・女・巫 |
■リプレイ本文 騎龍を一時預けると、砦にて敵の状況を聞く開拓者一行。 潰された櫓の隊長と平蔵、平次を名乗る二人組みが説明にと現れると小鳥遊郭之丞(ia5560)が切れ長の目を僅かに見開く。 「何だまたお前達か」 以前面識があるらしい。対する平蔵と平次もその時のことを思い出したのか突然絶叫する。 『ああああああっ! あん時の怪奇鎌女ああああああああ!』 「 ち ょ っ と 来 い 」 あっという間に連行されていった。 隊長はこほんと咳払い一つ、説明を始めた。 アヤカシの全長は三十尺あると言われた相馬玄蕃助(ia0925)は、話半分にしても言いすぎだろうと笑い飛ばす。 誰しも心の中では思っていた事だろう。そんな大きさのアヤカシなど聞いた事もない。 嘆息する隊長。信じられぬ開拓者達の気持ちも理解出来る。 ならばと皆を連れて砦の見張り塔に登り、アレを見ろと指差した。 玄蕃助は目が飛び出しそうな勢いである。 「デカっ!? 何じゃあこりゃあ!!」 遥か彼方にちこっと見える、というかあの距離ですらちこっと見えてしまうというのが恐ろしいわけであるが、人の形をしたナニカが空に向かって光を放つと、今度は辺理(ia8345)が大騒ぎを始める。 「な、何ですかあれ!? びーって! びーって! ‥‥こ、怖いんですが!」 レイア・アローネ(ia8454)もまた引きつった顔でアレを眺めている。 「‥‥でかい‥‥!!」 しかし、と泣き言を腹に収め、自らに言い聞かせる。一年後でも十年後でもない今挑めと、死地に臨み、生を掴み取れと。 なんとかそれ以上の泣き言を口にせず、冷や汗のみで済ませたレイアは他の者達の様子を伺う。 「‥‥ぅ‥‥おっきい‥‥その身長ほんのちょっと羨ましい妬ましい‥‥」 なんて余裕な事抜かしているのは六道乖征(ia0271)である。 レイアはほっそい目でそちらを見やる。 「アレを見て真っ先に妬む所がそこか?」 「大丈夫‥‥全力で、潰すから‥‥」 「アテにしている、よろしく頼むぞ」 ふうと肩をすくめるレイアの隣で、フィーノ・ホークアイ(ia9050)はからからと笑い出す。 「流石天儀! 山を巨人が彷徨いているのが常態とは心が弾む!」 「そんな天儀住みたくはないぞ‥‥あれは特別だろうに」 「‥‥え、そんなことは全くもってない? むう。ちとしょんぼりだの」 「天儀に出るアヤカシが全部アレだったら、とうに島の半分は潰されてるだろうが‥‥」 律儀に一つ一つつっこんでやるレイア。 残る男衆はというと、まんじりともせず遥か遠方に見える巨大アヤカシを睨みつけたままであった。 風雅哲心(ia0135)もまた、前から視線を逸らさぬまま口角を上げる。 「なあ、アレ刀通ると思うか?」 鬼島貫徹(ia0694)は両腕を組んだまま、哲心の問いを笑い飛ばす。 「フン、我が斧に砕けぬ物なぞ無いわっ」 香坂御影(ia0737)も櫓から身を乗り出すように巨人に見入っている。 「龍有りで助かった。地上からだけだったら、流石に厳しい相手だ」 隊長は半ば感心し、半ば呆れた様子で彼等を見ていた。 アレを目の当たりにしていながら、全員がヤル気でいるというのだから、やはり世評の通り開拓者というのはイカレた連中だと再認識するのだった。 一方その頃。 「‥‥私とて一応女だ、後で冷静になってみればあの怯え様には少々傷付くというもの‥‥」 延々説教中の郭之丞は、平蔵平次を正座させたまま背を向けてくどくどと語り続ける。 「その艶やかな髪、透き通るような白い肌、凛とした佇まい、お美しい‥‥」 「こらっ! 平蔵平次! 貴様等人の話を真剣にだ‥‥」 説教を中断する声に振り返り、怒鳴りつけようとして硬直する郭之丞。 何故かそこには正座する二人に代わって、鳴海風斎(ia1166)が立っていたのだ。 ふと見ると「ありがとー旦那ー! ケツは貸さないが愛してるぜー!」と叫びながらすたこらと逃げる平蔵と平次が。 「こらー! 貴様等ー!」 「ああ、そのように怒りに頬をゆがめるような真似はよろしくありません。お美しい顔に相応しく、しっとりとしたお肌に相応しく、どうかにこりと微笑んで下さい」 「う、ううう美しいって!? わっわたっわたしはそのようなっ!」 「ははっ、頬を赤く染める様もまたいとおかしですなぁ」 「こ、ここここれから戦だというのにっ、にににっ! ふ、不謹慎だぞっ!」 どうやら郭之丞はこの手の話題が苦手らしい。それからしばらくは風斎の褒め殺しにやられ顔中を赤く染めっぱなしであった。 空組は龍に乗り巨大アヤカシへと迫る。こちらに居るのは郭之丞とレイアを除く八人である。 皆それぞれの龍を駆り、妖巨人に挑む。 「散開っ!」 先頭を行く哲心が叫ぶと、巨人の周囲を取り囲むように各々が大きく迂回する。 同時に、地上からも郭之丞とレイアが巨人へと接近する。無論二人の龍も攻撃に参加しており、低空よりそれぞれ攻撃の機を伺っている。 初弾は妖巨人であった。 両の眼が光ったかと思う間もなく、閃光に貫かれる御影。 「くあっ!」 咄嗟に大薙刀を盾にするも輝きはこれを突き抜けてきた。 どちらかといえば陰陽師の術に近いかもしれない。 目から放たれるのみとはいえ、前方扇状の範囲はほぼ全てこれの射界内であろう。龍で飛び回ってかわすには後ろに回りこむしかない。 こういった術に対する能力は高い方だと自負していたが、そんな自信が消し飛びそうになるぐらいキツイ。 こんなもの連続でもらっては、龍に乗り続ける事すら困難であろう。 「けど、ここで僕は引けない。行くよ天赦!」 むしろこの類の攻撃は、抵抗力の高い御影が引き受けるのが一番損害が少ない。 しかし何時までも正面に居るのも自殺行為である。豪腕を振りかざさんと巨人は迫り来るのだから。 完全に御影へと狙いを定めた巨人であったが、御影の騎龍、天赦はそこで急加速を始める。 あれという間も無く巨人の背後を取った天赦は、どんなもんだと一鳴き。 戦闘中でありながら御影は、そんな愛龍の姿に思わず噴出してしまう。 初弾を御影が受けてくれたおかげで、他の龍は狙う位置取りを完璧に取りきる事が出来た。 矢継ぎ早の連続攻撃により敵を追い詰める手はずだ。 乖征は龍の上で手早く印を結ぶ。 「こっちで動きを止める‥‥今のうちに‥‥やっちゃって‥‥」 神経蟲と呼ばれる動きを鈍らせる術だ。おっそろしく巨大な敵であるにも関わらず、その首元周辺にたからせた虫のような式は仕事を果たしてくれたようだ。 妖巨人は僅かに苦悶の声をあげたかと思うと、そもそもからして素早くは無かった動きが更に鈍ったように見える。 ここぞとばかりに、玄蕃助と辺理が龍上から矢を放つ。 目を狙うその一撃は、しかし乗り物の上から矢を放つ訓練をしたものとそうでないもので明らかに差が出てしまうだろう。 しかしそれはそれで手はあるというもので。 「南無八幡大菩薩! 願わくばあの怪眼射させたまえ‥‥!」 葛流を用い乱れる挙動の中でも何とか狙いを定めにかかる玄蕃助。 妖巨人がわずらわしげに顔を振ると、二本の矢は額と、頬に一本づつ突き刺さる。 「惜しいっ!」 「いえ、あれは見切って動いてます。大きいだけの相手では‥‥ってこっち来ましたあああああああ!」 「ってうおっ! か、回避だ大孔噴!」 「万里、頼みま……」 言われるまでもない。双方の龍、玄蕃助の大孔噴も辺理の万里も、こんなの相手にしてられるかと全速全開でぶっちぎる。 まだ大孔噴は左右にじぐざぐと逃げるだけだからマシであった。 万里に至っては背中に人が乗ってるという事を失念したかのように、斜めになるは宙返るはと大暴れ。 「張り切り過ぎですからあああ!?」 主の悲鳴を引きずりながら、二騎は妖巨人の攻撃範囲外へと飛び出した。 追撃の光線は襲っては来ない。安堵した二人であったが、それは単に、次なる標的へと向けられていただけであった。 「郭之丞!」 光線をまともにもらってしまい倒れる郭之丞にレイアが駆け寄る。 「援護しろサラマンドラ!」 レイアの指示に従い、炎龍サラマンドラが低空をなめるように滑空し妖巨人に向かう。 その間に意識が半ば飛んでしまっている郭之丞を揺り起こすレイア。 気を失ってしまっていたのはほんの何秒も無いが、それでも戦闘中に意識が飛んでしまう程強烈な一撃であった。 頭を振って立ち上がる郭之丞は、その眼前に信じられぬ光景を見る。 妖巨人の巨体が、とんと大地を蹴って飛び上がっているのだ。 三十尺という巨体から考えれば、飛んだ高さは大した事無いのかもしれないが、人間の大きさからこれを見れば、まさしく大跳躍といっていい飛び上がりっぷりとなる。 そのまま大地に向けて、飛び蹴りを突き込む。 あの全身の体重が乗りに乗りまくった蹴りとかもらった日には、下の大地といい感じで混ざり合って原型留めなくなってしまうだろう。 「白南風!」 こちらは低空を滑空してくる郭之丞の龍、白南風。 「来いサラマンドラ!」 逆側からはレイアの龍が滑るように飛び込んでくる。 十字に進路が交錯するも、上と下とで綺麗にわかれ、二騎はそれぞれの主を拾い危機を脱する。 「くっ、コヤツのやる事は一々強烈だな」 ぎしりと奥歯を食いしばる郭之丞。 レイアは龍の足に捕まりながら吼える。 「どうした!? 私から潰してみろ、でくのぼう!」 二人は同時に龍から飛び降り、再びこれと地上より相対する。 にやりと笑うは郭之丞だ。 「はははっ、言うではないか」 「実力が足りぬことは百も承知。それでも私は逃げない」 「そうだ、戦場では逃げ道すら前にしか存在せぬ! 行くぞレイア殿!」 風斎は地上部隊に攻撃が集中しているのを見て、握り締める太刀に力を込める。 「あんな良い女を狙うとは‥‥」 ぎりぎりと両手で握り締めた刀を龍に乗ったまま振り下ろすと、着地した妖巨人に地断撃の衝撃が突き刺さる。 確かにその表皮は切り裂いている。が、それが巨人にとってどれほどの痛撃か見た目ではわからない。 「本当難儀な相手ですねぇ」 遠距離攻撃の利を活かし距離を置いての攻撃である。 怒りの視線をこちらに向けた所で、例の光線以外は流石に届かない。 それに数はこちらの方が上である。風斎が引くに合わせて、今度は哲心が愛龍、極光牙にまたがり攻撃圏に突入する。 「しかしでかいな。あの炎羅に匹敵するんじゃなかろうか」 だとしても引く気はないがな、と妖巨人を狙う哲心は、極光牙に側面腕部を狙うよう指示する。 利き腕と思しき右腕側から攻めれば痛撃ももらいずらいだろう、それは正しい判断でもあったのだが、妖巨人は小さい相手と戦い慣れているのか体をくるっと捻り、左の拳を極光牙目掛けて放つ。 「まずっ‥‥!」 いと思った時にはもう遅い。極光牙はぎりぎり硬質化が間に合ったおかげか、辛うじてであるが原型は留めている。 しかしくるくると殴り飛ばされ、きりもみ状態で落下していく。 そして最も危険なのは哲心である。 豪腕で弾き飛ばされた衝撃で、空へと投げ出されてしまったのだ。 更に、妖巨人は容赦しない。 哲心は空中で、それでも終わってたまるかと刀で受けるべく両手で支える。 掴むのも面倒と思ったか、妖巨人は中空の哲心を、利き腕の右手でぶん殴ったのだ。 「ぐっ!?」 常人ならばバラバラに砕けてもおかしくない衝撃を鍛えぬいた体で堪え、しかしこの速度がついた落下の衝撃は死を覚悟する程のものであろうと地面との距離を測る。 ぐっと哲心の体が上へと引っ張り上げられる。 「儀我‥‥お願い」 乖征の龍、儀我が何とか間に合い、後ろ足で哲心を引っつかんだのだ。 「す、すまん」 「礼は‥‥後。離すよ」 「ああ、わかっ‥‥何? 離すって‥‥」 言うが早いか哲心をぽんと放り出す儀我。 また落ちんのかよっ! と下を見た哲心はそこに体勢を立て直した極光牙の姿を見つけ安堵の息を漏らす。 そして同時に更なる闘志を燃やし、口の中に溜まった血をべっと吐き出す。 「さぁここが踏ん張りどころだぞ、極光牙。俺達の爪牙をあいつに刻み込んでやろうぜ」 見ると、今度は貫徹が妖巨人に挑みかかっている。 フィーノの援護、神楽舞・攻を受け、目をぶちぬいてやるとばかりに頭部を狙っている。 「‥‥しかしアレだの。飛んでる間に舞とか巫女も大概な商売であるな!?」 後方で、うわーい目が回るー、とかやってる何やら楽しげなフィーノをさておき、これは狙いどころかと哲心は怪我の痛みも黙殺し極光牙を差し向ける。 後ろを確認したわけでも無かろうに、貫徹は下から接近する哲心と極光牙を隠すように、大斧を振りかざし、殊更に目立つよう妖巨人の注意を引き付ける。 掴みかかろうとする妖巨人に対し、龍を操り逃げにかかるかと思いきや、何とその手を斧でぶん殴りにかかる。 強気にも程があるだろとやきもきするフィーノを他所に、貫徹は妖巨人の開いた手の平を深く斬り裂く。 直後、いつの間にか迫っていたもう片方の手にとっ捕まってしまったが。 「ああっ、もうっ、むちゃくちゃするでないっ!」 フィーノの神風恩寵を握り締められる貫徹へと。これで少しは時間が稼げよう。 その間に哲心が動く。 「星竜の牙、その身に刻め!」 妖巨人の目に光が集まる。間に合うか、ぎりぎりだ、ならば行くっ。 奇跡の技にて鍛えた宝刀を手に、一息にて全てを吐き出すべく精霊力を注ぎ込む。 極光牙の蹴りがギリギリ間に合った。頭部を蹴り上げる事で狙いやすくなった目に、哲心の太刀が突き刺さる。 「星竜光牙斬!」 苦悶と悲鳴を混じらせた絶叫を上げる妖巨人。 おかげでその手から離れられた貫徹は、空中にて赤石に飛び乗り、大きく旋回した後、怒りの一撃をと妖巨人に再度狙いを定める。 ようやく光線を放つ目を塞いだのだ。 皆もここぞとばかりに攻勢に出る。 空中から注意を逸らすべく、郭之丞は五人張の剛弓を引き絞る。 「これでも食らえっ‥‥って待てレイア殿! それは無茶が過ぎるぞ!」 知った事かとレイアは妖巨人の足元に駆け寄ってありったけの力を込めて強打を叩きつける。 どすんどすんと動き回る妖巨人の足元とか、あまりに危険すぎるのだが、レイアはその位置から退かずに剣を振り続ける。 巨人が片腕を頭部に当てているおかげで、脇の下がとても狙いやすいと、風斎は脇をすりぬけざまに横腹を叩っ斬る。 同時に、逆側の腹を乖征の式、魂喰が食い散らかす。 本命は外させぬと、御影の天赦が妖巨人の後頭部をチャージをした上でのクロウで抉り取る。 巨人の腰の高さを二騎の龍が駆け抜ける。辺理と玄蕃助の二人だ。 「一撃は弱くても、数を重ねれば……!」 「お屋形様! 後を頼みますぞ!」 低い位置からの二射が巨人の首元に突き刺さる。 集中攻撃により、さしもの妖巨人もその巨体がぐらりと揺れる。 しかし、それでもこの巨体は伊達ではないと、中級アヤカシの名に恥じぬ能力を持つぞと、誇示するかのように妖巨人は顔を上げる。 これが最も我が頼みとする一撃よと、深く斬り裂かれたはずの目から、迸る血流と共に閃光が放たれる。 貫徹を狙い一直線に伸び来る光の奔流、これを、貫徹は大きく真後ろに大斧を振りかぶって迎え撃つ。 「ぬうううううあああああああああっ!」 何と貫徹は輝きに大斧を叩きつけたのだ。 全身を光に焼かれながらも大斧で光線を斬り裂き、僅かな停滞もなく一直線に妖巨人の頭部へと突き進む。 「図が高いわあああああああああっ!」 そりゃ巨人なら仕方が無いだろーとかいうつっこみを入れる余裕は誰にも無い。 愛龍赤石にもその魂が乗り移ったのか、光に全身を焦がされながら尚悪意の光線に身を晒す。 「ひれ伏せいアヤカシ風情ッ!!」 首横ぎりぎりを飛び抜ける赤石、貫徹はその巨大な大斧を真横に振るうと巨人の首の半ばまでもを一撃で千切り取る。 後方に突き抜けた貫徹と、ぐらりと首が落ち、そのまま両膝をついて跪くように地に伏せる妖巨人。 決着は、ついた。 |