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■オープニング本文 「え? もしかしてもうバレました?」 犬神の里、自らの執務室にて報告を受けた藪紫は、報告者である犬神疾風に問い返す。 「時間の問題だろう。案外、小宮山も使えん男だったな」 むー、と首を傾げる藪紫。 「あれで小宮山さん、かなり用心深いんですけどねぇ。朧谷の誰です?」 「梶川清次、若手では錐に次ぐ男らしい」 藪紫の中で、小宮山の評価と梶川の評価が大きく改められる。 疾風はシノビらしい剣呑な表情で問う。 「どうする? 尻尾をつかまれる前に小宮山を斬るか?」 「そーいうの、ウチには向いてませんよ」 報告では小宮山子飼いのヤクザが襲撃を受け、小宮山との繋ぎであると思われるシノビが拉致されたとの事だ。 藪紫は、朧谷の里とも仲の良い葦花の里の小宮山を介して、睡蓮の城に援軍を送り続けていた。 犬神の藪紫が、宿敵同士である朧谷に援軍を送るにはどうしてもこうしたワンクッションが必要であった為だ。 小宮山は強欲だが、金さえ払っておけば、その間はこちらの利益を損なうような真似はしない男であり、今回のような時には重宝するのである。 シノビが口を割るとは中々考えづらい事だが、割らせる方もまたシノビだ。確実に大丈夫とは言えまい。 小宮山程用心深い男ならば書類の処分も手配してあるだろうし、背後に犬神が居る事がバレない可能性もそれなりにはあるのだが、とても安心などは出来ない。 次善の策を巡らすべく手配を始めた藪紫であったが、そこに、思いもかけぬ者が訪れた。 「予め言っておくぞ。これは要請ではない。命令だ」 と切り出してきたのは、先ほど話に出た小宮山悦治であった。 この微妙な時期にわざわざ藪紫の元を訪ねるとか、頭でも沸いてるのか、と思ったが藪紫は口には出さず小宮山の話をまず聞く。 「朧谷が強硬手段に出てきた。これ以上お前の指示には従えん。ついては、連中の攻撃により被った被害の賠償をしてもらいたい。お前の話のせいで、我々葦花の里は甚大な被害を被ったのだからな」 被害を受けたのは小宮山個人であって葦花の里ではないでしょ、といったつっこみはおくびにも出さず、具体的金額を問うと、強欲な小宮山らしい、とっても素敵な額を要求してきた。 もし飲めないというのであれば、全てを朧谷、そして上忍四家に申し出て、かつて結ばれた賭仕合の取り決め、犬神は朧谷に手出しせぬといった決まりを破った事、表沙汰にするという話である。 藪紫は淡々と、一人で決められる事ではないので里長と相談する為しばしの猶予を頂きたい、と申し出たのだが、小宮山は首を縦にふらず。 「朧谷は既に葦花へ敵対行動を取らんとしている。事は一刻を争うのだ。一両日中に返答をいただけねば、それ即ち決裂と取らせて頂く」 極めて強硬な態度でそう言ってきた小宮山に、藪紫は、では一両日中に、と返し会見は終わった。 小宮山に気付かれぬ位置に控え護衛の任についていた疾風は、小宮山が帰るなり、額に青筋立てながら藪紫に尋ねる。 「おい、アイツ斬ってきていいか?」 「ダメです。それと、どうも小宮山さん下手打ったみたいですね。多分、朧谷に私達が後ろに居る事、バレてます」 「なにいいいいいいいい!」 はふぅ、と嘆息する藪紫。 「お金がかかってる時の小宮山さんはもっと頼れる人だと思ってたんですが、アテが外れました」 小宮山が藪紫についたのは、藪紫が動かせる金額が圧倒的だと知っているが故だ。 チクった所で一文にもならない以上、味方に回って美味い話を回してもらう方が有意であろう。 それを、今後の付き合い全てを放棄するような要求をしてきたのは、今後の付き合いが出来なくなるような事態が小宮山側に発生したという事だろう。 「予定より丸一月早いですが、こちらも動くとしましょうか」 犬神から拒絶の返答が小宮山へ届くと、小宮山は不快感を隠そうともせぬまま、配下のシノビに命じ予め準備していた報告書類を関係各部署へ送りつける。 脅迫は、相手が本当にそれを行うかも、と思えるからこそ脅迫たりえるのだ。 これによって小宮山自身も犬神に協力した者として不利益を被る部分もあろうが、それでも尚、敵となるであろう犬神を削りにかかるつもりであった。 しかし、書類を上げたにも関わらず、何処もかしこも一向に動く気配が無い。 驚いた小宮山が確認すると『攻撃を仕掛けたのならともかく、援軍を送ったというのであれば掟に背いた事にはならない』と確認した全ての部署から返事がかえってきた。 この件に関しては、朧谷からも抗議が上がっていたようだが、全く同じ返答をされた模様。 小宮山は返答が書かれた書類を握り潰し、机に叩き付ける。 「あの女かっ! 一体どれだけの金をばら撒いたというのだ! クソッ! どう考えても私に渡す金額の方が安いだろうに! 何たる愚か者か!」 実際の所、藪紫はさほど金は使っていない。藪紫は自身が手がけている商売の取引先に、お願いして回っただけなのだ。 それだけで、ある程度の正当性さえ保持していればこの程度の話ならばひっくり返せる程、藪紫の手がける商売は陰殻各地に広がっているのだ。 上忍四家には及ばずとも既にかなりの規模を誇る犬神の里が、通期で前年比五割り増しの増収なんてふざけた数字を叩き出したのは、こういった商売の拡張が原因なのである。 梶川清次の報告を受け、朧谷の里は抗議をお上にあげたのだが、反応はかんばしくない。 この件に朧谷側で関わっていた中忍大河内秀麻呂は、小宮山に利用されていたと言い張り、故にケジメを小宮山から取るべし、と強く主張する。 梶川の報告によれば、悪徳商人と結託していたヤクザ達と小宮山との繋がりは証拠として確保してある為、これを盾に開拓者ギルドを頼れば葦花の里に対しても言い訳がつく、と大河内は言うのだ。 この辺りの背景の裏付けを取ったギルド係員栄は、正式に朧谷からあがってきた小宮山殺害の依頼を受理する事に決めた。 クズ同士の救いようの無い足の引っ張り合いだが、これ自体は、悪くはない流れなのだ。 悪事を働けばギルドが動く理由になる。そう、陰殻の者が認識し始めてくれたという事なのだから。 「クソッ、犬神め、目に物を見せてくれる。俺とて葦花の小宮山と言われた男よ!」 小宮山は犬神との衝突が不可避であると見て、自らが揃え得る最大戦力を集めにかかる。 現在小宮山が手配した兵員は、志体持ちだけでもざっと三十人近くになる。 これだけ揃えれば武勇を誇る犬神相手とて、そうそう遅れは取るまい。 小宮山は旅館を一つ完全に私物化し、ここを要塞化してじっくりと数多の兵を揃える腹づもりであった。 しかし、小宮山のアテは全て大きく外される。 犬神は小宮山をまるで相手にしておらず、実際に襲撃してきたのは朧谷の依頼を受けた即座に動ける開拓者達であったのだから。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
狐火(ib0233)
22歳・男・シ
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
ルース・エリコット(ic0005)
11歳・女・吟
カルマ=R=ノア(ic1263)
18歳・女・ジ |
■リプレイ本文 強行突破である。 正面扉をぶちやぶり、誰何の声を聞き流し、並み居る雑兵打ち倒し、目指す目標一直線。 そんな素敵な突入の、先陣を切ったのはサムライでも騎士でも志士でも泰拳士でもない、ジプシーのカルマ=R=ノア(ic1263)である。 今回集まった面々の中に近接特化職が居ないのが理由であるが、Rはこの現状における自らの役割を露払いとしていた。 術組の大砲みたいな攻撃で吹っ飛んだ扉を誰より先に潜り抜けると、屋内にて装備を終えた者達が驚いた顔でRを見ていた。 「第一ミッション、小宮山悦治までの道の確保。任務開始」 彼等が咄嗟にRを敵とみなせなかったのは、やはり戦闘に用いるとはとても思えぬ衣服のせーであろーて。 尤も、そんな彼等の都合なぞRの知った事ではなく、一番手近に居た男の頭部を全力で振りかぶったトンファーで殴り飛ばす。 これを見た男の幾人かは、手にしたままであった兜をかぶりながら襲い掛かってきた。 先頭の男は、Rが手の内でトンファーの持ち手を握ってくるりと回しながら下段を払うと、脛を強打されしゃがみこむ。 この頭部を膝で蹴り上げながら、脇を抜けてきた男の喉にトンファーを突き出し、動きを止めてからまた棒部を回転させ頭頂を強打する。 瞬く間に三人を黙らせたRは、足を止めず敢えて自らを敵の密集する場所へと投じる。 袈裟が右から、内側に引きこむように受けの形で持ったトンファーを振ると、攻撃者の方が体勢を崩す。 同時に足を払いに来た刀を、左トンファーが長く伸ばした形で弾く。 続き、くるりと回転しながら前進したRは、側方からの横薙ぎを、肘と曲げ腕を入れた防御にて真っ向から弾きつつ、逆側から切りかかってきた男には、刀より先に逆手のトンファーにてその手を打って武器を叩き落す。 敵に背を見せるのをまるで恐れぬ奔放な挙動は、正にジプシーならでは。 この身の軽さにトンファーという攻防に長けた武具は、ピタリとはまっているように見えた。 「ドーモ、北條黯羽です」 なんて名乗りをする北條 黯羽(ia0072)に、騎士石山は返事に困っているようだ。 「……あン? 仮に手前も騎士なら、挨拶くらい返さねェと凄く失礼なンじゃね?」 石山は意思の疎通をするつもりもないのか、小さく手を振る。背後に居た雑兵が二人、黯羽の方へと駆けてきた。 黯羽は嘆息しつつ手にしていた分厚い皮の本を片手で器用に開く。 本は勝手にページがめくれていき、ぴたりと止まると、中に書かれている文字が蠢き出す。 文字というより紋様といった方が適切なソレは、遂には本から立ち上がり、小さく身震いした後、雑兵に向け飛び掛っていく。 元が文字であるだけに、真横から見るそれらは恐ろしく薄い。というより、完全な真横から見れば消えてしまうだろう。 この世ならざる鋭さを備える、とも言えるだろうその刃が兵を貫くと、彼の者は胴より上がずれ外れ倒れる。 またもう一人は股間から頭頂までを引き裂かれ、ただの一撃で真っ二つに別れてしまう。 驚愕の表情を隠せぬ石山に、黯羽は不思議そうに問う。 「ん? 来ないのかい?」 雄叫びと共に斬りかかってくる石山。 これを、 「残念」 と言って、すぐ隣の部屋に入る事で外す黯羽。 この際、左の手の平の上にあった黒ずんだ塊を、ほいっと石山に投げる。 黒ずみは石山に触れるなり瞬く間に増殖し、半身を覆いつくす。 石山は慌ててこれを払い落としながら、黯羽へと斬りかかり、黯羽もまた石山に先の斬撃術を撃ち応戦する。 圧倒的な火力差により倒れる石山の胸元へ、銃を突きつける黯羽。 「……辞世でも詠みなァ」 放たれる弾丸。強固なはずの金属鎧は術により腐食しており、赤錆を撒き散らしながら砕け散るのであった。 玖雀(ib6816)がその場所に辿り着いたのは概ね偶然のせいである。 敵が居る方居る方へと向かっていたらそうなったというだけで、別に襲撃の最中食事が取りたいなんて思ったわけでもなく。 「あ」 なんて言葉で、こっちを見ながらつまみ食いしてる重装甲の騎士木崎の姿は、玖雀にとっても意外にすぎる光景であったわけで。 調理前の皮も剥かないにんじんにしょうゆをかけて食ってたらしい、その適当さにムカっと来たのも事実だが、だからとそれを表に出す程子供でもない。 だが、玖雀に向かって食材が山と詰まれた机を蹴り飛ばして来たのはいただけない。 机を叩き割りながらの正拳を、後退しながら外すと玖雀は部屋を出て廊下にて木崎を待ち構える。 飛び出して来た木崎。これに向かって玖雀は眉根に皺を寄せながら言った。 「……誰の相手でも構わんと思ってたが、お前とやり合う理由が今出来た。相手、してもらうぜ?」 木崎は鉄の小手にて拳を覆っており、これを用いて拳足を振るう。 対する玖雀は、金属塊を握りこむような形で、手の甲を覆うような武器を用いている。 木崎の顔面への突きを、玖雀はヘッドスリップで滑るようにかわす。二発、三発と不用意に連打してくるこれに、玖雀はカウンターのタイミングを見出すも、今の武器ではそうもいかない。 元々その重量にて殴りつけるような武器だ、カウンターに用いる速度を生み出すのは難しかろう。 だが、その分、この鉄貫という武器には別の用い方がある。 連打が止まった所で玖雀の反撃が飛ぶ。これは、粗雑といっていい乱打である。 拳槌を叩き付けるように、木崎は両腕を防御に構えるが、この上から鎧越しに何度も鉄貫を叩き込むと、木崎の表情が歪む。鎧は変形を始めている。 木崎はたまらず足を飛ばすも、これを読んでいた玖雀により、伸びた足を鉄貫にて痛打される。 悲鳴を上げながら後退する木崎は、自分の胸元に、鎧の隙間を縫っていつの間にか突き刺さっていた苦無を見下ろし、驚いた顔のまま、その場に倒れ伏した。 朝比奈 空(ia0086)とKyrie(ib5916)の二人は、突入時から全く速度を変えず、ゆっくりと、しかし確実に奥深くへと侵入していく。 脇の襖を突き破って飛び出して来た男を、Kyrieの回し蹴りが跳ね飛ばし、逆の襖越しに突き出して来た刀を、空はおそれる気もなく器用に掴んで逆に男を引っ張り出してしまう。 二人の進んで来た廊下には、三体の氷漬けが倒れており、正面からの突入は無謀であると敵達は考えた模様。 「そこまでだ!」 と怒鳴り、進む先の廊下から飛び出して来た二人の男。恐らくは、どちらも騎士。 空を包む衣装が輝き、Kyrieが手にした本より闇が漏れる。 空の右手が、Kyrieの左手が、同時に突き出された。 纏った霊衣は空の詠唱に合わせ薄白い霧のように広がっていく。 周辺を漂う雑多な精霊達が、無造作に、或いは無作為に、糾合され統合され符合し結合する。 精霊のあり方を色で受け止められる程感受性の豊かな者であったなら、そのとりどりの色彩に目を見張るであろう。 空の詠唱に導かれ、その周囲を竜巻か螺旋かといった速度で回り始めるが、不思議な事に、空の左側、つまりKyrieの居る側にはまっすぐ平面の形に見えない壁でもあるかのようにそれ以上奥へ行く事はない。 そしてKyrieであるが、こちらも術の詠唱を始めており、それが重く強い詠唱であるのはわかるのだが、だからと空がそうしているような変化は周辺には見られない。 ただ淡々と、Kyrieは詠唱を続けているだけなのに、精霊がその付近に近寄る事は決してない。 それは陰陽の術ならばどんなものであれ必ず発するであろう瘴気の気配すら感じぬ、言葉の羅列にしか見えぬ現象にありながら、瘴気ではなくKyrieより導き出される殺意に呼応したか。 いや殺意はKyrieのものでは断じてなかろう。 これ程の害意を、そも人間が持ちうるものなのか。 そんな空間をすら支配するであろう殺意が、瞬時に消えうせる。これとほぼ同時に空の全周を漂っていた精霊力もまた、消えて無くなってしまう。 悲鳴、絶叫。 これはどちらの騎士が発したものか。 見えない何かが騎士の胴を雑巾を絞るように捻り上げている。 それが幻でない証に、騎士は口から大量の吐血を吐き出し、尚も苦悶の声をあげ続けているではないか。 又もう一人の騎士は突如正面に生じた灰色の球形から身をよじりかわそうと動くも、避けきれず、胴から上に灰色が衝突する。 これに弾かれるように後退する騎士。彼の前面は、鎧が砂となって落ち、むき出しとなった皮膚は薄白く爛れさらさらと零れ落ちていくではないか。 何処に出しても恥ずかしくない凄まじき致命傷であったが、しかし、それでも二人は騎士であった。 左の騎士が怒りの咆哮と共にKyrieへ斬りかかっていく。 「見事です」 そう呟いたKyrieが二発目の黄泉の術を撃ち放つと、彼は今度こそ完全に息絶えた。 倒れた彼が一体どんなものを見たものか、彼は虚空に視線を向けたまま、顔中に凄まじき皺を寄せる程大きく表情を歪めたままであった。 また右の騎士はより素早い踏み込みで空の懐へと完全に入り込む。だが、それでも、空が慌てる事は無い。 「近付けばどうにかなるとでも? ……認識が甘いですよ」 空が騎士の突進に合わせ無造作に手を振るうと、騎士は突進の方向を急変化させる。 そのまま漆喰の壁に突き刺さり、突進した勢い以上の速度で漆喰の壁を削り取りながら床に落着すると、彼はもうぴくりとも動かなくなっていた。 ここで初めて空はKyrieを、Kyrieは空へと目を向ける。 お互い、特に消耗している様子も無し。 なら問題は無いと、二人は再び歩を進める。 そうせねばならぬ兵がこの後も数人突っ込んで来たが、結局最後まで、二人の足を止められる者が出て来る事は無かった。 狐火(ib0233)は屋根裏を伝う形で邸内を探索する。 既に戦闘は開始されており、旅館のそこかしこから騒々しい音が聞こえてくる。 これらの音を一つ一つ精査しながら、標的の位置を推測する。 既に旅館内は概ねその構造を把握しており、これに加えて超越聴覚により人員配置がわかれば、凡そ標的小宮山の位置は予想出来よう。 果たして小宮山を発見した狐火は、その眼前に降り立ってやる。 凄まじく驚き慌てる小宮山に、救出に来た朧谷の者だ、と言ってやり、犬神は腕利きの開拓者を七人雇っており、今邸内に居る戦力では一刻持たないだろうと伝えてやる。 「おおっ! 流石は大河内殿! あの小娘と違って商売の何たるかを良くご存知だ!」 その情報収集能力を褒め称え、すぐに撤収すべく必要書類を纏めにかかる。 そして、さあ行こうと声をかけた所で彼の意識は失われた。 意識を取り戻した小宮山は、自分が騙された事に漸く気付けた。 怒っている暇は無い。ともかく身を隠さねばと隠し部屋に入り息を潜めていたのだが、すぐに、周囲から変な音が聞こえてきた。 楽器のような音だが、幾らなんでもやかましすぎる。 その意味不明な音は徐々に近づいて来る。近づいて来て、そして、止まった。 がさがさという音の後、小宮山が隠れていた部屋の隠し戸が開かれる。 「み〜〜つけた〜〜♪」 叢雲・暁(ia5363)が、刀を片手に顔を出して来た。 「ひいいいいいい!」 依頼通り、これをさっくりとお殺りになった暁は、そこで人の気配に気付く。 「貴様! 小宮山様を殺したのか!?」 舌打ちしつつ走り逃げる暁に、追う騎士陣内。 しかし、旅館を飛び出し外を駆け抜け、川沿いの林側まで来た所で、暁は逃げるのをやめる。 陣内もまた足を止めた。 「で、きみ誰? 小宮山の手下じゃないっしょ?」 陣内は驚いた顔をした後、突如その顔面がぐしゃぐしゃに変形し、体つきまでが変わっていく。 そこに居たのは、妖艶な肢体を持つ美女。 「……見抜かれてるとは思わなかったわ」 幻術も併用した凄まじき変装、いやさ変身術、声まで全然違っていた。 そして暁は彼女に見覚えがあった。 「犬神の、確か華玉だっけ? ……もしかして今回の依頼も裏にきみ等が?」 「まさか、いきなり襲撃受けてこっちも驚いてるのよ。これ幸いと小宮山の書類かっぱらおうと思ったら先越されるし、もう散々よ」 気乗りせぬ様子で暁はぼやく。 「誰も彼も面倒な小技ばかり。嫌になってくるね」 「何言ってるの。とってもシノビらしいでしょうに」 「NINJAらしくはないっ」 肩をすくめ、華玉はこの場を去る。 「じゃ、黯羽によろしく言っといて。まったく、襲撃者の中にあの子の顔見つけた時はどうしようかと思ったわよ……」 梶川は、二度目ともなれば流石に少しは信用しているようで、驚きの中にある感謝の心が見てとれる。 「色々と気を遣わせるな」 狐火はねぎらいの言葉には眉一つ動かさず、淡々と手にした書類の説明を続ける。 「……これらの利権を、葦花と朧谷と折半するようにすれば関係が拗れることもないかと」 少し嫌そうな顔をする梶川であったが、その言の正しさを認め頷く。明細の中にあったアーマー三機を、全部自分達のものにしたら素敵だなーとか考えていた模様。 梶川は問う。 「何故、ここまでする?」 狐火はやはり淡々と答えた。 「犬神と対峙するにしても協調するにしても金と戦力は必要でしょうし」 敢えてこう曲解して答えただろう事はわかる。梶川はならばと率直に礼を述べた。 「理由はどうあれ、助かるのは事実だ。借りは、いずれ返す」 |