アヤカシ前線の風景
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/03 14:07



■オープニング本文

 雇われ兵士に権利なぞ存在しない。
 雇い主が言うがままに戦い、雇い主の望むがままに死ぬべきである。
 今日び、そんな話を真に受けるお花畑な傭兵なんぞ居るはずがないのだが、これを雇う者達はいつまでたってもその辺りが理解出来ぬ模様。
「誰が生かしておけと言った! 私は殺せと命じたはずだ! それに陣を奪い返す事もなくおめおめ戻って来るとはどういう了見だ!」
 怒鳴りつけるのはぴんと跳ねたちょび髭がちゃーみんぐな中年のオジサマ。
 あーはいはい、とそっぽを向いたまま聞き流してるのは、長大な刀を背負ったサムライ男。
「で、そっちの話はそれで終わりか? ならこっちの話にうつらせてもらう」
「何だと!? 貴様は……」
 そこでサムライ男は、二人の間に横たわっていた執務机に飛び乗り、ちょび髭の首元に短刀を突きつける。
「こっちの、話だ。いいかクソ野郎。まず一点、攻め込んだ陣にゃお前さんが言ってた三倍の数が居た事、二点目、てめぇーが約束した援軍は遥か後方で行軍中な事、最後に一点これが一番重要だ、何だっててめーはこの俺に偉そうに命令してやがんだ?」
 執務室にて同じくちょび髭の話を聞いていたもう一人のはげ頭が、ここで口を開く。
「おい九次、コイツからはまだ契約の後金もらってねーんだ。ヤるんならそいつ払わせてからにしろ」
「はっ、この手のクソは肉が詰まりすぎててケツの毛に火が着くまで動けやしねーんだよ。だからこうして、無駄な肉削り取って動きを軽くしてやろうってんじゃねえか」
「いいからよせっ、仕事は上品にやれって何時も言ってんだろ。お前が口開くと俺達全員の品性がひでぇ値崩れ起こすんだよ」
 サムライ男、九次は仕方なく短刀を引き執務机から降りる。ついでに拗ねてそっぽを向いてたりする。
 禿げ頭、寅之助は、口をぱくぱくさせているちょび髭に言い含めるように丁寧に語る。
「いやね、こちらも情報ってな必要でして。何せ雇い主は何一つ重要な事ぁ教えちゃくれませんので。なもので、村人を一人生き残らせた事に関してはまあ、大目に見ていただいてですね」
「何を勝手な事を、傭兵風情が……」
「ほらほら、そういう事言っちゃいけませんぜ。それとも何ですか? 傭兵団の一つも御せないとお偉方に思われてもいいと? そんな事ぁありませんよね? ならここは一つお互い協力しあいましょうや。任務を果たせば俺達は金が入る、旦那は上役の覚えめでたく出世も出来ましょうてな寸法でして。ねえ、失敗したらどうなるかなんてお互い考えるのも嫌でしょうに」

 ちょび髭の命令は、アヤカシに奪われた陣を奪還せよというもの。
 またその過程で、陣近くにあった避難も間に合わない村を、アヤカシがエサとする前に焼き払えというものであった。
 この二つの命令、実は内容が矛盾している。
 陣を取り返せるなら村を焼き払う必要は無い。陣を取り返せずアヤカシに長期間居座られるからこそ、村を焼く、もっと言えば村人を皆殺しにする必要があるのだ。
 寅之助達には、まず村を襲えという命令が下り、これを遂行している最中、陣奪還の命令が伝達されてきた。
 これで命令を怪しむなという方が無理であろう。
 寅之助には軍司令部の混乱っぷりの理由が良くわかっていた。
 陰殻と冥越との国境にあるこのアヤカシ前線は、持ち回りで陰殻のシノビ里が国境警備に当たっているのだが、この交代期日が迫っているのだ。
 ここで無理をして押し返した所で、すぐに次の担当里に代わってしまい、自分達の手柄にはならない。
 ならば最低限の労力で現状を維持するのが一番である。
 ところが、ここに来て運の悪いことに、アヤカシの攻勢が強まったのだ。陣を奪われた状態で警備を引き渡すなぞ里の面目が立たない。
 そこで、寅之助達に自殺紛いの命令が下ったと、そういう訳だ。
 最初からそうせよと言ってこなかったのは、恐らくちょび髭の部下にあたる、これまで寅之助達を管理してきたまともな指揮官が抵抗してくれたのだろうか。
 彼の姿が見えないのは更迭でもされたか。ここは思案のしどころである。
 寅之助の傭兵団はそれほど大きいものでもなく、そしてこれまでにない弱みを一つ抱えている。
 この地の担当が変わるにあたり、寅之助は次の担当里との継続契約を望んだのだが、次の里からは契約を拒否されてしまっていたのだ。
 次の契約先の都合もつかず、かといって下手な所と取引すればちょび髭だらけの職場で仕事するハメになりかねない。
 寅之助は、傭兵団を結成するきっかけとなった事件を思い出す。
 元は街のゴロツキを集めた超が付く武闘派ヤクザみたいなものであったのが、他者をブチ殺す事で金をもらえるアヤカシ退治の仕事を請けるに際し、ハクを付けるつもりで傭兵団を名乗ったのだ。
 傭兵という言葉にはその程度の思い入れしかない。それは、九次に代表される寅之助の仲間達も同様であろう。
「ふん、俺達にしちゃ長く続いた方か」

 朧谷の里に所属するシノビ錐は、若くして中忍を任される優れたシノビである。
 それ故か、仕事上嫉妬の対象とされる事も多く、今回ちょび髭に一時的に追い出されたのもそのせいだ。
 与えられた雑務を終え、錐は砦へと急ぎ戻る。
 そこで錐は、寅之助達傭兵団が、根拠地の砦を占領している事を始めて知った。
「寅! どういうつもりだ!」
 閉ざされた正門に向け怒鳴りつけると、中から寅之助が一人で出て来た。
「錐、さんっすか。どうもこうもねーっすよ。俺らぁ仕事がなくなっちまうんで、もらうもんもらって、この地を離れるつもりなんでさ」
「報酬以上を望むか!」
「これまで長い事アンタの里の為に働いて来たんだ、この程度ぐだぐだ抜かしなさんな」
 錐は血がにじむ程に拳を握り締めている。
「……野盗に身をやつすというのか」
 寅之助は、腹を抱えて仰け反り笑い出した。
「野盗と来たか! はははははっ! こいつは最高の冗談だ! 傭兵団を掴まえて今更野盗になるかとアンタは問いなさる!」
 笑いを止めて寅之助は錐に訊ねる。
「錐さん。アンタの知らない所で、あのちょび髭は俺達に命令したんっすよ。奪われた陣側の村を焼けってね」
 錐は大きく目を見開き息を呑む。
「で、俺達はどうしたと思います? いや、俺達がどう感じたか、アンタにわかりますか?」
「やったのか貴様等!?」
「やったどころじゃねえですよ。ウチの連中が命令聞いた時ぁ、みんな飛び上がって喜びましたぜ。こいつぁ大したご褒美だってね」
 寅之助は静かに告げる。
「さあ、もう帰りなせえ錐さん。今から軍を派遣した所で間に合わねえ。コイツは、あのちょび髭が俺達を管理出来ると信じた、アンタの不覚なんだよ」

 錐は砦を後にする。
 兵は間に合わないだろう。しかし、錐は朧谷最強と言われた男。そして、この前線側には開拓者ギルドの出張所が出張っている。
「いいさ寅。それなら、決着は俺の手でつけてやる」


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
玖雀(ib6816
29歳・男・シ
刃香冶 竜胆(ib8245
20歳・女・サ
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
アルバ・D・ポートマン(ic0381
24歳・男・サ
望景(ic0595
28歳・女・泰


■リプレイ本文

 錐の誘導に従い砦への侵入を果たすと、刃香冶 竜胆(ib8245)が砦中に響くような大声で吼える。
 片目をつむり、両耳を思わず覆った錐は抗議の声をあげる。
「おまっ、先っ、言っとけその大声はっ」
 此は失礼、と全然気にしてない風に返すと竜胆は腰に下げた霊剣を抜き放つ。
「さて、腕に自信ありとの事でありんすが、ぬしは依頼人たればおんみ大事にしなさんせ」
 ぞろぞろと突っ込んで来る敵兵士達。錐は竜胆の方を見ようともせぬまま応える。
「善処しよう」
 とか言っておきながら、真っ先に凄まじい速さで突っ込んで行く錐。
 肩をすくめつつ、自らを取り囲んだ敵兵に剣を向ける竜胆。
 彼等の、敵ではなく女を見る下卑た目つきに、予測していた事とはいえ胸糞の悪くなる想いだ。
 そんな不機嫌さが出たというわけでもなかろうが、かなり乱暴に剣を振るう。
 一人目の頭部を斬り抜いた後、二人目の胴を薙ぎ飛ばし、更に軸足を回転させつつ逆足で反動をつけ剣を振り回す。
 これにより側面、後方のそれぞれ一人づつにも剣を叩き込む竜胆。四人が、同時にその場に蹲る。
 と、錐の元へと駆ける敵影が。
 一目で力量を見抜いた竜胆は、その人影へと声をかける。
「もし」
 ついでに銃を一発ぶちこんでやると、彼は実に快くこちらへと振り向いてくれた。
「て、てめぇ!」
 突っ込んで来る敵、真田丸。
 流石に志体持ちと思える攻撃であったが、竜胆はまともに打ち合わず一合毎に数歩下がりつつ受け流す。
 柳のように流す様に真田丸が業を煮やす直前、竜胆が真田丸に背を向ける形で大きく崩れる。
 竜胆は剣を鏡に背後を確認し、袈裟に斬りかかる真田丸に、半回転しながら正面を向き大きく剣を突き出してやる。
 心の臓に突き立った剣を見下ろし、呆気に取られた顔で絶命する真田丸。
 竜胆はもう興味もないのかそちらには見向きもせず、残る兵士へと剣を向けるのだった。

 宮鷺 カヅキ(ib4230)、玖雀(ib6816)のシノビコンビは、ぞろぞろと砦から沸いて出る兵士の中でも、特に目立つドデカイ魔槍砲を抱えた時貞へと狙いを定める。
 兵士の壁の向こう側に居る彼は、魔槍砲のみならず、短銃も手にしているのが見える。
 一度のアイコンタクトで意図を確認しあう二人。
 先行していた玖雀は接敵直前に後ろを振り向き、両手を組んで腹前に置く。
 すぐ後を走っていたカヅキは、勢い良くこの組まれた手に片足を乗せる。
 カヅキが大地を蹴り、すぐに玖雀が腕を振り上げる。
 大きく飛び上がったカヅキは壁となった兵の頭上を越え、時貞の眼前に着地。
 一瞬、進むか戻るか迷った兵の下へ、玖雀は印を結びながら駆け寄る。
 力ある言葉と共に放たれた風が玖雀を中心に吹き荒れ、三人の兵士を文字通り吹き飛ばしてしまう。
 玖雀はすぐにその場から飛び下がる。
 カヅキと同じように、しかしカヅキと違い単独で、兵の頭上を飛び越えて来た男、重実の飛び蹴りをかわすためだ。
 退きながら一回しした鎖分銅を放つ。
 下からの掬い上げるような振りに、重実は足を交差する歩法にて外す。
 玖雀が肘を突き出すと、鎖は腕に凄い勢いで巻きついていく。
 頃合を計らって肘を抜くと鎖がたわむが、すぐに逆手で鎖を掴むと今度は掴んだ部位を中心に回転を始める。
 体の左側で一回し、右側で一回し。
 回転速度と、玖雀の切り替えしが早い事から不要に踏み込めなくなる重実。
 動きの早さと身の軽さが売りの男には、まず心理面から縛る。
 そして、不意打ち。
 玖雀は重実に、ではなく、時貞へと分銅を放ったのだ。
 同時に、強烈な一撃をもらった重実はその場で転倒する。
 見ると時貞とやりあっていたカヅキが、強烈な飛礫を投げつけているではないか。
 そしてカヅキが戦っていた時貞の片足には、玖雀の分銅が巻きついている。
 残る足で大地を掴み、時貞は腕力のみで強引に魔槍砲を掲げ上げる。
 そこには死角を利して飛び上がり、攻撃を仕掛けてきていたカヅキの姿があった。
 魔槍砲の筒先より、閃光が溢れる。
 空中で咄嗟に姿勢を変えるカヅキ。
 刀を突き刺す為前傾であったそれを、胸を中心とした回転にて変化させ、片足を前方へと伸ばした姿勢へ。
 既に熱を持っている魔槍砲の先端を、爪先で蹴り逸らす。
 かする程度しか触れられず、放たれた轟音を伴う魔の閃光はカヅキの顔横を抜けていく。
 じりじりと熱せられる感覚が、顔のみならず左半身全てに感じられるが、それも一瞬の事で。
 空中で動いた反動が残っているカヅキは、この勢いを用いて体を捻り、刀を、時貞へ斬りつける威力を得る。
 飛礫にて僅かに怯んでいた重実であったが、すぐに立ち直り玖雀の懐へと飛び込む。
 玖雀は慌てず、拘束に用いているものとは逆側の百足型の分銅を直接掴む。
 そう、玖雀は泰拳士相手に拳足を用いた戦いを挑むと、その構えで言ってやっているのだ。
 ナメるな、と拳を伸ばす重実の後頭部に、重実のそれより長い跳躍で突っ込んできた錐の蹴りが突き刺さった。
 無言のまま、玖雀は錐と手を打ち合わせる。
 そして二人は同時にカヅキを見る。
 玖雀は右手を、錐は左手を上げながらカヅキに歩み寄る。
 これでいいのか、と自信なさげに両手を挙げるカヅキに、二人は笑みを見せながらその手を大きく音を立て打ってやるのだった。

 望景(ic0595)は屋根の上に居た弓を持つ男が、ちょっと待てとか抜かすのを無視し、情け容赦無く蹴り落としてやる。
「ギャンギャン五月蝿いわね、……大人しく地面と仲良くしていて頂戴な」
 と、砦の窓からほぼ同時に人間が落下していくのが見えた。
 更に、その部屋からは乱闘の音が続いている。
「仕方ないわねぇ」
 とぼやきつつ、砦の屋根から恐怖も感慨もなく気安い様子でぴょんと飛び降りる。
 体を捻り、屋根の縁を両手で掴むと落下を上手く横に流れる力に変化させ、窓の中へと飛び込む。
 中ではアルバ・D・ポートマン(ic0381)が複数の敵に囲まれていた。
 ついでとばかりにアルバの背後より迫る敵を、飛び込みざまの蹴りでぶっとばしてやる。
「貴方、背中がガラ空きよ、まったく」
 アルバはいきなり現れた味方に、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 そのまま望景はアルバの背を守る形で構える。同時に敵が一斉に飛び掛ってきた。
「怪我されたら面倒見るのは誰だと思ってるかしら!」
 左の敵の剣を払い落とし、右の敵をカウンターの蹴りでふっ飛ばす望景。
「アーはいはい、姉御には世話掛けねェようにするって!」
 こちらは右の敵には先の先を取り斬り伏せ、左の敵には後の先を取り斬り倒す。
 が、三人目には斬り返しとはいかず。
 良くしなる槍で足元を連続で突かれると、これら一つ一つに丁寧に対処するしか手がなくなってしまう。
 すぐに役割分担を考えるアルバ。
 いろっいろと言われそーであまり好ましい分担ではないが、しかたねェかと槍使い義正との戦いに集中する。
 この間に、望景が部屋の兵士を片付けるといった寸法だ。
 望景は室内に転がっていた椅子を足で蹴り上げる。
 踏み込もうとしていた兵の機先をこれで制しつつ、逆足でステップインしながら椅子を蹴り飛ばすと、兵にこれが当たって跳ね返って椅子は戻って来る。
 今度は逆側からの敵が剣をふるってくるのを、蹴り足で戻って来た椅子を支えながら、剣への盾とする。
 木組の間に剣が突き刺さる。
 望景が椅子を回転するように蹴り飛ばすと、刺さった剣は音高く跳ね飛ばされる。
 にこーっと笑いながら、剣を失った兵を殴り飛ばし、こちらもまたしかたないわねぇ、と手に練力を漲らせる。
 アルバに集中していたせいで、虚をつかれた義正は、望景の空気撃をまともにもらってしまった。
 盛大な転倒、とはいかず片膝をつく程度で済ませたのは、堅実さを旨とする義正ならではの堪えっぷりであるが、隙は隙だ。
 ここぞと大振りの剣を叩き込むアルバであったが、剣の間合いになろうと義正は槍を短く持つ事で受け止める。
 逃がさじとアルバの斬り返しが襲う。
 厳密には斬り返しではなく、弾かれた勢いそのままに体を回転し、今度は逆側から勢い良く斬りかかったのだ。
 義正はこれに無理に逆らわず、槍を盾とし飛ばされながら巧みに距離を取る。
 そのまま立ち上がり体勢を立て直し、さあ反撃と勢い込んだ時、ソレは来た。
 義正の眼下に、見上げるアルバの鋭い視線が。
 間合いは充分にとったはず、いや、この一撃の為に、最速の踏み込みをこれまで隠していたか。
 しかし剣の間合いの更に内では無手のよる攻撃しかない、否、逆手に光るは刃の煌き。
 義正がそこまで考えた所で、致命打が体に深々と突き刺さるのがわかった。
 あっという間に失われていく意識。その最後の欠片に、アルバの言葉が引っかかる。
「ヤトワレってのも辛ェよなァ。……よーく知ってるさ」

 カルフ(ib9316)は、裏門側に回りフロストマインを仕掛けながら、存外に踏ん張る敵に少々だが感心していた。
 開戦から結構な時間が経っているが、未だ裏門より逃亡を図ったものはゼロ。
 中々どうして、と思っていたのだが、何やら砦よりみょーな音が聞こえて来た。
 蜂の大群でも迫って来ているのだろうか。そんな疑問がカルフの脳裏に浮かぶが、よくよく考えてみると、作戦開始時にも似たよーな音を聞いた気がする。
 というか、すげぇ嬉しそうな顔で三人の男を追っかけてるアレが、この音の原因であろう。
 アレこと叢雲・暁(ia5363)は、僅かな側近と共に逃亡を図った大将寅之助を、ブブゼラ噴きながらおっかけてたわけで。
 カルフは鳥とか獣とかを音でおどかして追い詰める猟を思い出してたり。
 程なく、カルフの仕掛けたフロストマインに三人共が引っかかると、暁はもうそりゃもうな勢いで煽りだす。
「ヒャーーーーーーッハッハーー! 食らったな!? ハマったな!? 引っかかったな!? マヌケがあああああ! ん〜〜? どうした〜? 逃げんのか〜? 逃げられんのか〜? ならもうどおおおおにも死ぬしかないな貴様はああああああああ!」
 そんな絶好調暁をガンスルーで、カルフは三人に降伏勧告を送る。
「氷漬けか投降か、生きている内に選びなさい」
 尤も、ここまでの事をしでかしたのだから、処罰は極刑以外ありえないだろうが。
 フロストマインの足止めから真っ先に動けたのは寅之助であった。
 暁の忍刀を背中にもらいながら、まっすぐにカルフへと向かう。
 カルフは足元にペイルを置き、両手持ちに構えた短剣を前方にまっすぐかざす。
 殺気と殺意を供に迫る寅之助であったが、カルフの凛とした詠唱は震えず途切れず。
 敢えて雄叫びの声を上げる事で、恐怖を誘う寅之助の策にカルフは微動だにせず。
 短剣からひやりとした冷気が漂う。
 剣の表面に自然ではありえぬ巨大は氷結晶が浮かび上がり、幾重にも重なっていく。
 さながら氷の剣のような有様となった短剣を、カルフが横薙ぎに振るうと、短剣より氷結晶達が滑るようにズレ放たれ、一本の氷の矢と化す。
 これが寅之助へと命中するなり、刺さった部位から飛び散るように氷が広がる。
 それでも足を止めぬ寅之助であったが、カルフは再び詠唱を唱え、短剣を肘から先のみで振るうと、二本目の槍が寅之助を襲う。
 さしもの寅之助もこれは分が悪いと察したか、カルフに対して遮蔽を取れるようなルートを逃走路と変更する。
 その進路変更が命取りとなった。
 完全に背後を暁に取られ、両腕を肩越しにクラッチ。
 ダブルアームの形を取った暁は、背後に向けてこれを放り投げ上げる。
 そして自らも跳躍してこれを追わんとするが、寅之助はこの技を飯綱落としと察したのか、無理矢理足を伸ばして砦の壁を蹴り、上手く落着点が水が張ってある堀の上になるよう調節する。
「バカめ! MURAKUMOバスターに死角は無いっ!」
 暁は空中で寅之助を捕まえる。ここまでは飯綱落としと変わらないが、ここで暁は速攻寅之助の全身をクラッチし、落下しつつ大地にではなく、砦の壁へを大地と無しここに着地する事で強引にMURAKUMOバスターを成立させたのだ。
「これぞネオMURAKUMOバスター!」
 ついでとばかりに壁を蹴る事で更に落着点を変え、もうまともに動けなくなっていた寅之助にトドメのMURAKUMOバスターを叩き込んでやる暁であった。
 これを見てカルフが一言。
「ほんっと、容赦無いですよね」
 確かに。

 戦闘開始からどれだけ経ったのか、真亡・雫(ia0432)は自分の時間感覚がひどく曖昧になってる事を自覚する。
 序盤遭遇し、これまでずっと戦い続けている男、九次。彼は、彼だけは、別格の強さがある。
 互いに呼吸を必要とする限界点に達し、間合いを保ったままにらみ合いつつ、静かに呼吸を整える。
 雫はその技に敬意を表しつつ、問わずにはいられなかった。
「貴方は……今の道に後悔はないんですか?それだけの力があるのに」
 九次は何を馬鹿なと呆れ顔になる。
「何処の世界に好き好んで傭兵やら盗賊やらやろうなんて間抜けが居るんだよ」
 好きでやってる事ではないが、嫌いな事を拒否し続けていたらこの場に居た。そんな話である。
「我慢は、出来なかったのですか?」
「嫌だね。そんな真似するぐらいだったら、傭兵家業のがよっぽどマシだ」
 だから、と九次が大剣を振りかざす。
「テメェを殺して俺はまだまだ好きに生きるさ!」
 全体重が乗っているのではと思えるような剛剣。天儀のサムライのそれとはまた違った剣法だ。
 雫もまた真っ向からこれを受け止める。引いたら、押し切られる。
 盛大な衝突音。弾かれる両者の剣と刀。
 九次は再び大剣を振り回すが、雫は一歩前へと出て足裏で大剣の起こりを潰しにかかる。
 しかし、力が乗り切る前に足で剣先を抑えたというのに、九次の剣に雫の体重は押し返されてしまう。
 咄嗟に、逆らわず飛び距離を開ける。後退しながら振りかぶり、練力により生み出した風の刃で九次を打つ。
 強引に突破してくる九次。しかし、雫は絶対の自信と共に告げた。
「闇路へのご案内仕る」
 風の刃にて目の上が切れた九次は、片目を一瞬だが血の雫で失う。
 大上段の一撃を潜った雫は、故に生じた死角を伝って抜き胴一閃。
 傷口が開いたのは、九次が振り返ったその衝撃でようやくだ。
 そのまま倒れ臥す九次。
 周囲を心眼にて確認した後、懐より取り出した布で刀を拭って鞘へと納める。
「……人を傷つけるのはこんなにも苦しいのに、どうして……」
 そんな雫の問いに答える者は居なかった。