ソードダンサー・ロイド
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/09 22:02



■オープニング本文

 ビィ男爵は一つの懸念を抱えていた。
 ここ最近になってジルベリア転覆を狙う者達の動きが活発化してきていると感じたのだ。
 ジルベリア帝国の暗部を担う極めて強力な掃除屋が政争に破れ失われた事も要因の一つと思われるが、しかし、にしてはタイミングが妙なのだ。
 掃除屋を消してやったのは他ならぬビィ男爵であるのだが、その直後なのだ、彼等テロリストの動きが活発化したのは。
 本来彼等の行動は、入念な下準備があって初めて成立しうるもの。ビィ男爵が掃除屋を消してから動き出したとすると、準備期間が足りないはずなのだ。
「或いは、こちらの動きを察したか? ふん、ミュルクヴィズの森には魔物が住むというが、たったこれだけの情報で私の動きが読めようはずもなかろう」
 とはいえ、イレギュラーな案件により計画の前倒しを強要されており、ある程度の見切り発車を余儀なくされそうだ。
 執務室で一人思索にふける男爵の下に、能力は悪くないのだがとかく賑やかな部下が駆け込んで来たのはそんな昼下がりである。
「男爵! 条件揃いました! ソードダンサー・ロイド出ます!」

 最強の剣士とは誰か。
 そんな話が出たとして、例えばそれがジルベリア騎士の中で、となるならば鍛錬等で手合わせの機会もあろうし、各々が競う事を統治側も咎めぬであろうから、それなりの結論が出る事もあろう。
 だが在野の者も含めてとなるとこれが難しい。
 手合わせの機会が極端に減り、そも、手合わせしたならどちらかが死ぬといった場面の方が増えるからだ。
 更に犯罪者までもを含めるともうどうにも判別のしようがなくなる。
 手柄の数、戦績、積み重ねた訓練の量、血筋等々、数多の要素が絡み合ってくるせいだ。
 故に、巷には最強と目される存在が複数居る事になるし、それ自体は不自然な事でもなんでもない。
 そんなジルベリア最強剣士の一人に、ソードダンサー・ロイドは居た。
 彼が最強と謳われるのに幾つか理由があるが、その最たるものはやはり、彼が常に一人で戦っている事だろう。
 どの伝聞においても、ロイドはたった一人で敵に挑み、たった一人で戦い抜き、たった一人で勝利するのだ。
 その戦い様を目にした生き残りが、流麗に舞う双剣を見、剣と共に踊る者と呼ぶようになったのだ。
 所属も出身も目的も全てが不明。
 ある日突然ふらっと現れ、数多の兵を相手取りこれを斬り伏せ去っていくのだ。
 巷に伝わる風聞では、彼は最強の剣士たらんと修羅の道に入り、ただその為だけに兵を相手取り修行を続けているのだと言う。
 百を超える兵すら屠ったというロイドの名は、かなりの人間から『最強』に相応しいと目されていたが、こんな紛い話に付き合う程ビィ男爵は暇ではなかった。
「剣の腕を磨く為砦の兵を皆殺しにした? 馬鹿か、奴がこれまでに出現した位置、場所、時を考えればおのずと答えは出よう」
 ビィ男爵はかなり以前から幾人かの犯罪者に目を付けていた。
 ロイドもまたその中の一人で、男爵見る所の彼は、反ジルベリアの気骨を持つ領地に対し警告の意味を込め駐在するジルベリア兵を斬って回るという明快な目的を備えていた。
 そう誰も思わなかったのは、単純にそういった領地のほとんどが辺境であり襲撃にそもそも適した場所である事と、やはり無意味に単身で斬りこむといった事実のせいだろう。
 だが、慎重に事後調査を進めると、ロイドは決して単身などではない事がわかる。
 襲撃自体はロイドが一人で行っており、彼の技量の高さは疑うべくもないが、ロイドが襲撃してきた場所では決まって事前に行方不明事件が多発しているのだ。
 それも兵達を束ねる立場の者が、砦や詰め所の熟練哨戒担当者が、出入りの商人が、とびっきりの腕利きが、事前に行方不明になっている。
 こうしたお膳立ての元、ロイドは襲撃を敢行し成功を収めているのだ。
 何故単身でこんな真似をするのか。それは、現状がその理由を物語っていよう。
 彼は剣の道に勤しむ愚直な求道者などではなく、ジルベリアに反旗を翻す冷徹なテロリストであるという、その正体を隠す為だ。
 色んな意味でリスキー極まりない策であるが、それ故にこそ、これまで数多の者を欺きおおせたのであろう。
 だが、そうと割れてしまえば備えは出来る。
 ビィ男爵は標的となりうる場所(結構な数があるが)に、予め予兆が起きれば報せが来るよう準備しておいた。
 実は前回のロイド襲撃時、ビィ男爵はそれを予知しえたのだが、その頃はまだ発言権も小さく警告をまともに受け取ってもらえなかったのだ。
 そんな経緯があるからこそ、男爵の今度こそはという思いは強い。
「該当地までやはり距離があるか。これでは最低限の数しか出せんが止めるだけなら何とかなろう。一度でいい、無敗の伝説を崩し正体を明かしてやれば二度とこんなふざけた真似も出来なくなるだろうよ」
 そしてこれではっきりとした。
 ソードダンサー・ロイドは下準備と調査に数ヶ月を用いると思われる。
 これは男爵が掃除屋を消した時期より以前から準備が行われていたという事。
 つまりこの時期反ジルベリア派の動きが集中しているのは、そういった予定の元動いていたという事だ。
「間が悪かった? いや、ギリギリで間に合ったと見るべきか……まったく、じっくりと体勢を整える時間は与えてもらえんようだな」
 ビィ男爵は執務室の窓から外の青く澄んだ空を見上げる。
 ミュルクヴィズの森を相手にしていると、どうしても心の奥底が澱み歪んでいってしまう。
 そんな時、こうして見上げる空の突き抜けるような青さが、男爵の救いとなってくれるのだった。

 ロイドは襲撃の前夜も、何時もと変わらず過ごすよう心がけている。
 剣の腕に自信はあれど、たった一人で多数に挑む以上、予期せぬ出来事が起こる可能性は高い。
 それらはロイドの機知によって乗り越えるしかなく、そんな作戦が翌日に迫っているとなれば、ロイド程の男とて緊張を隠す事は出来ぬ。
 しかし、とロイドは仲間の事を思い、怯える心を窘める。
 襲撃が無事終わり帰還すると、彼等はいつも豪勢な食事と贅沢なワインを用意してくれる。
 森からの資金援助に余裕なぞありえないのだが、何とかやりくりし費用を捻出しているのだろう。
 贅沢な食事が嬉しいのではない、彼等のそんな気持ちが嬉しいのだ。
 ロイド達は、誰もが憚るであろう反逆者であるが、それでも、いやならばこそ、心繋いだ仲間を貴重で掛け替えの無いものと感じるのだろう。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
喜屋武(ia2651
21歳・男・サ
痕離(ia6954
26歳・女・シ
リーナ・クライン(ia9109
22歳・女・魔
煉谷 耀(ib3229
33歳・男・シ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
草薙 宗司(ib9303
17歳・男・志
セージ(ic0517
25歳・男・騎


■リプレイ本文

 アルバルク(ib6635)は砦の中庭で皆の準備を手伝いながら、ロイドのやり口の詳細を記した書類に目を通す。
「周到な準備の上での勝利……いいねえ、あやかりたいねえ……」
 セージ(ic0517)もアルバルクが読み終えた書類を斜め読みながらぼやく。
「正々堂々一騎打ち……と、行きたいところだが、どうがんばっても無理くさいな」
 喜屋武(ia2651)もまた同感なのか、僅かに表情を曇らす。
「完全な格上相手とはいえ、少しアンフェアだとは思う。とはいえ、現状出来る最善を考えるなら仕方の無い所だ」
 その辺は当然セージもわかっている。が、思ってしまうのは誰にも止めようがなかろう。
 しかし草薙 宗司(ib9303)には、二人とは別の不満があった。
「暗殺なら辛うじて、けど、強襲で一人とかありえないよね」
 肩をすくめるアルバルク。集団戦闘に関しては砂迅騎である以上、それなりに思う所あろうて。
「まあ、な」
 そも暗殺ですら、バックアップを抜きにしても、潜入は複数で行うべきである。
 単身では問題発生時、どうにも対応が出来なくなろう。
 そこで宗司は、周囲をぐるりと見渡す。
 何処にいるか現状ですらわからないが、痕離(ia6954)と煉谷 耀(ib3229)の二人が布陣の用意をしているはずだ。
 そう、隠密行動ですら、複数人で行った方が効率が良いに決まっているのだ。
 戦略的見地からの選択である、との話だが、余りに不利にすぎる戦術を強要される戦略なぞ、最初から破綻しているのではないかとすら思える。
 手にした杯を傾けながら葛切 カズラ(ia0725)は不満げな顔の宗司をからかうように口を開く。
「そんな矛盾を押し通す程の腕があるんじゃないかしら。策も知略も意味を成さない、理不尽としか思えないような怪物は確かにこの世に存在するわよ」
 仕掛けを終えたリーナ・クライン(ia9109)が、特に表情を変えぬまま会話に混ざる。
「そうね。酒が入っていてもまるで問題なく戦える陰陽師っていうのも、随分と理不尽な気がする」
 カズラは、そうねー、と返しまるで他人事のように笑う。
 宗司は、志体を持つ開拓者が八人がかりで迎え撃つっていうのも相当理不尽な戦力だよなーこの砦落とすぐらいなら何とかなりそーだし、なんて思ったが面倒なので口には出さなかった。

 喜屋武、アルバルク、宗司、セージの四人が囲む形で、侵入して来たロイドに対する。
 ロイドは二刀を抜き放ち、静かに歩を踏み出す。
 ロイドの足の裏は確かに大地を蹴りだしているはずなのだが、何故かそこに踏み込み踏み出す跡を見出す事が出来ない。
 宗司は一歩を踏み出しながら言う。
「こんにちは侍の人」
 そこでロイドの足元より吹雪の嵐が吹き上がる。
「悪いけどここで討たれてもらうよ!」
 身動き取れぬロイドへ、横薙ぎの一閃を放つ宗司。
 宗司の目が外界から得た情報の全てが、この剣は当たる、そう告げていた。
 正しく、すり抜けたとしか形容しようのない状況であった。
 すぐにセージと喜屋武も動けぬロイドへ攻撃を仕掛けるが、やはりかすりすらしない有様。
 アルバルクは体裁きのみで凌いだロイドに、幾つかのフェイントを交えつつの剣撃を向ける。
 アルバルクの剣がロイドへと届く寸前、ロイドはその場で小さく跳躍しつつ、全身を捻って回転する。
 柳の枝が触れるような感覚、喜屋武の目にそう見えたのは剣が触れる瞬間までの事。
 まるで、全長八尺を超える巨大もふらが全速力で駆け寄りどやしつけたような衝撃が、剣が触れた二の腕一点に集中して叩き込まれる。
 転倒だけはしてなるものかと踏ん張るが、その巨体は面白いように跳ね飛ばされる。
 セージは足を払うようにもらってしまい、三、四、五回転しながら宙を舞う。
 斜めに見える大地を何とか捉え、着地を決めるも足は痺れてすぐには動けそうにもない。
 宗司は運良く盾で受ける事が出来たが、盾ごと弾かれ大地に両足で轍を作りながら大幅な後退を強要される。
 アルバルクはあくまで初撃のみ確認と援護のつもりで踏み込んだだけで、すぐに下がるつもりであったが、それでも下がりきれず。
 幸い擦過傷を受けるのみで済んだが、ロイドの同時反撃四連には肝を冷やした。
 セージは回転による視界の揺れを、頭一つ振る事で無理やり収めると、誰にともなく呟く。
「半分ふざけた豪快な技を決められる、というのはそれだけで桁違いの凄腕だという証明でもある」
 更に、何がマズイかといえば、同時に仕掛けておきながら四人が四人共一撃をすら入れられていない事だ。
 そして状況は更に悪化する。
 ロイドの剣で弾き飛ばされた三人。その内、最も優れた体躯を誇る喜屋武へとロイドは踏み込んだのだ。
 多対一の戦いで最初に為すべき事は、最も高い攻撃力を持つ者の撃破だ。
 であるが故に、ハタ目から見てもより防御能力に優れるだろう喜屋武を狙うのは想像の外だ。
 喜屋武も咄嗟に身を翻すが、ロイドの速さは風をも凌ぐ。
 刀撃四つをその身に受けた喜屋武は、意識を失ったのかその巨体が後ろへ傾く。
「ちょっ!」
 思わず声を上げてしまうリーナ。その場所は、フロストマインを仕掛けた場所なのだ。
 たたらを踏んで後退する喜屋武を吹雪の嵐が包みこむ。ロイドはトドメを刺すべく一歩を踏み出し、そこでぎりぎり踏みとどまった。
 豪雪の最中、喜屋武の股下より暗器が打ち込まれて来たのだ。
 これを撃ち放つには、回避不能な間合いでそうするには、フロストマインの効果範囲内に居なければならない。
 もちろん、衝撃と苦痛に揺れる喜屋武にその役は不可能。
 コレを仕掛けた者、痕離はロイドの気配察知勘より隠れ、フロストマイン側に潜み、術が発動するなりこの範囲内に自ら飛び込み攻撃を仕掛けたのだ。
 当然、喜屋武が身を翻したのも策の内。向かって来るのをこれ幸いと、自らの肉体を囮にロイドを引き寄せたのだ。
 急所だけは外したものの、痕離の放った刃はロイドへと突き刺さり、血の雫を滴らせる。
「流石は最強と謳われるだけある、か。……けれど、……!」
 更に追いすがって来たアルバルク、宗司、セージの三人が加わり乱戦が始まる。
 吹雪の術が気付けになったのか、はたまたそもそもがやたら頑丈なせいか、喜屋武は意識を保ったままでふらつく体を叱咤し、そしてふと気がついて振り向く。
 そこには眉間に皺を寄せているリーナがいた。
「……黙っていた理由はわかるけど、一つ、言わせて」
「あ、ああ」
「自分の術で仲間が傷つくのを見るのって、凄い胃に来るのよ、わかる?」
 あー、とリーナの言いたい事を理解した喜屋武は、頬を小さくかいた。
「つ、次は気をつけます」
「よろしいっ」
 ちなみに少し離れた所を駆けていた痕離も、小さくごめんと言っていたり。

 戦闘は続く。
 ロイドはこの戦いに、凄まじい違和感を覚える。
 どう考えても理屈に合わぬ攻撃があるのだ。
 十回斬りつけられかすめるのが一度あるかないか、そんな頻度であるはずが、十の内一つは確実にかわせない攻撃がある。
 それをすら鎧で受け急所だけは許していないが、その鍵となるのは、とかく動き回る女シノビ、つまり痕離だ。
「そう思わせる策か!」
 駆けるロイドの剣が大地に叩きつけられると、土砂粉塵が巻き上がる。
 それはロイドがそうせんとした量に倍する勢いで吹き上がり、その最中に一人の男、耀の姿があった。
 隠行にて身を隠し、攻撃を仕掛ける気配すら絶つ事で攻撃者の存在を完全に消失させる。
 そんな耀の仕掛けであったのだ。
 必殺の策が見破られて尚、耀は表情一つ変えず、ロイド周辺を走り始める。
 それはロイドを囲んで逆側を走る痕離に対応するかのようで、耀と痕離の二人のみは、他の前衛組とは全く別の動きを見せる。
 二人共、意外にすぎる仕掛けをしてくれた者達。ロイドとて無視など出来ようはずもない。
 そんなロイドの心中を知ってか知らずか、耀は次から次へと小癪な手を仕掛け、或いは罠を、或いは注意を引き、或いは死角よりの刃にて、ロイドへと迫る。
 またこの仕掛けに痕離も乗ってくるからタチが悪い。
 耀は次の次の手の準備を脳内で進めながら、奮戦するロイドに目をやる。
『……殺気も罠も搦め手よ。皆の猛攻の中で更に俺との読み合いに応じさせる事、それが俺が流しこむ毒だ』

 セージは大薙刀を振るいながら、ロイドの剣より目が離せない。
 戦闘中だから当然、そんな理由ではない。流麗な二刀捌きと、軽快な歩法が、セージを魅了して已まぬ。
 とはいえセージもまた武骨者。相手が何人であろうとも、武を振るう以外術を知らぬ。
 ロイドの回転に合わせ、自らの薙刀を打ち込む。
 一打毎に回転は速度を増し、刃は威を誇示する。ロイドの剣はそれら一つ一つを丁寧に正確に捌き崩れる気配すらない。
 さながら暴風の如き回転となったセージの刃を、逆手に持った短めの刀で弾くのだからその技量たるや、といった風情であるが、セージは徐々に接近しながらこれを行うのだ。
 そして臨界点。薙刀の長さが邪魔で攻撃出来ぬ位置に入った瞬間、ロイドの剣がセージへと伸びる。
 薙刀が起こす疾風もぴたりと止まったその位置で、しかし、セージの薙刀の刃はロイドへと突き刺さっていた。
 この距離で長物を有効活用出来るのは、職種数多あれど騎士のみ。
「渦の芯が安全なのは自然の嵐だけだ」
 騎士の生む竜巻に、死角は無い。
 カズラは、完全に安全域と言って良い場所から、もーこれでもかっつー勢いで鴉をぶんぶん飛ばしている。
 楽といえば楽ではあるが、だからと手を抜ける状況では断じてない。
 通常、カズラを反撃が届かぬ位置で一方的に攻撃出来る状況に置ければ、後はもう防戦だけ考えれば良い。
 陰陽師にあるまじき手数、秘術に類する奥義すら連発出来る底無しの練力、これはサンダーヘヴンレイではないサンダーだと言わんばかりの魔王の如き術攻撃力。
 いずれを取ってもフリー砲台にして放置とかありえぬ存在。
 ましてや今回はフリーズ砲台リーナも共にあるのだ。
 ロイドの極めて高い回避防御能力が通用する近接組より、後衛二人を何よりも先に潰さねばならぬはず。
 カズラはもう何度目になるか数えるのを止めた鴉の召還を行いながらリーナに問う。
「どう、思う?」
 リーナもまた、指先が凍えすぎて感覚が無くなる程唱えた氷術を繰り返しながら答える。
「奥の手があると見たっ」
 指先で指し示すと、一直線に鴉はロイドへと向かっていく。この所作もやりすぎてそろそろ指が吊りそうだ。
「それも、あれよという間に戦況をひっくり返す手。こちらに飛び込むでなくそうするには……」
 カズラ、リーナが共に同じ結論に達する。複数同時攻撃を連発し、一息に前線を崩す。
 その間を図っている今の内に、とカズラは黄泉の底より正体不明の呪いの塊を呼び出す。
 魔術を学ぶリーナが極自然に二歩程後退するような、そんな素敵な容姿の彼だか彼女だかは、不気味極まる円らなおめめでぎりっとロイドを凝視する。
 瞬間、凄まじい負荷がロイドにかかっているはずなのだが、当人効いていないかのように涼しい顔のまま。
 よほどタフなのであろうが、カズラは戦局を動かすべく更にもう一発、これを放つ。
 カズラは術を唱えながら、頭の中だけで呟く。
『これで前衛組もこっちの意図わかってくれるでしょ』

 前衛近接組の戦闘を優位に導くべく動くアルバルクは、カズラの大技連発の意図を正確に把握していた。
 基本的にフロストマインへ誘い込むよう、銃撃にて誘導していたアルバルクであったが、主武器をシャムシールへと切り替え近接攻撃を挑む。
 天儀やジルベリアのそれとはまた違った剣の軌道、体捌きは、これに慣れぬロイドの受けを掻い潜る。
 薄い手ごたえ。
 すぐさま斬り返すアルバルクに、今度はロイドの受けが間に合う。
『甘ぇよ』
 手首を返し、シャムシールの向きを変える。片刃の武器をひっくり返せば峰が当たろう。
 しかし、並の刀剣とは比べ物にならぬ反りのある武器でそうすると、峰側であれど一箇所のみ、致命を与えられる箇所が出来る。
 ロイドのしまったという顔。アルバルクのシャムシールは、反り返った先端が受けたロイドの刀を回りこむようにして鎧の隙間へと刺さっていたのだ。
 そこに宗司が斬りかかる。
 いや、ロイドが速い。
 後退を促すような強烈な剣を縦に振るうロイド。これに宗司は真っ向より盾を叩き付ける。
「盾は剣よりも強し」
 片手剣を叩き込むのみで人一人を容易く吹っ飛ばすロイドであるが、宗司が全体重を乗せ押し切りにかかった盾に、片腕の振りだけで対抗するには無理があった。
 ここで初めて、これまで片時たりとも止まる事の無かったロイドの剣が止まったのだ。
 ここぞと喜屋武の斧が叩き込まれる。しかし、喜屋武の剛力、巨大な戦斧を持ってしてもロイドは微動だにせず。
 痕離の跳躍からの頭部へと飛び蹴りにより、ようやくその上体が揺れてくれた。
 次に迫る敵へ、ロイドは動きかけるが、その左腕に激痛が走る。
 リーナの氷術は狙い過たずその左腕を捉えており、ほんの僅かな間だが左剣を用いる事が出来なくなる。
 そこへ踏み込む宗司。それでも、ロイドは宗司の剣を読み、体捌きのみでかわそうと動く。
「!?」
 そんな宗司の顔横から、ぬるりと飛び出すは先ほど見事にロイドをだましてくれたシャムシール。用いるはもちろんアルバルクだ。
 ロイドをして読みきれぬなんだアルバルクの突きを、反射神経のみで外す。頭部を僅かに削るが、骨にまでは至らず。
 更に追加効果で、宗司が懐深くへと入るのを許してしまう。
「騎士は侍より強しだ! 覚えておきなよ!」
 完全にやられた。
 そう判断したロイドであったが、ここで彼は信じられぬ粘りを見せる。
 凍りついた左腕を胴に沿わせ、盾としたのだ。
 構わず斬り抜く宗司。左腕の肘から先を斬り飛ばし、その剣は脇腹をも深く斬り裂いた。
 そこで、ロイドは右剣を握り竜巻のように回転する。
 アルバルク左足、喜屋武右腕、宗司胴を斜めに、痕離跳躍中の右足を、それぞれ斬り裂かれ跳ね飛ばされる。
 皆を振り切るように走るロイドは、途中吹き上がる吹雪にその足を止められる。
 再度の集中攻撃にも、ロイドは耐え切り、吹雪の罠を強引に抜けるとそのまま砦外へと脱出していく。
 にーがーしーたー、と悔しさを滲ませる一同であったが、カズラは無言のまま宗司の背中を叩いてやる。
 すぐにアルバルクも同じように宗司の肩を叩き、リーナはうんうんと頷く。
 近接していると見えずらいが、あそこで片腕を切り落とせたからこそ、ロイドのその後あったであろう一気呵成の大反撃を封じ撤退に持ち込めたのだ。
 それを、三人は良くわかっていたのだ。