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■オープニング本文 ジルベリアのベッドという習慣は、天儀に育ちの雲切にもそう気分の悪いものではない。 「ふっかふかですわー!」 とむしろ嬉々としてこれを用いていたのだが、今ベッドに横になる雲切からそんな様子は見られない。 脂汗を流しながら天井をじっと見つめる。 雲切は、今、とある挑戦の真っ最中にあった。 発端は怪我を無視したり無茶をしたりする様があまりにヒドイとの事で、普段あまり怒らない人を怒らせてしまった事が原因である模様。 我が身を振り返り、確かに、そういう部分がほんのちこっとあるかもしれないと珍しく反省した雲切は、 今回はみんなを心配させない為、怪我がきちっと治るまでベッドから最低限しか動かない事にしたのだ。 そしてそれは、雲切が考えていた以上の苦痛を彼女にもたらすのであった。 一日目。 のたうちまわって苦しんでいたが、天井の染みを数えるという遊びを思いつきこれに熱中する。 天井の染み達には合計三十個の星座のような名前をつけた。 二日目。 歌を歌うのはどうか、と歌ってみた所、窓の外からジルベリアの吟遊詩人の声が聞こえてきた。 これと競うように歌い続け、気がついたら一日が終わっていた。 三日目。 食事の時のみベッドから起き上がるのだが、この時、足元を盛大に踏み外し転倒。 部屋のドアをぶちぬけ階段を転げ落ち、頭から床に刺さる。痛かった。 四日目。 この頃からピンクの牛や紫の豚が視界の隅を駆け回り始める。 前日のアレのせいか激しい頭痛に見舞われるが、必死に我慢してみたら痛くなくなってきた。 五日目。 良くわからない。 六日目。 覚えていない。 七日目。 ふと気がつくと、ギルドの人が側に居た。そしてビィ男爵がものっ凄い眉根を寄せて言った。 「お前は大人しく寝てる事すら出来んのか……」 やたら賑やかな雲切が、数日音沙汰が無い事を不審に思ったギルド係員が雲切の部屋に駆けつける。 宿の主より鍵を借り受け扉を開くと、部屋の内より凄まじい熱波が。 部屋中の温度が著しく上昇していた原因は、ベッドでうんうん唸っている雲切であろう。 触れてすらいないのに、エライ熱を持っている事がわかるほどであった。 慌てて医者を呼びこれを見せ、熱冷ましを調合するとあっさりと治る。 医師が驚いたのは、彼女が負っていた怪我のほとんどが治っていた事だ。骨までくっついてるとか絶対におかしい。 翌日にはけろっとした顔で起きだしてきた雲切に、男爵はしみじみと言ったそうな。 「……お前、やっぱり人間じゃないだろう……」 雲切は不思議そうに男爵に問い返す。 「あら? 男爵は護衛を連れてらっしゃいましたっけ?」 男爵は、普通は当然気付く事だが、それに気付けた事に少し驚いた顔をする。 「危急の事態ではないが、備えあればという奴だ」 「そうですか」 雲切は何気ない所作で、その護衛の剣を抜き取った。 直後、男爵と護衛の両者が目をむいた。当然護衛は腕利きであり、おいそれと武器を取るなんて真似が出来る相手ではないのだ。 雲切は二人に全く注意を向けぬまま、借り受けた剣を両手で握り、ゆっくりゆっくりと振り上げる。 男爵は何事かと声をかけようとするが、護衛はそんな男爵の肩を掴み止める。彼はひどく真剣な目をしていた。 雲切は振り上げた剣を振り下ろす。瞬間、体中のそこかしこから乾いた、ぱん、というか、ぽん、というか、ぴん、というかな音が聞こえた気がした。 訝しげに剣を見下ろし、今度は逆袈裟に振り上げる。 護衛は声を堪える事が出来なかった。 「おおっ!」 うん、うん、と頷きながら、雲切は剣を護衛に返し、男爵に向き直って言った。 「わたくし、強くなったかもしれませんわ」 雲切は常に訓練を怠らなかった。 大事な試合の直前であろうと、腹に刀突き刺された後だろうと、傷口が開いて大出血した後だろうと、訓練は行ってきたのだ。 意識を失う、体が言う事をきかない、そんな状態でなければその有り余る体力で苦痛も鈍い動きも全てを乗り越えてしまうのだ。 そんな年月を送ってきた人間が急に、少なくとも雲切からすれば問題なく動ける状態にも関わらず、動きをぴたりと止めてしまったのだ。 はっきりとした理由は不明だが、その辺に雲切が、というより雲切の体が何かを掴む為のきっかけがあったのかもしれない。 その山脈にいるアヤカシ、グレイターオーガは、ソレ一体が存在するが為にこの領域に人は入りえぬといわれる程のアヤカシであった。 飛び地のように人間領域に食い込んできているアヤカシの森であり、一刻も早い処理が望まれていたが、グレイターオーガ一体のせいで、どうにも出来なかったのだ。 時を経れば他アヤカシも増えていく、いや現時点でかなりの数がこの山脈に巣食っていよう。 男爵は特にこの山脈に目を付けていたのだが、やはり彼でもどうしようもない状況であった。 どうしようもない、と言っているのに、雲切は突っ込んで行った訳で。 ギルド係員は雲切より、強いアヤカシが居る所を教えてくれと言われ、数秒考えた後、ギルドとして現在一番処理して欲しいアヤカシ、グレイターオーガの名を告げた。 後で男爵にこれを盛大にどやされるも、彼は涼しい顔のまま。 「彼女で駄目なら諦めもつくでしょうに」 と答えたそうな。 男爵はすぐに回収隊を編成、雲切の後を追わせる。 追跡自体は、さして難しくもなかった。 何故ならば彼女の通ったと思しき場所には、夥しい数のアヤカシの残骸が転がっていたからだ。 その数も速度も常軌を逸している。 山に入って三日間、一行は追い続けるも追いつく事出来ず、彼女はアヤカシを倒し続けていたのだ。 そして、山頂付近でようやく彼女を捕捉する。 ごつごつとした岩肌の斜面に立つ雲切と、その三倍以上の大きさを持つ巨人アヤカシ。 雲切は、そこかしこ擦り切れた帷子と、汚れだらけになった金髪をたなびかせ、滑るように進む。 下段に構えた刀が、天空へ向けて振り上げられる。 ただそれだけの動きに、神秘をすら漂わせるその技は、一体何なのであろうか。 いやここまで来ると最早これは技ではなかろう。 雲切という稀有な存在のみが作り出せる空間、領域、世界、である。 直後、ありえぬ現象が起こる。 絶対に刃届かぬはずの巨人の股間より頭頂に至るまでがまっ二つに斬り裂かれたのだ。 衝撃も、練力も、瘴気の力も、精霊の力すら、何一つ感じ取れなかったというのにだ。 しかし、そんな不可思議をすら当然と受け入れてしまう程の何かが、彼女の振り上げた刃にはあった。 彼女は、開拓者達に気付くと、晴れ渡った青空のような笑顔で言った。 「見てくださいましたか! わたくし! 強くなったんですのよ!」 そう言って、彼女は怪我のせいか疲労のせいかわからぬぼっろぼろの有様で、その場にひっくり返るのだった。 |
■参加者一覧
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
星乙女 セリア(ia1066)
19歳・女・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
瀏 影蘭(ic0520)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「とりあえず簀巻きに一票」 満足げな顔でひっくり返る雲切を見下ろしながら、ルンルン・パムポップン(ib0234)がそんな言葉を呟く。 佐久間 一(ia0503)と酒々井 統真(ia0893)は互いに顔を見合わせると、何も言わずに苦笑をもらす。 女性に対して紳士な対応を期待できる二人であったが、そうせねば問題が発生する事も良くわかっているのだ。 特に異論も出ないようなので、おーっしじゃー巻くねー、と鬼灯 恵那(ia6686)がルンルンと一緒になって簀巻き作りに入る。 だが、水月(ia2566)は雲切の怪我の様子を確認すると、慌てた様子で恵那とルンルンを止める。 見た目ではわかりずらいが、かなりの怪我を負っているようだし、体力の消耗も著しい。 常人なら軽く二三回死ねる怪我であるはずなのだが、何故か顔の血色は良く、寝息は規則的でまるで怪我や消耗の気配はない。 雲切の落ち着いた様子を見て皆は特に心配していなかったのだが、巫女の経験が長い水月は正確に雲切の現状を把握してしまったのだ。 怪訝そうな顔で治癒術を施していると、統真は水月の苦悩がわかったのか声をかけてやる。 「コイツ、体力がぶちぬけて高いんだよ。大抵の大怪我をかすり傷扱いしちまう程にな」 一も、雲切と関わると異常に多くなる、苦笑を浮かべる。 「何度目にしても信じがたくはあるんですけどね。それでですね、体が動かない状態でも彼女敵を見るなり飛び込んで行くんですよ。動かないはずの体を動かして」 水月は顎に手を当て考え、そして、ぽんと手を叩く。どうやら簀巻きの必要性を理解してもらえた模様。 再開した簀巻き作業を見守りながら、瀏 影蘭(ic0520)は雲切の顔を覗き込む。 「……あら? 雲切ちゃんて女の子だったのね。名前と武勇伝から、てっきりゴツイ殿方かと思ってたわ」 影蘭の感想を他所に、簀巻きが終わるなり星乙女 セリア(ia1066)は雲切を背負い上げる。 「ゴツいからとあの剣が振るえるとも思えませんが。さて、しかしなんだかこれ、目が覚めて体が動くようになったら雲切さん、開眼した全てを忘れてそうなパターンですよね」 恵那がえーと口を尖らせる。 「それは困るよ。あれが何なのか雲ちゃんの口から聞きたいし」 あの剣の異常さは皆が認める所だ。 フレス(ib6696)もそこには異論無いのだが、至極率直な感想もまた別に持つ。 「えっと雲切姉さまってすごい人なんだね! でも、アヤカシのいるところで倒れちゃうっていうのはどうかと思うんだよ!」 天儀の善人代表にしてもいいぐらい良い人の一は、雲切が意識を失っているのを確認した上でフォローを入れてやる。 「多分、皆がいるのを確認して安心したのでしょう。曲りなりにもここまでほぼ無補給で戦いづめる体力はありますし」 これをジト目で見る統真。調子に乗るから意識ある時は言うんじゃねーぞの意である。 雲切をまだ良く知らぬ影蘭は、どっちも過保護ねぇ、と思うも口には出さず。 そっかー、と素直に一の言葉を受け取るフレス。 「なら、私も恵那姉さまみたいにしつもんとかしたいかな」 ともかく、これ以上この場に居る理由もない。 ルンルンは阿蘭陀耳菜草(花言葉は聞き上手)っぽいニンジュツを唱える。 「ルンルン忍法ジゴクイヤー! ……避けられる戦いは、きっと避けるが吉なのです」 これで本当に遠方よりの敵の接近を察知しうるのだから、世界は不思議でいっぱいである。 帰路も思った以上に敵との戦闘があった。 尤もそれも対応出来ぬ程でもなく、淡々と処理出来る程度だ。 それでもその日の内に瘴気の森まで至る事が出来ず、日が沈みかけると岩陰を用いた比較的安定した場所にテントを張る。 そして前半後半と見張りを分けた前半分。 統真は音もなく立ち上がり、暗闇の奥へと拳を打ち込む。 無論拳は空を切るが、その拳の先よりかなり離れた位置より微かな衝撃音が聞こえる。 一もまた別方向へと滑るように移動していき、暗闇の中へ抜いた刀を突き入れる。 影蘭は、そういう事ね、とこちらもまた口の中で篭るような発声で術を発する。 迫るアヤカシはびくんと震えたかと思うと、その場で崩折れる。 フレスは襲撃を察するなり他の者を起こそうと動きかけたが、他の皆の無言の主張に、危うく蹴り飛ばしかけた足を止める。 どうしたものか、と若干判断に悩んだが、統真、一の背なより漂う強い意志の気配により、りょーかい、と指先を引くと手首より刃が生えてくる。 影蘭はフレスに声をかける。 「私達は討ち漏らしのフォローに回りましょ」 「んっ!」 統真と一はそれぞれ反対方向より迫るアヤカシの群に飛び込んで行く。 一番近くに居る敵を狙うという単純な習性を利用し、一度に複数を相手取る形を維持しながら確実に一体づつ仕留めていく。 程なくアヤカシを全て倒しきるも、二人は警戒態勢を解かぬまま、テントより少し離れた位置の監視しやすい場所に陣取り周囲に目を凝らしている。 そう出来る二人の技量にフレスは感嘆の息を漏らし、影蘭は口の端を緩め呟いた。 「男の子ねぇ」 そしてフレス、影蘭は男の子二人が守るものへと目をやる。 まず二人のサムライっ子、恵那とセリアだ。 雑魚寝ではあるが、意外に大人しく丸まっている恵那と、仰向けで左右対称に真上を向いたまま目を閉じているセリア。 この二人が戦闘の気配にもぴくりともしないのは、そういう眠りであれと寝る前に備えていたせいだ。 同じく水月もそうしていたのだが、こちらは更に良い夢でも見れているようで、シノビとも思えぬ爆睡かましている雲切の腕にひっつきながらにこーっとしている。 ルンルンは一度目を覚ましたようではあるが、誰も起こしに来ない事で、なら任せたとそのまま寝入っている。 いずれもあどけない寝顔であり、これが、こんな顔が出来るようにする事が、統真と一が汗だくになって動き回っている理由であった。 翌日は雲切が朝きっちり目覚めてくれた。 水月はやはり心配げであったが、雲切は何の問題もなく立ち上がり、何処から見ても健康体の動きにしか見えない。 痛くないのかと水月が問うと、この程度痛いうちに入りませんわ、とやっぱり痛くはあるらしい。 ルンルンは、ふうと嘆息しつつ言ってやる事にした。 「雲切ちゃん、貴女の怪我私しっかり見たんだから」 雲切ははい、と答えながら朝のトレーニングとばかりに屈伸運動を。 「普通あれじゃまともに動けないもの、だから……あれ?」 左右に飛んだ後、直上に跳ね、空中回転を一つ、二つ。 「動いてる。いやいやいや、それでも戦いなんて」 腰溜めに構えた正拳を、連続で一つ二つ三つと撃ち放つ。 「れれれ? ごめんなさい」 とはいえ、本来のものから考えれば絶望的なまでの能力低下が見られる。 でなくとも水月は当然止めに入るわけだが。 「大丈夫ですわ! 犬神シノビたる者が弱音など……」 じーっと雲切を見つめる水月。 「た、確かにちょっと動きが鈍いのは事実ですが、まだまだ全然……」 更にじーっと雲切を見つめる水月。 「う、ううぅ、そんな目で見られましても……」 更に深くじーっと雲切を見つめる水月。 「……わたくしが悪かったですわー、ですからそーのーめーはー」 とりあえず大人しくする事を納得してもらえたようで、セリアは今後の提案も含めての注意を述べてやる。 「強くなった実感があれば、試してみたいと思うのが常ですし、それを止めようとは思いません。ですが行くのならギルドに声をかけて私達を連れて行ってください」 厳しく言い聞かせるような表情から、最後はにこっと笑みになる。 「そうすれば今の様な危険は減りますし何より、こうやって倒れてる時間が勿体無いでしょう?」 雲切は大きく瞳を見開いた。 「な、何という天才っ。そんな手がありましたか!」 わかっていただけましたか、と甘いジルベリアティーを手渡してやると、雲切はわーいとこれを受け取りふーふーしながら飲みだした。 そして、ちらっと、一を見る雲切。 「あの……その……」 言いにくそうにする雲切に一は、何時もの柔和な笑みを見せてやる。 「もう、怒っていませんよ」 途端、ぱーっと顔が明るくなるのだから現金なものだ。 「ホントですの!?」 「はい。反省はしてくれたようですしね」 やたー、と雲切は隣の恵那に飛びついて喜ぶ。 「これでもう怖いものはありませんわ! アヤカシでも何でも来いですっ!」 恵那は元気満々となった雲切に、じゃー昨日のあの凄い剣の事教えてーと目をきらきらさせ始める。 そして統真は無言で雲切を指差し、お前ー、な顔をして一に抗議の意を示す。 「……いや、これでもかなり、褒めるの我慢してるんですけど……もうどうすればいいんだか……」 「ま、お前さんには難しい注文だったかもな」 雲切を見ると、恵那に何やら手振りつきで色々説明している。あれじゃ何も伝わらんだろーとも思うが、次にアヤカシ出たらやってみますわの一言は聞き逃せない。 仕方ない、と統真は苦言を呈する。 「とりあえず、ここにゃお前がぶった切った以上の敵はいねぇ。ここでこれ以上戦っても得るものはねぇ。それに、お前その剣技を手に入れた時どうしてた? 戦ってたか? せっかく手に入れたもんを亡くしたくねぇなら、ちょっと落ち着いてろ」 ぶー、という顔を雲切と恵那が揃ってする。 フレスはあの剣を見てからずっと気になっていた事を問うた。 どうすればそんなに強くなれるのかと。 「修行ですわ」 「うん、だからどんな修行?」 「たくさん修行ですわ」 「…………」 よりつっこんで聞いた所、冗談としか思えないそれだけで人死にが出そうな量のトレーニングメニューを聞かされる。 それをやったら雲切のあの剣を使えるようになるか、と問うと雲切は不思議そうに問い返す。 「私はまだフレスさんの動きを見ていませんが、多分ですけど、フレスさんはわたくしの剣とは目指す所が違うのでは?」 明らかに知能に問題のある言動の雲切であるが、戦いに関する物の感じ方だけは、正鵠を射ている模様。 虚を突かれ、しかし、妙に説得力のある言葉に、フレスはフレスなりに感じる所があるようで。 と、雲切の背中からその両肩を恵那が掴んでゆする。 「わたしは違くないよー」 「ええ、ですからずばーでぐいーで……」 概ね説教は終わったし、聞きたい事も落ち着いたのを見計らって影蘭が、男性陣に聞こえないような小声で問うた。 「で、雲切ちゃんはどっちが本命かしら?」 ぴくりと女性陣全ての耳が反応する。 ルンルンは確認するように問いただす。 「どっちかなの?」 それなりに事情通の恵那さんから一言。 「酒々井さんは別にお相手居るよー」 ふんふん、と影蘭。 「じゃあ……うん、優しそうな子だし、いいんじゃない?」 ここまで無反応の雲切。実は自分の事だとわかっていなかったのだが、じわじわと、理解すると顔中真っ赤にして口を開きかけ、聞こえるでしょとルンルンがひょいっと手で塞ぐ。 影蘭はむごむご言ってる雲切の反応と細かな表情を観察し、うーん、まだ早い話題かー、と自分だけで納得してみたり。 瘴気の森へと入ると敵の攻撃が激しくなる。 影蘭は雲霞の如く沸き迫るアヤカシへ、黒死の名を持つうめき声を供につけた符を放つ。 「――嫌ね。そんなにがっついたら女の子にモテないわよ?」 ぼろりと符が灰となって崩れ落ちると、眼前にまで迫っていたアヤカシの全身が震動に揺れる。 最後の一押し、と小さく手を叩いてやると、アヤカシはぼろぼろと崩れて落ちる。 うずうず 巨体故かわすのが難しい攻撃であるのだが、フレスは天儀のそれとは明らかに異なるリズムで間合いを外す。 如何な豪腕とて、届かぬ位置を維持していれば恐れる何者もありはしない。 細かな出入りで徐々に崩し、ただ一発、集中を欠いた拳を見るなり動く。 微かに拳が胴をかすめるが、これをすら計算の内。 かすめる事で回転速度を上げ、細く小さな刃にアヤカシをすら屠る威力を乗せるのだ。 うずうず わらわら寄って来る敵へ、ルンルンはグニェーフソードで斬りつける。 「雲切りちゃんを連れ帰る為、どんな敵だってこのグレートニンジャソードのサビにしちゃいます!」 グニェーフソードである。ついでに言うならばグレートなソードはニンジャの立ち回りには絶対に向いていない。 「ルンルン忍法くびはねる☆ひっと!」 素早く精妙な動きが必要なそれもシノビの技に、こんな大剣使ってしまうという事が神秘の忍術であろう。 うずうず 恵那は意図的に雲切がそうした動きをなぞって動く。 踏み込みの速さはともすれば雲切より早かったかもしれない。 しかし、逆袈裟に斬り上げるその一撃に、恵那が考えた鋭さは伴っていない。 「うん、ずばーはこれでいいと思うんだけど、やっぱりぐいーが……」 自分で言っててとても無理があると思った。 「わかるかーッ!!」 うずうず 偶に混ざっているオーガミディアムを封じる為に、水月は結構な数の呪縛符を既に放った後である。 おかげで練力の消耗も激しいが、そもそもの貯蔵量がぶちぬけている。 この呪縛符に加え閃癒をすら交えてもまるで問題は無いのだ。 ついでに。 オーガの蹴りを、ちょん、と脇に飛ぶのみで髪の毛一本をすらかすらせず回避する。 外見からは想像しにくいが、水月は類稀なる開拓者なのである。 うずうず セリアの薙刀は柄の持ち位置を変えるだけで、その間合いを自在に操れる長柄だ。 しかしオーガミディアムはこの間合い変化以上の出入り距離を持ち、またその俊敏さを活かし撹乱に動く。 その足が大きく大地から離れる瞬間、セリアの薙刀が大地を削り走る。 「届かないのなら、伸ばせばいい話でしょう」 地をすら断つ走る刃は、方向転換適わぬ間で放たれこれを撃破するのだった。 うずうず ただ一人、明らかにアヤカシと時間軸の違う存在。それが今の統真だ。 左の敵に正拳を打ち込み、同時に右の腕で敵の攻撃を払い落とす。 右の腕は払い落とした反動で滑るように敵の頭部を打ち、更にその奥の敵を回し蹴る。 真後ろから殺気。 統真は後ろも見ずに体を落としつつ、背後より迫るオーガの股下を抜ける。 驚き振り返るオーガの正中線を射抜くのは、至極簡単な作業であった。 うずうず 一は一気に戦況を変化させにはかからない。 剣を寝かせる構えを維持し続ける事で、総平均能力を底上げするのだ。 元よりこの構え、上からの攻撃に強い。 身長差から振り下ろす形の拳に、腕をなめるように刀を走らせる。 瘴気の黒い糸を引きながら腕が半ばからズレ落ちるのにあわせ、懐に踏み込み抜き胴で決める。 「わ、わたくしも……」 うずってる雲切は、即座によってたかって駄目出しを受ける。 これを安全地帯に辿り着くまで何度も繰り返すのであった。 |